転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

8 / 25
それは、最新の大英雄の英雄譚


バカな女(TS転生者)と大馬鹿者

 私は転生者。前世の記憶なんて朧気でチートなんて持っていない極々普通の人間で、転生した世界は前世と余り変わらない現代で、前世と余り変わらない極々普通の生活を満喫している。

 美人でも美女でも美少女でもない、でも少しちょとだけ気持ち可愛かな? 程度の容姿。

 そんな私には、赤ん坊の頃からの付き合いの男の子が居る。

 私と同じ普通の男の子だったのに、何時の間にか小学生にして中二病を患っていた。

 小さい頃に私が読んであげたヘラクレスの伝説が大好きな男の子が、いきなり自分はヘラクレス魂を受け継いでいるんだ! と訳の分からない自慢をしてきた時は、「ヘラクレスの魂は星に成ったの知ってるでしょ?」と突っ込みを入れる私に、ぐぬぬぬ。と唸りながら考えてハッと思いついたように、「星になった時に零れ落ちた欠片とか残滓とかそんな感じのやつだなきっと!」なんて言うから、冷静に「それが何か役に立つの? 小学校の勉強は私が教えないと全然わからないのに? 駆けっこもドベなのに? それ、何かの役に立つの?」と質問をすると、「役に立つとか立たないとじゃないだろ!? カッコいいだろ! すげぇだろ!」と吠え始めた男の子に、「女の子の私に追い駆けっこで負ける大英雄てカッコ悪くない? せめて私に追い駆けっこで勝ってから言ったら?」と追撃をかけた私に「うっせぇ! 男女! スカートで木登りしてパンツ丸出しにする奴に言われたくねーよ!!」と吐き捨て走って逃げ去る男の子に余裕で追いつきボコった私は、きっと悪くない。

 私達が中学生になって高校受験について真剣に考える必要が出てきた頃には、幼馴染の男の子は私が見上げないといけないぐらい背が高くなり、何と言うか……筋肉ダルマになっていた。

 あれから、毎日毎日筋トレをしていたのは知っているし、お腹を空かせた彼に栄養バランスを考えた弁当を毎回毎回作っていたのは私だけど、まさか周りがドン引きするぐらいの高身長の筋肉ダルマになるなんて思いもしなかったのだ。

 そして、そんな筋肉ダルマの彼が私の側に居るから、彼氏どころか良い感じの雰囲気の男友達も居ないのだ。

 小学生の頃とは違い、女らしく可憐にソコソコの見た目に成長したのに、筋肉ダルマが私の側を一向に離れないから、一緒に下らない悪戯をして怒られる悪友としか云い様の無い男友達しかいないのだ。

 学校の屋上に備え付けられているベンチに腰掛けて、私の丹精込めた手作り弁当をコレぽっちも味わおうとはせずに、ひたすら掻き込み続ける彼にそう言うと、食べる手を止めた彼が暫くジッと私を見つめると大きな溜息を一つ吐き、「絶対に俺のせいじゃねぇよ。日頃の行いだ、日頃の」と宣ったので、「日頃の行いならとっくの昔に素敵な彼氏の一つでもできてるわよ。器量よし見た目ソコソコで勉強もできて運動神経抜群。私に非が有る訳ないじゃない」と正論を論じた私に、彼は真顔になり「いじめやってる奴の股間に手を伸ばして金玉握って、「なんだ、玉も竿も付いてるじゃん。いじめなんてカッコ悪い事してるから玉無し竿無しかと思ったw」なんて言う奴が何を言ってんだ?」とほざいた彼の頭を全力でハタいたが、平然としていて、「ほんとの事だろ」なんて言いながら弁当を掻き込む作業を再開した彼を私は恨めしい目で見ながら、

