転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で 作:tiwaz8312
転生者や悪魔とかのやらかしに吐血しながら対応してたら、精神が病み始め、いつの間にか神話英雄量産機を作ってました。
ドライク達が戦っていた理由はナニ?
其々の推し(ブリテン人・サクソン人)尊いしてたら、言い争いになり、殴り合いに発展したからです。
それゆえ、推し以外に力を貸す気は全く有りません。
大抵、惰眠を貪っています。
堕天使の拠点を出て、ヴァーリが「風邪なら、風邪と言ってくれ。悪化したらどうするつもりだ」と言いながら、「大丈夫だって、もう治りかけてるし」そう言い訳をしている元浜を送っている頃。
放課後。突然、生徒会室へと呼び出だされ、其処でピチッとしたタイトな黒のスーツに身を包んだレイナーレに会った一誠と匙は、そのスーツを物凄く持ち上げる爆乳に釘付けになり、チラ見していた。
リアスとソーナの『やっぱり、会わせるんじゃなかった!』と云う後悔と嫉妬の混じった視線と、白音と朱乃。そして、ソーナの眷属候補で、退魔の系譜である巡 巴柄の冷たい視線を浴びながら。
生徒会室に設置されたホワイトボードに書き込みながら、一部を僅かにプルプルとユサユサとしながら説明をするレイナーレ。
用意された椅子に座り、長机で隠れている事を幸いに、必死に『静まれ。静まれ! 息子ぉぉぉ!』と両手で股間を押さえて居る一誠。
その隣には、僅かに前屈みになりながら、『レイナーレさんかぁ......いいよなぁ。彼女に、いや、夢を叶えるには恋愛なんてしてる暇ないし』と暢気に構えている匙。
その後ろには、前に座っている
そして、想い人が自分以外の女性に目を奪われている光景を、暗い目で見ながら、『応援してくれるて、言ったのに......言ったのに......大人の色気がそんなにイイノ? レイナーレさんもレイナーレさんよ。なんで、そんなに体のラインをハッキリさせる格好をしているの? 見せつけてるの? これが大人の色気だと見せつけてるの? 応援してくれるて、嘘だったの? 嘘だったの? ねぇ、レイナーレさん。ウソダッタノ??』と心の中でも呟き続けているリアス。
そのリアスの隣で、光の無い目をしながら、『胸ですか? そんなに、脂肪の塊がイイデスカ? あの、プルプル。ユサユサ。する脂肪の塊がそんなにイイデスカ? 大きければ大きい程、歳をとれば垂れるんですよ? ミットモナクタレルンデス! ああ、匙君。貴方は騙されてるんです。騙されてるのです。あの邪悪な塊にダマサレテイルノデス。日本の歴史に名を残した明智光秀も歴史に残したではないですか。"貧乳こそが大正義"だと。その信念の元、
そんなカオスな状況で、レイナーレがやりにくいなぁと思いながら、任務を達成する為に頑張っていた。
「つまり、神器と云う物は、"保有者の想いと願いを叶える為に、それをサポートする"特性を持っているの」
できるだけ分かりやすく、丁寧に言葉を選びながら、慎重に説明するレイナーレの言葉を、右から左に聞き流しているスケベ二人は、レイナーレによって着衣エロチシズムに完全に目覚めていた。
「この特性の危険な処は、その想いと願いの"善悪の区別が無い"こと、"サポートの上限が無い"ことよ」
一度、言葉を区切り、『この子達、ちゃんと聞いてるのかしら? チラチラ、胸を見てるけど......』と思いながら、レイナーレは言葉を続ける。
「例えば、完治の難しい病に掛かっている保有者が"死んで楽になりたい"と強く願い・想えば、神器はそれを叶えようとするわ。少しずつ体を衰弱させ、病を悪化させて、保有者を死に至らせる」
現実味の無い説明を聞きながら、『よく分からないけど、大切な話みたいだし、ちゃんと真面目に聞くんだ! でも、目が、目が自然と胸にぃぃ!』とレイナーレの顔と爆乳を交互に見ている一誠。
一方。匙は、『すげぇ......とにかく、すげぇ......付き合ってる人居るのかなぁ? こんな美人だし、居るんだろうなぁ......でも、居なかったら、俺にもチャンスあるか? あ、でも、陸自の災害救助隊に入るなら、恋愛とかしてる暇無いんだよなぁ』等と思いながら、チラチラとレイナーレの爆乳を見ていた。
後ろから突き刺さる冷たい視線と暗い視線に、気付かずに。
「他には、そうね。身体能力の向上を強く願い・想えば、その人物の身体的な限界を無視して、神器は身体能力の向上の手助けをするわ。その結果、保有者の寿命が縮む事になったとしても」
大切な話をしているのに、自分の胸をチラ見しているお子様二人に、『これぐらいの年なら仕方無いけど......バレてないと思ってるのかしら?』と内心で嘆息しながら、レイナーレは説明を続ける。
「匙君。貴方の将来の夢は、陸上自衛官。もしくは、特別救助隊員なのよね?」
レイナーレの質問に、上手くアピールできればワンチャン有るかも? と、深く考えていない匙が姿勢を正して胸を張る。
「はい。自分は、陸上自衛隊の災害救助隊の隊員に成るのが夢です。災害救助隊と云うのは、陸上自衛隊の中でも──」
匙の夢である"災害救助隊"の凄さ──対応できない災害が存在しないと云われる対災害部隊であり、超人のみしか所属が赦されない。
災害に最も大切な"黄金の72時間"を、一秒でも無駄にしない為に設立され、訓練を積み重ねている精鋭部隊。
その実力は世界に賞賛され、多くの国から勲章を贈られ、名実共に世界最高の災害救助隊の一つと詠われている。
また、その門は狭く。訓練も過酷で脱落者が多く。隊員に成ること事態が凄い事。を説明をしようとするが、レイナーレが「あ、知ってるから説明しなくていいわ」と無情にもストップを掛けた。
「あ、はい」
アピールできなくて肩を落とした匙を、『ああ、匙君。そんなにがっかりしないで下さい。私がちゃんと貧乳の素晴らしさを教えてあげますから』と、レイナーレにその気が無い事を理解し、ソーナがニンマリと嗤う。
そんなソーナと暗い目をしているリアスをチラリと見たレイナーレが、『後で余計な事をしでかなさない様に、釘を刺した方が良さそうね』と留意しながら、説明を続ける。
「この場合、匙君が強く夢を叶えたいと願い・想ったなら、神器はその夢を叶える為に、匙の身体能力と知能が上がり易くするわ。災害救助隊は頭脳明晰・身体能力抜群である事が必須だもの」
そのレイナーレの言葉に、匙の眉がピクリと動く。
