転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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実現出来ない事をやるのは馬鹿。
それを成し遂げるのが英雄・英傑。

あと、今作のロンギヌスの性能をゲーム風に説明するとこうなります。
 戦闘終了まで、毎ターンのステータス増加
 デバフ完全無効+相手のバフ完全無効(永続的含む)
 防御・バリア貫通
 常時リジェネ+常時アレイズ
 MP消費0固定
 聖書の神の権能使用可能(気候等の操作も可能。その気になれば、メテオとかベホマズンとか使い放題)
 相手の回復封印
まさに、対白痴の神用の決戦兵装。聖書の神が考えた最強の槍が、ロンギヌスです。

なお、特殊条件無効が無いため、ガノンとかには効かない。


何とかなる事とならない事

 中国の何処かに在ると言われている神秘の山。

 其処に辿り着けるのは、極僅かな一握りの者だけと言われている須弥山。その一画に設けられた修練場で、漢服に身を包んだ幼い子供程の身長の猿と、同じく漢服を着込んだ高身長で、ローポニーテールが特徴の還暦を迎えたであろう男性が、休憩所兼治療所の縁側に腰かけて将棋を楽しんでいた。

 両足を肩幅に広げ、膝の辺りまで腰をしっかりと下ろし、頭の上に巨大は水瓶を乗せ、肩の高さでしっかりと水平に伸ばした両手には水瓶の口の部分を指先で持ち上げているヘラクレスの前で。

「なぁ、おい。闘戦勝仏のジジイに東方不敗のおっさん。これになんか意味があんのかよ?」

 泳ぎで中国を目指していた最中に、須弥山に拉致されてから今に至るまで、基礎訓練のみを強要されていたヘラクレスは不貞腐れていた。

「基礎がなってないからのぉ」

 不貞腐れるヘラクレスの方を向かずにそう言った闘戦勝仏は、将棋盤を真剣な目で見ながら歩の駒に手を伸ばすと一つ前に進める。

「だから、そんな時間はねーんだよ」

 神器の基本機能を酷使し、寿命を文字通りに消費して、戦う強さを得ているヘラクレスの言葉に、東方不敗はチラリと視線を向けた。

「体は出来上がっている。そんな無茶な方法でよくぞ其処までとは思うが......体の使い方がなっていない」

 だから、その使い方をまず学べ。言外にそう言うと、将棋盤に視線を戻す同時に角の駒を動かし、闘戦勝仏の桂馬を取る。

「待った。それはいかん、待っただ」

 桂馬を取られた闘戦勝仏が"待った"掛けてやり直しを要求すると、東方不敗が「もう、四度目ですよ」と呆れを含んだ声を出す。

「年寄りを労らんか。まったく、最近の若いのは敬老精神が足らん」

「神々の中では貴方は若輩者でしょう」

「か~ 情けない。目上の者を敬えんとは! 東方不敗の称号も落ちたもんじゃわい」

 東方不敗の持ち駒から取られた桂馬をヒョイと奪うと、闘戦勝仏が桂馬と角と歩を動かして元の状態に盤を戻す。

「なぁ、遊んでないで組み手をしてくれよ」

 せっかく身に付けた気の使用を禁じられ、朝から同じ体勢を維持させられているヘラクレスの言葉に、闘戦勝仏と東方不敗が揃って溜め息を吐いた。

「此処は須弥山。言わば神域じゃ。地上とは時間の流れが違うと教えたじゃろうが」

 何度も教えても理解しないヘラクレス(脳筋バカ)に、闘戦勝仏がそう言い聞かせる。

「闘戦勝仏様が仰っただろう。須弥山では定命者は不老不死になると。地上では後数日しかないお前の命が、此処に滞在している間は無期限になる。神器の機能も封じられ、神器頼りもできん。諦めて基礎を積み上げろ」

 死者復活と云う途方も無い目的の為に、命を粗末に扱うヘラクレスを、自然と命を敬い大切にする流派の頂点に立つ漢は、「無茶をして、両親や冥府に居る恋人を悲しませるつもりか」と非難した。

 神器の基本機能──願いや想いを絶対に叶える為に、際限無く強引に体を作り替えたり等した結果、肉体の寿命を急激に消費し、最後には寿命の尽きた肉体を維持する為に、魂その物を消費し維持し続ける。そして、願いや想いを叶えた者は、肉体が世界に融ける様に消え、最悪は魂すら消滅し輪廻転生すらできなくなってしまう。

「武天老師の爺さんやアバン先生達すら、知らなかったてのによ」

 神器の恐ろしさを知る者は少ない。

 本来なら神代の時代の終わりに告知される筈の内容が、とある主神の深酒による寝坊が原因で告知されなかったうえに、聖書の神や天使達と堕天使達の総数に対して、神器保有者の人数が多すぎたからだ。そのうえ、神器保有者は自身や周りの人達を守る為に、神器の事を口に出すことはない。

 故に、神器の存在を知る大多数にとって、神器とは聖書の神からの贈り物。もしくは、隠匿性の高い兵器程度の認識でしかなかった。

「やはり、知っておったかい。まったく、時の勇者でも在るまいに......その道を選ぶとはのう」

 時折、全てを捨てて叶えたい願や想いを抱く人間が居る事を知ってはいるが、長い刻を生きる闘戦勝仏には、そんな人間が理解できなかった。

「できぬことはできん。ならば、諦める事も肝要なんじゃがのう」

 闘戦勝仏にとって、人間の生とは、諦めの連続そのモノだった。

 人間には決して越えられない壁が存在する。

 ごく稀にその壁を乗り越え踏破する──英雄・勇者と呼ばれる人間も確かに存在する。しかし、全ての人間が頑張れる訳ではない。全人類が英雄・勇者に成れる事など有り得はしない。

 多くの人間は、越えられない壁を前にすれば挫折する。諦めが悪い者は知恵を振り絞り、または他者の協力を得て、その壁を迂回する方法を模索する。

 だと云うのに、ヘラクレスはその壁を力業と神器の機能で強引に撃ち砕こうとしている。その後の事は仕方無いと受け入れて。

「アイツを助ける方法が有る。なら、やるしかねーだろ」

 ニヤリと笑いながらそう言ったヘラクレスに、闘戦勝仏が「愚かじゃのう」と小さく呟いた。

「しかし、十二の試練を力業と神器頼りとは云え、成し遂げてはいます。可能性は零では無いでしょう」

 ジッと将棋盤を見ていた東方不敗がそう言いつつ、持ち駒から歩を取ると、パッチンと音を立てながら将棋盤の上に置く。

「ぬぅぅぅぅぅ!! これは......詰んだか?」

「待ったは無しですよ」

「ケチくさい奴め、先代を見習え」

「お断りします」

 しばらくの間、将棋盤とにらめっこしていた闘戦勝仏が大きく頷くと、「よし、頃合いじゃ。メシにするとしようかい」そう言いながら、盤面の駒をグシャグシャにかき混ぜながら片付け始めてしまう。

