転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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北欧の悪神と愚かな男の転生者のどうでも良い伝説

カリュウ・イウェーカー
北欧神話最高の狩人にして北欧の狩人(イェーガー)の言語となった人物
その転生者カリュウ・イウェーカー君の伝説(後世での後付け設定含む)
一つの矢を放てば、3~5本に分裂する
 某狩りゲーの拡散を「拡散使えたら強くね?」と安直に真似して、上手くいかなくて四苦八苦しなんとか辛うじて形にした程度
カリュウの放つ矢は堅い巨岩を容易く貫通し、その向こうの獲物を仕留める
 そんな事してないし、できない
カリュウが天に矢を放つと、矢の豪雨が降り注ぐ
 実際は、なんとか形にした拡散矢を曲射の様に放ってるだけで、決して豪雨ではない
カリュウの全力の一矢は、巨岩を消し飛ばし、山を削り取る
 そんな事できない
黄泉の国の女王・スカサハに勝負を挑まれるが、「自分……狩人ですから」と断るも、スカサハの押しに負けて、勝負を渋々受け、弓矢を構えた途端、スカサハが負けを認めた
 そんな事していないどころか、会ってすらいない
余りにも素晴らしい腕前にアリアンロッド神に求婚され断るも、押しに負けて子供を儲ける
 そんな事実はどこにも無い
太陽神ルーと弓勝負をして完勝する
 そんな事実はどこにも無い
狩猟神ケルヌンノスに狩りの仕方や作法を教えた
 そんな事はしていない。会ってすらいない
等などが"カリュウ・イウェーカー伝説"として語り継がれ、小説や漫画。劇として史実として扱われている模様



魔法少女頑張る 2

 魔法少女。その存在・有り様を知った女悪魔は強烈に魅られ憧れた。

 

 時は大航海時代。新天地を求め、人類が海を制覇した時代に、女悪魔は運命と出会った

 それは偶々偶然に訪れたとある田舎町での出来事だった。

 可憐で愛らしい衣装に身を包んで玩具のステッキを片手に持った幼い少女が、子猫を懸命に追い掛けている姿を見て興味本意で後を追って行った。その時、T字路で馬車に轢かれそうになった子猫に、「あ~あ、轢かれちゃった」と呟いた女悪魔の目に信じられない光景が飛び込んできた。

 幼い少女が「危ないっ」と玩具のステッキを振るうと、子猫を轢く寸前だった馬車がふわりと僅かに浮き、子猫の上を通り過ぎて地面に着地して何事も無かった様に走り去り、その異様な光景を観ていたはずの通行人も、何事も無かった様に通り過ぎて行く。

 その光景が、女悪魔には信じれなかった。

 少女がしたことは"魔力を込めて玩具ステッキを振るった"ただそれだけ。それだけで――走行中の馬車が浮き、広範囲の認識阻害魔法が発動した。

 本来。魔法は魔力を使用して魔法陣等の術式を編み、世界に働きかけ、術者の望む事象を成すモノであり。ただステッキに魔力を込めて振るだけで、発動・発現したりなどしない。

 魔法を深く理解する女悪魔は、目の前で起きた異質で異常な現象に唖然としながらも、馬車に轢かれそうになった子猫を胸に抱いて走り去る少女の後を追う。

 そこで見たのは、親猫と思わしき猫に、胸に抱いていた子猫を差し出しながら「もうお母さんとはぐれたらダメだからね」と満足げに笑っている少女の姿。

 あれほど異質で異常な力を持ちながら、子猫を一生懸命に走って追い駆けていながらも、何一つ得るものが無いのに、満足げに眩い笑顔を浮かべている少女に、女悪魔は気が付いたら声を掛けていた。

「初めまして、私はセラフォルー・シトリー。貴方のお名前を教えてくれない?」

 

 疑う事を余り知らず、その大切さを理解していない魔法少女リラとセラフォルーは、直ぐに仲良くなり、お互いにとって大切な友達になった。

 セラフォルーにとって、リラとの他愛のない会話や魔法少女の活動の手伝いは、シトリーの次期当主として圧し掛かってくる責任や期待等から解放され、もっとも自分らしく在れる時間となり。

 リラにとって、シトリーの次期当主として学んだ様々な知識・技術を持つセラフォルーは頼れる姉の様な存在になっていた。

 そんな日々を送っていたセラフォルーは、大切な妹分で友達のリラから、世界中に魔法少女が居る事を聞いて、無性に会って話をしたいと思うようになっていた。他の魔法少女達もきっと、リラの様に素直で純粋で素敵な女の子に違いないと。

 誰にも文句を言われない・言わせない為に次期当主の勉学を完璧にこなし、リラの魔法少女の活動の手伝いをしながら、セラフォルーは文字通り世界中を巡り、多くの魔法少女と出会た。

 数多くの魔法少女達と出会い、親しくなり、その活動を手伝って、セラフォルーは魔法少女が使う魔法の仕組みを理解した。

 それは反則と言っても過言ではない仕組みだった。魔力を使い術式を編む必要も無ければ、その術式を時間をかけて努力して学び理解する必要も無い。魔力を使って、世界や星の意志に直接呼びかけ、望んだ事象を起こして貰う。

 それこそ、漫画やおとぎ話の中だけに存在する夢の様な魔法。

 その事実を知ったセラフォルーは驚くと同時にすんなりと納得した。"ああ。やっぱり、彼女達、魔法少女は世界から星から愛されている"と。

 セラフォルーの出会った魔法少女の多くは、純粋で優しくて誰からも好かれる素敵な女の子。だからこそ、すんなりと受け入れ受け止める事ができた。

 魔法少女を包む世界は優しくて暖かなモノだと、セラフォルーは思い込んでしまった。

 

 いつもの様に次期当主としての務めを完璧にこなし、リラの手伝いをして、新たな魔法少女との出会いに、胸を心を躍らせときめかせていたセラフォルーは、初めて、自分が今まで出会った魔法少女達は運が良かっただけだと知る。