「待ってくれ。俺の努力の成果が、神器とか云う訳の分からないモノのお陰みたいに言うなよ」
両親を自衛隊員に救われた日から、毎日努力を積み重ねてきた匙が、自分の努力を否定的されたと思い、レイナーレに噛み付く。
「ああ、ごめんなさい。貴方の努力を否定する訳じゃないの」
小さい子に言い聞かせる様に、優しく微笑み、レイナーレが言葉を続ける。
「ただ、貴方達に宿る神器がどういうモノなのか知って欲しいだけなの」
レイナーレの優しく言い聞かせる言葉に、匙が黙り、一誠は『箒ねぇのコスプレしてくれないかなぁ......て、そうじゃないだろ!? 煩悩退散!』と少し元気になり始めた息子を、両手で押さえ付けていた。
「つまり、神器保有者と非保持者の差は努力の実りやすさ。普通の人が十の努力を必要性とする事を、強い願い・想いが有れば、それよりも少ない努力で成し遂げられる」
サラサラとホワイトボードに書き足しながら、レイナーレは説明を続ける。
「でも、これには欠点。いえ、欠陥があるのよ」
少しも真面目に聞こうとしていない一誠と匙をチラリと見たレイナーレは、『いきなり、神器が~と言われても、危機感は持てないわよね......』そう思いながら、少しでも現状を理解して貰おうと努力を重ねる。
「神器はその特性上、保持者の身体的・精神的限界を無視して、その願い・想いを叶えようとする。その結果、所持者の寿命を削る事に成ったとしても」
嘗て、余りにも強すぎる願い・想いによって、神器がその願い・想いを叶える為に無理矢理に延命させられ、その目的を成し遂げた瞬間に自壊して逝った神器保持者達を看取って来たレイナーレが、一瞬だけ歯を食いしばる。
この子達を、彼等の様にしてたまるか。
こちらの制止を振り切って、文字通りに命を魂を磨り減らしながら、過酷すぎる旅路を往く、現代のヘラクレスの様に。
神器を持って生まれた、ただそれだけで当たり前の日常を両親から貰った名を失い、それでも笑みを浮かべ「俺達の様な連中の受け皿は必要だろう? なら、お互いに力を合わせて生きて行くさ」と言っていた英雄派のリーダーである青年達の様にしてたまるかと。
「極端な事を言ってしまうと、神器保有者にとって、強すぎる願い・想いは致死毒と変わらないわ。特に自分の命と引き換えにしてでも叶えたい願いと想いは」
一連の説明を一応聞いていた一誠が、小さく手を上げる。
「あの、俺。依存性なんです。それで、治したいと思って色んな人に助けててもらってるんですけど......神器の話が本当なら、俺の依存症が治らないのはなんでですか?」
説明を始めて一時間弱で漸く、質問が来たことにレイナーレが微笑む。
「それは、簡単な理由よ。その願い・想いが、貴方にとって何かを犠牲にしてでも叶えたいモノではないからよ。もしくは、もっと強い願い・想いが有って優先順位が低いかね」
予め用意していた答えをさらりと口にしながら、真剣な表情で考え込み始めた一誠を流し見て、レイナーレが説明を再開しようとすると、今度は匙が手を上げる。
「神器の話が本当なら、神器を取り除く事はできますか? 説明からして地雷みたいで嫌なんですけど」
その言葉に、レイナーレはゆっくりと首を左右に振る。
「残念ながら、方法は無いわ。現在ではまだ解らないわね。分かっているのは、"如何なる方法"を以てしても、神器を摘出すると同時に保有者が死ぬと云う事だけよ」
レイナーレの言葉に、堕天使陣営が神器の研究をしている事を知っているリアスとソーナが目を見開く。
「まちなさ──」
そう言いながら立ち上がろうとしたリアスを、ソーナが然り気無く押し止め、前に座っている一誠と匙に聞こえない様に小声で、「リアス。落ち着いて下さい。言いたい事は分かりますが、この件について、私達に口を挟む権限は有りません」と囁く。
言外に、自分達の立場を忘れるなと言っている言葉に、浮かした腰を渋々に降ろしたリアスが、気持ちを落ち着かせる為に大きな息を吐く。
人体実験を匂わせる"如何なる方法"と云う言葉に噛み付いて来ると考えていたレイナーレが、そんな二人の様子に『基本的に優秀で良いコンビなのよね。経験・実力不足は否めないけど......ちゃんと鍛えて経験を少しでも積ませてから、駒王町の管理・運営をさせていれば、何も問題は無かったでしょうに』と心の中でぼやいた。
「さて、最初に説明した通り、私が所属する堕天使の陣営グリゴリは、神器の研究をしているわ」
一度言葉を区切り、座っている子供達をぐるりと見回したレイナーレが、リアスとソーナを確りと見据える。
「リアスが言い掛けたけど、グリゴリでは神器摘出の人体実験をしているの。神器とは、そんな事をしなくてはならない程に危険なモノなのよ」
どの勢力も幹部なら知っている──グリゴリの人体実験を口にしながら、子供達の反応を確かめたレイナーレは、嫌悪感を隠そうとしないリアスと巴柄に感情の隠し方を教える事を決め。僅かに反応しながらも、表現を変えなかったソーナと朱乃に感心し。リアス達が"人体実験"に反応した事を怪訝そうにしている白音に、それなりの情報を知る立場にある事を予想して、白音の評価を一段上げる。そして、そんな設定を聞かされてもなぁ......と云わんばかりの態度をとっている一誠と匙に、人外の存在を信じさせる切り札の一つを切る事にした。
「さて、いきなり呼び出されて、小一時間ほど信じられない説明を受けて、半信半疑どころではないでしょうけど......」
そう言いながら、レイナーレが濡れ烏羽の翼を広げる。
「これで、少しは信じて貰えるかしら?」
長年の経験で培った──相手に疑わせてから非現実の証拠を突き付け、動揺した相手を更に切り崩して、信用を勝ち取る手法に絶対の自信を持っていたレイナーレは、内心で『これであっさり信じてくれたら、楽なんだけど』と思いながら、一誠と匙の反応を伺う。
しかし、レイナーレが自信を持っていた説得方法は......元グリゴリ幹部のせいで台無しになってしまっていた。
美しい濡れ烏羽の翼を見た一誠と匙は、目を大きく見開くと同時に、パチパチと手を叩く。
「レイナーレさんて、バラキエルさんと同じ隠し芸ができたんですね」
拍手をしている一誠の言葉に、レイナーレが何を言われたのか解らずに固まり、一誠と匙の後ろで漆黒の翼を広げてドヤ顔をしているリアスとソーナは目を見開き、白音が「駒王町は平和ですから」と真顔で頷き、巴柄はポカーンと口を開け、堕天使の翼を広げてる朱乃が「隠し......芸?」と呟く。