「私の勝ちですね」

 いつものように、敗けを悟った闘戦勝仏が将棋の片付けを始めると、その様子に動じていない東方不敗はそう口にした。

「ナニを言うか。勝負は着いとらんじゃろ。ならば、引き分けに決まっとる」

 負けを認めていない闘戦勝仏はしかめっ面をしながら、将棋道具を片付けると同時に囲碁道具を引っ張り出す。

「メシの後は囲碁で勝負じゃ」

「今度は、勝負を投げないでくださいよ?」

「投げとらん。メシの時間じゃから片づけただけじゃ」

 そんな会話をしながら、水瓶を頭に乗せ、二つの水瓶を指先で持ち上げているヘラクレスをそのままに修練場を後にする二人。

「また、その辺の桃が俺のメシかよ......」

 手に持っていた水瓶と頭に乗せている水瓶を静かに降ろし、辺りに実っている桃を数個ほどもいだヘラクレスは、水瓶に満ちている水で桃を洗い始める。

「はぁ......その辺の桃と川の水か......」

 深い溜め息を吐きながら黙々と桃を洗い、それにかぶりつくと硬い種ごと食べ始めた。

「こんなんで、本当に俺の寿命が増えんのか?」

 水瓶に口を着けると両手で持ち上げ、中の水をグビッと一口飲み、水瓶を割らない様に静かに地面に置いた。

「肉が食いてぇ」

 そんな愚痴を溢しながら、桃をかじり水瓶の水を口のする。

『必ず、連れ帰ってみせるからよ。だから、もう少しだけ待っててくれ』

 誓いを胸に、強くなる事を決意した瞬間、グシャリと手に持っていた桃を握り潰したヘラクレスが、うへぇと言わんばかりの表情を浮かべる。

「くそ、アイツの手料理が恋しいぜ」

 この世で一番旨いと思っている恋人の手料理を懐かしむヘラクレスは、桃の果汁と果肉で汚れた手をもう一つの水瓶で洗う。

「食うモン食ったら、川に水汲みか。これで本当に強くなれるのかよ」

 水瓶を頭に乗せて指先で水瓶を持ち上げてから様々な体勢の保持。そして、数分どころか数時間掛けてゆっくりと体を動かす型の練習。それ以外はさせてもらえないヘラクレスが何度目になるかわからない溜め息を吐いた。

 

「して、アヤツをどう見た?」

 ヘラクレスの居る修練場の近くに在る食事所で、料理に舌鼓を打っている闘戦勝仏が、対面に座っている東方不敗に語り掛ける。

「獣染みた男でしょうか。勘と感覚のみで戦う様はそうとしか言えません」

 その言葉に闘戦勝仏が「ふむ。そう見えたか」と呟く。

「儂には、現実を受け入れられずに駄々を捏ねている子供にしか見えんかったがのう」

 闘戦勝仏の言葉に、東方不敗が不思議そうな表情を浮かべた。

「子供ですか?」

「子供じゃよ。定命者であれば死は逃れられん決まりごと。どんな形にせよな」

 神としての言葉に、東方不敗が押し黙る。

「もっとも、その定められた死を拒絶するのも、また、人間なんじゃがな」

 そう言うと嘆息しながら、「ままならんもんじゃよ。人間と云う生き物はのう」と呟く。

「帝釈天の命じゃからのう。鍛えもすれば、寿命を伸ばすように手を打つ」

 一度言葉を切り、「じゃがのう」と言葉を続ける。

「それ以上はできんわい。帝釈天が敵に成りうる存在として認識したからのう」

 ヘラクレスは神の暇潰しの玩具に選ばれた。そう話す闘戦勝仏に、嫌悪を隠さずに東方不敗が短く舌打ちをする。

「妙に扱いが良い理由はソレですか」

「うむ。鍛えがいがあるじゃろう? 上手く鍛えれば現代の神殺しも可能かも知れんぞ?」

 いたずらっ子の様な笑みを浮かべる闘戦勝仏に、ある事を察した東方不敗が頭を抱え、「本気ですか?」と問うと、ニヤリと闘戦勝仏が笑う。

「冥府から死者を連れ出せば、ギリシャの英雄軍勢とギリシャの神々相手の戦じゃ。なら、神殺しを追加しても問題無かろうさ」

 自分の所属する陣営の主神殺しを平然と口にする目の前の神に、東方不敗は『やはり、神はろくでなしが多すぎる』と心の中でぼやいた。

「なに、神核さえ無事ならいずれは甦る。ちぃと灸を据えようと言うだけにすぎんよ」

 そう言いながら闘戦勝仏がカラカラと笑う。

「ほれ、地上の漫画に"最強の弟子"とか云うモノがあるじゃろ? あれを実際にやってみようと思ってのう」

 楽しそうにヘラクレス育成計画を話す闘戦勝仏に、『もう好きにしてくれ』と思いながら東方不敗は深い溜め息を吐いた。

 そんな様子の東方不敗を『まだまだ若いのう』と評しながら、闘戦勝仏はマスターソード発現からの一連の流れに感じている不快感を胸の中に押し込む。

『薄気味悪い程に都合が良すぎるわい』

 

 マスターソードが発現した時代に、またまた偶然、十二の試練を乗り越えた現代の大英雄が存在した。

 現代最強と呼ばれる存在達が、善意でまだ未熟なヘラクレスを鍛える事を快諾し、迫る世界の危機に無償で立ち向かう事を約束した。

 勇者の系譜であるアバンや東方不敗が絶頂期であり、武天老師とストラーダが存命。

 長年にわたり所持者が居なかったアルアジフ偽書に所持者が現れる。

 正義の味方の支援組織やギリシャの聖域等も、戦力が嘗て無いほどに充足している。

 

『此方に都合が良すぎる』

 世界の危機に辛うじて立ち向かえる地盤が、地上に存在するのだ。

 そのうえ、現在確認できている"世界の脅威"は破棄された異界に封じられている為、それらが甦っても神々も全力対応が可能。文字通りに"その時代の全戦力"を投入する事もできる。負ける理由が存在しないのだ。

『この焦燥感。胸騒ぎは......ナニを意味しとるのかのう?』

 被害は免れない。しかし、勝つ事はできる戦い。油断せず備えなければ為らないのはわかっている。しかし、闘戦勝仏──中国神話に名高い戦神は"このままでは負ける"と感じていた。