 薄汚い欲深い人間の男に、騙され、穢され、凌辱され、幼い魔法少女が自ら命を絶った事を知った。

 自分の同族である悪魔に、騙され、良い様に利用され、口にするのも悍ましい凌辱の果てに、心が壊れてしまった魔法少女と出会った。

 誰かを守る為に、助ける為に、勇気を振り絞り、外なる邪神の眷属と戦って、そして敗北し、眷属達の苗床になり、狂ってしまった魔法少女を見た。

 世界は――魔法少女を包む現実は、優しくなかった。温かくも無かった。どこまでも冷酷で、残酷で、理不尽で、不条理なモノでしかなかった。

 

 魔法少女の放つ光に輝きに憧れ魅せられ、その在り様。その姿に。その笑顔に。どうしようもない程に惹かれたセラフォルーは、声なき声で、魔法少女を取り巻く現実に、心から魂から叫び吼えた。

 

 ふ ざ け る な!! こんな現実 こんな世界 私は絶対に認めない! あの子達が放つ輝きは、あの眩しい笑顔は! お前らなんかが お前ら如きが 踏みにじって良いモノじゃないっ! 穢して良いモノじゃない! 玩具にして弄んで壊して嬲って! お前達が好き勝手にして台無しにして良いモノなんかじゃない!!

 

 現実を知ったセラフォルーは、たった一人で、世界に現実に挑んだ。魔法少女を守り助け、その輝きと笑顔を守る為に。

 シトリーの次期当主としての責務も義務も何もかも投げ出して投げ捨てて、世界中を駆けずり回り、出会った魔法少女達に疑う事の大切さを説き、戦い方を知らない魔法少女に戦い方を教え、窮地に落ちた魔法少女を守る為に、我が身が傷つくのを構わずその身を盾にした。

 しかし、セラフォルーが懸命に助けて廻っても、世界のどこかで、魔法少女は心を壊され、正気を失い、命を落として逝く。

 それでも、セラフォルーは歯を食いしばり、リラを始めとした魔法少女達の心配の言葉に「大丈夫」とだけ返して戦い続ける。「私が、私が守らないと。私が助けないと」と小さく呟きながら。

 

 碌に休憩も取らず、眠る事もせず、食事すら疎かにして、頑張り続けたセラフォルーは、人の目が無い寂れた裏路地で、ついに力尽き倒れてしまう。倒れこみ気を失ったセラフォルーの体が淡い光に包まれると同時に、その体は地上から消えた。

 

 フカフカとふわふわとした心地よい感触に身を任せ、寝言で謝罪を口にしているセラフォルーに、少し離れた所にある椅子に腰かけた黒いローブを身に纏った年若い男性――北欧の悪神ロキは、忌々し気に苛立ち交じりの溜息を付く。

 悪魔であるセラフォルーをロキは助けるつもりなんて無かった。ましてや、人の子達にしている様にその旅路を見守るつもりなんて更々なかった。それなのに、つい見守り助けてしまったのだ。

 セラフォルーが、自分を"最高の神"と呼んだ救い様の無い愚か者に何処となく似ていると、性別・性格・生き様どころか種族すら違う。何もかもが違うのに、どうしてか、セラフォルーと愚か者が似ているとロキは感じてしまった。

「――いや、救い様が無い愚かさは確かに同じか」

 目の前で無防備に寝ている愚かな悪魔に嘆息しながら、最低限の導きとちょっとした用事を与える事を決め、「聖書の神に、人の子に構い過ぎだなどと――偉そうな事は言えんな」と零しながら、セラフォルーが目覚めるのを静かに待った。

 

 ロキの神域で三日。地上の時間で一秒たったかどうかの時間で、セラフォルーの瞼がゆっくりと開く。

「え? ここどこ?」

 薄汚い裏路地で力尽き倒れたはずなのに、気が付いたらどこの豪華ホテルだと言いたくなる様な部屋に、四季折々のそれも世界中の花を集めましたと云わんばかりに、大きな花瓶に同じ時期に咲かないはずの希少な花が飾られていて、大きな窓の外には、絶滅したはずのドードー鳥・ヨーロッパライオン・フォルスラコス等の動物が、緑豊かな自然の中で争う事無くのびのびとしている光景。微かに香る上品な香の匂い。意識を失う前の光景と取り戻してからの光景の違いに、セラフォルーは混乱し「どこよぉぉ!? こっこぉぉぉぉ!?」と絶叫したとしても、仕方のない事だった。

 数回のノックの後、切り分けられた果物や数種類のパンにスープが乗ったワゴンと共に部屋に入ってきたヴァルキリーは、セラフォルーが目覚めているのを確認すると、無言で部屋の中央に備え付けられているテーブルの上に持ってきた食事を配膳する。

「ねぇ、此処はどこで、貴女は誰? なんで私を此処に連れてきたの?」

 配膳の手を止めたヴァルキリーは、クルリとセラフォルーの方を向く。

「此処は北欧の神ロキ様の神域だ。本来ならば、お前如き悪魔が立ち入れる場所ではないと知れ」

 余りの言い様に、「連れて来たのはあんたらでしょうが!」と喉までで掛かった言葉を、セラフォルーはグッと飲み込んだ。

「で、なんで私を此処に連れてきたの?」

 感情的になり反論しても、相手が有利になるだけだと学んでいるセラフォルーは、少しでも情報を得ようとヴァルキリーを観察するが、無表情で淡々とした動作に何も読み取れずにいた。

