転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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ドライグとアルビオンの対応の差
推し以外の場合
「最低限の力は使わせてやる。使い方? 自分で何とかしろ。ああ、神器の基本機能の制御はしてやる。戦う力が欲しい? わかった。夢で経験積めるようにしてやるから勝手にやってろ」

推しの場合
「全ての力を無条件で使える様にしたよ! 力の制御? 大丈夫。こっちでやるから! 強くなりたい? わかったよ! まずは魔法から教えるね! わからなかったらわかるまで教えるから安心してね!」


希望と云う名の絶望と云う名の希望モドキ

 白亜の城キャメロット。

 現在は伝説の中だけで語られる城の中に、一誠は居た。

「ふざけんな。追尾する矢とか反則だろ。つーか、一般騎士がそんなもん撃つなよ。頭おかしいにも程があるだろ」

 曲がり角の壁に張り付きながら、口の中でモゴモゴと愚痴りつつ、途中で手に入れたガラスの破片をソッと 通路に差し出して辺りの安全を確認した一誠が、目を閉じて聞き耳を立て始める。

「うし、足音無し」

 緊張した面持ちから少しだけ気を抜いた一誠だが、過去の失敗から直ぐに緊張を張り巡らせる。

「後、少し、少しで、セーブポイントなんだ。此処まで来て、死に戻りとかやってられるかっ」

 この城のチュートリアルボスであり、案内役の中性的な美丈夫。ベディヴィエールから貰った地図を頼りに動いている一誠が、「後はゴリラだ。あのゴリティーン(ガウェイン)さえ、出し抜ければ......」そう呟いた瞬間、一誠の目の前が光に覆われる。

「うっそだろ!? あのゴリラ、城の中で聖剣ブッパしやがった!?」

 もはや馴切った、自分の体が光によって蒸発する感覚に身を委ねながら「だから、テメーはゴリラなんだよ!!」と叫び、おとなしくスタート地点に一誠は出戻った。

 

「おや、お帰りなさい」

 隻腕の騎士ベディの言葉に、一誠が両肩を落とす。

「ゴリラが城の中で聖剣ブッパしたんですけど」

 スタート地点の近くに在る一室に死に戻った一誠が、「城の中で聖剣ブッパとか良いんですか? 許されるんですか?」と問い詰めると、ベディは苦笑を浮かべつつ「ガウェイン卿ですから」と答えた。

「無駄に説得力がありすぎる......」

 運命の夜を代表作とする某作品群の最新作。グランドオーダーにも出てくるゴリラそのままだったガウェインに対して、一誠が深い溜め息を付いた。

「また、最初からかよ」

 再び深い溜め息を吐き出しながら肩を落とした一誠に、ベディが紅茶をソッと差し出す。

「如何に、ドライグが貴方の夢の中で構築した世界と言えど、初日でこれほど死んでは精神的な負担は測り知れません」

 差し出された紅茶を受け取り、死に戻った回数を覚えていない一誠に、ベディは困った様な笑みを浮かべる。

「伝説に語られる魔王ガノンに立ち向かう友の力に成りたい。その気持ちは痛いほどわかりますが、その結果、死に慣れてしまい、己の身を省みない狂戦士に成ってはいけません」

 優しく諭してくれるベディに、『本当、俺は周りに恵まれてるよな』と思いながらも一誠は首を横に振る。

「ベディさんが、俺を心配してくれてるのは本当にありがたいんだ。だけどさ、俺は──強くなりたいんだ」

 強くなって、自分が兵藤一誠(兵藤京子の弟)であると証明しなくてはいけない。無意識にそう思い込んでいる一誠が、受け取った紅茶をグビッと飲み干す。

「うし、紅茶ありがとう。取り敢えず、先にガウェインをぶっ飛ばす方向で攻略してみるよ」

 休憩は終わりだと立ち上がり、セーブポイントを出ていった一誠に、「えっ、いや、今の一誠君の実力では」とベディが口にした途端、一誠が死に戻った。

「出待ち待機とかクソゲー過ぎんだろうがぁぁぁぁ!! クソゴリラァァァァ!!」

 安全を保証されているセーブポイントを出た途端、出待ちしていたガウェインに一刀の元に首を跳ねられ、死に戻った一誠の叫びに、ベディは困った様な笑みを浮かべる事しかできなかった。

 

 時間切れで目を覚ました一誠が、ベットに横たわったまま「うっそだろ。おい。第一ステージすらクリアできないとか」と呟く。

「だから言っただろう。猿ごときに攻略できるものかとな」

 左腕から聞こえてきたドライグの声に、舌打ちをした一誠が、ハンと鼻を鳴らす。

「クソ竜が無理だと言ってたチュートリアルはクリアしたけどな」

 急いで強くなりたいけど、寿命や魂を対価にしたくない一誠が必死に頼み込み、ドライグの記憶に在る白亜の城とアーサー王率いる騎士団を夢の中で完全再現して貰った時に言われた「宿主だからな。最低限の協力はしてやろう。お前の好きなゲーム。ダークソウル風にキャメロットを再現してやる。最も、猿ごときでは、チュートリアルすらクリアできないだろうがな。猿ごときではな」と言われて感謝の気持ちが消し飛んだ一誠の言葉に、ドライグがフンと鼻を鳴らす。