 

 

 駒王学院の生徒会室。二人で昼御飯を食べていた時に相談された内容に、リアスはどう言うべきか少し迷った後、深刻な表情をしながらモソモソと手作りのお弁当を食べているソーナに対して、意を決して口を開いた。

「まず、匙君に告白して、恋人になるのが先じゃないかしら?」

 三只眼吽迦羅と云う種族に成るにしろ、寿命を譲り渡すにしろ、まずは恋人関係になるのが先でしょ。と云うリアスの言葉に、ソーナの箸が止まる。

「レイナーレさんに相談するのはどうかしら? 私達より長く生きてるし、知識量も上、他の方法を知ってるかも知れないわ」

 数少ない友達兼親友が早まった事をしないように、リアスは言葉を続けようとするが、それより早くソーナが口を開く。

「時の勇者の平均寿命は発現から......一年から半年程です。信じられますか? まだ、高校二年生の匙君がそれだけなんですよ?」

 姉であるセラフォルーから聞いた現実を口にしたソーナは、グッと歯を食い縛る。

「私があの時、余計な事を言ったから、ああなってしまったんです」

 軽率な言動を悔い後悔するソーナが、言葉を続ける。

「寿命が尽きたら......匙君は神器によって生かされる生きた屍に成って......最後は......」

 セラフォルーから聞かされ、そんなはずはないと自分でも調べ、突き付けられた残酷な現実──使命を果たした時の勇者は、魂が消失し転生すらできなくなる──その事実を口にしたくなかったソーナは、涙を堪えながら決意を口にする。

「私には責任が有ります。次期シトリー家の跡取りとして、そして──匙君を時の勇者にしてしまった責任が」

 その決意に一瞬だけ圧されたリアスが、親友であるソーナの為に、口ごもりそうになりながらも意を決して言葉を吐く。

「なら、尚更よ。私達の周りには頼りになる人達が沢山居るわ。時間が無いからこそ、慎重に行動しなくてどうするの?」

 自分を追い込んでいるソーナに、リアスは優しく微笑む。頼りになる大人達を目一杯頼りましょうと。

「そうね、土地神でもある猿田彦様も頼りましょう。神代から存在する神ですもの、きっと何か方法を知っているわ」

 駒王町に赴任してから三年。その時間で築き上げたパイプをフル活用する時が来たと、ソーナを少しでも安心させる為に、リアスは豊満な胸を張りながら自信満々に相談相手を挙げ続けた。

 

 

 

 

 幾千。幾万。幾億に及ぶ、神々や力ある存在が作り上げた異界の一つに、異能者や神器保有者。そして、転生者。それらが集い一つの国を形成している異界が存在した。

 中国式や西洋式や日本式の様々な建築物か区画によって建てられている── 一体何処の国なの?? えっ、古代ケルト式の住居? 古代ゲルマン式? 古代ローマ式? 古代メソポタミア式 えっ、ここはナンなの?? なんで、ピラミッドとかギリシャ式の神殿とか乱立してんの? 頭大丈夫?? 医者呼ぼうか?? そう言いたくなる光景の中でも一際目を疑い、頭痛を巻き起こす──右半分が中国式の城で左半分が日本式の城。そして、その上にピラミッドとバビロン神殿が文字通りに建ち、その上には、巨大な太陽を模したモニュメントが据えられている建造物? が存在した。

 そんな訳のわからない、頭が悪すぎる建造物? の中にある執務室で、学生服の上に漢服を羽織っている青年が書類と格闘していた。

「あおあぁぁぁぁあぁぁぁ」

 奇声を上げながら、時折、頭を両手で掻きむしりながら。

「なんで、どうして、こうなった! ナニをしたらこうなるんだっっ!?」

 頭の痛すぎる現実。

 訓練や喧嘩によって破壊された町や施設等の修繕費を始めとした様々な問題。要するに、国の運営資金不足に、青年こと曹操は発狂しかけていた。

「仕方あるまい。この国の住人──英雄派は、ざっくばらんに言えば、社会不適合者なのだから」

 前世の記憶だの、引き継いだ魂だの、神の恩恵(転生チート)だの、神器だの、異能だの、そんなものは、現代世界では中二病に過ぎない。そして、その現実を受け入れられずに現代世界での居場所を構築できなかった者。もしくは、中二病の果てに大切な者を喪い居場所を失った者。または、そんなモノのせいで現代世界では居場所を失った者。そんな者達が集う異界。

 様々な理由や背景があれ、一言で切り捨てるなら、社会不適合の吹き溜まりがこの異界なのだ。

「ビスマルクか。今年の予算の都合はついたのか?」

 武官ばかりの英雄派の中で、数少ない──棟梁の曹操が自ら血反吐を吐きながら探し出し、泣きすがりながらスカウトした数少ない文官の一人である──"鉄血宰相ビスマルク"の魂を受け継いだ金髪ショートのツルペタ少女に、曹操が虚ろな目を向ける。

「ああ。切り詰めるだけ切り詰め、なんとか予算を組めた」

 曹操の虚ろな目と草臥れた笑みに慣れきったビスマルクは、出来上がった書類の束を曹操に手渡すと、身長の差故にどうしてもなってしまう上目遣いで、曹操を睨み付けた。

「また、徹夜か。不健康極まりない。リーダーがそんな様では下に示しがつかないぞ」

 曹操のせいで、十二歳にして母性に目覚めてしまったビスマルクは内心で『本当にこの男は......私が見てないと』と可愛らしい眉を潜めながら嘆息する。

「わかってはいるんだけどな......これを終わらせない事には、休めないさ」

 受け取った書類に目を通しつつ、そんな言葉を吐く曹操の手から、手渡した書類を奪い取ったビスマルクが、本人的には険しい表情──端から見たら泣きそうな表情を浮かべながら、「そんな状態では効率も下がる一方だ。半時でも良いから寝ろ」と口にした。

 年下の女の子。それも、英雄派に所属する理由が無いにも関わらず、情けない自分の手助けをするために両親を説得し着いてきてくれたビスマルクの泣きそうな表情に、曹操は頭を素直に下げる事しかできなかった。

