転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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転生者達の頑張りと生き様。そして、その頑張りと生き様を見た人々が「アイツにできたなら俺だって!」と頑張った結果の話


とある唯一神の手記

○月○日

 人の子達の真似をして日記を今日から付けてみようと思う。

 と言っても、毎日ではなく、心に残った事のみを書き残そうと思う。

 

○月×日

 何故か創生神に認定されていた。

 余りにも訳が分からなかったので、私と同じ様に創生神認定をされた神々に相談をしたところ「人間には良く有る事」と言われてしまった。

 本当に意味が分からない。

 

○月△日

 あの忌まわしき邪竜。アルバトリオンが暴れ周り、人に害を成していると報告受け、全神話の神々に討伐の協力要請を出したが「人間が自力で討伐するからへーきへーき」と返されてしまった。

 

○月□日

 神々の協力を得られないまま、アルバトリオンと対峙する事になった。

 可能なら、闘神か武神等の戦事に慣れた神に任せたかったが、私の神話では私以外の神が居ないので、私とメタトロンと熾天使達だけで挑むはめになってしまった。

 思い出したくもない激戦の末、何とか追い払う事に成功する。

 それにしても、アレと同等ないしそれ以上と云われている――人の子達が名付けたミラ三兄弟が存在すると思うと気が滅入りそうだ。

 

○月○○日

 人の子は、己の意思と覚悟を持って、自ら奇跡を成せる存在である事を知った。

 忌まわしき黒龍・アルバトリオンを、神の血を引かぬ。何の才も特殊な力も持たない人の子が討ち滅ぼしたのだ。人の子の意思と覚悟は死や消滅すら乗り越える力を発揮すると初めて知った。

 ただ、その人の子はアルバトリオンを討伐した後、亡くなってしまった。その魂は消滅してしまった。

 恐らく、人の身の限界を幾度となく越えた反動なのだろう。

 せめてその名を歴史に刻もうと思い、彼の友人であるコカビエルに彼の名を聞いたが「自分は異分子であり、名を残す訳にはいかない」と誰にも名を言わなかったと言われた時は、アレだけの偉業を成し遂げながらも名を残してあげる事ができなく辛かった。

 何より悲しく辛いのは、自分の事を異分子と思い込んだまま、彼の魂が消滅してしまった事だ。

その事を知ってさえいれば、彼を抱きしめ「貴方は異分子ではありません。この世界に生きる人の子なのです」と言ってあげられた。彼の持つ苦しみ悲しみその苦悩を、僅でも癒す事ができただろうに。私は神失格だ。

 ただの皮の鎧・皮の盾・青銅の剣が、人々の感謝の祈りと想いから聖なる武具になる程に、多くを救い守った彼の偉業を後世に伝えよう。彼は確かに存在し懸命に生きたのだと。

 

○月△×日

 私は頑張っている。全神話の神々の中でも私以上に、人の子の為に頑張っている神は居ないと断言できる程に。

 だと云うのに何故、かの大災害たる大洪水を私の起こした事に成っているのだろうか?

 確かに私の権能を使えばあの大洪水を起こす事はできる。しかし、それは全神話の神々に対する宣戦布告でしかない。

 信徒達は、私をそんな野蛮な神だと思っているのだろうか? もしそうならこれ程ショックな事はない。

 そして、ノア。お前は何故、方舟に自分と家族以外の人間を乗せなかった? 私が天使達を引き連れ救助に向かわなければ沢山の人々が死んでいた。

 お前は海よりも深く反省すべきだ。

 

×月○日

 時折、人の子のする事が理解できない。

 何故、わざわざ異次元の邪神達をこの世界に招いたのか......私や北欧神話の良心であるロキ神を始めとした神々と共に追い返さなければ、とんでもない事になっていた。

 しかし、他の神々のあの無責任さはどうにかならないだろうか? 「人間達ならへーきへーき」ではないのだ。

 道は閉じたが、かの邪神達はこの世界を諦めてはいないだろう。何か対策を取らなくては……

 後、何故あれほどに人の子を愛し慈しむ神が悪神なのだろう? どちらかと言えばオーディン神の方が悪神に相応しいと思うのだが。

 