「兵藤も見た事あるんだ。スゲエよな! バラキエルさんの宴会芸!」
匙の追撃に、レイナーレの顎がカクンと落ち、リアスとソーナが何事も無かったように悪魔の翼をしまい、巴柄は「なにをしてるんですか......バラキエルさん」と小声で呟き、朱乃が堕天使の翼をしまいながら「出張から帰ったら折檻」と父親の折檻方法を考え始め、白音は「宴会......収穫祭の時期には帰りたいです」と、故郷の質素な収穫祭を思い出してしみじみと呟く。
酒の入った御年配方の強要による、年末年始恒例のバラキエルの宴会芸で盛り上がり、一誠が「何が凄いって、高速ジャグリングだよな!」と熱弁し、匙がすかさず「あのピカピカ光るボールのヤツだろ? 一個ずつ増やして最後には二十個になるヤツ。あれ、本当、スゲエよな!」と返す。
やいのやいのとバラキエルの堕天使の力を使った宴会芸で盛り上がり、何時の間にか"イッセー"・"匙"と呼び会う程に仲良くなっている二人を他所に、レイナーレのこめかみが引き吊り。駒王町の管理・運営を任されているリアスとソーナが、赴任歴三年近くで初めて知るバラキエルのやらかしに頭を抱え。初めて知る父の所業に、絶対に母親と一緒に折檻をしてやると、朱乃が暗い笑みを浮かべ。我関与せずを決め込んだ巴柄が遠い目をする。そして、白音が「平和ですね」と再び呟いた。
一誠と匙が仲良くなり、話題がバラキエルの宴会芸から各国の
神器の説明と非現実の存在を信じさせる筈が、グタグダになってしまった事に苛立ったレイナーレは、小さく息を吐くと同時に気持ちを切り換え、パンパンと手を叩き注目を自分に向けさせる。
「はい。一つ一つ片付ける。それ以外は後で話し合いましょう」
一誠と匙と白音を除いた全員が、駄天使バラキエルは絶対に許さない。絶対にだ。と心を一つにしながら、レイナーレの言葉に頷く。
「信じて貰うには、神器発現が一番でしょうけど......暴走の危険性が一番高いのは、神器を初めて発現させた時なの」
話を聞き流している一誠と匙は、眉を潜めながら困り顔をしているレイナーレに、困り顔もイイ。等と暢気な事を考えていた。
「それで、貴方達の都合の良い日を教えて貰えないかしら? 柳川さんに立ち会いをお願いしているから、日時を決めておきたいのよ」
そのレイナーレの言葉に、一誠がピクリと反応をして恐る恐る手を上げる。
「あの、柳川さんて、亀仙流の柳川師範の事ですか?」
レイナーレが無言で頷いた瞬間に、一誠はすかさず姿勢を正し、如何にも真面目に話を聞いていると云う態度をとる。
「俺。何時でも大丈夫です。バイト有りますけど、夜の八時からだし。道場の先輩のやってる店なんで、頭下げれば休ませてもらえますから」
急に態度を改めた一誠に、適当な嘘を言ってバックレルつもりだった匙が、小声で「どうしたんだよ? 急に? こんな話信じんのかよ?」と話し掛けると、「レイナーレさんが言った柳川師範て、俺の通ってる道場の先生なんだよ」と小声で一誠が返した。
こそこそと小声で──
「え、マジかよ。なら、イッセーは逃げられないて事か?」
「それもあるけどさ、柳川師範が立ち会うて事は、レイナーレさんの話を信じてるて事だろ? 全部が全部本当とは思えないけどさ......もしかしたら、なんかヤバい事かも知れないしさ」
「にしても、亀仙流道場通ってんのかよ。道理でガタイが良いと思った。でっかい亀の甲羅背負って新聞とか牛乳配達してるて本当なのか?」
「あーマジ。俺もやったし。て、そうじゃなくてさ。一応真面目に考えていた方が良いって」
「そう言うけどさ。こんな話信じられねーだろ? ヤバい宗教の勧誘とどう違うんだよ」
「言いたい事は分かるけどさ。柳川師範が絡むならその辺は大丈夫だって」
「本当かよ? まぁ、俺はバックレルから関係ないけどよ」
「友達だろ? 一緒に逝こうぜ。それにほら、レイナーレさんと仲良く成れるかも知れないだろ」
「うっ、確かにそれは捨てがたい......レイナーレさんて、神話大戦の"レイナーレ"になんとなく似てるんだよなぁ」
「分かる。ハイレグのレオタードがスゲー似合いそうだよな」
「お、イッセーも神話大戦してんのか」
「おう。全シリーズやってる。でも、今作の神話大戦はちょっとな......」
「レイナーレの露出減ったもんなぁ......やっぱ、三ぐらいの露出が良いよな」
「そうか? 四が最高だと思うぞ。あの超ハイレグがレイナーレに似合ってる」
「そうか? レオタードに前開きロングスカートがセクシーで良いと思う」
等と話している男二人に、『柳川師範の名を出せば兵藤君は釣れたのね』と考えていたレイナーレのこめかみが引き吊り、後ろの席で確りと聞いていた女性陣が絶対零度の視線を向け、リアスとソーナは後でその衣装を調べようと心に決めた。
「超ハイレグ好きの兵藤君は何時でもokと。それで、セクシー好きの匙君は、何時が良いのかしら?」
レイナーレのその言葉に、目の前でとでもない会話をしてしまったと悟った一誠と匙が「いや、その」と言いながら露骨に視線を彷徨わせた後、二人揃って「「すいませんでした!」」と頭を下げる。
目の前に並ぶ二つの後頭部を見たレイナーレが、小さく嘆息しコホンとわざとらしい咳を付いた。
「そう云う年頃だから仕方ないけど、女性の前でそんな話をするのは止めなさい。分かったわね?」
恐る恐る顔を上げた一誠と匙の目に、如何にも仕方ない子達ね。と云わんばかりの表情を浮かべているレイナーレが映り、『こ、これが、大人の女性の余裕てやつか』と心を一つにする。
「それで、匙君は何時が良いのかしら?」
再度投げ掛けられた問いかけと、レイナーレの目が「逃がすと思ってるの? ねぇ?」そう雄弁に言っている事を感じた匙は、「うっ、その」と小さく洩らす。
その様子に、『この様子なら後一押しね。何時もので行った方が早そうね』と心の中で呟いたレイナーレは、ニッコリと優しい笑みを浮かべた。
「決断できないなら......そうね。こう云うのはどうかしら?」
リアスとソーナをチラリと見たレイナーレが、一誠と匙を見据える。
「もし、神器の話が嘘なら......なんでも、一つだけ貴方達の言う事を聞くわ」
その言葉を聞いたリアスとソーナが立ち上がろうと腰を僅かに上げるが、レイナーレが小さく唇を動かし"リアスとソーナが"と声無き声でそう言ったのを確認すると、何事も無かった様に座り直し、ニヘリとした表情を浮かべて妄想の世界に旅立つ。