「ベディが本気を出せば、お前ごときが勝てるものか」

 手加減されていただけだと語るドライグの言葉に、一誠は「言われなくてもわかってる」とだけ返した。

「たく、あのゴリラどう攻略すりゃ良いんだよ......」

 そう愚痴りつつ、ベットから降りるとジャージに着替えた一誠が首をグルリと回す。

「身の程を知れ。お前がガウェインに勝てるものか」

 頼んでもいないのにガウェインの武勇伝を熱心に語り始めたドライグに、『ホントにウゼェ』と内心で毒づきながらガン無視した一誠は、日課のランニングに出掛けた。

 

 

 

 果ての無い荒野。眼前に犇めく──魔王ガノンが存在する限り無限に出現する魔物の軍勢を、匙が静かに見据えている。

 小さく息を吐き、呼吸を調えた匙がゆっくりと口を開いた。

「我は無敵なり」

 それは、先代達から受け継いだ技能の一つ。

「我が武技に敵う者なし」

 クルダ流交殺法の奥義。"武技言語"と呼ばれる高速催眠暗示によって自身の力を限界以上に底上げする技。

「我が一撃は退魔の絶撃なり」

 不完全ながらも奥義を発動させた匙は、両手で持った聖剣マスターソードを下段に構える。

「双破斬」

 静かに口にした技の名。

 剣を下から斬り上げ、その勢いで剣を振り下ろした瞬間、マスターソードから聖なるオーラが二つの巨大な衝撃波として撃ち出される。

 真っ直ぐに突き進む二つの衝撃波が、魔物の軍勢を真っ二つに引き裂くのを見据えながら、中腰になった匙は体を限界一杯まで捻り、剣先を地面に着けた体勢をとると、マスターソードに宿る聖なる力を引き出し凝縮を開始する。

 一時的な混乱に陥っていた魔物の軍勢が動き出すよりも速く、マスターソードに十分な力を凝縮させた匙は、マスターソードを勢い良く真横に振り抜きながら、凝縮した力を剣線に乗せて解放する。

「見付けたぞ。ガノン」

 振り抜いた剣線に添って解放され、光刃と化した聖なる力によって、真横に切り裂かれて消滅していく魔物の軍勢の最奥に一瞬だけ姿を見せたガノンを見逃さなかった匙が静かにそう口走る。

「瞬動」

 技の発動に必要なキーワードを口の中で呟き、"瞬動術"を発動させた匙の姿が一瞬で消える。

 無事に瞬動術が発動した事に安堵しながら、先人達が編み出した──技の名をキーにした技の補助術"キーワード"が巧くいっている事に安堵しながら、ガノン目掛けて一直線に高速移動していた匙だが、術の未熟さから、蛇の様な下半身に無数の鋭い刺が生え、エイの様な上半身を持ち、アリジゴクを彷彿させる長く縦に裂けた口を持つ巨獣"モルドゲイラ"の眼下で高速移動のスピードを緩めてしまう。

「くそっ」

 頭上からモルドゲイラが巨大な口を開けて迫ってくるのを感じた匙が、緩まったスピードを殺さずに横っ飛びでソレを回避する。

 横っ飛びの着地に失敗した匙がそのまま転がり、地面を空いている左手で突き放す様に小さく飛び退いて体勢を建て直すと、少し前に居た地点に無数の魔力弾が着弾し、その奥でモルドゲイラが地面の中に潜って行く光景がその眼に飛び込んできた。

 周りを見渡さなくても、自分が囲まれてしまった事を察知した匙は短く舌打ちをする。

 受け継いだ記憶と経験から打開策を引き出そうとした匙だが、即座に溜無しの"回転切り"を繰り出し、音も無く接近していた──歴代時の勇者の統合コピーであり、ガノン到達の最大の壁"シャドウ"を牽制する。

「ここでかよ!」

 歴代の勇者達が死力を振り絞り、神器の機能を限界以上に使用して漸く打ち倒せる強敵の出現に、短い舌打ちをした匙がマスターソードを構え直す。

 地面の微かな揺れに、モルドゲイラの突撃を検知し、すかさずシャドウに向かって走り出した匙は、間合いに入ると同時に、僅かに腰を落としてモルドゲイラとシャドウの攻撃を誘う。

 振り下ろされたシャドウの剣を紙一重で避けると同時に、浮上して来たモルドゲイラの大口にシャドウを蹴り飛ばそうとするが、放った横蹴りを捕まれてしまった匙は投げ飛ばされ、そのままモルドゲイラの口の中に消えて行ってしまった。

 

