転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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Q「なんで、堕天使から天使に戻すシステムを作ったんですか?」

A「仕事が嫌になって、逃げだした。アザゼルとかを捕縛して、働かせる為です。あと、堕天すれば、仕事から逃げられると甘えている天使達に、現実を教える為に、様々な勢力の協力の元に作り上げました」byミカエル
 


魔法少女頑張る 5

 ジョージをミルたんに丸投げしたセラフォルーは、メソポタミア神話のキングウ神と面会していた。

「と、言い訳で良い知恵を貸してください」

 粗方の事情を話終えて深々と頭を下げるセラフォルー。アポも無しにいきなりやって来て、知恵を寄越せと宣う残念ポンコツ娘に、キングウは深い溜め息を付いた。

「お前はナニを言っているのだ? その程度の事に我々神が動けるはずが無いだろう? それは人の領分であり、神の領分ではないのだ。今は、神代ではなく人の世で有る事を忘れるな」

 神の理を説かれたセラフォルーは、グッと言葉が詰まる。

「でも、軽い神罰なら、問題ないんでしょう? なら、知恵ぐらい貸してよ」

 一瞬、言葉に詰まりながらも食い下がるセラフォルーに、キングウは呆れた目で、セラフォルーを見下ろす。

「神罰を下せるのは何らかの理に背いた者だけだ。そして、神と人の領分を守らないのであれば、なんの為に、世の主権を人に渡したか分からなくなる」

 神としての言葉に、セラフォルーは何も言えずに立ったまま、拳を握り締める事しかできなかった。

「セラフォルーよ。お前はどう足掻いても、残念ポンコツ娘だ」

 唐突に残念娘と言われ、「なっ! 私、頑張ってるのにぃ!?」と、プリキュアのトップとして朝早くから夜遅くまで、頑張っているセラフォルーが大声を上げた。

 後ろ楯の神々に渡す報告書と云う名の、魔法少女達の活動を記録した書類制作とその活動光景の動画編集。

 魔法少女達に持たせる、可愛いマスコット風の通信能力・転移能力・撮影能力を持った使い魔を、錬金術でコツコツと制作。

 魔法少女達とその家族の様々な相談の対応。

 神々から渡された、顎が外れる程の、湯水の如く浪費しても使い切れない膨大過ぎる運営資金――それこそ、プリキュアに所属している魔法少女達全員に、給与と云うお小遣いを与え。世界中で何らかの虐待・迫害を受けている子供達を助けて周り、ひたすらにプリキュアで保護し続けて。孤児院や真面目に活動している慈善団体に寄付し続けても、減るどころか徐々に増え続け、「もう、要りません」と断っても「いいから。受け取りなさい」と渡される資金の管理・運営。

 プリキュアに所属していない魔法少女の勧誘と、その家族の説得。

 それらを、プリキュア立ち上げ時期は、一人でヒイヒイこなし。リラ達初期メンバーが大人に成ると幹部として運営の手伝いをしてくれる様になり、徐々に大きく成る組織を、「つかれたー」 「まだ、終わんないー」 「これ、セラお姉ちゃんが一人でやってたんだよね......」 「私達のお姉ちゃんて、やっぱり、凄いね」とか言いながら一緒に運営して、リラ達が正式に引退したら次代の魔法少女達に引き継がれ。

 そうやって、魔法少女達と歩み続けていたセラフォルーは、少しぐらい評価してくれても良いじゃない。と思いながら、『あ。でも、超絶と無念がなくなってる!』と喜んでしまう。

「良いか。セラフォルーよ。お前の欠点であり、最大の長所は、ガムシャラな処だ。ならば、小難しい事など考えずにガムシャラに動け。プリキュアのトップとして小賢しく在ろうとするな。問題が発生したならば、皆で解決すればよい。それで駄目ならば、我々がどうとでもしてやる」

 優しく言い聞かせるキングウの言葉に、セラフォルーはしばらく考え込んだ後、キングウを見据える。

「本当に、それで良いの?」

 その確認の言葉に、キングウは不敵に笑う。

「なにを今更。お前は、魔王就任の話を蹴り、シトリー継承権を放棄した。それが起こした問題を誰が解決したと思っている? お前はお前のまま、好きに動け。それが、お前を慕うあの子等の為に成るであろうよ」

 キングウの言葉に、セラフォルーがニヤリと笑うと右手の掌を上にしてキングウに差し出す。

「聖書勢力の天界に行くから、紹介状か私が敵じゃ無い事を示すモノを頂戴」

 差し出された右手を見たキングウが、「ふむ」と考え込むと、「ならば、これをくれてやろう。返却は不要だ。好きに使い捨てるが良い」そう言うと同時に、セラフォルーの右腕を全体が澄んだ蒼色で白のラインが複雑に走った籠手が包み込む。

「これが有れば、天界に入れるの?」

 自分の右手の甲から肘までをすっぽりと包み込んだ、西洋の騎士が身に着ける武骨なガントレットを見ながら、セラフォルーがそう聞くと、キングウは頷いて肯定する。

「無論だ。その籠手は私の儀礼用装束の籠手。その籠手を身に着けた者を害すると云う事は、私に対する宣戦布告と同義なのだからな」

 人の語るメソポタミア神話で、ヘタレだの弱虫だの言われていても、実はメソポタミア神話勢力で最強クラスの実力者であるキングウの儀礼用の籠手の意味と重さに気付いていないセラフォルーは、暢気に「なら、これが有れば大丈夫ね」と気楽に言い放つ。

「当たり前だ。その籠手を着けている間は、私の権威の代行者なのだからな」

 大した事ではない。と云わんばかりに告げられたキングウの言葉に、セラフォルーがビッシリと固まる。

「それってつまり、この籠手は名代の証?」

 その言葉にキングウが頷いた途端、漸く、身に着けている籠手の意味と重さを理解したセラフォルーは、「はへ?」と間の抜けた声を出して、マジマジと蒼色の籠手を眺める。

「無論。ソレを身に着けている時に、お前がやらかした事は、我が責任に成る」

 キングウは不敵に笑う。

「なに、最悪、戦争に成ったとしても、私が勝つ。だから、気兼ねなく好きに動け」

 優しく言い聞かせるメソポタミア神話の軍神の言葉に、セラフォルーは呆然としてしまう。

「こんな物騒なのいらないわよぉ!?」

 いきなり、メソポタミア神話勢力の神の名代にされたセラフォルーは、冗談じゃないとばかりに、必死に腕に着いている籠手を外そうとするが、びくともしない。

「なんだ? その籠手では不服か? ならば天の石版が良いか?」

 メソポタミア神話勢力の権威の象徴の1つである"天の石版"を、平然と気軽に渡そうとしてくるキングウに、「もっといらないからぁぁ!?」とセラフォルーは叫んだ。

 

