それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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前回の更新以降、アクセス数とお気に入り登録件数が急に伸び、「ん?何コレ怖っ」と嬉しさ半分恐怖半分で二、三日過ごしてました。原因の分からない急なインフレは、とんでもなく怖いです。
高杉のせいかと思いましたが、前回高杉出てないですからね。何だったんでしょうか。
まあ、嬉しいんですけどね。

それと、ちょっとしたアンケートを実施しようと思ってます。
詳細は後書きにて。



第二十三訓 親子は良いとこも悪いとこも似るもんだ

周囲にちらほらといた観衆も、視界の端に映った異変に困惑し始めた。

将軍のいる(やぐら)付近には白い煙幕が立ち上り、舞台周辺の誰もが騒然とし逃げ惑う。

攘夷派のテロだと誰かが叫ぶ。

逃げ場所を求め次々と出店(でみせ)の並ぶ道へ人々が雪崩れ込み、状況を把握出来ていない人々と入り乱れ尚の事混乱する。

 

「あのジジイ、何やってんだ……!」

 

押し寄せる人の波を掻き分け舞台へと近付こうとするが、予想以上に人が多く進もうにも進めない。

他人の考えが読めないのは致し方無い事だ。それでも、多少の違和感すら感じ取れないとは、些か勘が鈍ってしまったらしい。

思わず舌打ちをしてしまう。ああ、腹が立つ。

鬱陶しい大人達の悲鳴が響く中、出店(でみせ)の陰に(うずくま)っている小さな背中が見えた。

 

「……?」

 

素朴な(がら)の浴衣、手首に通した金魚の泳ぐビニール袋。

迷子だ。

放っておくわけにもいかず急く人を掻き分け、黒瀬は舞台周辺に行く事よりも見つけてしまった迷子を優先した。

 

「どこ行っても子守役かよ俺は……!」

 

歯噛みしつつ人混みを縫い、やっとの事で脱け出し啜り泣く子供の肩に触れた。

 

「オイ、どうした?」

「ぼ、ぼくねっ…ママとはぐれてっ……ひっく……!」

 

声を掛けたはいいものの、子供の慰め方やあやし方は当然のように知らない。

黒瀬はバツが悪い顔をして頭を雑に掻き毟る。

出店の裏はほとんど人が通らず、いつから泣き出していたのかも分からない。

どうしたものか。

 

「このまま真っ直ぐ歩って行きゃあ、祭り会場の外に出る。母ちゃん探しながら行け、いいな?」

「でっ、でもぉ……」

 

一度立ち止まってしまうと、次の一歩を踏み出すまで時間がかかる。

愚図る子供に「泣くな」と説教したところで、他人の言葉は響かないだろう。

慣れない事はするもんじゃない。

黒瀬は涙を絶えず拭う少年の脇の下に手を差し入れると、持ち上げて意地でも立ち上がらせた。

 

「いいか?ここで泣きじゃくってたってなァ、自分だけで精一杯な大人は一切聞かん。誰もお前なんぞ知らねェし、母ちゃんの事だって知らん。だから、お前が母ちゃん見付ける気概持たんといけん。母ちゃんだってなァ、お前を見失って泣いてるはずだ」

「ぼくが、見つける……?」

 

涙を拭う少年の手が目から離れ、腕を組む黒瀬を見上げた。

 

「どうせ、ガキ一人があの人混み入ったところで見つからん。だが、ガキにだって出来る事はある」

 

黒瀬は悪戯っぽくニヤッと笑うと、表の道を騒ぎながら逃げ走る人々を指差す。

 

「あのクッソ情けねェ大人達に負けんくらい、大声で母ちゃん呼びながら行け。会場の外に出ても、逆に見つけてやる気で叫べ。それなら出来んだろ」

 

子供を(さと)すにはぶっきらぼうな言い方だったが、少年は徐々に泣き止んでいった。

 

「……ぼく、やってみるよ」

 

吹っ切れた少年は涙を拭い、意を決したように声を出しながら一歩、また一歩と祭り会場の外へ出るため歩く。

始めに出た声はか細く、周囲の喧騒に掻き消されてしまうほど小さいものだったが、回数を重ねるごとに大きくなり誰の鼓膜をも貫く騒がしい子供の声となった。

 

「……さて、次は源外のジジイか」

 

少年の背中を見届け息を吐き、源外のいる舞台を振り返ろうとした時。

 

「随分と、ガラにもねェことしてるじゃねーか」

 

背後からスッと伸びた刀が左肩の上を通り、黒瀬の首筋に当てられる。

その気になればすぐ斬れそうなほどギリギリで止められていることから、動作の牽制を狙っているのだろう。

黒瀬は刀から順に見やり、その持ち主を視界の端に捉えて紫眼を細める。

 