×月△日

 ロキ神に、人の子に構い過ぎだと言われてしまった。

 かの神の言葉通り、いずれ人の子は自らの足で立ち歩いて往く日が来るのだろう。しかし、まだその時ではないのだ。人に害をなす悪魔や魔獣。時折、思い出した様に現れ被害を撒き散らすミラ三兄弟等を筆頭にした古竜達。それらを何とかしない限り――私は見守るだけの存在になれそうにない。

 しかし、「神々が居なくとも人は生きて往く。祝福も加護も人には不要なのだ」と言う言葉は本当に素晴らしい。そんな世に早くなって欲しいと心から思う。

 

×月△×日

 人の世到来の為に何かできないかと考え続けた結果、素晴らしい名案が浮かんだ。それをミカエルやガブリエル達に話したら微妙な顔をされてしまったが、コカビエルは「友の残したこの聖剣に賭けて必ず成し遂げて見せます」と賛同してくれた。

 しかし、あの無名の聖剣の力が以前よりも増している様な気がしたが……きっと気のせいなのだろう。

 それよりも、一刻でも速く、古竜や人の手に余る魔獣達全てをルシファーが統治している冥界に追放しなくては。

 地球とほぼ同等の広さでありながら海が無い故に無駄に広大な冥界ならば、古龍や魔獣達の新たな住みかとしては十分だろうし、上手くいけば悪魔達が襲われて地上に要らぬちょっかいを出せなくなるかもしれない。

 自画自賛になるが、我ながら素晴らしい計画だと本当に思う。

 

×月○△日

 聖剣が超強化されていた。どうやら彼の偉業を知った人の子達の憧れ等の想いと困難・絶望等に挑む際の祈り。そして、今は亡き彼への背を押して欲しいと云う願い。それら全てが彼の遺品である聖剣に収束した結果、下位の聖剣から最上位の聖剣に変化した様だ。

 クシャダオラを冥界追放する際に、コカビエルが「此れは、人の祈り。人の願い。人の想い。人が生み出す光を輝きを束ねし奔流――受けるが良い!!」と言って極光を放った時は、な~にコレと思ったが。

 

△月○日

 コカビエルと共に古竜や魔獣を冥界送りにしていたらルシファーが文句を言ってきたので、一言「コカビエルを冥界に送り込みますよ」と言ったら黙って帰っていった。

 もう。唯一神を辞めて、コカビエルを闘神として扱っても良い様な気がしてきた。

 

△月×日

 人の子の考えが、私には良くわからない......

 創生神設定の次は、全知全能の神設定だった。

 人の子達よ。良く考えて欲しい。もし本当に私が全知全能なら、とっくの昔にクトゥルフ神話勢力の対策を考えだし実行しているし、どうすればより良い形で人の世にできるかと日々苦悩したりなどしていないと。

 これはもしかして、信徒達からのダメ出しなのだろうか? 今の私は神に相応しくないから、創世神であり全知全能の神と呼ばれるに相応しい神に成ってくれと云う事なのだろうか?

 もしそうなら、私の今までの頑張りは一体何だったのだろう? 人の子達の為に、必死で歯を食いしばり命懸けで頑張って来た――今までは……なんだったのだろうか?

 

△月○×日

 主神としての務めを果たしている時に「暫し目を瞑り耳をお塞ぎください」との祈りが聞こえたので、祈られた通りにしたら「具体的にはこの悪魔を拳で改心させるまで」と聞こえ、一体何が有ったのかと思い祈られた場所を覗いたら――私の信徒の女性が、必死に命乞いをしている下級悪魔を殴殺している光景が目に映った

 確かに私と悪魔は敵対しているが、命乞いをしている悪魔を笑顔で殴殺しろなんて言っていない。

 

