転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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子離れ出来ない神々と魔法少女の話


魔法少女頑張る 3

 コカビエルと別れてからのセラフォルーの行動は速かった。

 魔法少女達に謝罪して廻り、謝った魔法少女達に「なんで相談してくれなかったの!?」とか「セラお姉ちゃんのバカ! 頼りないかも知れないけど、私だってお姉ちゃんの力になりたいのに!」とか「そんなにあたし頼りない? 信じられない? もういい......セラお姉ちゃんなんて嫌いっ」等々と怒られたり泣かれたりして、魔法少女達の御機嫌取りと許して貰う為に必死に頑張ったり。

 なけなしの勇気を振り絞ったセラフォルーの「私、魔法少女を名乗って良いのかな?」と言う発言に、「え? セラお姉ちゃんは魔法少女だよ?」や「??? セラねぇは魔法少女でしょ?」とか「うん? え? セラお姉ちゃん魔法少女辞めるの? やだっ辞めないで」等の魔法少女達の言葉に、嬉しさの余りセラフォルーがガン泣きして、魔法少女達をアワアワとさせ慰められたり。

 魔法少女の組織を立ち上げて、魔法少女達を連れて各神話勢力の主神達に後ろ楯に成って貰う為に、コカビエルに神域に連れて行って貰おうとしたら、女の子が好きそうな可愛らしい花や綺麗な花がたくさん咲き誇り、ウサギやシジュウカラ等の可愛らしい小動物達やユニコーンやペガサスとグリフォン等の幻獣達がのんびりしていて、小さな可愛らしいお城が建っている異界に連れて行かれて、その光景にはしゃぐ魔法少女達を他所に、セラフォルーは死んだ目をしていた。

「なぁ~に? これぇ?」

 そんなセラフォルーに、コカビエルが申し訳なさそうにボリボリと頭を掻く。

「......ま、なんだ。人の世に成った結果、神々は人との直接的な交流に飢えていてな。俺は止めた。しかし、張り切りすぎた神々を止められなかった」

 どことなく遠い目をしているコカビエルは、はしゃぐ魔法少女達を見ながら言葉を続ける。

「この異界、全てを魔法少女達の拠点にするらしい。地上でなければ力は存分に振るえるからな......まさか、異界一つ新たに産み出すとは、俺も未だに信じられん」

 どうやって主神達を説得するか必死に考えていたセラフォルーは、想像以上に乗り気の神々の本気に「悪魔てさ、神の敵対者なんだけど......その悪魔が神々を説得て凄く難しいて考えて、必死に説得の言葉とか話の持って行き方とか考えてたんだけどなぁ......」とぼそりと溢す。

「そうか、それは頑張ったな」

 しみじみとした慰める口調のコカビエルの言葉に、セラフォルーは無言で頷いた。

「それに、私達悪魔は神々に敵対させて貰ってるだけなんだなぁて......幾重にも厳重に護られて、あの大神ゼウスと同等の力を持つテュポーンの愛娘のデルピュネー神がこの異界の守護者で、邪悪な存在は感知できない。もし知られて侵入しようとしたら、デルピュネー神が戦っている間に神々が直ぐに助けに来てくれる。そんな異界を簡単に作れる神々に正直、勝てる気がしない」

 神の敵対者たる悪魔の存在意義が、根底からぐらついているセラフォルーの姿から、コカビエルはそっと視線を逸らした。

「魔法少女として、魔法少女の守護者として、魔法少女の組織の長としての、初仕事だ。しっかりしろ。これから、神々との話し合いなんだぞ」

 視線を逸らしたままのコカビエルのその言葉に、惚けていたセラフォルーは自分の頬をパンと両手で叩き、気合いを入れる。

「うし。結果は正直分り切ってる気がするけど、あの子達のトップとして恥ずかしくない様にしなきゃね!」

 気合いを入れたセラフォルーが、ウサギやシジュウカラやユニコーンにペガサスと戯れている魔法少女達に声を掛けて、これから神々に会うから失礼の無い様にと言い聞かせている光景を、コカビエルは笑みを浮かべて見守っていた。

