転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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善意の行動が、良い結果をもたらすとは決まっていない。て話です。

そして、二回目の人生を生きる姉と何処にでも居る少年が居たらどうなるんでしょう?
姉は知っています。体験しています。"ちゃんと勉強していれば" "もっといろんな事に挑戦してみたかった"等々を。
少年、弟はそれを知りません。体験してません。親がそう言うのを聞いた事があるだけです。
姉は頑張ります。そして、才能が有ったのか結果を出します。
弟は普通の少年です。友達と遊ぶのが楽しくて堪らない年頃です。
そんな二人は、両親から、周りの大人達から、どう見られたのでしょうか?

それに気付いた普通の弟は、頑張りました。
遊びたいのを我慢して頑張りました。でも、頑張っても必ず結果を出せるとは限りません。
結果を出す姉とそうでない弟は、どう周りから思われたんでしょうか?

それこそが、柳川師範の言う──本作品の兵藤一誠が抱えているモノです。


個々の動きと決断

 薄い青色の刀身に目を奪われ、直ぐに触れて名前をと言われて、そして、俺は──失った。

 

 両親。兄。弟。姉。妹。親友。友達。恋人。夫。妻。子供。孫。そして、故郷。

 何かも、一切合切、文字通り全てを失った。

 何故? どうして、こんな目に合わないといけない?

 誰も助けてくれない。神々も、精霊達も、誰も助けてくれない。哀れむだけで、助けてくれない。

 だから、嬉しかった。神々や精霊達が戦う武器を授けてくれた事が。これで、仇を討てる。皆の無念を晴らせる。

 自分(人間)は、見捨てられてなかったと分かったから。嬉しかった。

 必死に戦って、誰も助けられなかった、誰も守れなかった、ちっぽけな命で、アレを倒せた。

 こんな無価値な命に出来る事が有った。それが嬉しかった。

 でも、終わりじゃなかった。

 アレは、何度も、何度も、何度も、甦った。

 僕は、私は、俺は、儂は、その度に剣を取った。

 本当は、嫌だった。嫌で仕方なかった。

 なんで、戦わなければ成らない? 自分より強い人は幾らでも居るのに。なんで自分が?

 でも、戦った。戦うしかなかった。

 だって、この剣は、神々や精霊達の犠牲の結果だから。人間に生きて欲しくて、人間に幸せに成って欲しくて、作ってくれた剣だから。

 だから、戦うしかなかった。そうじゃなきゃ、神々と精霊達の犠牲が祈りが、無駄に成ってしまう。

 戦った。嫌だと叫びたいのを必死に我慢して、逃げたいのを必死に我慢して。

 何時か、この戦いが終わると信じて、戦った。

 でも、終わりなんて無かった。

 だって──この剣の力は凄くて、「助けて」と叫ぶ誰かは居なくならなくて。

 嫌で逃げたいのを必死に我慢して、戦わなければいけなかった。

 逃げたら、嘘に成ってしまうから。

 戦わないと、無駄に成ってしまうから。

 ああ、でも、なんで、私が、僕が、儂が、俺が、戦わなければ成らない?

 この剣を宿して産まれた。そんな理由で、戦わなければならない?

 強い人は幾らでも居るのに。なんで?

 助けて、守って欲しいのは──自分なのに。

 

 神様が言う。もう戦わなくて良いと。

 神様が言う。自分が命を掛けて戦うからと。

 神様が言う。この命を引き換えにしてでも、再び封印してみせるからと。

 神様が言う。幸せに成って欲しいと。

 

 ああ、それはダメだ。

 だって、神様の声が優しいから。剣を作ってくれた神々と精霊達の様に、その御身を犠牲にアレを封じてくれた神々と精霊達の様に優しいから。

 きっと、この神様が居なくなったら──沢山の人が悲しむ。

 なら、自分が戦う。嫌だけど。逃げ出したいけど。戦う。

 だって──その方が、悲しみが、小さいから。少なくて済むから。

 だから、我慢して戦おう。きっと、それは、正しい事だから。

 この命を使って、世界を救おう。それが、きっと、悲しむ人が一番少ないから。

 

「レイナーレさん」

 学園の保健室のベッドに寝かせていた匙が、目を覚まし上半身を起こす。

「気分はどうかしら? 痛い所とか......」

 優しく微笑みながらそう言ったレイナーレは、匙の目を見て、悟った。『この子は、覚悟を決めてしまった』と。

「戦い方を教えて下さい」

 時の勇者(生け贄)に成る決意をした匙を、レイナーレは優しく抱き締める事しか出来なかった。

「私では、私達では、貴方を助けられない」

 ハラハラと涙を流し、「ごめんなさい」と謝りながら、抱き締め続けるレイナーレに、匙が「大丈夫ですよ」と声を掛ける。

「俺は、俺の意志で戦います。皆がそうして来た様に、俺の意志で戦います」

 静かに力強く、そう宣言した匙を、レイナーレは無言で強く抱き締める。

「お願いします。俺に戦い方を教えて下さい」

 

 

 神器発現を行ったその日の夜。

 一誠は亀仙流道場──師範の柳川の前で、頭を下げていた。

「二・三日。考えてから......私の所に来ると思っていたんだがなぁ」

 柳川と一誠以外に誰も居ない道場で、一誠は深々と頭を下げ続ける。

「一誠君。君は神器持ちだ。しかし、まだ、完全に此方に踏み込んだ訳じゃない」

 まだ引き返せる。此処が分水嶺だと語る柳川の言葉を聞いても、一誠は頭を下げていた。

「神器持ちが、必ず、なにかしらの事態に巻き込まれる訳じゃない。神器を制御して、表の世界で生きている人達も居る」

 決して頭を上げようとしない一誠に、柳川は言葉を続ける。

 

 曰く──スポーツ選手等にも神器持ちは居る。彼等は神器を正しく制御し、日常を生きている。

 スポーツ選手だけでは無く、サラリーマンや教師にも神器持ちは居る。

 余程、有用で希少価値が高い神器でも無い限り、狙われる事は無い。制御さえきちんとできていれば、問題なく日常を生きていける。

 

 その説明を聞いた一誠が、道場の床に膝を着けると同時に土下座をする。

「なら、なおさら、俺を鍛えて下さい」

 あの時、友達が危機に陥った時、守られる事しか出来なかった。すがる事しか出来なかった。自分の身すら守れなかった。

 それが、一誠には悔しかった。

 弱い自分に負けない様に、ガムシャラに鍛えたつもりだった。同年代なら、負けないぐらいに強く成ったつもりだった。自分の身も友達も守れるつもりだった。

 つもりでしか無かった。

 守られる程度の強さでしか無かった。

 人間だから。人間じゃないから。そんな事は、一誠には関係無い。

 友達が、先輩・後輩が、危険に晒されて、何も出来なかった。

 

 もし、あの場に、柳川師範が居なかったら?

 もし、あの場に、姉──京子が居たら?

