転生者達のせいで原作が完全崩壊した世界で   作:tiwaz8312

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 とある転生者達の思い付き
「上級悪魔どころか下級悪魔にボコられるエクソシスト弱すぎww 聖人・聖女なのに心弱すぎwww」
「いや、全然笑えないんですがそれは。おかげで悪魔達が暴れ放題だよ」
「悪魔は人の強い意志と心に弱いってゲームと漫画と小説が言ってた」
「「それだ!」」

その結果
「なぁ、お前――竜だろ? 竜なんだろ? 首置いてけよ……首置いてけよ……なぁ――首置いてけぇぇ」グルグルおめめ
「愛とは尊く素晴らしいモノ――ソレを阻むと云うならば……たとえ主であろうともこの拳で打ち砕くのみ」グルグルおめめ
「主よ――暫し目を瞑り耳をおふさぎください……具体的にはこの悪魔を拳で改心させるまで」グルグルおめめ

これはその後の時代の話


とある悪魔の絶望と人間の狂気

 フランスのとある郊外の外れ、その雑木林の中、ディオドラ・アスタロトは必死に走り逃げていた。

「くそ、僕か何したって言うんだ? 人間界で悪さなんて一度もしてないだろ!? 冥界と人間の取り決めだって破った事無いだろ!?」

 必死に逃げながら、無言で追い掛けてくるエクソシストに怒鳴り付けるが、何も反応が無い事にディオドラは小さく舌打ちをする。

「悪魔だって観光ぐらいして良いだろう!? ちゃんと決まり守って大人しくしてるんだ! 人の歴史に触れるぐらい見逃せよ!!」

 何とか反応を引き出して打開策を見出だしたいディオドラは、走りながらエクソシストに怒鳴り付けるが、ただ追い立てられるだけで何の反応も――攻撃すらしてこない事である仮説が現実味を帯びて来た事に絶望し、膝の力が抜け落ちそうになりながらも「そんな筈がない……そんな事あってたまるかっ」と、必死に自分に言い聞かせ、奮い立たせながら走り続ける。

 このままでは、絶対に近付かないと決めた。半ば朽ちた教会に辿り着いてしまうと、頭に叩き込んだ地図を頼りに別の方向に逃げようとした瞬間、ディオドラの頬を退魔の力を持った光弾が掠めた。

 まるで、道を反れるなと云わんばかりの攻撃に、ディオドラは意を決して立ち止まる。

 林の中で追われているにも係わらず、棒立ちに成ったディオドラの足元に、複数の光弾が撃ち込まれ、その頬と左肩を1発づつ光弾が掠める。しかし、自分の体を撃ち抜いた光弾が無い事でディオドラは自分の考えが正しい事を理解し絶望した。

 ディオドラが立ち尽くす場所から、真っ直ぐ行った先に在る、半ば朽ちた教会には――町での聞いた情報が正しければ、麗しく美しい聖女が一人で朽ちた教会の補修や布教活動等に従事している筈なのだ。それを知ったディオドラは強く思った『何があろうと絶対にそこには近付かない』と。

 ディオドラは、聖人・聖女を強く強く恐れていた。

 何故なら、聖人・聖女――特に聖女と呼ばれている存在は、世間一般的で言われている様な、儚く可憐でか弱く思わず護りたく為る様なそんな存在ではなく、凄まじい女"凄女"だと、ディオドラは誰よりも良く知っていたからだ。

 最初は、エクソシストに追われ逃げた先に有った教会で、傷だらけディオドラを聖女が助けた処を襲撃者のエクソシストに見られてしまい、異端として追われる身となった聖女を、冥界に連れ帰ったのが始まりだった。

 連れ帰った聖女を眷属にしようかと思ったが、"何かこいつヤバイ"と直感が働き、何処かの勢力に亡命させようと模索している間に、何故か、聖女は念の為に隠していた悪魔の駒を、どうやってか自分で使い、転生悪魔となっていた。しかも、ディオドラの眷属として。

 どうやって、どうして、自分の眷属として転生悪魔に成ったのか問い詰めたディオドラに、聖女は「此れは神が与えた試練なのです」と、誰もが見惚れるであろう可憐な笑顔でそう言ったのだ――グルグルとした目で。

 そこからディオドラの苦難は始まった。

 今は亡き祖母の影響で歴史好きと成ったディオドラは、次期当主しての勉学に励みながら時間を作っては冥界や人間界の遺跡等を訪れて、当時の生活に思いを馳せたり、これと云って特徴の無い町や村を訪れ、その何気無い歴史に感動したりと悪魔の生を満喫していた。