 

 小さな可愛らしいお城に入って大広間で待っていた神々と対面し、後ろ楯に成って貰う為に気合い十分のセラフォルーは、シトリーの次期当主として叩き込まれた完璧な一礼を決めて、儀礼の挨拶を口にしようとしたその時、ゼウスの「硬い挨拶はよい。それより、美味しい菓子やジュースを沢山用意した。存分に食べて飲みなさい」と云う言葉に、唖然とする事しかできなかった。

 目の前の広大なテーブルに、これでもかと並べられた、お菓子が山盛りに為った大皿と美味しそうなジュース。

 そして、テーブルに着いて自分達に優しい目と表情を向けている神々の「遠慮せずに沢山食べなさい」と言う薦めに、恐る恐る手を伸ばした魔法少女の一人が思い切って目の前のお菓子を口にし、「あ、凄く美味しい」と溢した途端、他の魔法少女達も恐る恐るお菓子を頬張り、口々に「美味しいっ」 「ふぁぁぁ」 「ねぇ、ねぇ、これ。すっごっく美味しいよ」と言いながらワイワイと騒ぎだし、そんな魔法少女達を見てホッコリしている神々のせいで、後ろ楯がどうのとか云う雰囲気が消し飛んでしまう。

「これ、どうすんのよ......どうすんのよ......」

 頭を抱えたセラフォルーに、どう言葉を掛けたら良いのか分からないコカビエルは、とりあえず目の前のジュースに口を付けた。

「セラお姉ちゃん。これ凄く美味しいよ。ほら! 食べて食べて」

 抱えてる頭を持ち上げ声のする方を向くと、赤みがかった髪をツインテールにした目の大きな幼い魔法少女リラが、満面の笑顔で「はい。あ~ん」と指先で摘まんだレーズンクッキーをセラフォルーの口許に運んでくる。

 差し出されたクッキーを「あ~ん」と口にしながら食べたセラフォルーに「すっごっく美味しいよね。このクッキー!」と嬉しそうに笑うリラの姿に、ホッコリして思わず「本当に美味しい」とセラフォルーが呟くと、ピョンピョンと小さく跳び跳ねて、首に下げているネックレス――小指の先サイズに小さくなったアムニスを揺らしながら、「だよね。だよね。すっっごっく! 美味しいよね!」と全身で喜びを表現しているリラに、セラフォルーは優しい笑みを浮かべる。当初の目的を忘れて。

 そんな魔法少女達の様子を見ながら甘いジュースをちびちびと飲んでいるコカビエルは、『まぁ、当初の目的とは違うが、初顔合わせと考えたら最高の結果か』と考えながら、ゆるふわ時空に巻き込まれない様に全力で気配を消し始めた。

 

 そんな気配を消したコカビエルに神々以外気が付かないまま、大広間は混沌と化して逝く。

 日本の最高神アマテラスの膝の上に座った白髪赤眼の魔法少女セレスが、アマテラスが手に持ったフォークに刺さったモンブランを「ふぁぁぁぁぁぁ」と幸せそうに食べ。

 ギリシャの大神ゼウスの隣に座った金髪ポニーテールの魔法少女クリスが差し出したチョコレートクッキーを、ゼウスが緩んだ顔をして食べている。

 アスティカの最高神代理の地母神コアトリクエは、片膝にチョコンと座っている黒髪ショートカットの魔法少女美夜子がコテンと首を傾げながら「地母神?」と言う質問に、ホクホク顔で「うむ。つまり、お前達の母と云う事だ」と返し、もう片方の膝に座っている金髪ボブカットの魔法少女ミーシャの「でも、私達のお母さんはコアトリクエさんじゃなくて、別のお母さんだよ?」と云う問いに、魔法少女達の触れ合いに蕩けていたコアトリクエが「うむ。そのお母さん達のお母さんだ」と発言した途端、美夜子の「お母さんのお母さん……おばぁちゃん!」や母親以外に身寄りの無いミーシャが「グランドマザー! 私にグランドマザーがいたのねっ」と喜んでいる姿に、一瞬微妙な表情をしたコアトリクエはキラキラとした二人の魔法少女の視線に「そうじゃ、そう。儂こそがお前達のおばぁちゃん。グランドマザーじゃ」とやけっぱちに宣言した。

