それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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前回に続き坂本辰馬の登場回です。
今回の話は、後半からラストの締めまで悩みまくって書きました。下地があるのにどうしてだろ。
苦悩して書くほど濃い内容ではない、はずなんだけどね……。



第二十訓 困った時も苦しい時も笑っとけ

───約十数年前。

拠点である寺院の門の屋根にて、星空を眺める二人の男がいた。

一人は寝息を立て、もう一人は高らかに笑っていた。

 

「ほれ、交代の時間だ。辰馬、銀時」

 

そんな二人のもとへ、もう一人が合流する。

呼ばれた坂本は、手を挙げて応答した。

 

景月(かげつき)も来たがか。銀時はワシの話ば聞かんで寝ちゅうアッハッハッハッ!」

景明(かげあき)(あき)。つか、何話しとったんか?」

 

興味本位で何を話していたのか尋ねる黒瀬。

坂本は再び星空を見上げて、語り始める。

 

「ワシの、夢の話ぜよ。宇宙にデカイ船浮かべて、星ごとすくい上げる漁をする………そう話しちょった」

「行きたきゃ行きゃあいい。他は知らんが、俺は止めんよ」

 

黒瀬も同じように夜空を見上げた。

そんな様子を見た坂本は、思いついたように言った。

 

「お(まん)もどうじゃ?ワシと一緒に………」

「いや、俺は………」

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

「はっ‼危ない危ない。あまりにも暑いもんじゃけー、昔のことが走馬灯のように駆け巡りかけたぜよ。何とか助かったってのに危なか~」

「助かっただァ?コレのどこが助かったってんだよ………」

 

船外の日陰にて、タオルを頭にかけぼやく銀時。

あの後、彼等が乗っていた船は一面砂の惑星へと不時着したが、奇跡的に乗客全員無事であった。

しかし、照りつける太陽光は容赦なく、その上鬱陶しいくらいの青空に浮かぶ太陽は二つあり、日陰で涼もうにも空気自体が蒸し暑い。

水分もろくに摂れず、終いには三途の川が見えてくる始末。

 

「あーあ、イメチェンで髪染めりゃあ良かったか。こんな炎天下で真っ黒とか、不利過ぎんだろ」

「すんません、いくら暑くてもその発言は色々とダメです」

 

自身の黒髪をいじり項垂れる黒瀬。暑さに頭をやられ三途の川を渡る以前に、何かしらをかなぐり捨てそうな気の滅入り方である。

次々と身近な人間が脱落して「もうダメか」と新八が頭を抱えた時、空から音が聞こえて来た。

見上げると、そこには数隻の船がこちらに向かって来ていた。

 

「船だァァ‼︎救援だァァ‼︎」

「俺達助かったんだァ‼︎」

 

待望の救助船を見て沈んでいた気持ちが一気に吹っ飛び、一斉に歓喜に沸く乗客達。

着陸した船に続々と乗り込み、本当に助かったのだと安堵の息を漏らす。

その横では、坂本が救助船から出てきた女性と親し気に話をしていた。

 

「アッハッハッハッ、すまんの~陸奥!こんな所まで迎えに来てもらって」

「こんなこたァ今回限りにしてもらおう。わしらの船は商いをする為のもんじゃきー。(かしら)のあんたがこんなこっちゃ、困るぜよ」

 

二人の話を聞いていると、どうやらこの救助に来た船は普通の船ではなく、商船であるらしい。

女性───陸奥に坂本が「(かしら)」と呼ばれているのは、些か気になるというか、不安になるのだが………。

 

「それから、わしらに黙ってフラフラすんのも今回限りじゃ」

「アッハッハッハッ、やっぱり女は地球の女しか受け付けんき」

「女遊びも程々にせんと、また病気うつされるろー」

「アッハッハッ、ぶっ飛ばすぞクソ(あま)

 

上司と部下の関係にしては、肝心の上司である坂本は敬われていない様子。

それはさて置き、新八は念のため、坂本に救助船について聞いてみることにした。

 

「………坂本さん、コレ」

「ああ『快援隊』ちゅーてな。わしの私設艦隊みたいなもんじゃ。ちゅーても、戦する為の艦隊じゃのーて、この艦隊そのものが会社(カンパニー)なんじゃ」

会社(カンパニー)?」

 