 すったもんだの末、渡された籠手をなんとか返却して、押し付けられそうになった天の石版を押し返し、必死にもぎ取ったキングウ直筆の――「コイツは俺の妹だから、なんかしたら、即、戦争な。後、なんか聞きたいらしいから、素直に答えろ。答えなければどうなるか分かるよな? 分かるだろ?」と云う内容が小難しく長々と書かれている書状と、その書状が本物である事を示す神剣を片手に、どこか草臥れたセラフォルーは天界に赴き、その書状とキングウの神剣を見た天使に丁重に扱われて、華美な応接室で天使長ミカエルと対面していた。

「メソポタミアの神。キングウ神の書状は拝見しました。その上で、問わせて下さい」

 何故か、目の下に酷い隈が有り、疲労困憊なミカエルの言葉に、セラフォルーは『そんなに疲れるぐらいの問題でも、有ったのかしら......だとしたら、間が悪かったわね』と考えながら頷く。

「貴女は、天界との戦争を望んでいるのですか?」

 書状の内容とその証が神剣。どう考えてもケンカ売ってるだろ? な状況に対する率直なミカエルの言葉に、そう言われる事を薄々理解していたセラフォルーは遥か遠くを見詰める。

「そんなつもりは無いわ。ただの確認よ」

 遠くを見詰めながら、フッ。と疲れた笑みを浮かべるセラフォルーに、ミカエルは疑いの視線を強めた。常識的に考えて、確認の為だけに、あんな書状と神剣は必要ないのだから。

 物騒な内容の書状と軍神の神剣。そして、敵地に単身で乗り込んで来て、目の前で不敵な態度を取っている、魔法少女組織プリティー・キューティー・アライブのトップであり、悪魔種族のセラフォルー。そのセラフォルーが天界関係で確認したい事。

 この3つから、とある事――聖書の神の不在。プリキュアの後ろ楯である神々からその事を聞いて、ソレを確認しに来たのかと、推理したミカエルは戦慄した。

 偽りを口にして、騙せば――真実を知るメソポタミアの軍神であるキングウ神の怒りをかう。

 神の不在だけを明かして、狂信者達の蛮行と狂った祈り等から逃れる為に、崩御した事にして、地上で療養をしている聖書の神の事を隠しても、同様に怒りをかう。

 ならば、本当の事――狂信者の蛮行と狂った祈り。人の子と悪魔のやらかしの対応。祖竜や古竜を始めとしたモンスターの対応。クトゥルフ神話勢力の対応。駄神ゼウスが原因の神器問題。それらに依って発生したストレスと疲労が神代の時代から蓄積され、遂に吐血が止まらなくなり、それを心配した全神話勢力の主神達による、やらかしまくった悪魔襲撃と仕事から逃げ出した堕天使達の束縛を二次目的とした、聖書の神の死を演出する為の冥界襲撃を説明すれば――絶滅の危機まで追い込まれた悪魔は怒り狂い、最悪は戦争が起きるだろう。

 そこまで考えたミカエルは、『ああ。ですが、全部話してしまって、いっその事、苦労の原因の1つである悪魔を完全に排除して、仕事が嫌で逃げ出した堕天使を天界に連れ戻すのも有りですね』と思い直し、ニタリと黒い笑みを浮かべる。

 黒い笑みを浮かべるミカエルを不気味に感じていたセラフォルーだが、ミカエルの頭上の光の輪が消えて往くのを目撃し、「頭! 光の輪が消えてっ!」と消えて往く光の輪を指差しながらそう言うが、当のミカエルは「ああ。大丈夫ですよ。少々、黒い事を考えてしまって、堕天しただけですから」と何でもない事の様に言い切った。

「全然大丈夫じゃ無いじゃないっ! なんでそんなに暢気にしてんのよ!? それに、堕天するぐらい黒い事てナニ!?」

 自分の事の様に慌ているセラフォルーを見て、毒気が抜けたミカエルがのんびりした柔和な表情を浮かべる。

「天界には、堕天使を天使に戻すシステムが有ります。そのシステムを使えば、元に戻りますから。安心してください」

 さらりと、とんでもない事を口にしながら、ミカエルは言葉を続ける。

「それと、どんな黒い事。との質問ですね。ああ、これは、天界の重要機密なのですが、あの書状を見せられたら、喋るしか有りませんね! ええ、仕方ありません! あ、これ。言い触らして結構ですよ? 此方から、口止めとかをできませんし。その方が此方も色々と都合が良さそうなので」

 嬉々としてそう言ったミカエルに戦慄しながら、聞いたらヤバイ。と即座に理解したセラフォルーは両手で耳を塞ぎ、「聞きたくないから! 私が聞きたいのはそーゆー事じゃないからっぁ!?」と必死に叫んだ。

 そんなセラフォルーに暗い愉悦を感じながら、ストレスと疲労でぶっ壊れているミカエルは、ニコニコと笑いながら口を開く。

「簡潔に言ってしまえば、かの聖書勢力の冥界で起きた三つ巴の大戦は、主が――聖書の神が、死んだ振りをする為の壮大な茶番劇なんです」

 ミカエルの言葉に、セラフォルが「は?」と小さく短い声を出す。

「ですから、悪魔に甚大な被害を与えた。かの大戦は、茶番劇だったんですよ」

 朗々と紡がれるミカエルの言葉に、セラフォルーの瞳孔が徐々に開いていく。

「でも、仕方ない事だと思いませんか? 教徒達の蛮行と狂った祈り等に頭を抱えて、信徒達のやらかしで他の神話勢力にひたすら謝り続け、ゼウス神のせいで発生した神器問題の対応にひたすら追われて、他の勢力があまり対応しようとしないクトゥルフ神話勢力に苦心している処に、貴女達悪魔のしでかしの対応」

 朗々とコンコンとしみじみと語られるミカエルの言葉に、思い当たる節が有りすぎるセラフォルーの瞳孔が、スーと元に戻る。

「その結果。主は神経性胃炎を患い。最後には吐血が止まらなくなり、常時。口から血を流す様に成りました」

 ミカエルが語る衝撃の言葉に、嘘を言っていない事を見抜いたセラフォルーの瞳が困惑に揺れた。

「それを知った他の神話勢力の主神達の提案で、冥界襲撃の茶番劇を実行したのです。実際、医療の神であられる保生大帝神の診断では、命の危険が有ったそうです。そして、茶番劇を終えた主は、神としての力を自ら封じ、神の責務等から離れ、地上で療養をしています」