「くそっ。ガノン到達どころか、シャドウに全敗かよ!」

 神器の機能を利用したシミュレーション。世界の脅威に対抗する為に、先達が作り出した──夢の中でガノンとその軍勢との戦いを経験する術を使っていた匙が、自分の弱さに毒づく。

「とにかく、受け継いだ技術を完全にモノにしないとな......」

 反省点を考えながら、軽く寝汗を拭いた匙がジャージに着替える。

「先代達と比べると、チャージが長い。技の精度も低すぎる」

 朝早く目が覚める習慣が付いている匙は、改善点をブツブツと呟き、寝ている家族を起こさないように気を付けながら散歩用のリード等の犬の散歩必須道具が入った肩掛けバッグを手に取りながら玄関を出る。

 幼い末妹が何処からか拾って来た、珍しい毛色──紅い隈取りが特徴的な大型犬が、匙の気配を感じたのか犬小屋から顔をヒョコと出すと、トコトコと匙に歩み寄り、散歩に連れてけ。と云わんばかりに匙の足にじゃれつき始めた。

「たく、お前は気楽で良いよな......俺なんか、何の間違いか、時の勇者様になっちまったよ」

 その言いながらしゃがんだ匙は、雪の様に白くフッワッとした毛並みの背を数回優しく撫でる。

「何度も思ったけど、お前、アマ公にそっくりだよな」

 数年前に出た名作と名高いゲーム。"大神"の主人公に良く似た飼い犬に、匙が優しい笑みを浮かべる。

「俺の家族。頼んだからな」

 そんな匙に向かって元気良く尻尾をブンブンと振りながら、早く散歩に行こうぜ! と言っているかの様に、匙家の番犬であり、末妹が頑なに譲らなかった為にその名に成った"ワンコ"が元気良く「ワン」と吠えた。

「朝早いんだから、静かにしろ」

 ワンコの頭をクシャリと一撫ですると、赤い首輪に着けているリードを散歩用に付け替え、もう一度、ワンコの頭を一撫でした匙が立ち上がる。

「いくぞ。ワンコ」

 飼い犬に一声掛けた匙は、目的が変わってしまったランニングに出掛けた。

 

 

 

 神器発現の次の日。

 ソーナとリアスが一緒に昼食を取りながら過ごしている頃、一誠は姉の手作り弁当を片手に、匙を昼食に誘い出す事に成功していた。

 中庭の一角に備え付けられているベンチに、二人で腰掛け、一緒に弁当を食べ始める。

「なぁ。グランドオーダーてスマホゲー知ってるか? 結構ストーリーがしっかりしててさ」

 ハマってるスマホゲーの話題を振りながら、弁当を突っつき、匙の返答を待つが、気まずくなる前に一誠が口を開く。

「俺のカルディアにはさ、無名の英雄は居るんだけどさ、コカビエルの姐さんが居ないんだよなぁ」

 その逸話から、普通に星五のはずが、何故か星一に設定されている聖書に書かれた大英雄の名を口にし、星五のコカビエルをピックアップの度に引くのに来ないと嘆きながら、無反応で黙々と弁当を食べる匙をチラ見する。

「悪魔ってさ、願いを叶えてくれるんだろ? 対価とか色々みたいだけどさ」

 ドライグから聞いた事を口にしながら、軽く上を向いた一誠が、「軽い対価......荷物持ちとかでコカ姐さんを家のカルディアに呼んでくれないかなぁ」とぼやく。

「............呼んでくれるんじゃねぇの? 詳しくは知らないけどさ。受け継いだ記憶の中の悪魔に、確率操作できる奴がいるみたいだし」

 だんまりを決め込んでいた匙の返事に、待ち望んだ会話のキャッチボールができると一誠が嬉しそうに笑う。

「匙もそう思うよな! ヨシ。放課後オカルト部に顔出すし、その時にリアス先輩に頼んでみるか!」

 その会話を当の本人であるリアスが聞いてたら、「確率操作なんて出来るわけ無いじゃないっっ!? でも、対価で、一誠とのデートとか......いや、でも、確率操作ぁぁ」と頭を抱えるで有ろう事を知らない一誠は、無理難題をリアスに吹っ掛ける事を決めてしまう。

「匙はさ、どんなゲームをするんだよ? 神話大戦以外にも、何かやってるんだろ?」

 会話を弾ませようとした一誠の言葉に、少しだけ黙った匙が口を開く。

「前は、イッセーと同じでグランドオーダーもしてたし、艦これとか、ドルフロとか、アッシュアームズとか......後は、据え置きなら、大神とかダクソとか色々した」

 幾つか知ってるゲームのタイトルに、一誠が食い付く。

「大神かぁ~ アレは名作だよな。俺も最初からやり直したりとかしてる」

 名作だと語るゲームが、神代に実際に有った事──人間達に「スサノオ様マジ頼りになる。カッケェ! ツキヨミ様マジ最高。さすツキ! それに比べて、あのヒキコモリニートはさぁ......」等と言われた某女神が、楽して人気回復(信仰回復)する為に自立思考型の化身を作った事を発端とした日本滅亡の回避劇。その半ば自作自演の出来事が神話として語り継がれ、それが元ネタになったと知らない一誠が、ノホホンと楽しげに大神の良い所を話始める。

