それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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すみません、遅くなりました。
理由と言い訳、ちょっとしたお知らせは後書きにて。



第二十一訓 勉強中に聴く音楽はクラシックにしとけ落ち着くから

機械的な騒音を奏でるこじんまりとした工房らしき建物の前で、近隣住民を引き連れたお登勢が声を張り上げ訴えかけていた。

この工房の家主は、江戸一番の発明家と呼ばれているらしい平賀源外という老人。

日がな一日工房にこもって騒音を響かせガラクタを量産しているため、痺れを切らしたお登勢と住民たちが文句を言いに集まったのだ。

 

「コラぁぁぁ‼クソジジイぃぃぃ‼平賀、テメッ、出てこいコノヤロォォォ‼どれだけ近所の皆様に迷惑かけてるのかわかってんのかァァァ‼」

 

最初に抗議の声を上げたのは、煙草をふかしているお登勢。

それに(なら)い集まった近隣住民達が、次々にどれだけ迷惑が掛かっているのかの実例をもって訴える。

しかし、源外が姿を見せる様子はなく、締め切られたシャッターの奥で絶え間無く響く騒音は、当たり前のように止む気配はない。

 

「私ら歌舞伎町町内会一同も、我慢の限界だ。今日こそ決着つけてやる。オイ、ヤロー共、やっちまいな‼︎」

 

言葉による説得は無意味だと悟ったお登勢は、最終手段を取る事にした。最終手段と言っても、言うほど大仰なものではない。

お登勢の掛け声に姿を現したのは、様々な音楽機材を抱えた銀時、神楽、新八、黒瀬の万事屋四人組。

家賃滞納常習者かつ嫌がらせのプロフェッショナルでもある。

四人は持って来た機材を閉められたシャッターの前に置くと、ラジカセをセットしスイッチを押す。

 

「一番、新宿から来ました志村新八です。よろしくお願いします」

 

流れ出し音楽をBGMに一礼した新八の手にはマイク。

誰もが頭上に疑問符を浮かべる中、それは唐突に始まった。

公衆の面前で披露される聴くに耐えない新八の歌声。全員がその音痴極まりない歌声に耳を塞ぎ悶絶し、源外の奏でる騒音以上に破壊力のあるものとなっている。

 

「おいィィィィ‼︎止めろコラ!私は騒音止めてくれって言ってんだよ!増してるじゃねーか!二つの騒音がハーモニー奏でてるじゃねーか!」

 

破壊力抜群の歌声に鼓膜を集中砲火されながらお登勢は、最悪の対抗手段を持って来た銀時へ怒りをぶつける。

対して銀時は、これが最良策とでも言うような言葉を並べる。

 

「いじめっこ黙らすには、同じよーにいじめんのが一番だ。殴られた事もない奴は、人の痛みなんて分かりゃしねーんだよ」

「分かってねーのはお前だァ!こっちゃ鼓膜破れそーなんだよ‼︎」

 

目に目を、歯には歯をという論理でこうなったらしいが、騒音が騒音を呼んだだけのただの迷惑行為に他ならない。

 

「別に俺らだってなァ、何も考えとらんかったわけじゃねェんだよ?最終的に仕返してやろうと、この案に落ち着いたわけで……臭い物に蓋の原理だ」

「悪臭が増しただけだろーがァ‼︎鼓膜以外に三半規管もやられちまいそーだよ‼︎」

 

と、他にも策はあったという言い訳をする黒瀬だが、耳を塞ぐだけで平然としているあたり他の策は考えなかった事がうかがえる。

 

「何言ってんだバーさん、一番痛いのは新八だ。公衆の面前で音痴晒してんだから」

 

銀時の言葉に「大抵はそうだろうな」と爆音で音痴を晒す新八を見てみると、嫌がっている様子は全く無く、どことなく良い表情をしていた。

 

「なんか気持ちよさそーだけど‼︎」

 

お登勢含めた町内会一同が悶絶しているとは露知らず、神楽が新八の隣で順番待ちをしていた。

 

「新八ぃ、次私歌わせてヨ。北島五郎の新曲手に入れたネ。ねェ、ちょっと………オイ、きーてんのか音痴」

 

盛大に音痴を披露する新八の耳には神楽の声が届いていないらしく、尚も聴くに堪えない歌を聞かせられ次第にマイクの取り合いになってしまった。

北島五郎の曲を歌いたい神楽と、お通の曲の続きを歌いたい新八の二人で喚き合い、源外の説得度おころではなくなっている。

 

「お前ら落ち着け!次は俺のピ◯ミンだろうが‼あの何とも言えん曲と歌詞で切なくなる番だろうが‼」

 

二人のマイクの取り合いに黒瀬も参加し、源外の騒音による迷惑行為そっちのけで三つ巴の喧嘩になっている。

 

