人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ   作:いにまに

10 / 12
第10話 親子

「あ、あの…、お母さん…。 少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「あら、なのは。 それは構わないけど…、それよりレイジングハートのこと、ちゃんとユーノ君に謝ったの?」

「う、うん。 それはもちろん、ちゃんと謝ったの! ユーノ君にも、レイジングハートにも、ちゃんとごめんなさいって…」

「そう。 なら、お母さんからは言うことはないわ。 それで、聞きたい事って何?」

「あのね、フェイトちゃんって友達がいるんだけど…」

 

 娘のなのはから相談されたこと。

 それは悲しくて寂しい親子の話…。

 この儚い二人の関係に、愛情を取り戻してあげたい。

 母親に娘を慈しむ心を…。 娘に母親の暖かさを…。

 

 まだまだやんちゃでお転婆な子供だと思っていたけど、いつのまにか人のことを思いやれるほど成長してたのね。

 うん! まかせておきなさい!

 この桃子、伊達に高町家の母親やってないわよ。 ふふふ…。

 

 

「あ、なのは。 いらっしゃい」

「こんにちわ、フェイトちゃん。 あの…、プレシアさんの様子…、どう?」

「小娘がまた来たの? 人形に用なら、別の部屋でしてちょうだい。 誰かのおかげで、私は非常に体調が悪いから」

 

 娘の魔法でやって来たところは、どこかうら寂しげな感じのする庭園。

 そして、犬のような耳と尻尾を付けた女性に案内され、通された寝室。

 そこに居たのは、ベッドで横になっている中年の女性と、その側にたたずむ少女。

 

 ベッドの女性が母親のプレシアさんで、こっちの女の子がフェイトちゃんね。

 うーん、プレシアさんの方はかなり剣呑な雰囲気だわ。

 まあ、娘のしでかしたことを考えると、仕方ないかしら。

 

「はじめまして、プレシアさん、フェイトちゃん。 娘のなのはが大変ご迷惑をお掛けしたみたいで」

「なのは? この人、なのはのお母さん?」

「うん、そうだよ」

「…すごい。 私の母さんと違って、ものすごく若いんだ」

 

 あらら…、この子、無邪気っていうか、素直っていうか…。

 後ろでお母さん、青筋浮かべてるわよ。

 

「小娘の親が何しにきたのか知らないけど、謝罪なら結構よ。 とっとと帰ってちょうだい」

「申し訳ないけど、そういう訳にもいかないの。 娘の情操教育のためにも、きちんとお詫びさせて頂きます」

 

 ちょっと強引だけど、意固地になってる人を相手には、これぐらいが一番。

 そしてお詫びの品だと言って、持ってきたケーキ箱を前に掲げる。

 

「はい、フェイトちゃん。 これ、うちのお店で作っているシュークリーム。 自慢じゃないけど、ものすごくおいしくて評判なのよ」

「ありがとう、おば…さん? おばさま? おばさまなんて言っていいのかな?」

「あらあら。 それじゃあ、桃子さんって呼んでくれるかしら?」

「うん。 ありがとう、桃子さん。 えへへ、名前で呼んだから、これで桃子さんもお友達だね」

「ふふ。 そうね、お友達ね」

 

 私の同意にはにかみながら、明るい笑顔を見せるフェイトちゃん。

 こんなに素直でいい子なのに…。

 プレシアさんに巣くう根は深そうね。

 

「それでね、フェイトちゃん。 実は紅茶も持ってきているの。 なのはに持たせているから、シュークリームと一緒に召し上がって」

「あ、フェイトちゃん。 オープンテラスみたいに、お庭で食べようよ。 アルフさんもついて来て」

「う、うん。 ほら、アルフも」

「しょうがないねぇ」

 

 うん。 ちゃんと打ち合わせ通りに連れ出してくれたわ。

 ふふ、 手を繋いで連れ立つ3人を見ていると、つい頬が緩んじゃう。

 満面の笑みを湛えるなのはと、はにかみながらも喜色のフェイトちゃん。 そして、呆れながらも微笑んでいるアルフさん。

 仲の良い友達との、ごく普通の光景…。

 そう、普通の…、とても普通で…、とっても子供らしくて…、とーっても当たり前な…。

 ううぅ…、、ようやく…、本当にようやく…、なのはにも普通のお友達が出来たのね…。

 怖れられもしない、敬語も使われない、陰口も叩かれない、皮肉られることもない、普通の女の子のお友達が…。

 ユーノ君という普通のボーイフレンドも現れたことだし…、もう…、もう士郎さんと一緒に悩まなくてもいいのね…。

 