 インドの最高神が一柱シヴァが「えっ? 本当に目からビーム出さないの? 英雄になりたいなんて理由で星を砕こうとしないの?」と疑いの言葉を口にし、黒髪ロングの魔法少女紗季がブンブンと首を横に振りながら「日ノ本での挨拶は、おはようございます。とか、こんにちは。です」とはなし、その言葉に「すげぇ、日ノ本すげぇ。人の世に成っても軽い挨拶が短勁で、正式な挨拶が龍神烈火拳やタイガーブレイクなインドとは格が違う……決めた。俺。日ノ本に亡命する」と決意表明したり。

 プリン一つで戦争を始めたメソポタミアの神々(バカども)にこの会談は任せられないと立ち上がり、甘いモノ目当てのメソポタミアの神々(バカども)の必死の抵抗を文字通り単騎で叩き潰し、最高神代理の座を捥ぎ取ったキングウは、お目当てのお菓子を食べる為にわざわざ自分の側にやって来てハムハムと食べ続けている白髪ポニーテールの魔法少女リニス。そのリニスと同様に当初の目的を忘れてお菓子に夢中になっている他の魔法少女達や久しぶりの人との直接的な交流を満喫している神々(バカども)に嘆息しながら、口の周りが汚れている事に気付いていないリニスの口の周りを優しく拭うと、リニスが「おじさん。ありがとう」と明るい笑みを浮かべる。

「リニスと言ったか。お前は、この会談がどんなものか覚えているか?」

 僅かに呆れを含んだキングウの言葉に、コテンと首を傾げたリニアは何かを思い出そうとするが目の前にあるプリンアラモードに心を奪われてしまい、テーブルに身を乗り出し大きめのプリンアラモードを取ろうと手を伸ばすが、ギリギリの処で手が届かずに「んっ。ん。あとちょっと」と必死に手を伸ばし始めた。

「危ないだろう。ほら、これか?」

 自分とは違う大きな手がお目当てのプリンアラモードを掴み取り、目の前に持って来てくれた事に「ありがとう。おじさん」とお礼の言葉を口にしたリニスは、プリンアラモードとの戦闘に没頭する

「このままでは、以前と何も変わらないのだがなぁ……」

 人の許し無しでは碌な力が振るえない神々が、魔法少女達のお願いと云う許しを得る為の会談。

 その会談が、ただの懇談会に終わりそうな気配にキングウは「どうしたものか」と小さい溜息を付いた。

 あくまでも、世の主権は人であり。人から神に対する願いであり許しでなくてはならない。だからこそ、神であるキングウから「庇護を求めに来たのではないのか?」と口に出来ないもどかしさに溜息を付きながら、こうなった原因に対し「ゼウス神よ。そんな事だから、お前は聖書の神に駄神などと言われるんだ」と小さく呟く事しかできなかった。

 

 ハムハムとプリンアラモードと戦っていたリニスが、ハッとした様に顔を上げる。

「みんな! お菓子食べてる場合じゃないよ! お願い! お願いしないと!」

 片手にプリンアラモードの器ともう片手にスプーンを持ち、口の周りにクリームが付いているリニスの言葉に、他の魔法少女達が「あっ」 「お願い?」 「お願いしなきゃ」と声を上げる。

そんな魔法少女達の声に我に返ったセラフォルーは、用意した説得の言葉を口にしようとするが、頭からすっかり抜け落ちている為、「えっと、その」としか言葉が出てこなかった。

「うむうむ。わかっておる。わかっておる。しかしのう。そのような話は、宴の後でもよかろう」

 久しぶりの人の子との触れ合いを早々に終わらせてたまるかと下心満載のゼウスの言葉と、キングウを除いた神々が口々に「その通りじゃ、ほれ。グランドマザーにもっと甘えても良いんじゃよ?」 「セレスちゃん。このチョコレートケーキも美味しいですよ?」 「あ~、もっと日ノ本の事を教えてくれないか? 色々と覚えないといけないからな」と引き延ばしに掛かる。