「すまない。これはリーダーとしての責務なんだ。疎かにできないし、してしまっては英雄派が立ち行かなくなる」

 そう言い切り、頭を上げた曹操は草臥れた笑みを貼り付けたまま言葉を続ける。

「まぁ、俺がリーダーの器じゃないことは分かりきっているんだけどな。確かに、言い出したのは俺だ。だけど、そもそも、曹操の血を引いているだけの一般人に過ぎない俺が、古今東西の英傑や英雄達の魂を継いだ奴等や英雄・英傑の転生体がワンサカ居るのに、更に言うなら魏王曹操の転生体が居るのに、英雄派のトップとか烏滸がましいし、可笑しいだろ? 俺は一兵卒が相応しいんだ。それなのに、なんで、俺なんだ? 可笑しいだろ。征服王イスカンダルや始皇帝とかの転生体が居るんだぞ。英雄王ギルガメッシュや聖徳太子とかの魂を継いだ奴が居るんだぞ。それなのにどいつもこいつも!! 何がメンドクサイだ!! 何が!! ナニがぁぁぁぁあぁぁぁ!!!! だったら、問題をおこすなよ!? 解決をこっちに丸投げするなぁぁぁぁあぁぁぁ!!」

 草臥れた笑みが般若の形相に変わり、両手で頭を掻きむしりながら絶叫する曹操に対し、ビスマルクは慣れた手付きで執務室に備え付けられている安定剤入りの注射器を取り出して、椅子に座っている曹操の太股にプスリと突き刺す。

 

「落ち着いたか?」

 薬が効いてきたのか、落ち着きを取り戻して草臥れた笑みを貼り付けた曹操が静かに頷く。

「ああ、もう大丈夫だ」

 いつもの草臥れた笑みに戻った曹操に、ビスマルクは安堵しながらも、心の中で『あの逆賊共め。さっさとこの世から消えて無くなれ』と毒を吐いていた。

「なぁ、曹操。お前は──」

 何度も何度も邪魔をされ、結局、今に至るまで伝えられなかった言葉。

 曹操の抱く理想。その信念。その覚悟。その努力。それらを知るからこそ、自分達はお前に協力すると決めた。嘗て名を馳せた英傑・英雄ではなく、そんな曹操だからこそ、着いていきたいのだ。

「私は、いや、私達文官達は──」

 意を決して伝えられなかった言葉を口にしようとしたその時、執務室のドアが乱暴に開け放たれ、ジーンズとポロシャツの青年が駆け込んでくると、そのままの勢いで執務室の窓を開け放ち、三階にも関わらず飛び降りて消えて行くと、その直ぐ後に獣耳と尻尾を生やしたゴスロリ幼女集団が執務室に走り込んできた。

「曹操! ビスマルク! お兄ちゃんはどこ!?」

 全力で走って来たからでは納得できない程に荒い息と充血し潤んでいる幼女集団の様子に、曹操とビスマルクは『ああ。発情期か』と納得する。

「お前達の恋人は、そこの窓から飛び降りて行ったぞ」

 曹操が庇うよりも早く、邪魔をされたビスマルクは一切の躊躇が無い、清々しいまでの即売りを敢行して、にこやかな笑みを浮かべる。

「お前達はヤツの理想の恋人達なんだ。胸を張ってヤツを幸せにしてやれ」

 黒歴史製造神器の一つ。至高の恋人製造の暴走によって産み出された獣耳と尻尾を生やした幼女集団が、その言葉を頷きながら、製造主こと恋人が飛び降りた窓から勢い良く飛び降りて往く。扉を開けっぱなしのままに。

「彼は......ロリコンではないと否定していたぞ?」

 幼女達を焚き付けたビスマルクに苦笑しつつ、そう言った曹操に、ビスマルクは目を細めた。

「はっ、ナニを言う。曹操も見ただろう。彼女達が神器により産み出された時の姿を」

 至高の恋人製造の暴走により、無意識・潜在的な願望が発露し、獣耳と尻尾を生やした幼女集団が現れた時の事を思い出した曹操は、「あ~ いや、まぁ、本人が意識しないで起こった事だしな?」と弁明を試みるが、それをビスマルクは鼻で嗤う。

「園児から小学校低学年位の獣耳と尻尾を生やした女の子達が、あんな下劣で下品で卑猥なランジェリーと呼称するのも烏滸がましいモノだけを身に纏った姿で現れた時点で言い逃れはできない」

 はっきりと断言したその言葉に、曹操が口を開こうとすると、開けっぱなしのまま扉から、一人の男性が駆け込んでくると同時に、「曹操! 姫の説得を手伝ってくれ!」と叫ぶ。

「また、修羅場か。指輪の王」

 助けを求められた曹操が口を開くよりも先に、ビスマルクがうんざりした口調と表情でそう言うと、助けを求めて来た青年。指輪の王の方を向き、心底嫌そうに「夫婦喧嘩に英雄派のリーダーであり、多忙極まりない曹操を巻き込むな」と言いながら、右手でアッチに行けとばかりにシッシッと手を払う。

「確かに、悪いとは思ってるんだ! でも、まともに相手をしてくれるのは、曹操だけなんだよ!」

 日常的に行われている夫婦喧嘩──最終的にイチャラブを見せつけられるだけの迷惑行為の相手をしているのは、今や曹操だけ。

 誰もまともに相手をしてくれない理由を理解していない今代の指輪王は、「皆、俺を見捨てるんだ。俺が何をしたってんだよ......」と泣き言をほざいていた。

「彼を余り虐めないでやってくれ」

 曹操の草臥れた笑みが、更に少しだけ草臥れたモノになってしまった事を目敏く見抜いたビスマルクが、不愉快だと云わんばかりに小さく眉間に皺を寄せる。

「それで、今度はどんな理由だ? 内容によっては、反省房にぶちこむぞ」

 リーダーとして、出来る限り平等に接しようとしている曹操に少しばかりの苛立ちを感じながら、話を聞こうとするビスマルクに、『皆もそうだけど、ビスマルクちゃんは更に辛辣と言うか、冷たいんだよなぁ』と内心でこぼしている指輪王が小さく息を吐く。

「やっぱり! また、年下の曹操君に泣き付いて! 大人として恥ずかしくないの!?」

 そこに居たのは、大きなお腹の妊婦。五人居る強大な力を宿した結婚指輪の所持者の一人。今代の光の輪の君であり、指輪王の唯一の妻が怒りの形相で両手を腰に当てて立っていた。

「姫乃!? ダメじゃないか! 安定期に入ったばっかりなんだ。安静にしてないと」

 妊娠中の妻を思った指輪王の言葉に、光の輪の君である姫乃の怒りが増す。

「はぁ!? その妻に、残りの結婚指輪集めてハーレム作るて言った癖に!! ナニ!? 妻は夫の言う事。やる事には口出しするなって事!?」

「違う!! 俺が愛してるのは姫乃だけだ!!」

「だったら、なんで結婚指輪を集めるなんて言うのよ! この浮気者!!」

「だから、誤解なんだ! 俺が指輪を集めるのは、姫乃とお腹の中に居る子供の未来を守りたいだけなんだ!」

「どうだか。妊娠中の私が相手をできないから、他の女が欲しくなったんじゃないの?」

「なっ、そんなわけないだろ! 救世の聖剣が発現したんだぞ!? それだけの危機が直ぐ其処まで迫ってるんだ! 指輪王として、何もしない訳にはいかないし、何よりも、君と赤ちゃんを守りたいんだ!!」

