人間達に与えられた毒入りのエサを食むサンド達の命運は潰える。
それは誰もが理解していた。当事者であるサンド以外の誰もが。
毒入りのエサを与えるワカバタウンの行政職員も罪悪感は感じているものの、
だからといってサンド達を救える力や今の職を失っても助けるほどの意志は持っていなかった。
エサに含まれた毒は、当初深い眠りに誘い、その後に生命活動を停止させる。
職員達は皆、サンド達を直視できてはいなかった。出来るはずも無かった。
そんな職員達の後ろから深みのある声がした。
「悪とは、何かな?」
職員達が振り向くと、そこには高いと一目でわかるスーツを着た男が腕を組んでいた。
ワカバタウンの男だって、その顔くらいは知っている。
連日連夜放送されている現在失踪中の元ジムリーダーにして、ロケット団のボス――――サカキだった。
「悪とは弱者をいたぶる強者? いや、違う。
悪とは誰も救えない弱者? いや、違う。
悪とは―――――――――――この私だ」
ある一人の少年が巻き起こした世界の改革が広まって行けば、有益でさえあれば外来種として排除されることは無くなるであろう異国のサンド達。
しかし、まだこのような政府というシステムによって定められた
だからサカキは
ワカバタウンの職員達を己のポケモンで襲い気絶させると、サンド達を回収した。
元はこのような悲劇を救うための力としてロケット団は開設された。
世界を革命する手段としての力を制御できなくなり、しかし力を求め続けたために今のサカキが、今のロケット団の残党がいる。
だが、サカキは本物の革命家に出会った。
暗い世界で生きていた人々には眩しすぎる最善の象徴。耐えられない者を焼き焦がす太陽のような変革の象徴。
ポケモンリーグでチャンピオンになった彼に負けて、カントーを去り、サカキは今此処にいる。
強すぎる力の都合に耐えられない日陰者を救うために、強者よりも更に強い強者になると決意したあの日。
病弱な妻と、まだ目も開いていなかった子を置いて、この世を縛る重力さえも力で振り抜いて飛び立つロケットのような組織を目指して命名したあの日。
サカキはその日のことを思い出していた。
「ああ、そうだ。今日はクリスマスイブではないか
息子に与える最初のプレゼントは、これにしよう」
回収されたサンドは一匹を残して全滅。
そしてその一匹もポケモンでは無く人間が開発した毒の後遺症で目が開かなくなっていた。
自然界では生存できず、人間界では貰い手の付かない弱者。
そのサンドを、サカキは息子に託すことに決めた。
サカキはそのサンドを連れて、夜遅くある民家を訪ねた。
「はい、どなたでしょ………あなた」
「ああ、久し振りだ。随分と迷惑をかけた」
赤い髪の女性――――サカキの妻の家だった。
「…残念だが、泊まっていくことも出来そうには無い。ここの警察もそれなりには優秀だ。
息子に、シルバーにこのポケモンを渡して貰いたい。…クリスマスプレゼントだ」
「あなたが渡すべきだと思うわ」
「今更父親面をする気はないさ」
「……駄目かしら。私はロケット団総帥の妻として生きていく覚悟は出来ているわ」
「知っていたさ。だから置いて行かざるを得なかった。
ある少年に家族を大切にしろと言われた。だが、こればかりは今までのやり方がベストだと思っている」
「また、置いていくのね」
「ああ、置いていく。悪い男だからな、私は」
「ええ、そして誰よりも優しい人よ、あなたは」
二人が抱き合っていると、家の奥の方から何やら足音が聞こえてきた。
彼らの息子が起きてきたのだろう。
「では、さよならだ」
「ええ、さようなら」
サカキとその妻は、その後生きて再び会うことは無かった。
少なくとも彼女の息子は両親が会ったのを見たことは無かったという。
しかし、サカキの妻の死後、家宅から何通もの手紙が見つかった。