 その言葉に、セラフォルーは更に困惑し「神が神経性胃炎で死ぬ? 地上で療養中?」と呟くと、その言葉を聞いたミカエルがゆっくりと頷く。

「それから、大戦に乱入した二天竜は、他の神話勢力の主神達が、眠っていた処を叩き起こしたそうです」

 自分達プリキュアの後ろ楯である主神達が、悪魔にした仕打ちに、セラフォルーは更に困惑してしまう。

「待って、もしかして、悪魔はそこまで疎まれてたの?」

 しかし、自分の同族の行いに強い怒りを覚えた事のあるセラフォルーだからこそ、その可能性を口にできた。

「その通りです。貴女達悪魔を根絶するか。それとも、二度と出て来れない異界に封じるか。全神話主神会議で議題に上る程に、疎まれていました」

 至る所で、好き勝手やりたい放題していた悪魔の悪行を、実際に見て来たセラフォルーは『やらかしてるのは知ってたけど、やらかしすぎよぉ』と内心で頭を抱えた。

「えっと、それを私に教えてどうするの?」

 予想してた反応と違う事に、ミカエルの目が動揺に揺れる。

「えっ、理不尽な理由で、貴女達悪魔は攻められ、窮地に陥ったんですよ? こう、ふざけるな。とか、なんだそれは。とか、ないんですか?」

 プリキュアのトップとして、後ろ楯の神々に鍛えられ、魔法少女達と長年歩み続けたセラフォルーは冷静に切り返す。

「そりゃ、何もそこまでしなくて良いじゃない。て思うわよ? 言いたいわよ。でも、私達悪魔は客観的に見ると、種族全体として、滅ぼされても文句を言えない事をしてるんだもの。それを無視してそんな事を言ったら......私は二度と、あの子達の姉を名乗れない」

 真っ直ぐに自分の目を見て、強い意思を込めた言葉を吐いたセラフォルーに、ミカエルは自分の思惑が完全に潰えた事を理解する。

 目の前の女悪魔は、"あの子達"の姉で在る為に、どんな事が在ろうとも誇り高く有り続けるだろう。

 それこそ、この事実を使い。再び大戦を起こしたとしても、目の前の女悪魔が、必ず、目的を達成する前に終わらせてしまう。

 そう確信したミカエルは、溜まりに溜まった疲れを吐き出す様に、深い溜め息を付いた。

「はぁ~ この事実を知った貴女が激昂して、悪魔陣営や堕天使陣営に話を持って行き。更に此方で情報を操作して、大戦再開。そして、悪魔を撃滅して堕天使を捕縛するつもりだったのですが......当てが外れましたね」

 事も無げに、とんでもない計画を口にしたミカエルに、思わずセラフォルーが「こわっ!? 天使長がそんなに黒くて良いの!?」と口走った。

「はっ。療養中の主の仕事の代行に天使長としての仕事。ただひたすらに、信徒達のやらかしの苦情に頭を下げて、悪魔のやらかしの対応をして、神器の暴走等による問題の対応に追われる。そんな私が、これが初めての堕天だとでも? 腹芸・策謀できずに、天使長が務まる訳がないでしょう」

 その荒みきった表情と言葉に、セラフォルーが、「うわぁ」と呟く。

「さて、聞きたい事はもう無いですね? 私は仕事に戻らせて貰います」

 腰を下ろしていたソファーから立ち上がろうとしたミカエルに、聞きたい事を何も聞いていないセラフォルーが「え?」と口にし、てっきり"聖書の神の不在"と"大戦の真相"が聞きたい事だと思っていたミカエルは「えっ?」と言葉を溢した。

「貴女の確認とは、神の不在と大戦の真相なのですよね?」

 あんな書状と神剣を必要とする確認なんて、それ以外に思い付かないミカエルの言葉に、セラフォルーはゆっくりと首を左右に振る。

「違うわよ。と云うか、知りたくなかったわ......」

 神代の時代からの武勇伝(やらかし)――

 "どこそこの神のお気に入りの女神官を連れ去り、心を壊してやった"

 "どこそこの神への捧げ物を作った人間を殺し、その捧げ物を奪ってやった"

 "人間の町に流行り病を撒き散らした"

 "どこそこの神が出掛けてる間に、宝物庫から秘宝を根こそぎ盗み出した"

 等々を社交の場で自慢気に話す悪魔達を思いだし、『そんな事ばっかりしているから、滅びを望まれるのよ......』と嘆息しながら、セラフォルーは言葉を続ける。

「私が確認したかったのは、ジャンヌ・ダルクの魂が天国に居るかどうかよ」

 物騒な内容の書状と軍神の神剣を、そんな確認の為だけに用意したセラフォルーを、ミカエルは得たいの知れないナニかを見る様な目で見る。

「なによ、その目。私がどれだけ頑張ったと思ってるのよ!? それともナニ? 儀礼用装束とは名ばかりの戦装束で、神剣を腰に佩いて、長盾を右手に着けて、背中にハルバートをゴツくしたの背負って、天の石版を胸に着けた姿で、天界に来た方が良かったて言うの!?」

 その言葉を聞いたミカエルの、うわぁ......ナニ言ってんの......コイツ。と云わんばかりの視線に、セラフォルーが必死に「嘘じゃないわよ! 本当なの! 信じなさいよ!」と喚くが、キングウが争いを好まない神である事を知っているミカエルは、セラフォルーの言葉を全く信じずにスルーする。

 そのキングウが、魔法少女()達に対して、超過保護である事を知らずに。

「それで、ジャンヌの魂の所在ですが......何故、その様な事を?」

 自分が忙しさにかまけて、正しく導けなかった故に、ジャンヌが"ああ"成ってしまったと思い込んでいるミカエルは、『辛い思いをさせてしまったあの子に、害を成す気なら......』と、鋭い視線をセラフォルーに向けた。

 その鋭い視線を受けながら、『ふ~ん。そこで、保護者の視線なんだ』そう冷静に分析したセラフォルーは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ジャンヌの転生体を自称する子が居るのよ。その子が本当に転生体なのか知りたいの」

 聖女と名高いジャンヌ・ダルクの転生体。それを名乗ると云う事は、自分から碌でもない事を招き入れる事だと考えたセラフォルーは、ジョージの妹であるジャネットに間違った対応をしない為に、どうしても、本当にジャンヌの転生体なのか。もしくは、自称してるだけなのか。を知りたかったのだ。

「考えなくても分かるでしょ? あのジャンヌの転生体を自分で名乗ってるのよ? 中世で思考が止まってる悪魔が、それを知って放置すると思う? 喜び勇んで、その子を連れ去り好き勝手にするでしょうね。貴方のところの狂信者が、それを知ってナニもしないと思うの? 確実に抱き込んで、利用するわ。クトゥルフ神話勢力なら、喜んで邪神の生け贄にするでしょうね。このままなら、絶対に碌な結果には成らないわ」