その様子を見ていた眷属候補達が、僅かに引いている事に、レイナーレが『神器絶対見付ける君は絶対だ。て言ったでしょうに』と内心で呆れているのに気付かずに。
「あの、それって、む、じゃなくて、デートとかアリですか!?」
余り欲望を隠そうとしない匙の発言に、沢山のチビッ子達の面倒を見てきたレイナーレは内心で『これぐらいの年の子は、やっぱりチョロいわね』と呆れつつ、優しい笑みを浮かべたまま「あら、別に添い寝とか、膝枕で耳掻きとかでも良いのよ(ただし、ソーナの)」とにこやかに返す。
「なぁ、匙......俺、このパターン知ってる」
レイナーレのなんでも発言で、元気から臨戦態勢に移行した息子が萎れた一誠の言葉に、匙が「何がだよ?」そう怪訝そうに答えた。
「あのな。俺、姉貴が居るんだけどさ......なんか、姉ちゃんのハメに似てる気がするんだよな......」
負け確の勝負に何度も挑み、端から見たら美味しくて、本人かしたら苦行──膝枕+耳掻きや抱き枕等を経験した一誠は、節操の無い息子が萎れた事実に、自分の予感が正しい事を確信していた。
目の前のグラマスな美女は──己の姉と同じく、勝ちを確信した勝負しかしない人だと。
そして、見せ餌が凄い程──負けた時の傷が酷い事に為る事を。
「なんだよそれ? もしかして、オカルト信じてるのか? 神器なんて在るわけ無いだろ」
オカルトを全く信じていない匙を、一誠が何とかして説得しようと口を開く前に、それを遮る様にレイナーレが口を開く。
「なら、神器が本当に存在したら......そうね。匙君は生徒会の小間使いに成って貰おうかしら」
挑発めいた口調のレイナーレに、勝ちを確信してる匙がニヤリと笑う。
「良いですよ。その代わり、俺が勝ったらデートですからね」
「ええ。良いわよ。デート(ただし相手はソーナ)でもなんでもね」
その言葉を聞いた匙が小さく拳を握り、「うっしゃ」と喜びの声を上げる様を見て、止められなかった一誠が頭を抱える。
「兵藤君はどうするのかしら? 別にこの話に乗っても良いのよ?」
「遠慮します。柳川師範が立ち会うなら、何があっても大丈夫だと思いますし」
誘いを即座に断った一誠に、『原作の兵藤君なら直ぐに乗って来そうだけど......やっぱり、原作知識は当てに成らないわね』と冷静に判断したレイナーレを余所に、バレバレの小さいガッツをしているソーナ。落胆しているリアス。そして、そのリアスとソーナの様子に若干引いている眷属候補達。
そんな後ろの様子に気付いていない匙と一誠は、小声で「レイナーレさんとデートするチャンスだぞ。なんで断るんだよ?」 「だから、やな予感がするんだよ」 「神器なんてオカルト在るわけ無いだろ......勝ち確の賭けから逃げてどうすんだよ」 「そりゃそうなんだけどさ、柳川師範が絡んでるなら、もしかしたら、もしかするかも知れないだろ?」 等とヒソヒソと話込んでいた。
若干引いている劵族候補達とヒソヒソ話をしている匙と一誠に、レイナーレはコホンと咳払いをすると、「柳川師範と日時の打ち合わせをするから、少し待って頂戴」と断りを入れると同時に、ガラケーで柳川師範に電話を掛ける。
「レイナーレですが......はい。今朝お話しした神器の件です」
「両人は何時でも良いと言ってますが、立ち会いは......」
「えっ。今日ですか? はい。それは......確かに早いに越した事は無いですが......」
ガラケーの下の方に手を当てたレイナーレが、一誠と匙の方を向き、「えっと、今日。今からで大丈夫かしら?」と話し掛けると、匙は直ぐに首を縦に振り、バイトが無い事を思い出した一誠も頷く。
「二人とも今日これからで大丈夫と......」
「はい。よろしくお願いします」
柳川師範との会話を終えたレイナーレが、ガラケーをポケットにしまうと、一誠と匙を真っ直ぐに見据える。
「柳川師範が来られるまで、神器の発現・制御方法の説明をします。神器の暴走の危険が一番高いのは初めて発現した時なの。良く聞いて、確り覚えて」
その言葉に、話し半分の匙と真剣に話を聞き始めた一誠が頷いた。
神器の発現・制御方法の説明を終え、神器発現の為に簡単な人払いと認識阻害の結界が張られた体育館裏手で、話し半分の匙が『なんだかなー』と思い。一誠が『平常心......心を落ち着かせる。神器を受け入れすぎない。拒絶しない......だったよな?』そうひたすらに自分に言い聞かせ、無意識に右手を握りしめたり開いたりしていた。
結界が張られても、なんか暗くなってきた? 程度の認識で居る一誠と匙を余所に、神器が暴走した時の対策を確認しながら打ち合わせをしているレイナーレ達が、結界内に入って来た人物──待ち人である柳川師範に気付くよりも早く、一誠が気が付き、柳川師範に駆け寄る。
「柳川師範!」
嬉しそうに駆け寄った一誠に、柳川師範がにこやかに「こんにちは。一誠君。いや、こんばんわかな?」と言葉を掛ける。
嬉しそうな一誠と柳川師範の他愛ない会話の光景を見ながら、レイナーレやリアス達は自分達よりも速く気が付いた一誠に驚き、白音はそんな一誠の様子に対して「大型犬?」と溢す。
「さて。柳川師範がいらっしゃったし、神器の発現を行いましょう」
存在しない尻尾をブンブン振っている一誠を余所に、そう発言したレイナーレの言葉に一誠と匙以外が静かに頷く。
「大丈夫。いざと云う時は、私がちゃんと対処をするから、安心しなさい」
その柳川師範の言葉に、神器云々の話がもしかしたら本当かも知れないと思った一誠が、途中からでも真面目に聞いていて良かったと安堵し、未だに信じていない匙は白けた表情を浮かべる。
柳川師範との会話を続けようとした一誠を、やんわりと止めたレイナーレの言葉で、途中からでも説明を聞いていた一誠が最初で、その次に真面目に説明を聞いていなかった匙の順番に神器発現をする事になり、事の重大さを理解しているリアス達と全く信じていない匙は、神器の暴走に備えて、神器発現に挑んでいる一誠を遠巻きに見ていた。
立ったまま目を瞑り、バラキエルに教わった瞑想の要領で、意識を自分の内側に向け続けている一誠に注視しているレイナーレと柳川師範。
悪魔側の神器発現の仕方と全く違うやり方のメリット・デメリットを聞いていたリアス達は、神器研究において、堕天使側が悪魔側よりも進んでいる事に驚きながら、上手く友好を築ければ神器関係の問題の進展も有り得るかもしれないと期待し、学び吸収できる所は貪欲に身に付けようと決意を新たにしていた。
一方。匙は飽きてきたのか欠伸を噛み殺していた。