「ちょ、ちょっと、何泣いてるのよ? 気持ち悪いわね」

「えっ?」

 

 いけない、いけない。 頬だけじゃなく、涙腺まで緩んじゃったわ。

 それよりも、今は当初の目的。

 この目の前にいる頑固な分からず屋さんを説得してあげないとね。

 娘のこれからを想うことも大事だけど、その娘から頼まれたことを軽んじちゃいけないわ。

 

 さて…。 OHANASHIを始めましょうか。 ふふふ…。

 

 

********************************************

 

 

 な、なんなのかしら? この女…。

 この私に、こんなにもプレッシャーを感じさせるなんて…。

 仮にも、ミッドチルダに大魔導師として名を轟かせた私が、こんな魔力の欠片もない女に…。

 ふん、流石はあの小娘の親というわけね。

 いいわ。 何しに来たかは知らないけど、相手してあげる。

 

 人形が連れてきた、あの小娘…。

 人形が「母さんって友達居なさそうだから紹介してあげる」と言って連れてきた小娘。

 私に人形を愛せとほざいた小娘!

 娘と認めろとほざきながら、魔法と拳を繰り出してきた小娘!!

 

 その恨み辛み、親のあなたにたっぷりと返してあげるわ!!!

 

 

「それで? 小娘と人形を外に追い出して、私と何を話したいのかしら? どうせ、お詫びなんて口実なんでしょ?」

「あら、わかっちゃいました? 実は娘に頼まれてるの。 あなたとお話しして欲しいって」

 

 あの小娘の頼み?

 どうせ、あの人形を娘と認めろとかいうんでしょ?

 戦闘中も、ずっとそればかり喚いてたし。

 ふん! 同じ親同士なら、説得できるとでも思ったのかしらね?

 

「なら、とっとと話しなさい。 どうせ時間の無駄でしょうけど」

「その前に、改めてごめんなさいね。 娘が乱暴してしまって」

「…まったくだわ。 どんな育てたかをしたのやら」

「あれでも本当は優しい子なんですよ。 小さい頃は、とても大人しくて聡明で…」

 

 嘘だっ!って、声を荒らげそうになったわ。

 …ただ、その後に呟いた「赤ん坊らしくないほどに」って言葉が気になって、タイミングを逃してしまったけど。

 

「そういえばプレシアさんのお子さんの小さい頃って、どんな感じだったのかしら?」

 

 ちっ…、鬱陶しい…。

 

「…あれは人形よ。 私の娘じゃないわ」

「クローン…、だったかしら? たしか、アリシアちゃんの」

「あの小娘、よく聞き覚えていたものね」

 

 小娘と言い争っているうちに、つい暴露してしまった覚えがある…。

 アリシアのことも、違法行為のことも…。

 

「そうよ。 あの人形はアリシアのクローン。 似ても似つかない出来損ない。 失敗作。 あれを見てるとイライラする…」

「アリシアちゃんは、あんな感じの子じゃなかったの?」

「全然違うわ」

 

 声を荒らげ、否定する。

 比較されるだけでも、ムカムカする。

 

「じゃあ、いたずらっ子で、わがままで、全然笑わない子だったのかしら?」

「ふざけないで! どうしてそうなるのよ! アリシアはよく笑う子で、とても賢くて、お淑やかな子よ!」

 

 そう、27年たった今でも、アリシアのことなら克明に思い出せる。

 忘れて堪るものですか!

 

「じゃあ、うちのなのはみたいな感じの子だったのね」

「どこがよっ! …あなたの目、腐ってるの?」

 

 あんな乱暴者で、頭の悪そうな子と一緒にしないで欲しいわ。

 

「あら、酷い言い草ね。 でも、あの子もよく笑うし、頭も良いのよ。 それに、家のお手伝いもいろいろやってくれて、意外と家庭的な性格なんですよ」

「…信じられないわ」

「もう、ホント失礼ね」

「もっと言ってあげる。 それは親馬鹿の色眼鏡よ」

「うーん、それは否定できないかも」

「…親子ともども馬鹿だわ」

「それぐらいがちょうどいいんですよ」

 

 あっけらかんとした相手の言葉に呆れて、会話が途切れる。

 それを見計らって小娘の親が、魔法瓶に入っていたお茶をカップに注いでいた。

 コポコポと小気味よい音とともに、安らぐような茶葉の香りが漂ってくる。

 そして静かに差し出されるカップ。

 落ち着いた空気に流されて、私はそれを素直に受けとり、口を付けた。

 