□月×日

 酷い祈りが多すぎる。信徒達の行動が酷すぎる。

 弱りきり抵抗のできない悪魔を殺さない様に切り刻みながら「主よ。この悪魔に祝福を」と祈りを捧げるエクソシスト。

 人の子を害さず、ひっそりと生きていただけの大人しい竜の首を切り落とし「主の栄光に祝福あれ!」と叫んでいる男性信徒。

 大勢の男性を相手に「この者達の獣欲は私が受け止めます。主よ、どうかこの者達に祝福を」などと言いながら淫行に耽るシスター。

 どうして、何故、こうなった? 私の教えを簡潔に簡単に言うなら、皆仲良く節度を持って生きなさい。窮地に於てはいがみ合わず、互いに手を取り合い協力して頑張りなさい。他者を妬むより自分を高めなさい。と云うものなのだ。

 誰も、悪魔を惨殺しろとか、竜ならばとにかく殺せとか、婬行の耽ろとか言っていないのだ。

 とにかく、ミカエルに調べるように命じておこう。

 

□月△日

 ミカエルの報告によると"悪魔は人の強い意思と心に弱いと判明した為、意思と心を強化したらああなった"と言うものだった。

 意味が解らない。本当に意味が解らない。

 私が説いた愛はどこに消えたと云うのだろうか?

 とにかく、古竜や魔獣達の対応をしながら、悪魔への対応を強化する事にした。そして、婬行や残虐な行為を辞める様に、ミカエルに通達するよう厳命した。

 

□月○△日

 酷い祈りと酷い行為が減ってきた。良かった。本当に良かった。

 

□月○×日

 漸く、最後の古竜。ミラルーツを冥界に落とせた。

 祖竜と呼ばれるだけはあり、共として連れて来たメタトロンやミカエルと熾天使達が傷付き地に伏せ、コカビエルまでもが重症を負い地に倒れた時は、神でありながら絶望してしまった。

 しかし、コカビエルが「ま・だ・だ! まだ! 俺は負ける事はできん! これしきの事で! 屈する事などできん!!」と叫びながらヨロヨロと立ち上がったと思ったら、何故か負っていた傷が完治していて、一人でミラルーツとほぼ互角に戦える程に強くなっていた。

 もう、コカビエルが天使長で、私に何かあった時の後継者で良いんじゃないだろうか?

 

○×月×日

 半神半人でありウルクの王・ギルガメッシュの人の子と神々の別離宣言を受け、全神話の神々で話し合った結果。徐々に人の世に移行していく事が決定した。

 外なる邪神対策が何もできていない状況で、そんな事をされても困るのだ。恥を忍び、英知を持つオーディン神に相談したところ、全神話の宝具等を模倣したモノを人の子達に与えたら如何かとアドバイスを貰えた。

 全神話の主神達の了解が貰え次第、即座に制作に取り掛かろうと思う。

 

○×月△日

 全神話の主神達の同意が得られた。もっと難航するかと思ったが、すんなりと話が通って一安心だ。

 事前に根回しをしてくれたオーディン神に感謝しようと思う。それから、全人類に対する告知はギリシャ神話のゼウス神がしてくれる事になった。

 しかし、酒の上の席でこの様な提案をして、無粋な神だと思われないか少し心配だ。

 

○×月□日

 全神話の宝具等を模倣したモノを神器(セイクリッド・ギア)と名付ける事にした。

 手始めに、私が生み出した聖杯を模倣した神器を作ってみたが上手くいった。

 この調子で神器を作り、その運用の為のシステムを作るとしよう。

 

○△月○日

 アザゼルが「竜退治にはもう飽きた。地上で嫁さん貰って気儘に生きるから堕天する」と言って、199人の天使を連れて堕天した。

 いや、私は、人の子を妻として迎える事を反対した覚えは無いし、それが両者合意の下のならば、私自ら祝福しても構わなかったのですが。

 やはり、古龍や魔獣に悪魔の対応に加え、人の子達を襲う伝染病や自然災害の対応と、外なる邪神達の眷属の対応と仕事を押し付け過ぎたのだろうか?

 しかし、主神たる私はそれ以上に働いているのだから多少は我慢して欲しかった。

 もしかして……アザゼルが頑張って書いた神器の研究資料を、実現可能か? もし実現可能なら有効性はどれぐらいなのか? を、全神話の英知を持つ神々や戦いに関する神々に見せた事でかなり怒っていたから......それも理由だったりするのだろうか?