「ロキ様自ら、お前をこの神域に招いたのだ。その理由など私が知る訳がない。知る必要すらない」

 そんな状態のセラフォルーなど知るかとばかりに配膳を終えたヴァルキリーが、セラフォルーを感情の籠らない目で見据える。

「この神域から出たいなら、この食事を完食し、ロキ様にお会いする事だ」

 部屋と食事の内容から、一応歓迎されているだろうと思う事にしたセラフォルーが「まぁ、この豪勢な部屋に豪華な食事なら、敵対の意志は無いって事だろうし……」とそこまで口にした時、無表情だったヴァルキリーが、可哀そうなモノを見る目でセラフォルーを見た。

「この部屋は、この神域で最もグレードの低い部屋だ。当然、食事内容も相応のモノになる――そうか、お前にとって、コレは良き部屋で在り良き食事なのか……」

 明確に憐みの籠った視線と言葉に、セラフォルーはビッシリと固まってしまう。

「神域と下界の時間の速度は全く違う。そうだな――大体、神域の半月で下界の一分ぐらいだと思えばいい。だから、ゆっくりと堪能すると良い」

 無表情が優しい表情に変わり、無機質な声色が慈しみの声色に変わった。

「好きなだけとは言えんが……心往くまでゆっくりとすると良い」

 優しい笑みを浮かべたまま、ヴァルキリーがワゴンを押しながら退室した後、セラフォルーは吠えた。

「私はセラフォルー・シトリーよ! 最近は貧相な生活だったけど! 冥界に帰ればお嬢様! お嬢様! と云うか、これで最低ランクてどんだけよ! 最高ランクはどんなのなのよ!?」

 そう吠えた後、碌に食事をしていなかったセラフォルーのお腹がキューと可愛らしくなり、目の前のテーブルから香ってくる美味しそうな匂いに負け、いそいそとテーブルに着いたセラフォルーは料理の美味しさに「これで最低ランク……最低ランクなんだ」と呟きながら完食した。

 

 神と悪魔の格差を思い知らされたセラフォルーは食事を終えた後、部屋を出てロキの下に行こうと神域を彷徨い、出会うヴァルキリー達に優しい表情と声色で「む、散策か? ならば良い所がある」と優しくされ、「早く地上に戻りたいからロキに会いたい」とセラフォルーが要件を告げると、「ゆっくりしていって良いんだぞ。ほら、そこの通路を真っ直ぐ行って、突当りを右に行くと良い。フォルスラコスの子が良く遊んでいる場所に辿りつく」と神域観光を進められる始末。それにもめげずに彷徨い続けたセラフォルーは、先ほど出会ったヴァルキリーに貰った軽食用のサンドイッチを堪能しつつ、ロキが居る広間に辿り着いた。

 謁見の間に辿り着き、大変美味しいカツサンドを食べ終わったセラフォルーが、扉の前に居るヴァルキリー二人に「もっとゆっくりしては?」と言われ、「良いから中に入れて」と言い放ち、開け放たれた扉を潜る。

 

 華美な装飾に彩られた、一つの部屋が芸術品として完成している謁見の間。その奥の一段上がった場所に鎮座している王座に腰掛けて、自分を見下ろしているロキに一礼したセラフォルーが、ロキの前まで歩き、儀礼の言葉を口にしようとするが、ロキは片手を上げそれを止める。

「挨拶など不要だ。悪魔等に礼儀等求めていない」

 儀礼を完全に無視した不遜な物言いに、セラフォルーは困惑してしまう。

「さて、度し難い愚かな悪魔よ。お前を我が神域に招いたのは他でもない」

 初対面でいきなり、礼儀を求めてない・どしがたい愚かな悪魔と言われたセラフォルーのこめかみがヒクヒクと引き吊るが、ロキはそんな様子を気にも止めずに言葉を続ける。

「よいか? 救い様の無い愚かな悪魔よ。神であるこの私が助言をくれてやる。心して聞き、その足りない頭にしかと刻み込め」

 喉元まで「誰が愚かで足りない頭なのよ!」と出掛かったセラフォルーは、グッと我慢しなんとか頷く。

「お前は魔法少女達を救い守らんと足掻いているつもりだろうが、その行動で救い守れるのは――ほんの一握りだけだ」

 その言葉に、セラフォルーは怒りが我慢できずにロキを睨み付ける。

「知った様な口をっっ! あんたに……あんたなんかに……あの子達の絶望が苦しみが理解できてたまるかっ! あんたが何を知ってるっていうのよ!!」

 魔法少女達を救い守らんとしていてるセラフォルーの怒りの叫びを、ロキは鼻で嗤う。

「無論。知っている。理解している。何故ならば、この目で見、全て記憶しているのだからな」

 ロキの言葉に、その意味が理解できなかったセラフォルーが、「え?」と零す。

「私は旅人を見守る神でもある。ならば、人生と云う当ての無い旅路を往く、全ての人の子達を見守る神でもある」

 その言葉の意味を理解したセラフォルーの右手に高密度の魔力が集まる。

「それって、つまり……見てたって事よね? あの子達が弄ばれ、酷い目にあって、心が壊されて、殺されて、自分で命を絶つ。その様子を――その光景を――黙って、神の癖に、何もしないで、助けも、救いもしないで、見てたって事よねぇぇぇ!!」

 後先考えずに、怒りに激情に任せ、右手に収束し凝縮させた全力の魔力弾をロキに向けて放つが、その魔力弾がロキに当たる直前に霧散してしまう。

 掛け値無しの全力の攻撃が通じなかった事に絶望するよりも、セラフォルーはその事実に激怒し、激情に駆られ、何度も何度も魔力弾をロキに放つが、その全てが完全に無力化された現実にセラフォルーが吼えた。

「なんでっっ! なんでよ! こんなに! 私の攻撃を簡単に無効化できるなら! そんなに強いならっっ! あの子達を守って、助けるぐらいっ! あんたならできるでしょう!?」

 どんなに守りたくて救いたくても、必死に足掻き藻掻いても、全ての魔法少女を守れず救えない、魔法少女に焦がれ憧れた少女の悔恨と嘆きの叫びに、北欧の悪神にして旅人を見守る神は、ただ一言だけ口にした「何故、救い守らなければならない?」と。