「あ~あ、何やってんだあいつら。しょーがねーな………オイぃぃぃ‼次歌うのは俺だぞォ‼」

「おめーら一体何しに来てんだァ‼」

 

次いで銀時がマイク争奪戦に加わると、今まで歯止め役になっていたお登勢が「任せるくらいなら」と自身もマイクの取り合いに参戦する。

源外への抗議行動からただのカラオケ大会へと趣旨が変わり、争奪戦の(かなめ)たるマイクがお登勢の手へ納まった時、ガラガラとシャッターが開けられた。

そこにいたのは、見上げるほど大きなゴツイ外観の人を模したカラクリだった。

 

「……え?これが、平賀サン?」

「んなわけあるか。だから頭パーなんだよ」

「どーいう意味だそれは」

「そういう意味だ」

 

出てきた人型のカラクリを平賀源外と勘違いする銀時に、ラジカセのスイッチを切っていた黒瀬が呆れ気味に言う。

直後、カラクリが銀時の頭を鷲掴みにし、軽々と落ち上げた。

 

「いだだだだだ‼頭取れる!頭取れるって平賀サン!」

 

銀時は変わらずカラクリを平賀呼びして振り回されながらも、どうにか放してもらおうともがく。

 

「たわけ、平賀は俺だ」

 

工房の奥から姿を現したのは、レンチを持ちゴーグルを掛けた作業着姿の老人。

江戸一番の発明家と噂の平賀源外その人である。

 

「人んちの前でギャーギャー騒ぎやがってクソガキども。少しは近所の迷惑も考えんかァァァァァ‼」

 

マイク争奪戦の騒がしさに我慢の限界が来たらしい。

しかし、源外の言葉には説得力なんてものはなく、とんでもないブーメランでしかない。

 

「そりゃテメーだクソジジイ‼てめーの奏でる騒音のおかげで、近所の奴はみんなガシャコンノイローゼなんだよ‼」

「ガシャコンなんて騒音奏でた覚えはねェ‼『ガシャッウィーンガッシャン』だ‼」

「どっちにしろ騒音じゃねェか」

 

源外の言い訳にならない言い訳に、黒瀬は呟く。

カラクリに振り回される銀時を神楽と新八が必死に降ろそうとしている光景を背後に、黒瀬は一機と三人の攻防には一切目もくれず黙々と撤収作業を進める。

 

「……アンタもいい年してんだから、いい加減静かに行きなさいよ。カラクリに老後の面倒でもみてもらうつもりかイ」

「うっせーよババア!何度来よーが俺ァ工場はたたまねェ‼帰れ!」

 

何をそんなに頑固になっているのか理由は分からないが、意地と歳のせいということで一人納得しておく。

持参した音楽機材の電源を切り隅に寄せた後、黒瀬はマイクを回収しお登勢と源外の会話に口を挟む。

 

「別にモノ作りが悪いとは言わんが、近所迷惑にならん趣味の範囲に収めんのが妥当じゃないんか?」

「騒いでたオメーに言われたくねーよ!」

 

結局誰が言おうとも源外の意思を変えることは出来ず、騒音が近所迷惑と言っても先程まで騒いでた連中にはブーメランである。

 

「オイ三郎‼︎構うこたァねェ。力ずくで追い出せ!」

「御意」

 

嫌気がさしたらしい源外はカラクリ、三郎に命令を下す。

カラクリらしく従順な返事をした三郎だったが、起こした行動は従順と言うにはあまりに反抗的なものだった。

持ち上げた銀時を主人である平賀に向け投げ付けたのだ。

完璧従順なカラクリはよく見かけるが、ここまで乱暴で反抗的なカラクリはなかなかいないだろう。

 

「……ある意味よくできたカラクリだな」

 

伸びている二人と三郎を見、黒瀬は感心するのだった。

 

 

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個人工房《源外庵》の中は三郎と似た形のカラクリが何体も置いてあり、製作途中のものや整備待ちのであるようだった。

源外を縄で柱に縛り付け邪魔をされないように動けなくしてから、新八と神楽が強制的に引っ越しの準備を進めていた。

カラクリの山に興味と感心持ちつつ着々と作業をするその早さには、微塵の慈悲すら感じられない。

 

「オイ、茶頼むわ」

「御意」

 

そんな中、銀時は一人動かず三郎を使用人のように扱っていた。

三郎は言葉通り茶を用意しようとどこかへ行った。

 

「三郎ォォ‼︎てめェ、何こき使われてんだァ‼︎助けんかい‼︎」

「いや〜、実にいいモノ造ってるじゃねーか、じーさん。ウチにも一つくんねー?このポンコツ君」

 

直後、銀時の頭に淹れたて熱々の茶が注がれる。

 

「あっつァァぱァァ‼︎」

「動け腐れ天パ。ガキ共ばっか使ってんじゃねェぞコラ」

 