 突然始まった夫婦の言い争いは、相談相手の曹操達を置いてきぼりにしてドンドン加速し、最終段階のイチャツキに突入する。

「頼む。俺に君達を守らせてくれ」とか、「ばか、貴方がそんな危険な事をしなくて良いじゃない......」とか、イチャイチャし始めた万年新婚夫婦を、ビスマルクは心底下らないと鼻で笑い。草臥れた笑みを貼り付けた曹操は、「問題が解決した様で良かったよ」と溢した。

「言っておくが、指輪の王は今回の戦いでは後方待機だ」

 夫婦喧嘩が治まり、タイミングを計っていたビスマルクが、結婚指輪を集めて出陣の方向で話を纏め始めていた夫婦に対して、きっぱりと現実を突きつける。

「例え、全ての結婚指輪を集めて、五人全てと夫婦の絆を深め、指輪の力を十全に引き出せる様になったとしても、戦いに関して未熟極まりない指輪の王を戦場に出せるわけがない」

 戦える力が有るのと、戦う技術と精神を身に付けているとは、全く違う。

 如何に強大な力──全ての結婚指輪を手にし、夫婦の絆を深め、指輪王が救世の勇者と詠われるだけの力を得て、その力を完全に扱えたとしても、世界の危機と呼ばれる程に強大な力を持った存在に臆せず対峙し戦えるかは別問題なのだ。

「えっ、いや、全ての指輪を集めたら、救世の勇者なんて呼ばれるぐらい強くなるんだよ?」

 まさか、戦力外通告を受けるとは思っていなかった指輪王は自分は戦力に成ると主張するが、ビスマルクはそれを否定する。

「最近になって──子供を授かってから戦闘訓練を始めたお前が戦力になるわけが無い。戦争を甘く見すぎだ」

 鉄血宰相の魂と記憶を受け継ぐビスマルクは、指輪王の考えの甘さを指摘する。

「言っておくが、神器の機能を使って強くなったとしても、お前は戦力外だ」

 世界の危機に対する備えは既に計画の段階を終え、動き出している。無駄に古今東西の英傑・英雄が犇めく英雄派は伊達では無い。

「既に、あわわ&はわわ軍師や半兵衛ちゃんと勘兵衛ちゃんを始めとした優れた軍師達が計画を練り終え、準備段階に入り予算も動いている」

 言葉を区切り、ビスマルクは断言した。

「指輪の王の出番は無い」

 

 戦力外通告を言い渡され、今こそ年下の曹操の力に成ろうと意気込んでいた指輪王は肩を落とし、ビスマルクの言葉に上機嫌になった妻に引き摺られるながら執務室を出ていった。

 漸く、邪魔者が居なくなったと安堵して、曹操に伝えたい言葉をビスマルクが口にしようとすると、タイミングを図ったように閉じられた扉が勢い良く開け放たれ、純白のドレスに着こなした金髪のグラマスな──白ユリの様に美しく鮮やかな少女が元気満載の笑顔で、「余が──インペラトール・カエサル・マルクス・アウレリウス・セヴェルス・アントニヌス・ピウス・アウグストゥスである!!」と元気良く挨拶をした。

「何の用だ。毒婦」

「カラカラ。君が此処に顔を出すなんて珍しいな。後、ビスマルクは仲間を毒婦と呼ぶのは止めた方が良いぞ」

 カラカラと呼ばれた純白の少女は、その呼び名に顔をしかめる。

「鉄血よ。余を毒婦等呼ぶな。無礼であろう。そして、曹操は余をカラカラと本名で呼ぶのを止めるがよい」

 そう言いながら、小声でブツブツと「カラカラは確かに前世の余の愛称であったが......何故、今世では本名なのだ。ドキュンネームとかキラキラネームなんてレベルでは無いぞ。大体、前世の余の評価は酷すぎないか? 余は母の前で弟を殺してなどいない。余の愛する弟ゲタは余と母を暗殺者から庇って命を落としたのだ。弟の記録抹消は元老院が勝手にやった事だし、処刑したのはそうしなければ為らない程の罪を犯した者だけだ。そもそも、如何に皇帝とはいえ、悪口言われたから軍を動かしてアレキサンドリアで虐殺とか出来るわけがなかろう? 軍を動かすのにどれだけの物と金が動くと思っているのだ。そんな理由で軍を動かせるものか。あれは功名に焦った愚か者のやったことだ。確かに、軍を統率出来なかった余にも罪は有る。しかし、あの愚か者がしでかした大罪を何故、余が背負わなければ為らないのだ。アントニヌス勅令にしてもそうだ。アレは元老院が余の案を改悪して施行した結果に過ぎない。そもそも、余の悪行とされるものは全て元老院と愚か者達がした事だし。余は悪くないモン。確かに、それらを統率出来なかった余も悪いかも知れないけど、余も被害者だモン」と若干暗い目で呟き始めてしまう。

「カラカラ。俺の言えた事じゃないが確りしろ。何か用が有ったんじゃないのか?」

 草臥れた笑みを消し、めったに執務室に来ないカラカラが姿を現した事で、余程の事だと考えた曹操は真剣な目でカラカラを見据える。

 その横で、頼れる宰相だと信じ切っているビスマルクが、今にも舌打ちをしそうな程に嫌そうな顔をしている事には気付かずに。

「うむ。多忙極める曹操の邪魔をするわけにもいかぬと遠慮していたのだが......資金難を解決する妙案を思い付いたので許可を貰いに来たのだ。後、本名を口にするでない」

 話してみれば全うな思考と常識を持ち、嘗てローマ皇帝として君臨していた知識と経験を持つカラカラの言葉に、曹操は大きく目を見開き、ビスマルクが更に顔を嫌そうに歪める。