 身を護ってくれる後ろ楯か組織の庇護無しでは、どうあっても碌でもない事に成る。はっきりと言い切ったセラフォルーに、ミカエルは苦々しい表情を浮かべる。

「自称をしているのですか......何故、そんな愚かな事を......」

 想定すらしていなかった状況に、ミカエルは、考えが甘かったと自分を攻めながら、結果的にそうするしかなかったとは云え、己の浅はかさを呪う。

「答えて。ジャンヌ・ダルクの魂はどこ?」

 セラフォルーの有無を言わせぬ強い口調に、ミカエルが口を開く。

「恐らく。その子は、ジャンヌの転生体なのでしょう。実際に見てみなければ、明言はできませんが......」

 そして、ミカエルから語られるジャンヌ・ダルクの転生の理由――

 攻城兵器である大砲を人間相手に容赦無く撃ち込み、味方の砲撃の雨の中、「神の加護はここにありて! 全軍突撃!」と先陣を切って突撃したり。「異教徒死すべし。慈悲はある。悪魔死すべし。慈悲はない」とフランスで暴れるだけ暴れ廻り。最後にはフランス王家と教会から「手綱握るとか、もうムリィィ」と火刑に処され。

 死後は、聖書の神に懇々と常識を説かれ、説教を受けても、逆に聖書の神の胃にダイレクトアタックをやり続けて。最後には、弥勒菩薩と聖書の神が共に、長期間に渡る説教をしたが効果は無く。"邪神"だの"偽りの神"だの"魔神"だの言われ続け、疲労困憊に成った弥勒菩薩の「黒歴史持たせて転生させようゼ」との勧めと、通常のまっさらな魂にして転生させると、95%の確率で前世同様の狂信者と成り。残り5%はそれ以上の狂信者に成る。との弥勒菩薩の言葉に、仕方なく、記憶だけを保持した状態で転生させた。

 それを聞いたセラフォルーは、思い切り頭を抱えた。『思っていた以上に、メンドクサイかもしれない』と。

「つまり、ジャネットちゃんはジャンヌ・ダルクの転生体で、幼いから前世の記憶に振り回されてる。その可能性が高い。と?」

 頭を抱えながらそう言ったセラフォルーに、ミカエルは無言で頷く。

「とにかく、確認作業をしましょう。ジャネットちゃん自身が変わらないと、虐めの解決は難しいわ」

 "虐め"の言葉にミカエルが、クッワッと両目を見開く。

「待って下さい! もしかして、その子は前世の記憶が原因で虐められているのですかっっ!?」

 そのミカエルの反応に『ああ、やっぱり、保護者枠なのね......』と妙な納得をしたセラフォルーは、取り敢えず、ミカエルにぶっとい釘を刺す為に「余計な事をしたらダメよ。天使長の貴方が何かしたら、聖女認定受けるかもしれないし」と口にするが、ミカエルが即座に「大丈夫です。今の私は堕天使ミカエル。いえ、堕天使ミハイルですから」と口走った。

 

 言い訳にすら成っていない事を口走りながら、「私は嘗て、ジャンヌを見殺しにしてしまいました。ならば、今度こそ、あの子の味方で在り続けなければなりません!」や「貴女に言われなくても、その子とジャンヌが別人である事ぐらい分かっています。しかし、魂は同一。ならば、守護天使......いえ、守護堕天使として、その子を護り導かなければならないのです!」と主張するミカエルを、最終的に説得(物理)(ボディーブロー)をして黙らせたセラフォルーが、「人の話を聞きなさい! この駄天使! 私が、どんだけ、虐めとか虐待を解決してきたと思ってんの!? そうやって、原因とかを疎かにして的外れな行動をしたら、苦しむのは被害者なのよ! 良いから、私に任せなさい!」と言い聞かせて、お腹を押さえながら踞り「で、ですが......」と抵抗するミカエルの頭をグワッシと掴み、「アイアンクロー!? いだだだだ。私は天使長ですよ!? 貴女は何をしているか分かってるんですかっ!?」そう喚くミカエルを、「貴方は、ダメ天使長で十分よ」と切り捨てたセラフォルーは『大丈夫よ。後の事はオーディンお爺ちゃんやキングウ兄さんが、なんとかしてくれる。してくれるはず』思わずやってしまった事に若干後悔しながら、ミカエルを連れて地上に転移した。

 

 その後、ジョージと出会った田舎町に戻り、「あの、私。地上用の装いをしていないのですが......」と恐る恐る言ってきたゴッツイ肩当てとマント姿で堕天使状態のミカエルを、「大丈夫よ。ただの痛々しいコスプレ男扱いされるだけだから」とセラフォルーが切り捨て、そのまま街中に入り、ミカエルが奇異の目に晒されてオロオロとしながら「せめて、認識阻害を......」そう呟き、認識阻害を発動させようとするも、「なに言ってんの。堂々としてれば大丈夫よ。それとも、退魔関係者にばったり会って、"あ、コイツ。疚しい事をしようとしてる"と勘違いされて、襲撃されたいの?」とセラフォルーに止められ。

 奇異の目に晒されへこんでいるミカエルと一緒に街中を歩き回って、漸くお目当てのジャネットを見つけた途端にミカエルが「間違いありません。彼女はジャンヌです。ジャンヌ本人です」と断言し、「なに言ってんの。ダメ天使長。彼女はジャンヌの転生体のジャネットちゃんよ。神が作った転生システムに、どうやって人間が勝つのよ? 常識で考えなさいよ?」とセラフォルーは一切相手にせずに、玩具屋のショーウィンドウに飾られたとあるアニメのポスターと玩具をジッと見ているジャネットの姿に、「勝った。楽勝ね」とニヤリと笑う。

 

 それから、セラフォルーは迅速に行動した。

 用の済んだミカエルに、「帰って良いわよ。用は済んだし」と言い放ち、「えっ。これから、ジャネットを助けるんですよね? 私も手伝います」と食い下がるミカエルを「ダメ天使長。いりません。帰れ」と両断し。

 それでも食い下がるミカエルに、止めの一撃である「召還魔法・ポリスメン を使うわよ? "天使長が地上でポリスメンに捕まった"て、かなりの醜聞よね?」をセラフォルーが放つ。

 しかし、ミカエルの「私は、ジャネットが心配なんです。力に成りたいんです。手伝わせてくれないのなら、プライドも何もかも投げ捨てて、貴女の足に哭きながらすがり付き、"御慈悲を下さい。どうか、御慈悲を"と全力で哭き叫びますよ。大天使長たる私が、全力で、哭きすがりますよ」の捨て身の攻撃を受けて、セラフォルーは敗北する。

 最悪で最低の脅しに屈したセラフォルーは、ミカエルをプリキュアの後ろ楯に据えて、魔法少女達の救援と魔法少女と成ったジャネットの活動報告書と活動映像を毎週送る事で納得して貰い。どこか満足気なミカエルを見送りながら『私の周りて、こーゆーのしか居ないのかしら......』と黄昏れる。

 

 ショーウィンドウに飾られた、とある魔法少女アニメの主人公・高町なのはのポスターとその相棒のレイジングハートの玩具を熱心に見詰めているジャネットに、セラフォルーはゆっくりと近付く。