「なにをやっとるんじゃ。おぬし等は。この会談の重要性は知っておるじゃろうに」

 主神としての務めを終えて、大広間に転移の光と共に姿を現した北欧の主神オーディンの呆れを含んだ声に、隣に座っているクリスの頭を撫でながらゼウスが「聖書の神も主催者のロキも来ていないから、場を繋いでいただけだろう」と返す。

「聖書の神は不参加じゃよ。あやつはどこかの駄神と信徒達と悪魔どものせいで忙しいからのう」

 そのオーディンの言葉に、心当たりがある駄神が「うぐ」と声を漏らし、どこかの悪魔の一員はそっと視線を逸らした。

「ロキはこの世界に侵入しようとしたハスターの相手をしておる。その代わりに儂が来たんじゃ」

 視線を逸らしているセラフォルーの隣に座っているリラに視線を向けたオーディンは、「ふむ。さすがに面影は無いのぅ。じゃが、その芯の強き魂の輝きは確かによう似ておるわい」と優しい笑みを浮かべた。

「えっと、ありがとうございます?」

 オーディンの言葉の意味をよく理解できていないリラは、とりあえず褒められたと思いお礼の言葉を口にする。

「礼儀正しい良き子じゃ。ほれ、この老いぼれとそこなグウタラどもと内心で頭を抱えとるヘタレに話があるんじゃろ? 話してみなさい」

 そう言いながら、リラの隣の席に座ったオーディンは目の前のレーズンクッキーを一つ摘まみ、自分の口に放り込む。

「セ、セラお姉ちゃん。なんてお願いしたらっっ」

 オーディンに催促され、完全にセラフォルー任せにしていたリラは、慌てて隣に座っている頼りになる自慢の姉を見るが、「えっ? まって、ちょっとまって、今思い出すから、直ぐに思い出すから、だから、まって」と自分以上に慌てているセラフォルーを見て、『あっ、これ、私がしっかりしないといけないやつだ』と悟る。

 しかし、いざ自分が何か言おうとしても、言葉が出てこない為、他の魔法少女達を頼ろうと周りを見渡すが、全員が、自分と同じ様に何を言って良いのか分からずに、リニスが隣に座っているキングウに「えっと、お願いします?」と頭を下げてたり、紗季がシヴァに「お父さんになって下さい? あ、そうじゃなくて、お母さんになって下さい!」と勢い良く頭を下げてたり、美代子とミーシャの綺麗にハモった声で「「お願いします!!」」とコアトリクエに頭を下げてたり、ゼウスに「お父さんに、じゃなくて、お兄ちゃん、じゃなくて、えっと、うんと、とにかく! お願いします!」とクリスが頭を下げてたり、アマテラスの膝の上でセレスが「お姉ちゃん? になってください?」と恐る恐る頭を下げてたりと、さんざんな光景に、リラは『これ、本当に私が頑張んないといけないやつだ』と強く認識する。

 そんなリラだったが、もう一人の頼れる存在であるコカビエルを思いだし、「コカビエルさん! 助けて」とコカビエルが座っているはずの席を見るも、気配どころか存在感すら消しているコカビエルをリラは認識できずに、「コ、コカビエルさん? なんで居ないの......」と若干泣き出しそうな声を出してしまう。

 リラの言葉に、自分の隣に座っているはずのコカビエルの方を見たセラフォルーが、「えっ、嘘。見捨てられ......た?」と驚愕に彩られた声で呟いた。

 そんなリラとセラフォルーの様子に、我関与せずを貫く予定だったコカビエルの良心がズキズキと痛み、仕方なしに隠行を解いたコカビエルは、急に現れた様に見えて驚いている二人に対して小さい咳を付く。