 ロキが口にした言葉に、セラフォルーは唖然として棒立ちになってしまう。

「もう一度問おう。何故、救い守らなければならない?」

 唖然としていたセラフォルーは、その言葉を漸く理解し、クスクスと笑いだす。

「ああ、うん。なるほどね――所詮は悪神かぁ……」

 クスクス笑いながら、瞳孔が完全に開き切ったセラフォルーが遠距離攻撃は無意味と考えて、両の拳を握りしめ全力で魔力を収束させ凝縮させる。

「絶対にぶん殴って、見棄てた子達に「ごめんなさい」させてやる!」

 展開した悪魔の翼から魔力を指向性を持たせ排出し、格闘戦を仕掛けようとしたセラフォルーに向かって、ロキは一言命じた「ひれ伏せ」と。

 自分の意志とは関係無く、ロキの前でフロアにうつぶせに這い蹲ったセラフォルーは困惑しながらも、必死に立ち上がろうとするが、一切体が言う事を聞かずに「なんで!? なんで、体が言う事を聞かないの? 私はアイツをぶん殴らないといけないのにっ!」と必死に足掻く。

「ふん。言葉に神の威を乗せただけでこの有様か。その程度の実力で、全てを一人で背負おうとするなど片腹痛い」

 侮蔑と呆れを含んだ言葉と視線に、セラフォルーは必死に立ち上がろうとするが体が言う事を聞かず、指一本動かす事ができない。

「聴け、無知無謀の悪魔よ。お前のしている事は、ただの独り善がりに過ぎん」

 そのロキの言葉にセラフォルーの全身に怒りが満ちた。

「守り救う必要など何処にも無い事を知れ」

 投げ掛けられた言葉に、セラフォルーの指先がピクリと動く。

「年齢、性別など関係ない。力を得て力を振るうと決めたならば、相応の覚悟をしなければならない」

 その言葉に、セラフォルーは、自由にならない身体を、意思の力で、無理矢理従わせる。

「その覚悟が決意が未熟であった故に、あの者達は悲劇・惨劇に見舞われたのだ」

 自由に成らない四肢に、無理矢理に力を込め、セラフォルーはゆっくりと確実に立ち上がる。

「ふざけないで......何が必要ないよ。何が未熟よ。あの子達は懸命に頑張ってる! いつだって! 自分にできる精一杯を尽くしてる!」

 神の威圧をその身に受けながらも、必死に立ち上がったセラフォルーの姿に、一人の男を幻視したロキは、セラフォルーに乗し掛かる圧を解き盛大な溜め息を付いた。

「どうして、こうも頑迷で固くなで猪突猛進で考え無しなんだ――何故、柔軟に臨機応変に賢く生きられないんだ......」

 体を襲っていた威圧が消え、盛大な溜め息を付いて顔に右手を当てて嘆いて居るロキに戸惑いながらも、セラフォルーはとにかくぶん殴るチャンスとばかりに一歩踏み出す。

「他の人の子達を見ろ......あの者達はお前らなんぞより、遥かに柔軟に臨機応変に賢く生きている。それを見習え、学べ、少しは学習しろ!」

 クッワッと目を見開き、握り締めた拳に再び魔力を纏わせたセラフォルーを勢い良くビシッリと指差したロキが吼えた。

「聞いてるのか!? 猪突猛進・残念無念・ポンコツ娘!? お前に言っているんだ! 学習能力ゼロの残念ポンコツ娘!」

 ロキの豹変振りに一瞬戸惑い、立ち止まったセラフォルーは、初対面で残念・猪突猛進・学習能力ゼロ・ポンコツ娘と断言された事に反論の声を上げる。

「誰が、猪突猛進で学習能力ゼロで残念無念のポンコツ娘よ!? 冥界では才女として有名なのよ!」

 その言葉を「残念ポンコツ娘が才女なら、人の世は天才で溢れている事になるな」とロキが鼻で嗤う。

「本当に失礼な奴ね!? 見てるだけで何もしないアンタよりは遥かにマシよ!」

 何が有ろうと絶対に気が済むまでぶん殴ると決めたセラフォルーの言葉に、ロキが深い溜息を吐く。

「またソレか……神代ならともかく、人の世で神がその力を振るうなど、許される訳が無いだろう」

 神代の時代が終わり人の時代に成った故に、その強大な力を地上で振るえ無くなった神の言葉に、セラフォルーが「なにが人の時代よ! 神代が終わったよ! 時代の呼び名が変わったぐらいでっっ」と噛み付き、その言葉にロキが口を挟み遮る「まて、もしや……」と。

「おまえは――もしや、人の子らと神々の約束。世界と神々の契約を知らないのか? いや、すまない。いくら残念ポンコツ娘とは云え……そんな訳がない。ないよな?」

 神の威厳とか色んなモノを投げ捨て始めたロキの言葉に、怪訝そうな表情で「なによそれ?」と一言口にしたセラフォルーを、ロキは信じられないモノを見るような目で見てしまう。

「簡潔に教えよう。神々は人の子らの独り立ちを認めたのだ。そして、神の力を地上で揮う事を自ら禁じ、地上への本霊降臨の禁止と、分霊・化身の降臨は人の子だけではどうする事もできない危機か人の子らに心から望まれた時のみと定められている」

 シトリー家の次期当主として、相手の虚言を見抜く教育を受けているセラフォルーは、ロキの言葉に嘘が無い事を知り、驚きの余り口を開きポカーンと開いて立ち竦んでしまう。

 そんなセラフォルーの様子に嘆息しながらも、ロキは言葉を続ける。

「神の加護や祝福なども同様に制限されている。そうだな……例を挙げるとすれば、小石に躓いても転ばない。鳥のふんが頭上に落ちてこない。失せ物が何時の間にかヒョコリ出てくる。夢見の内容で間接的・抽象的に何らかの警告などをする。こんな処か」