 そんな生活が、聖女が転生悪魔と成ってから激変する。

 観光に訪れた地で、自分を殺しうる力を持ったエクソシストに追い駆け廻され、ボロボロに成った処を聖女に救われて、異端として追われる事に成った聖女を冥界に連れ帰り、そして、聖女はディオドラの眷属として悪魔に転生する。

 転生悪魔と成った聖女達は逞しかった。教会が無いと知れば、自分達で資材を近くの森林から調達し教会を建て、自分が苦しむと分かっていながら、聖書の神に毎日祈りや聖歌を捧げ、アスタロト領の悪魔逹に聖書の教えを説く。どんなに苦しく辛くなろうとも、ディオドラが「頼むからもう止めてくれ」と懇願しようが、堪忍袋の緒が切れたディオドラが、力ずくで押さえ付け凌辱の限りを尽くしても、聖女達はグルグルした目と可憐な笑みで「これも神が与えてくださった試練なのですね」と嬉しそうに恍惚とした艶を含んだ声色でそう囁くのだ。

 そんな凄女達がすでに十五人も眷属となってしまっているディオドラは、なんとしても絶対に、これ以上増やしてたまるかと決意していた。

 例え、現魔王サーゼクス・ルシファーから直々に五十個の悪魔の駒と共に「君には本当に期待しているんだ」と言葉を戴いていたとしても、何が何でも絶対に増やしてたまるかと決意していた。

 そんな決意が今まさに砕け様としていた。冥界に逃げようとしても何故か発動しない魔方陣。どう足掻いても勝てないと理解させられてしまう程の実力差を持つエクソシスト。そして、なりよりも近くの教会に居る凄女。

 それら全てが、ディオドラの希望を奪い去り、絶望をこれでもかと押し付けてくる。

「何か、もう良いかな? うん。もう良いよね?」

 誰に問い掛ける訳でもなく、色々と疲れ果てたディオドラは、迫ってくるエクソシストを棒立ちのまま待ち受ける。

「どうした? 逃げないのか? それとも滅ぼされる覚悟でもできたか?」

 追い付いた体格の良い大柄な白髪の男の言葉に、ディオドラは疲れきった薄い笑みを浮かべる。

「そうだね......もう、良いかなって」

 その絶望と悲しみに彩られた表情に、白髪の男は僅かに動揺したが、すぐに平静を取り戻し、手に持つ光銃をディオドラに突き付けた。

「ほう。漸く観念したか――と言いたいところだが......そうか、気付いてしまったか。気付かぬ方が幸せだっただろうに」

 光銃を降ろし、憐みの籠った視線をディオドラに向けた白髪の男、エクソシストは真っ直ぐに聖女の居る教会の方を指さす。

「さぁ、行きたまえ。かの教会で君のフィアンセが待っている」

 慈悲に満ちた声に、ディオドラが吠えた。

「フィアンセてなんだよ!? あの教会に居るのはどうせ目がグルグルした凄女だろう!! 大体、なんで教会のエクソシストが同じ陣営の凄女を悪魔に引き渡す真似をするんだよ?」

 吠えたディオドラに、エクソシストは「ああ、なるほど全てに気付いた訳ではないのか」と呟き、倒すべき悪魔の前でどこまで話すべきかと考え込んでしまった。

 目の前で敵が沈黙し隙を晒しているにも関わらず、ディオドラは攻撃どころか逃げようともせずに、エクソシストの言葉を待った。攻撃しようが逃げに徹しようが、実力の差からしてどちらも無駄だと悟ったからこそ、せめて真相だけは知りたいと思ったからだ。

「ふむ。攻撃も逃げもしないか……どうせ私がある程度とは云え詳しい話を知っている程度のモノだ。良かろう。私が知る限りの事を話してやろう」

 ディアドラに逃げる意思が無いと判断し、逃げても結果は何も変わらない事を知っているエクソシストは、武器である光銃と光剣を収め、ディアドラを見据え言葉を紡ぐ。

「まず、君が最初に妻にした聖女サラは、チベットのダライ・マラ法王を邪教徒と呼び改宗を迫った。慈悲深い方故に大きな問題に成らなかったが......通常なら大きな宗教問題に発展している」

