人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ   作:いにまに

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Arcadiaに投稿していた小説の、加筆修正版です。
内容はほとんど変わっていないので、あしからず。


第01話 人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ

「おい、なのは! 起きろっ! 目ぇ開けろっ!」

「ヴィータ…ちゃん…」

 横たわる私の顔に、彼女から冷たい…、ううん、暖かい水滴がポタポタと降り注ぐ。

「待ってろよ、今すぐ助けが来るからな。 それまで勝手にくたばるんじゃねぇぞ」

「わ、わた…し…は…」

 どうしたんだろう? 呂律が回らない。 話すのがすごくだるい。

「おい! 救護班はどうした! さっさとこっちに来やがれ! こんちきしょー!」

 ヴィータちゃんがすごい剣幕で怒鳴ってる。 救護班が…どうかしたの?

「なのは! 絶対助けてやるからな! だから死ぬんじゃねぇぞ!」

 死ぬ? …ああ、そうか、私…撃墜…されたんだった…。

 横目に見える残骸…、たしか敵性ガジェット…、ははっ、よかった…逃がさずに…倒せてた…。

「ヴィ…タ…ちゃ…」

「なのは!? 今は喋るな! 救護班! さっさと来いっつってんだ!」

 ヴィータちゃん、そんなに怒鳴っちゃダメだよ。 救護の人も忙しくて大変なんだよ。

「わ…た…」

「なのは! おい! なのは!」

 私も…今日はさすがに疲れたから…。 だからあとは…、みんなにまかせて…。

「ちょ…と…、や…す…」

 ちょっとだけ…、休むね…。

「なのは? おい、なのは? 冗談だろ? なぁ、起きろよ? 目ぇ開けろよ? その冗談、笑えねぇよ。 笑えねぇ…笑えねぇっつってんだ! 起きろっ! 私が呼んでんだ! 返事しろっ! なのは! なのは! なのはーーーーーっ!!!」

 

「ヴィータちゃん、うるさいっ!」

 うつ伏せていた顔を勢いよく跳ね上げ、抗議の声を上げる。

 もう、せっかく人が気持ちよく寝ているのに、耳元でそんな大声で…って、あれっ?

 きょろきょろと辺りを見渡す。

 周りには、幼い顔つきの男女がずらりと居並んで、唖然とした顔でこっちを見てる。

 そして、すぐ隣の席に居る見知った顔の子は、絶望の表情を浮かべていた。

 その子が手に持つものはシャープペンシル。

 尖った方じゃなく、ノックする方についている犬の飾り物を私に突き出す形で固まっていた。

 

 うん、大体わかったの。

 授業中に寝てた私を起こそうとしてくれたんだよね、アリサちゃん。

 そして、寝ぼけて大声上げちゃったんだね、私。

 にゃははっ、すごく恥ずかしい状態だよね、今。

 でもね、アリサちゃん。 いくら私でも、これぐらいでキレたり暴れたりしないから、そんなに怖がらないでよ~。

 ちゃんと善意で起こしてくれたのはわかっているから。

 だから、“恥をかかせてしまった!? 私が起こしたせい!? 私、殺されちゃう!?”みたいなことを考えてそうな顔しないで~。

「あ、あの、高町さん? 高町さんが、ゆ、優秀なのはわかっていますけど、授業中は、ね、ね、寝ないで下さい…ね?」

 先生までビビらないで~! 普通に怒っていいから! 叱っていいから! 悪いの私だから! ちゃんと謝るから!

「ごめんなさい、先生」

 ざわ…ざわ…。

 頭を下げる意味でお辞儀したとたん、周りが静かに騒ぎ出した。

「きょ、今日は機嫌が良いのかな? あ、謝ってるし」

「さ、さすが高町さん。 先生に怒られても平然としてる」

「先生の顔を立ててるのかな? やっぱり高町さんて大人って感じで素敵…」

 も、もう、この評価にも慣れたの…。 諦めたの…。

「けっ! 魔王がいい子ぶりやがって」

 こ、ここ、この評価にも、慣れ…慣れ…慣れ…、慣れるかーっ!

 酷いこと言った男の子を、視線鋭く睨みつける。

 小さく呟いたから聞こえないと思っていたようだけど、しっかり私の耳に届いてたよ!

 ふふっ、目に見えて顔が青くなってるの。 次の休み時間、覚えておいてね。

 ニコッと笑ってあげたら、俯いて縮こまっちゃった。

 あ、そうだ。 アリサちゃんには怒ってないことを伝えて安心させてあげなきゃ。

 だからアリサちゃんには、慈愛の気持ちをたっぷりと込めた笑顔を向けてあげた。

 

 …アリサちゃんも、さっきの男の子のようになっちゃった。

 

 なんでよ~!