 断言できる。何も出来なかったと。

 

 守れる程に強くなりたい──なんて贅沢は言わない。

 一緒に戦える程度の強さが欲しかった。

 大切な存在を逃がす時間を稼げる力が欲しかった。

 第一、一朝一夕で強く成れるなんて思っても居ない。いや、成れるかも知れない、神器の力を使えば。でも、一誠にはそれが出来なかった。

 ただでさえ、自分が傷付けている家族を、これ以上悲しませる様な事だけはしたくなかったからだ。

 だからこそ、一誠は頭を下げ続ける。神器に可能な限り頼らずに強くなる方法が、これ以外に思い付かなかったから。

「匙君の事は、私やレイナーレさんに任せなさい」

 お前に出来る事はない。そう言われた気がした一誠が、グッと歯を食い縛る。

 弱い自分に出来る事なんて何も無い。そんな事は、一誠が数時間前に思い知った事だ。だからこそ、強くなりたい一心で頭を下げ、土下座までしている。

『なのに、なんで──わかってくれないんだよ』

 帰り際に白音に聞いた、魔王ガノンの強さを一誠は良く理解できていない。現在封印されていて復活するかどうかも分からない。とも聞いていた。でも、それでも、友達がヤバい奴と命懸けの戦いをするかも知れない事だけは理解できていた。

 柳川に任せておけば大丈夫だと信じている。だけど、友達の為に、自分が何もしない──出来ない事だけは、どうしても我慢できない。

「匙君は......恐らく、日常とある程度の距離を取るだろう。だが、そんな事はしなくて良いと日常側から手を差し出し、無理矢理に握り締め、その手を離さない事も大切な事なんだ」

 一緒に戦う事だけが力に成る事じゃない。非日常を前に、「それがどうした?」と笑い飛ばし、友達で在り続ける事。それもまた大切な事なんだと言い聞かせる柳川の言葉に、一誠は何度か口を開き掛けては閉じる。

「強さを欲するのも分かる。悔しくて情けないと思う気持ちも」

 土下座をしたまま、微動だにしない一誠の前で、柳川は腰を屈めて一誠の肩に手を置く。

「君は強い。同年代で勝てる者は少ないだろう。焦る必要は無いんだ。少しずつ、少しずつ、強くなりなさい」

 その言葉に、何かを言おうとした一誠は押し黙る。

 きっと、その言葉は正しいと思ってしまったから。

 少しずつ、一歩ずつ、しっかりと踏みしめて、レンガを一つ一つ丁寧に積み上げる様に、そうやって努力を重ねて往くのが正しいとわかってしまった。

「師範の言う事が正しいと、俺も思います」

 だけど、それでも、頷けなかった。

「それでも、俺は強くなりたい。戦う力だけが、強さじゃない事は良く知ってます」

 それでも、一誠は戦う力を求める。

 

 幼い頃から姉の京子(転生者)と比べられ続けた結果、自分に対する自信が無かった。

 何をやっても、姉の京子(転生者)には勝てなかった。

 亀仙流を習い"戦う力"を得るまでは。

 だから、一誠は"戦う力"を求める。それこそが、完璧超人の京子の弟だと胸を張れる(姉に勝てる)唯一だと思い込み信じきっているから。

 

「俺は、嫌だ! ダチが危ない目に会いそうなのに、見てるだけなんて、絶対に嫌だ!!」

 幼稚な事を言っている自覚があった。それでも、一誠は我慢ができなかった。

 

   だって、友達を見捨てる奴が──

 

「それに、ガノンてのが復活したら、俺の家族やリアス先輩達だってヤバいて事ですよね?」

 

   家族や友達の危機に何も出来ない奴が──

 

「俺は俺の大切な人達を自分で守りたい! 無茶な事を、馬鹿な事を言ってるのはわかってます!」

 

   家族や友達を守れない奴が──

 

「お願いします。俺を鍛えて下さい!」

 

   兵藤京子の弟(兵藤一誠)とは、認めて貰えない。

 

「私が断ったら......レイナーレさんを頼るのかい?」

 思いの丈が詰まった一誠の言葉に、柳川が小さな溜め息を吐き、そう呟くと、考えを見透かされた一誠の体がビックリとする。

「幾つかの条件がある。それを守れるなら、稽古を着けよう」

 思わず頭を上げた一誠の目に、如何にも仕方の無い子だと、言わんばかりの表情をした柳川の顔が映った。

「土下座を止めて、楽に座りなさい」

 その言葉に頷いた一誠が、上半身を起こして背筋を伸ばし、軽く握った両拳を膝の上に置き、綺麗な正座の姿勢を取ると、柳川が「足を崩して、楽にしなさい」と言葉を掛ける。

「まず、前提条件が、亀仙流の教えを如何なる時でも忘れない事だ」

 漸く足を崩して楽な姿勢を取った一誠の前に、柳川がそのまま腰を降ろし胡座を掻く。

「これは絶対だ。これが守れないなら、何も教えられない」

 その言葉を額面通りに受け取ってしまった一誠が、籠められた意味と想いを理解しないままに、頷いてしまう。

「分かった。条件を伝えよう」

 初めて会った時の思い詰めた表情よりは幾らかマシとは云え、ソレに近い状態にまで戻ってしまった事を察した柳川は、胸に沸き上がる想いを深く沈め、それを一誠に悟られない様にしながら、出来るだけ穏やかな口調で条件を口にした。

 一人で無茶な事はしない。稽古は必ず、自分の付き添いで行う事。焦らずに、適度な休憩を必ず取る事。

 それらの条件を聞いた一誠が、しっかりと頷く。

「今日はもう帰りなさい。一誠君の都合の良い日に、この時間に此処に来なさい」

 

 力強くハッキリとした声で返事をした一誠を見送った柳川は、深い溜め息を付くと同時に、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。

「やっと、やっと、少しずつ自身を肯定できるように成ったと思ったらこれか」

 匙の神器がマスターソードではなく、別の神器だったなら。表では強くても、裏では違う事に気が付かなければ。様々な"たられば"が頭に浮かんだが、ゆっくりと首を振り、それを頭から追い出す。

 起きた事は覆せない。だからこそ、人は前に進める。その事を経験則として理解している柳川は、"一誠に自分を肯定させよう会議"を久しぶり開催する事を決める。

「バラキエルさんが帰って来てくれれば、頼もしいが、何時に成る事やら」

 禅道場に通い始めてから、一誠の精神面の成長を補助し続けている堕天使の不在を嘆きつつ、己の不甲斐なさを実感している柳川は、「やはり、戦う事しかできない私では、やれる事など......たかが知れているな」そう悔しげに言葉を漏らした。

 嘗ての自分の様に、自己肯定が上手く出来ない一誠の助けに成れない。そして、過去の焼き増しの様に戦う力を求める一誠に、「それは違う」と諭せない自分に嫌気がしながら、柳川は悲しげに眉を落とす。

『相手を殴るために握りしめた拳では何も掴めない。その事に、早く気付いてくれ』

 口頭でそれを告げても、本当の意味で理解出来ない。それどころか、嘗ての自分の様に理解したつもりになって、一誠が取り返しのつかない事になる事を恐れている柳川は、今は亡き師の言葉を噛み締める。

「貴方の言う通り、私は弱いままだ」

 

