それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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前回の続きです。
一話完結ものは一話にまとめたいけど、上手くいかないもんですね。


第五訓 ペットは飼い主が責任を持って面倒を見ましょう(後)

幕府専用車に揺られ着いたのは、央国星の皇子が宿泊しているという旅館。

話しづらいのか長谷川の口から依頼内容は聞けず、皇子から直接聞くことになったのだが。

 

「余のペットがの〜、いなくなってしまったのじゃ。探し出してくれんかのォ」

 

(ひたい)からアンコウの触角のようなものを生やし、皇子という肩書きをかなぐり捨てるような容姿。

神経を逆撫でする声と丸々とした身体から、相当甘やかされて育てられた世間知らずとうかがえる。

三人は依頼を聞かなかった事にし、即断即決で帰ろうとした。

 

「オイぃぃぃ‼︎ちょっと待てェェェ‼︎」

 

しかし、長谷川に肩を掴まれ止められた。

 

「いや分かるよ!分かるけどやって!頼むからやって!」

「うるせーな、グラサン叩き割るぞ」

「髪毟んぞハゲ」

「ああ叩き割っていい‼︎毟っていいからやってくれ‼︎」

 

あのやる気を削がれる声と容姿で、頼まれ事がペット探し。

長谷川が同意を示している事から、三人がどうして早々に退場しようとしたのか察したらしい。というよりも、長谷川本人が最初から思っていたのだろう。

長谷川は銀時の肩に手を回し、気まずそうに幕府の内部事情を話し出した。

 

「ヤバイんだよ……あそこの国から色々……金とかも借りてるから幕府(うち)

「知らねーよ。ペットぐらいで滅ぶ国なら滅んだ方がいいわ」

「そっちの問題はそっちで解決してくれん?」

 

コソコソと話していたはずだが、どうやら皇子に聞こえていたらしい。

 

「ペットぐらいとはなんじゃ。ペスは余の家族も同然ぞ」

「そう思ってるんはお前だけだよ深海魚」

「だからテメーで探してくださいバカ皇子」

「オイぃぃ‼︎深海魚じゃなくて皇子‼︎バカだけど皇子なの‼︎」

「アンタ丸聞こえですよ」

 

慌てて無礼者の二人の口を塞ぐ長谷川に、新八は釈然としなかった。

よくある依頼に幕府は弱腰な上、万事屋(いっぱんじん)を巻き込もうとする理由。

何かしら裏がある。

 

「大体ペット探しなんて、アナタ達だけで解決できるでしょ」

 

新八の素朴な疑問に、長谷川は是と答えなかった。

 

「それがダメなんだ‼︎だってペットっつっても………」

 

その時、辺りに轟くほどの地響きとともに、旅館が何者かによって倒壊した。

突然の出来事に誰もが驚く中ただ一人だけ、脳内花畑の皇子だけは両手を広げ喜びを表していた。

 

「おぉーペスじゃ‼︎ペスが余の元に帰って来てくれたぞよ‼︎誰か捕まえてたもれ‼︎」

 

ペスと呼ばれたそれは、旅館を踏み潰すほどの巨体を持つタコの姿の宇宙生物(エイリアン)

八本の足をうねらせ、辺りの木や建物を倒しながら真っ直ぐこちらへ進んでくる。

 

「ペスぅぅぅ⁉︎ウソぉぉぉ‼︎」

「だから言ったじゃん‼︎だから言ったじゃん‼︎」

「つかあの旅館、誰も居なかったんか?潰されてるけど……」

 

気にしなければいけない点に意識が回っていなかったらしく、黒瀬が口にした途端押し黙る長谷川と新八。

しかし、二人はすぐに咳払いして軌道修正を図る。

 

「こ、こんなんどーやって捕まえろてんスか‼︎っていうかどーやって飼ってたわけ⁉︎」

「え、無視?気にせんといけん事じゃ……」

「ペスはの〜、秘境の星で発見した未確認生物でな。余に懐いてしまったゆえ連れ帰ったのじゃふァ‼︎」

 

言い終わりかけで皇子は、懐いていると思っているペットのペスによって吹っ飛ばされた。

 

「全然懐いてないじゃないスか‼︎」

 

自称飼い主を彼方へ飛ばしたペスは、尚も当てもなく進行と破壊を続ける。

 

「ヤバイ‼︎また市街地に出る‼︎」

 

ペスの進行を止められずもたもたしている時、その進路に立ち塞がる人物が一人。

 

「銀さん‼︎」

 

愛用の木刀を構え不敵に笑う銀時だった。

 

「新八、醤油買って来い。今日の晩ご飯はタコの刺身だ。いや、タコ焼きのがいいか。いただきまーす‼︎」

「させるかァァァ‼︎」

 

ペスを捌こうと駆け出した瞬間、長谷川がスライディングで銀時の足を引っ掛け転ばせた。

予想外だが予想通りの邪魔が入り、脳天を地面にぶつけた銀時は頭を抱えうずくまる。

 

「いだだだ‼︎脳みそ出てない?コレ」

「手ェ出しちゃダメだ!無傷で捕まえろって言われてんだ!」

「無傷?無理無理!無理だって‼︎」

「うわァァァ‼︎」

 

長谷川と銀時が言い争う中、新八が悲鳴を上げどうしたのかと仰ぐ。

新八がペスの触手に捕まり、食糧にされかけていた。

すぐ様助けに行こうとする銀時だったが、またも長谷川が銀時の後頭部に拳銃を突き付け静止させる。

 

「勝手な真似するなって、言ってるでしょ」

「てめェ……」

「無傷で捕獲が不可能なことくらい、百も承知だよ」

「分かってて言ったんか。ホント信用ならん」

 