 

 

 私、高町なのは9歳。

 聖祥大付属小学校の3年生。

 実は私、一度死んじゃってるの。

 死んで、生まれ変わって、2度目の人生を謳歌中。

 そう、謳歌中なの。

 死んだ私が生まれ変わった先は、また私。

 いわゆる強くてニューゲーム。

 知識もある。 魔法も使える。 紡がれていく歴史は記憶と一緒。

 だったら、良いように歴史を変えちゃおう。 今度は全部ハッピーエンドにしよう。

 そう思って頑張ってたの…。

 そう…、頑張ったのに…、頑張っていろいろ良い方向に進んでたのに…。

 

 

 さて、午前の授業が終わって、今はお昼休み。

 校舎の屋上で、いつもの三人でお弁当中です。

 

「なのはちゃん、さっきのすごい傑作だったよ」

「にゃははっ、すずかちゃん。 ちょっと寝ぼけちゃった」

「あの絶望に染まった武田君の顔とアリサちゃんの姿、ビデオに残しておきたかったなぁ」

「…そっち…なんだ…」

 ごめん、本当はわかってたよ。 すずかちゃんとはもう長い付き合いだもんね。

「そ、それより、アリサちゃん。 私、本当に怒ってないから。 だから、ね。 ほら、そんな暗い顔しないで。 ちゃんとお弁当食べよ。 ね?」

 さっきからお箸を持ったまま、微動だにせずにお弁当を眺めてるだけのアリサちゃん。

 いや、お弁当すら見えてないかも。

「なのはさん…。 ほ、本当に怒ってません?」

「本当、本当。 それに、ほら。 アリサちゃんは私を下の名前で呼んでくれる友達じゃない。 友達をあんなことぐらいで怒ったりしないよ」

「そうよ、アリサちゃん。 なのはちゃんも昔と違って、今じゃすっかり丸くなったんだから」

 ブッ!

 思わず噴き出す。

 それに合わせて、アリサちゃんが怯えるようにビクッっと跳ねたのがちょっと悲しい。

「ちょっ、ちょっと、すずかちゃん! そんな人を元不良みたいに~っ!」

「不良はともかく、手が早かったのは確かだと思うけど~?」

「うっ、それは…、そうだったかも…」

「そ、そうですね。 あの気持ち悪かった変態体育教師を殴り倒したのは、いまでも語り草ですし…」

「ア、アリサちゃんまで~」

 私が情けない声で返すと、ようやくアリサちゃんの顔に笑みが戻ってきた。

 うん、やっぱり私たち3人は友達だよね。

 アリサちゃんだけ敬語で“さん”付けだけど、それでも友達だと思う。 友達だと思いたい!

 ここまで持ってくるの、本当に大変だったんだからっ!

 

 私のこと、なのはって下の名前で呼んでくれるのは、今はすずかちゃんとアリサちゃんだけ。

 クラスのみんなは“高町さん”と、必ず苗字で“さん”付けで、“高町ちゃん”とすら呼んでくれない。

 成績優秀(二回目だもん)、スポーツ万能(魔法で肉体強化)、リーダー気質(精神年齢12+8歳)のせいで、もうすっかり姉御扱いなの…。

 でも、そう慕われる反面、それが気に入らない子も何人かいるみたいで、その子たちからは、また別の名前で呼ばれてたりするの。

 あだ名っていうか、ほとんど悪口みたいなものなんだけど、なんだと思う?

 

 答えは『魔王』

 

 酷いと思わない!? 女の子に対して魔王だよ! 魔王!

 魔女とか女王じゃなくて、魔王!

 女って漢字すら入ってないんだよ!

 またそれを面と向かってじゃなくて、こそこそと影で言ってるのがムカつくの!

 フーッ! フーッ!

 

 …とりあえず、今はそれは置いとくの。

 それより今はすずかちゃんとアリサちゃん、二人との出会いの話を進めていくの。

 

 まず、すずかちゃんから。

 すずかちゃんとの間柄は、前…、死んじゃった前の人生のことね、…前と同じで、小さい頃からの幼馴染。

 すずかちゃんのお姉さんと私のお兄ちゃんが恋人同士で、その二人から、同い年だし友達になれるんじゃないかと引き合わせてくれたのが最初かな。

 ちなみに、義姉さんとお兄ちゃんはこの度めでたくゴールイン。

 それもあって、すずかちゃんとはもうほとんど従姉妹みたいな感じなの。

 だから、すずかちゃんとは一番の仲良し。

 …までは前回と同じなんだけど…、すずかちゃんの性格がその…、前と違うっていうか、弾けちゃってるっていうか…。

 実は私ね、親しい人には魔法を使えることを明け透けにしちゃってるんだ。

 だから、すずかちゃんにもそのことを教えたんだけど…。

 そのお返しが、吸血鬼だってことのカミングアウトって何!?