 

○△月□日

 神器製作が難航している。とにかく全神話の宝具等の数が多すぎるのだ。何とか、神代が完全に終わり、人の世に成るまでに終わらせなければ。

 しかし、やらなくては成らない事が多すぎる。

 古竜は全て冥界に落としたが、強力な個体の魔獣がまだ残っているし、人の子のしでかした事にも対応しなくてはいけない。悪魔はいい加減大人しくして欲しい。

 本当に、メタトロンとコカビエルを冥界に送り込んでやろうか?

 

○△月×日

 銀河の一部が砕けた。

 自分でも何を書いているか分からないが、女神アテナの教皇が砕いたらしい。唯でさえ忙しいのに銀河の修復に駆り出される私の身になって欲しい。

 とにかく、女神アテナには厳しく抗議した。

 後、インドの神々が「人間ならそれぐらいふつーふつー」と言っていたが......もしかして、本当に、インドの人の子達は軽い挨拶が目からビームで、正式な挨拶が奥義ブッパで、宝具はただのコレクションで、英雄なら星を砕いて当たり前なのだろうか?

 本当ならば――インドは如何なる魔境なのだろう?

 

○×月○日

 いつの間にか、嘗て自然災害で滅んだソドムとゴモラを私が滅ぼした事に成っていた。

 やはり、信徒達は私の事が嫌いなのだろうか......

 

□×月△日

 エジプトの神々に、人の子から助けを求められたので助けても良いかと訊いた処、快く了承を得られたので、エジプトの神々に相談しながら計画を立てた。

 エジプトで一番信心深いモーセに"杖が蛇になる" "手がライ病の様に白くなる" "ナイル川の水が赤くなる"と云う加護を持たせ、その加護を以って私の使いとして動いている事を証明して、助けを求めて来たイスラエル人をカナンへ導き、イスラエル人の国を建国する。と云う計画だ。

 正直、穴だらけの杜撰な計画だが......徐々に人の世に移行すると決まった以上、人の子への干渉は最低限のモノにしなくてはならない為にどうする事もできない。

 それとも、他の神々――特にギリシャの神々の様に、完全に神代が終わるまで最大限に干渉すべきなのだろうか?

 

□○月○日

 何がどうなっているのか良くわからない。

 モーセが加護を使って、ナイル川を赤くしたらエジプトに様々な被害が出て、モーセが拳で海を割りイスラエル人を連れてカナンに渡り、イスラエル人の国建国の地を探している間に食糧が底を尽いたら祈りで食料を生み出す。

 シナイ山にて、私の教えが知りたい乞われたので、私の勢力では私が唯一の神であり、偏見ではあるが弊害が多いので偶像崇拝を禁止している事。私の名を大義名分として虐殺や淫行等の悪徳を行わない事。私の信徒は、過労死するまで働く者が多いので、安息日を設け休ませている事。家族を大事にし他者を妬まず己を高める事。他者の優しさを利用し堕落せずに自分を律して節度を守る事等を教えたら、その教えを元に十戒為る物をモーセが作ったと思ったら、せっかく作った石板を自ら叩き割りもう一度同じ物を作った。

 自分で書いていても訳が分からない。

 ナイル川の件は、エジプトの神々の勧めで赤くなるだけの加護にしたのに、どうして様々な被害が出たのだろう? 共に見守っていた天空神ホルスも理解できずに物凄く慌てていた。

 モーセが拳で海を割った時や、祈りで食料を無から作り出した時は、私もホルス神も顎が外れるかと思った。

 そして、どうやって拳で海を割ったのか・祈りで食料をどうやって作りだしたのか聞きに行った天使達が「主の祝福に決まっているだろうが」と殴り殺された時、あまりの酷さに頭を抱えた私に「その、頑張って下さいね?」とホルス神が励ましてくれた。本当に心に沁みた。

 

