転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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色々ありすぎて覚悟完了したサイラオーグと後にロリコンキングと呼ばれるはめになる弟の話


遺志を継ぐ者と意思を継ぐ者

 簡素なベッドと机。そして、所狭しと並べられた棚に書籍がぎっしりと詰められた部屋で、マグダラン・バアルは椅子に腰掛け、目の前の机に拡げた書籍をノートに自分なりの解釈を付け足しながら筆を走らせていたが、目が疲れたのか手を止めると眉間を揉み解し、ふ~と息を吐き出した。

「マグダラン。入るぞ」

 返事を一切待たずに、菓子と飲み物が乗った盆を片手に持って入って来たサイラオーグに、マグダランは何度言っても無作法が治らない兄に対して小さな溜め息を付く。

「兄さん......頼むから、ノックして返事を聞くぐらいしてくれ......貴族以前の最低限のマナーを、いい加減身に付けてくれ」

 仕事が忙しすぎて職場から全く帰って来ない父親に、当主仕事の練習として、居城を含めたバアル領全ての管理運営を丸投げされているマグダランは、腹違いの兄を軽く睨み付ける。

「そんな顔をするな。まぁ......俺が継承権剥奪されたせいで植物学者の夢を諦めるはめになり、その上で様々な迷惑をかけている俺を疎ましく思うのは仕方がないだろうが……」

 今まで両者が避けていた事を口にした兄に、広げていた書物とノートを机の隅に除けていたマグダランは、見当違いの言葉に思わず苦笑してしまう。

「勘違いしないでくれ。先の大戦で悪魔の総人口は危機的レベルに減ってしまい有能な人材が枯渇している現状では、結局――僕は植物学者には成れなかった。バアル家の英才教育を受けた者を学者として使うだけの余裕はないのだから」

 いつの間にか、次期当主に相応しい自分なりの振る舞いや言葉遣いを模索し心掛け始めた弟に、サイラオーグは自分にはできそうに無いなと考えながら、片手に持っている盆を静かに机の上に置くと、二つあるコップの一つを手に取りマグダランに差し出す。

「それに、お爺様の様に後進に譲った後に、植物学者を目指せば良いだけだしね」

 差し出されたコップを受け取りながら一度言葉を切ったマグダランは、「知っての通り、物心付く前から読み聞かせの教育とか受けてたし、勉強は得意だから」と言葉を続け、勘違いをしているサイラオーグに微笑む。

「そうか、そう言って貰えると俺も助かる」

 残っていたもう一つのコップを手に取り、サイラオーグは安堵の笑みを浮かる。

「それで? 兄さんの方は? 仕事にかまけて自分達親子の危機に姿を現さずに助けも守ろうともしなかった父親。雄三郎――人間と懇意にし信頼したと云うだけの理由で継承権剥奪した祖父。そうなると分かっていながら、自分達に親切顔で近付き人間の都合の良いように利用しようとした雄三郎。そして、こうなると知りながら放置した僕と母さん……許せるの?」

 揶揄う様な試す様な口調の弟の言葉を、サイラオーグは一言「くだらん」と両断する。

「お前が言った通り、人材の枯渇が深刻なのは既に知っている。優秀な役人は三日に四時間の睡眠時間。父の様に優秀で使い勝手の良い人材は七日に六時間の睡眠。確か……"永眠すればずっと寝れる"だったか? かなり有名な標語らしいな。冥界の悪魔と云う種族の為に、そこまで頑張っている者に家庭の事まで目を光らせろなどと言えんよ」

 そこまで言い切ると、サイラオーグはコップに口を付け喉を潤す。

「祖父と雄三郎。そして、お前にしてもそうだ。確かに、俺と母を誰も助けようとしなかった。だが、考えてみれば当たり前なんだ。あの時の俺は次期当主と云う立場だった。俺は次期当主として雄三郎の思惑を見抜かねばならなかった」

 サイラオーグは手に持っていたコップを机の上に置き、真っ直ぐにマグダランを見据える。

「その為の教育はバアル家で施されていた。物心付く前からの教育――母が嫌う行き過ぎた歪んだ教育に、真面目に取り組んでいたならお前の様に気付けたんだ」

 視野の狭すぎた子供の頃を恥じるように、サイラオーグは拳を握り、その拳に視線を落とす。

「俺と母を人間の為に利用しようとした雄三郎は、幾度と無くヒントをくれていた。"結局は自分の為"だと"悪魔と人間の価値観は違う"と悪魔にとって大事な魔力を"下らない" 様々なヒントを貰っていながら俺も母も気付けなかった」