「イッセーは、神器に頼りすぎるなよ」

 その一言で、一誠の言葉が止まった。

「俺はさ、もう、どうしようもないけど、イッセーはちがうだろ」

 母親が作ってくれた弁当に視線を落とし、いつも以上に確りと味わいながら、匙は小さな声で言葉を続ける。

「ちゃんと神器の制御を覚えたら、今まで通りの生活ができるようになるからさ」

 匙の言葉に押し黙った一誠は、ゆっくりと決意を口にする。

「ダチだろ」

 匙の神器が暴走した時に、すがる事しかできなかった。でも、それでも、弱いままで居るつもりなど毛頭無い。だからこそ、一誠は自分の方を向いた匙の目を真っ直ぐに見た。

「確かにさ、俺は弱いよ。でも、強くなって見せる」

 一誠の周りには頼りになる大人達が沢山居る。そして、一誠は自分が子供だと知っている。なら、周りの大人達が言うように、子供らしく、目一杯のワガママ(無茶振り)を言って大人達に助けて貰えば良い。そして、自分が大人なったら、子供のワガママ(無茶振り)を聞ける大人になれば良い。

「ダチを一人で戦わせるなんてしない」

 優しくて頼りになる大人達に見守られて育ってきた一誠の言葉に、匙が視線を残り少なくなった弁当に戻す。

「俺の前──先代達の中にもさ、イッセーみたいなヤツをダチや家族に持ってた人達が居るんだ」

 言葉を区切り、チラリと一誠に視線を走らせ、再び弁当に戻した匙が言葉を続ける。

「ソイツらさ、勝手に強引に着いて来て──」

 時の勇者達の、怒り。悲しみ。慟哭。それらを知る匙は、彼等の想いを口にした。

「勝手に庇って、満足そうに勝手に死んでさ」

 その言葉に、一誠が再び固まる。

「フザケンナ。て話だよな? 誰もそんな事してくれなんて言ってないのにさ」

 弁当を食べ終わった匙が、真っ直ぐで透明な目を一誠に向ける。

「それにさ、何も俺一人で戦う訳じゃないんだ。色んな奴ら──その時代の戦える奴が一緒に戦ってくれる」

 立ち上がり、固まったままの一誠を見下ろした匙は、ゆっくりと口を開く。

「イッセーが戦う必要も理由も無いだろ」

 その言葉を残して、匙はその場を立ち去った。

 

 中庭から匙の姿が完全に消えて、漸く動き出した一誠は、残っていた弁当を口の中に掻き込むと、ペットボトルのお茶で強引に流し込む。

「んだよ......それ、ダチてだけで十分に決まってるだろ!!」

 ふつふつと怒りが込み上げてきた一誠が、手に持つ箸をバキッと握り折る。

「なるほど。なるほどな。距離を置くて、こう云う事かよ」

 終始素っ気なかった匙。あまつさえ、周りの事を考えずに、勝手に庇って死ぬような男だと言われた。

「ふざけんなよ......確かにヤバくなったら庇ったりするだろうけどさ......それで死んだりしないように鍛えてんだよ」

 周りの大人達から、散々そう云った心構えを叩き込まれている一誠は、握り折った箸がミチミチと音を立てている事に気付かずに、ニヤリと不敵に嗤う。

「兵藤の男のねちっこさを舐めるなよ」

 正月等の集まりで、酒の入った祖母や母・親戚の女性陣の「兵藤家の男はねちっこくてしつこいから大変よね」との評価を幼い頃から何度も聞き、祖父や父の実例によって、"粘り強くて諦めが悪い"のが兵藤家の男だと思い込んでいる一誠がクックッと喉を震わせる。

「見せて......いや、思い知らせてやるよ。匙ぃぃぃ」

 そっちがその気なら、無理矢理、強引に距離を詰め続けてやる。そう決めた一誠は小物悪党のような顔をしながら喉を震わせ続けた。

 

 

 全ての授業が終わり、放課後の生徒会室。

 そこには、レイナーレが再びダッシュボードにペンを走らせている姿があった。

「つまり、以上の事から匙君を助ける方法は存在しないの。わかったわね?」

 ダッシュボードに書かれている内容──

 

 何処かの神の神域で神器の機能を停止して修行をしても、最終決戦で寿命どころか魂を使いきる。

 幻の最初の神器であり、生命どころか魂すら癒し修復すると言われている"幽世の聖杯"なら、もしかしたら可能かも知れないが、現物を見た者は存在しない事から、そもそも設定・設計段階の情報が存在するだけで、実物は存在しない可能性が極めて高い。