 朧げに何となく、前世は男で、小学生ぐらいまでは前世の性別に引っ張られてたのに今じゃ完全に乙女思考だよ。この鈍感筋肉ダルマバカ。好きでも無い奴の為に毎日毎日弁当を作る奴なんて居ないといい加減気付け! 等と考えながら――なんとなくずっと一緒に居て、私の手料理を彼が掻き込むように食べて、何時の間にか結婚して彼の子供を産んで育てて、そんな未来が待っている。私はそんな幸せな未来を夢見ていた。

 でも、どうしようもない程にバカな私は、そんな幸せな日常を自分で壊した。幸せな未来を自分で台無しにした。いつの間にか乙女思考になる程に惹かれて、彼になら抱かれて子供を産んでもいいか。と思えるほどに好きな彼を傷付け悲しませてしまった。

 知っていた私は、ちゃんと考えて理解すべきだったのだ。脳みそまで筋肉で私が居ないとテスト処か通常の勉強に付いていけない程にバカな彼は、ただの一度も、私に嘘を吐いた事が無い事を。たった一回も私を裏切らずに傷付けなかった事実を、私は受け止めて理解するべきだったのだ。

 それができなかった私は罪を犯した。どんなに後悔し懺悔しても、どうする事もできない罪を犯した。

 私の魂は冥府へと運ばれ、冥府の神ハーデス様の裁きを待った。一年か二年どれぐらいの時間を待ったか分からないけど、裁かれる順番が廻ってきた私は、ハーデス様の前に立つ。

 でも、私は裁かれなかった。その代わりにハーデス様から聞いたのは彼がやろうとしている事だった。

 それは、あまりにも無茶苦茶で無謀な行い。必死に彼を止めて欲しいと願い乞う私に、ハーデス様は「死者が生者に関与する事は許されない」そう告げ、私を冥府の最奥に閉じ込めた。

 そこで私は罰を受けている。彼が十二の試練に挑み傷つき倒れその度に立ち上がり挑む。何度も何度もその光景を見せつけられる。私が何度も彼に辞めるように叫び懇願しても、その声が彼に届く事は無い。

 彼が、大英雄ヘラクレスと対峙し嬉しそうな笑みを浮かべている。子供の頃から憧れた大英雄と会えて戦える事が嬉しいのだろう。せめて、この戦いだけは私を忘れて、自分の為だけに戦って欲しいと、私は浅ましくも思ってしまう。

 そして、戦いが純粋な殴り合い――男の意地の張り合いが始まった。それは余りにも理不尽な力の差だった。同じく十二の試練を乗り越えた者同士の戦いなのに、ヘラクレスの一撃は彼の体に確実にダメージを負わせ傷付け、彼の一撃はヘラクレスの体を僅かにも傷付けられない。

 何度も殴られ傷付きグラつく体を奮い立たせ彼は戦う。絶望的な差を「それがどうした!」とばかりに、殴られる度に殴り返し続ける。

 そして、彼の力を振り絞った一撃が、ヘラクレスの顎を打ち抜き、たたらを踏み僅かに下がった顔面を殴りつけ、彼は星の大英雄ヘラクレスに勝利した。

 

 ああ、私はなんて醜くて浅ましいんだろう。彼の目的を知っているのに、その先に幸せなんて無いのに、それでもと願ってしまう。

 私を冥府の最奥から助け出して欲しい。私を地上へと連れ帰って欲しい。私をずっと貴方の側に居させて欲しい。

 彼の事を考えるなら、思い留まって欲しいと願わなくてはいけないのに、私はどうしてもそう思い願ってしまった。

 

 

 

 

 

 俺には、赤ん坊の頃からの付き合いの変わった幼馴染が居た。

 幼稚園ぐらいの頃に、「俺は前世の記憶があって、男だったんだぜ」なんて言い出すは、小学生の頃なんかスカートなのにでっかい木によじ登りパンツ丸出しにして、下に居る俺に早く登って来いと急かすぐらい男勝りの女の子だった。