 牙とか見せられて、本当にビックリしたよ!

 前のすずかちゃんも吸血鬼だったのかな? 今からじゃ確かめようがないけど。

 何にしても、それ以来すずかちゃんからどこか遠慮しているような雰囲気が消えて、お義姉さんよりもはっちゃけた性格に…。

 それに、だんだんとサドめいて…。

 

 つ、次、アリサちゃん!

 アリサちゃんとの出会いは、前のときと同じ…、そう…同じ…同じなのに…、同じだったのに…、ううぅ…。

 …えっとね、アリサちゃんが意地悪して、すずかちゃんのカチューシャを取り上げたところまでは同じなの。

 前のすずかちゃんなら、ここでおろおろしてるだけだったんだけど、今のすずかちゃんは一味も二味も違ってた。

 カチューシャを持ったアリサちゃんの腕をすかさず掴み返すと、にっこり微笑みながら一言。

「返してね?」

 吸血鬼って力が強いんだね。

 アリサちゃんがどれだけ暴れても、すずかちゃんはビクともしてなかったし。

 でね、この頃のアリサちゃんは子供でわがままでお転婆だったから、癇癪を起こして、すずかちゃんの手に噛み付こうとしてきたの。

 慌てて私がアリサちゃんの肩を掴んで止めたけどね。

 魔法で強化した力で。

 そしてアリサちゃんに向かって、私もにっこりと一言。

「乱暴はダメだよ」

 掴まれた腕と肩を振り解こうと、必死にもがくアリサちゃん。

 それを仁王立ちのまま、平然と掴み続ける私とすずかちゃん。

 今思うと、すごく異様な状況だよね、これ。

 それにクラスメイトの見る目が変わったのは、この日からのような気がする。

 …と、とにかく、その時はアリサちゃんが泣き出して終わったんだけど、どうもそれがものすごく悔しかったみたい。

 次の日から、どんどん突っかかってくるようになっちゃって。

 あの頃のアリサちゃんは、本当に子供でわがままでお転婆だったなぁ。

 全然歯が立たないからって、執事の鮫島さん連れてきて、私たちをやっつけろなんて言う始末だし。

 まあ、鮫島さんは出来た人だから、逆に私たちとアリサちゃんの仲を取り持とうと立ち回る結果になったけどね。

 でも、それがますますアリサちゃんを意固地にさせちゃって、ついには家のボディーガードの中から素行の悪い人たちを連れてきて、私たちに襲い掛からせてきたの。

 

 うん。 もちろん返り討ち♪

 

 いくら雇い主の命令だからって、本当に襲ってくるなっていうの!

 血だるまにしちゃったけど、ロリコンは死ねっ!

 でもね、ちょっとやり過ぎちゃったみたいで、一部始終を見ていたアリサちゃんが、かなり酷い恐慌状態に陥っちゃってた。

 ま、まあ、仕方ないよね。 指に絡みついた返り血を舐め取るすずかちゃんは、私もちょっと怖かったし、あれ見たら漏らしちゃっても…。

 …と、とにかく、そんな酷い状態のアリサちゃんを落ち着かせようと、すずかちゃんと二人で必死に“怒ってないよ”と宥め賺して、その後に“もうこんなことしちゃダメだよ”と懇々と諭したんだけど…。

 今思うと、これが一番の失敗だったのかなぁ。

 

 怒ってない → 許してもらえた → 命の恩人!

 叱られた → 叱るのは目上の人 → 逆らっちゃいけない人!

 

 こう考えたかどうかはわからないけど、この時にアリサちゃんの中で“私たち >>> アリサちゃん”の図式が出来上がっちゃったみたい。

 おかげで次の日のアリサちゃんの第一声がこれ。

 

「なのは様! すずか様! おはようございます!」

 

 思わずorz

 それに、行動が舎弟っていうか、子分っていうか、パシリ? アリサちゃん、自分からその立ち位置にまわってきて…。

 

 でもっ! でもっ!

 これのおかげでアリサちゃんと話す機会がいっぱい増えたから、ゆっくり親睦を深めていって、…ようやく、本当にようやく「なのはさん、すずかさん」まで回復できたの。

 前みたいに呼び捨ては難しいかもしれないけど、絶対「なのはちゃん、すずかちゃん」と呼び合う仲にまで戻してみせるの!

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