「二人とも落ち着け。言うべき事、やるべき事は一つだろう。ならば、それをそのまま口にすれば良い」

 諭すコカビエルの言葉に、「そんな事を言われても、考えてた言葉が、頭から抜け落ちてて、どうしたらいいのかわかんないのよ......」と弱気になり俯いたセラフォルーを他所に、覚悟を決めた――ロキ曰く"頑迷で固くなで猪突猛進で考え無しの愚か者"の血と魂の残滓を受け継いだ少女リラが口を開いた。

「あの、私、神様の決まり事とかよくわかりません。でも、えっと、私達は魔法少女で居たくて、酷い事する怖い人とか居て、でも、私達は魔法少女で、沢山の人達の力に成りたくて、助けたくて、だから、えっと」

 支離滅裂で、たどたどしい少女の言葉に、神々は静かに耳を傾ける。

「その、魔法少女で居たくて皆の笑顔が大好きで、えっと、子猫! 迷子の子猫をお母さん猫の所に連れて行ったら、指を舐めてくれたんです! にゃあ。て鳴きながら、それに、小さい子が迷子になって、一緒にお父さんを探してあげたら、私にありがとう。て言ってくれたんです!」

 リラ自身、自分が何を言っているのか分からなくなってきても、必死に言葉を続ける。

「他にもですね、いっぱい。いっぱい。色んな事があって、辛い事とか、悲しい事もあったけど、でも、楽しい事とか嬉しい事も、たくさん。たくさん。あって。セラお姉ちゃんにいっぱい色んな事を教えて貰ったりして」

 言いたい事が、上手く言葉にできない悔しさともどかしさから、リラは涙ぐみながら言葉を続ける。

「だから、その、えっと」

 上手く伝えられない悔しさともどかしさから、ついにリラは泣き出してしまう。頑張ったリラの頭を優しく撫でたセラフォルーは、意を決して立ち上がる。

「今日、このような場を設けて下さった神々に感謝いたします」

 静かに確りと頭を下げたセラフォルーの表情は決意に満ちていて、耳を傾けてくれている神々の顔を見回す。

「神々の敵対者である悪魔の私が、このような事をお願いするのは可笑しな事なのでしょう。ですが、それを承知でお願い致します」

 深々と頭を下げたセラフォルーは、その体勢のままに、一言だけ口にした。

「お願い致します。どうか、私達、魔法少女の後ろ楯に成って下さい。この子達を、父や母。兄や姉として愛して慈しんで下さい」

 そのセラフォルーの発言の後、大広間は静寂に包まれる。

「なんじゃ、その程度で良いのか? 儂はてっきり、神代の頃の様に自重しない加護を寄越せと言われると思っておったんじゃがのう」

 オーディンの飄々とした言葉に、セラフォルーはガバリと勢い良く頭を上げる。

「しかし、なんじゃ、父・母・兄・姉か。つまり、アレかのう? 祖父枠が無いと云う事は、儂の様な老いぼれはイランと云う事かのう?」

 その茶目っ気のある言葉に、セラフォルーが「いります! 祖父・祖母枠ありますから!」と慌てて口にする。

「そうか、そうか、ならば」

 一度言葉を区切り、姿勢を正し、好や好やしたお爺さんの雰囲気を消し去り、神としての威厳を放つ。隣に座っているリラが神の威に当てられ、ビクリとして流れていた涙が止まり、同じく神の威に当てられたセラフォルーと一緒に「あわわわ」と怯えているのを構わずに、言葉を発する。

「北欧の主神たるオーディンが誓おう。宣言しよう。今日。これより先、全ての魔法少女達は全て儂の孫である。と」

 その発言の後、元の好や好やしたお爺さんに戻ったオーディンは、「おお、すまんのう。脅かせてしまったか? おお、よしよし。もう怖くはなかろうて」と言いながら、怯えているリラの頭を優しく撫でた。