△○月○日

 一部とは云え、私の信徒達の横暴が酷過ぎる。モーセの作った十戒の石板が私の教えを簡略したモノであるのがいけなかったのだろうか? とにかく、このままでは私の教えが人の子の為に成らずに、最悪は害を齎すかもしれない。

 ちょうど、イスラエルの王ソロモンに英知を願われたので、ゼウス神やニケ神に倣い、私の権能をコレでもかと注ぎ込んで作った十の指輪を渡して、私の教えを正しく広めるように頼んでおく。

 

△○月×△日

 人の発想力・想像力の素晴らしさに感嘆する。まさか、私の権能で悪魔を使役し時には仕置きができるとは。

 コカビエルではないが、やはり人の子は素晴らしい。

 

××月□日

 突然、ソロモン王に指輪を返されてしまった。理由を聞けば「神代が終わり逝く中で、これほどの神秘の塊を、一個人の血族が所有し続ける訳にはいかない」と云うものだった。

 やはり、ソロモン王は聡明な王だ。今まで頑張ってくれた感謝の印として知恵の指輪の一つを彼に授けた。多少強引ではあったが、ギリシャの神聖衣マジンカイザーやアイギス等に比べれば、微々たるモノなので無理に受け取って貰った。

 しかし、神器とシステムの話をしたら反対されるとは思わなかった。もし彼の言う通り人の子達に悲劇を苦しみを齎すならば……私のしようとしている事は過ちなのだろう。だが、神器とシステムが、外なる邪神に対抗する人の子の一助となるのは間違いないのだ。

 人の子の害に為らない様にできる限り、神器とシステムを完全に近いモノに仕上げなくては。

 

△△月○日

 私の信徒達の横暴がまた酷くなってきたり虐げられたりしている為、正しい私の教えを広め、虐げられている信徒達を救う為に、子を作り出し地上に派遣する事にした。

 何処に派遣すべきが悩んでいる私に、ローマの建国神であるロムロス神が「世界とはすなわちローマである。ローマに汝の正しい教義が広まれば、世界にその教えは正しく広まるであろう。ローマがローマであるが故に」とアドバイスをしてくれたので、私の子をローマに派遣する事にした。

 

△□月×日

 悪魔の嫌がらせにも負けず、人の子の迫害にも負けず、聖人や聖女が殺される中、私の正しい教えを広めながら、迫害されている信徒達を助ける為に頑張っている私の子――キリストが処刑された。

 どうして何故こうなった? いったい何が悪くてこうなったのだろう? 私が全知全能の神ならこんな事にはならなかったのだろうか?

 あと、ロムロス神が折り菓子を持って私に謝りに来た。彼もこんな結果に為るとは思っていなかったそうだ。

 

△□月○□日

 キリストが帰ってこない……心配なので天使達に探させようと思う。

 

△□月○×日

 キリストを見つけた天使から「天界に帰る前に地上を満喫したい」と伝言を受け取った。

 できればすぐに天界に帰ってきて、私の仕事の手伝いをして欲しかったが……あれほど頑張ってくれたので認める事にした。

 人の子の様に、親子でキャッキャッしながら一緒に仕事したかったが、頑張ってくれた子の為に我慢しよう。

 

×○月□日

 ついに、神代が完全に終わってしまう。

 人の子が自分で歩んで往く事を、嬉しく誇らしく思うと同時に、どうしても悲しく寂しく感じてしまう。

 私は、やはり神として未熟であり、神失格なのだろう。

 しかし、なんとか神器制作と運用システムの完成が間に合って良かった。

 これが人の子達に、私が直接してあげられる最後の祝福かと思うと――やはり、悲しく寂しくて辛い。

 人の子達の歩む先が、希望の光に溢れ幸せに満ちたモノであって欲しい。

 

×○月○□日

 お の れ ゼ ウ ス!!

 人の世に成る前日に祝い酒をするのは構わない。私もした。しかし、深酒をし過ぎて当日を寝過ごすとは何事なのだ!

 お前が全人類に対する神器の告知は任せろと言うから任せたらこの有様だ! 人の子との約束を! 世界との契約を! お前はなんだと思っているんだ!