 余りにも微妙過ぎる祝福や加護に、セラフォルーは何とも言えない表情になってしまう。

「なんでそんなに微妙なのよ。もっと、獣除けとか、病に罹り難くなるとか、色々あるでしょ……」

 そんなセラフォルーの言葉に、ロキはフンと鼻を鳴らす。

「なにが微妙なモノか、加護も祝福もこの程度で十分だ。しかし、この程度の事すら知らないとはな。これで才女とは笑わせる」

 ロキの言葉にウグッと呻いたセラフォルーは握りしめていた拳を解き、視線を宙に彷徨わせ始める。

「えっと、その、ごめんなさい」

 彷徨わせていた視線をロキに向け、深々と頭を下げたセラフォルーが言葉を続ける。

「知った様なこと言って、攻撃して、申し訳ありませんでした」

 頭を下げ謝罪するセラフォルーを、ロキは詰まらなそうに見詰めた。

「かまわん。超絶残念ポンコツ娘のじゃれつき如き、どうでもいい」

 残念ポンコツ娘から超絶残念ポンコツ娘にランクアップしたセラフォルーはグヌヌと唸るが、今回は自分が悪い事を理解している上、冷静に考えるとシトリー家取り潰しクラスの外交問題を起こしてしまった事に気付き「かっ、寛大なご処置に感謝します」としか言えなかった。

「さて、超絶残念ポンコツ娘。お前はこれより、堕天使・コカビエルに会い、お前の見聞きした事。感じ思った事。それら全てを話せ。そうすれば、今までのお前の行動よりは遥かにマシな結果を得られるだろう。わかったな? 理解できたか? 超絶残念無知無能ポンコツ娘」

 超絶残念ポンコツ娘だの超絶残念無知無能ポンコツ娘と呼ばれても、我慢して頷いているセラフォルーの様子にロキが満足げに笑う。

「さて、神の助言をくれてやったのだ。ちょっとした遣いをして貰おう」

 激昂しやらかした結果、拒否できないセラフォルーは、北欧に名高い悪神にどんな無理難題を押し付けられるのか身構えてしまう。

 そんな心情のセラフォルーを気にも留めずに、ロキは虚空からアーチェリーに酷似した古びた弓を取り出す。

「この魔弓を、リラという小娘に渡せ。玩具のステッキよりも手に馴染むだろう」

 ロキが取り出し宙に浮く、古びた魔弓に秘められたとんでもない力と妹分のリラに渡せという言葉に、セラフォルーは「はへ?」と間の抜けた声を出してしまう。

「いいな? お前の知る魔法少女リラに必ず渡せ」

 宙に浮く魔弓を操りセラフォルーの前まで移動させたロキは、小声で「これで、あの愚かさを受け継ぐ者も、少しはましな装備になり安心できるはず。そもそも、なぜ、玩具のステッキなんだ。可笑しいだろう? 外なる邪神の眷属や悪魔ども等と戦う羽目に為る可能性がありながら、どうして玩具のステッキをチョイスした?」と呟くが、セラフォルーは目の前の強烈な神秘を秘めた魔弓とロキの口から出て来たリラの名に混乱し、其れ処ではなかった。

「あの、北欧の神が一柱・ロキ様。どうしてリラの名を? それに、この魔弓はいったい……」

 これ以上問題を起こさない様に、言葉と礼儀に気を付けながら恐る恐る発言したセラフォルーに、ロキが「さんざん、お前だのあんただの言っておいて今更儀礼か? 言った筈だ、悪魔等に礼儀等求めていない。と」揶揄う様に告げると、セラフォルーは頭を両手で乱暴に掻き毟り、「あ~もう! 後で外交問題にしないでよ!? 儀礼はいらないだの言ったのはあんたなんだから!」と人差し指でビシリとロキを指差しながら叫ぶ。

「無論だ。何故、騒いでもヴァルキリー達が謁見の間に踏み込み、お前を取り押さえないと思っている? 超絶残念ポンコツ娘の無礼一つ流せずに、悪神が名乗れるものか」

 笑いながらそう言ったロキに、セラフォルーはやっぱり一発ぐらいぶん殴っても許されるんじゃないのかと思いながら、グッと我慢して悪神ロキがリラに何故、魔弓を渡そうとしているのかを知るために、もう一度質問を口にする。

「それで、なんでリラの事知ってんのよ? それにこの魔弓はなに? なんで、リラにこんな物騒なモノ渡さないといけないのよ?」

 セラフォルーの質問に苦い顔をしたロキは小さく舌打ちをしたが、セラフォルーの真剣な表情から妹分のリラを思う気持ちを察し、忌々し気に溜息を付いた。

「何故、知っているかだと? 言った筈だ。私は全ての人の子の歩みを見守っていると」

 一度、言葉を切り。ある意味で自身の黒歴史に関する話なので躊躇したロキは、話さなければ魔弓がリラの手に渡らない可能性が高い事を察し、苦々しい思いをしながら言葉を続ける。

「その魔弓は、カリュウ・イウェーカーが使っていた弓だ」

 カリュウ・イウェーカー。北欧神話において狩人としての腕ならば並ぶ者が居ないとまで謳われ、北欧の狩人(イェーガー)の言語となった人物であり。その弓に関する実力は、かの東方の弓の大英雄アーラシュ・カマンガーに並び立つとまで云われている英雄。

 そんな英雄の使用していた弓が、自分の目の前で宙に浮いている事実にセラフォルーは言葉を失うと同時に、なんでそんな凄い魔弓を妹分のリラに渡そうとするのか理解できずに困惑してしまう。

「お前の友人である。リラ・イウェーカーは、カリュウの末裔で在り、その魂の残滓を受け継ぐ者だ」

 ロキの言葉に、リラが北欧の英雄の魂を受け継ぐ者だと思っても居なかったセラフォルーは「ふぁ!?」と間の抜けた声を上げてしまう。

英霊(エインヘリャル)に成ったあやつの僅かな残滓を受け継いだだけの筈が、救い様の無い愚かさを引き継いでしまった上に、玩具のステッキを魔道具として使用しているあの愚か極まりないリラに、そのアムニスを渡せば少しは身を守れるはずだ」

