ゼロの使い魔〈Fate of ZERO〉   作:大端ツクモ

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#0「プロローグ」

 

 

 ────────かつて、人類史上最大規模の戦いがあった。

 

 

 それは、未来を取り戻すための戦い(ストーリー)

 魔術王ソロモンを名乗る者による人理焼却事件。それをたまたま生き残った新米マスターの少年と新米サーヴァントの少女。人理継続保障機関「カルデア」による魔術世界最高位の使命、聖杯探索(グランドオーダー)。7つの特異点を英霊たちと駆け抜け、迎えた魔術王との対決。その末に、少年少女は未来を掴んだ。人類を守る戦いに、己の生存を賭けた戦いに、勝ち残ったのだ。

 

 そんな”正義の味方”を体現したかのような少年に、”正義の味方”に憧れた男は付き従っていた。その様は「主人(マスター)に仕える従者(サーヴァント)」というより「未熟な後輩を指導する先輩」だったのだがそれはさておいて。

 抑止の守護者として長らく”掃除”という名の殺戮をしていた男にとって、少年と共に全人類を救う戦いはまさに聖戦だった。殺戮に依らない真っ当な救世も。魔術師らしくないマスターと暮らした日々も。本来ならあり得ない英霊たちとの共闘も。何もかもが眩い”記録”だった。いつかの尊い朝焼けの”記録”────答えを得たあの日のように。

 だから男は役目を終えた時、未練なくマスターの下を去った。私にはこの”記録”があればいい、人が歩むべき未来に亡霊は不要だろうと言って。

 

 

 そして再び抑止の守護者として業務をこなす日々が始まる────はずだった。

 

 

 座にてアラヤからの命令を受けた”本体”は、指定された時空に直接召喚され”掃除”を行う。カルデアから分霊が帰還した時も、休む間もなく命令が下された。それ自体は至って普通のことだ。世界の危機なんてものは、近代以降じゃ日常茶飯事と化している。

 異変は、”本体”が重い腰を上げようとした時に起きた。唐突にアラヤによる召喚が強制キャンセルされ、”本体”が座に取り残されたのだ。驚く間もなく脳内に鳴り響く警告。それは”領域外”からの不正アクセスおよびクラッキングを焦ったように伝えている。

 

 ────それはあり得ないことだった。

 座とは、ありとあらゆる時間軸から独立した、”星”が管轄する場だ。そのような場所に手を出すなど、かの魔術王ですらついぞ無かったというのに。しかも犯人は”領域外”の存在だと言う。繋がってはならない外宇宙の存在(かみ)は、基本的に興味を持ったものや狂気を垣間見たものにしか干渉しない。そしてこの”本体”にそういった縁はない。では一体何が降臨しようとしているのか────

 困惑で動きが止まっている間にも侵入者(クラッカー)によるクラッキングは進行していく。”本体”の心象世界を模した座のテクスチャは無造作に剥がされ、代わりに未知のテクスチャが上書きされる。無限の剣が刺さる赤錆びた荒野は、漂白したかのような(・・・・・・・・・)白い大地に。アラヤの歯車が回る赤い空は、雲ひとつない青空に。すわ”本体”削除かと身構えるが、それは起こらなかった。アラヤが結界(プロテクト)を張ったのかもしれない。しかし突破も時間の問題のように思われた。でなければ、そもそも侵入などされまい。

 

 調査のため動くべきかと”本体”が考えたその時────突如として異物は顕れた。

 一瞬の間に”本体”の目の前へと顕れたそれは、一見すると光り輝く鏡のようでいて、その実表面には何も映していない。高さ約210センチ、幅約100センチとかなりの大きさだが、不思議と質量は感じさせない。

 微弱に発している魔力と召喚式から、この鏡のようなものが召喚ゲートであると察せられた。しかしその式はアラヤによる召喚とも、サーヴァントの召喚とも異なっている。また、その強制力は弱く、抗おうと思えば容易かった。

 しかし、だ。状況からして召喚先はおそらく”領域外”。向こうが意図的に開けたであろうゲートは、入って下さいと言わんばかり。調査先としてうってつけだった。例え罠だとしても、下っ端の守護者が一人消えたところで世界が困ることなど無い。

 そうとわかれば行動は早い。

 

 ”本体”は愛用の双剣を手にし、輝く門をくぐった。

 

 

 ────────その先が”領域外”とも異なる”異世界”とは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、『サモン・サーヴァント』だけは自信があるの!」

 

 そう啖呵を切ってしまったことを、ルイズは今になって後悔している。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは落ちこぼれだ。貴族の中でも一等の名家の生まれでありながら、その証である魔法の才能がさっぱり無い。無い才能を補おうと人一倍努力をしていたが、それでもダメ。どれほど知識を身に着けようと、系統魔法もコモン・マジックも、唱えれば全てが爆発に変わる。故についたあだ名が、魔法の成功率『ゼロ』のルイズ……それが彼女だった。

