人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ 作:いにまに
「エリオちゃん、はい、これ。 着替えや洗面用具はこのリュックに入ってるから。 あ、お財布とか貴重品はこっちのポシェットよ。 酔い止めのお薬とか絆創膏も入っているから、ちゃんと腰に巻いておくのよ。 あ、ほら、水筒もちゃんと肩に掛けて」
「エリオ。 車の用意が出来たぞ。 土産や他の荷物はもう積んである。 さあ、出発するぞ」
「あー! もう! 父さん! 母さん! いい加減にしてよ! もう子供じゃないんだから付いてこないで! 車もいいから!」
「何言ってるの。 お世話になってるんだから、ちゃんと挨拶に伺わないと先方に失礼でしょ。 常識のない親だと思われたら、エリオちゃんに恥をかかせちゃうじゃない」
「そうだぞ。 それに電車なんて危ない。 あんなに人混みに溢れてたら、スリにあったり、押し出されてレールに落ちたり、ましてや誘拐なんてことも…」
「いやー! 絶対ダメよ! そんなの許せないわ! 車よ! 絶対に車にしなさい! あなた! この車は安全なんでしょうね?」
「当然だ! 魔法は疎か、質量兵器、BC兵器からも完全防備の特別車だ。 乗り心地も保証するぞ」
だれか、この馬鹿親を何とかしてください。
◇
エリオ・モンディアル。
それが僕の名前。
僕は造られた存在…。 人工魔導師…。 クローン…。
造られてから、何も知らずに過ごした本のわずかな間の親子ごっこ…。
やがてやってきた怪しい奴らに、違法を出しに引き離され、連れ去られた…。
研究施設で強いられる過酷な人体実験…。
でも、それもすぐに終わりが来た。
助けられたんだ。
モンディアル家の財力を持って雇い入れた傭兵団…、を、引き連れた両親に!
いや、あの…、父さん? 母さん?
確か、リンカーコア持ってなかったよね?
父さん、その手に持ってるのは? 質量兵器ですか…、そうですか…。
その身体に巻き付けている弾帯? そんなの、物語の中でしか見たことないよ。
母さん、抱きしめてくれるのは嬉しいけど…、その…、タクティカルベストに入ってるシェルが当たって、ちょっと痛い…。
でも、そんな些細なことはすぐに追いやり、僕は母さんの腕の中で大いに泣きじゃくった。
◇
「クローン? それがどうした! そんなの、ただの細胞分裂技術じゃないか!」
「そうよ。 その細胞も、元を辿れば私とお父さんの愛の結晶に行き着くんだから、エリオも間違いなく私たちの子供よ」
「人工培養? 母のお腹の中だろうが、外だろうが、それが何だというのだ!」
「エリオ、あなたはお腹に子を宿すことの出来ない人に、それを理由に諦めなさいなんて言える?」
「記憶転写? はっはっはっ、双子なら同じ記憶を持っていて当然なんだそうだ。 なぁ、母さん」
「そう、双子なら常に一緒に同じように育てますもの。 だったら思い出も同じになるでしょ? だから、あなたたちは双子。 そしてあなたは、弟のエリオ」
「兄弟で名前が同じ? こりゃしまったな。 まあ、今まで問題なかったし、これからも問題ないだろう」
「ええ、問題ないわ。 いい名前なんですもの。 同じ名前でも仕方ないことだわ」
「戸籍? そんなもの、金とコネでどうとでもなる!」
「それにこれ全部、執務官の方に手引きしてもらったことだもの。 お上のお墨付きよ」
クローンをネタにされて僕を手放したのはずなのに、わざわざ助けに来てくれるほど心変わりした理由を問い詰めた結果がこれだよ。
変わりすぎだよ! はっちゃけすぎだよ! 我が道突っ走りすぎだよ!
でも正直、嬉しすぎだよ! ありがとう、父さん、母さん。
ところで…、こんなやり方を教えてくれた執務官って、いったいどんな人なの?