 ディオドラは"最初の妻"を否定しようとしたが、いきなりの有り得ない言葉に唖然としてしまう。

「二番目の妻、聖女マリーナは中国国家主席に国教にするよう直談判した。あの時は教会に激震が走ったよ......」

 その言葉に、ディオドラの膝から力が抜け落ちそうになる。

「三番目の妻、聖女香織はイスラム教を邪教と口にし、それぞれの宗派のトップに改宗を迫ろうと計画していた。未然に防げたから良かったが......もし実行されていたら宗教戦争が勃発していただろう」

 無慈悲な追い撃ちに、ディオドラはついに崩れ落ちる。

 次々に語られる元聖女で自分の眷属達の計十五に及ぶやらかし又はやらかそうとした事に、両手両膝を地面に付けたディオドラは、余りのやらかし具合に打ち震えながら「なんで……なんで、そんなヤバいのが僕の眷属になってんだよ」と震えた声で呟く。

「我々とて、この様な事を実行するのは不本意なのだ。しかし、拘束し再教育を施そうとしても再教育係が彼女達の思想に染まってしまう」

 聖女のやらかしを語り終えたエクソシストは言う。我々も頑張ったのだと。

「彼女達の情熱・信仰心・献身は間違いなく本物なのだ。そう――我々の手に負えないと理解し、天界を頼り、ミカエル様にお任せした次の日に、ミカエル様が「申し訳ありません。再教育は無理です。いえ、それよりもどう教育したらこうなるのですか?」と申されてしまう程に」

 ディオドラは哭いた。自分が悪魔でもそんなヤバいのを押し付けられる云われはない筈だと。

 そんなディオドラに、憐みを覚えながらもエクソシストは言葉を続ける。

「その次に頼ったのは堕天使だった。しかし、「神器の研究とバカな身内の処理に忙しいのに面倒事押し付けるな」と至極真っ当な言葉に、断念せざる得なかった」

 その言葉に、ディオドラが顔を上げ「だったら、悪魔にそんなヤバい奴を押し付けんなよ! 僕だって迷惑なんだっっ!!」と叫ぶが、エクソシストは小さく息を吐くと憐みの籠った視線でディオドラを見下ろす。

「君は不思議に思わないかね? 何故、教会側がこうも正確に悪魔である君の行動を把握しているのか。冥界で教会を建て聖書の教えを布教しても、どうして問題にならないのか……君は本当に疑問に思わなかったのかね?」

 必死に自分を誤魔化し騙していたディオドラは、その言葉に現実を突き付けられてしまう。

「本当は理解している筈だ。分っている筈だ」

 エクソシストが告げる言葉を――現実を否定するために、「黙れ! 黙れよっっ! あってたまるかっ! そんな事あってたまるかよっっ!!」必死にディオドラは叫ぶ。そんな現実は存在しないと。