「余の名案。即ち、カラカラ浴場である!!」

 カラカラの妙案。言ってしまえば、打ち捨てられ廃墟と化した異界に資源が無いなら、観光地を作って客を呼び込みお金を落として貰おうぜ。と云うモノ。

「カラカラの案は、文官達も考えたらしいが......その、先立つものが、な?」

「毒婦は所詮、毒婦だ。その程度の案を我々が考えなかったと思ったのか。浅はかな」

 すまなそうな曹操の言葉とビスマルクの嫌悪感を一切隠さない言葉に、カラカラは目を見開く。

「なんと、其処まで窮していたか。解った。金を使わない方向で考えよう。後、鉄血よ。余程、余を曹操から離したいらしいな」

 カラカラの言葉に、ビスマルクは鼻を鳴らす。

 直ぐ隣の曹操が、「だから、毒婦とかだめだろ。なんで、カラカラにそんなに辛辣なんだ」と言っていたが、ビスマルクは丸っと無視をして、カラカラを睨み付ける。

「当たり前だ。毒婦め。曹操が様々な協力を得て、ゼロどころか絶望的な状態から此処まで築き上げたこの異界を、ローマと呼称する者を容認できるものか」

 敵意剥き出しのビスマルクに、カラカラは余裕の笑みを浮かべる。

「何を言う。誰も余をインペラトール・カエサル・マルクス・アウレリウス・セヴェルス・アントニヌス・ピウス・アウグストゥスと認めてくれなかった。にも関わらず、曹操は余を嘗てローマ皇帝だった者として認めてくれたのだ。であるのならば、余はローマ皇帝だった者として曹操に報いねばならん。しかし、あの時、与えられるモノを持っていなかった余は、この体しか無かったのだ」

 目を閉じてあの時に、満足に報いる事ができなかった事を悔やみ恥じる様に、カラカラはそう言葉を紡ぎ、それでもと言葉を続ける。

「余は、ローマ皇帝だった者として、何度生まれ直そうと、余を信じその命を賭けるに相応しい皇帝であり勇者である。そう証明し続けなければ為らない。でなければ、どうして、余の治世に希望を見出だした者達や余を信じて死んでいった者達に顔向けできようか」

 万感の想いを乗せて、たかが宰相でしか無かったビスマルクを口撃する。

「そう決意し定めている余を、この地にローマ皇帝として招き入れたのは曹操である。そして、曹操は余の伴侶である。その伴侶が治める地をローマと呼ばずになんと呼ぶ」

 万感の想いを籠めたカラカラの言葉に、曹操は「断ったはずなんだが」と口にするが、二人の耳には聞こえていない。

「勝手を言う。その心意気は天晴れと褒めてやる。しかし、それを他者に押し付けるな。他者に押し付けた時点で、エゴに過ぎなくなると知れ」

「だから、鉄血は宰相止まりなのだ。自己を貫き通せぬ者が皇帝を名乗れるものか」

「ほざけ。毒婦が。私は望んで宰相で在り続けた。お前ごときに侮辱される謂れは無い」

「そうやって自己を誤魔化す。だから、鉄血は其処から先に往けない。並び立つ気概が無いなら、指を咥えて見ているが良い」

 勝ち誇った様にビスマルクを見下ろしたカラカラは、曹操に可憐な笑みを向け、「資金難は余に任せるが良い。必ずや良い妙案をそなたに提示して見せよう」そう言い残し、颯爽と執務室を出て行った。

 

「言いたい放題言ってくれる......」

 機嫌が急降下したビスマルクは舌打ちをすると、仕切り直しだと気持ちを切り替えてるが、新たな邪魔者が執務室に姿を現してしまう。

「曹操よ。貴様の願いを叶えてきてやったぞ。感謝するが良い」

 傲慢不遜を体現したワガママボディの女性。英雄王ギルガメッシュの魂と記憶を受け継ぐ女性の登場に、ビスマルクが盛大に舌打ちをする。

「なんなんだ! お前達は! まるで図ったかの様に!」

 何時まで経っても伝えたい言葉を伝えられないビスマルクの言葉を、ギルガメッシュは鼻で笑う。

「このギルガメッシュを出し抜けると思うてか。身の程を知れ。鉄血よ」

「英雄王の魂と記憶を受け継だだけの女が、良くほざく」

「私が受け継いだのは、転生者で在った英雄王の全てだ。此処ではない何処かの英雄王に憧れ目指した男の憧憬や誇り。使命。その総てを受け継いだ。間違えるなよ。鉄血」

 犬猿の仲である二人のやり取りを聞いていた曹操は軽い頭痛を覚えながら、ギルガメッシュを見据える。

「それで、魔王サーゼクスの依頼は完遂したのか?」

 気に入らなかったり飽きたら、依頼を勝手に破棄して帰ってくる問題児対して確認の言葉を口にした曹操に、問題児のギルガメッシュはつまらなそうに鼻を鳴らす。

「実に下らない些事であったが、貴様の願い故、叶えてきてやったと言ったはずだ」

 冥界の悪魔の支配領域が超巨大モンスター"ラオシャンロン(老山龍)"により被害を受け、これ以上の被害を防ぐ為に討伐して欲しいと、サーゼクスからの依頼で冥界に赴いていたギルガメッシュが「実につまらない些事だった」と溢す。

「流石だな。送られてきた依頼書では、山よりも遥かに大きな巨体だったのにもう討伐したのか」

 感嘆した曹操の言葉に、ギルガメッシュが眉を潜める。

「戯けめ。図体がデカイだけの竜種など、モノの数ではないわ」

 不機嫌そうに、でも、何処か満更でもなさそうに吐き捨てたギルガメッシュは「そも、あの程度の小物ならば貴様も簡単にあしらえるであろうが」と言葉を続ける。

「最強の神滅具である黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を持ち運びが便利なだけの駄槍と言い切り、何の変哲も無い頑丈なだけの槍を至高とする貴様ならば、かの祖竜が相手でも戦えるであろうよ」

 何かと自己評価が低い曹操の実力を知るギルガメッシュの正当な評価に、当の本人は苦笑いを浮かべる。

「無理を言わないでくれ」

 隣で、グルルルゥと唸りを今にもあげそうなビスマルクをドウドウと落ち着かせている曹操の言葉に、ギルガメッシュは小さく息を吐き、『貴様は、何時まで過去に囚われてるつもりだ』と心の中で呟く。

 曹操がどうして英雄派を立ち上げたのか? 何故、自身を英雄の器では無く、一兵卒が相応しいと言い切るのか? その理由を、千里眼を使い視ているギルガメッシュは過去の女──黄昏の聖槍を狙った(転生者)から、曹操を庇って命を落とし、賊の異能(チート)により、魂が消滅してしまった幼馴染み(転生者)を疎ましく思った。

 目の前の男の有り様と生き様を決定付け、本当の名を捧げられ、完全に消滅してなお、未だに男の心を占領している。ソレが心底気に入らないギルガメッシュは、フンと鼻を鳴らす。