 己が拳を見つめながらそう言い切ったサイラオーグは、視線を腹違いの弟――マグダランに向ける。

「あの方……お前の母親は、雄三郎からお前を守るのに必死で、俺や俺の母の事まで気が廻らなった――と日記に書いてあった」

 サイラオーグのその言葉に、今まで笑みを浮かべながら黙って聞いていたマグダランが固まる。

「えっ? は? うぇ? 日記? えっ? 日記??」

 突然の爆弾発言にマグダランは妙な声を発してしまう。

「ああ、日記だ。内容としては、父に対するノロケが7割。祖父ゼクラムに対する愚痴が1割。お前の事が1割。俺と母ミスラの事が1割だった」

 訊きたくもなかった割合に、マグダランは「親父が7割で俺は1割かよ!? つーか兄貴! 何勝手に人の母親の日記読んでんだよ!?」と叫ぶ。

 その叫びに、サイラオーグは眉を顰めた。

「マグダラン。次期当主として、そんな乱暴な言葉を使うな。品性が問われかねないぞ?」

 兄として、次期当主足らんとする弟に、サイラオーグは苦言を口にするがマグダランは更に声を荒げる。

「誰のせいだ! いや、そんな事より、人の日記盗み見た事を恥じろよ!?」

 弟の全うな言葉に、サイラオーグは僅かに首を傾げ怪訝そうな表情を浮かべる。

「まっつて? マジで待って? 「えっ、何言ってんのこいつ?」みたいな表情すんの? 俺が可笑しいみたいな顔すんなよ!?」

 完全に地が出始めたマグダランの額に、サイラオーグが手を伸ばし熱を測ろうとすると、マグダランがその伸ばされた手を叩き落とした。

「無言で熱測ろうとすんな! どう考えても可笑しいのはあんただろう!? だから「何言ってるの分からない」みたいな顔をすんじゃねーよ!」

 熱を測ろうと伸ばした手を叩き落とされたサイラオーグの表情を的確に表現したマグダランは、肩で息をしながらゼェゼェと荒い息を整える。

 そんな弟の様子にサイラオーグは、マグダランが何故こうも怒鳴るのか理解できたのか、ああ、成る程。と言わんばかりに小さく頷く。

「安心しろ。俺が日記を読んだのは、祖父と父にお前の母親。俺の母そして雄三郎だけだ。マグダランの日記は読んでいない」

 サイラオーグの――兄の言葉に、マグダランの体がピッシリと固まる。

「は? じい様と親父とミスラさんと俺の母さんと雄三郎? いや、えっ、まっつて、え? じい様と親父の日記? ミスラさんの日記? いや、それより雄三郎の日記? えっ? マジでナニしてんの??」

 突然の暴露に混乱しているマグダランをそのままに、サイラオーグは言葉を口にする。

「ああ――俺の母も、お前の母親と書いてる内容の割合に違いは無かったから安心しろ。恐らく母親とは、妻とはそう云った者なのだろう」

 マグダランの一割ショックを和らげる為に、自分も同じだったと微笑みながら告げるサイラオーグに、「いや、ちげーよ? 一割の部分じゃなくて、兄貴が人の日記を見るような奴だったのがショックなだけだからな!?」と、マグダランが検討違いで的外れな言葉を否定する。

「次期当主のお前にこれを渡しておこう、必ず役立つ筈だ」

 話の流れをガン無視したサイラオーグは、ウエストバッグから三冊の書物を取り出し、マグダランの目の前に置く。

「これは祖父と父と雄三郎の日記を書き写した物だ」

 余りの言葉にマグダランは固まる。

「これは本当に為に成るぞ。隠居するまで悪魔陣営の外交と政治を担って来た漢の日記と、その教えを受け継ぎ現役で戦っている漢の日記だ。そして、葉隠棟梁として人間を護って来た漢の日記。どれも価千金以上の価値がある」