 一誠は満面の笑みを浮かべていた。

 柳川の告げた"本当の亀仙流"を身に付けられたら、きっと、家族と友達──大切な人達を守れる男に成れると確信して。

「ドラゴンボールみたいに、かめはめ波とか?」

 神器なんてオカルトが有るなら、気を使った技が有るかも知れない。そんな事を考えながら、家族の居る家に足を進める。

『いっぱい頑張って、強くなれば、きっと──』

 脳裏に尊敬している大人達──柳川。ライザー。バラキエル。そして、自分の両親。それらを思い浮かべた一誠は、無意識に右手を握り締める。

 彼等の様な大人に成れたら、きっと、グズで弱い"今の自分"と決別できる。

 そうなったら、きっと、胸を張って「俺は兵藤京子の弟(兵藤一誠)だ」と言える様になる。

「明日から毎日道場に通わないとな。バイトは......まぁ、うん。士郎先輩に頭を下げて時間をずらすとかすれば大丈夫か」

 道場の先輩であり、バイト先の定食屋の店長をしている先輩に、どう説明すれば良いのか考えながら、一誠は笑みを浮かべたまま帰り道を歩き続けた。

 

 

 神々が魔法少女と戯れる為に、一切自重せずに作り上げた異界。ミッドチルダに建てられた小さな可愛らしい城の一室。思わず目を背けたくなる書類の山とパソコンが置かれている執務室で、目の下に隈を作っているセラフォルーがてきぱきと提出用の書類を制作していた。空の栄養ドリンクを山積みにしながら。

「おわ~ん~な~い~!! 見栄なんて張らなきゃ良かったぁぁぁ」

 後ろ楯の神々に提出する書類の制作を手伝うと言ってくれた魔法少女達に見栄を張って、「大丈夫。大丈夫。おねーちゃん。これぐらい余裕だから☆」と、帰る家が有る子達を帰し、保護している子達をヘスティア神に寝かし付けて貰った事を後悔していた。

「いや、負けるな! 私!! がんばれ! 私!!」

 神器保有者の子供とか幼い転生者の保護や様々なケア。魔法少女の勧誘をしながら、「書類制作しなきゃ......でも、この子達見てないと危ないし......後で纏めてやれば良いよね☆」等と言って、二周間以上、書類制作をほったらかし、実験動物として扱われていた子達の精神ケアをしてたら、何時の間にか未提出の書類の山が出来ていたのだ。

「がんばれ、私。負けるな、私ぃぃぃ」

 やけに手慣れた手付きで、片手で栄養剤ドリンクの蓋を開けると、グビッと一気に飲み干したセラフォルーは、六徹で充血した目で書類を睨み付け、懸命に手を動かし続ける。

「来週は皆でピクニック! 皆でピクニック!」

 セラフォルーは決死の覚悟で、書類の山と格闘していた。

 

「セラお姉ちゃんてさ、頼りになるけど......基本的に要領の悪いダメ姉だよね」

「だから、あの子達の事は私達に任せてて言ったのに」

「カッコつけて、無理に良いとこ見せようとするから、こんな事になるんだよ? いい加減、学習して??」

「セラ姉......また、書類溜め込んだの? そんなんだから、結婚どころか、恋人もできないんだよ?」

「あ~ うん。手伝うよ。大丈夫。もう慣れたし」

「セラ姐は何時になったら結婚するの? 他のお姉ちゃん達は結婚して子供居るよ?」

「えっ、セラお姉ちゃんまだ結婚してないの? 私、子供どころか孫産まれたんだけど」

「セラ姉。私、結婚するんだ。セラ姉もいつか結婚できると良いね」

 

 妹分の魔法少女達に投げ掛けられた言葉を不意に思い出したセラフォルーが、「うっっがぁぁぁぁあぁぁ」と雄叫びを上げ、ボサボサの頭を両手で掻きむしる。

「違うの! 全然違うの! 私は、結婚できないんじゃないのぉぉ!!」

 誰も居ない執務室で、虚ろな目で虚空を見上げ、セラフォルーは勢い良く息を吸う。

「私は、結婚しないだけなのよ!!」

 吸い込んだ空気と共に、魂の叫びそのままに咆哮したセラフォルーが、ブツブツと呟きながら書類にペンを走らせる。

「そう。できないじゃないの。しないだけなのよ。だいたい? 私みたいな──完全無欠で才色兼備で才色賢姉な美少女である私が、結婚できない訳無いじゃない。常識的に考えて? そう。出会いが無いだけなのよ。出会いさえあれば、即ゴールインな美少女である私が結婚できないなんて......有り得ないでしょ? その気に成れば、男の一人や二人や五人や百人なんて簡単に作れるのよ? でも

それって、妹達や弟達の教育に悪いでしょ? 基本的にダメ姉? それも、無い。有り得ない。だって、私。がんばってるもの☆ すっっんごっっっっっく☆がんばってるもの☆ この書類の山をやっつけたら──皆が私を褒め称えるの☆ 「さすが、セラお姉ちゃん! 頼りになる!!」とか「やっぱり、セラ姉は凄いね!」とか「さすセラ! さすセラ!」て」

 片手でペンを走らせ、もう片手で栄養剤ドリンクを胃に流し込んでいるセラフォルーが、ニタリと不気味な笑みを浮かべ、グヒッ。フヒヒ。と奇声に近い音を発し始めた。

 

「色々と言いたい事が有るけど、取り敢えず、これ食って寝ろ」

 目に入れても痛くない最愛の妹であるジャネットに、「セラの事だから、本当に一睡もしないで書類作ってるだろうし、夜食持ってく次いでにセラを強制的に休ませて。書類の期限? 神々は私達に甘いから、私達がお願いしたら一発よ?」と頼まれたジョージが、危ない目付きでフヒヒと笑い声を溢して書類と格闘しているセラフォルーに声を掛けた。

「ほら、夜食だ。手を止めて食べろ」

 最初にジョージが持つトレイに乗った、色彩豊かなサンドイッチと紅茶のポットとカップに視線が行き、その後で、セラフォルーの視線がジョージの顔を捉える。

「貴方が──神か」

「人間だ。さっさと食って、寝ろ」

 応接用とは名ばかりの、セラフォルーが「一人で延々と書類作るなんて寂しい!!」との我が儘の結果に設置された──お値段が駒王町の運営費二年分ぐらいのフカフカのソファーと長机。その長机の上にトレイを置いたジョージは、慣れた手付きでポットを手に取り、どこの執事だと言いたくなるほどに堂の入った所作で紅茶をカップに注ぐ。

「食べるけど、寝てる暇はないのよ......書類を終わらせないと」

 心に深い傷を負っている小さい子を元気付ける為とは云え、咄嗟に「皆でピクニックに行きましょう! 辛くて苦しい思い出しかないなら、これから、沢山の楽しくて嬉しい思い出を作れば良いのよ!!」と勢いで言ってしまった結果、自らデスマーチを開催する事になったセラフォルーが紅茶の香りに負けていそいそとソファーに腰掛ける。

「後は、俺に任せてとにかく寝ろ。チビッ子達が心配してる。てジャネットが言ってたぞ」

 暖かい紅茶を口にして、ホフと一息付けたセラフォルーは首を横に振る。

「これは私の仕事。夜食だけで十分助かったわ」

 手に持っていたカップをトレイに戻し、サンドイッチに手を伸ばしたセラフォルーを、呆れた目で見ながらジョージが口を開いた。

「俺に、周りを頼れ。て言ったのは誰だっけ?」

 その言葉に、サンドイッチを取ろうとしていたセラフォルーの手が止まる。

「なぁ? 誰だっけ? 答えてくれよ。セラ?」

 静かな口調で"セラ"と、ジョージが愛称を口に現実に、セラフォルーは冷や汗をダラダラと流し始めた。

「わ、私です。はい」

 自分の事を愛称で呼ぶ時は、ジョージが本気で怒ってる時だと知っているセラフォルーが、恐る恐るジョージの顔を見ると険しい表情が目に映り、『あ、これ、物凄く怒ってる』と理解してしまった。

