それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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夢の国なら何回か行ったことはあるのですが、今は夢の国よりU◯Jに行きたいです。
修学旅行で行けばよかったな………。


第十九訓 旅の準備は念入りに

世の中には、物欲センサーというものがある。

欲しいと願うものほど入手しづらく、それ以上に入手困難な物が「今じゃない」というタイミングで手元に転がり込んできたりする、喜びたいけど喜べない状況を表現した一種のゲーム用語なのだが、これが現実にも通ずるところがある。

大金だとか、くじ引きの一等だとか。欲しいけど、なかなか手に入らない。

逆に言えば、望んでいない時の気まぐれが、そんな強運を引き寄せるのだ。

 

今日の、万事屋のように。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

買い物から帰った神楽が、暇を持て余している三人を前で不敵に笑っていた。

 

「跪くアル、愚民たちよ」

『あ?』

 

神楽の横柄な態度に、三人は声を揃える。

そんなパッとしないリアクションを見た神楽は、買ってきた長ネギでテーブルを叩く。

 

「頭が高いって言ってんだヨ!工場長とお呼び!」

「女王様の方がいいんじゃねーのか、工場長?」

「女王様より工場長の方が生産的だから偉いアル!痩せこけた工場長とお呼び!」

「痩せこけたって………倒産寸前じゃないんかソレ」

 

全く意味の無い会話をした後、新八がお使いに行ってもらった用件を切り出す。

 

「工場長、トイレットペーパー買って来てくれた?」

「ケツ拭く紙は忘れたけど……」

「オイ、勘弁しろよ!安売り今日までなんだぞ!」

「もっと素敵な紙は手に入れたヨ」

 

そう言って神楽は、買い物袋を漁りその「素敵な紙」を取り出す。

自慢気に見せびらかすそれを、三人は目を剥いて凝視する。

 

「宇宙への旅四名様⁉︎」

「工場長ォォォ‼」

「食い気だけじゃなかったんだな!」

 

突然降ってきた幸運に、三人は歓喜の声を上げるのだった。

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

旅行当日。

船に乗り込んだ四人は、各々で宇宙の旅を満喫していた。

 

「何?定春が攫われたって?」

「そうアル。私もう旅行なんて楽しめそうにないヨ」

 

と、機内食の骨付き肉にかぶりつき涙ぐむ神楽。

肉以外にも炒飯やら団子やら所狭しと食べ物が並べられ、それは神楽の隣に座る銀時も同様であった。

神楽が言うには、同じくターミナルで船を待っていた客に定春が噛み付き、それに気付かず客は定春ごと何処かへ行ってしまったらしい。

その人物を新八も目撃したようで、アホが付くくらいのポジティブシンキングだったそうだ。

 

「だーから、ババアに預けとけって言ったんだよ。台無しじゃねーか旅行が………」

 

そう言う銀時もラーメンを啜ったりと、旅行より食い気を優先していた。

 

「台無しなのはお前らの人間性だよ」

 

人目を憚らず暴飲暴食をして尚も機内食を要求する二人に、新八は呆れるほかなかった。

 

「黒瀬さんも何か言ってくださいよ」

 

冷ややかに言っても耳を貸さない二人を見かねて、新八は隣に座る黒瀬に助けを乞う。

 

「食える時に食っとかんと。すんませーん、茶漬けありますー?あ、梅で」

「アンタもかいィィィ‼」

 

擁護派ではなく、まるっきり同族だったようだ。

こうも社会人として何かが欠けている大人といると、精神的に苦労する。

貧乏人である自分たちでは到底行けないはずの宇宙旅行に来ているというのに、外には一切目もくれず食ってばかり。

 

「ギャーギャー喚くんじゃねーよ。あーあ興冷めだ、もう帰るか」

 

うんざりという態度を匂わせている割には、食べ物を掴む箸を止めない銀時。

自分なりに満喫している様子。

その時、船内アナウンスが流れた。

 

『皆様、宜しければ左側の窓をご覧になってください』

 

促され窓の外へ目を向けるとそこには、数多の星々の中に美しい惑星が浮かんでいた。

周囲の星も眩い光を放っているのだが、その惑星は淡い青に輝き他の何よりも存在感があった。

 

『あれが、太陽系で最も美しいとされる我らが母なる星、地球です』

 

瞬間、機内食に釘付けだった銀時と神楽が窓に張り付いた。

 

「わー、キレイだ~」

「キッチリエンジョイしてんじゃねーか!なんだオメーら!」

 

なんと切り替えの早い事か。

宇宙旅行の醍醐味を忘れてはいなかったらしい。

 

「小さな悩みなんて、どうでも良くなってくるな~」

「ホントアル。心洗われるヨ」

「洗っちゃいけないよ!心に残しておかなきゃいけない汚れもあるよ!」

 

定春が攫われたと泣いていたのはどこへやら。

可哀想だのなんだのと喚いていたくせに、地球を見た瞬間この有り様だ。

 

「ほっとけ、新八」

 

そう言われ黒瀬を見ると、窓の外には一切目もくれずミカンを頬張っていた。

他にも、外の景色に見入っている二人が手を付けていない機内食を、横から掻っ攫うなど明らかに食い気に走っている。

 