 そいつは変な奴だったけど、運動神経が良くて子供の癖に誰に倣ったのか外国の日本語をペラペラ喋るぐらい頭の出来も良かったし、妙なカリスマみたいなモンも持っていて、誰でもすぐに友達になれた。そのうえ、見た目もスゲー可愛いときた。まぁ、中身が残念過ぎて……残念な子とか男女とか呼ばれてたし、俺もそう呼んでた。

 今思えば怪しい事この上ないが、旅の占い師とか名乗る不審者に、「お前はヘラクレスの魂を継いでいる」なんて言われて、ガキの頃の俺は、憧れの大英雄の魂を継いでる特別な存在なんだと有頂天になり、嬉々として幼馴染にソレを教えると「女の子の私に追い駆けっこで負ける大英雄てカッコ悪くない? せめて私に追い駆けっこで勝ってから言ったら?」等と言われたので、悪口言って逃げた俺は、きっと悪くない。

 普段。自分を男だったと言いながら、男のロマンを理解できないアイツが悪いんだ。もっとも、足の速いアイツにすぐに捕まりボコられたけどな。

 それが悔しくて体を鍛え始めたんだ。頭じゃ絶対にアイツに勝てないて分かってたし。

 体を鍛え始めてから、いつも腹を空かせてる俺の為にアイツが弁当を作ってくれるようになったんだ。それがスゲー旨くていつも味わおうと思っていても、つい掻き込むように食べちまった。

 そのおかげかどうか分かんねぇけど、背がどんどん伸びて、体つきもガッチリしたモノになった。アイツは筋肉ダルマなんて言ってたけどな。

 それから、アイツにバカにされながら勉強を教えて貰ったり、アイツの買い物の荷物持ちをさせられたりと、本当に色々あった。

 アイツに勉強教えて貰て同じ高校や大学になんとか滑り込んだり、たまに荷物持ちやらされて大量の荷物を持つはめになったりしながら、ずっと一緒で、大人になったら結婚して子供作って、そんな毎日が続いて、そんな未来が絶対に待ってるて俺は思っていた。

 そんな毎日を未来を、救いようのないバカな俺が台無しにしたんだ。

 神器(セイクリッド・ギア)がどんなものか知ろうとせず、理解しようともせず、使いこなそうとしなかった。

 俺に宿った神器は素晴らしいモノなんかじゃなくて、ただ誰かを傷付け殺すだけの、クソの役にも立たないとんでもなく危険なモノだと、俺はちゃんと理解するべきだったんだ。

 そんな事すら理解していなかった俺は、自分の事を天使だなんて言う女に神器の事と使い方を教えて貰って、また有頂天になってアイツに教えたんだ。言ったんだ。「俺は神器を宿して生まれた選ばれた存在だったんだ! ヘラクレスみたいに英雄になる運命の男なんだ」てさ、そうしたらアイツは「はいはい、イオナズン。イオナズン。あのさ、もうすぐ受験だよ? 中二歴の長いアンタに卒業しろ。なんて言わないけどさ、設定考えてる時間があるなら勉強して?」なんて言ったんだよ。

 まぁ、今ならアイツが言ってる事が正しいのが良く分かるんだ。でも、他の誰でも無いアイツの特別になりたかった俺は言い返しちまった「中二じゃえって! 巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)ていう名前で、殴った奴を爆破する神器なんだよ!」てさ。本当に――今思えばバカ丸出しだよな。アイツの言う通りに建築物の解体作業ぐらいしか使い道のねぇ……クソみたいな神器なのによぉ。

 やめときゃいいのに、アイツの特別にどうしても成りたかった俺は食い下がったんだ。「嘘じゃねぇ。本当なんだ」てな。

 んで、後は売り言葉に買い言葉て奴さ、アイツが「だったら、私に使ってみなさいよ」て言って、俺が「はっ、ケガしても泣くんじゃねぇぞ」て。

 ――言い訳にもならねぇけど、俺はアイツにケガさせるつもりなんて無かった。ほんのちょっと、ほんの少し、小さな小さな爆発を起こして、アイツを驚かせて「な? ほんとだっただろ」てドヤ顔するつもりだったんだ。