「ねぇ。私と契約して魔法少女に成ってくれないかしら?」

 後ろから声を掛けられジャネットが、ビックリと驚きながらセラフォルーの方を向き、「悪魔? くっ、こんな所にっ」と苦々しい表情を浮かべる。

「へぇ。一目で見抜くんだ。凄いわね」

 自分を警戒しているジャネットに、セラフォルーは優しく微笑む。

「ここは人目があるし、場所を変えましょう。ジャンヌ・ダルクの転生体のジャネットちゃん」

 その言葉に、苦々しい表情のまま頷いたジャネットを連れて、人気の無い裏路地に入ったセラフォルーは、魔法で必要な各種書類を宙から取り出すと、自分を睨み付けるジャネットに向かって、何時もの言葉を口にした。

「私と契約して魔法少女に成ってよ!」

 予想もしていなかった言葉に、「魔法......少女?」とだけ返したジャネットに、セラフォルーがニコニコ笑いながら、魔法少女相互扶助組織プリキュアの説明や後ろ楯の神々達と堕天使に天使長の説明。魔法少女の活動がどんなモノなのかの説明をすると、その説明をジャネットは鼻で笑った。「そんな嘘を誰が信じるものですか」と。

 引き出したかった"信じない"や"嘘"の言葉をあっさりと口にしたジャネットに、セラフォルーは内心でニンマリと笑う。

「なら、嘘かどうか確認しに行きましょう? 魔法少女達の世界・ミッドチルダへ」

 次に出てくるであろう"悪魔の誘いには乗らない"や"騙されない"等の言葉を期待していたセラフォルーは、若干キラキラとした目で自分を見てくるジャネットの視線に戸惑ってしまう。

「えっ、ミッドチルダ? なのはのミッドチルダなの? なのはやフェイトに会えるのっ!?」

 キラキラとした視線と期待に満ちた言葉に、セラフォルーは『あ、うん。確かに、この子はジョージ君の妹ね』と妙な納得をしてしまう。

「えっとね? 沢山の魔法少女達は居るんだけど......なのはちゃんとか、フェイトちゃんとかはいないかなぁ。それに、ジャネットちゃんが見たアニメのミッドチルダとは、名前が同じだけだし」

 その言葉を聞いたジャネットが、ガクリと肩を落とす。

「でもほら、貴女のお友達に成れる子は沢山いるわよ? 貴女と同じで特殊な生い立ちの子とかいっぱいいるし」

 慌ててそうフォローするも、落胆したままのジャネットは、「帰る。貴女も、見逃してあげますから、早く立ち去りなさい」とセラフォルーに背を向けた。

「ちょっと待って。魔法少女の世界よ? 興味ない? 私と契約して魔法少女になる気ないかな?」

 想定していた話の流れと全く違う事に、若干慌てながらも、なんとかジャネットの気を引いて、流れを作ろうとセラフォルーが苦心するも、ジャネットは「悪魔と契約なんてしませんし、悪魔の誘惑に乗る程、愚かでもありませんから」と会話を終らせようとする。

「ミカエル。大天使ミカエルに会った記憶が有るわよね? ミカエルが後ろ楯の1人だと証明するば、信じてくれるかしら?」

 その言葉に、なに言ってんだ。コイツ。と云わんばかりの視線を向けるジャネットに、『あのダメ大天使長がこんなところで役に立つなんて......』と思いながら、セラフォルーは、ミカエル召還用の札を取り出し、天高く掲げる。

「サモン・大天使ミカエル!」

 本来なら、光と共に召還相手が現れるはずが、ナニも起こらず、シーンとした静寂が辺りを包む。

 ジャネットの痛々しいモノを見る目に耐えながら、セラフォルーは『えっ、なんで? ちゃんと召還応答用の札は渡したわよね? この札を使う時は、基本緊急時だから、すぐに召還に応じてて、言ったわよね?』自分に落ち度が無い事を確認したセラフォルーは、再び、札を天高く掲げる。

「サモン・大天使ミカエル!」

 しかし、ナニも起こらずに、ジャネットの視線に憐れみが混じったモノに成っただけだった。

「えっと、ちょっと。待ってね? 今からミカエルに連絡取るから。ちょっとだけ待ってね?」

 召還用の札をポケットに押し込み、通信用札を取り出すと、セラフォルーはミカエルに連絡を取り始める。

「はい。ミカエルです。どうかしましたか?」

 のんびりした口調のミカエルに、イラッとしながらも、セラフォルーは用件を切り出す。

「なんで、召還に応じなかったの? 基本緊急時用だから、すぐに応じて、て言ったわよね?」

「ああ、あの魔法陣はそう云う事だったんですか。ですが、今の私は天使ではなく。堕天使ですので、召還に応じて良いか分からなかったもので......」

「......システムで、堕天使から天使に戻れるんじゃなかった?」

「種族を変えるんですよ? すぐに天使に戻るなんて無理ですよ。2日は掛かります」

「光の輪と翼は?」

「堕天使なのですから、光の輪は在りませんし、翼は黒いままです。それがどうかしましたか?」

「......もういいわ。ちゃんと使えるか確認しただけよ」

「ああ、そうだったんですか。今度からちゃんと応じますから、安心してください」

「ええ。お願いね」

 ミカエルとの通話を終えたセラフォルーは、通信用の札をソッとポケットに仕舞い。「やっぱり、使えないわね」と呟いた。

「もう帰るわよ? つまらない出し物は終わりでしょう?」

 つまらない出し物呼ばわりされたセラフォルーは「うぐっ」と呻き、「声だけじゃダメよね?」そうジャネットに聞くが、冷めた目でセラフォルーを見据えたジャネットが「声真似なんて、悪魔からしたら簡単でしょ?」と両断する。

 『まぁ、そうなるわよね』と思いながら、兄であるジョージの名前を出して揺さぶろうかと考えたセラフォルーは、即座に警戒心と敵愾心を煽るだけと判断し、次々にジャネットをミッドチルダに連れて行く流れを考えるが――オーディンを始めとした神々は、人の世である為に無理。コカビエルは堕天使。どう考えても逆効果。魔法少女を呼んで一緒に説得は、そもそも、信用して貰えるかどうか怪しい。下手をすると逆効果。

 一番無難だった、魔法少女への興味で釣る。もしくは、適度に煽って売り言葉に買い言葉で釣る。が潰えた時点で難易度が跳ね上がった事を再認識したセラフォルーは、「結局。何時ものパターンなのね」そう言いながら、おもむろにジャネットの手を握る。

「離しなさい! 私は悪魔ごときに屈したりしないっ」

 急に掴んできたセラフォルーの手を、必死に振りほどこうとするジャネットの腕力に、『えっ、この子。力強くない? まだ8歳よね? 10歳のジョージ君より力が強いんだけどっ』と、慌て振りほどかれない様に力を込め直すと、セラフォルーは転移用の簡易魔方陣を展開し、魔法少女達の活動拠点・ミッドチルダに転移する。

 