「暴走の可能性は?」
一切目を逸らさずに、何時でも動ける様にしている柳川師範の言葉に、「今の所は安定しています」とレイナーレが小さく返す。
「ですが、油断はできません」
ホンのちょっとの弛みで惨事に為る事を理解しているレイナーレは、緊張の色をできるだけ隠して、一誠に優しく語り掛ける。
「一誠君。聞こえるかしら?」
頷く一誠。神器の侵食が起きていない事に安心するレイナーレ達。
「何が貴方の前に有るかしら? 説明できる?」
経験から、神器と接触できている頃だと考えたレイナーレの言葉に、一誠は何度か口ごもった後に言葉を吐き出す。
「赤い......竜が居ます。とても大きな赤い竜です」
戸惑いを含んだその声に、リアスは膝から崩れ落ちそうになるのを必死に耐えながら、「二大迷惑竜......完全なハズレ枠じゃない」とボソリと口にしてしまう。
「だ、大丈夫です。神器持ちと云うだけで関わり易くなるんです。例え、二大ウザ竜。神滅具とは名ばかりの二大役立たずだとしても、神器持ちである時点で私達には意味があるのです」
全神器の中で、スペックだけは神滅具クラスなのに、封じられている存在のせいで──最もいらない。使えない。ウザすぎる。気持ち悪い。腕の一本ぐらいくれてやるから今すぐ出てけ。等々と酷評を受けている神器の一つ。
実の兄である悪魔の統治者であるサーゼクスに、一誠が神器保有者で在る事をアピールして、幸せハッピーエンドをもぎ取ろうと画策していたのに、それが潰えてしまい落胆しているリアスを、ソーナが小さい声で励まし始める。内心で『神様......御願いですから、匙君の神器はまともな物にしていて下さい』と必死な祈りを捧げながら。
そんな二人と、その様子をガン無視して一誠の様子を見守っている眷属候補達。そして、『そっかー。イッセー中二患者だったかー』と今後の付き合いを考え始める匙。
内面の中に存在している赤い竜と対峙している最中で、新しい友人である匙の自分に対する評価が微妙なモノになり始めている事を知らない一誠は、ヘビーユーザーであると自認しているゲーム"モンスターハンター"に出てきそうな巨大な赤竜に唖然としていながらも、恐怖を感じていない自分に首を傾げていた。
「一誠君。その竜は起きてるのかしら? それとも、寝てる?」
静かに響くレイナーレの言葉に、一誠はゆっくりと頷く。
「寝てます。でも、なんだろ? 目の前にでっかい竜が居るのに、全然怖くない」
無造作に、ほんの僅かに手を伸ばせば竜に触れられる距離まで近付いた一誠は、眠っている竜を繁々と観察し始める。
「神器は聖書の神が人間の為に作り上げた物よ。神器に封じられている存在は、総じて人に友好的な存在。人に力を貸す事を良しとしているモノ達なの。だから、恐怖を感じたりしないのでしょうね」
レイナーレの説明に、『ああ、だから、なんとなく優しい感じがするんだ』と納得した一誠は『聖書の神様も、俺達人間が好きなのは分かったけど......暴走しない様にリミッター着けてくれたら良かったのになぁ』等とぼんやりとした事を考え、小さな溜め息を一つ吐く。
「一誠君。貴方の中に居る赤い竜は、ア・ドライグ・ゴッホ――ブリテンの赤い竜。神器に封じられたモノで赤い竜は彼以外に存在しないわ」
最近爆死したスマホアプリゲームでその存在を知っていた一誠が、大きく目を見開き驚く。
「アーサー王伝説の......あの、赤い竜......マジかよ......」
目の前の竜が、ブリテンの赤い竜だと知った途端、急に威厳や風格を感じられる気がし始めた一誠が息を飲む。
「ドライグなら、暴走の危険は無いに等しいわ。名を名乗って、ドライグに触れなさい。それで終わりよ」
威厳や風格を感じ始めている一誠が、『勝手に触れて大丈夫なのかよ......』そう思いながらも、恐る恐ると手を伸ばす。
「ああ、今代の宿主か」
ゆっくりと開かれた大きな眼に見据えられた一誠の動きが止まる。
「名を名乗れ」
体の芯まで響く声に、一誠は恐怖ではなく、感動を覚えた。これが、ブリテンの赤い竜。これが、伝説の竜なのかと。
「兵藤一誠だ。よろしくな」
名乗りながら触れた右手を、赤い武骨な籠手が包み込む。
「東洋人......また、ハズレか。何時になったらブリテン人を宿主に出来る......」
赤い武骨な籠手──
「ハズレ以外の何だと言うのだ。ブリテン人以外は全てハズレだ。大ハズレのサクソン人よりは少しだけマシと言うだけだ」
余りの言い様に固まる一誠を余所に、ドライグは言葉を続ける。
「安心しろ。聖書の神との約束だ。倍加の力ぐらいは使わせてやる。最も、それ以外は使わせん。そして、神器の基本機能も制御してやる。ありがたく思え」
その巨体に見合う尊大な言い様に、一誠が「いや、そりゃ、アーサー王とか円卓の騎士とかと比べたら、見劣りするだろうけどさ......仲良くしようぜ」と返した。
「はっ、身の程を知れ。お前ごとき、ブリテン人の幼子以下だろうが」
その言葉に続いて朗々と語られるブリテン人の素晴らしさと、他の人種のダメな所を聞かされた一誠の堪忍袋が切れた。
「おい。糞竜。俺を扱き下ろすのは構わないけどよ。父さんと母さん。姉貴。ライザー先生やバラキエルさん。そして、柳川師範をバカにするんじゃねーぞ!?」
自分の大切な人達すら扱き下ろされた一誠の言葉を、ドライグは鼻で笑う。
「多少、体を鍛えてるのは認めるが、知性や品性の欠片すら感じられない小僧がナニを抜かすかよ」
「ああ、悪かったな。知性や品性が欠片も無くてよ。だけどな。人の大切な人達を扱き下ろす時点でテメーも大した事ねーだろうが」
「ほざいたな。小僧。悠久の時の中で、ブリテンと共に在り続けたこの俺が大した事無いだと......」
「大した事ねーだろうが。人の大切な人達をバカにする時点で、その程度の存在ですと自己紹介してるだけだろ。その程度の事すらわかんねー時点でどーしようも無いな」
「ふっ。身の程を知らんと見える。これだから、野蛮な猿は困る」
「誰が猿だ! この蜥蜴!!」
お互いに罵り合い、一誠が「絶対に俺の中から追い出してやるからな! この糞竜!!」と吐き捨て、自分の前から消えるのを見送ったドライグは、深い溜め息を付いた。
『アーサーの影──アルトリア。あれが、俺の最高の相棒だと言うのか?』
遥か昔。神代の時代が完全に終わる時代。その時代に、自身の心臓を与える程に魅了されたアーサー王。その影として一生を終えた転生者である女性の言葉を覚えていたドライグは、有り得ない。と嘆息する。
