それでも彼は惰眠を貪る   作:夜無鷹

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今回は六、七割オリジナルなため、捻り出しました。
しばらく頭は使いたくねーなと思いました。


第六訓 週間雑誌は時々発売日が変わると買い忘れる

ある昼下がり。

万事屋の事務所兼客間のソファで、黒瀬は昼寝をしていた。

もぞもぞと幾度か寝返りを打ち、ゆっくりと瞼を開ける。

 

「あー………一時間か……寝た方だな……」

 

時計を見て呟いた。

昼に食パンと米を食い、依頼も無いしやる事もないため暇な時間を睡眠に費やすことにした。

眠気はまだ残っているがこれ以上眠れる気もしない。

やる事はないが、取り敢えず上体を起こす。

 

(……アイツら出掛けたんか)

 

あの家政婦ばりに働く新八(メガネ)銀時(アホ)がいない事に気が付いた。

欠伸をしてテーブルを見ると、文字の書かれたメモ用紙がリモコンを重石代わりにして置かれていた。

黒瀬はそのメモを手に取る。

 

(銀さんと買い物に行って来ます……これ新八が書いたやつか)

 

よく考えればあの天パが、書き置きなどするはずがない。

だからと言って、今更書き置き残して出掛けろとも思わないが。

 

(夕飯の買い出しだろうなァ……あ、そういやァ……)

 

昼前に銀時が、今日はジャンプの発売日だと言っていた。

あれの事だから忘れはしないだろうが、忘れて帰って来たら相当煩いだろう。

 

(………ね、念の為だ、念の為。お、俺だって続きが気にならん事もなくもないし……)

 

と一人で葛藤する。

黒瀬は自問自答を繰り返し、今度は数分間黙って項垂れると、懐から財布を取り出し中身を睨む。

 

「……後でアイツに請求するか」

 

理由は何であれ、黒瀬は万事屋を出た。

 

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

 

「……置いとらん」

 

コンビニの週刊誌コーナーを前に、黒瀬は呟いた。

あれから、かれこれ何軒かコンビニを回ったわけだが、どこにもジャンプが置かれていなかった。

いや、あるにはあったのだが入店した直後、レジに並ぶ購入者を見て週刊誌コーナーに行くと、それが最後の一冊だったということがあった。

それ以降ジャンプを見ておらず、どんだけジャンプに飢えてんだ、と思ったほど。

 

「他のやつで誤魔化せんかな……」

 

ジャンプ以外の週刊誌を見て思った。

しかし、目当てのもの以外を買う金は無い。

黒瀬は違う場所を探すべく、コンビニを出た。

 

「さて、どこ行くか……」

 

徒歩ではそう遠くへ行けない。

思い当たる場所が浮かばず、空を仰ぐ。

ぼーっとしていると、近くの路地裏から騒がしいほどの物音がしてきた。

覗いてみると、走り出そうとする原チャリを少女が片手で止めているという異様な光景があった。

 

(え、何これ何あれ。どういうこと?)

 

原チャリが巻き上げる砂埃で誰が乗っているのかは見えない。

逃げようとしながらも少女とは何かしらの会話をしているようで、内容までは聞き取れないが声だけは聞こえてきた。

 

(そう簡単に首突っ込まん方がいいよな……)

 

触らぬ神になんとやら。

喧嘩に発展する雰囲気でもないため、黒瀬はその場を離れる。

だが間も無くして、路地裏から原チャリに乗っていたであろう二人と少女が飛び出し、黒瀬とは反対の方向へ走り去ると、そのあとを複数の男達が追い掛けていった。

黒瀬は逃げる三人の後ろ姿を見て首を傾げる。

三人のうち二人には見覚えがあったのだ。

 

「……銀時と新八……?」

 

買い出しの途中で急な依頼でも受けたのだろうか、と疑問に思いつつ、黒瀬はジャンプ探しに戻った。

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

「はあ……やっと買えた……」

 

更に何軒か回り、ようやく見つけた。

あまりにも見つからなさ過ぎて、本当にジャンプに飢えているんだな、と確信を持ったほどである。

それにしても、ただでさえ生活がカツカツだと言うのに、よくもまあ毎週買えたなと思う。

度々(たびたび)財布の中身が減っていた気もするが……。

 

「……帰るか」

 