 極めて真面目な表情でそう言い切った兄に、マグダランは本気で頭を抱えた。

「そりゃあさ、すんげぇ貴重な書物だし、確かに役立つだろうし、嬉しいけどさぁ......人の日記を盗み見た上に写本作るてどうなんだよ」

 未だ頭を抱えているマグダランを他所に、サイラオーグは弟であるマグダランすら見た事の無い真剣な表情を浮かべる。

「現在、人口が危機的な状態であり、人間の言葉を借りると"産めよ増やせよ冥界に満ちよ"な現状をなんとかする妙案が浮かんでな」

 サイラオーグの言葉に、マグダランは姿勢を正し、真っ直ぐに兄を見て続きの言葉を待つ。

「そして、俺の夢であり目標である。他種族との共存と、力無き者も努力次第では上を目指せる社会を実現させる布石となる妙案だ」

 雄三郎によって当主継承権を失ったにも関わらず、未だ他種族との共存を目指している兄に、マグダランは小さく溜め息を付いた。

「今の悪魔に有能な者を遊ばせてる余裕なんか無いから、身分等は考慮外とし、見込みの有る者を見つけ出し適切な教育を施して政府側で抱え込もうと云う動きが有る......兄さんが関与出来る様に父さんに口聞こうか?」

 マグダランのその言葉に、サイラオーグは首を横に振る。

「いや、まともな政治の知識を持たない俺では的外れな意見しか出せまい。俺はあくまでも草の根レベルの活動に止まるべきだろう。それに、上がどんなに優れた政策を打ち出し実行したとしても、下の者逹の意識が変わらなければ効果が薄い」

 自分の能力以上の活動をして、台無しにするつもりがないサイラオーグは、マグダランに自分の活動レベルを告げる。

「なるほどね。共存の方も草の根活動をするつもりなんだ?」

 マグダランの言葉に、サイラオーグは確りと頷き、ウエストポーチから折り畳まれた数枚の書類をマグダランに手渡す。

「これは様々な神話の、英知を持つ神々に共存について話を聞き、俺なりに考えを纏めたモノだ」

 受け取った書類を広げようとしていたマグダランの手が、兄の発した聞き捨てならない単語に止まる。

「英知を持つ神々?? 話聞いた? えっ? 神々、話??」

 その単語の意味を思い出したマグダランの「それ、親父やじい様知ってんの?」と言う問いに、サイラオーグが「俺が内密に進めた事だ。冥界を出る時の目的記載にも観光と書いたしな」と答えた瞬間、マグダランが吠えた。

「なにやってんだあんたは!? 只でさえやらかしまくって立場悪いのに! 勝手に動いて借り作って来んなよ!? 最近じゃ、悪魔の駒関連の法を破るバカ共のせいで更に関係悪化して、外務大臣のカテレア様が濁りきった目で「悪魔なんて滅びれば良いと思うの」なんて言ってんだぞ!? 謝れ! 濁りきった目で関係改善に尽力してるカテレア様と部下逹に謝れよぉぉぉ!!」

 それは、まさに、魂の吼咆だった。いずれ自分がああなると理解している男の魂の叫び。

「あの方達は質問程度を貸しなどとは思わんぞ? それに礼を失する様な事をしてはいない。ちゃんと冥界産の銘菓とお茶を手土産として渡している」

 魂の叫びを軽く流し、礼儀は尽くしてきたと語る兄に、弟は色んな意味で哭きそうになる。

「いきなり共存を模索しようとしても、祖父ゼクラムと葉隠四郎の様子に失敗するのは祖父の日記を読んで理解している。模索以前に、悪魔側のやらかしで関係は最悪に近い」

 一度言葉を区切り、何故か泣き出しそうな弟に首を少し傾げながら言葉を続ける。

「ならば......共存を模索する為に、全ての悪魔が愚かではないと知ってもらう必要がある。俺達悪魔も他の種族を知る必要がある。互いを知り漸く共存の為の互いの種の損得――落し所を模索する事ができる」

 そう語ったサイラオーグに、マグダランは目の前の兄が本気で他種族との共存を目指している事を実感し理解する。

「それで、この書類にその方法が書いてあると?」

 折り畳まれた書類を広げながらそう言ったマグダランの目に、"お見合いパーティー"と書かれた文字が飛び込み、二度三度と瞬きをしたマグダランは、やっぱり"お見合いパーティー"の文字に目を瞑り、俯いてこめかみを揉み解すが、そんな弟の様子・心境など知った事かとばかりにサイラオーグは追撃を放つ。

「悪魔の寿命は一万年だと言われている。その寿命全てを共存の為に使い切ったとしても、俺の代では成し遂げる事は不可能だろう。その程度の難事ならば祖父と葉隠四郎が成し遂げていただろうからな」

 その言葉に"お見合いパーティー"の文字に戸惑っていたマグダランが顔を上げ、サイラオーグを見た。

「まるで、人間みたいな事を言うね。次世代に望みを託すなんてさ。もしかして、その為のお見合いパーティー?」

 寿命が短いからこそ、望みを使命を次の代に託して逝く人間の様な事を言い出した兄に、『これも雄三郎の影響なんだろうな』と思いながら、もしかしたら、結婚したら、兄も少しは落ち着くのではないのかとマグダランは僅かに期待してしまう。