 聖書の神なら、現行の仕様に手を加えて、なんとかなるかも知れないが、ぶっちゃけて聖書の神は不在なので無理。

 消滅した魂を元に戻す事は理論上不可能で、生命等を司る神なら、もしかしたら可能かもしれないが、それは世界の理に反する事だから、そんな事をしたら最悪は全神話勢力を敵に回す可能性が非常に高く、実行するには全神話勢力への根回しが必要であり、現実的にも不可能。

 

 等々の理由が書かれていた。

「あの、聖書の神の不在と云うのは......」

 レイナーレの前に並べられた椅子に座っているソーナが、『もしかして、とんでもない機密情報を物凄く雑に暴露されているのでは?』と戦慄しながら恐る恐る手を小さく上げる。

「そのままよ。聖書の神は先の大戦で戦死しているわ」

 レイナーレの説明を聞いていたリアスとソーナ。そして、白音以外の眷属候補達は、余りにも雑な暴露に体を硬直させる。

「えっ、レイナーレさん? えっ?」

 椅子に座ったまま、大混乱の中に居るリアスがなんとか言葉を口にしようとするが、平然としていた白音が静かに口を開いた。

「もしかして、知らなかったんですか? 聖書の神が戦死してる事? 現魔王サーゼクス様の妹なのに? 外務大臣カテレア様とソーナ様は懇意な間柄ですよね? レヴィアンタンを継いで欲しいと頼まれる程に、なのに知らなかったのですか?」

 悪意が一切無い純粋な疑問の声に、リアスとソーナの肩がガクリと落ちる。

「後で、お兄様に聞いてみるわ......」

「そうですね......私も後でカテレアさんに聞いてみます」

 リアスとソーナの意気消沈した姿に、『ああ、リアスとソーナ可愛い』と思いながら朱乃が隣に座る白音に顔を向けた。

「白音。どうやってその情報を?」

 聖書陣営とってはとてつもなく重要な情報。悪魔の最高権力者の妹であるリアスすら知らなかった情報を持つ白音は、その当たり前の疑問に対してコテンと首を傾げた。

「情報とは力でありお金だからです。他の陣営の主神クラスと取引をしていたら様々な情報が手に入りますから」

 幼い頃から領主自らの交易販路開拓に付いて回っていた白音は、様々な勢力のトップから文字通り猫可愛がりされている為、ほぼ全ての勢力で顔パス状態だったりする。

 その結果。酔っ払ったゼウス等から、ガバ基準でこの程度なら話しても問題無いだろう。と様々な機密情報を入手していた。そして、その情報を領主にそのまま伝えていたので、悪魔領の数ある開拓地の中で最大規模の開拓地がナベリウス領になり、"ナベリウスと云えばあのやり手の悪魔"や"落ち目のナベリウス家が産み出した奇跡"や"いずれ、あのゼクラムに匹敵する存在になる"とその領主は称賛されている。

 もっとも、その評価はあくまでもその他勢力と冥界の悪魔トップ陣等の評価であり、一般的な悪魔の評価は「ナベリウス? 誰ソレ? 開拓地? ああ、あの辺境? んで、その辺境カス領主がどうしたって? 所詮は使い捨てのグズ悪魔なんだろ? 辺境なんて使い捨ての役立たずのゴミの集まりなんだからさ。つーか、そんなカスが過大評価されるぐらい余裕なら、俺が領主に成ればアッと云う間にモンスターを駆逐して冥界全域を悪魔領にできるよw w できる悪魔はつれーわwww」とバカにされているのが現状だったりする。

「さすがは、あのナベリウスの秘蔵っ子と云ったところかしらね」

 それなりの位置に居るだろうと評価していた白音が、一応とは云え、聖書陣営の最高機密を知っていた事に感心したレイナーレが笑みを浮かべる。

 

 もっとも、知ったところで今の生活が激変するような情報では無いが。

 と云うのも、全神話勢力のトップ陣は当然の如く知っているし、当の死んだはずの聖書の神は日本の片田舎で療養中。更に、全神話勢力のトップ陣の関係は良好で戦争のセの字も存在しない。

 どれぐらい良好かと云うと、転生者が持ち込んだインターネットの概念を元に作られた神ネットに存在する"2ちゃんねる"で全神話勢力のトップ陣が、愚痴を言い合い。慰め合い。煽り合う。自身を信仰する人間達の自慢。等々を気楽に書き込む程である。

 つまり、知られて困るのは、聖書陣営の天使と悪魔の両勢力トップ達だけだったりする。しかも隠している理由は、「聖書の神が死んでる? ヨッシャャヤャャ!! ソレを理由に戦争起こして、名を上げてやんぜぇぇぇ!!」とか、「神が崩御されていただと......仇を......仇を討たなくては......」とか言い出して、暴れだすバカどもを出さない為の色合いが強い。