「次からは、この様な些事はジークフリートか呂布あたりにさせよ。あやつらの実力ならば問題あるまい」

 つまらなそうにそう言い残し、用は済んだと云わんばかりに曹操達に背を向けて立ち去ろうとするギルガメッシュを、ビスマルクが呼び止める。

「待て、報酬の物資と金の受け渡し日時はどうなっている? 依頼を担当したお前が決める手筈に成っていたはずだ」

 作り上げた神々が飽きて打ち捨てたせいで、朽ち果て死の世界と成った異界に拠点を置く英雄派は、ろくな資源も無いせいで、重度の資金難に苦しみ続けている。

 その、貴重な資金と資源獲得の為に、無駄に戦闘力の高い構成員をあっちこっちに傭兵として派遣しているのだ。

「ああ、それは断った」

 いくらギルガメッシュでも、タダ働きはしないだろうとビスマルクを諌めようとした曹操が、その言葉に硬直する。

「ほう。資金難に苦しんでいる事を知りながら、報酬を勝手に断ったと言うのか」

 鋭い視線を向けるビスマルクを、ギルガメッシュが鼻で笑う。

「王である私に、下らん些事に労働の対価を得よ。と云うのか? あの程度が労働に該当するものか。私が動いたの慈悲に過ぎん。あの程度で右往左往する悪魔が滑稽で憐れだった。故に、曹操の頼みで私が動いてやっただけだ」

 その言葉を残し、執務室を颯爽と去って行くギルガメッシュを、唖然としたまま見送ってしまった曹操が無言で頭を抱えてしまう。

「予算なら心配はいらない。ギルガメッシュにお使いができるとは思ってもいない。今回の件で、外交に使えるカードが一枚増えたと思えば良い」

 その言葉に頭を抱えた曹操が、ピクリと反応をする。

「ゼクラムの爺がギルガメッシュを指名した時点で、こうなると予想は付いていた」

 淡々と語るビスマルクの内容──要約すれば、英雄派よりマシとはいえ、冥界の悪魔側も経済は低迷の一途を辿っている癖に出費は増える一方の為、全うに報酬を支払い続けるのは難しい。だから、借り貸しに持っていき、持ちつ持たれつの関係に無理矢理にでも持って行く。そして、最終的には同盟関係に近いモノに持ち込みたいと考えている可能が高い。その兆候と意図は様々な処で見て取れる事。

 それらを聞いた曹操が「そんな兆候とか有ったか?」と、眉間に皺を寄せながらソレらしい事が有ったかどうか思い出そうとするが、何も思い当たらず、腕を組みながら首を傾げてしまう。

「気付かずとも恥じる必要は無い。ソレに気付いているのは、私や朱里を始めとした軍師達ぐらいなものだ。厄介な相手だよ。ゼクラムの爺と引き籠りのファルビウムは」

 そう口で言いながらも、負けるつもりは無いと不敵に笑うビスマルクを頼もしく思いながら、曹操は自分の不得意な分野を年下の少女に「頼りにしてるよ」と丸投げする。

「ああ、任せておけ」

 その言葉を、ビスマルクは年相応の笑みで受け止めた。

 

 深夜。一日の仕事を終えた曹操は、誰も居ない鍛練場で愛槍──ただ頑丈なだけで特殊な力や機能を持たない槍を振るっていた。

「日が沈むまで書類仕事。その後は武の鍛練。熱心なのは良いけれど、体を壊すわよ?」

 基礎の型を淡々と繰り返している曹操の背後から、嘗て魏王と詠われた金髪ツインテールドリルの少女。華琳の言葉に、二代目曹操は動きを止めずに「ただのストレス発散さ」と短く返した。

「本当に誰に似たのかしらね。ただひたすらに愚直。回り道も、歩みも止めない。真っ直ぐに歩くだけ」

 背中に華琳の呆れに満ちた視線と言葉を受けた曹操は、小さな笑みを──張り付けていた草臥れた笑みでは無い。さも、可笑しいと笑いを堪えるかの様な笑みを浮かべる。

「それはきっと、御先祖様に似たんだろうな」

 前世も今世も、そして、恐らくは、この先、何度生まれ変わっても、天の御使いただ一人を求め続けるだろう少女。そんな少女に似てしまったのだと、曹操は笑う。

「私と一刀の血が流れているとは思えないぐらい、愚かね」

 小さな嘆息の後、「私と一刀の血が流れていたら、もう少し賢い生き方ができるわよ」そう続けた華琳の言葉に、曹操は盛大に吹き出してしまい、鍛練を止めてしまう。

「いやいや、ナニを言ってるんだ。御先祖様。俺ほど貴女達の諦めの悪さと愚かさを受け継いだ子孫は他に居ないと思うぞ?」

 そう言って、屈託の無い笑みを向ける曹操とは対照的に、華琳は悲しげな表情を曹操に向けた。

「私も一刀も貴方ほど危うく無いわ」

 如何なる奇跡が起きようと、二度と巡り会う事ができない一人の女性を求め続け、その女性が生きた証を、生きた世界を守り続けると決めた。女性の献身は意味が有ったのだと、証明して見せると定めた。

「周りの好意に気付かない振りを辞めなさい」

 華琳の言葉に、曹操が少し困ったと眉を下げる。

「いや、そんなつもりは......ただ、どう扱えば良いのかわからないんだ」

 一拍置いて、「御先祖様が言う通り、童貞なもんで」と眉を下げたまま続ける。

「そんなの、抱けば良いだけよ。ホント、これだから拗らせた童貞は」

 余りの発言に口をポカーンさせている曹操を余所に、華琳が仕方ない子孫ね。と云わんばかりに溜め息を付く。

「己の一番を胸に抱き続けるのは構わないの。私もそうだもの。でも、己を慕う者を受け入れる余裕ぐらい持ちなさい」

 小さな胸の前で両腕を組んだ華琳が、唖然としたままの曹操を真っ直ぐに見据える。

「最早、巡り会えない女性を胸に、その女性の為に往く。私の王道とは全く違うけれど、それもまた善し」

 魏王・覇王と呼ばれた存在が、二代目を肯定する。

「なれど! その余裕の無さが危ういと言っている! 私と一刀の血を引き、我が名を名乗るのならば──」

 言葉を切り、大きく息を吸い込み、腹に溜める。

「己を慕う女を全て抱き! その全てが幸せだと微笑む! その程度の余裕と度量ぐらい持ちなさい!!」

 言いたい事を言い終えた華琳が、フンスと鼻を鳴らす。

「えっ、いや、今はそんな時代じゃ......」

 予想外の事を言われた曹操の言葉に、華琳は心底下らないと鼻で笑う。

「時代なんて、大義名分として利用する程度の価値しかないわ。それに、時代とは自分で作るものよ」

「待ってくれ。それだと、大義名分は自分で作るものだと......」

「あら、大義名分を自分で創作して、望む状況を作り出すのは当たり前でしょう?」

 困惑が絶句に変わった曹操を置いてきぼりにして、華琳は言葉を紡ぐ。

「貴方の道を王道とし、王に成りなさい」

 自身をそんな器では無いと思い込んでいる曹操。

 しかし、曹操は荒廃した異界に拠点──国を興した。そして、自分の考えに賛同した仲間──臣下を得た。だと言うのに、曹操自身が、自分はリーダーの器では──王の器ではないと信じきっている。