「おいしい…」

「ありがと。 実はこれ、なのはが入れた紅茶なんですよ。 あの子が聞いたら喜ぶわ」

「ぐっ…。 こ、声を張り上げて喉がいがらっぽかったから、ちょうど良かっただけよ」

「ふふふ。 そうね、しゃべりっぱなしでしたもんね」

「…なによ、その顔」

 

 向こうのしたり顔から目を逸らし、今度はわざと喉を鳴らして嚥下する。

 喉を潤しただけだと、強く主張するように。

 

 …ちっ。

 悔しいけど、美味しい。

 あの小娘の入れた紅茶がなんかが…。

 

「ここまでになるまで、大変だったんですよ。 最初の頃なんか、リーフの量も抽出時間も大雑把に計るものだから、苦いのやら、渋いのやら、酸っぱいのばかり出来て…」

「あの小娘なら、そっちの方が納得しやすいわ」

「でも、それでも頑張った結果が、先ほどのプレシアさんの感想ですよ」

「…ふん。 アリシアならこの程度の味、すぐに出せるわよ」

 

 そう、あの子は頑張り屋さんだったから、これぐらい。

 でも…、そういえば、初めてアリシアが入れてくれたお茶も…、酷かったわ…。

 渋みしかなくて吹き出しそうになったけど…、それでも全部飲み干して…。

 おいしかったと伝えながら頭を撫でてあげたら…、あの子はすごく喜んで…。

 ふふふ、そうね。 そして思い出したわ。 あの時のリニスの言葉…。

 

『それ、全部飲んだんですか? はぁ…、プレシアも大概親馬鹿ですね』

 

「そう…。 わたしも…、親馬鹿だったのね…」

 

 意図せずそんな言葉が、私の口から漏れた…。

 

 

********************************************

 

 

「そして、そこからいよいよチーフのデレ期が始まるんですね!」

「デレ期って…。 シャーリー、あなた変なマンガの読み過ぎよ」

 チーフに思いっきりため息つかれた。

 でも変なマンガって、フェイトさんから借りたマンガなんですけどぉ?

 

 

 軽く口を尖らせ、批難の目を向けた私こと、シャリオ・フィニーノ。

 機動六課の訓練シミュレーターのシステム更新で待ち時間が出来たので、チーフのプレシアさんとコーヒーを飲みながら休憩中。

 そして、二人っきりになれたその時を狙って、前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。

 ユーノさんの日記公開事件の折に聞いた、チーフがなのはさんのお母さんに説得されたという時の詳しい内容を…。

 

 

「じゃあ、その親馬鹿だって気付いた後も、まだツンだったんですか?」

「シャーリー…、後でOHANASHIしましょうか?」

「冗談です。 お話の方を、今、続けてください」

「そうねぇ、ツンとかデレとかそういうのはともかく、あの後は桃子といろいろ話したわね」

 

 そして、話してくれたいろいろの内容。

 一言で言えば、それは子供自慢大会。

 何歳の時に、立った! しゃべった! お手伝いした! とか、そんなこと。

 向こうが語れば、こちらは輪を掛けて語り返すといった感じで、時間を忘れてお互いしゃべり通した、と…。

 

「子供のことを話すのが、あんなに楽しいものだとは知らなかったわ」

「聞いてるこっちは辛いんですけど…」

「母親になれば共感出来るわよ」

 

 チーフの妙に勝ち誇った顔を、私は力なく睨み返す。

 掻い摘んで話してくれればいいのに、事細かに会話を再現しながら教えてくれるもんだから、もう…、なんというか…。

 自慢話を延々と聞かされるのは、苦行でしかありませんよ。

 しかし、こうしてしゃべりまくるチーフは、もうどこにでもいそうな、おば…、母親。

 目の前のこのおば…、人が、次元輸送船を強襲したって、想像できないなぁ。

 

「でも、アリシアの人生は短かったから、すぐに話すことが無くなってしまったの…」

 

 そういって、表情を曇らすチーフ。

 いえ、全然短くありません!

 私のコーヒー、アリシアさんの自慢話を聞かされている間に、もう3杯目です!

 

「話すことが無くなって…、アリシアが亡くなったときの事故のことしか思い浮かばなくなって…、そして言葉を詰まらせているときに、桃子に言われたの」

「な、なんて言われたんですか?」

 

 ようやく…、ようやく一番聞きたかった話にたどり着きました。

 話の核心に近づいたため、自然と身が乗り出してしまいます。

 さて、どんな高度なカウンセリングが…。

 

「泣きなさいって。 アリシアが亡くなったことを悲しんで、思いっきり泣きなさいって、ね」

「へっ?」

 

 それだけ?