 そして、それ以外の神話勢力下の様々な勢力が知ったところで、「聖書の神が死んでる? どーでも良い。とにかく此方に迷惑かけんな」とか、「だからどうした? ソレがなんだ? 主神が死んだから同情しろとでも? この恨み晴らさずにはおれんのだ!!」と、そんなのカンケーネー状態である。

 

 そんな裏事情を全く知らないリアス達は、白音の博識と顔の広さに驚いていた。

「特に大神ゼウス様はチョロいです。孫風に甘えながらお酌をしたら、色々と勝手に喋って、お小遣いを沢山くれるぐらいチョロいです」

 自慢気に無い胸を僅かに張りながら、ギリシャ神話の神々の王をチョロいと語る白音は、フンスとドヤ顔を披露する。

 ちなみに、ゼウスからのお小遣いと云う名の財宝は、駒王町運営費の半額ぐらいであり、その全ては開拓地ナベリウス領の運営費に当てられて、ビタ一文も駒王町運営費に流れていない。一円も流れていない。

「白音が正式に眷属に成ったら、交渉関係を任せたいわね」

 そんな事実を知らないリアスは、情報量の多さと顔の広さから、取らぬ狸の皮算用を口走り、その言葉にソーナ達が小さく頷く。

「任せてください。必ず功績を上げて、現政権に食い込みます。そして、ナベリウス領に人とお金が流れる様にしてみせます」

 グッと握り拳を作りながら、自身の野心を口にした白音に、「えっ」とリアスが溢した。

「は、白音? 私の眷属になってくれるのよね?」

「リアスの眷属になってくれるのですよね?」

 匙をどうにか助けられないかと真剣に考えていたリアスとソーナが、思わず体ごと後ろを振り向くと同時に、白音が確りと頷く。

「はい。現魔王の妹の眷属として功績を上げて、現政権にパイプを作り上げてみせます」

 時折、一緒に昼御飯を食べたり話したりできる間柄になり、知り合いから友達にランクアップ間近だと確信していたリアスとソーナが驚愕に染まる。

 何せ、面と向かって「現魔王の妹の肩書きを持つから眷属になる」と言われてしまったのだから。

「へぇ。白音も目的があって眷属になるんだ」

 ソーナ唯一の眷属候補の声に、ソーナが「えっ」と漏らしながら、唖然とするリアスをそのままに、隣に座る巴柄の方に体を向けてしまう。

「巴柄? 貴女は、私だから、転生悪魔に成ってくれるのですよね?」

 若干涙目になっているソーナに、退魔の系譜──嘗て歴史修正主義者や妖魔等と戦って来た審神者(サニワ)の末裔でもある巴柄が、あっけらかんと「転生悪魔に成れたら別に誰でも」と言い放った。

「歴史修正主義者との戦いは、両親の代で終わって、時の政府は解散したけど......」

 目を瞑り、初期刀である加州清光の──「たぶんだけどさ。また、歴史修正主義者は現れるよ。だって、人間の欲に際限は無いからさ」──その言葉を反芻した巴柄はゆっくりと目を開けて、ソーナを見る。

「けど、きっと何時か、審神者の力が......九十九神の力が必要になる。本霊に還った彼等との繋がりを今も感じている私は備えないといけない。その時のために」

 凛とした表情と言葉に、ソーナは虚ろな目をしてしまう。

 何故なら、ソーナは幾らかの打算は有っても、友情パワー的な理由で眷属候補に成ってくれたと思い込んでいたからだ。

 でなければ、何故、本霊に還ったはずの刀剣の九十九神の分霊達。巴柄の保護者枠筆頭の加州清光と大和守安定の分霊に至近距離でガンを付けられたり、耳元でボソリと「首を落として死んでみる?」等と脅され、しかも、彼等の主である巴柄にソレを伝えようとすると、ソーナにしか聞こえない鯉口を切る音がチャキチャキと鳴り出す。その恐怖に耐えられると云うのか。

 自分の首を文字通りに切り落とせる化け物に囲まれて脅されても、友情パワー的な理由で眷属候補に成ってくれたと信じてたからこそ、ソーナはその恐怖に耐えられたのだ。それなのに、転生悪魔に成れたら誰でも良かったと言われてしまった。

 匙の件で余裕が無かったところに、巴柄による無慈悲な追い討ちにより、ソーナはポロポロと泣き出してしまう。

「わ、私は、巴柄と友達に成りたいと......思っていたのに......巴柄もそう思ってくれてたから、眷属候補に成ってくれたと思って............匙君の事だってぇ......」

 ソーナが追い込まれている事を理解しているリアスが椅子から立ち上がり、背中を丸めて泣いているソーナの背中を優しく撫で、慰めの言葉を口にするよりも早く、巴柄が不思議そうに言葉を口にした。

「ソーナと私は友達でしょ? だから、どうせなら、ソーナの眷属に成ろうと思ったんだし」

 その言葉に、リアスとソーナがピタリと止まり、急に泣き出したソーナに驚いていたレイナーレ達が怪訝そうな表情を浮かべる。誰でも良い発言は何だったのかと?