「んで? どうして、こんな事になってんの?」

 経験則で素直に話して怒られた方がマシだと理解しているセラフォルーは、嫌々ながらに口を開く。

「ほら、神器の人体実験の被害に遭った子達を保護したでしょ? その子達の精神ケアをしてたら......ねっ? 仕方ないのよ。あの子達をほったらかして書類作りとかできないじゃない。うん。だから、この状況は仕方ない事なのよ。ピクニックに行くて言ったら少しだけ笑ったの。だから、これは、不可抗力なのよ」

 必死に一生懸命に、私は悪くない。と言い訳をしているセラフォルーを、ジョージが一言で両断した。

「ヘスティアさんを頼れば良かっただろ。セラが一人で抱え込む理由は無い」

 ミッドチルダ在住のギリシャの女神にして、自他共にプリキュアのお母さんとして君臨している、女神ヘスティアを頼ればこんな事にならなかった。それを自覚しているセラフォルーが「うぐ」と声を漏らし、言い返せないと理解すると同時に視線を在らぬ方向に向ける。

「どうせ、無駄にカッコつけて、また自爆したんだろ」

 更なる追撃を受けたセラフォルーが、視線をカップに落とすと、グビッと紅茶を一気に飲み干す。

「しょうがないじゃない!! 私以外の大人が近づくと、小さい体をギュと縮めて! 目を瞑って! 声を出さずに震えて! こっちが泣きたくなるぐらいに怯えるのよ!? 私に「助けて」て小さく言うのよ!! そんな子達を放っておける訳ないじゃない!!」

 思いの丈を叫んだセラフォルーを、ジョージがジト目で見据える。

「ヘスティアさんの見た目は、中学生ぐらいだよな?」

 空のカップを音が鳴るぐらい勢い良く、長机に乱暴に置いて、なんとか誤魔化そうと画策していたセラフォルーが、その言葉に一瞬ピタリと動きを止め、静かにカップを長机の上に置いた。

「なによ。じゃあ、あの子達をほったらかしにしろっての」

 反省の色も無く、不貞腐れているセラフォルーに対して嘆息したジョージは、空のカップに紅茶を注ぐ。

「わかって言ってんだろ。それ」

 ジョージの問い掛けに、セラフォルーは無言で返した。

「俺達は──プリキュアに所属してる奴らは、お前に助けられた。守られた。そんな連中ばっかりだ」

 その言葉の続きを察したセラフォルーが、視線をジョージから外して俯く。

「何時だって前を向いて、誰かの為に笑って怒って泣いて、がむしゃらに進み続けるお前を嫌ってる奴なんて居ない」

 俯いたセラフォルーがグッと歯を食い絞る。

「そんなセラフォルーが、一人でボロボロになるまでがんばってるのを見て、何も思わない。感じない。て、思ってんのかよ」

 ジョージの問い掛けに、辛うじて聞き取れる程に小さく、「わかってるわよ。そんな事ぐらい」そうボソリと呟いた。

 魔法少女の相互扶助組織プリキュアを立ち上げる前からセラフォルーは知っている。

 どんなに世代交代を繰り返しても、魔法少女達は可愛らしく優しい素敵な女の子達で、保護した子も良い子達ばかりだ。だから、無茶を無理をすれば、心配させる事ぐらい知っている。

 コカビエルにその事を気づかされて以来、セラフォルーは皆を頼るようになった。

 その結果──頼りすぎたセラフォルーのせいで、ジャネットははぐれ悪魔を殺害して塞ぎ込んだ。

 セラフォルーは学んだのだ。頼りすぎてはいけない。なにより、ナニかを背負う可能性が有る案件は、全部自分がするべきだと。

「どうせ、ジャネットの件とかで余計な事を考えて、空回りして暴走してんだろ」

 そう言い切ると、全く真似る気のない口真似で「私はおねーさんなんだから、私がまもらなきゃー」と続ける。

 俯いたままのセラフォルーを呆れた目で見ながら、ジョージは言葉を吐く。

「ジャネットが一言でもお前を責めたかよ」

 そんな事は、誰もしない。プリキュアに所属している魔法少女や保護された子供達は、全員がセラフォルーの献身と優しさ。そして、頑張りを知っているから。

「家族なんだろ? なら、ちゃんと頼れよ」

 セラフォルーにとって、プリキュアは形の無い家だ。そして、プリキュアに居る者は皆家族。そこに例外なんて存在しない。

 新しい魔法少女を支部が見つけて所属させると、必ずその日の内に会いに行き、「今日から私達は家族よ☆」そう伝えに行く。その月に誕生日を迎える子供達が居れば、日程を全力で調整して、保護者枠の神々やコカビエルとミカエルと一緒に全力で誕生日パーティーを開く。

 何かに悩んでいる子が居ると聞けば、仕事をほったらかして全身全霊で悩みを解決。グレる子が出たら「ナンでぇぇ!? なんでもグレたのよぉぉぉ??」と仕事を投げ捨て、ガン泣きしながら話を聞いて、即日ないし一週間で更正。

 セラフォルーはずっとそうやって歩んできた。だからこそ、ジョージは言うのだ。プリキュアを代表して、皆が言いたい事、家族なんだから頼って欲しいと。

「なまいき~ そんな事言われなくても、ちゃんと頼ります~」

 うっすらと潤んだ目をそのままに、わざとらしい膨れっ面をしたセラフォルーが、目の前のサンドイッチに手を伸ばした。

「車が発明される前、馬車が現役の時代から生きてる悪魔に対して、偉そうに言って悪かったな」

 サンドイッチを取ろうとしたいた手がカップを高速で鷲掴みにすると、紅茶を一気飲みしたセラフォルーは空になったカップを長机に叩き付ける。

「私は十七歳教に入信してるから。永遠の十七歳だから」

 ガッンと長机に叩き付けたカップをジョージに突きだし、紅茶のお代わりを要求するセラフォルーに、「ハイハイ。セラフォルーさんびゃくななじゅさい」等と言いながら紅茶をカップに注ぐ。

「誰が三百七十よ。永遠の十七歳だって言ってんでしょ!」

 瞳孔を開き睨み付けるセラフォルーの様子を鼻で笑ったジョージは、書類の山を片付ける為に椅子に腰掛け、カリカリとペンを動かし始めた。

「あ~あ~ 小さい頃のジョージ君は可愛かったのにな~~ 可愛かったのにな~ セラお姉ちゃんのお婿さんになる。て言ってくれた可愛いジョージ君は何処に行ったんだろうな~~」

「人の過去を捏造するな。さっさと寝ろ」

 自分の過去をさらっと捏造するセラフォルーを、一言で両断したジョージは手元に寄せた書類に目を通して深い溜め息を付いた。

「神器は、聖書の神様が人間がクトゥルフ勢力に対抗する為に作ってくれた物なのになぁ」

 強い願いや想いに反応して、それを何としてでも叶えようとした結果、保有者の寿命を縮める物だとしても、クトゥルフ勢力に対抗するには有意義な物で有る事は疑いようもない品物である。特に、這い寄る混沌等の神性に人が対抗するには、規格外の強さを持つ存在か神器持ちでなければ不可能に近い。