「うむ。お詫びと言ってはなんじゃが、神としての務めの合間にこの異界でルーンを教えてやろう。なに、じじいと孫の触れ合いじゃ。誰も文句は言わまいて」

 ちゃっかり今後も魔法少女達と触れ合う機会を確約したオーディンに、キングウを除いた神々は思った『その手が有ったかっ』と。

「インド神話が主神の一柱。シヴァが宣言する。これより先、全ての魔法少女は私の娘であると。男神故に、母親には成れぬが、父親なら成れるであろうよ」

 隣に座っている顔が真っ赤な紗季の頭を撫でながら、シヴァが宣言した。

「私は踊りの神でもある。娘達に舞を教えるのも一興か」

 しれっと、今後も魔法少女達と会うと言っているシヴァに、キングウを除いた神々が先を越されたと歯噛みをする。

「アスティカ神話、最高神代理の地母神コアトリクエが宣言しよう。これより、儂は全ての魔法少女の祖母。グランドマザーであると」

 自分の片膝にチョコンと座っている美夜子とミーシャを優しく抱きしめ、コアトリクエがはっきりとそう宣言した。

「そう言う訳じゃから、儂に甘えたくなったら、いつでも、この異界で儂の名を呼ぶと良い。すぐさま駆けつけて抱きしめてやろう」

 恐る恐る自分の服を握ってくる二人の少女を愛おしく思いながら、アスティカ神話の地母神は母の如き無償の愛に満ちた笑顔を浮かべた。

「日本神話の主神アマテラスが名において誓いましょう。私は全ての魔法少女の姉であると。この誓いが如何なる事が有ろうと破られる事の無い不破の誓いであると」

 自分の膝の上で「お姉ちゃん?」と見上げてくるあざといセレスに、鼻から姉力(あねちから)が吹き出しそうになるのを我慢しながら、アマテラスは言葉を続ける。

「そう言う訳ですので、アマテラスお姉ちゃんに甘えたくなったり、相談したいことが有れば、いつでもこの異界で呼んでくださいね? なにがなんでも直ぐに駆けつけますから」

 可愛げが全くない二人の弟よりも、遥かに可愛らしい妹達との戯れを妄想したアマテラスの鼻から、零れ出た姉力が僅かに姿を現した。

「ギリシャ神話が主神。ゼウスが不破の誓いを立てよう。これより先の魔法少女達は全て、儂の子である事を。いつ如何なる時代においても、この誓いが破られ違える事が無い事を此処に誓う」

 自身が目にかけていた人間――初代神官戦士セルスの血を引く唯一の少女クリスに微笑みながら、ゼウスは宣言した。

 セルス亡き後も、どれほど貧しい生活に成ろうとも、一年に一度は必ず自分への慎ましくも細やかな祭事を真心を込めて行っていた一族の末裔。人の世に成ってから起こった人同士の戦争により行方知れずとなってしまった、自分に全力の信仰を捧げてくれたセルスの末裔。人との約束、世界との契約を破ってでも探し出そうかと何度も悩んだ末裔が、今、自分の隣に座り、言葉を交わせる幸せを噛みしめ、その機会を作る切っ掛けを、その唯一の末裔の為に心を砕いてくれたセラフォルーと云う魔法少女に感謝しながら、ゼウスは万感の思いを乗せて言葉を紡ぐ。

「何が有ろうと――この子ら。いや」

 セラフォルーを真っ直ぐに見詰めて、ゼウスは言葉を続ける。

「何が有ろうと、例え、人の子らとの約束。世界との契約を破り。この身が滅しようとも、儂はお前達の味方であり、父である事を約束しよう」

 余りにも重すぎる言葉に、セラフォルーを始めとした全員が息を飲む。

「まぁ、なんだ。それぐらいの覚悟だと思ってくれれば良い。だから、俺の事は気軽にお父さんと呼んでくれ」

 重くなってしまった空気を和らげようと、ゼウスはウィンクをするが、まっったく効果が無い事に、どうしたものかとボリボリと頭を掻かじる。

「居なくなったらいや……お父さんとお母さんみたいに、居なくならないで」

 そう言いながら、ゼウスの服をギュッと掴んできたクリスに、ゼウスはクリスの存在を知ってから部下に調べ上げさせたクリスの生い立ち――父と母との死別。天涯孤独で身を寄せる孤児院でも、歓迎されずに孤独である事を思い出し、震えるクリスを優しく抱きしめて自分の膝の上に乗せる。