新八の疑問に坂本は、どういったことをしているのか説明した。

要は、星々を相手に貿易をしており、船に搭載している砲台などは、近頃物騒になっているという宇宙での自衛手段とのことだった。

 

「ヘェースゴイや!坂本さん、アンタただのバカじゃなかったんですね」

「アッハッハッ、泣いていい?」

 

悪気が一切感じられない言葉ゆえか、妙に刺さるものがある。

船に乗った彼らは場所を甲板へと移し、配給された水を飲む。

以降も坂本の話は続く。

攘夷戦争に参加していたこと。その中で、剣を振り戦うのは(しょう)に合わないと見切りをつけ、利益によって人を動かし国を護ろうと考えた。

それぞれが自分なりの思想を持って行動をしていると聞き、新八は感嘆する。

 

「ヘェー、みんなスゴイんですね」

 

そう言って新八は、神楽に水を飲ませるため樽を抱えている銀時を見る。

 

「ウチの大将は何考えてんだか、プラプラしてますけどね」

「アッハッハッハッ、わし以上に掴みどころのない男じゃきにの~」

「阿呆ってのは同じなんだがな」

 

急に割って入ってきたのは、坂本の商船に乗ってから姿を見なかった黒瀬だった。

 

「今までどこ行ってたんですか?」

「食い物ねェか船内歩き回っとった。そしたら………」

 

黒瀬は着流しの袖の中から袋を取り出し、開封してつまみ(くわ)えた。

 

「さきイカしか見つからんかった。商船のくせにしけてやがる」

「アンタ、何平然と盗みしでかしてんスか。訴えられますよ」

「アッハッハッ!手癖の悪さは昔から変わらんの~」

「アレ!?そんな反応でいいのかコレ!?」

 

商品なのか船員の私物なのかはわからないが、それを笑い飛ばす坂本は器が大きいというよりも底の知れないアホという認識が強くなる。

昔馴染みだからこんな緩い反応なのか。

万事屋の大将(しか)り真っ黒い居候然り、自由奔放なのか何も考えていないのか。先が思いやられて仕方がない。

そう思った新八がため息をついた時、坂本が口を開いた。

 

「……わしやヅラの(こころざし)に惹かれて人が集まっとるよーに、おんしも、あのチャイナさんも、何かに惹かれて慕っとるんじゃなかか?」

「んー……」

 

坂本に聞かれ、新八は彼等を眺める。

神楽は樽一つ分の水を飲んだというのに、銀時の分の飲料を横取りしようともがいている。

そこへ、さきイカを持った黒瀬が近付いたことで神楽の横取り精神が方向転換し、さながら子供同士のお菓子争奪と化している。

 

「何だかよくわかんないですけど……でも」

 

悲鳴が聞こえてきた。

そちらへ目を向けると、触手に捕まり必死に助けを求める人達がいた。

 

「あれ?何?ウソ?何?あれ?」

「アッハッハッ、いよいよ暑さにやられたか。何か妙なものが見えるろー」

 

困惑して狼狽えている新八とは裏腹に、相変わらず陽気に笑う坂本。

 

「ほっとけほっとけ、幻覚じゃアッハッハッ」

 

と、本来そこにはいない発言を残してその場を離れようとする坂本だったが、触手が逃がさないとばかりに腕を掴んでいた。

 

「いや、ちょっと坂本さん、なんか巻き付いてますけど」

「ほっとけほっとけ、幻覚じゃアッハッハッハッハッー!」

 

そのまま触手に巻き付かれ、坂本は船外へと出されてしまった。

他の捕まった乗客達と同じく中空に揺れている。

 

「うわァァァ‼︎坂本さァァァん‼︎」

 

新八の絶叫を聞きつけ、他の乗客達も事態に気付き化け物だなんだと騒いで混乱し始めた。

そんな誰もが逃げ惑い錯乱する中、隣で陸奥が冷静に人を襲う触手について説明をする。

触手の正体は砂蟲という生物で、この砂の星で生態系の頂点に立っているそうだ。普段は静かなのだが、宇宙旅行船の不時着と快援隊の船が着陸した事で、目を覚ましてしまった………という見解だ。

 