 ────なのに。

 

「明日の召喚の儀が見ものねぇ。あなたがどんな使い魔を召喚してくれるのやら」

 

 昨日の夜、不倶戴天の敵キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの安い挑発に乗ってしまった。「どうせ召喚なんてできないでしょ」という言外の意味にカチンときて、つい強く言い返してしまったのだ。

 

(あんなこと言うんじゃなかった……)

 

 キュルケは憎きツェルプストー家の女だ。そしてツェルプストー家らしく『火』の系統を得意とする、誰からも認められた優秀なメイジ……そこまで考えて、ルイズはイライラした。ほんの少しでも「勝ち目ないかも」と思ってしまった自分に。

 ルイズがそうこう考えている間にも、使い魔召喚のための広間では教師が召喚の儀の説明を進めていく。「使い魔の召喚が今後の進路に関係する」やら「今日は神聖な出会いの日になる」やら云々。

 もうすぐ召喚の儀は始まってしまう。クラスメイトたちは己が召喚するであろう使い魔について話しながら胸を高鳴らせているが、ルイズは違う意味でドキドキしていた。緊張のせいで杖を握りしめる指先は白くなり、額からは少し冷や汗を流している。そんな様子を見てか、キュルケはニヤニヤしながら声をかけてきた。

 

「楽しみだわぁ。あなたがどんなすごい使い魔を喚び出すか」

「……ほっといて」

 

 空はまさに召喚日和というほど晴れ渡っているのに、ルイズの心はどこまでも曇天だった。

 

 

 召喚の儀はさくさくと淀みなく進んだ。そしてキュルケが召喚を終えたのち、ついにルイズの番が回ってきた。キュルケより先に召喚して比べられるのが嫌だから、その召喚の少し後になるよう待っていたというのに。よりによってキュルケの直後に順番が来るとは。しかし他のクラスメイトは全員使い魔の召喚を終えたらしく、まだ召喚の儀を行っていないのはルイズだけだった。しょうがないのでルイズは渋々と前に出る。

 

「最後はゼロのルイズかよ」

「何喚び出すんだ?」

「喚び出せっこないでしょ。また爆発しておしまいよ」

 

 周囲のクラスメイトはくすくすと嗤いながらルイズの召喚を見物している。負けん気が強いルイズはキッと大きな目を釣り上がらせて睨むが、すぐにその覇気は弱まる。本当は自信なんてない。けれどキュルケがすぐ側で見ている以上、弱気には絶対なりたくない。そんな心の狭間でふらつきながらもルイズは立っていた。

 

「大見得切った以上、この子よりすごいのを召喚できるのよねぇ? ルイズ」

 

 先程に召喚したばかりのサラマンダーを見せつけるように撫でながら、挑発的にキュルケは微笑む。

 

「当然でしょ!」

 

 負けじと応戦するルイズだが、心中では始祖に祈っていた。

 ────ああ、お願いします。サラマンダーよりすごい使い魔なんて贅沢言いません。ネズミでも小鳥でも、いっそ大嫌いなカエルでもいいから、普通に使い魔を召喚できますように────

 そして深呼吸をし、杖を持つ手の震えを鎮める。今はまだ何もいない広間を見据え、ルイズは思いのままに呪文を唱えた。言の葉一つひとつにありったけの精神力を込めて。

 

「……宇宙の果てのどこかにいる、わたしの(しもべ)よ。神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい────!」

 

 詠唱完了と共に頭上で構えていた杖を振り下ろす────が。

 

「やっぱこうなったか!」

「全く。これだから『ゼロ』のルイズは!」

 

 ゲホゲホと咳き込む声と罵声が周囲から浴びせられる。ルイズが詠唱を終えた途端、いつも通り杖の先で爆発が起こり、砂塵砂礫その他諸々が飛び散ったからだった。しかも今回は込めた精神力が多かった分、爆発の規模も大きかった。真正面からモロに食らってしまったルイズは軽く吹っ飛び、お尻から着地してしまった。服も所々破けており、スカートなどはかなり際どい位置まで裂けている。

 

「い、ったーい……これ、また修繕に出さないといけないじゃない……って、それどころじゃなかった! 使い魔は!?」

 

 打ち付けた衝撃で腰が抜けてしまったのか、ルイズは座り込んだままキョロキョロと周囲を見回す。爆発による土煙はまだ濛々(もうもう)と舞い上がっており、広間の視界は悪い。すると誰かが『ウィンド』を使ってくれたのか、そよ風によって塵のヴェールは取り払われていく。

 

 そして視界が晴れたそこには────────

 

 

 

 

 

 ────────(はがね)のような男が、立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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