「結局のところ、この国の歪さは貴方自身の危うさに起因する。ならば、貴方が王と成り、自らの王道を往けば解決するのよ」

 この地に集った英雄・英傑達は、皆が皆、青臭くて危うい曹操を放って置けなくて、集まったバカばかりなのだ。

 そんなバカ達の気持ちに少しぐらい報いなさい。華琳はそう言っているだけにすぎない。

「俺は、そんな器じゃないよ。好きな子に庇われて、その子のお陰で、今こうしてなんとか生きている。その程度の男なんだ」

「ホント、愚かだわ。こうもはっきりと告げたと言うのに、まだ、そんな事を言うのね」

 呆れ返る華琳に苦笑で返す曹操が、小さな欠伸を洩らした。

「すまない。流石に眠いから、もう寝るよ」

 そう言って立ち去る曹操の背に、華琳は小さく「器とは生まれ持つだけではない。作り上げるモノでも有ると早く気付きなさい」と囁いた。

 

 

 自室で今日の分の仕事を終え、ユッタリと読書を楽しんでいた少年は、何時もの如く、元気良く自己紹介をしながら現れた──前世は兄で今世では姉の登場に、こっそりと溜め息を付く。

「うん。知ってるよ。カラカラ姉さん」

「だから、本名で呼ぶなとあれほど言っているではないか」

 前世と今世でも愛する弟にすら、本名で呼ばれたカラカラが両頬を膨らませて不満を口にする。

「いや、その名は長すぎるし。言いにくいし」

 メンドクサイと全身で表現している弟、ゲタの主張をガン無視したカラカラが、にこやかに口を開く。

「うむ。その事は後でジックリと話すとしてだ。余の最愛の弟ゲタよ。そなたの叡知を持って、金を掛けずに大金を得る方法を教えよ」

 そんな事を言い出した姉を、心底バカを見る目で見たゲタは大きく盛大な溜め息を吐き出す。

「無いよ。そんなモノ。だいたい、ここには過去現代の英雄・英傑とその卵達が山ほど居るんだよ? そんな彼等に思い付かないモノを僕が思い付くはず無いでしょ」

 言い切り、読書に戻ったゲタに、カラカラは意外そうな視線を向ける。

「何を言う。そなたの叡知はソレらに劣るものではあるまい。あの暗殺で命を落とさねば、ローマには大法官ゲタあり。と唄われていたに決まっていたのだぞ」

 姉の戯言を聞き流し、ペラリとページを捲ったゲタが、少しだけ視線を姉に向けた。

「僕としては、姉さんの入れ込んでいる曹操から、距離を置く事を薦めるけどね。彼は周りを巻き込んで盛大に自爆するタイプだよ」

 その言葉をカラカラは有り得ないと笑い飛ばす。

「だからこそだ。余は曹操に魂を救われた。余をローマ皇帝であった者と認めてくれたのだ。ゲタからしてみれば、その程度と思うであろうが......余にはソレほどの事なのだ」

 そう言いながら、優しい目でゲタを見つめる。

「そして、愛する弟と逢わせてくれた。再び、ゲタと家族に成れた。余が全てを捧げるには十分過ぎる理由だ」

 カラカラの想いと言葉に、ゲタは敗けを認めて本を閉じた。

「まぁ、姉さんと家族に成れた事には感謝してるしね。わかったよ。考えてみる。だから、何もせず、大人しくしてて。状況が変わったら策も意味が無くなったりするから」

 上機嫌でスキップしながら出ていったカラカラに対して、ゲタは盛大に溜め息を付く。

「わざとなんだよね」

 古今東西の英雄・英傑。その卵達。有名・無名が犇めく英雄派。そんな人材の宝庫。一山幾らで叩き売りができてしまう状況で、何時まで経っても資金難に苦しむはずが無いのだ。

 それこそ、現状打破の献策など、幾らでもある。

 にも関わらず、資金難で居るのには理由があった。

「彼が早く王に成ってくれたら、楽なんだけどねぇ」

 人を集め、居場所を作った。なのに、その地の統治者が居ない。曹操が正しく統治者として君臨していないのが原因なのだ。

 皆に夢を語り方向性を示すだけで、そのやり方()を明確にしていない。意にそぐわない事をしても(法を破っても)罰を科す事ができないのが問題なのだ。

 英雄派の中には「へぇ~ 俺等が当たり前に生きていける世界か。いいね。よし、なら、手っ取り早く、曹操が人間世界の王に成って、そう云う法を敷けば良い。んじゃ、ちょくら世界を獲って来る」等とほざくバカが一定数居るのだ。

 そして、質が悪い事に、その戯言を実行できる戦力を持つのが英雄派。そんな馬鹿共が、それを実行できるだけの資金と物資が有ると知ればどうなるかなんて、わかりきっている。

「姉さんの手綱を任されても、困るんだよ。本当にさ」

 だから知恵者達は一計を投じた。要するに──

「世界を獲る? そんなお金も物も無いよ。あ、今日のご飯はモヤシだけを炒めたヤツね。仕方無いね。お金も物も無いんだから」

「えっ、マジかよ......戦争とかしてる場合じゃねーな。肉とか獲って来る」

 と、云う具合である。

「華琳さんでも、ギルガメッシュでも、ビスマルクでも、誰でも良いから、早く彼を王にしてくれ。頼むから」

 姉の手綱を何時までも握っている自信が無いゲタは、そう溢さずにはいられなかった。

 

 

 全ての業務。今日やるべき事をやり終えたビスマルクは、自室のベットに横になり、目を瞑ろうとした途端、「あっ」と声を上げた。

「しまった......今日も曹操に伝えられなかった......」

 曹操に王としての自覚を促す言葉を伝えられなかったビスマルクは、ベットの中で身を捩らす。

「ああ、クソ。あのお邪魔虫共め」

 何時も何時もタイミングを計ったかのように邪魔をしてくる人物達に悪態を付きながら、明日こそ、今度こそ伝えようと瞳を閉じた。

 




不定期で、こっそり、こそこそ投稿。
これからも、こんなスパンでの投稿に成りますので、気が向いたらお付き合い下さいませ。

後、最高傑作を駄槍と断言された聖書の神様は泣いて良い。
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