「真面目に関わってっと気が持たん。ある程度聞き流さんとキリねェ」

「誰よりも食い気に走ってるアンタに言われたくないんですけど」

 

新八は深く息を吐くと、攫われたと言う定春を探しに席を立とうとする。

瞬間、耳元でカチャと音がした。

恐る恐る通路の方へ目を向けると、覆面男が銃をこちらへ突き付けていた。

 

「きゃああああ‼ハイジャックよ‼」

「うるせー!騒ぐなァァ‼」

 

騒ぎ出す旅行客達。

他のハイジャック犯が意地でも黙らせようと、銃を振り翳し声を張り上げる。

 

「この船は我々、革命組織『萌える闘魂』が乗っ取った!貴様らの行く先は、楽しい観光地から地獄に変わったんだ!」

 

過激派攘夷浪士の犯行、と言ったところだろうか。

彼等が声高々と話した企ては、ターミナルに船ごと突っ込み、天人達の玄関口を潰してしまおうというものだった。

一方的に、「全員死ぬけど、天人に大打撃与えられるから誇りに思え」とも(のたま)っている。

そんな事、他人を巻き込まずに勝手にやれと言いたいところだが、赤信号皆で渡れば怖くない原理のテロバージョンだろう。

傍迷惑なことこの上ない。

 

「や……ヤバイよ、銀さん、黒瀬さん」

 

急な事態に新八は二人に助けを求めるが、銀時は変わらず神楽と外を眺め旅行気分を続行し、黒瀬も眼前に並んだ機内食を黙々と食べていた。

 

「俺、死んだら宇宙葬にしてもらおっかな。星になれる気がするわ」

「死ぬ前にたらふく食って星になんのが夢だったんだ、俺」

「ああ、なれるともさ」

「うぉーい!ホントに星になっちまうぞ‼︎」

 

どこまでも呑気に振る舞う三人と新八の元へ、アホみたいな人間性を察知したらしい攘夷浪士の一人が、銃を構えやって来た。

 

「オイ、貴様ら何をやっている?我らの話、聞いているのか?」

 

攘夷浪士の問いに、応えたのは箸を手放した黒瀬。

その表情は微かに、にやけているように見えた。

 

「いや〜、すんませんねェ。代わりに俺ら謝るんで、もう少しああさせておいてくれん?」

 

そう言うと黒瀬は新八の後頭部に手を回し、自身と同時に頭を下げさせた。

しかし、謝る為に頭を下げたと言うには深過ぎて、頭を伏せさせたという表現の方が最適だった。

 

「オイ、何をして……」

「ほァたァァァ‼︎」

 

戸惑う攘夷浪士の顔面に、神楽の蹴りが炸裂する。

異変に気付いた近場の仲間も、銀時の飛び蹴りに呆気なく伸されてしまう。

伏せている間、黒瀬に耳打ちされた新八はその場にしゃがみ込んで、渡されたラーメンの器を増援に来たリーダー格の顎に叩きつけ、一発KOとなった。

通路に出ると、突然の救世主登場に船内が沸く。

歓声や称賛の声で良い気になりガッツポーズをしていると、背後の扉が開き覆面男が銃を構えていた。

 

『あれ?』

 

予想外の出来事に、声を揃える四人。

 

「ふざけやがって!死ねェェ‼︎」

 

再度、扉が開く。

それに巻き込まれ攘夷浪士は、噛ませ犬のように昏倒してしまった。

 

「あ〜気持ち悪いの〜………酔い止めば飲んでくるの忘れたきーアッハッハッハッハッ。あり?何?なんぞあったがかー?」

 

出て来たのは、定春に頭を噛み付かれたままの男。

神楽が話していた、定春の誘拐犯……だろう。

 

「定春ぅ‼︎このヤロー、定春ば返すぜよォォォ‼︎」

「あふァ‼︎」

 

反射的に神楽が男を蹴り飛ばし、定春を奪還。

無邪気に定春に抱きつく光景は微笑ましい限りなのだが、それよりも銀時と黒瀬は蹴飛ばされた男の顔に見覚えがあった。

 

「あら?なんか……」

「こっ……こいつァ」

「銀さん、黒瀬さん知り合い?」

 

新八が尋ねた時、船内に爆音が響く。

操舵室で爆発が起き、操縦士は全員負傷したと乗務員が騒ぐ。

何らかの原因でターミナル破壊の計画が破綻した場合、船を爆破して全員道連れにする事も考え、今それを決行したようだ。

どちらにしろ「全員死ね」宣言である。

乗客全員が混乱に陥る中、尚も乗務員が声を張っていた。

宇宙船の操縦経験のある人はいないか、と。

その言葉に銀時は、ぶっ倒れている男の前髪を鷲掴み操舵室へと向かい、その後ろを追って黒瀬も走る。

 

「イタタタタ‼︎誰じゃー⁉︎ワシをどこに連れてくがか?」

「テメー、確か船大好きだったよな?操縦くらい出来るだろ‼︎」

「なんじゃ?おんしゃ何でそげな事知っちょうか?あり?どっかで見た……」

 

