それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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お久し振りでございます。
今回は、文章量少し少なめでございます。


第二十二訓 祭りではしゃぐ悪い奴

祭り当日。橋をバタバタと興奮気味に駆けていく子供が大勢いた。

一方、銀時が川沿いで、何やら真剣に辺りに漂う匂いを嗅いでいた。

 

「この甘ったりィ匂いは………綿菓子ィィィ‼︎」

 

様々な食べ物の香りが漂う中、微かに混じった甘味の匂いのみを嗅ぎ分け駆け出す。

そのやる気と意欲と瞬発力をもっと別な事に発揮してほしいものだが、仕事をほっぽり出そうとした報いだろう。綿菓子の元へ馳せ参じようとする銀時の後頭部に、金属製の工具が直撃する。

 

「仕事ほったらかして何処へ行く⁉︎遊んでねーで仕事しろ仕事!」

 

工具を投げたのは源外。引っ越し作業の一端とはいえ、それまでに制作したカラクリをオシャカにしてしまった為に、修繕作業を手伝っているところである。

 

「オイ、やたら工具投げんじゃねェよクソジジイ。あれ以上使い物にならんくなったらどうすんだ」

「てめーも口動かしてねーで、手を動かせ手を。ったく、もう時間ねーんだからよォ」

 

源外の言う事はごもっとも。真面目にと言うわけでも無いが、とりあえずの(てい)で新八と黒瀬は部品組立などを行う。

子供が集団で祭りへと繰り出す時間帯であるのに、こうも中途半端な状態では焦るのも無理はない。

 

「でも平賀サン、もうコレ間に合わないんじゃ……」

「芸を披露すんのは夜からよ。夕方までにどーにかすりゃ、なんとかなる。大体片付いたしな」

 

製作者本人が言うなら、ギリギリ間に合うのかもしれない。それなら、手伝った甲斐があるというもの。

好きこのんでやっていた訳ではないのだが。

少し離れた場所では、神楽が三郎相手に昼ドラ的な展開の“ままごと”をやっており、修繕した三郎にドメスティックバイオレンスを決めようとしていた。

それを源外と新八が必至に止めに入り、空は夕暮れの色へと染まっていく。

 

太陽が地平線に沈む前に、どうにかカラクリの修繕は終わった。

手伝いのおかげかどうかはさておき、源外は銀時へ金銭の詰まった小袋を投げ渡す。

 

「最後のメンテナンスがあんだよ。邪魔だから、祭りでもどこでも行ってこい」

 

憎まれ口にしか聞こえないものだが、神楽と新八には四人を祭りへ行かせる口実だと伝わり、遠慮なく祭り会場へ駆けていくのだった。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

吊り下げられた数十数百もの提灯と、建ち並ぶ屋台の灯りが夜の祭り会場を照らし、行き交う人々の嬉々とした声が一層祭りを活気あるものにさせる。

舞台上で扇子を片手に舞踊を披露する芸者。祭りの喧騒に三味線の音色が添う。

 

「アッキー!私、焼きトウモロコシ食べたいネ!」

「じゃあ僕、りんご飴がいいです!」

「あーもう、待て待て」

 

成り行きで子守りの人柱になってしまった黒瀬。

出費を抑えようと飲酒や賭博をなるべく避けてきたが、源外によってもたらされた臨時収入により「今日だけ」と考えていた。

しかし、そうは問屋が卸さない。

源外と飲み始めた銀時から臨時収入の半額を奪ったまでは良かったものの、一人で屋台を物色していると先に歩き回っていた新八と神楽に捕まり、ちまちま小銭を渡すのは面倒だと判断してしまった。

祭りの浮かれた気に当てらたのか、それ以上頭が回らなかった。

結果子守りというより、自主的に財布になったとも言える経緯である。

とりあえず、二人が食べたいと言ったものを買うに十分な金銭を、それぞれに渡して自分で買ってくるよう言う。

 

「俺、いつから子守役になったんだ……?」

 

無意識にそうなってしまう、とは微塵も思うはずもなく呟く。

 

「あれ?アンタ銀さんとこの……」

 

急げと言わんばかりに目当てのものを買いに行った二人を待っていると、寄っ掛かっていた出店の店主から声を掛けられた。

見てみるとそこには、見慣れたグラサンをかけているオッさんがいた。

 

「長谷川さんじゃねェか。祭りに便乗してたんか」

 

法被(はっぴ)を着た無職代表長谷川が、玩具の長銃を片手にタバコを吸っていた。

出店の暖簾(のれん)や旗には射的の文字が。

 

「一時はどうなるかと思ったが、無事就職出来たんだな。次は手放さんよう気を付けろよ」

「うん、無職になったのほぼアンタらのせいだけどね」

「あ、おじちゃんだ」

 

各々買った食べ物をくわえ、新八と神楽が戻ってきた。

純粋無垢な神楽を見た途端、長谷川は露骨に嫌な顔をする。

 

「げっ、激辛チャイナ娘!」

 

何やら長谷川には、一方的に嫌な思い出があるようだ。

その表情と言い方から察するに、精神的にグッサグッサ刺さるような事でも言われ続けたのだろう。

 