 その言葉に、セラフォルーはカリュウが熱心なロキの信者だった事を思いだし、ニンマリと笑う。

「へ~ なるほどね~ つまり、リラが心配なんだぁ~ カリュウはロキを熱心に信仰してたらしいし~」

 急に調子づいたセラフォルーに、ロキは小さく舌打ちをする。

「ふ~ん。へ~ ほ~ 「守り救う必要など何処にも無い事を知れ」キリッ。なんて言っておきながらねぇ?」

 今まで散々に残念だのポンコツだのと言われ続けたセラフォルーは、ここぞとばかりに、ニンマリとニマニマとやり返し始める。

「まぁ。そ~ゆ~ことなら、私からリラに渡してあげるわ。 「何故、救い守らなければならない?」キリッ。なんて言ったて心配ならしょうがないわよねぇ~」

 うら若い女性がしたらイケナイ笑みを浮かべながら、自分の目の前に浮かぶ魔弓・アムニスを手に取ったセラフォルーに、ロキは口を開く。

「ここに神との約束は成立した。超絶残念ポンコツ娘よ。約束を違えるなよ?」

 ニマニマと笑いながら頷いたセラフォルーは、ふっと思った疑問を口にした。

「あれ? 私を地上から神域に連れてきたり、魔弓をリラにあげたりしたら、人との約束と世界との契約を破った事になるんじゃ......」

 その言葉に、ニヤリとロキが笑う。

「人の子等と約束したが、悪魔とは約束していない。つまり、地上から悪魔を神域に招いても、人の子等に見られなければよい。人の子が言うだろう? ばれなければ犯罪ではない。と」

 セラフォルーが意識を失ったのは、誰も居ない裏路地。人に見られていないから問題ないと断言するロキに、「人との約束だの世界との契約なんて言いながら、結構杜撰なのね......」とセラフォルーは溢す。

「何を言う。子の行く末を見守り。必要ならばその背を軽く押す。それが親と云う者だろう。ならばある程度の融通は効かせなければな」

 神として全うな事を口にしたロキを、セラフォルーが「人が親離れしても、神が子離れできてないってことね」と呆れつつジト目で見ながら、溜め息を付いた。

「ふん。超絶残念ポンコツ娘に神の考えが理解できるものか」

 セラフォルーのジト目をその身に受けながら、ロキは言葉を続ける。

「その魔弓・アムニスにしてもそうだ。私が地上に赴いて人の子に渡したのならば、降臨に関する約束と契約を違えた事になる。しかし、神域に招いた悪魔が、不遜にも我が宝物庫からアムニスを持ち出し、仲の良い人の子に渡したのならば、私の落ち度はアムニスを盗まれただけとなる」

 ロキを呆れた視線で見ていたセラフォルーは、思いもしなかった言葉に「えっ?」と驚きの声を上げてしまう。

「なによそれ!? あんたが渡せって言うから……へっ? ちょっと、この光て、転位!?」

 自分の体が淡い光に包まれ始めた事に、セラフォルーは慌て始めた。

「まだ話は終わってないでしょ!? あ~もう、なんでキャンセルできないのよ! せめて、せめて、紹介状とか寄越しなさい! 神の剣なんて呼ばれてた堕天使に会うのよ!? 紹介状とか無いと殺されるかもしれなっ......」

 ギャーギャーと騒ぎながら転位の術をキャンセルしようとしていたセラフォルーを、コカビエルの元に送り出したロキは、本当に魔法少女達の事を任せて大丈夫なのかと、深い溜め息を吐いた。

「いや、あの超絶残念ポンコツ娘を信じるしかあるまい。あの子等を託するに足りる成長をしてくれると」

 北欧の悪神にして旅人を見守る神であり、いつしか"魔法少女の守護者"と呼ばれる様に成った神は、セラフォルーを魔法少女達を取り巻く環境を変える切っ掛けにする為に、次の一手を打つ為に王座から立ち上がる。

「しかし、これでは本当に――聖書の神に、人の子に構いすぎだと、口が裂けても言えなくなったな」

 

 

 転位が完了して、いきなり目の前に一人の男性が居る事を知り、セラフォルーは一度だけ大きく頷くと、ぐるりと回りを見渡して、満点の星空と生い茂る草木に、どこかの山奥で他に人は居ない事を確認すると、目の前の厳つい顔立ちでガッチリとした体格の男性と目が合い、セラフォルーは誰もが見惚れる儚い笑顔を浮かべながら両膝を地につけてロキから受け取ったアムニスをソッと地面に置き、ガタガタ震えながら全力土下座を開始した。

「コ、コカビエル様とお見受けいた、いたしましゅ」

 天使長ミカエル。大天使メタトロン。様々な名高い天使達を押し退け、聖書の神の右腕。聖書の神が振るう剣。いつしかそう呼ばれ、詠われた偉大な天使。

 冥界を統治する最強の悪魔ルシファーですら戦う事を避け、冥界の土地開発最大の障害・災厄である古龍や祖龍と単騎で互角に渡り合い。外なる邪神達を相手取り戦い続けている実力者。

 そんな敵対勢力の超大物の前にポンと放り出されたセラフォルーは、震えながら土下座の姿勢のまま言葉を続ける。会って直ぐに震えながら土下座をされ、泣き出しそうな声で様付けで呼ばれて戸惑っているコカビエルを遥か彼方に置き去りにして。