 無理に連れて来られたジャネットだったが、眼前に広がる光景に心を奪われた。

 彩り豊かな花が咲き誇り。ユニコーンやグリフィンにペガサス等の幻獣。可愛らし小動物達がのんびりしていて、その動物達と戯れるジャネットと同じ年頃の子供達。そして、物語りに出てきそうな可愛らしい小さな城。

 その光景に、心を奪われたジャネットを、セラフォルーは満足気に見て、『強引な方法だったけど、勝ったわね』と勝ちを確信する。

 

 動物達と遊びたそうにしているジャネットに、「おねーさん。ちょっと、お仕事有るから......皆と遊びながら、魔法少女になるかどうか。後、お姉さんの言ってた事が嘘かどうか。考えてね?」と、言い残したセラフォルーは急いで自分の部屋に戻り、録画機能を持つ可愛らしいぬいぐるみの様な使い魔を大量に解き放ち、恐る恐る動物達と戯れ、同じ年頃の子供達と遊び始めたジャネットを記録し始める。

「これで、親御さん説得の道具は揃ったわね......」

 ジャネットの両親を説得する為の書類を用意しながら、セラフォルーは目前の勝利を目指し、ニンマリと笑みを浮かべた。

 

 後ろ楯の神々やミカエルに渡す書類や映像の編集に、運営資金の割り振り等の仕事を進めていたセラフォルーは、時間を確認すると、ジャネットの答えを聞き、家に帰す為に、できる女演出の為にスーツに着替えて、説得の道具が入った質素な革鞄を手に、ジャネットの元に向かう。

 

「ジャネットちゃん。そろそろ帰る時間よ。あまり遅くなると御両親が、心配しちゃうしね」

 動物達。そして、同年代の友達達と遊びに熱中していたジャネットが、「あっ」と声をあげる。

「大丈夫よ。魔法少女に成らなくても、ここには遊びに来れるから、安心してね」

 セラフォルーがそう言いながら、友達との別れを渋るジャネットと手を繋ぐが、最初の時とは違い。手を振りほどこうとしなかった。

 

 転移が終わり、最初の裏路地に戻ると、夕暮れ時であるのを確認したセラフォルーは、手を繋いだままのジャネットを横目で見る。

「それで、答えを聞かせて貰えるかしら? さっきも言った通り。魔法少女に成らなくても、ミッドチルダに来れる様にするから」

 ゆっくりと、優しく言い聞かせるセラフォルーの手を離し、向き合ったジャネットは、深々と頭を下げると「疑ってごめんなさい。貴女は良い悪魔でした」と謝る。

「別に、私は良い悪魔じゃ無いわよ?」

 セラフォルーのその言葉に、ジャネットはキョトンとして、「一緒に遊んでいた子達は、皆。貴女に助けて貰った。と言ってました。なら、貴女は良い悪魔です」と言い切る。

「そー言って貰えるのは嬉しいけど、お姉さんはやりたい事を全力でしてるだけだしねぇ~」

 一度、言葉を切り。セラフォルーはジャネットの頭を優しく撫でながら、言葉を続ける。

「私は、悪魔と云う種族が、大変で苦しい状況なのを理解していて、魔王就任の話を断ったし。妹に私の背負っていた重荷を背負わせる事を理解していて、私は両親に迷惑をかけて、期待を裏切る事だと知ってて、全部投げ出した」

 その言葉に押し黙ったジャネットに、セラフォルーは優しく微笑む。

「私は悪魔種族より、魔法少女(貴女)達を選んだの」

 のんびり「私の手が届く距離は、本当に短いからね~」と、セラフォルーがそうが言うと、その表情を見たジャネットがもどかしそうに唇にギュと力を入れる。

「悪魔は、自分のやりたい事をするのよ。周りの迷惑とかを全く考えずにね。私は偶々、それが、あの子達の為に成った。それだけなのよ」

 その言葉とセラフォルーの表情に、ジャネットはギュと両手を握り、意を決して口を開く。

「私、魔法少女になります」

 真っ直ぐな目で自分を見据え、そう言ったジャネットに、セラフォルーは心の中で『はい。そーてーどおーり。やっぱり、女の子は魔法少女に憧れるものなのよねー』とニンマリと笑った。

「ありがとう。ジャネットちゃん」

 その言葉に、プイッと顔を背けたジャネットを見たセラフォルーは、『この子は、アレね。あの子達が言ってた"ツンデレ"て奴ね』と、ジャネットに生暖かい目を向ける。

「それじゃ、ジャネットちゃんが魔法少女に成る為の許可を、御両親から貰わないとね」

 セラフォルーの生暖かい視線に気付いていないジャネットは、「え、お父さん達には内緒にするんじゃ」と聞き返してしまう。

 漫画やアニメでは、良く有るパターンの"皆には内緒で魔法少女に成る"に密かに憧れていたジャネットの言葉に、セラフォルーはクスクスと笑ってしまい、ジャネットは「なに笑ってるんですか」とむくれてしまう。

「ごめん。ごめん。でも、御両親に内緒は、ちょっと無理かなぁ。魔法少女活動とは別に、皆でお出掛けとか有るし」

 "皆とお出掛け"にピックと反応したジャネットを見て、クスクス笑っているセラフォルーが言葉を続ける。

「山や海。神々の神域とか安全な異界に、ピクニックやキャンプに行くの。楽しいわよぉ~」

 それを聞いたジャネットが、フンス。と意気込んで、「私、絶対に魔法少女に成ります」と決意をする。

「それなら、御両親の許可を貰わないとねー。大丈夫よ。おねーさんがちゃんと御両親を説得するから」

 どんな頑固な親も説得し続けたセラフォルーは、自信に満ちた笑みを浮かべながら、はっきりと断言した。

 

 様々な資料と、娘が笑顔で遊んでいる映像。そして、習い事や勉強が無料。怪我等してもすぐに傷痕が残らない様に治療できる事。理路整然としたセラフォルーの説明。等に、あっさりと折れた両親と、ジャネットの泣き落としに屈した兄の許しで、ジャネットは晴れて魔法少女に成り。

 セラフォルーが、ジャネットを虐めていた子供達に、"自分が虐められ、虐めがどんどん酷くなる悪夢"を、虐めを止めるまで延々と見せ続けて、自分から虐めを止める様に仕向け、自然な形で虐め問題を解決。

 大した問題も無く。時折、あまりの出番の無さに痺れを切らしたミカエルが、ジャネット会いたさに、ミッドチルダに無断侵入をして、セラフォルーにボディーブローからのアッパーを食らい、天界に強制退場等の日常が過ぎて行った。

 

 ジャネットが、はぐれ悪魔を殺害し、魔法少女を止めると宣言し、塞ぎ込むまでは。

 

 本来。プリキュアの魔法少女に任されている、はぐれ悪魔・クトゥルフ神話の眷族等の撃退や捕縛は、増援である聖闘士や円卓騎士団等の到着までの時間稼ぎ。もしくは、神々特製の捕縛道具を使用して捕まえた後、魂の浄化等ができる神々に引き渡す。それが、通例だった。