「射的ですか。ちょっとやってこうかな」

 

興味を示した新八とは裏腹に、黒瀬は長谷川の後ろの棚に並ぶ景品をザッと見てブランド物が無い事に舌打ちをする。

 

「景品シケてやがる。撃ち落として転売したかったんだがなァ……」

「何この人⁉︎祭りの楽しみ方間違ってんだけど‼︎」

「あ?祭りの出店なんぞ原価の安いモン高値で売って、祭りに浮かれる人間の心理状態逆手に取ってんだろうが。利益重視だろうが」

「子供に見せられないくらい捻くれてるよ!祭りにそぐわない捻くれ方してるよ!」

 

客の本音というより、祭りを楽しもうとしない人間の考え方を長谷川にぶつける。

しかしそんな見習ってはいけない大人を前にして、それでもゲームに興味を示すのが子供。

やる気を出した神楽が長谷川から射的用の銃を受け取り、銃口に弾であるコルクを詰めていた。

 

「当てれば何でもくれるアルか?」

「ああ、あげるぞ〜。よ〜くねらっ……」

 

普通に景品を狙ってくれると、この時長谷川はそう思っていた。

普通が通用しない連中相手に普通の商売が出来ると、そう思ってしまっていた。

コルクが撃ち出された直後、グラサンのレンズが破片に変わった。

 

「よこせよグラサン」

「えっちょっ、違っ……狙うのはあっち……」

 

戸惑いつつ景品棚を指差すと、今度は腕時計のガラスが飛び散った。

 

「腕時計ゲーッツ」

 

急遽途中参戦、イカ焼きを手にした沖田だった。

本来の射的のルールを無視した上で長谷川の所持品を狙撃して、何の躊躇もなく真っ先に神楽を煽るあたり「流石」の一言に尽きる。

しかし、狙撃対象にされた長谷川はたまったもんじゃない。

 

「待てってオイ!おじさんのは無しだよ!聞いてる⁉︎オイお前ら‼︎」

 

グラサンと腕時計を狙い撃ちされた長谷川の言葉は一切聞かず、神楽と沖田は互いを敵と見なし火花を散らす。

ヒゲ、上着etc……銃からコルクが撃ち出されるたび、おっさんの苦悶の声が祭囃子(まつりばやし)に混ざって消える。

 

「沖田さん、来てたんですね」

「そりゃそうだろ。将軍が顔出してんだから、真選組も出突っ張りだろうさ」

 

新八と黒瀬は二、三歩引いた場所で、長谷川を的にして競い合う二人の様子を見ていた。

遊び方は違えど単純に楽しそうで何より、と言ったところ。真っ当に再就職した長谷川には気の毒だが。

 

「長谷川さん、大丈夫かなぁ。あれ以上ヒートアップしなきゃいいんスけど」

「仕留めてくれれば、金払わんで済むんだが」

「祭り楽しむ気あんのかアンタ」

 

祭りの浮かれた空気の中でも、守銭奴気質が板についたらしい黒瀬は出費を抑えたい模様。

しかしそれ以外にも理由があるようで、迷うように視線を逸らした。

 

「……否定できねェな」

「え?」

 

すぐ掻き消されてしまう呟きを、新八は僅かにその耳で拾った。

さりげなく呟かれた言葉でありながら妙に含みのある言葉にも聞こえ、受け答えの回答にしては喧騒に紛れてしまうほど小さい。

要は、聞かれる事を望んでいない本音。

 

「ま、お前なら無駄使いせんか。ほれ」

 

そう言うと黒瀬は、祭りの軍資金が入った小袋を新八へ渡した。

 

「俺そこら辺歩ってくる。じゃあな」

「あ、ちょっと!」

 

至極一方的に軍資金を渡された新八は戸惑い引き留めようとするが、黒瀬は足を止めることなくヒラヒラと手を振って、人混みに紛れて行ってしまった。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

夜空を彩る大輪の華。

打ち上がる時の音は大気を震わすほどに大きいが、空に舞う火の大華(たいか)は刹那に花開いて散りゆく。

出店(でみせ)を喜々として周る大衆は皆立ち止まり、夜空を見上げて感嘆の声を洩らす。

 

「なかなかのモンだなァ……」

 

幕府からお呼びのかかった人達が、自身の技や芸を披露する舞台。

それを人気(ひとけ)のない場所から遠巻きに眺め、黒瀬も無意識に感嘆する。

舞台上の人物が芸の一環で打ち上げているらしいが、離れすぎているせいで披露している人物が米粒程度にしか見えない。

かろうじて見覚えのあるゴツいカラクリの輪郭を認識し、花火打ち上げの芸は源外のものだと分かった。

 

口々に源外を讃える声が聞こえる。

しかし最後に上がった華の散り際に、観衆の反応が一変する。

 

「なんだ……?」

 

最前列から離れているため、瞬時には混乱の要因が分からなかった。

ただ祭りの雰囲気では無くなったのを、波紋のように広がるどよめきから察するのみだった。




さて次回、あの人が出たり出なかったり。
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