「どーしたのよ。急に?」

 今更、そんな当たり前の事を口にしたジョージを、セラフォルーが訝しげに見た。サンドイッチを片手にモグモグと食べながら。

「いや、それなのにさ、人間が神器持ちを虐待したり、実験動物の様に扱う案件も有るわけだろ?」

 ジョージの言わんとする事を理解したセラフォルーが、「あ~」と間の抜けた声を上げる。

「なんかさ、申し訳ないな。て、思って」

 そう言いながらペンを動かし続けるジョージに、セラフォルーが少し考えた後に口を開く。

「それはさ、聖書の神様もある程度はわかってたと思うよ? だから、天使を使って何とかしようとしてた訳だし」

 元々、神代の終わりと同時に大々的に神器の告知をしようと計画して、神器保有者の差別等の抑制を図っていた事。駄神ゼウスのせいでソレが出来なくて、天使を使い様々な神器関係の問題を解決しようとしていた事を聖書の神から聞いているセラフォルーが小さく「おのれ、ゼウスお父さん。許すまじ」と呟く。

「そう言えばさ、ジョージ君は何で"さん"呼びなの?」

 聖書の神が神器がもたらす惨状を知ったら、「療養なんてしてる場合じゃないですね。すぐに天界に戻って対策をしなければ!!」とか言って、また血を吐きながら問題解決にのりだすんだろうな~ と考えたセラフォルーは、『絶対に、せいちゃんに知られる訳にはいかないよね』そう思いながら別の話題をジョージに振る。

「それは俺が知りたい。何かしたのかと思ってヘスティアさんに謝ったら、悪い事してないのに謝るな。て怒られたし」

 プリキュアに所属したら、後ろ楯の神々に、お父さん・お母さん・お兄ちゃん・お姉ちゃん・お婆ちゃん・お爺ちゃん呼びを強要されるのだ。呼ばなければ、返事をしなかったり、神の圧を掛けられたり、酷い時は神の威厳とか投げ捨てて床に寝転がりジタバタと駄々っ子の様にそう呼べと強要してくる。それなのに、ジョージが"さん"付けで呼ぶ事がセラフォルーは不思議だったのだ。

「私が聞いとこうか?」

 モグモグとサンドイッチを咀嚼しながら、『家の神様達て、結構めんどくさいのよね~』等と、呑気に紅茶をチビチビと飲んでいるセラフォルーの言葉に、ジョージが「頼む」と短く返事をする。

「あ、そうだ。来週開けといてね。ピクニックだから」

「大人は怖がるんだろ? 俺は行かない方が良いだろ」

「だからよ。怖い大人はもう居ないし、もし、現れても私達が居れば大丈夫て、理解して貰わないと」

「段階をもうちょっと踏めよ」

「あの子達にとって大人は恐怖の対象よ。なら、出来るだけ早く怖くない大人を知って貰わないと」

「............わかった。開けとくよ」

 了解を得たセラフォルーが、プリキュアに所属している皆の予定を思い浮かべながら、日程の最終調整をしていると、胸ポケットに入れているスマホがブルブルと振動し始める。

「あ、ソーナちゃんからだ。めずらしー」

 深夜と言って良い時間に電話をしてきたソーナからの着信に若干驚いたセラフォルーが、チラリとジョージに視線を向けた。

「その電話が終わったら寝ろよ」

 仕方ないなと云わんばかりの表現をしながら、書類に視線を落としているジョージの言葉に、「は~い」とセラフォルーが力の抜けた言葉を返す。

 

「はーい。貴女の頼れるおねーさん。セラフォルーお姉ちゃんです☆」

 ソーナからの着信に出たセラフォルーが、いつもの口上を口にした途端に眉しかめる。

「ソーナちゃん。どうしたの?」

 苦し気な今にも泣き出しそうな声を聞いたセラフォルーは、出来るだけ優しい口調でソーナに語り掛ける。

「嫌な事。辛い事があったのかな?」

 ポツポツと話始めたソーナの語る内容──要約してしまえば、神器が人に与える影響の強さを理解せずに、発現した神器を当たり外れと騒いでしまった事の後悔だった。

 発現した神器次第では、今までの人生の全てを捨てなければ成らない程に影響力の強いモノだと知らなかったソーナの後悔と懺悔の言葉に、セラフォルーは妹が理解しきっていない現実を口にする。

「それは仕方ないわ。だって、私達は悪魔だもの」

 人間同士でも相互理解は難しい。種族が違う人間と悪魔ならなおのこと。寿命も文化も価値観も全く違うのに相互理解なんて簡単に出来るわけがない。

「強力な力なら喜んで、使えない力なら残念がる。それが悪魔よ。殆どの人間はその逆。だって、普通に生きるなら力なんて邪魔なだけだもの」

 そう言いながら『それが分かっている悪魔はどれだけ居るんだろうな~』と考えたセラフォルーが、電話の向こうで何か言いたそうなソーナに言葉を続ける。

「私だってそうよ。不躾に当たり外れを言って、子供達に怒られた事が沢山あるし。どんなに長く人間と過ごしても、やっぱり私は悪魔だから......あの子達の気持ちを完全に理解する事はできないの」

 一拍置いた後、セラフォルーは人と共に生きた悪魔として断言する。

「でもね。理解できなくても、寄り添う事はできるのよ」

 それは、セラフォルーが魔法少女達や保護した子供達と過ごして導き出した答え。

 共感できる事は一緒に笑って怒って悲しんで楽しむ。種族が違う以上、どんなに歩み寄っても限界が有る。なら、それを受け入れて寄り添えるだけ寄り添えば良い。

 例え、どんなに違いが有っても、寄り添おうとする事だけは出来るのだから。

「ソーナちゃんにはまだ難しいかも知れないけど、人と生きるなら寄り添う事だけは止めたらダメ。悪い事しちゃったら反省して謝って、次に生かせば良いだけなんだから」

 心の中で『殆どの悪魔ができないんだけどねー "弱い奴が悪い"理論で生きてるから』と愚痴りながら、セラフォルーはソーナの返事を待つ。

 数分の沈黙の後、涙ぐんだ声で、「わかりました。匙君と一誠君に明日謝ります。それから、寄り添える様に頑張ってみます」そう言い切ったソーナに、セラフォルーは嬉しそうに微笑む。

「ソーナちゃんなら、きっと、できるよ。だから、無理をしないで少しずつ頑張って」

 涙ぐみながらも、決意の籠ったソーナの返事を聞きながら、セラフォルーが「あっ」と声を上げる。

「そうだ。その子達の神器はなんだったの? 場合によっては家で保護できるよ?」

 制御しきれずに周りを害したり魅了する。または害意を自身に向けさせる等の厄介な神器の存在を知っているセラフォルーがそう言うと、ソーナは「大丈夫です」と口にした。

「一誠君の神器は、その、赤龍帝の籠手です」

 ソーナの言い辛そうな一言に、セラフォルーは物凄く納得してしまった。

「あ~ それは、外れと言ってしまってもしょーがないわよ」

 百年以上前に偶然出会った赤龍帝が、「このクソ龍を退治する方法知らないか?」と真顔で聞いてきた上に、ドライグに対する愚痴を初対面にも関わらず三時間ぶっ通しで聞かされて、その後に「なぁ、本当に退治する方法知らないか?」と質問された事を思い出したセラフォルーは、それは仕方無いと深く頷いた。

