所々端折ってるので。
……つかホント今更だな。
その男、銀色の髪に血を浴び、戦場を駆る姿はまさしく———夜叉。
そしてもう一人。
白刃の閃きに、天人の首が落ちれど欠伸一つ。首狩り微睡み、振るわれる刀身には———龍の刻印。
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「天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられた武神……坂田銀時。同様に、終始微睡みながらも幾千もの天人の首を斬り落とし、敵味方から《首狩り》などと恐れられた狂人……黒瀬景明。我等と共に、再び天人と戦おうではないか」
普段のだらけきった生活を見てきた新八は、戸惑いを隠せないでいた。
攘夷戦争については、ほんの知識程度に知っている。
しかし、誰が参加したか、生き残りがいるのかまでは教えられていなかっただけに、こうも身近な場所に経験者がいれば驚くのも無理はない。
「アンタら……攘夷戦争に参加してたんですか」
新八の問いに桂が口を開く。
「戦が終わると共に姿を消したがな。お前達の考える事は、昔からよく分からん」
桂の言葉に、銀時は面倒そうに頭を掻く。
「俺ァ派手な喧嘩は好きだが、テロだの何だの陰気くせーのは嫌いなの」
「つか俺、散々言われとったんだな。狂人って……なんか心外」
話そっちのけで、なぜかショックを受ける黒瀬。
噂は本人の知らぬ間に尾ひれが付くもの。この場合、付いたのは血塗れの尾ひれだが。
しかし、黒瀬のショックなど歯牙にも掛けず、話は勝手に進んでいく。
「俺達の戦はもう終わったんだよ。それをいつまでもネチネチネチネチ………」
「まだ、終わってなどいない。貴様らの中にとてまだ残っていよう………
怨み、怨念。そんなもの、戦場だろうとそれ以外の場所だろうと、人がいれば自然と湧く。
潰しても潰しても際限の無いもの一つ一つに気移りし、本当に見たいものを見失うくらいなら、いっそのこと最初からなにも抱えなければ良い。
そう考えられたなら、忘れられないなんて事には………。
「天人を掃討し、この腐った国を立て直す。我等の次なる標的は、ターミナル。天人を召喚する忌まわしき塔を破壊し、奴らを江戸から殲滅する。だが、容易には落ちまい。お前達の力がいる」
視線を逸らす銀時。対し、黒瀬は顔を顰めていた。
桂はなおも言葉を続ける。逃げ道はない、と。
「既に我等に加担したお前達に、断る道はないぞ。テロリストとして処断されたくなくば俺と来い。元々お前達の居場所はここだったはずだ」
「銀さん、黒瀬さん………」
新八と神楽が不安そうに二人を見つめる。
その時、襖が乱暴に蹴飛ばされ、ぞろぞろと帯刀した黒服の集団が押し入ってくる。
「御用改めである‼︎神妙にしろテロリストども‼︎」
「しっ……真選組だァっ‼︎」
「イカン逃げろォ‼︎」
桂の叫びを皮切りに、黒服の集団と桂一派、万事屋組の追いかけっこが始まる。
黒服はテロリストを討とうと抜刀し、躍起になって後を追いかけ、桂一派と万事屋組は捕まるまいと必至に足を動かす。
「なななな何なんですかあの人ら⁉︎」
走りながら新八は、物騒な連中について問う。
質問に答えたのは元凶たる桂。
「武装警察『真選組』。反乱分子を即時処分する、対テロ用特殊部隊だ」
武装警察。確かに武装しているが、絵面的に物騒警察でもいける。
対テロなら必要な素質なのかもしれないが、一般人には少々キツイものがある。
後方を走っていた桂は、前を走る銀時と黒瀬に並んだ。
「厄介なのにつかまったな。どうしますボス?」
「だーれがボスだ‼︎お前が一番厄介なんだよ‼︎」
「ロン毛爆弾魔が捕まればいいんじゃねェんか⁉︎つか捕まれ!お願い!」
今更どうしたって共犯者として御用になるのだろうから、誰が捕まろうが同じ事。
しかし、首謀者を差し出せばあるいは………と。