 魔法少女(幼い少女)に、罪を背負って欲しくなかったセラフォルーが、方々に頭を下げて作り上げたシステム。

 そのシステムを、ジャネットが、破った。その優しさ故に。

 ジャネットが殺したはぐれ悪魔は、十人近くを食い殺した凶悪な加害者(化け物)であり、悪魔の駒の悪用による憐れな被害者(人間)だった。

 どんな事情があれ、十人近く食い殺したはぐれ悪魔は討伐対象であり、魂の浄化等を受けられる捕縛対象ではなかった。

 討伐された者は、その魂を砕かれ、念入りに、その欠片を浄化し、その後、無に還される。

 それとは対象的に、捕縛された者は、魂の浄化を受けて、輪廻転生の輪に戻れる。

 その事をゼウス神(酔っ払い)から聞いていたジャネットは、一縷の望みに掛けて、はぐれ悪魔を殺害した。もしかしたら、通常の魂の様に、転生の輪に戻れるかも知れないと。

 そして、ジャネットは、今世で初めての"殺人"に塞ぎ込んだ――もしかしたら、最も良い方法が有ったかもしれない。殺さずに、別の方法で助ける事ができたかも知れない。それこそ、前世での愛剣であり。今世でも、大天使ミカエルから授かった聖剣・フィエルボワの剣を使えば、もしかしたら、人間に戻せたかもしれない。

 そう思い、考えれば考えるほどに、ジャネットは罪の意識に囚われた。酷い時は、食事や水を口にした途端に吐き出してしまうほどに。

 セラフォルーは、そんなジャネットを助ける為に、方々を必死に走り回り、様々な勢力の医療に詳しい存在に頭を下げて、助ける為のアドバイスや、水すら口にできないジャネットでも口にできるモノは無いかを聞いて回った。

 そうして、ジャネットの両親や兄のジョージ。セラフォルーの努力の末に、まともに食事ができるほどに立ち直ったジャネットが、悪夢に苛まれている事を知ったセラフォルーは、最悪、自分が滅せられる事を覚悟して、聖書の神の居場所を保生大帝神から聞き出した。

 

「なるほど......私が、ジャンヌの転生体である少女。ジャネットの罪の意識を、和らげれば良い。と」

 悪魔を絶滅の危機にまで追い込んだ神。そんな神に恐怖を抱きながら会ったセラフォルーは、どこをどう見ても、田舎のおじさんな聖書の神に拍子抜けしながらも、ジャネットの事を説明すると、あっさりと受け入れられ、親身に相談に乗って貰い。

 更にジャネットの魔法少女としての活動に花を咲かせ、すっかり仲良くなって、"せいちゃん" "セラちゃん"の仲に成ったセラフォルーは、これまでのジャネットの魔法少女活動の書類と映像記録を、聖書の神にプレゼントして、『これで、ジャネットちゃんは大丈夫ね』と安堵した。

 

 すっかり、入り浸りに成り、アレグリア家の家族の一員になり始めているセラフォルーは、『完全に餌付けされちゃったわねー』と考えながらも、ジョージに全てを話し協力を得て、後はジャネットを聖書の神の所に連れて行くだけの状態で、ジョージの作る朝食とジャネットを静かに待っていた。

「おう、良い度胸だな? カス野郎。人の妹にナニしてんだ? あ?」

 いきなり、二階を鋭い視線で睨み付け、そう言ったジョージに、セラフォルーは少し引きながらも「え、どうしたの」と声を掛ける。

「ん? あ、いや、なんか......ジャネットの首を知らない奴が絞めてて、そのせいで、寝てるジャネットが魘されてる気がしてさ」

 二階で寝てる妹が、魘されてる事を察知したジョージに、流石のセラフォルーも困惑よりも、ドン引きする。

「ジョージ君てさ、色々とおかしいよね? なんで台所に居るのに、二階で寝てるジャネットちゃんが魘されてるて分かるの?」

 "なんか、ジャネットが、○○してる気がする"と、言い当て続けているジョージに、セラフォルーは『転生チートは、実は妹に起きた事を察知する力なんじゃ』と下らない考察を始める。

「決まってる。妹を思う兄に不可能の文字は無い。そんな事も分からないから――実の妹に煙たがれるんだ。セラフォルー。お前には妹への愛が足りていない」

 考察を始め、考え込み始めたセラフォルーの耳に、聞き捨て成らない言葉が飛び込み、クッワッと目を見開いたセラフォルーが、声を上げて反論する。

「私のソーナちゃんへの愛は、凄いのよ! 半ば勘当されてるシトリー家に、無理矢理、押し入って、勉強ばっかりのソーナちゃんを遊びに連れて行ったりとか、ソーナちゃんが、外交とかに携わっても大丈夫な様に、色々な勢力に、挨拶廻りに連れて行ったりとか、いっぱいしてるんだから」

 その言葉を聞いたジョージは、「そうやって、勉強の邪魔をするから、煙たがれるんだ。自覚しろ」と、鼻で笑う。

 鼻で笑われたセラフォルーは、口で「むきー」と言いながら、食卓をバンバンと叩く。

「だから、煙たがられてないわよ! ソーナちゃんへの愛なら誰にも負けない自信があるモノ! 後、いい加減にセラちゃんて呼んでよ☆」

 小さい頃は、「セラお姉ちゃん」と呼んでくれていたジョージが、いつの間にか、「セラフォルー」としか呼ばない事を不満に思っているセラフォルーの言葉に、ジョージは、再度鼻で笑う。

「はっ、ちゃんて歳かよ。寝言は寝て言えや」

 自分よりも遥かに年上で、頼りに成るけど基本的に残念娘の言葉を、ジョージは切り捨てる。

「あん? 零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー)が炸裂するわよ?」

 最近、気にし始めた年齢の事を――魔法少女や保護している子達に「セラお姉ちゃん。何時になったら、恋人できるの? 大丈夫? 貰ってくれる人居るの?」と言われ始めたセラフォルーが、青筋を立てながら、テンプレと化した脅し文句を口にした。

「零と雫の霧雪の初動見てからの阿修羅閃空から瞬獄殺余裕でした。をして欲しいか? ん?」

 ミルたんと豪鬼によって、無駄に鍛え上げられたジョージは、その脅し文句を余裕で返す。目下の処、魔法少女や保護している子達に、「もうジョージ兄ちゃんしか居なくない?」と云われている事を知らずに。

 

 そんな何時もの軽口のやり取りをしていると、居間に入って来たジャネットに何時も通り、一番最初に気付いたジョージが、「おはよう、ジャネット。今日は早いな? 何か朝から用事でもあったか?」と、表面上は何時もの朝を形作る。