「……高杉」

 

いつからいたのか。

人気(ひとけ)のない場所に来て姿を現したあたり、狙っていたとしか考えられない。

苦々しく吐き捨てる黒瀬に対し名を呼ばれた背後の男、高杉は嘲るように嗤っていた。

 

「てめェも弱くなったなァ、黒瀬」

「……その様子だと、銀時にも挨拶しに行ったんか」

 

睨みを利かすが高杉は言葉の代わりに、ただ不気味な嗤いを返すのみ。

答える気がないのか、はたまた肯定の意なのかはハッキリしないが、良い意味を持っていないのは確かだ。

 

「何の用だ。あのジジイに便乗して、将軍()るつもりか」

「便乗?笑わせるじゃねーか。これは、あのじーさんの復讐よ」

「ジジイの復讐?なに厨二くせェことぬかしやがる」

 

騒ぎの元凶が源外だと知っている以上、復讐という高杉の言い分を否定しきれないのは事実。

言葉に乗せて黒瀬は鼻で笑って見せたが高杉の嘲笑は変わらず、本心を看破されているようで気味が悪い。

 

「知ってるか?じーさんの息子の話をよォ」

「あ?息子?んなモン聞いてねェ」

「俺が率いていた鬼兵隊に、三郎って奴がいてな。機械には滅法(めっぽう)強い男だった」

 

何の関係があるのかと黒瀬は訝し気な表情をするが、三郎という名前と源外が作ったカラクリを思い出し気付く。

義勇軍として結成された鬼兵隊は粛清され、幕府の手により壊滅させられた。

高杉の言わんとしていることは察しが付く。源外の復讐の理由も、自然と分かってくるほどに。

 

「じゃあ、あれか。息子殺された恨みってか?祭りに合わねェ見世物(みせもの)だな」

「クク……祭りは派手なヤツに限らァ。小せェ火種が立派に燃えてやがる」

「無駄に荒立てたのはお前の仕業だろ。クソ汚ねェモン見せやがって」

 

細かい経緯は預かり知らないところだが、テロ行為を除いても源外の行動を考えると複雑だ。

作ったカラクリを「息子」だと語った。その一機に「息子」の名前を与えていた。

 

「死んだ息子に見立てたカラクリに、息子の名前付けてテロの片棒担がせるなんてなァ……笑えねェ皮肉だ」

 

何を思い考えながらカラクリ制作に取り組んだかは予想出来ないが、源外はカラクリ軍団を率いて息子と一緒に恨みを晴らしている気になっているのかもしれない。

三郎本人がそれを望んでいるのか、などと定番の綺麗事を並べるつもりはない。

そんなこと、言える立場にない。

 

「あんなの弔い合戦でも何でも……」

 

瞬間、刀の微動を捉えた黒瀬は身体の重心をずらし、右へ倒れつつ地面に付いた手を支軸にして反転し(かが)み、高杉と正面から相対する。

一撃目、左から右への薙ぎ。

直後ニ撃目。刀を振り下ろす初動に気付き、飛び退いてそれを避ける。

 

「てめーには分かるまいよ。抗う爪も牙も捨てたてめーにはなァ……!」

 

高杉の静かな怒りを聞きながら、黒瀬は刀が当てられていた左の首筋を(さす)る。

(てのひら)には滲む血の跡。完全には避けきれず、(かす)ってしまったらしい。

 

「剣すら捨てたてめーに、分かるわけねーよなァ。死んでった仲間の苦しみが。あのじーさんの苦しみが」

 

クツクツと嗤い、刀を鞘に収めた高杉が改めて正面を見た時、残っている右目を見開いた。

 

「確かに剣は捨てたが、大事なモンは一日たりとも忘れた事はねェ。鬱陶しいくらいにな」

 

顔のすぐ横。当たるか当たらないかくらい寸でのところで、振り上げられた足が止められていた。

隻眼が見据えるのは、髪の隙間から覗く鋭利な紫眼。

牽制、仕返しと言うにはあまりに(おぞ)ましく、別人と評するに相応しい変貌ぶりだった。

呆気に取られる高杉だったが悟られまいと睨み返す。

数秒後、黒瀬は振り上げた足をゆっくり下ろし、また首を摩る。

 

「今ので首斬った件はチャラにしてやる。次は無ェぞ、高杉」

 

そう釘を刺しその場から去ろうと歩き出す黒瀬。

向かうのは、源外のいる舞台上。

後ろから高杉が追ってくる様子はなく、騒動に逃げ惑っていた人が減った表の道に出てから再度(てのひら)を見る。

変わらず、血が付いていた。

 