『確かに、あの小僧は良く体を鍛えている。しかし、それだけだ。それだけにすぎん』
アーサー王の様な強靭な決意と尊い理想。その影として全てを捧げたアルトリアの覚悟。そして、その二人に未来を夢想した円卓の騎士達の様な情熱も無い。
確かに、これから其れ等を得るのかもしれない。しかし、ドライグには、兵藤一誠と云う原作主人公が"素晴らしい存在"とはどうしても思えなかった。
アーサー王を始めとした円卓の騎士達が、破滅の未来を知りながら、避けられない運命だと理解しながら、それでもなお、より良い未来の為に──少しでも犠牲を減らす為に、文字通りに命懸けで魂を削りながら、眩いばかりの光を放ちながら駆け抜けた光景を知っているからこそ、"
彼等は決して、原作に辿り着く為の前振りでは無い。
彼等は、彼等なりに、必死に懸命に生きた。全力で駆け抜けた。
だからこそ、ドライグは転生者であるアルトリアの云う"素晴らしい原作"を否定する。そんなモノは存在しないのだと。
ドライグとの会合を終えた一誠は、目を見開くと同時に吠えた。
「レイナーレさん! あの糞竜を俺の中から追い出す方法を教えて下さい! 今すぐに!!」
その様子に、ドライグの事を知らない柳川師範はキョトンとして、神器の発現は上手くいったのに何が不満なんだろうと首を傾げ、二天龍がどんな存在か知っているレイナーレやリアス達は──あ、うん。そうなるよね。と言わんばかりの表情を浮かべる。
一方。匙は、『えっ? 何だあの赤い籠手? イッセーの奴、あんな籠手してなかったよな? 手品か? もしかして、マジなのか? マジで神器なんてオカルトが存在してんの?? えっ、俺、ヤバくない? もしかしなくても、小間使い確定? そんなの、嘘やん』と遠い目をしていた。
「一誠君。貴方の言いたい事は良く分かるわ。私の弟は二天龍の片割れである白い竜アルビオンだもの......」
あのやる気の無い。惰眠ばかり貪って、起きたかと思えばサクソン人が如何に素晴らしいか熱弁する駄竜を知っているレイナーレが、一誠を気遣う様に言葉を紡ぐ。
「講義の時にも話したけれど、神器の摘出は現時点では不可能なの。リミッターも完全なモノは存在しないわ」
その言葉に、一誠が物凄く嫌そうな顔をしながら、赤く武骨な籠手を纏っている右手を見下ろし、「あんな糞竜と一生一緒とか、どんな罰ゲームだよ」と心の底から嫌そうに呟いた。
一誠の神器発現が無事に終わり、神器発動が自在に出来る事を確認し終わると、受け入れがたい現実と戦っている匙に順番が回って来てしまう。
その様子を見ていたレイナーレは、今日は取り止めにして後日にするべきか。それとも、非現実を信じさせる為に冥界に在る堕天使の拠点に連れていくか。もしくは、実際に空中飛行等を行って信じさせるか。等を思い浮かべるが全てを却下して、そのまま神器発現の実行を決定する。
何故なら、匙自身が半信半疑で有る為に、神器の危険性を理解していない事は明白である。
つまり、既に神器発現の仕方を教えている以上、自分の関与できない状況で、自分勝手に神器発現実行して暴走をされたら──それこそ、なんの為に命懸けで魔境に赴任したか判らなくなってしまう。
堕天使領に連れていく案も、いくら神器保有者であっても現段階では一般人なのだ。レイナーレの今の権限では一般人を無許可で連れ帰る事は出来ない。アザゼルに許可を取ったとしても、許可からの書類製作等で数日掛かってしまう。その数日で神器発現からの暴走の可能性は十分に有る。
何よりも、神器が暴走したとしても、容易く制圧できる人物が直ぐ傍に居るのだ。悪魔や堕天使等が複数で不意打ちを仕掛けたとしても、次の瞬間には無傷で返り討ちにしてしまえる頭の可笑しい実力者が。
万が一、一番最悪なパターンである侵食系の暴走を起こしたとしても、柳川師範なら周囲や匙自身に被害が及ぶ前に取り押さえられる。その上、魂や精神が完全に侵食されない限り、手持ちの魔道具で治療は可能。もし、手持ちの魔道具で対応出来ないとしても、駒王町にはあのライザーが居る。最も頭の可笑しい医療狂集団"境界無き医師団"所属のライザー・フェニックスが。
考えうる最悪のパターンとその対処法を熟考した結果。自分が関与できない状況神器発現されて暴走されるより、遥かにマシと判断したからだ。
「匙君。神器と対面しても、直ぐに手を触れない。名を名乗らない。最低でも、これだけは守りなさい」
僅かに混乱している匙にそう言い聞かせているレイナーレが、「それだけでも暴走の可能性を大分抑える事ができるわ」と続ける。
曖昧に頷いた匙を見たレイナーレは『心構え一つで大分違うのに......二人同時は悪手だったわね』と考えながら近くに居る柳川師範に視線を送り、柳川師範が小さく頷いたのを見ると覚悟を決める。
「では、匙君。始めて」
戸惑い。僅かに混乱しながらも神器発現を開始した匙が、「西洋剣?」そうボソリと呟く。
「どんな形かしら? 片刃? それとも、両刃?」
危険とされている西洋剣型の神器をピックアップしながら、その対処法を脳裏に思い出しているレイナーレ。
「薄い青色の両刃で、刀身に三角を三つ――なんだろ? どっかで見た事ある様な?」
その匙の言葉に心当りがあるリアス達が目を見開き、レイナーレは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。
「伝説の──最高位の退魔の剣。大当たりですよ!! 匙君! 直ぐにそのマスターソードに触れて名前を!!」
まともどころか、大当りを引いたと喜び勇んだソーナの言葉に匙が頷くより早く、レイナーレが叫んだ。
「ソレに触れてはダメ! 今の貴方では呑まれてしまう!」
レイナーレの叫びの意味が分からないソーナが「えっ?」と間の抜けた声を溢し、リアス達は首を傾げてしまう。
数々の
世界と愛し慈しむ人間達の為に存在する、究極の聖剣が一振り。
文字通り、世界を救う退魔の剣。
その聖剣が、退魔の剣が、どれ程危険で厄ネタなのか理解していないリアス達と、現状を理解しきれていない一誠を無視して、匙の動きに注視しているレイナーレが指示を飛ばす。
「一誠君は出来る限り離れて。リアス達は一誠君を何がなんでも守りなさい」
何時の間にか、右手に薄い青色の西洋剣を握っていた匙が、ゆっくりと両目を開き、赤黒く染まった目から血の涙を流し始める。
