今回と次回は短めです。
「金がねーなら腎臓なり売って金つくらんかいクソッたりゃー‼︎」
「家賃如きでうるせーよババア‼︎こないだあれ………ビデオ直してやったろ!アレでチャラでいいだろうが!」
万事屋の玄関先で、大家であるお登勢と銀時が言い争っていた。
「いいわけねーだろ!五ヶ月分の家賃だぞ‼︎大体あのビデオ、また壊れて鬼平犯科帳コンプリート失敗しちまったわい‼︎」
「バカヤロー諦めんな!きっとまた再放送するさ‼︎」
家賃交渉が次第に取っ組み合いへと変わり始めた頃、ビニール袋を持った新八が階段を上っていた。
「はぁ……またやってんのか」
新八はただ呆れるしかなかった。
新八が万事屋で働くようになってから、早いもので半月。
しかし、こんないかがわしい商売に客が来るわけもなく、ジリ貧の生活は相変わらずだった。
先が不安になってきた今日この頃である。
「ちょっとあんたらいい加減に……」
と見上げた瞬間、そこにはお登勢に階段上から背負い投げされた銀時が飛んできていた。
新八の叫びが江戸に響く。
「あの……ちょっとうるさいんだけど……静かにしてくれん…?」
次に玄関から出てきたのは、欠伸をする眠気全開の黒瀬。
「アンタかい。相変わらず目の下のクマが酷いねェ」
「だからうるせェつってんだよクソババア。不眠症が治らん」
睡魔によるイライラも相まって、やや八つ当たり気味。
長めの前髪の隙間から覗く紫眼が、外の明るさでさらに細くなる。
「あの馬鹿が家賃を払えばうるさくしやしないよ。それとも、アンタが代わりに払うかい?」
「あ?家賃?」
黒瀬は懐から財布を取り出すと、その中から紙幣を抜きお登勢へ渡す。
「ほれ、家賃。じゃ、おやすみ」
「………」
お登勢は渡された紙幣に視線を落とす。
風吹けば飛びそうな紙幣、千円札が一枚。
「子供のお小遣いじゃねーんだよォォォ‼︎」
「あ゛あ゛あ゛あ゛‼︎」
お登勢の怒りを買い、黒瀬は二階から投げ落とされた。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
お登勢の家賃徴収から時間が経ち、三人はいつもの事務所兼客間にいた。
「どーすんスか、生活費まで引っ剥がされて……僕の給料ちゃんと出るんでしょーね。頼みますよ?僕んちだってキツいんだから……」
「俺の財布……」
新八は自分で淹れた茶をすする。その向かいで黒瀬がソファに寝転び、呆然と天井を見ていた。
生活費含め全て持って行かれ、ついでにとなけなしの金額しか入っていない黒瀬の財布ごと取り上げられた。
どん底の今、何か思いついたように銀時が言った。
「腎臓って……二つもあんの邪魔じゃない?」
「売らんぞォォ‼︎何恐ろしー事考えてんだ‼︎」
「人にはなァ、やらんといけん時がある」
「売らないって言ってんだろーが‼︎」
金欠で頭のネジが外れた二人が、何かと勧めてくることに腹が立つ。
新八の言葉を聞き流し、銀時は頬杖をついてテレビをつける。
「カリカリすんなや。金はなァ、がっつく奴の所には入ってこねーもんさ」
「ウチ、姉上がスナックで働き始めて、寝る間も惜しんで頑張ってるんスよ……」
それでもどうにかならないのだろうかと情に訴えるように、新八は家庭状況を話したがどうやら相手は聞く耳を持っていなかったようで。
「アリ?映りワリーな」
「ちょっと!聞いてんの⁉︎」
銀時は砂嵐になっているテレビを叩いていた。
少し乱暴な気もするが、砂嵐状態のテレビを直す行動としては常識というか、誰もがやる当たり前の行動だろう。
「お、はいった」
幾度か叩くと、テレビの砂嵐が晴れた。
すると映し出されたのは、倒壊した建物を背後に何が起こったのかを伝えるアナウンサーの姿だった。
曰く、正体不明の生物が建物を破壊しながら、新宿方面へ向かっているとのこと。
「またターミナルから
「最近多いっつーより、警備どうなってんの?緩すぎんか?」
「
その時、インターホンが鳴った。