「えっと、巴柄さんは、転生悪魔に成れたら、誰でも良かったのですよね?」

 もしかして、言葉足りない系? と考えた朱乃の声に、当の巴柄はそんな事言って無いよね? とばかりに首を傾げた。

「だから、誰でも良いなら、友達のソーナが良いて言ったよね?」

 その時、ソーナ以外の全員の心が一つになった。どう考えても、そんな事は言ってない。と。

「友達?」

 しかし、ソーナは絶望と云う暗雲を切り裂く一差しの光を見たと云わんばかりの表情を浮かべていた。

「うん。友達」

 頬をポリポリと掻きながら、周りの反応でやらかした事に気付いた巴柄が言葉を続ける。

「小さい頃から本丸暮らし──ええっと、刀剣男子──じゃわからないか。だから、小さい頃から刀剣の九十九神達とお城で暮らしてたからさ。対人コミュニケーション能力が足りて無いらしいんだよね」

 何せ、審神者としての能力が有るとわかった時点で、両親に異次元に存在する城に案内され、初期刀の加州清光を渡されると「今日からお前はこの本丸の主だ」と告げられて、加州清光と初期鍛刀の今剣と本丸を運営してきたのだ。

 そう云った血筋であると物心ついた時から言い聞かせられていた巴柄は、幼いながらに"そう云ったモノ"と理解していた。しかし、刀剣男子達は違った。

 戦にこんな幼子を駆り出さねばならないほどに、戦況が危ういのかと勘違いした心優しい刀剣の九十九神達は──それはもう必死に任務をこなした。この幼い主を一刻も早く両親の元に帰さなければと。

 そして、戦のせいで両親と離され、同年代の友達も持てず、学舎にも行けない主の未来を考えて、作法や勉学や軍略を教え込んだのである。

 

 ──将は言葉少なく寡黙でなければならん。言葉多ければ、余計な言質を与えかねんからな。なに、間が持たなければ茶を飲めば良い。

 ──将なれば、雅を知り理解しなければならないよ。野蛮で粗野な者と軽んじられてしまうからね。

 ──将足らんとするならば、山籠りの一つもできなければな。これも、修行である。

 ──将を名乗るなら、酒が呑めなくっちゃねぇ~ なに大丈夫さ。酒精の無い甘酒を舐めてりゃ充分てもんさ。

 

 等々の英才教育の結果。戦争が終わる頃には──

 雅を解し、軍略と政略に詳しくて、お茶と酒を嗜み。言葉数が壊滅的に少なく、修験者さながらの山行を苦もなくやり遂げて、祭り好きで、剣術や槍術等も身に付けている。等々のよくわからない女の子が出来上がっていた。

 戦争が終わり、漸く一息付けた時の政府と両親はそれはもう慌てた。後方の本丸で後方支援が主な任務だった巴柄が、歴史修正主義者から絶対に護りきってくれると信じて預けた九十九神達の手によって、本当によくわからない摩訶不思議系女子になっていたのだから。

 戦後処理と云うデスマーチの中で、再教育と云うリハビリを行い、なんとか属性過多女子に成ったのが今の巴柄なのだった。

 そんな事情を説明しきったつもりの巴柄は、涙をうっすらと目に溜めなから、??? を浮かべているソーナに「傷つけたみたいでごめんね」と謝る。周りが全く理解していないのを理解せずに。

「今度、お茶を馳走するよ。美味しいお茶菓子もつけるから......それで、許してくれない?」

 ソーナが泣いた理由がよくわからないなりに、傷付けた事を謝罪して償おうとする巴柄の言葉に、ピクリとソーナが反応し、リアスは目を大きく見開く。

 友達とのお茶会。それは、超箱入り娘のソーナとリアスにとって友情を確認し育む重要イベント。そのお茶会に誘われた。

『つまり、私と巴柄は──知人でも、後輩先輩の間柄でもなく、友達! それも、お茶会に誘ってくれるほどの! 親しい友人関係!! これはもう、親友になりたいと云う事なのでは!?』

 絶望が一転して希望になり、匙や巴柄の事情とかで頭が愉快な事になり始めたソーナを、リアスが「良かったわね。ソーナ」と祝福する。

「リアスもお茶飲む? お茶菓子も美味しいのあるし」

 リアスが"お茶会に呼ばれた事"を"良かった"と言ったと思った巴柄は、深い考えも無くそう言ったが、リアスは"ソーナだけではなく、自分も親しい友人だと思われている"と受け取ってしまう。

「リアス......良かったですね」

 ソーナとジャネットに次ぐ友達に感極まり、巴柄の不可思議な事情と白音の告白で頭が愉快に成りつつあるリアスが、コクコクと言葉無く頷いた。

 その光景に、朱乃がにこやかに「良かったですわね。二人とも」と言いながら、その表情の裏でニヤリと嗤う。

『巴柄さんのお茶会は、茶の湯ですけど、二人は作法を知っているのかしらね?』

 リアスとソーナが涙目になってオロオロする光景を見逃さない為に、「私も参加して良いかしら?」と巴柄に問い掛けた朱乃は、その思惑を知らない巴柄にあっさりと許可を貰い、心の中で両腕でガッツポーズを取る。