 って、うわぁ。 チーフ、ものすごい慈愛に満ちた顔になってる。

 

「驚いた? でも、本当にそれだけよ。 そして、本当に大声をあげて泣いたわ」

「…えっと…」

「アリシアが亡くなったときにね…、実は私、泣いてないのよ」

 

 チーフが語り始める当時の胸中。

 アリシアが亡くなったことを、自分のせいにして…、人のせいにして…、何かのせいにして、それに縋り付いて…。

 大魔導師として…、天才科学者として…、生き返らせることだけを考えて、その手段だけを探し続けて…。

 だから何もせず、ただ泣くだけなんて…、ただ悲しむだけなんて…、そんなこと思い至らなかったと。

 

「いつしか死んでいることさえも信じられなくなっていたけど…、何故か思いっきり泣いた後だと、驚くほど素直にアリシアの死を受け止められたわ」

「はあ、そういうものなのでしょうか?」

「さぁ? でも、私はそうだったみたい」

 

 ちょっと不謹慎ですけど、なんかがっかりです。

 それだけの事だったなんて…。

 もっと、こう、フェイトさんに借りたマンガみたいな、熱い言葉を交わすクライマックスシーンみたいなのを想像してたのに…。

 

「…何を期待していたのか知らないけど、そんなあからさまに肩を落とさなくてもいいじゃない。 それに、話はまだ終わってないわよ」

「まだ何かあるんですか? チーフのデレ期への道はもうゴールしたのに?」

 

 ちょっと拗ね気味に言葉を返す。

 もう子供の自慢話はお腹いっぱいです。 コーヒーで物理的にも。

 

「あなたねぇ…。 まあ、いいわ。 それよりフェイトの事よ。 フェイトの」

「フェイトさんの? 何を?」

 

 やっぱり自慢話ですか?

 

「あの子への蟠りを拭ってくれたのも桃子よ。 もの凄く強引な論法でね」

「論法? 蟠り?」

「話、ちゃんと聞いてた? あの子のこと、人形なんて呼んでつんけんとした態度を取ってたって言ったでしょ?」

「あー、そういえば…」

「あなたから話が聞きたいって言ってきたのに。 失礼よ」

 

 いや、だって…、今のチーフとフェイトさん見てると、二人の冷え切った関係なんて想像できませんもん!

 

 

////////////////////////////////////////////

 

 

 そして各人のまとめ、っていうか落ち。

 

 シャリオの場合

 

「あ、居た居た。 母さん、シミュレーターの調整終わった? もう、時間過ぎてるよ?」

「こら、フェイト。 ここではチーフって呼びなさいって言ってるでしょ。 でも、あら、ホント。 ずいぶん長く話し込んじゃったわね」

 

 噂をすれば影…。

 フェイトさん、ナイスタイミングです。

 チーフの親馬鹿っぷりに辟易としてたところなので。

 これ幸いにと、ゆっくりと伸びをしながら席を立つ。

 ほんの小さく出てしまったおくびがコーヒー臭い…。

 

「あれ、シャーリー? 眼鏡変えた?」

「けふっ…。 ぅわっ…、あ、あーっと、うん。 ちょっとイメージ変えようと思って…。 ど、どうかな?」

 

 タイミング良く話しかけられたから、おくびを気取られたのかと思ってちょっと焦った。

 けど…、えへへ、おしゃれに気付いてくれたのが嬉しいな。

 子供っぽいデザインから、シックでクールなものへ。

 チーフの怜悧な雰囲気に憧れて…。

 

「うん、変。 あまり似合ってないね」

 

 ピシッ…。

 

「こ、こら、フェイト! そう聞かれたときは本音を隠して、ちゃんと褒めるようにって、いつも言ってるでしょ!」

 

 ビシッ…。

 チーフも変だと思ってたんだ…。

 道理で何も言ってくれないわけだよ…。

 

「えっ? あっ! ち、違うよ、シャーリー。 シャーリーはそんなおばさんっぽい眼鏡より、子供っぽい眼鏡の方が可愛らしくていいって言いたかったんだよ」

「お、おば…、子供…」

「そうね。 シャーリーは年齢の割に童顔だから、私もその方が良いと思うわ」

「ど、童顔…」

 

 うふ…、うふふふふっ…。

 こ、このっ、クローンレベル以上の似た者親娘めーっ! うわーん!