片手で握っていた西洋剣を両手で握り直し、熟練の剣士の様に晴眼に構える匙から、殺気なんてモノを知らない一誠ですら感じられる濃度の殺気を放ち始めた。
「お、おい。匙、どうしたんだよ? 何で、そんなに怒ってんだよ?」
事態を良く理解できていない一誠が前に出ようとするのを白音が止めた。
「ダメです。今の匙さんは正気を失っています」
その言葉の意味を理解したくない一誠が、白音の制止を振り切って前に出ようとした瞬間的、リアス達が一誠を守る様に取り囲む。
「先輩? えっ? あの」
戸惑っている一誠に、リアス達は何も返さずに神器が暴走してしまった匙の動きに神経を注ぎ込み始めた。
「匙君の神器は暴走しました。私のせいですね......」
自分の浅はかさを悔いる様に、ソーナは歯を食い縛る。
「匙は、大丈夫なんですよね? 元に戻るんですよね?」
「大丈夫よ。レイナーレさんと柳川さんが居るんですもの。だから、大丈夫」
まるで、自分にも言い聞かせている様なリアスの言葉に、一誠は初めて、自分達や匙が危険な状態に在る事を正確に理解する。
『俺は、ダチがヤバい目にあってんのに、何もできないのかよ』
今日知り合って、今日友達になった。浅い付き合い。
それでも、時間なんて関係ないと思っている一誠は、自分の実力不足に歯噛みする。
あの剣の間合いに入った瞬間には自分は死ぬ。いや、間合いに入らなくても、自分が今生きているのは皆に守って貰っているからだと、一誠は理解していた。自分では友達を助ける事は絶対に出来ないと。
どんなに必死に頑張っても、自分では無理だ。でも、それでも、この場には──あの人が居る。
負ける処なんて微塵も想像できない。
自分が知る中で、いや、例え──誰が相手でも、絶対に負ける訳が無い。そう断言できる。目指している最強の人が。
「師範。そいつ、匙て云って......俺のダチなんです」
守られる事しか出来ない自分に、情けなさを悔しさを感じながら、一誠は言葉を続ける。
「だから、頼みます。助けて下さい。今日。ダチになったばっかなんですけど、良い奴なんです」
この人なら大丈夫。絶対に何とかしてくれる。そう信じているからこそ、一誠は頭を下げる。
「匙を、助けて下さい」
その言葉を聞いた柳川師範は、『真っ直ぐで、良い子に育った』と嬉しく思い、うっすらと笑みを浮かべる。
「大丈夫。私に任せなさい」
静かで、でも、力強い言葉に、一誠とリアス達は確かに安堵した。
「さて、弟子に頼まれたのだし、直ぐに安心させて上げたいが」
一度言葉を切った柳川師範は、目を細めて匙の構えを視る。
「高校生とは思えない。年季の感じる構えだ」
まるで、ヤイバ流剣術や飛天御剣流の師範代を相手どっているかの様な錯覚を受ける程に隙の無い構えに、匙を無傷で取り押さえる方法を思考し始める。
「それはそうでしょう。今の匙君は、歴代のマスターソードの所持者達。"時の勇者"達の経験を受け継いでいます」
匙から目を離さない様に気を張っているレイナーレの言葉に、柳川師範は僅かに眉を潜める。
「彼等、彼女等の体験した、歩んだ人生の全てを一瞬で疑似体験した結果。匙はソレ等全てが自分が実際に歩んだ人生と誤認してしまったんです」
その意味に言葉を失った柳川師範に、レイナーレは言葉を続ける。
「世界を救う退魔の剣。その所持者は、どうあっても"時の勇者"の役割を押し付けられます」
嫌悪感を隠さずに、レイナーレが吐き捨てる。
「時の勇者は生け贄なんです。見知らぬ誰かを、世界を救う為の」
匙から感じる──怒り。悲しみ。絶望。憎悪。ソレが正当なモノだと理解した柳川師範は、小さく息を吐く。
「成る程、すがられ頼られた者の末路か」
口の中で小さく「報われなく、悲しいな」と言葉を転がした柳川師範は、匙が握る剣に視線を移す。
「あの剣は──折っても大丈夫ですか?」
その言葉に、思わず「えっ? ナニ言ってんの? この人??」と言わんばかりの表情で、柳川師範の顔をマジマジと見てしまったレイナーレが己の失態に即座に気付き、小さく「あっ」と溢してしまう。
負の感情に負け、自己を見失った剣士を前にして、隙を晒してしまったレイナーレが慌ててその場を飛び退き、襲い掛かってくる筈の匙を迎撃せんとその方を向くと同時に、「は? えっ? なんで???」と唖然としてしまう。
「取り敢えず、事前に言われていた通り、意識を絶ちました。これで大丈夫なのかな?」
両手で構えていた剣を手放し、意識を失った匙を片手で抱き抱えている柳川師範。
「あっ、はい。大丈夫です」
匙の神器がよりにもよってマスターソードで有る事を知った瞬間に、柳川師範と二人掛かりでも手傷を負い、腕一つを失う覚悟を決めていたレイナーレは、理不尽な強さを見せ付けた柳川師範に戦慄する。
「さて、折るか」
ゾッとする程に冷酷な目で、地面に落ちているソレを見た柳川師範は、匙を片手で抱き抱えたままでマスターソードの側まで近付くと徐に片足を上げる。
「えっ? いや、柳川さん?? えっ?? いや、待って──」
概念と化した魔王ガノンを倒せる唯一の手段。
マスターソードと三つのトライフォースを得た時の勇者でなければ、魔王ガノンを倒す処か傷つけられない事を知っているレイナーレが慌てて柳川師範を止め様とするが、無情にも、気を纏わせた右足が踏み下ろされてしまう。
しかし、さすがは聖剣と云うべきか、ガッンと鈍い音を立てながらも、僅かな歪みすら無かった。
柳川師範の足が退き、無傷の聖剣を見たレイナーレは安堵の溜め息を吐き、柳川師範が露骨な舌打ちをする。そして、その暴挙にリアス達は言葉を失い。一誠は「あっ、そうか。あの剣のせいで匙が可笑しく成ったんだから、折れば良いのか」と感心した様に呟いた。
「この子......匙君をお願いします」
意識を失った匙をレイナーレに任せた柳川師範が、スーと静かに息を吸い込む。
「あの、ナニを?」
嫌な予感しかし無いレイナーレに、柳川師範は真剣な表情で返した。
「界王拳二倍で、今度こそ折るだけです」
自身が習得し、完全に使いこなせる倍数を答えながら、界王拳を使おうとした柳川師範を、慌ててレイナーレが止める。
「止めてください!!」
匙を抱き抱えた状態で、必死に止めようとするレイナーレを、柳川師範が冷たい目で見る。
「一人に世界の命運を背負わせる物など、必要ないでしょう。そも、そんなモノを一人に背負わせるなんて馬鹿げている」
「そのお気持ちは分かります。でも、魔王ガノンが復活した時の為に、マスターソードは必要なんです」
「魔王ガノン?」