「あ、そうだ。ソーナちゃん。その一誠君に伝言頼んで良い? とにかく、話を聞いてる振りして聞き流せ。どうせ、大した事は言ってない。興味を示すと止まらなくなるぞ。て」

 次の赤龍帝に会ったら絶対に伝えてくれと頼まれていた伝言を託されたソーナが、「分かりました。必ず伝えます」と返事をする。

「それで、ソーナちゃんの想い人の神器はなんだったの?」

 周一で掛かってくるソーナからの電話で、"今週の匙君のカッコいいところ"を聞かされていたセラフォルーの言葉に、ピタリとソーナが止まる。

「ん? 暴走したて聞いたけど、その柳川て人とレイナーレのお陰で直ぐに取り押さえて、怪我とか無かったんでしょ?」

 脳内で暴走の危険が有る神器をピックアップしていたセラフォルーの耳に、「マスターソードです」とトンでもない単語が飛び込んできた。

「えっ、マスターソード?? うん? えっ?」

 様々な善意の結果、どう考えても呪いの聖剣と成った神器の名前に、セラフォルーが挙動不審に陥る。

想生の疑似世界(マスターリングシート)とか、至高の恋人製造(マイスターラバー)とかじゃなくて?」

 黒歴史生産機。何故こんなモノを神器にした!? 殺せ!! 一思いに殺してくれ!! と大絶賛されている神器の名前を上げたセラフォルーに、重苦しい声で「匙君の神器はマスターソードです」とソーナが告げる。

「発現しちゃたのよね?」

「はい。私のせいで匙君は暴走を......」

「ソーナちゃん。それどころじゃないわ」

「それどころじゃない? それは、どんな......」

 ソーナが言いきる前に、セラフォルーが言葉を被せた。

「マスターソードは、基本的に発現しないのよ」

 その言葉に、ソーナが「えっ」と溢す。

「あのね。マスターソードは神々と精霊達がその身を犠牲にして、人間の為に作り出したモノなの」

 一度言葉を切ったセラフォルーが、ソーナに絶望を突きつける。

「だから、その力を必要とする危機が起こらない限り、マスターソードは絶対に発現しない。だって、人間が普通に生きるには最もいらないモノだから。犠牲に成った神々と精霊達が人を不幸にする事を嫌うのよ」

 つまり──マスターソードが発現したと云う事は、救世の聖剣が必要となる程の危機が起こると云う事。

「待って、待ってお姉ちゃん......それって、匙君は」

 普段の言葉使いが崩れ、オロオロとし始めたソーナに、セラフォルーは言葉を続ける。

「マスターソードは人間の為の聖剣。つまり、人間にしか扱えない。それこそが、聖書の神様が神器にした理由。人間以外の手に決して渡らない様にしたの。そして──時の勇者(生け贄)と成った人は、皆、短命なの」

 電話越しに、「嘘......なんで......だって、匙君はなにも」と涙声で呟くソーナに、「無理でも落ち着きなさい。話は終わってないわ」そう言いながらセラフォルーが更に言葉を続ける。

「匙君は、神器の基本性能──強い願いや想いを叶える機能をフル活用して、短期間で信じられない程に強くなる。でも、それは寿命を魂を磨り減らす事で得られる強さよ」

「でも、匙君は今日発現したばかりで、神器の使い方や制御の仕方は......」

「マスターソードは、発現の時に歴代の時の勇者達の人生を疑似体験するの。その時に、使い方や制御方法がわかるわ」

 ソーナのすがるような声を、両断したセラフォルーは小さく息を吐く。

『せいちゃんのしたい事はわかるんだけど......逆効果なのよね。神様視点だと、なんで頼ってくれないの? なんだろうけど』

 歴代の時の勇者達の人生を疑似体験した後に、聖書の神の「後は、私が命に変えても何とかする」と言うメッセージ。そんなモノを体験して聞かされた人間が何を想い、どう考えるかわかっていない神様(友達)を思ったセラフォルーは再び小さく息を吐いた。

「ソーナちゃん、絶対に匙君を転生悪魔にしたらダメよ。そんな事をしたら、マスターソードが使えなくなるわ。それに、きっと、匙君に恨まれるわよ」

 いっそのこと匙を強引に転生悪魔にしてしまおうかと考えていたソーナが、その言葉に一瞬だけビックリと体を硬直させた。

「でも、匙君が......」

 世界を救う為に、寿命を、最悪は魂すらも強くなる為に捧げてしまうかもしれない。そんな最悪な結末を回避したいソーナに、セラフォルーが悪魔の提案を口にする。

「ソーナちゃんにも、匙君にも、時間は無いわ。だからこそ良く考えて行動しなくちゃダメよ。ソーナちゃんが取れる選択肢はパッと思い付くので三つ」

 まーた余計な事を言う気だな。と云わんばかりのジョージの視線をヒシヒシと感じながら、セラフォルーは言葉に続ける。

「一つ。ソーナちゃんの寿命を匙君に渡すこと。これを実行したら、一番最悪の結果──匙君の魂の消失を避けられるかもしれない。でも、その代わり、ソーナちゃんは人間よりも短い寿命になるわ」

 電話越しにソーナが息を飲んだのを聞きながら、自分を睨み付けるジョージに目配せしたセラフォルーは、ジョージが沈黙を守っているのを確認すると二つ目を口にする。

「二つ目は、匙君との将来を諦めて──さっさと匙君の子供を産んで育てる。ソーナちゃんの寿命はそのままで、シトリー家は安泰の選択ね。その代わり匙君は短命に終わる。最悪は魂の消失」

 他にもなんか有るだろ? なんで極端な選択肢ばっかなんだよ。と伝わってくるジョージの視線をガン無視したセラフォルーが、最後の選択肢をソーナに提示する。

「三つ目。ソーナちゃんが何もかも全てを捨てて、悪魔から別の種族に成ること。この場合は、ソーナちゃんが死ぬまで匙君と一緒に居られるわ。更に赤ちゃんも産める。その代わり、匙君はソーナちゃんが死ぬまで、時の勇者として在り続ける事になるわ。後、シトリー家は断絶の可能性大ね」

 三つの選択を言い終わったセラフォルーは、ナニ言ってんのお前? と雄弁に語るジョージの視線を受け流しつつ、数分間、ソーナの答えを待つと、沈黙を守るソーナに詳しい説明を始めた。

「悪魔から、三只眼吽迦羅(サンジヤンウンカラ)て種族──異界"聖域"に嘗て存在していた不老不死の妖怪になるのよ。悪魔以上に傍若無人で傲慢だったから、神々の怒りをかって滅ぼされちゃたんだけど、三只眼化の秘術は現存してるから大丈夫よ」

 沈黙しているソーナに、物語に出てくる悪魔の如く優しくセラフォルーが言葉を紡ぐ。

「そして、三只眼になったソーナちゃんが匙君に"不老不死の法"て呼ばれる邪法を使うの。そうすれば、匙君は種族人間のまま不老不死の奴隷になる。マスターソードを扱える不老不死の勇者の誕生ね」

 