さっきと言い今と言い、全然足りないからまたお登勢が家賃を巻き上げに来たのか。
そう思えば行動が早い奴。無い金を毟り取られた腹いせか、銀時がほぼ反射で玄関へと全力ダッシュする。
「金ならもうねーって言ってんだろうが腐れババア‼︎」
玄関の引き戸ごと蹴破り、そのまま正面にいた人物の顔面へと蹴りが決まる。
だが、そこにいたのは思っていた人物とは全くの別人で、ヒゲの生やしたグラサンのおっさんだった。
「あれ?」
「あーあ……何やっとるんか。ちゃんと確認してから蹴らんと」
蹴られたグラサンが背中から倒れる。
黒瀬は銀時が蹴破った引き戸をはめ直し、やらかしたなと溜息をつく。
「局長ォォォ‼︎」
「貴様ァ!何をするかァァ‼︎」
「スンマセン、間違えました」
「出直すんで、ちょっと待っててくれん?」
「待てェェェェ‼︎」
何事も無かったように家に戻ろうとする二人。
初対面として仕切り直すつもりらしい。
しかし、そうはいかなかった。後頭部に拳銃を突き付けられたのだ。
「貴様らが万事屋だな。我々と一緒に来てもらおう」
「ワリーな。知らねー人にはついて行くなって、母ちゃんに言われてんだ」
「俺は行かんが、
「テメーはなに人売るような事言ってんだ‼︎」
冗談に見えて冗談で言っているようには聞こえない軽口に、依頼人と思われる人物達は面倒に感じているのか意に介さない。
「……
「オメーら幕府……⁉︎」
つくづく面倒な相手が依頼をしに来たらしい。
「入国管理局の者だ。アンタらに仕事の依頼に来た」
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
ほぼ脅しとも取れる方法で、黒光りする幕府専用車に乗せられた三人。
依頼主である入国管理局の三人のうち、最も偉そうな人物は長谷川泰三という名前らしく、天人の出入国の一切を管理している幕府重鎮とのこと。
依頼内容はまだ聞いていないが、至極面倒なことに違いない。
「……一体、何の用でしょう?」
「あれか、あのババアが手配した裏稼業の奴等じゃなかろうな。いかん死ねる」
「物騒な事言わないでください。っていうか入国管理局の人だって言ってたでしょ」
「んだよォ、気になるなら聞きゃあいいじゃねーか。何の用ですかおじさん」
重鎮をおじさん呼ばわりせずに、もう少しオブラートに包んで尋ねて欲しかった。
だが重鎮のグラサンは無視を貫くつもりらしく、真剣な話をしはじめた。
「万事屋つったっけ?金積めば何でもやってくれるって聞いてさ。ちょっと仕事頼みたくてね」
「仕事だァ?街見てみろ。天人どもが好き勝手やってるぜ」
「これじゃあ名前だけとしか思えん。何を管理してんだか」
窓の外には大勢の天人。
天人の出入国を管理していると言われた上でこんな景色を見たら、入国管理局は何をしているのか疑いたくもなる。
それを分かってか長谷川は、煙草をふかし自嘲気味に笑う。
「こりゃ手厳しいね。俺達もやれる事はやってるんだがね。なんせ江戸がこれだけ進歩したのも奴らのおかげだから、無下には扱えんだろう」
さらに長谷川の言うことには、天人はすでに幕府の中枢にも根を張っているらしく、地球から追い出すにはもう遅いとのこと。
「俺達に出来るのは、奴らと上手いこと共生していくことだけだよ」
「共生?そんなん……」
「……んで、俺達にどうしろっての」
幕府の重鎮直々の依頼。報酬は弾むだろうが、そういいものでは無いだろう。
銀時もそれを察しているのかあまり気が進まなそう……いや、元々働きたくない症候群だったか。
「幕府は外交上の問題で、国を左右する程の危機をむかえてるんだ。今
やっぱり厄介ごとだ。
幕府では対処しきれないからと、部外者に処理してもらおうとしているのか。
半ば強制的に連れてこられた現状で断りでもしたら、どうせ「タダじゃ済まないぞ」とか安い台詞吐いてまた脅すのだろう。
やってられん。
そう呟く代わりに、黒瀬は溜息をつくのだった。