とりあえず目的は果たした。

これ以上出歩く気は無いし、用事もない。

というか、動いたせいで眠い。

黒瀬は欠伸をすると、買ったジャンプを懐に入れ万事屋へと歩き出した、が。

 

「それにしてもアイツ……本当に帰るなんて薄情な奴だ」

「江戸の人、皆そうアル。人に無関心、それ利口な生き方ネ」

 

路地裏のゴミ袋の山から出てきた二人。

声に反応してしまい、黒瀬は路地へと顔を向けてしまう。

見覚えのある人物と目が合う。

 

「あ、黒瀬さん!ちょうど良いところに!」

「いや、良くないんだけど」

 

新八と、その隣には見知らぬ少女。

即決で拒否ルートに入ろうとする黒瀬だったが、新八の目は希望を見出したとでも言うように爛々としていた。

 

「今、困ったことになってまして……」

「ねぇ人の話聞いてる?良くねェ言っとるんだけど」

 

何故か強引にでも巻き込もうとする新八。

黒瀬がいくら「嫌だ」と言っても右から左へ聞き流される。

まあ大体の事情は、見ていたからわかる。

 

「実は斯く斯く然々で……」

「良くねェっつってんだろうが聞けやゴラァ」

 

どうしたって聞こうとしない新八に、黒瀬はようやく諦める。

最初見た時と違って銀時がいない事を考えると、逃げられたようだ。

新八曰く、買い出しの帰りに余所見をした銀時が少女を轢いたらしく、何やかんやでヤクザに追われる事になった。

 

「私……遠い星からはるばる出稼ぎきたヨ。そんな時、奴ら誘われた。奴らの喧嘩引き受けた」

「はあ………それで?」

 

黒瀬は聞くだけ聞いてみるか、と先を促す。

俯きがちに少女は追われることになった理由を話し始めた。

 

「最近仕事内容エスカレータ。私もう嫌だヨ。故郷(くに)帰りたい」

「そんなん言われても分からん。俺にどーしろと?ヤクザとっちめろとでも言うんか?」

「逃げるのを手伝って欲しいんです。銀さん帰っちゃったし……」

 

やはり、自分達は逃げられず、銀時には逃げられたらしい。

少女はもともと他のヤクザを追い払う用心棒の役割を与えられていたようだが、雇った側が過剰な制裁を要求するようになった、という所だろうか。

 

故郷(くに)なァ……地球(ここ)の生まれじゃねェんなら、行き先はターミナルか?こっから徒歩で行くんは時間がかかる。まず、電車乗って行った方がいいかも知れん。駅着くまでに奴らに見つからんかったら、帰れるかもな」

「黒瀬さん……!」

 

話を聞いたからには、ある程度付き合ってやろうと思った。

気が変わったのだ。

 

「電車に乗るまでは一緒に行ってやる。だが、それ以降は知らん」

「お前、根暗そーな見た目なのに、おせっかい焼きアルな」

「誰が根暗だ。行ってやらんぞ」

 

澄んだ目をしていながら、なかなかどうして一言多い少女なのだろう。

しかし、行くと言ったからには責任を持つ。

ここで投げ出すのは、些か褒められた行為じゃない。

 

「ったく……人の親切心を何だと思ってんだ」

 

二人がゴミ袋の山から出てきたということは、一度やり過ごしたということ。追っ手が過ぎるのを確認したのだろう。

追っ手も追っ手で町中に配さないところを見ると、それを出来るだけの人数がいないのだろう。

表を歩いて行ったとして、すぐ見つかる事にはならないはずだ。

 

「それにしても偶然会うなんて……黒瀬さん、何してたんですか?」

「いや会ったと言うより……まあいい。暇だったから、ジャンプ買いに来とっただけだ」

 

と、黒瀬は眠そうに欠伸をした。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

追っ手から隠れながら、どうにか駅に着いた三人。

予想通り追っ手の人数は多くなく、逃げている最中見かけたのは十人にも満たなかった。

そのおかげで、駅のホームまで来ることができた。

顔を覚えられている新八と少女は青いポリバケツの中に隠れており、黒瀬は閉めた(ふた)の上に座りジャンプを読んでいた。

電車を待っているとすし詰め状態の新八が、(おもむろ)に口を開いた。

 