「何言ってるのよ。学校よ、学校」

「あれ? ジャネットちゃんて部活してたっけ? 日曜だよね今日?」

「えっ」

「ジャネットは兄ちゃんガチ勢だからな。部活などしない」

「誰がガチ勢よ。曜日を勘違いしただけじゃない……朝ごはん食べたら二度寝する」

 そんな、何気ない朝のやり取り。しかし、セラフォルーとジョージは、口にしなくても気付いていた。ジャネットの目の下に、はっきりと隈が有り、嘗てより大分マシに成ったとは云え、その顔色があまり良くない事を。

「セラ、朝食を毎日毎日たかりに来るのいい加減に止めなさいよ。兄さんもこいつの分まで作る必要なんてないんだから」

 ジャネットのその言葉を切っ掛けに、セラフォルーとジョージはアイコンタクトを交わし、即座に寸劇を開始する。

「そんな! 私達友達じゃないっ! それに、私をこんな体にしたのはジョージ君なのよっ! いくらお兄ちゃんを取られたくないかっらって酷いわ!」と、セラフォルーが泣き崩れる振りをし。

「そうだぞ。ジャネットの数少ない友達は大事にしないと……ボッチになるぞ? それから、セラフォルーお前はただの遊びだ。本気にされても困るんだよ」そう言いながら、泣き崩れた振りをしているセラフォルーに、ジョージは悪党顔をする。

「そっ、そんな……酷いっ酷いわ! 私をジョージ君無しじゃ生きていけない体にした癖にっ、私を捨てるのね!? 許さない……そんなの、許さないからっ」そう言いながら、セラフォルーがハンカチを取り出して口に咥え「きぃぃぃ」と口で言いつつ、チラリとジャネットの反応を見るが、どこか疲れているジャネットに『むぅ……やっぱり、まだ重症ね』と聖書の神と引き会わせる事を強く決意する。

「誰が友達で、誰がボッチになるのよ。それに、こんな兄で良ければ熨斗付けてあげるから」

 そう言いながら席を立ったジャネットに、ジョージの協力の元、一緒に出掛ける約束を取り付けたセラフォルーは、絶対に、ジャネットを助けるんだと決意を新たにした。

 

 見渡す限り緑に覆われたと云うよりも、自然に侵略されつつある村をぐるりと見回したジャネットの「で、此処は何処? 転移の魔法陣でいきなり山奥とか……こんな辺鄙な処に人が本当に住んでるの?」との質問に、「こういう処は療養に良いらしいからね~ 温泉も湧き出てるし」とセラフォルーは小さく返しながら、事前に、聖書の神が療養している理由を打ち合わせしていなかった事を思い出し、『せいちゃんが、此処で療養している理由を教える訳にはいかないし……どうしよう?』と内心で頭を抱えて、『出たとこ勝負で良いわね』と匙を投げた。

 ただでさえ、弱っている処に、"聖書の神は、深刻な神経性胃炎を患っていて、その原因は、クトゥルフ神話勢力・神器問題・悪魔のやらかし・信徒達のやらかしで、特に、貴女の前世のジャンヌ・ダルクは、信仰する神の胃を長期間に渡り、ダイレクト・アタック☆してました"とは、口が裂けても言えないのだ。

「温泉ねぇ? なに? 自然に囲まれた温泉で疲れを癒して、また魔法少女頑張れて? いやよ。18になって魔法少女なんて、恥ずかしい事できる訳ないじゃない」

 そんなセラフォルーの考えを露とも知らないジャネットの言葉に、セラフォルーは苦笑しながら首を左右に振る。

「言ったでしょ? 会わせたい人が居るって、それに女の子は何歳になっても女の子なんだから、恥ずかしくないのよ」

 そう言いながら、絶対にジャネットを助けると決意しているセラフォルーが、ジャネットの手を握る。

「前にも言ったけど、私は魔法少女を辞めたの。魔法少女は13歳までの期間限定なんだから」

 そんな事を言いながらも、嘗ての様に、手を振り解こうとしないジャネットに、セラフォルーが優しい笑みを浮かべる。

「魔法少女に期間なんてないわ。女の子は何歳になっても魔法少女になれるのよ!」

 そう力説したセラフォルーは、おそらく、唯一、ジャネットの罪の意識を取り払い救えるだろう存在の元に、足を進める。

 

 聖書の神と対面し、驚いているジャネットに『おー。やっぱり、驚いてる。ジョージ君が居たら、"激レア!?"とか言って騒ぐんだろうなぁ』と思ったり。

 忙しさにかまけて、ジャネットを頼り過ぎた事を謝って、許してもらって、『やっぱり、ジャネットちゃんは良い子よね。こんな良い子を、あんなに傷付けて、苦しめて、何が魔法少女の守護者よ』と自己嫌悪に落ち込んだり。

 聖書の神の療養の理由に迫る、「それで? その医療の神様が、主とどう関係があるのよ?」とのジャネットの言葉に、届け! 私の大声! せいちゃんに届け! と念じ祈りながら、即興で思い付いた事を捲し立て、誤魔化す為に、「もージャネットちゃんたら心配性☆なんだから。お隣さんは一㎞先だぞ☆」と言ったら、グーでぶん殴られそうになったセラフォルーは、必死で助命嘆願をする羽目に為ったり。

 信仰する聖書の神の「お前の罪を、我が名において許そう」との言葉に、小さい子供の様に涙を流すジャネットをみて、『ああ。もう。ジャネットちゃんは大丈夫』と安堵したり。

 衝撃の事実である。ジャネット=ジャンヌの真実を利用して、ジャネットを玩具に遊び。

 恥ずかし気に顔を赤くしているジャネットの「セラのおかげで、もう悪夢を見ないで済むだろうし......その、ありがとう」の一言に、感極まって「ジャネットちゃんのデレキッタァー!」と大声で叫んだり。

 聖書最大最強の英雄の鎧と盾を受け取り、どこか悟った眼をしているジャネットを見ながら、セラフォルーは、『これでジャネットちゃんは魔法少女を続ける』とニンマリ笑いながら――

 聖書の神の言葉。「お前はこれからも、苦しみに悲しみに直面するだろう。絶望する事もあるだろう。その時は、周りを見なさい。必ず、お前を心配し力に成ろうと足掻く者達が居る。その者達を頼りなさい」を胸に刻み付けた。

 

 その後、冥界殴り込み事件を知ったジャネットとセラフォルーは、ジョージを叱り飛ばし。

 ダメ兄・ダメ姉被害者の会をリアス・ジャネット・ソーナの三人で結成した事を知ったセラフォルーは、吼えた。

「まって? おかしくないかなぁ!? おねーちゃん頑張ってるよね?? すっっっごく頑張ってるよねっっ!? 残念娘。に、ダメ姉て、おかしくないかな? すっっっっっごく。おかしくないかなぁぁぁぁ!?」と。

 




 これにて、魔法少女頑張る は終了です。
 いや、削っても良かったんですけどね? 個人的に投稿しないと、なんだかなー となったもんで。
 

 そして、削るだけ削っても二万文字……どういう事なのぉぉぉ

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