初めて聞く言葉に、柳川師範が思案し始め、それを好機と捉えたレイナーレが口を開こうとする。
「わかりました。私が倒しましょう。私の死後に復活するなら、ソレまでに倒しうる力を持った者達を育てあげましょう」
自分一人では無理でも、同等の実力者は複数居る。自分達が無理なら、武天老師を始めとした頂点達に託せば良い。もし、自分の死後ならば、弟子の中に自分を超える才を持つ者達に託せば良い。
人間は、そうやって、託し受け継いできた。
「生け贄などを良しとはせず、自分の意思・決意で、託し受け継いできた。それが、人間だ」
生け贄の強制など認めない。確固たる強い意思を感じたレイナーレが、言いにくそうに口ごもっていると、地面に転がっていたマスターソードが、融ける様に消えてしまった。
神器の発現が完全に解けた事を察したレイナーレは安堵するが、柳川師範が苦虫を噛む潰した様な表情を浮かべ、「仕方無い。次の機会に折るか」と呟いた。
「魔王ガノンは、マスターソードでしか倒せない。ですから、折られる訳にはいかないんです」
概念と化し、力有る神々でさえ、簡単には手が出せなくなった魔王ガノン。そして、マスターソードとトライフォースがどの様に生み出されたか。
レイナーレの説明に、柳川師範が口を開く。
「つまり、どれ程の実力が有っても勝ち目は無いと?」
「はい。マスターソード以外では不可能です」
「他者がマスターソードを振るう事は?」
「神器は、保有者専用と云っても過言では有りません」
「つまり、匙君にしか扱えない。そうか」
その話を聞いていたリアス達が、匙の置かれている状況を理解し唖然とする。
「魔王ガノン? えっ? 匙君が? ガノンと戦う? 最強の悪魔、初代ルシファーですら逃げる事しか出来なかった相手と戦う?」
マスターソードの保有者で在ると云うだけで、そんな重荷を背負わされるとは知らなかったソーナは、その場にペタリと座り込んでしまった。
「だ、大丈夫ですよ! 柳川師範が、そのガノン? てのをやっつけてくれますから」
どんなに強い存在が相手でも、柳川師範なら勝てる。そう信じきっている一誠の言葉に、ソーナはすがるような柳川師範を見上げる。
「その時は、私も一緒に戦おう。子供一人にそんな重荷を背負わせたりはしないさ」
一誠の盲信とソーナのすがるような視線に、柳川師範が微笑みながらそう言い切った。
「魔王ガノンは、現在、神々によって封じられています。ですが、絶対では有りません。もしもの時には......」
レイナーレの言葉に、柳川師範が頷く。
「その時は、必ず」
「此方もそんな事が起きない様に動きます。封印の確認も随時して貰うように働き掛けます」
出来る事を限界までやっても絶対は無い。その事を知っている柳川師範は自己を鍛え直す事を決め、レイナーレは『仕事が増えた......』と軽く絶望する。
「さて、今日は此処までにしましょう」
やらなくては成らない事が増えた現実を嘆きながら、レイナーレは立ち会ってくれた柳川師範に頭を下げると、一誠達の方を向く。
「匙君は此方で見るから、これで解散よ」
何か言いたげなソーナを無視して、レイナーレが言葉を続ける。
「一誠君は、明日から必ず、放課後、オカルト部に顔を出しなさい。神器の訓練よ」
その言葉に、一誠がチラリと柳川師範を見て、柳川師範が頷いたのを確認すると、レイナーレの指示に頷いた。
「リアス。ソーナ。貴女達には話が有ります。覚悟してなさい」
神器の重さを想像しないで、当たり外れと騒いだ事を叱られるのだと理解しているリアスとソーナは、小さく「はい」と返事をした。
「眷属候補の子達は、用事が無ければ此のまま帰って良いわよ」
レイナーレのお説教に捲き込まれたく無い眷属候補達は、あっさりとリアスとソーナを見捨てて、その言葉に頷いた。
魔王ガノンとマスターソードのお話
転生特典にガノンの力(マスターソード以外では傷付かない)を持った転生者が、他の魔王の力を持った転生者を文字通りに喰らいました。
そうやって力を着けていくガノンに脅威を感じた力の弱い神々と精霊達が、力有る神々(ゼウス神とか)に討伐を依頼するも「人間が何とかするから、へーきへーき」と相手にせず、ならばと、人間の為に力を振るう神々(聖書の神様等)に依頼しようとするも、そう云った神々は様々な問題対象に追われ、ガノンに対応出来ず。
その為、力を持つ人間達(チート転生者・非チート転生者問わず)に依頼するも、初代武天老師や初代東方不敗や竜の騎士を始めとする人間最強クラスが全滅。なお、この時にチート特典のマザードラゴンも敗北し、以降、竜の騎士は出現しなくなる。
にも関わらず、力有る神々は「人間なら勝てる勝てる」と相手にせず。それにブチギレタ力無き神々と精霊が自身を素材にマスターソードを製作。
マスターソードを手にした人間の少年(非チートの普通の人間)が、その命と引き換えにガノンを撃破。
しかし、ガノンの魂を消滅させる手段が無く。力有る神々に封印を依頼するも、「人間なら」の発言にブチギレて、人間は好きだけど自己の消滅は嫌。もっと、人間といちゃいちゃしたい。と考えてマスターソードの素材に成らなかった神々と精霊達が、自己の消滅を覚悟でトライフォースと成り、ガノンの魂を封印。
その様子を見ていた力有る神々は「??? 人間に任せとけば良かったのに、何でそんな事したん???」と理解に苦しみながら、取り敢えず、ガノンの封印を監視する事を決定。
しかし、この時既に、ガノンは全勢力に単独で戦争できる力を得ていた為、力が戻れば自力で復活。
そして、次の時の勇者が命懸けで討伐。
それを何度も繰り返し、匙君が当代の時の勇者に選ばれました。
ちなみに、マスターソードの保有者の経験を体験するのは、聖書の神様の善意です。
この剣の持ち主は皆凄い人ばかりだよ! 彼等彼女等の思いを知って欲しいんだ!! 哀しくて辛い体験させてごめんね。でも、こんなに辛く苦しい旅路の果てに偉業を成し遂げた事を知って欲しいんだ! だから、悪用しないでね!! お願いだよ!!
と云う想いで、疑似体験させてます。
そして、最後まで体験すると、聖書の神様のメッセージが流れます。
辛く苦しい思いをさせてごめんね。でも、彼等彼女等の事を知って欲しかったんだ。あっ、ガノンとは別に戦わなくて良いよ! もし、復活したら、私が戦うよ! 勝てないかも知れないけど、命懸けで戦うよ! 最悪は、私の命と引き換えに再封印するから安心してね! だから、大丈夫だよ! 幸せに成ってね!!