「安心せい。俺は大神ゼウスだ。その俺が容易く居なくなるものかよ。大丈夫だ。俺に会いたくなったら、この異界で俺を呼べば良い。何時でもこうして、クリスを抱きしめてやろう」

 震えながら自分の服をギュッと掴んで離さないクリスの背を、優しくなでながらそう言い聞かせるゼウスの表情は間違いなく父の顔だった。

「ふむ。最後は俺か」

 ワザと空気を読まずに発言したキングウに、ゼウスは小さく頭を下げる。

「さて、リアだったか。お前の支離滅裂でたどたどしい言葉は、我々の心に届いた」

 泣き腫らし真っ赤になった眼を擦っているリラに、キングウは優しく微笑む。

「次に、悪魔である事を悩み、気後れしているセラフォルー・シトリーよ。あまり我々神々を侮ってくれるな」

 突然投げかけられた言葉に戸惑っているセラフォルーに、キングウは不敵に笑う。

「人の子で在ろうが、悪魔で在ろうが、我ら神々にとってそう変わりはない。神が見るのは其の在り様。生き様だ」

 神の言葉に真剣に耳を傾けているセラフォルーに、キングウは父性溢れる笑みを浮かべる。

「メソポタミア神話が最高神代理、キングウが断言しよう。セラフォルー・シトリーは嘘偽りなく、まごうことなき魔法少女だと」

 改めてはっきりと自分が魔法少女だと言われたセラフォルーは、両手を口に当てながらボロボロと泣き出す。

「この裁定を不服とし、不遜にも異議を唱える者あらば、このキングウ自ら、その者にあらゆる手段を用いて神罰を下す事を確約しよう。なに、人の世とは言え、軽い神罰程度ならば幾らでもやりようはある」

 妹分のリラにヨシヨシと慰められているセラフォルーに微笑みながら、キングウは言葉を続ける。

「メソポタミア神話が最高神代理、キングウが宣言しよう。お前達魔法少女は我が愛すべき妹だと」

 一度言葉を区切り、ゼウスにしがみ付いているクリスを見る。

「クリスよ。そなたの身を寄せる孤児院は、金目当ての劣悪な孤児院だ。すでに我が神官に現状の改善を命じている。安心して孤児院に帰るが良い」

 次にコアトリクエの片膝にチョコンと座っているミーシャに視線を移す。

「ミーシャよ。そなたが、母子家庭で、そなたの為に働きづめの母親に申し訳ないと思っている事は承知している。その原因たる役人の不正も把握している。我が神官がすでにその不正を暴く為に動いている。時間が掛かるだろうが、不正が暴かれるまで、お前が母親を支えてやれ」

 そのキングウの言葉に、ゼウスとシヴァが声を荒げた。

「まて、なんだそれはっ! 自分だけ好感度爆上げイベントこなすとかっ!」

「そうだっ! ゼウスじゃないが、ずるいだろっ!! だいたい、人の子との約束とか世界との契約はどうなった! 神官に指示とか破りまくりじゃないかっ!!」

 そんな負け犬の遠吠えを、キングウは鼻で嗤う。

「言った筈だ。やりようなど幾らでも有ると。ましてや、こうして人の子の許しを得たのだ。それこそ、取れる手段など幾らでも有る。古き神を見縊るなよ?」

 人の子に"ヘタレ"だの"弱虫"だの云われても、人の子らを愛し続けた古き神は、余裕の態度で若い神の反論を叩き潰す。

「さて、成すべき事は成したのだ。後は宴の時間としよう。存分に飲み食いすると良い。我が愛しい妹達よ」

 古き神は、新しい神々と愛しい魔法少女達に対し、高らかにそう宣言した。




さぁ、次は現代編。ジャネットとジョージがセラフォルーと出会った話だ

本当にいつになったら、原作主人公とヒロイン出せるんだ……

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