そう逡巡したとき、桂と銀時の間に神楽が割って入って来た。
「ヅラ、ボスなら私に任せるヨロシ。善行でも悪行でも、やるからには大将やるのが私のモットーよ」
「オメーは黙ってろ‼︎何その戦国大名みてーなモットー‼︎」
男気があるのか、軽はずみの言動なのか真意はわからないが、案外冗談でもなさそうで。
廊下の突き当たりに差し掛かった瞬間、
「オイ」
呼び掛けられた銀時が振り向く。
眼前には刀の切っ先。
「ぬを‼︎」
咄嗟に体を倒し、刺突を避ける。
「逃げるこたァねーだろ。折角の喧嘩だ楽しもうや」
瞳孔が開き気味な凶相の男、真選組にて鬼の副長と呼ばれている土方十四郎だ。
「銀時ィ」
続く通路の先を走るテロリスト達に紛れた黒瀬が、足を止めずゆっくりと振り向く。
その表情を見た瞬間、銀時の額に青筋が浮かんだ。
何せ捉えた黒瀬の表情というのが、不安でも安堵でも悲哀でもなく………嘲笑だったからだ。
「敵の目を引き付けたお前の勇姿……忘れん。多分な」
「てんめっ‼︎待てゴルァ‼︎」
「土方さん、危ないですぜ」
横から違う声が入った直後、バズーカの弾が飛び破裂する。
爆発で煙が立ち込め、その合間を縫うようにバズーカを持った黒服青年が歩く。
真選組一番隊隊長、沖田総悟。一応、土方の部下ではあるのだが、何かと毎日上司の土方を抹殺しようと目論んでいる。
「生きてやすか土方さん」
「バカヤロー!おっ
「チッ、しくじったか……」
「しくじったって何だ‼︎オイッ!こっち見ろオイッ‼︎」
さらっと殺意を漏らした沖田に土方が突っ掛かっている隙に、別の部屋へ逃げ込んだ桂一派と万事屋。
少し遅れて銀時が合流し、真選組が部屋に入ってこれないよう外れた襖なり机なりで出入り口をふさぐ。
「髪増えてない?」
新八が呟き、神楽が銀時の髪をいじる。
バズーカによる爆発で天然パーマがアフロヘアーになっていた。
襖の向こうは既に真選組によって包囲されており、立てこもりの際よく使われる言葉を吐いている。
出てこいだの何だの言われたところで、素直に出て行くほど諦めが良い方ではない。
桂は懐から球体の
「?そりゃ何の真似だ」
気付いた銀時が尋ねる。
桂は球体の機械を見つめ、名残惜しそうに言う。
「時限爆弾だ。ターミナル爆破の為に用意していたんだが、仕方あるまい。コイツを奴等におみまいする………その隙に逃げろ」
何かが癇に障ったらしく、銀時が桂の胸倉に掴み掛かる。
その拍子に、爆弾が桂の手から落ちる。
「貴様ァ!桂さんに何をするかァァ‼︎」
「うるせェ黙れ喚くな。寝れん」
睨みを効かせる黒瀬に気圧され、飛び掛からんばかりだった志士達は押し黙る。
静かになったところで黒瀬は瞼を閉じる。
「桂ァ、もう
至極真面目な話をする銀時に、しかし桂は眉間に
「薄汚れたのは貴様だ。時代が変わると共に変節しおって………武士たるもの、己の信じた一念を貫き通すものだ」
「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ。そんなもんの為にまた大事な仲間失うつもりか」
今となってはもう何年も前の話。しかし、これから先もあり得る話。
拭い切れない後悔を抱えて、なおも重ねようとする。
繰り返してなるものか。
「俺ァもう、そんなの御免だ。どうせ命張るなら、俺は俺の武士道を貫く。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもん護る」
ふざけた格好ながら、その言動には一本筋の通ったものがあった。
一瞬で全てを照らすとまではいかないがそれでも鈍く鋭く、闇夜の中で周囲を照らす
桂は、何も言わなかった。
「銀ちゃん」
急に神楽が横槍を入れてくる。
全員がそちらへ視線を向けると。
「コレ……弄くってたら、スイッチ押しちゃったヨ」
その手には、表示された数字が徐々に減って行く球体の爆弾。
思考回路が停止した。