 神代が終わった以上、我々神が人の子に大々的に関与できなくなったんだぞ。どう考えても全ての人の子に神器の告知は不可能になった。これではソロモン王の危惧した通り、人の子に悲劇と苦しみを齎すだけの害悪ではないか!? 人の子を苦しめる為に私は神器とシステムを作り上げたわけではない!!

 なにが「人間ならへーきへーき。自力でいつも通りなんとかするだろう」だ! お前には神としての矜持も誇りもないのか、この駄神めが!

 

×○月○△日

 駄神ゼウスにどんなに苦情を言っても無駄なので、自分で何とかするしかない。

 とはいえ、私は神々の決議の結果、地上に降り立つ事はできない。しかもこの件が非常事態に該当しない上に、人の子達に強く求められた訳でもない為に、分霊・化身の降臨もできない。

 やはり……地道に神器を宿した人の子に、神器の使い方とその危険性を教えて、制御方法を身に着けてもらうしかないのだろうか? 人の世に成って少しは楽ができるかと思ったのが間違いだった。

 キリストよ。早く帰って来て。

 

○月×日

 地上の様子を見に行っていたガブリエルが聖書なる書物を持って来た。私の教え等を書いた素晴らしい書物だと言って渡してきたが、一言だけ、この聖書を書いた人の子に言いたい。

 私はノアの大洪水を起こしていないし、ソドムとゴモラを滅ぼしていない。割礼を理由に天使を嗾けたり等しない。

 私は本当に嫌われているのか? 時間を作ってメソポタミアの原神である女神ティアマットに相談してみよう。かの女神ならきっと私の相談を真剣に聞いてくれるはずだ。

 

○月□△日

 時間を作り、ティアマット神に相談したところ、「人間とはそう云う者」と返されてしまった。

 詳しく聞くと「人間は自分の信じたいモノを信じ、信じたくないモノを信じない存在であり、神がどんなに心を砕き教えを説いても、自分達に都合の良い解釈をしてソレを広めてしまう」との事だった。

 そんな事はないと反論する私に、北欧神話のラグナロックやバビロニア神話のエヌマ・エリシュを例に説明されると私は納得するしかなかった。

 確かに、オーディン神はフェンリルに手を良く甘噛みされているらしいが、食い千切られていない。そもそも、あれほど人の子を愛し慈しむロキ神がそんな事をするとは到底思えないし、なにより北欧神話が本当に起こった事ならオーディン神を始めとした神々が健在で在る筈がないのだ。

 そして、エヌマ・エリシュが本当に起こった事なら、女神ティアマットは殺害され、世界を形成する材料に成っているはずなのだ。

 他の神話の事なので今まで気にしていなかったが、現実と人の子が語る神話の剥離が凄まじい。ティアマット神の言葉では、人の子は神々を題材にした物語を作るのが好きらしい。

 つまり、私は嫌われている訳ではなく。単純に、私を題材とした物語を人の子が書き、私の教えを広めようとしただけなのだ。

 良かった。本当に良かった。嫌われていなくて本当に良かった。

 しかし、エヌマ・エリシュの題材の大元が、メソポタミアの神々による人の子によって捧げられた豪華プリン争奪戦だったとは……そんなくだらない争奪戦に引っ張り出され、呆れ返り帰ったキングウ神が、人の子達から弱虫だのヘタレだの散々な云われ様なのは、余りにも酷い話だと思った。

 会う機会が有れば、優しくしてあげよう。

 

×月□日

 フランスで、私に助けを求める祈りが多いので覗いてみたら、フランスとイングランドが戦争をしていた。

 イングランド軍の焦土作戦によって、多くのフランスの民が苦しんでいるのを見た私は、即座にミカエルに適切な人の子を選び、イングランド軍をフランスから追い出して、王太子をランスへと連れて行きフランス王位に据え。この悲劇を早急に終わらせるように厳命した。

 本当は私が化身なり分霊を降ろし、フランスとイングランドに戦争を止める様に言いたいのだが、間の悪い事に、外なる邪神がちょっかいを出してきたのでコカビエルと共にその対応に追われている為できない。