「……あの人、結局来ませんでしたね。情ってものが無いのかな……」

「そう言ってやんな。あれはただの阿呆。阿呆は器用に出来んモンさ」

「お前はアホと言うより馬鹿アル。近年まれに見る馬鹿ネ」

「んだとこのクソガキ」

 

親切心をものともしない少女の言葉に軽口を返しつつ、黒瀬はジャンプのページをめくる。

 

「でも私、そーいう馬鹿の方が好きヨ。眼鏡、お前は嫌いだけどな」

「あれ、今標準語で辛辣な言葉が聞こえたよーな……」

 

少女が毒を吐いた直後、電車の到着を報せるアナウンスが流れる。

 

「……そろそろか。ほれ、電車来るぞ」

 

バケツから降りてジャンプを懐にしまい、蓋を開ける。

 

「私、メガネ男嫌いなんだよね」

「オイぃぃ!キャラ変わってんぞ‼︎」

「それより、電車来た言っとるんだけど」

 

二人に電車の到着を告げる黒瀬だが、その言葉は電車の停止音に掻き消された。

何度も声を掛けてみるも、メガネがどうのこうのと聞く耳を持っていないようで。

 

「……はあ……もう知らん」

 

あとは自分達でどうにかしてくれ、そう呆れ半分でその場から去る。

しかし(しばら)くして、騒がしくなっている事に気がつく。

振り返ると、十数人いるヤクザのうち抜きん出たパンチパーマのヤクザが、二人の入っているバケツを線路へ蹴り落とした。

 

「あー……どーしよアレ」

 

次の電車が迫っていた。

一歩を踏み出した時、電車と並走し抜き去る原チャリが一台。

新八に愚痴られていた例の白髪天パが、木刀を構え叫んでいた。

 

「ったく、手間かけさせんじゃねーよ‼︎歯ァ食いしばれっ‼︎」

 

叩き上げられたバケツ。

それは駅の屋根を突き破り、去ろうとするヤクザ達の背後に落ちた。

 

「なっ……なんだァ⁉︎」

「何が起きたァ‼︎」

 

立ち昇る砂埃から歩み出るチャイナ少女。

仕込み武器である番傘を握り、決意の宿った目でパンチパーマリーダーを見据えていた。

 

「私、戦うの好き。それ、夜兎の本能………でも私、これからはその夜兎の血と戦いたいネ。変わるため、戦うアル」

 

少女に怖気付き冷や汗を流すパンチパーマリーダー。

 

「このボケがァ‼︎野郎どもやっちまいな‼︎………って、アレ?」

 

少女を返り討ちにするよう指示を飛ばしたが、前に出る手下が一人もいない。

左右を確認し、後ろを見る。

 

「もう付き合ってらんねェ‼︎一人でやってくれ‼︎」

「命がいくつあっても足り……」

「じゃあ死なん程度に、サンドバッグになってくれん?」

 

逃げる手下達を、黒瀬がストレス発散と言わんばかりに殴り倒していた。

 

「あっ……お前ら!それでもパンチ……」

 

言い終わる前にパンチパーマリーダーは、少女の一撃によって情け無い叫びを上げ撃沈した。

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 

少女とヤクザの一件が終わり、結局資金が無く帰れないと言った少女は万事屋で働く事になった。

少々暴力的なチャイナ娘だが、賑やかになるのは間違いない。

その帰り、並んで歩き話す新八と少女の数歩後ろで、銀時と黒瀬は二人の背中を眺めていた。

 

「……お前、さっきジャンプ買うついでとか言ってたが、持っとらんだろ」

「あ?違ェよ。あれだ、この後買う予定だったんだよ。売店に行く予定だったんだよ」

 

と、銀時は小指で耳を掻く。

 

「じゃあそのジャンプ代寄越せ。読んでみたが、どうにもつまらん。くれてやる」

「なんだァ?ツンデレかァ?今時流行(はや)んねーよ、んなモン」

「違ェよクソ天パ。借金取りだ」

 

何が本心か。

器用とは言えない会話を交わし、一人は要求された金を、一人は漫画雑誌を取り出し、ただ前を歩く二人の背中を見たまま互いに交換するのだった。

 




週刊の漫画雑誌は買ったことありませんが、月刊とか季刊なら買ったことがあります。
面倒になって長続きしなかったけど。
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