「コレ、ガキ共うるせェな。どう誤魔化すか……」

 

尋ねられた際の返答を考えながら、黒瀬は舞台へ向かうのだった。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

舞台に辿り着いた黒瀬だったが、事態の沈静化は七割がた終わっていた。

真選組がカラクリ軍団を斬り倒し、舞台上には倒れたカラクリの三郎と源外、銀時、新八がいた。

物理的に止めることには成功したらしい。

動かなくなった三郎の隣で源外は沈黙し、考え込むように項垂れていた。

 

「あ、黒瀬さん。どこ行ってたんスか」

 

舞台に上がると、真っ先に新八が声を掛けてきた。

一方的に金を渡してふらっと行ってしまったのだから仕方ない。

 

「ほら、ヒーローは遅れてやって来る……的な?」

「遅れて来るどころか大遅刻っスよ。終わった後に来たら意味ないでしょ」

 

ふざけた言葉を返しつつ、ザッと状況を見る。

三郎を機能停止にしたのが、銀時だというのは明確。この場でそれを成せるのは、白髪天パを置いて他にいない。

 

「今回のヒーローは、そこの根暗じゃねェってこった。神楽連れて帰るぞー」

「誰が根暗だボケ」

 

銀時は頭を掻きながら黒瀬の横を通り過ぎる。

その時、一瞬目線が合う。「高杉に会った」という、さり気無いアイコンタクトだった。

現状ここではやる事もないため、銀時に続き黒瀬と新八も舞台を下りようとした。

 

「黒瀬さん、その怪我どーしたんですか?」

 

予期しないタイミングで新八に尋ねられ、パッと上手い嘘が思い付かない黒瀬。

苦し紛れに出た嘘は、ひどく下手なものだった。

 

「こ、転んだ?」

「いや、なんで疑問形なんですか。嘘が下手にも程がありますよ」

 

それはそうだと一人納得して、黒瀬は苦い顔をする。

後に神楽にも同じ事を訊かれたが、苦し紛れ以外の何物でもない嘘に飽きれられるばかりだった。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

後日、何の気なしに黒瀬は街中をぶらついていた。

気晴らしというわけじゃない。ただ、暇なだけだった。

 

「あ!おじさん!」

 

舌足らずな声に振り向くと、そこには祭りで泣きじゃくっていた少年とその母親らしき女性が並んで立っていた。

母親から離れ無邪気に近寄ってくる少年は、黒瀬の前で立ち止まると彼を見上げて笑った。

 

「誰がおじさんだ。俺はまだそんな(とし)じゃねェ」

 

黒瀬は少年の髪をわしゃわしゃと雑に掻き撫でた。

 

「あの、先日はこの子がお世話になったようで。ありがとうございました」

 

深々と頭を下げる母親。祭りの日の出来事を少年は、無事再会した母親に話したようだ。

変に話を盛っていなければいいのだが。

 

「そんな頭下げられる程の事はしてねェよ。あんたがコイツを見付けたのか、コイツがあんたを見付けたのかは知らんが、どっちにしろ自力で見つけた事に変わんねェはずだ」

「だとしても、泣いてるこの子に声をかけて頂いた事実だけで、感謝する理由として十分(じゅうぶん)なんです」

 

微笑む少年の母親を前に、黒瀬は大袈裟だと思いつつ溜息をつく。

年下年上問わず駄目だしされる事はあれど、真正面から感謝されるなど彼にとって近年(まれ)に見る珍事だった。

どう反応するのが正しいのか。

 

「それでは、私達はこれで。本当にありがとうございました」

「じゃあね!」

 

去り際、満面の笑みで手を振る少年と手を繋ぎ、母親は礼をした。

遠ざかっていく微笑ましい親子二人の後姿を眺め、黒瀬は眉を寄せて困ったように頭を掻く。

 

「………よく分からん。親ってのは」

 

一人呟いたのち、親子とは反対方向に歩き出すのだった。

 

 




人目から遠ざけて貰う為、迷子君には一仕事してもらいました。

さて、アンケート内容ですが………単純にネタの募集です。
オリジナル回を書こうにも、ネタの引き出しが少ない自分では何も浮かばず………。
そこで、読んで下さっている皆様にご協力して頂きたく思いまして。
活動報告の方にもアンケートを載せているので、そちらでも構いません。
話のネタ、イラストのリクエスト、ご要望がありましたら書き込んで頂けると幸いです。

アンケートの募集期限は特に決めていません。

それではご意見、ご要望お待ちしております。

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