「彼女達の扱いに困った我々に、悪魔カテレア・レヴィアタンが囁いたのだ。「扱いに困るなら、悪魔に引き渡し冥界に閉じ込めたら良い」と、それはまさに悪魔の囁きだった」

 一度言葉を区切ったエクソシストが言葉を続ける。

「聖書の教えにおいて、正しい彼女達を処分する事ができない我々は、カテレア・レヴィアタンの提案に乗るしかなかった」

 酷過ぎる現実に虚ろな目になったディオドラに、非道な現実をエクソシストが突きつける。

「様々な話し合いの末。教会は、危険と判断した聖女を悪魔に引き渡す。悪魔は、聖女を冥界に監禁し、種族の繁栄に使い、その信仰を妨げない。と云う協定が結ばれた」

 エクソシストは言外に告げる。お前は冥界と教会の人柱・生贄になったのだと。

「この先に居る。君の新たなフィアンセである聖女ジルは……日本の天皇に改宗を迫ろうとしたが故に、教会は君に引き渡す事にした。早く迎えに行きたまえ」

 生贄としての役目を果たせと言うエクソシストの言葉に、ディオドラはヨロヨロと立ち上がり、頭をよぎった疑問を口にする。

「待てよ……可笑しいだろ? なんで悪魔と敵対する教会が悪魔の繁栄に力を貸すんだよ? お前達からしたら悪魔は滅んだ方が良いんじゃないのかよ?」

 悪魔としては当たり前の疑問を、エクソシストは鼻で嗤う。

「君は――本当に次期アスタロトかね? 決まっているだろう? 君達悪魔が必要悪だからだ」

 その言葉に、ディオドラは初めてエクソシストの眼を見た。見てしまった。

「そう……悪魔が人を誘惑し堕落させる。我々がソレを阻止し救い護る。そうする事によって、偉大なる主の教えが正しい事が証明されるのだ」

 その平静な眼の奥でランランと輝き燃え上がる狂気に、ディオドラは言葉を失い恐怖した。

「主の御心が、お言葉が、教えが、その全てが正しいと証明する為に、君達悪魔がどうしても必要なのだよ。ああ、倒されるべき悪である事を嘆く必要はない。その哀れな在り様すら、主は認め受け入れ愛していらっしゃるのだから。安心して子を儲け、数を増やすと良い――我々が君達を殺そう。我々が君達を滅ぼそう。慈悲深く偉大なる主の御心と教えの下に、その御心と教えの為に、君達が増えた分だけ必ず殺し滅ぼそう。聖女でありながら悪魔と成った堕落した聖女達も同様だ。何故なら彼女達は君達悪魔を――倒すべき滅ぼすべき悪を、自ら悪魔となってでも、神の聖名の下にお教えの下に救わんとする者達なのだから。無論殺すとも滅ぼすとも、それこそが――主の御心であり教えであり慈悲なのだから」

 淡々と自分にとっての真理を語るエクソシストの言葉に、ディオドラは言葉を口にできずに、ガタガタと震える。

「さあ、理解したなら、フィアンセを新たな妻を迎えに行きたまえ。ああ、彼女達を哀れと思うなら間違いだ」

 恐怖に震えるディオドラは、目の前の人間が理解できなかった。理解したくなかった。しかし、それでも、人を知り人の歴史を識るディオドラは、一つだけ気付いてしまった。目の前の人間は正気なのだと云う事に、正気を保ち正常のまま狂っている事に気付いてしまった。

「何故なら、彼女達は知っているからだ。自分達の考え思想が現代に則わず、争いの種になってしまう事を。そうと分かりながらも信仰深さ故に、自らを必死に抑え様とも、周りに合わせる事ができない事を彼女達は知っている。だからこそ、彼女達は自らその身を君に捧げ、神の聖名において君達悪魔を救わんとしているのだ」

 口が動いたならディオドラは"ふざけるな"と"なんなんだよ! それは!"と"お前ら頭おかしいよ!"そう叫んでいただろう。しかし、何も言えなかった。有り得ない程の狂気を前に身動ぎ一つ取る事ができなかった。

「さぁ、往くがいい。君のフィアンセが待っている。そして、悪魔の危機を救いたまえ。それこそが悪魔の為であり、聖女達の為であり、我々教会の為である」

 その言葉に押される様に操られたか如く、恐怖に体を震わせながら、ディオドラはフラフラと聖女が待っている教会を目指し歩きだす。

 

 しばらく歩いた先に在る、朽ちた教会にディオドラは辿り着いてしまう。

 優しさに満ちた可憐な笑みを浮かべながら、ディオドラの到着を待っていた聖女ジルは、虚ろな目で教会に辿り着くと同時に崩れ落ちたディオドラの様子に慌てて駆け寄り、エクソシストによって付けられた傷の治療を甲斐甲斐しく始める。

「ディオドラ様。傷の治療が終わりましたら、私を貴方様の眷属にしてくださいね?」

 聖女で在りながら悪魔の自分を様付けで呼び、まるで恋人の様に親しく接するジルに、ディオドラは絶望しか感じなかった。

「なぁ、僕を追い回してたエクソシストが言ってたんだ。転生悪魔に成ったお前達も殺すて、それで良いのかよ」

 無駄だと理解しながらも、自ら転生悪魔に成ろうとするジルにそう告げるが、ディオドラの言葉にジルは不思議そうに首を傾げる。

「彼はエクソシストです。悪魔を討ち世を護るのが使命。如何なる思い使命を持って悪魔に成ろうとも、それが悪魔であるのなら――彼等にとって討ち滅ぼすべき邪悪なのです」

 優しく言い聞かせるように、そう言い切ったジルの微笑みに一切の陰りはなく、むしろ何故そんな当り前の事を聞くのだろう? と小さく可愛らしく首を傾げていた。

「はは、なんだよそれ……狂ってるよ。お前ら」

 ディオドラの言葉を聞いたジルは、一瞬キョトンとした後に、クスクスと笑いだしてしまう。

「いいえ、違いますよ。狂っているのは――この世界です」

 誰もが見惚れる笑みを浮かべながら、聖女ジルは迷い無くそう言い切った。




なお、グルグルおめめの聖人・聖女・シスター・神父・宣教師・エクソシストが、神代から中世終わりまで、全世界に大量にバラまかれた模様

やっぱり、転生者は害悪

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