お茶をぶっ掛けたのは三郎ではなく、人任せな銀時に堪忍袋が切れた黒瀬だった。

側には三郎が茶の入った湯呑みをいくつか乗せたお盆を持って控えており、黒瀬はその中の一つを取って憂さ晴らしをしたらしい。

 

「てんめっ何しやがんだァ‼︎俺ァ作業員じゃなくて現場監督なんだよ!使えるもん使って何がワリーんだ‼︎」

「最悪な根性してんな。つーか、お前が動きゃあこんなポンコツ要らん」

 

と、黒瀬が何気なく三郎を叩いた時、頭に熱々のお茶をぶっ掛けられた。

 

「あっつァァあ"あ"あ"あ"あ"‼︎」

『ブハハハハ‼︎ざまーみろォォ‼︎』

 

黒瀬が熱さに転げ回る姿を見た銀時と源外は、声を揃えて嘲るように大笑いした。似たり寄ったりな二人である。

 

「三郎はなァ、ある程度の言語を理解出来るんだよ‼︎自分に攻撃的な言葉や行動を取る奴には、鉄拳で答えるぞ‼︎」

 

源外が自慢げに語った説明で、どの発言が攻撃的な言葉に当たるのか記憶を探ったところ、あのポンコツ発言以外に思い当たる節がない。

あれが三郎の琴線に触れてしまったらしい。ゴツい風貌とは裏腹に、相当賢いカラクリであるようだ。

 

「よし!今のうちにわしを解放しろ!早くしろポンコツ!」

 

気を良くした源外が、自身の説明を忘れ三郎に攻撃的な口調で解放を要求したところ、案の定三郎は読んで字の如く鉄拳でその言葉に答えた。

到底江戸一番の発明家とは思えないその態度と言動に、本人の許可無しに引っ越しの準備を進めていた新八が呆れの目を向ける。最初は並べられたカラクリを見て感嘆していたが、疑わしく思うくらいに一連の行動はアホのそれだった。

 

「私らにゃ、ただのガラクタにしか見えないね〜」

 

お登勢が煙草をふかし言った。江戸一番と言っても、ただの噂でしかないのだ。お登勢が又聞した話をする感覚で言うのも、その確実性が欠けている噂しか聞いていないからだ。

 

「ガラクタなんかじゃねェ」

 

至極真面目な声でそう言う源外。

 

「ものを創るってのは、自分(てめー)の魂を現世(うつしよ)に具現化するようなもんよ。こいつらはみんな、俺の大事な息子よ」

「息子ねェ……そんならちゃんと見とかんといけん。例えば……」

 

黒瀬が顔を引きつらせて見る先に源外もつられて見てみると、銀時が指を差して言った。

 

「息子さん、あっちで不良に絡まれてるよ」

「い"や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"‼︎」

 

三郎は神楽に振り回され玩具にされていた。

ロケットパンチと言われ腕をもがれている悲惨な光景に、源外ただ慌てふためいて喚くことしかできなかった。

 

 

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引っ越し場所は、河原。

源外の工房から持ち出したカラクリと工具全てを、無造作に放り投げ山積みになっている。

完成目前だったカラクリもは運び出す際にバラバラにしており、三郎も稼働しているが神楽に遊ばれたせいで両腕が行方不明である。

 

「どーすんだ!これじゃ、祭りに間に合わねーよ‼」

『祭り?』

 

手を地面について落胆する源外に、カラクリを解体した張本人たちが声を揃えて尋ねる。

源外曰く、三日後に鎖国解禁二十周年の祭典が、ターミナルで行われるそうだ。その祭りに将軍が顔を出すらしく、そこでカラクリの芸を披露するよう幕府から命令が下ったとのこと。

 

「間に合わなかったら、切腹モンだぞ」

 

項垂れる源外を見て、四人は顔を見合わせる。

そして回れ右をすると、来た道を戻るように歩き出した。

 

「カレー煮こんでたの忘れてた」

「そういや今日セールやってたなァ………」

「オイぃぃぃ‼三郎の腕返せェェェ‼」

 

行方不明の三郎の両腕の片方を、神楽が持ち去ろうとする。

黒瀬に持ってたら邪魔だと言われた神楽は、駄々をこねながらも渋々三郎の腕をカラクリ山の方へと投げた。

落ちる先を確認がてら見届けようと振り返った時、解体されたカラクリに向かう源外の背中が見えた。

工具を持ってカラクリを作り直すその背中は焦っているというより、ひどく寂しいものに見えて仕方がなかった。

 




はい、というわけで言い訳です。
前回更新してから非常にマズイことに、飽き性を発症してしまいました。
治らない性格上の問題ですね。
なのでしばらくは、早くて週一更新の曜日不定だと思っててください。

そして、この作品とは別にもう一つ書き進めていました。
まだ投稿はしておりません。書き溜め状態です。
投稿する様になったらこの作品更新時に、後書きでお知らせさせていただきます。


それでは、いつになるか未定ですがまた次回。

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