 本当に、嫌がらせ能力だけは素晴らしい邪神だ。

 

△月×□日

 一言、言いたい。誰も旗を片手に先陣を切ってイングランド兵を一方的に蹂躙しろなんて言ってない。と言うより何故そんな事ができる? ジャンヌよ。君はただの農夫の娘だろう? どこでそんな武と怪力を手に入れた? 私はそんな加護を与えていない。

 そして、なぜ攻城兵器を人に向けて使った? 確かにイングランド軍の焦土作戦によって一番苦しんだのはお前達農民なのだろう。しかし、大砲を人に向かって撃つ奴があるか? お前の側に居るラ・イルとジル・ド・レの胃を殺す気か? 

 私は、イングランド軍をフランスから追い出して、王太子をランスへと連れて行きフランス王位に据え。この悲劇を早急に終わらせるように言っただけだ。それがなんでどうしてこうなった?

 

×○月○日

 ジャンヌが火刑に処された。ジャンヌの魂を天界に連れてくる様に天使に命じた。

 あの常識知らずに、私自ら常識を叩き込もうと思う。

 

□月○日

 最近、胃が痛い。

 なぜ、私の信徒達は、私の教えと名を利用して侵略や奪略をするのか……私の教えではそれらの行為は禁じていたはずだ。

 魔女狩りや十字軍などを私が許し認めると思ったのだろうか?

 これが神代の時代なら、直ぐに私自ら赴き説教の一つでもしてやれるのに。

 

□月×△日

 何故、あの子はああも頑ななのだろう? 主神としての務めの合間を縫って説教をしているが、一向に改善の兆しが見えない……私の言い方が悪いのだろうか?

 徐々に胃痛が酷くなってきている。ラファエルの癒しの力が効かなくなってきた。

 

□月○△日

 コカビエルが堕天した。正確に記すなら、私の下を離れて、自分の目で人の世を見て廻りたいと私に願ったので、許可を出したのだ。

 神代から今まで私の側で頑張ってくれたのだから、その程度の願いは叶えなくては主神を名乗れない。

 しかし、わざわざ堕天しなくてもと思うのだが……あの子の性格ならば仕方ない事なのかもしれない。

 

○月×○日

 どうして、私はこうも無力なのか。私の言葉ではジャンヌの心を動かせないのだろうか? 

 私が「彼らもまた君達と同じく聖書の教えを学ぶ者達なのだ。私の教えの受け取り方が違うだけに過ぎない」と説いても、あの子は「主の教えを正しく受け取れないのですから、それは異教徒ですよ?」と返し。

 私がそれを否定して「私以外の神を奉信する者であっても容易に殺めてはいけないのだ。私以外の神々は確かに存在し人の子を深く愛しているのだから」と言い聞かせても、ジャンヌは「偽りの神は主の教えを正しく広めるためには排除しなければなりません」と口にする。

 様々な神話の教えは多様性を生み出し、その多様性は人の子の新たな可能性を生み出すと説明しても、「偽りの神や異教徒にも寛大なのですね!」と嬉しそうにするだけで、攻城兵器である大砲は人に向けて撃つものでないと教えても、「異教徒は人間ではありませんよ?」と心底不思議そうにするだけなのだ。

 私の都合で苦しく辛い人生を送らせてしまったのだから、常識を身に着けてもらい第三天――天国でゆっくりとして貰いたかったが……どうすれば良いのだろうか?

 

○△月×□日

 私だけでジャンヌに常識を教えるのは無理と判断し、仏教の弥勒菩薩に協力をして貰ったが、弥勒菩薩に「あの凝固で強固で強力な無敵要塞兼最堅城塞の精神と意志をどうにかするには転生させるしかない」と断言されてしまった。

 私は転生を否定はしていないが、人生を歩み終えた人の子達には天国でゆっくりして欲しいのだ。本人が転生を望むならその通りにしても構わないが、私から転生しろと言うつもりはない。しかし、ジャンヌに一から常識を身に着けて貰うにはそれしか無いのだろう。