 電話越しに優しく囁く姉に、ソーナは混乱していた。

「お姉ちゃん?」

 今まで話していた相手が急に別の誰かに入れ替わった様な錯覚に陥ったソーナに、「なに? 三只眼になりたくなったの?」とセラフォルーが何て事ない様に、平然と全てを捨てろと囁く。

「悪魔を辞めるなんてできないよ......」

 姉の二の舞にさせまいと行われたシトリー家の教育によって、結果的に人間に近い価値観を持つに至ったソーナは、姉が簡単に全てを捨てろと言う事が理解できずに混乱していた。

 シトリー家の教育で身に付けた言葉遣いが崩壊してしまうほどに。

「だって、そんな事をしたら......お父さんとお母さんが」

 次期当主としての期待と責任を背負うソーナに、全てを捨てる事なんて決断できるわけがなかった。

「ソーナちゃんはまじめね~ 私達は悪魔なんだから、自己責任でやりたい事をしたら良いのよ」

 魔法少女の為に全てを捨てて、彼女達が誇れる姉で在ろうとするセラフォルーに、僅かな恐怖を感じたソーナは絶句する。

「ソーナちゃん。後悔しない様に良く考えなさい。残り時間はそんなに無いわ。だから、必死に考えて答えを出しなさい」

 その言葉に、なんとか「わかりました」とだけ返したソーナは通話を切ると、腰掛けている自室の安物ソファーに全身を預ける。

「不老不死になって、匙君と一緒に過ごす?」

 その選択肢はソーナにとって魅力的に思えた。しかし、それは匙を永遠に時の勇者の立場に縛り付けると云う事。想いを寄せる相手に「一緒に居たいから、永遠に戦い続けろ」と言える程、ソーナは非情でもなければ傲慢な性格でも無い。

「そんな事をするぐらいなら......私の寿命を」

 そんな事をしたら、両親が悲しむ事を理解しながらも、短い生で誰の種を貰ってなんとか跡継ぎを産めば、少なくともシトリー家断絶の可能性は無くなるとソーナは計算する。

「死にたくない──だって、まだデートどころか、手すら握った事も無いのに、匙君の恋人に、お嫁さんになりたいのに」

 両手で顔を覆いながら、渇れんばかりに涙を流すソーナは無意識に呟いた。

「匙君。お願い、助けて」

 

 

 決意を固めてしまった匙を家の近くまで送った後、レイナーレは仮の住まいである拠点に帰り着くと、思わぬ人物に出会い硬直してしまう。

「ヴァーリ?」

 リビングに備え付けられているソファーに腰掛け、呑気にテレビのニュースを見ながら寛いでいる弟分であるヴァーリが、帰って来たレイナーレに「お帰り」と気楽に話し掛けた。

「えっ、なんで居るのよ??」

 その言葉に、ヴァーリはニッコリと微笑む。

「オヤジから連絡が来てね。レイナーレがこの魔境に単身赴任してるて、それで、手伝いに来たんだ」

 爽やかな笑みを浮かべたまま立ち上がったヴァーリが、レイナーレに机に着くように促す。

「晩御飯まだだろ? それなりのモノができたと思うんだ。食べてくれ」

 あまり外食をしない事を知っているヴァーリは、疲れて帰ってくるレイナーレの為に用意していた料理を暖める為に台所に入って行く。

「ヴァーリ、好きな人とかできた? なんとなく良いなて程度でも良いけど」

 炊事から掃除までこなせて気遣いもできるのに、恋人の"こ"の字も見えないヴァーリを心配した言葉に、台所で料理を暖めているヴァーリが目を瞑り嘆息する。

「いや、居ないよ」

 異性として見られていない段階で告白しても、無惨に散るだけだと理解しているヴァーリは、できるだけ平静を保ちながらレイナーレにそう返した。

「は~~ 貴方は顔も良いし。家事とかもできる。気遣いもね。それなのに、なんで恋人ができないのよ」

 わざとらしい溜め息を付いたレイナーレの前に、暖かい料理──コーンポタージュ。トマトとレタス等のサラダ。そして、小さめの鶏肉を使ったオムライスを並べると、小さなワイングラスに少量の白ワインを注いだヴァーリは満足気に軽く頷く。

「少し、凝ってみたんだ。オムライスはデミグラスソースに浸けた鶏肉と玉葱を刻んで、コーンポタージュは舌触りを追及してみた」

 どこのシェフだよ。と突っ込みを入れたくなるぐらいに綺麗に盛り付けられた料理を前にしたレイナーレが、ヴァーリが自分の分を用意していない事に眉をひそめた。

「自分の分はどうしたのよ?」

「俺は先に食べたよ」

「何時帰るかわからないから、待ってろなんて言えないけど......久しぶりに会えたのに」

 若干、不満気なレイナーレに苦笑しながら、自分のワイングラスに白ワインを注ぐと、レイナーレの前の椅子に腰掛けたヴァーリが軽く謝罪をしながら料理を勧める。

「さ、暖かい内に食べてくれ」

 

 自分の作った料理を美味しいと食べてくれるレイナーレの幸せそうな表情に満足しながら、リゼヴィムを追う旅で出会った人達との思い出。その旅で偶々偶然に目にした美しい光景。それらをできるだけ丁寧に表現しながらヴァーリが饒舌に語る。

「そう言えば、駒王町で友達ができたんだ。彼が力を貸してくれると約束してくれてさ」

 その言葉に、食後のワインを楽しんでいたレイナーレの眉が僅かに動く。

「やっぱり、彼をまだ追ってるのね」

「ああ、アイツを野放しにはできない」

 レイナーレを安心させたくて、柔らかい笑みを浮かべたヴァーリは「無茶はしないさ。皆を悲しませる様な事はしないよ」そう言い切った。

「私としては、リゼヴィムを追う事を止めて欲しいんだけどね」

 言っても無駄だと知りつつも、姉として危険な事はして欲しくないレイナーレが、小さく溜め息を吐く。

「奴は多くの者を歪め踏みにじる。そんな奴を放ってはおけないさ」

 復讐を、父と母の無念を晴らしたい。その気持ちは確かにヴァーリには有った。でも、それ以上に、リゼヴィムに因って思考を思想を歪められ、生を踏みにじられた人達を知った。誰かが止めなければ為らない。そう思ったからこそ、ヴァーリはリゼヴィムを追う。

「それに、元浜──さっき言った友達も手伝ってくれる。彼は高校二年生とは思えない程に頭が廻るし、洞察力も凄い。そんな頼りになる相棒もできたんだ。だから、安心してくれ」