「他種族の良い所は可能な限り取り入れるべきだ。それと今回俺は運営側でな。お見合いに参加できん。それに、俺の後に続くのは俺の子でなくとも構わんだろう?」

 ゼクラムや雄三郎の事があって、無駄に前向きになった兄に頭痛を覚えながら、マグダランは放り投げたい書類に目を通す。

「神々に、現状での共存は不可能と言われた俺は考えた。互いの理解度が足りなければ……深い関係――恋人・夫婦と成り理解を深めれば良いと」

 思考が斜め上にカッ飛んだ結論に、突っ込みに疲れたマグダランはその言葉を聞き流す。

「無論。当人達の周りの応援が無ければ、悲恋や悲哀に終わるのは歴史が証明している。場合によっては、周りが悲劇の原因だったりするほどだ。だからこそ、お見合いなんだ。当人達と周りが望んだお見合いならば、悲しい結末になる可能性は低くなるからな」

 頑張って頭痛と戦いながら、一枚目を読み終わったマグダランは、一応まともな事が書いてあるお見合いパーティーの概要――サイラオーグの言葉をより詳しく書いた内容が想像よりまともな事に安堵の息を吐いた。

「うん。まぁ、うん。兄さんの言いたい事は分かった。分りたくないけど分かった。それで、僕に運営を手伝えと?」

 諦めの心境にあったマグダランの言葉を、サイラオーグは否定する。

「そちらの方は、ギリシャの大地の女神や古代メソポタミアの金星の女神達の協力で間に合っている。マグダランには参加者として顔を出して欲しい。いきなり本番ではなく、何度か予行練習をしたくてな。忌憚の無い意見を頼む」

 余りにも不穏な女神と云う単語を必死で流したマグダランは、二枚目と三枚目に書かれている参加者の名前と年齢、プロフィールに凍り付く。

「別に頭数合わせ位なら構わないけどさ......何で参加者の年齢が下は四歳で上が七歳なんだ? この卑弥呼の直系とか藤原の傍流とかナニ? しかも、参加男性が俺だけ? え? 何考えてるの?」

 マグダランの戸惑いに、サイラオーグはゆっくりと頷く。

「お見合い運営の実績作りだ。初めての試みだからな。問題は少ない方が対処しやすい。そして、お見合い参加者の彼女達は忌み子だ......下らん理由で俺以上の苦しみを背負っている。言ってしまえば親心なのだろう。後が辛くなろうとも、虐げられない時間があって欲しいと云うな」

 その言葉を聞いたマグダランは目を瞑り、深い溜め息を吐く。

「分ったよ。後を継ぐまではまだ時間があるし、これも経験だろうしね」

 目を瞑っていたが故に、マグダランは気付かなかった。兄・サイラオーグが"掛かったな"と言わんばかりの笑みを浮かべていた事に。

 

 

 お見合いパーティーの予行練習に参加したマグダランは語る。「ただ。子供達と戯れる時間はリフレッシュになった。機会があればまた参加したい」と。

 

 マグダランは知らなかった。

 自分の様に"そうあれかし"と育てられながらも、「お前は万一の為のスペアだ」 「お前は本物の為に死ぬ影に過ぎない」 「生きる価値が無いのだから、せいぜい役に立って死ね」等と、言われ教え込まれ続けた幼い少女逹にとって、一緒に遊んで話して我儘を困った様に聞いてくれる――異種族とは云え、優しい年上の男性がどんな存在に見え思えたかをマグダランは知らなかった。

 

 ましてや、既に日本陣営とゼクラムや現魔王サーゼクス等に話が通してあり、「悪魔の駒で此方の陣営にするなら問題無し。子供沢山作ってね?」 「所属陣営をハッキリさせて、不利益を生み出さないなら問題無し。後幸せにしろとは言わんが泣かせんなよ?」と、両陣営の話し合いが既に終了している事をマグダランは知らなかった。

 

 そして、数年後、嵌められた事に気付いたマグダランに、サイラオーグは笑みを浮かべながらこう言った。

「だから言っただろう? 他種族の良い所は取り入れると」




因みに現役時代のゼクラムは被害担当役や苦労人と呼ばれており、以降、バアル家=被害担当役・苦労人ポジが確定してる模様

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