 弥勒菩薩の勧めに従い、記憶だけを保持したまま転生させる事にした。黒歴史なるモノがあれば常識を身に着けやすくなるらしい。

 人格・精神性を保持しない転生は、一から人格・精神性が構築されるために別人に成ってしまう。つまり、私はジャンヌを正し、常識を教える事ができなかったのだ。

 私はなんと未熟な神なのだろうか。

 

××月□日

 アステカ神話やマヤ神話を始めとした様々な神々から、物凄い苦情が殺到した。

 聞けば、私の教えや名を大義名分に、信徒達が虐殺されたとの事だった。

 私はひたすら頭を下げる事しかできなかった。早急に天使達に何とかするように厳命する。

 

××月○△日

 天使達の報告を聞いていた次の瞬間、私はベットの上に横たわっていた。

 側に居るラファエルに話を聞くと、私は天使の報告――虐殺や侵略を止める様に地上に降り立った天使を見た人の子が「神の許しを得た」と、全く話を聞かずに気炎を撒き散らしていたとの話を聞いた瞬間に吐血をし気絶したらしい。

 医療の神・保生大帝(バオションダーディ)に診察をしてもらう事にする。

 

××月□○日

 保生大帝にストレス性胃炎だと言われてしまった……

 良く効く薬を処方して貰い。胃痛を感じたら飲む様にと言われた。

 神なのにストレス性胃炎と落ち込む私に、保生大帝は胃痛持ちは私だけでは無いと教えてくれた。なんでも、"境界無き医師団"なる組織は、治療行為の為なら文字通り、神を殴り殺してでも治療を行う集団であり、その集団の後ろ盾である医療神達は全員胃痛持ちなのだとか。

 私だけでは無い。なんと素晴らしい事実なのだろう。

 

□月○日

 とうとう薬が効かなくなり、吐血が頻繁に起こるようになってきた――私は神でありながら死ぬのだろうか?

 

□月△□日

 全神話主神会議に出たら、いきなり出席者である主神達に「もういいっっ! もう休めぇぇ!!」と言われてしまった。

 何を言っているか分からない私に、口端から血が流れ続け居ると指摘されてしまった。

 この程度なら何時もの事だから大丈夫だと言うと、皆が泣いてしまった……解せぬ。

 

□月×○日

 全神話の主神達に「良いから言う通りにしろ。言う通りにしなければ神々の戦争全勢力版を起こすぞ」と脅され、言う通りにする事にした。

 とにかく、本霊である私と同等の分霊を作り、その分霊で天使達を率いて冥界に攻め込み暴れるだけ暴れ、何故か突然乱入して来た二天龍を分霊全てを使い封印して、私は死んだ振りをすれば良いらしい。

 良く分からないが、そうすれば神々の戦争を回避できるのなら、やらなければならない。

 

○月○日

 私は正気に戻った!

 良く分からないが、月読尊の神がそう言え書けと言っていたので書いてみた。

 後から聞いた話では、私は本当に危険な状態だったらしい。良く分からないが、駄神ゼウスが私を見て「すまなかった! 儂の責任だ! 儂が深酒などしなければ!!」と男泣きするぐらい危険な状態だったらしい。

 とにかく、私は神としての責務や義務とは縁遠い生活を送り療養しなければいけないそうだ。

 正直、かなり心配だが……ミカエルを信じ、天界を暫く任せるとしよう。本当はコカビエルが一番良いのだが。

 

△月○日

 私は今、日本の田舎村に根を張っている。なにしろご近所の老婦人の妙子さんが作る浅漬けが美味なのだ。

 縁側で、この浅漬けを食みながら飲む番茶は、本当に素晴らしい。

 ああ、このささやかな幸せを小さな幸福を、私の信徒達も味わってくれていたら――これほど嬉しく幸せな事は無い。

 今度、立川でブッタ君とルームシェアをしているキリストに、手紙とこの浅漬けを送るとしよう。きっと喜んでくれるはずだ。

 




おそらく、今作最大の被害神の一柱
転生者達は土下座してどうぞ




もう二度と日記形式なんて書かない。色々と書いたけど一番の難産でした

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