 それがどんな危険な事か理解してない俺は、アイツに拳をくっつけて神器を発動させて、アイツの上半身を吹き飛ばした。

 そんなつもりの無かった俺は、ただ唖然と立っている事しかできなかった。

 爆破音を聞いてやってきた大人達に、俺は全部話したんだ。神器を使って俺がアイツを殺したって。でもよ、誰も信じてくれなかった。当たり前だよな。人間が素手で人間を爆破したなんて誰も信じねーよ。

 もし、俺が神器を使ってソレを証明したら違ったんだろうが……俺はそれが出来なかった。怖かったんだよ。今度は誰を殺しちまうんだ? て。

 そして、俺は無罪放免。晴れて幼馴染を通り魔に爆殺された哀れな男て訳だ。ふざけた話だろ?

 んで、俺は暴れまわった。周りに八つ当たりをした。誰でもいいからクソみたいな俺をぶん殴ってくれ。そんな事考えながら手あたり次第喧嘩売って暴れた。

 そうやって暴れまわってると聖域から闘士がやって来たんだ。あの頃の俺は闘法とか知らなかったし、本当に弱くてな? あっと云う間に叩きのされたよ。その人がなんでこんな事したのか聞いてきたから全部話したんだ、惚れた女を自分で殺した。てさ、それからがスパルタだった。「惚れた女に済まないと思うなら、神器を完全に制御してみせろ」とか「自分の力を心を制御しろ。出来なければ同じ事を繰り返すぞ」て、何度も殴り飛ばされて空を飛んで、必死に神器の制御方法を身に着けて、闘法を見よう見まねで覚えたりな。

 その人から本当に色んな事を教わった。例えばギリシャで死んだ魂はハーデス神が治める冥府に行くとか、どんな偉業を成し遂げても死者の復活だけは絶対に叶わないとか、死者を冥府から連れ出すとオリンポスの神々とギリシャに名を刻んだ英雄達が殺しに来るとかさ。

「後は、知っての通りだ。女神ヘラに十二の試練を願って成し遂げて、大英雄ヘラクレスと戦って勝って」

 冥府の最奥にある堅牢な扉の前を護る死神ベンニーアに俺が笑みを浮かべて見せると、ベンニーアの顔がひきつりガタガタと震えだす。

「まぁ、なんだ。アイツを地上に連れ出そうとか思ってねーよ。俺は弱いからな」

 アイツが閉じ込められている扉が、すぐそこにある。

「なぁ、いい加減、気付けよ。長々と俺に話しをさせても、増援なんて来ないって」

 その言葉にベンニーアの顔色が一気に悪くなるが、そんな事は俺の知ったことじゃない。俺の用が有るのはそのクソッタレた堅牢な扉の奥だ。

「ハーデスの大将から聞いてんだろ? 俺がやろうとしてる事。だから安心してそこを退けよ」

 自分でも、どうしようも無い程に、心身が滾るのが嫌と言うほど分ってしまう。すぐそこに、アイツが居ると思えば思う程に滾ってしまう。

「今の俺じゃ……オリンポスの神々相手に戦争ができない。歴史に名を刻んだ英雄達――ヘラクレス率いる英雄の軍勢に勝てねぇ」

 俺は弱い。手心を加えて貰わなければヘラクレスに勝てないほどに弱い。でも、ベンニーア。お前よりは強いんだ。だから、早くそこを退けよ。俺にぶん殴られる前に。

「俺はアイツに会いたいだけなんだよ。会って謝って、告白して、あわよくばok貰って、アイツの初めて貰って、アイツを完全に俺のモノにして、約束する。それだけなんだからよ――とっとと、そこを退けよ。三下」




 最新の大英雄よ
 オリンポスの神々に打ち勝て
 ギリシャに名を刻んだ英雄の軍勢を打ち滅ぼせ
 さすれば、冥府の神の名の下に
 お前の願いを、必ず叶えよう

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。