 

 

 プレシアの場合

 

 あの後、桃子とは旧来からの親友のようにおしゃべりを続けた。

 ふふ、こんなに楽しいのは久しぶりだわ。

 

「あ、あの、母さん? は、入っていいかな?」

 

 そうして話に花を咲かせていると、控えめなノックとともにフェイトがドアから顔を覗かせてきた。

 恐る恐るというより、おどおどとした様子に、罪悪感が後悔となって襲ってくる。

 こんなにも娘を怖がらせていたなんて…。

 本当に母親失格ね…。

 でも今からでも遅くないと、桃子は言ってくれた。

 

「ええ、構わないわ。 そばにいらっしゃいな、フェイト」

 

 だから微笑み、そして手招きする。

 抱きしめ、安心させるために…。 そして、慈しむために…。

 

「う…、うん!」

 

 すこし戸惑いを見せたけど、すぐに溢れんばかりの笑みを浮かべて駆け寄ってくるフェイト。

 私はそれを、ぎゅっと抱き寄せる。

 

 ああ、こんなにも簡単なことだったんだ。

 子供を愛するのに、難しい理屈や感情なんて必要なかった。

 ただ抱きしめるだけで良かったんだ。

 

 私の胸の中に顔を埋めるフェイトを見て、強く誓う。

 これからは母として、絶対あなたを護っていく。

 心も、身体も、あなたのすべてを護って…。

 

「母さん、ちょっと臭い…。 今日はちゃんとお風呂に入って」

 

 …その前に、教えることがあるようね。

 

 

 桃子の場合

 

「お母さん、プレシアさんとどんなお話してたの? 外まで笑い声が聞こえてたよ」

「あら、そんなに騒がしかった? 何を話してたかは、家に戻ってから教えてあげるわ」

 

 さっきまでドアのところで、アルフさんと一緒に大口開けて呆けいたなのは。

 フェイトちゃんがプレシアさんに抱きしめられたあたりで、ようやく我に返ったみたい。

 ちなみに、アルフさんはまだ呆けたまま。

 そんなに意外なのかしら? いまのプレシアさん。

 それより、フェイトちゃんって結構…、うーん…。

 今までほったらかしにしていた分、頑張ってね、プレシアさん。

 

「桃子、今日は本当にありがとう。 もっとゆっくりしていって貰いたいんだけど、ちょっとこれからこの子とお風呂でコミュニケーションとってくることにするから」

「ええ、ぜひそうしてあげて。 また遊びに来ますね。 次来るときは、いろいろ話題が増えていそうですし」

「ふふ、そうね、今から楽しみだわ。 その時に、また改めて御礼させてもうらうわね。 アルフ? こら、アルフ! ぼーっとしないの。 お客さんをちゃんとお送りしなさい」

「あっ、待って。 私もフェイトちゃんと一緒にお風呂入りたい。 プレシアさん、フェイトちゃん、お泊まりしちゃ、だめ?」

「だめよ、なのは。 今日は邪魔しないの。 それじゃ、プレシアさん、フェイトちゃん。 またね」

「うう、残念。 またね、フェイトちゃん、プレシアさん」

「うん、またね、なのは、桃子さん」

「今度は泊まりの予定で準備しておくわ。 またね、桃子、なのは。 じゃあ、アルフ、頼んだわよ」

「あ、ああ、わかったよ。 って、なんか調子狂うよ、これ。 まったく…」

 

 ふー。 これで、なんとかなのはの頼みを聞いてあげられたわね。

 なのはにも私にも新しい友達が出来て、これからがとても楽しみだわ。

 

 でも、その前に…。

 

「なのは。 ちょっとOHANASHIがあるの…。 いいかしら?」

「な、なに、お母…さん? …な、なんか寒気がするけど…」

「あなた、プレシアさんにすごーいことしたんですって?」

「え? えーっと、すごい事って、どんなことでしょう?」

「具体的には…、そうね、プレシアさんに拳で語ったんですって?」

「にゃ!? そ、それは、必要に迫られたと申しますか…、えっと、その…」

「私はそんな乱暴な子に育てた覚えはありません。 帰ったらじっくりOHANASHIしますからね」

「にゃーっ!!! それ絶対、お話じゃない気がするのーっ!!!」

 

 あら、ちゃんとOHANASHIよ。

 それじゃ、アルフさん。 家までお願いって、あれ、アルフさん?

 どうしたの? そんな隅っこで震えて?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。