◇
「初めまして、エリオ君。 私が本局の執務官、フェイト=テスタロッサ。 そして君と同じ、人工魔導師だよ」
「あ、はい。 初めまして。 …えっと、同じってことは、フェイトさんもクローン?」
「そうだよ。 私はアリシア姉さんのクローン。 エリオ君と違って、姉妹でも名前は別だけどね」
綺麗な人だけど、子供心になんとなく残念だなって思った。
「と、言っても、そのクローン技術が“フェイト・プロジェクト”って名前だったから、フェイトって付けられたんだけどね。 母さんって、その辺が安直でデリカシーないから」
「えっと、あの…」
「えへへ、エリオ君とはクローン仲間で、適当な名前仲間だね」
うん、すごく残念な人だ。 すごく綺麗な人なのに…。
これがフェイトさんのファーストインプレッションだった。
おかげで気兼ねなく話せたけど…。
その後、しばらく話して、いろいろ知ることが出来た。
まず、僕が助かったのはフェイトさんのお母さん、プレシアさんの御陰だとか。
なんでも自身が完成させたクローン技術が裏の世界でひっそりと蔓延してると知って、その技術で造られた子供が酷い目に遭ってないか、片っ端から調べまくったとか。
そして、その調査網に僕が引っかかったのだ。
「私はてっきりサボってネットサーフィンしてるのかと思ってたけど、本当はあちこちにハッキングしまくって、ずっと調べてたんだって」
フェイトさんとの会話はツッコまないほうがスムーズにいくことを、この時に学習しました。
閑話休題。
なんでも、プレシアさん自身がクローンであるフェイトさんに辛く当たっていたとかで、そういう不幸をなくそうと精力的に活動しているらしい。
そして、実体験として当事者の気持ちが理解できる故に、自らが僕の両親を説得して、今回の救出劇に相成った…、と。
ありがとうございます。 僕を見つけてくれて。
そして感謝します。 両親が助けに来てくれた時点で、蟠りなんかすべて吹き飛んでました。
でも、今になって思うんです。
プレシアさんがしたのは、“説得”じゃなくて“洗脳”だったんじゃないかと…。
◇
「エリオ君のお父さんにお母さん。 どうも、ご丁寧に。 それにお土産まで頂いてもうて」
「気にしないでくれ。 息子を預かって貰っているんだ。 これぐらいはさせて欲しい」
「ほんま、おおきにやわ。 六課の設立にもずいぶんと寄付してもろたし、こらエリオ君を贔屓にしたらなあかんな」
「あら、やだ、部隊長さん。 そこは厳しくしてやってくださいな。 かわいい子には旅をさせよ何て言いますけど、私たちだけだと、どうしても甘やかせてしまって…」
「それに、管理局に入りたいと言い出したのもエリオなのだ。 びしびし鍛えて、りっぱな局員にしてやってくれ」
「わかりました。 私が責任を持って一人前にさせてもらいます」
非番の度に実家に戻らされ、休み明けは親と同伴出勤…。
かと思えば、就職とかやりたいことは僕の意志を尊重して、度を過ぎない程度に応援してくれる…。
そのさじ加減が絶妙で、それに愛されてるのがわかるから、家出したいほど嫌になれない…。
親馬鹿以上、モンスターペアレント未満…。
はぁ…。
もう、ため息しか出ないよ…。
そうさせたプレシアさんの手腕に…。
「そんじゃ、エリオ君。 私はまだ話があるさかい、先に隊舎に戻ってええで。 可愛い嫁さん達に、はよ姿見せたり」
もう一度、ため息…。
部隊長? そんなニヤニヤした顔しているとこ悪いけど、もう何度も言われて慣れちゃいましたよ、それ。
「ふむ、あの薄紅色の髪をした純情可憐で天真爛漫な娘か。 あれは素敵なレディーになるぞ」
「藤色の髪の、お淑やかで物静かな娘も可愛かったわ。 今からお義母様って呼ばれるのが、すごく楽しみ」
そのイメージ間違ってるよ! 父さん母さんが見てるのは擬態だよ! それも身を守るためじゃなく、狩りのための! 二人は肉食動物で肉食昆虫だよ!
僕の親の前以外だと、好意がもの凄くアグレッシブだよ! 将を射んと欲すればなんとやらだよ!
はぁ…。
三度目のため息。
「エリオ。 そんなに悩むこと無いぞ。 いざとなれば重婚できる世界に戸籍を移せばいい」
「義娘が二人も増えるの。 素敵だわ」
いや、それを悩んでのため息じゃないんだけど…。
まあ…、二人とも可愛いから…、それもいい…、かも♪