「ちょっとアンタ!自分の上司がエライことなってんのに、何でそんなに落ち着いてんの⁉︎」

 

焦ってる様子もなく淡々と砂蟲の説明をこなす陸奥に、新八はただ目を見張る。

しかし尚も、陸奥の辛辣な言葉は続く。

 

「勝手な事ばかりしちょるから、こんな事になるんじゃ。砂蟲よォォ、そのモジャモジャやっちゃって〜!特に股間を重点的に〜」

「何?何の恨みがあんの⁉︎」

 

一向に助けようとしない部下とは打って変わって、砂蟲に捕まっている坂本は自由の効く右手で拳銃を取り、他の触手を撃ち抜いて乗客達を救出していた。

触手から解放された乗客達が、(つまず)きながらも船の方へ走ってくる。

その直後、砂を巻き上げ生態系頂点の生物が姿を現した。

触手を撃ち落とされた怒りなのかは定かではないが、砂蟲の標的は数人の人間より船ごと引き摺りこむ事にシフトした。

 

「おー、タニシだ。イカ頭のタニシだ」

 

砂蟲に船体を引きずり込まれそうになっている中倒れないよう甲板に屈み、意地でもさきイカを手放さない黒瀬がいた。

 

「黒瀬さんいつの間に……じゃなくて!呑気に眺めてる場合じゃないでしょ‼︎つーかいつまでさきイカ食ってんだアンタ‼︎」

 

慌てる様子もなく眺めている先で、坂本が叫ぶ。

 

「大砲じゃあああ‼大砲ばお見舞いしてやれェェェ‼」

 

坂本の身を案じる新八を余所に、陸奥は大砲を準備するよう指示を飛ばす。

上司を(かえり)みない行動を目の当たりにし戸惑いをぶつける新八だったが、構わず砲門は砂蟲へと向けられた。

 

「大義を失うな、とは奴の口癖………撃てェェェ‼」

 

陸奥の号令と共に砲弾が砂蟲へ撃ち込まれ、砂と爆炎が舞い上がる。

次いで語る。

坂本が、攘夷戦争から離脱し宇宙(そら)へ行ったのは、大義の為だと。目先の争いよりも、将来を見据えて国のの為にできることを考えて下した決断なのだと言う。

 

「そんな奴に惹かれてわしら集まったんじゃ。だから、奴の生き方に反するようなマネ、わしらはできん。それに、こんな事で死ぬ男ではないきに」

「いやいやいや!死んじゃうってアレ!どう考えても死ぬよアレ!」

 

砲弾を食らった怯んだのか、砂蟲は逃亡を図り砂へ潜り込んでいく。

触手は(いま)だ坂本に巻き付いており、共に地中へ引きずり込まれていた。

船員達が「坂本を救え」と叫ぶ。

 

「随分と人望があるんだな。一緒に行かんで正解だったか………」

「何ブツブツ言ってんスか!アンタ知り合いなんでしょ!?だったら………」

 

旧友の危機的状況になんの行動も起こさない黒瀬に対し、身を乗り出して坂本を案じる新八は怒りを(あら)わにした。

 

「うるせェなァ。丸腰の俺が行ったってどうにもならん。それに、適役なら他にいんだろ」

 

面倒そうに黒瀬が見上げた視線の先には、砂蟲に向く大砲に飛び乗り木刀を突き刺す男の姿があった。

 

「こんなモンぶち込むから、ビビって潜っちまったんだろーが。やっこさんが寝てたのを起こしたのは俺達だぜ。大義を通す前に、マナーを通せマナーを」

「銀さん!」

 

突然の登場に新八の声が弾む。

船員達の困惑の声がどよめく中、銀時は大砲の上に立ち地中に潜りゆく砂蟲と坂本を見下ろす。

 

「辰馬ァ、てめー星をすくうとかデケー事吐いてたくせに、これで終わりか?昔からテメーは口だけだ。俺を見ろ俺を」

 

銀時は木刀を引き抜き、飛び出した。

 

自分(てめー)の思った通り、生きてっぞォォォ‼」

 

砂上に蠢く砂蟲の触手を薙ぎ、狙ってかただの巻き添えか銀時も地中へと引きずり込まれそうになっていた。

独断専行の危ない救出劇に誰もが釘付けになっている横で、無謀な行いを静観している黒瀬は一人微笑を浮かべていた。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