黒瀬は長谷川の後ろで見物を決めこんでいた。

そもそも乗り気じゃなかったのだ。幕府の重鎮自らが依頼をしに来る時点で、悪事を握り潰すのが仕事のような幕府がペット探し如きを頼む時点で、素直に「はいそうですか」と受けようとは思わない。

 

「多少の犠牲が出なきゃバカ皇子はわかんないんだって」

「そんなくだらん理由で納得しろと?」

「どーやら幕府(てめーら)、ホントに腐っちまってるみてーだな」

 

何事にも犠牲はつきものと言うが、これは看過できない犠牲だ。

新八は今にもペスに食われそうで、しかし一般人を護るべき幕府はバカ皇子のために見過ごせと言う。

胸糞悪い事この上ない。

 

「俺は納得できん。だから、お前の言う事を聞く耳は持たん」

 

黒瀬は駆け出す。

 

「あいつ手ぶらで何するつもりだ?まあちょうど良い。皇子に分かってもらうには……」

「手ぶらァ?そりゃあ何の事だ?」

 

そう言った銀時の手には、木刀が握られていなかった。

まさか、と長谷川はペスに向かって行く黒瀬を見た。

敵を排除しようとペスの触手が黒瀬を襲うが、捕らえられずその脇を掠めるたび触手は赤色の体液を噴き出す。

 

「ちょっとォォ‼︎人の話聞いてた⁉︎それにほら!今脅してるとこでしょ‼︎」

「撃ちたきゃ撃って構わん。そいつ頭空っぽだし。ただ、その程度じゃ脅しにもならん」

 

黒瀬が振り返りニヤリと笑ったとほぼ同時、拳銃を握った長谷川の手が銀時に蹴り上げられた。

拳銃が落ち、その隙をついて銀時は新八の元へと向かう。

 

「待てェ‼︎たった一人の人間と一国……どっちが大事か考えろ‼︎」

「だそうだ銀時。天秤にかけんといけんらしい」

「知ったこっちゃねーなんな事‼︎」

 

斬ってもまだピンピンしている触手を避け、銀時は触手を足場に駆け上がり着実に新八との距離を詰めて行く。

 

「なら、お前の助手はお前が護れ。邪魔なもんは俺が引き受けてやる。他は知らんけど」

 

黒瀬は暴れる触手をある程度黙らせると、銀時に向け木刀を投げた。

 

「新八ィィィ‼︎気張れェェェ‼︎」

 

銀時はペスの口の中で食われまいと踏ん張る新八に叫んだ。

見る限り今ですらギリギリの状態だ。

 

「気張れったって………どちくしょォォォ‼︎」

 

言葉通り全身全霊で気張る新八。

自分の骨かペスの顎かはわからないが、メキメキと軋む音がする。

 

「幕府が滅ぼうが国が滅ぼうが関係ないもんね‼︎」

 

投げられた木刀を掴み取り、銀時は跳び上がる。

 

「俺は!自分(てめー)肉体(からだ)が滅ぶまで!背筋伸ばして生きてくだけよっ‼︎」

 

木刀を振りかぶりペスの口の中へと突っ込む。

直後、ペスの動きがピタリと止まり、一帯に雨となって降り注ぐほど大量の血を吐いた。

長谷川は何を思うか、吐き出された血を全身に浴びながら、倒れゆくペスを呆然と仰ぐ。

 

「あれ、食えるんかな。唐揚げにしたいんだけど」

 

隣には、呑気にペスの調理法を考える黒瀬。

 

「……無茶苦茶やってくれやがってこのヤロー」

「俺は少しちょっかい出しただけだ。トドメ刺したんはあの天パ」

 

と黒瀬は眠そうに欠伸を一つ。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ペスがァァァ‼︎余の可愛いペスが噴水の如く喀血(かっけつ)しておるではないかァァ‼︎」

 

少し離れた場所では、バカ皇子が頭を抱え絶叫していた。

あんなペットとは呼べない化け物に薙ぎ飛ばされても、可愛いと言う限り本当に脳内花畑らしい。

皇子は無理難題を押し付けた自覚が無いようで、長谷川に詰め寄った。

 

「どう責任を取ってくれるか‼︎国際問題じゃこれは‼︎」

 

隣で喚く皇子をよそに、長谷川はタバコに火を付けふかす。

 

「オイ!聞いておるのか!」

 

動かなくなったペスから這い出てくる新八と銀時。

その二人にしれっと合流し、銀時に一発叩かれたうえで一喝される黒瀬。

なんだかアホらしくなってきた。

 

「今回の件は父上に報告させてもらうぞよ長谷川‼︎」

「……せーよ」

「な⁉︎」

「うるせーって言ってんだ‼︎アンコウ星人‼︎」

 

バカ皇子のワガママに我慢しきれなくなった長谷川は、皇子に渾身のアッパーを決める。

そこに三人がやって来て、銀時が嫌味ったらしく笑った。

 

「あ〜あ‼︎いいのかな〜、んな事して〜」

「知るかバカタレ。ここは侍の国だ。好き勝手させるかってんだ」

 

そう言って長谷川はタバコの煙を吐く。

 

「でも、天人取り締まれなくなりますね。間違いなくリストラっすよ」

「え?」

 

新八の正確な指摘に、長谷川の思考回路が停止する。

 

「皇子殴っといて何も無いと思ってたんか?」

「バカだな。一時のテンションに身を任せる奴は、身を滅ぼすんだよ」

 

再び回り出した思考で唯一思えたのはただただ後悔。

長谷川は帰って行く三人の背中を見て呟いた。

 

 

 

「どこで間違ったんだろ」

 

 

 

 




今回は挿絵あります。イメージカットです。
個人的な感想としては、ただただ悪党のツラだな、と思いました。


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