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爆弾を持って駆け出した銀時、新八、神楽の三人。
起動済みということもあって、対テロ特殊部隊である真選組も脇目を振らず逃げ出した。
桂は三人と真選組がどんちゃん騒ぎをしている合間に、屋上への階段を上がる。
「で、話ってなんだ」
外へ出た時、桂へ声が掛かった。
志士達は一足先にと、立ち止まる桂の横をすり抜け手配していた飛空挺に向かう。
桂と声の主を遮っていた人の壁が消え現れたのは、黒瀬。
「お前に、渡したい物があったのさ」
「あ?さっきみてェな爆弾じゃなかろうなァ」
心底嫌そうに顔を顰める。
二度あることは三度あるとは言うが、爆弾のプレゼントはもう懲り懲りだ。
「俺が持っていた爆弾は、先ほどのターミナル爆破用で最後だ。また用意はするがな」
「桂さん」
飛空挺の近くにいた志士の一人が、大事そうに何かを抱え桂の側に駆け寄る。
桂は濃い紫の布に包まれたソレを受け取り、留め具代わりの紐を解き布をめくる。
刀だ。
「なんだ?まだ勧誘しようってか?行かん言っただろうが」
「違う。これは………元々お前の物だ」
桂は、鞘から少しばかりその白刃を覗かせる。
十センチから二十センチほど姿を現わすその刀身には、ある紋様が。
「………なんでお前が持っとるんだ」
「見付けたのさ闇市でな。やはり名刀は値が張る。攘夷戦争で名を馳せた猛者の所持品ともなれば、尚更な」
龍紋の刻まれた刀を布に包み直し、差し出す。
「大事にしていただろう。なぜ手放した。龍紋刀……これはお前の……」
「要らん」
突き放すように冷たく、ただただ冷たく。
「なぜ手放したか?簡単だ。生活費の為だ。それに、廃刀令の御時世にそんなもん持って居られん。表でも裏でも、名刀は高く売れる。手っ取り早く金稼ぐのに、売らん手はねェだろ」
そう言った黒瀬の表情は何処と無く複雑で、言葉では言い表しがたい色を浮かべていた。
日頃蓄積された眠気からくるものか、または、もっと別のものか。
「……その言葉が本心かは、俺も測りかねる。しかし、未練の一つくらいは持っていよう。この先何があるとも限らんのだ。対抗出来る手段の一つくらい持っていたとて………」
「要らねェつってんだろうが」
髪の隙間から覗く紫眼が鋭さを増す。
意思の強さというよりその紫に宿るのは、そうならざるを得ない何かによる意地。
何を言ったって聞かないだろう。そう思った桂は溜息をつき、差し出した刀を下ろす。
「……今は、預かっておく。黒瀬、尋ねておきたい事がある」
「んだよ今度は」
「お前は今、ちゃんと眠れているのか」
少々の沈黙。
黒瀬は、バツが悪そうに頭を掻く。
「寝れん。騒がしくて騒がしくて、見ての通りクマが消えん。だが」
爆音が響く。
桂と黒瀬はそちらへ目を向けた。
「悪かねェ」
ニヤリと笑った。
視線の先には、向かいのビルに垂れ下がる幕にしがみ付く銀時の姿。
彼の言う美しい生き方というものには程遠い姿ではあるが、絶え間ない喧騒の中で一瞬でも笑える時間があるなら、一瞬でも後悔を忘れて腹抱えて笑えるなら、そっちの方が断然いい。
「爆睡は出来んが、アイツらの声聞きながらうたた寝すんのが、どうにもやめられん。アイツらのアホ面見ながら惰眠貪ってんのが、今は丁度いい」
「………そうか。お前は様々な呼ばれ方をされていたが、今は《斬首龍》でも《首狩り》でもないのだな」
変わるものがあれば、変わらないものもある。
「仲間の喧騒を子守唄にして眠るのは変わらんか。お前は、昔も今も《惰眠龍》であるらしい」
「あー……そんな呼び名もあったな……」
桂は踵を返し、志士達の待つ飛空挺に向かう。
「………昔の友人が変わらずにいるというのも、悪くないものだな……」
去り際に呟く桂。
飛空挺に乗り込む直前にちらっと振り向けば、黒瀬が垂れ幕にしがみ付く銀時を指差して笑っていた。
そんな馬鹿げた光景に桂は我慢できず、フッと笑ってしまうのだった。