———約十余年前。

宇宙(そら)へ行くと決心した坂本が、拠点を去る当日。

見送りに出向いた銀時は門前で幾ばくかの言葉を交わし、ふと門の裏を覗き込んだ。

 

「何してんの」

「あ、ヤベ。バレた」

 

門の影に隠れて黒瀬が、二人の会話に聞き耳を立てていた。

 

「テメェ何人の話盗み聞きしてんだッ‼︎」

「イッタ‼︎」

 

銀時は制裁とばかりに、盗み聞きをしでかした黒瀬に拳骨をお見舞いした。

容赦のない脳天直下の痛みに頭を抱え、黒瀬は(うずくま)り悶える。

 

「下痢ツボ狙いやがったな⁉︎結構くんだよ!五寸釘打たれたみてェにクッソ痛いんだぞ‼︎」

「知るか‼︎盗み聞きしてるテメーがワリーんだよ‼︎」

 

必至の訴えを真正面から論破する銀時。

数秒の睨み合いの末、弾かれたように二人同時に目を逸らし、銀時は寺院へと戻って行った。

 

「おんしゃあ何しちゅーがか?」

 

頭を(さす)っていると、坂本が不思議そうな顔で見下ろしていた。

 

「いや、ちょっと興味本位で………」

「アッハッハッ!それで拳骨ば食らって、世話ないの~」

 

黒瀬は立ち上がって土を払うと、目一杯に背伸びをした。

 

「……銀時にもお(まん)にも断られてしまったきに……残念じゃ」

(そら)は飛び回るより、眺める方が好きなんだ俺」

「………そーか、なら仕方ないの~」

 

見上げれば、旅立ちにはもってこいの澄んだ青空が広がっていた。

 

「……おんしゃ、これからどーするがか?」

「あ?どうするって………」

 

坂本の突拍子のない言葉に、黒瀬は悩むように頬を掻いた。

 

「そうだなァ………まァ、今までと変わらん。阿保共が垂らした釣り糸が切れんよう、空の下で昼寝しながら見ててやるさ。釣り上げんのに苦労するようなら、手ェ貸す程度の気紛れは起こすかも知れんが」

 

そう言って、黒瀬は悪戯っぽく笑った。

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

急に周囲が歓喜の声を上げ始めた。

無謀にも救出に向かった銀時が、坂本を地中から引っ張り出し生還したようだ。

船員達は船を飛び出し、砂上で笑い声を上げる坂本に向かい駆けだす。

その光景を遠巻きに見ていた新八と陸奥は、考えなしに無茶なことをやってのける大将二人に呆れの言葉を並べていた。

 

「無茶なことを……自分も飲まれかねんところじゃったぞ。何を考えとるんじゃ」

「ホント、何考えてんでしょうね」

 

新八は眼鏡を押し上げて、微かに笑う。

 

「あの人らしか見えないもんがあるのかな……」

 

新八の何気ない呟きを、黒瀬は横で静かに聞いていた。

その言葉に答えるわけでもなく、ただ記憶の中の情景と現在歓喜の中心にいる二人の光景を比べ頬杖をつく。

 

人の話というのは、興味本位で盗み聞くものではない。だから、盗み聞いた話に関して誰かが疑問を口にしても、聞いた話が悪事の密談でない限り、無闇に教えることは極力避ける。

それが盗み聞きを働いた者の、せめてもの礼儀だ。

そして、疑問を口にした者の隣で、フッと笑う。

 

———俺ァ、のんびり地球(ここ)で釣り糸垂らすさ。地べたに落っこっちまった流れ星でも釣り上げて、もっぺん(そら)にリリースよ。

 

「……有言実行、だな」

 

その呟きは誰の耳にも届く事なく、沸き上がる歓喜の声に消えていくのだった。




大変恐縮ながらこの小説、お気に入り登録件数が百件突破いたしました。
一重に、こんな手抜き小説を読んで下さっている皆様のおかげでございます。
そんな感謝を込め、イラストを描かせて頂きました。
これくらいしか出来ないことをどうか、御許しくださいませ。



【挿絵表示】



今後も皆様に楽しんで頂けるよう、精一杯書いていこうと思います。
それでは、また次回。

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