 元浜と云う名に、レイナーレが固まる。

「もしかして、その子......駒王学園の生徒?」

 恐る恐るそう言ったレイナーレの問い掛けに、不思議そうな表情を浮かべたヴァーリは頷きながら「知り合いか?」と口にする。

「神器保有者の兵藤一誠の親友よ」

 リアスからの情報で、今代のアルアジフ偽書の所有者が松田である事を知っていたレイナーレが、「何て事」そう呟く。

 アザゼルに渡された資料で、一誠・松田・元浜の三名の間柄が親友である事を知っていた。だからこそ、レイナーレは頭を抱えるのだ。

「俺の事が無くても、彼は自力でリゼヴィムを追うさ。元浜にはそれだけの理由がある」

 真剣な表情でそう言い切るヴァーリに、押し黙ったレイナーレが空になったワイングラスを突き出す。

「貴方が其処まで云うなら、そうなんでしょうね」

 肩を竦めながらワインを注ぐヴァーリに、レイナーレが幼く不貞腐れる。

「一誠君のもう一人の親友──松田君はアルアジフ偽書の所有者なのよ」

 二・三口飲み干せる量を注いだヴァーリが、その言葉に軽い驚きを覚える。

「居るのか。あの傲慢不遜の偽幼女が」

「本人の前で言ったらダメよ? ああ見えても私より年上なんだから」

「俺としては、嘗て苛められた恨みを晴らす為に、弄り倒したいけどな」

 アザゼルに拾われて間もない頃に出会ったアルアジフ偽書に、「ほう。立派な世界地図よなぁ。寝ながらに此れ程の地図が描けるなら、将来は地理学者か?」 「ふむ。なかなかに斬新な心象画だ。ナニ? 人物画だと? 成る程、ガハクと云うヤツか」 「なんだ此れは? なに? レイナーレに手作りのプレゼント? 草花で作った首吊りに使いそうなナニかがプレゼントだと? 正気か??」 等と言われた事を未だに覚えているヴァーリに、レイナーレが苦笑する。

「あら、端から見たら仲の良い姉弟にしか見えなかったわよ?」

 一誠の最も親しい友達二人が、裏の関係者になった事実に頭を痛めていたレイナーレは、ヴァーリの言葉にクスリと笑う。

「止めてくれ。アレはどちらかと云うと不倶戴天の敵だ」

 心底嫌そうにそう言ったヴァーリは、グラスに残っていたワインをグイと飲み干す。

「う~ん。そうね。姉弟より、幼馴染みがピッタリかしら?」

 クスクスと笑いながら、グラスに注がれているワインを飲み干したレイナーレが真剣な顔をした。

「兵藤一誠は赤龍帝。匙元士郎は──マスターソードよ」

 笑みが消えたヴァーリが「まさか、発現したのか?」と口にすると、無言でレイナーレが頷く。

「その匙て子と、赤龍帝は仲が良いのか?」

「そうね......友達と云って良いんじゃないかしら」

 レイナーレの言葉に、ヴァーリは天を仰ぐ。

「呪われてないか? 今代の赤龍帝は。親友の一人が偽書の所有者で、友達がマスターソードの所有者。どんな確率だ」

 

 親友の一人は、死ぬまでクトゥルフ勢力と戦い。

 友達は、世界を救う為の生け贄。

 その上、この状況なら頼りに成るはずの神器は、最も使えないと有名な赤龍帝の籠手。

 

「今度、赤龍帝を紹介してくれないか? 愚痴ぐらい聞いてやりたい」

 歴代の赤龍帝と白龍皇は、基本的に神器に宿る存在のお陰で仲が非常に良い。同じ苦しみを背負う者同士、話が合うのだ。

「そうね。都合が良い時に紹介するわ。きっと話が合うでしょうし」

 ヴァーリにそう返しながら、レイナーレは一人、心の中で『頼みますよ。アザゼル様。ちゃんとマスターソード──匙君の報告をしたんですから、しっかり働いてください』と呟いた。

 

 

「だからよ。ガノンの封印の状況を確認してくれって言ってんだよ」

 知古である北欧の主神であるオーディンに連絡を入れているアザゼルは、部下に忙しなく指示を飛ばしていた。

「女神アテナの化身はどうなってる? 前のは消えたんだろ? また、新しい化身が現れたて情報は無いのかよ?」

 レイナーレからの報告。マスターソードの発現を聞いてから、すぐさま、部下に忙しなく指示を飛ばし、知古の神々に確認の連絡を入れていたアザゼルは、今できる事をやり終えると安堵の息を吐いた。

「世界を賭けた(いくさ)なんて、神代が完全に終わった時に無くなったと思ったんだが......甘かったな」

 神代が終わり、それ以降、マスターソードの発現が起きなかったからこそ、全ての陣営は油断していた。最早、世界の存続を賭けた戦いなんて起こらないと。

「むなくそ悪いが......いがみ合ってる場合じゃないか」

 どの勢力も世界の危機に対する備えを怠っていた。ならばこそ、何時起こるかわからない戦いに対して、可能な限り、万全の体制を整えなければ成らなかった。

「和解が無理でも、停戦協定ぐらいは結ばないとな」

 そう溢しながら、アザゼルは冷戦状態の聖書勢力をまとめる為に思考を走らせる。

「悪魔側は......停戦の一文字で飛び付いてくる。アイツ等に余裕なんて無いしな。警戒すべきはゼクラムの爺さんぐらいか?」

 現時点で実現可能な案を幾つも練り上げ、検討しては破棄する。

「問題は......やっぱ、天使か」

 なんとかして、天使に停戦協定を飲ませる案を見つけようとするが、確実性が高い案が思い浮かばないアザゼルが小さく舌打ちをした。

「こんな時、オヤジ──聖書の神が生きていてくれたら、楽できたのによ」

 聖書の神の死が実は茶番で、実際は地上で療養している事を知らないアザゼルが、「オヤジなら、「人間の為だ」て言えば何だってしたのによ」と愚痴る。

 

 

 

 世界の存続を賭けた戦い。それが始まる事を知らない聖書の神は──療養先の自宅の縁側で、一人、月見酒をしながら「神が居なくても、世界は廻るか......」と幸せそうにしていた。

「うん。実に良い言葉だ。セラちゃんお薦めのアニメにハズレはないな」

 神々に頼らずに人の力だけで苦難を乗り越えて往くアニメを思い返し、「まぁ、服装がハレンチなのはいただけないが」と溢しながら、聖書の神はチビチビと日本酒を堪能する。

『体の調子も大分良くなった。後数千年程、療養すれば神として復帰できるとお墨付きも貰えたしな』

 数日前の定期検診で保生大帝からの「後数千年程療養に専念すれば根治も可能だろう。しかし、今が大事な時だ。今、無理をすれば元の木阿弥になるので、絶対に神の仕事や責務には関わらない事だ」と云う診断に、聖書の神はゆったりと幸せそうに微笑む。

「後数千年の辛抱だ。そうすれば、また、人の子の力に成れる」

 僅かに逸る気持ちを宥めつつ、明るい月の下、穏やかな夜風をその身で楽しみながら、聖書の神は静かな時間を味わっていた。




オリジナル神器の説明。

想生の疑似世界(マスターリングシート)
転生者がチート特典に望んだ力を神器化した物。
TRPGでGMをするのが大好きだった彼は、自分の想像した世界を限定的に展開して、ゲーム進行ができる力を得ていました。
つまり、この神器は自分の"想像した世界"を限定的に展開できる力を持っています。
その結果、暴走したら、僕の考えた最高の世界を展開してしまいます。そう──自分に都合の良い妄想爆発した世界を。
 具体的に云うと、R-18な格好の美少女達に囲まれてキャッキャウフフの世界とか。

至高の恋人製造(マイスターラバー)
転生者のチート特典を神器化した物です。
具体的に云うと、僕の私の理想の嫁・婿を完全再現して作り出すチートです。しかも、効果時間は無限。一度作り出すと所持者が消すまで存在し続けます。
つまり、この神器が暴走すると、理想の嫁・婿の集団が、自分の性癖大爆発した姿で現れます。


ちなみに、一誠の最大の抵抗・反抗は"グレない事"でした。

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