 

「はい、そこ。もう理解したと思って良いのかしら?」

 白音の「現魔王の妹だから眷属になるんであって、リアスに魅力があるから眷属に成るとかじゃないから。そこんとこ間違えないように」発言からの展開に流されていたリアスとソーナが、バッと勢い良くレイナーレの方を向く。

「待ってください。他に何か方法は無いのですか?」

 巴柄のお友達発言とお茶会の誘いに、意識を持っていかれていたソーナが、慌ててレイナーレに食い下がる。

「全部似たようなモノよ。確実性が高いのは"ソロモン王の指輪"ね。アレは聖書の神の"生命と魂に関する権能"を封じたモノだから、かの指輪が有ればなんとかできるかもしれないわ。もっとも、それも何処に在るのかもわからないのが実情ね」

 神器の基本機能過剰使用の問題。それに対して努力を積み重ね続けたグリゴリの一員として、レイナーレが断言する。

「私達にできる事は、匙君が時の勇者としての使命を十全に果たせる様に協力する事だけよ」

 ソレを回避したいソーナ。ソーナに協力したいリアスが、その言葉に苦い顔をした。

「では、神々の協力を得られないでしょうか? 戦神や闘神と呼ばれる方々の助力があれば、匙君が命を消費せずに──」

 朱乃が言葉を言い切る前にレイナーレが言葉を挟む。

「現在は、世界の脅威と呼ばれる存在は異界に封印されているわ。文字通りに、世界の総力戦を行える」

 そもそも、相手は単騎で全勢力を相手取り、その全てを滅ぼせる規格外。その上に配下の軍勢は無限湧きするのだ。

「闘える神々─闘戦勝仏やロキ神。キングウ神にアレス神。様々な神やその配下。様々な勢力から戦力は出るわ。でも、時の勇者はその戦いで命を使い果たすのよ」

 不条理には不条理を。理不尽には理不尽を。

 そして、規格外には規格外をぶつけるのが一番被害が少ない。

 神代の時代、時の勇者に成った何処にでも居る普通の少年が、魔王と云う事象に成ったガノンを打ち倒したその時から、時の勇者は世界の脅威に対するカウンターとなってしまった。

 代を重ねる毎に、受け継がれて行く膨大で濃密な経験と記憶。それらが、時の勇者を更なる規格外へと押し上げ続ける。

 文字通り、無限に成長を続ける世界の守護者(超兵器)。それが、時の勇者に対する世界の認識。

「彼──時の勇者をその運命から解放する方法。そんな都合の良いモノなんて、無いのよ」

 何の対価も必要としないご都合主義。都合の良い方法なんて存在しない。足掻き続け、誰よりも、ソレを渇望するからこそ、レイナーレ(堕天使)は断言した。

 

 有無を言わさない強い言葉に、リアスとソーナが押し黙ったその時、関係者──裏の事情を知る者だけが開けられるように仕掛けが施された生徒会室の扉がゆっくりと開く。

「すいません。遅くなりました」

 その言葉と共に入室した匙が、目についたダッシュボードの内容に僅かに呆れながら、後ろ手に扉を閉じる。

「マスターソードが発現した事、気にしなくて良いですよ。逆に感謝してますし」

 歴代の時の勇者が、マスターソードを手にした時は全てが手遅れの状態に成ってから。故郷を焼かれ、家族や友人を殺され、何もかも失ってから初めて神器"マスターソード"が発現した。

 匙だけなのだ。匙だけが何も失っていない状態で、マスターソードを手にした。

 何よりも、ガノンを始めとした"世界の脅威"が目覚めていない為、その脅威に備える時間を得た。それはつまり、世界の脅威による被害を嘗て無い程にゼロに近付けるチャンス。

 その幸運を無駄にしたくない匙は、何か言いたげにしているソーナとリアスを無視する。

「レイナーレさん。相手お願いします」

 時の勇者として、一秒でも早く成熟したい匙の言葉に、何かを言おうと口を開こうとしたソーナよりも先にレイナーレが頷く。

「取り敢えず、匙君が今どれぐらいできるのか確認するのが先決ね。訓練プランはその後に組みましょう」

 言葉を探しているソーナとリアスを無視したレイナーレは、匙を連れて生徒会室を出ようとして、少しだけリアス達の方に顔を向ける。

「兵藤君が来たら、昨日と同じ場所に来るように伝えてちょうだい」

 一緒に去ろうとしている匙に、何かを言おうとしたリアスとソーナを強い視線で黙らせたレイナーレは、言外に「余計な事を言うな」とだけ告げて、生徒会室を後にした。

 




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