「北欧の神々が一柱、ロキ様に、あっあなた様にお会いしゅて、お話じをしろと、言われましゅて」

 人に害為す存在なら問答無用で殺しまくる。特に悪魔はサーチ・アンド・デストロイ。と噂で聞いているセラフォルーは必死に、機嫌を損ねない様に無様でもなんでも構わない。あの子達の為に死ねない。と涙目と泣き声に成りながらも言葉を続けようとするが、我に返ったコカビエルが慌ててセラフォルーを立たせようとする。

「いや、待て。とにかく土下座を止めてくれ。話はロキ神から聞いてる。女子供に土下座をさせる趣味はない」

 立たせようとするコカビエルと、立ったら殺されると思い込んでいるセラフォルーの馬鹿げたアホらしい戦いが始まった。

「嘘よ! そんな事を言っといて、立ったら殺すんでしょ!? 知ってるんだから、視界に入った悪魔は即座に殺してるって! 私は死ねないの! あの子等を助けるまで! 死ぬわけにはいかないの! お願い!! 命だけは、命だけは見逃して!? エロ同人みたいに酷い事をされても良いから、エロ同人みたいに凌辱しても良いから!! お願い! 命だけは!!」

 力ずくで立たせようとするコカビエルに抵抗する為に、全身を魔力で強化しながら土下座を敢行し続けるセラフォルーは、殺されて堪るかと必死に叫び命乞いを始める。

「誰がそんな事をするかっ!? 良いから立て。ロキ神から話は聞いていると言ってるだろう? 酷い事も殺しもしないから立て」

 殺されて堪るかと必死に全身を魔力で強化し土下座しているセラフォルーを、コカビエルがなんとか怪我をさせない様に立たせようとするが、セラフォルーはロキから話を聞いたと云う下りに反応してしまう。

「違うの。違うのよ。このアムニスは盗んだとかじゃなくて、ロキがリラに渡せって! 私は悪い悪魔じゃないから!」

 そのセラフォルーの言葉に、あのいたずら好きの神にセラフォルーがからかわれた事に気が付いたコカビエルは、盛大な溜め息を付いた。

「ロキ神に何を吹き込まれたかは知らんが、地上に降りれない神の代わりに他者が何かを人に渡すのは稀に有る事だ」

 その言葉に土下座をしているセラフォルーは、ピクリと反応する。

「それに、俺は悪魔を視界に収めただけで命を奪う殺戮者ではない。俺が敵対しているのは人に害を為す存在のみだ。「汝殺す事なかれ」と神が仰っているのだからな」

 コカビエルは言葉に、セラフォルーは恐る恐る顔を上げる。

「殺さない? 本当に?」

 涙目でそう言ったセラフォルーに、コカビエルはゆっくりと頷く。

「ロキ神から聞いている。お前は魔法少女達を取り巻く環境をなんとかしようと足掻いていると、そんな者を殺すものか」

 その言葉に、心から安堵したセラフォルーは「良かった~ またあの子達と会えるっ」と安堵の声を漏らす。

「こっちに来い。腰掛けるに丁度良い石がある。そこで詳しい話を聞かせろ。堕天したとはいえ、迷える者の話を聞き、道を示し、その背を押すのが天使の務めだ」

 その真摯な態度と言葉にセラフォルーは頷き、薦められた大きな石に腰掛け、自分が見聞きし感じた事、全てをコカビエルに話し始めた。

 

 セラフォルーの話を聞き終えたコカビエルは、「成る程な」と一言口にした。

「まず、一つ。聞きたい。彼女達はお前に「助けて、救って」と一言でも口にしたのか?」

 コカビエルのその言葉に、セラフォルーは大きく目を見開く。

 何故なら、魔法少女達は誰一人、そんな事を言っていないのだから。むしろ、一人で全てを背負おうとして無茶をするセラフォルーに「大丈夫? セラお姉ちゃん無理してない? なにしてるか知らないけど、私達に手伝える事は無いの?」と言って、セラフォルーを心配し手伝おうとするぐらいだ。

「言われてない......むしろ、私を心配してた」

 小さなセラフォルーの言葉に、コカビエルは「そうか」と小さく返す。

「ならば何故、一人で背負おうとする? どんなに力が有っても一人でできる事など僅かなモノだ。一人より二人。二人より三人。人を見てみろ。彼等は団結し力を合わせ難事に挑み乗り越えている。お前達にも同じ事ができるはずだ」

 コカビエルに言われて初めて気が付いた簡単な事に、セラフォルーは頭を抱えた。

「私、バカだ。あの子達は弱くないのに、一人で背負おうとして......私の超絶残念ポンコツ娘!」

 自分の事を超絶残念ポンコツ娘と罵ったセラフォルーに、少し引いたコカビエルは言葉を続ける。

「力有る者は、得てして一人で解決しようとする傾向がある。だからあまり気にするな」

 頭を抱えながら「そんな事だから、ロキに残念無念とか猪突猛進とか言われるのよ」と呟いているセラフォルーに、コカビエルは優しい口調でそう言うが、とうの本人は全く聞いていなかった。

 そんなセラフォルーの様子に、コカビエルはわざとらしく大きな咳を付く。

「反省は彼女達に謝ってからにしろ。話はまだ終わっていない」

 コカビエルの咳に、ハッとしたセラフォルーは真剣な表情でコカビエルの言葉に耳を傾け、一言も聞き逃さないと心に決める。

「まず、お前がすべきは組織化だろう。情報の共有や必要な人材の派遣も容易くなる。自分と同じ魔法少女ならば相談しやすい事も有るかもしれん。なにより、組織化のメリットは、所属する魔法少女全員に、緊急通信と逃走用の簡易魔法陣を確実に渡せる事だ」

 コカビエルの言葉に、「緊急通信と逃走用の簡易魔法陣。それがあれば、すぐに助けを呼べるし、逃げる事も! なんで思いつかなかったの、私っ」と悔し気にセラフォルーが呟く。