視界に映った光景が、男の中で記憶の中の光景と重なる。

戦場で見た、かの光景と。

 

「おおおお‼︎金時じゃなかか‼︎おんしゃ、なぜこんな所におるかァ⁉︎久しぶりじゃのー!珍しいとこで()うたもんじゃ!酒じゃー!酒を用意せい!」

 

手叩きで再会を喜ぶ男。

呑気にもほどがある。

 

「相変わらず人の名前覚えとらんのか。流石の阿呆だな」

「お?その声は黒こ……」

 

言い切る前に銀時が男の顔面をドアの開閉スイッチに叩きつけた直後、黒瀬がトドメと言わんばかりにその後頭部に飛び蹴りをかます。

 

「銀時だろーがよォ、銀時!」

「俺がいつバスケに興じた?間違えんなら、他作品に迷惑かからん間違え方しろよ」

 

顔面んに集中砲火を受け気絶した男を二人は欠片も気にせず、操舵室の中へ引きずり込んで行くのだった。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

「ああ……母なる星地球よ……もう少しでお前の懐にい゙い゙い゙い゙い゙‼︎」

 

渾身の遺言を遮られ、無情にも顔面を踏まれる眼帯操縦士。

 

「あれ?何か踏んだがか?」

「オイ早くしろ‼︎」

「今気にせんでいいから‼︎」

 

既にボロボロな操縦士を踏んだところで、些末な事である。

操舵室のモニターは爆発の影響でヒビが入り使い物にならず、配線がイかれたのか所々煙が上がっている。

男は船の操作盤をいじりながら話す。

 

「おちこちで誘爆が起きちゅー。船に爆弾仕掛けるなんぞ、どーかしとーど」

 

男の手際を見ている二人の元へ、新八と神楽、定春が合流する。

 

「銀さん!ヤバイですよ。みんな、念仏唱え出してます」

「心配いらねーよ。あいつに任しときゃ………」

 

そう言って銀時は、操作盤を触る男の背中を見る。

 

「昔の馴染みでな。頭はカラだが無類の船好き。銀河を股にかけて飛び回ってる奴だ………。坂本辰馬にとっちゃ、船動かすなんざ自分の手足動かすようなモンよ」

「……よーし、準備万端じゃ」

 

坂本はサングラスをクイッと上げ、何を思ったか操作盤に乗った気絶している操縦士の両足を掴んでいた。

それが、この船の操縦桿とでも言うように。

 

「行くぜよ!」

「ホントだ。頭カラだ……」

 

銀時の言ったことは嘘じゃないんだと、新八は納得する。

一方で、黒瀬は緊急時にアホを晒した坂本の髪を掴み、顔面を一発殴る。

 

「もう一発いるか?」

「アッハッハッハッ!こんなデカイ船動かすん初めてじゃき、勝手がわからんち」

 

舵はどこだと問う坂本に対し、神楽が操縦士を拾ってまともに探そうとしない。

その間にも船はどことも知れない星に落下しそうになっている。

 

「コレッスよ、コレ!ふんぐぐぐ!アレ!?ビクともしない‼」

 

操縦桿(そうじゅうかん)を見つけた新八が精一杯の力をこめ動かそうとするが、爆発の影響で故障してしまったらしく、いくら踏ん張ってもまんじりともしない。

 

「ボク、でかした。あとはワシに任せ………うェぷ!」

「ギャー‼こっち来んな!」

 

操縦桿を握ろうと寄ってきた坂本が、口元を押さえ吐き気を催していた。

 

「アンタ船好きじゃなかったの!?思いっきり船酔いしてんじゃないスか‼」

「イヤ、船は好きじゃけれども、船に弱くての~………」

「何その複雑な愛憎模様!?」

 

船酔いで使えない坂本を余所に、神楽が「夢はパイロット」と言って舵を握り、次に銀時が「普通免許持ってるから」と原チャリと同一視して舵に手をかけ、新八はそんな二人に任せておけないと再チャレンジを試みる。

そんな三人の後ろで黒瀬は、万が一が起きないようにどうにか舵から引き剥がそうと奮戦していた。

 

「オウオウ!素人がそんなモン触っちゃイカンぜよ。このパターンは、いがみ合ううちに舵がポッキリっちゅ~パターンじゃ。それだけは阻止せねばいかん!」

 

坂本も万が一を想定し舵の取り合いを止めようと踏み出した時、落ちていた瓦礫に躓いて前のめりに倒れると嫌な音が鳴った。

倒れる坂本が咄嗟に掴んだ舵が、ボキリと床に落ちる音だった。

 

「アッハッハッハッ!そーゆーパターンできたか!どうしようハッハッハッハッ!」

「アッハッハッハッじゃねーよ!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙‼」

 

三人寄れば文殊の知恵と言うが、何人寄ってもアホの域から抜け出せなかった彼らの失敗により、宇宙船は名前の知らない惑星へ墜落していくのだった。

 




という事で今回は、坂本辰馬の登場回でした。

それでは、また次回。
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