「そして、組織の後ろ盾を持つ事だ。これは魔法少女達を連れて他の各神話勢力の主神達に会えば解決するだろう。人の世に成ってから神々は人との接触に飢えているからな」

 シトリー家の次期当主程度の立場しか持たないセラフォルーは「まって、無理よ。そんなの、私の立場はシトリーの次期当主程度よ? その程度で主神達が会ってくれるわけないじゃない」と口を出すが、コカビエルは「俺の名を出せば会えるはずだ。なんなら、俺も共に行こう」と断言する。

「なんで、そこまでしてくれるの? シトリーの跡取り程度にそこまでの価値は無いでしょう?」

 ロキに出会ってからコカビエルに会うまでの一連の都合が良すぎる展開に、セラフォルーは疑問の声を上げる。

「ん? ロキ神から聞いてないのか? 魔法少女の現状を憂いているのはお前だけでは無いと」

 そんな事は一言も聞いていなかったセラフォルーは「ふへ?」と間の抜けた声を上げてしまう。

「まず、ロキ神だが、かの神は北欧の悪神にして旅人を見守る神であり、魔法少女の守護者だ」

 あの目付きが悪くて、黒ずくめので、どこのチンピラやくざだと言いたくなるような神が、魔法少女の守護者である現実に、セラフォルーは固まる。

「次に俺だ。彼女達を取り巻く環境は十分承知している。しかし、俺には俺の戦いがある。こう言ってはなんだが、彼女達だけの力になる事はできん」

 一度言葉を切り、コカビエルは自身の不甲斐なさを嘆く。

「そして、ギリシャの聖闘士達や日本の葉隠れ。イギリスの円卓騎士団。ドイツのケルト騎士団。アメリカの騎兵団。彼等も同様だ。彼等には彼等の戦いがあり、魔法少女だけに意識を向けるなどできん」

 魔法少女達の事を思っているのは自分だけだと思い込んでいたセラフォルーは、自分の思い込みと今までの行動を恥ずかしく思い、転げ回り叫びたい衝動を必死に我慢する。

「他にも、ギリシャのヘスティア神やアスティカのケツァルコアトル神。日本のアマテラス神。インドのパールヴァティー神。メソポタミアのキングゥ神。様々な神々が彼女達の現状を憂いておられる。しかし、人の世に成ったが故にかの神々は自ら大きく動けん」

 コカビエルは真っ直ぐにセラフォルーを見据える。

「助けたくとも助けられない。救いたくとも救えない。力に成りたくともそうできない。そんな時、お前が現れた。悪魔で在りながら、真摯に、彼女達を救い守らんと足掻くお前が」

 その言葉に籠められた悔しさやもどかしさを感じ取ったセラフォルーは、グッと歯を噛み締める。

 自分より力を持ちながら、立場と責任により、思う事しかできない神々と、力を振るえる立場に居ながら十分に彼女達の力に成れないコカビエル達の悔しさに、その思いと悔しさを僅かでも知るセラフォルーは言葉を口にする事ができなかった。

「だからこそ、魔法少女の守護者であるロキ神が動いた。かの神は新たな守護者にお前を据えようとしている。地上で力を振るえ、長い時を生き、彼女達の為に本気で悲しみ、激怒し、共に喜びを分かち合える。そんなセラフォルー・シトリーと云う魔法少女をな」

 自分を魔法少女として認識していなかったセラフォルーは、コカビエルの言葉に「えっ?」と驚きの言葉を上げる。

「私は魔法少女じゃないわ。だって、彼女達のような魔法は使えないもの。それに、彼女達は人間で私は悪魔だし......」

 どれだけ焦がれても、どれほど憧れても、魔法少女には――あの少女達の様には成れないと思い込んでいるセラフォルーの言葉に、コカビエルは呆れた表情を浮かべる。

「神々や俺達は、お前を魔法少女として認識している。神々と俺達では足りんと思うなら、彼女達――魔法少女達に聞いてみろ」

 その言葉に、セラフォルーは俯いてモゴモゴと口を動かし「私が魔法少女じゃないのはわかりきった事だし、あの子達に、はっきりそう言われたら立ち直れないし......」と呟く。

「お前にとっての魔法少女の定義は知らんが、神々や俺達にとっての魔法少女とは、特異な魔法を使う者ではなく、誰かの為に必死に懸命に頑張れる少女だ。ならば、彼女達の為に必死に懸命に頑張れるセラフォルー・シトリーは立派な魔法少女だ」

 コカビエルの言葉に顔を上げたセラフォルーは潤んだ目を擦り、明るい笑みを浮かべる。

「わかったわ。とにかく、あの子達に心配させちゃった事を謝って、皆を連れて主神達に会う」

 見惚れる明るい笑みを浮かべているセラフォルーは断言した。

「独り善がりはお仕舞い。これからは、皆で頑張る」

 そう言い切ったセラフォルーに、コカビエルは優しい笑みを浮かべる。

「ああ。それが良い。お前は......いや、お前達は一人では無いのだからな」




なお、カリュウ・イウェーカー君の愛弓・アニムスは、カリュウ君が狩猟したジンオウガ・蛇王龍(ダラ・アマデュラ)・ナルガクルガ・ティガレックス・ドスファンゴ・閣螳螂(アトラル・カ)・ディアブロス等の素材を使った弓です
リアちゃんに受け継がれたアニムスは、そこから更にロキ神が手を加えた逸品
イウェーカー家には角王弓ゲイルホーンとゼノ=マブーラーが受け継がれている模様

ちなみに、カリュウ君愛用の鉈はバーンエッジへと進化して、ロキ様の手元にあります

バーンエッジを鉈と言い切る勇気
え? D×Dにモンハンモンスターは居ない? 転生特典に願えば大抵叶いますよ?

魔法少女頑張るは全2話の予定でした。しかし、余裕でどう頑張っても2万文字を超えてしまう為、分割投稿となりました。たぶん、後一話か二話で、魔法少女頑張るが終わる予定です
原作主人公と原作ヒロインはいつ出せるんだろう……

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