人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ 作:いにまに
「お姉ちゃん、もうやめようよ…。 私、もう恐いのやだよぅ…」
「うっさい! いいからちゃんと座って制御してなさいっ!」
「ひっ! うぅぅ…」
…あっ! い、いけない。
幼い妹の泣き出しそうな顔に、はっと我に返る。
計画の大詰めで気が立っているとはいえ、今のはさすがに大人気なかった。
「ごめん、今のはお姉ちゃんが悪かったわ。 …お願いだから、ちゃんと手伝って。 これで最後だから」
「ぐすっ…、ホント?」
「ええ。 本当よ」
「ホントにホント?」
「本当に本当」
「ホントにこれで最後?」
「うん。 最後」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃないわ」
「ホントに嘘ついてない?」
涙を湛えた目でじっと見つめ、しつこく確認してくる妹。
…そんなに私が信じられんのか、コラ!
内心、かなりかちんと来たけど、とりあえず今はあやすことの方が先決…。
「あら、私がヴィヴィオに嘘ついたこと、あった?」
「……プッ」
噴き出しやがったよ、このガキャアァ!
「えー、そんなのいっぱいあるよー」
「そこは“無い”って答えるところでしょ!」
「えへへー。 だってクアットロお姉ちゃん、お姉ちゃん達の中で一番嘘つきだもん。 姫姉様とは全然違うよー」
ったく…。 ホンット小生意気になったわね。
油断すると、こっちがやり込められそうだわ。
「お姉ちゃんは姫姉様より、あの鎧の悪い女の人だよ」
「言ってなさい! それとも、なに? ビーム撃つとき、“なぎ払え!”とでも言って欲しいの?」
「ブッ! あははははは! うん! それ、イイ! それやって!」
「じゃあビームを撃つヴィヴィオは、あのドロドロの巨神兵ってわけね」
「えー、なんでー!? 違うもん! 私、あんな気持ち悪いのじゃないもん!」
そう言って、手足をばたつかせながら抗議してくるヴィヴィオ。
それを軽くいなしながら、私は静かに息を吐く。
ちょっとからかいすぎて膨れっ面だけど、さっきまでの泣きべそ顔よりはよっぽどマシだったから…。
◇
古代ベルカ戦争の遺物、ロストロギア『聖王のゆりかご』
いま私たちが搭乗しているそれは、衛星軌道上をステルスで航行し、もう間もなく機動六課の直上へ到達する。
作戦実行の刻限が近づくにつれ、次第に高まっていく緊張感。
さっきまで拗ねてたヴィヴィオも、今は真剣な面持ちで聖王の座についている。
制御も安定してるし、これなら失敗することもないだろう。
「お姉ちゃん。 真上に着いたよ」
「分かったわ。 じゃあ私が合図したら作戦通り、全力でぶっ放しなさい」
「う、うん」
私はコンソールを操作し、ターゲットに照準を合わせる。
モニターに大きく映し出されたのは、まだ真新しく綺麗な機動六課の隊舎…。
全く…、見れば見るほどに忌々しい!
あれだけ攻めて、突撃して、強襲しまくったのに、傷一つ付けられず…ってか、前回の襲撃なんて、あんたらんとこの色ボケ娘のせいで、逆にこっちが隊舎守る羽目になったんはどういうこっちゃ、ゴラァ!!!
いきなりあんな馬鹿でっかい“竜”と“蟲”召喚して喧嘩し始めよってからに!
ガジェット特攻させて怪獣共の気をこっちに引き付けてなきゃ、機動六課なんて今頃ぺちゃんこよ! ぺちゃんこ!
だいたい、うちの妹もそこで働いてんのよ!
生き埋めにでもなったら、どうする気よ!
しかも、何? 喧嘩した理由が、男にいいところを見せたいがために張り合い過ぎた結果って、馬鹿なの? 死ぬの?
虎の子のⅣ型が、こんな下らないことで全滅よ! チクショー!
それにあんたら隊長も、止めるんならもっと早く止めなさいよ!
誰が止めるかで、のん気にジャンケンなんてしてるんじゃないわよ!
それに…、それにっ! それにぃぃぃぃっ!!!
「パンチ一発で蟲ぶっ飛ばして、それ見た竜が慌てて土下座って、どんなコメディよ、ソレェェエエエ!!!」
「お、お姉ちゃん! クアットロお姉ちゃん! いい加減、独り言でいきなり叫ぶのやめて! 不気味で恐いから!」
妹にこんなこと言われるのも、全部あんたらのせいよ!
フフフ…、もう何もかもぶち壊す!
「機動六課襲撃最終計画っ! 作戦名、全力全開っ! さあ、ヴィヴィオ! 薙ぎ払いなさいっ!」
◇
はぁ…。 どうしてこんな事になったのかしら…。
たしか始まりは、ベルカ教会からもたらされた一つの予言…。
「3人娘は適度にガス抜きさせないと、爆発して管理局に牙を向くことになるぞ♪ あ、ベルカも人ごとじゃないから♪」
こんな比喩もへったくれもない明確な予言に、ちょっとイラッとしながらも恐慌した両陣営。
なぜなら“あの3人娘”は、“思い当たる片鱗”を、“すでにまき散らして”いたから…。
駆け付け一番、ディバインバスター。
不審なところに、サンダースマッシャー。
しゃあないなぁと、デアボリック・エミッション。
とりあえずで砲撃すんな!
ピンと来たで突撃すんな!
もうええやんで吹き飛ばすな!
なまじ、それで結果を出すものだから上も強く言えず、ただ小言を並べるだけ…。
ただ彼女らにとって、それは“評価されずに説教だけされた”という納得のいかないもの…。
次第に高まっていくフラストレーション。
そしてその煽りは犯罪者のみならず、管理局にも襲いかかってきた。
模擬戦で崩壊する訓練場。
ノリと勢いで引っ掻き回される現場。
胃に穴を開けるクロノとリンディ。
だからこそ、この予言には早急な対策が必要だった。
特にエイミィが必死だった。
そして、そこにもたらされた一筋の光明。
家族を護りたい一心のエイミィが、第97管理外世界で観た娯楽番組をヒントに考え出した答え。
それは『敵』を作ること。
彼女らを一纏めにする部隊を作り、それに宛がう悪役を用意し、計画された犯行で被害をコントロールする。
要するに、予め決められた時間と場所で、思う存分に暴れてもらうというもの。
当初『管理局戦隊ウミナリシュッシンナンジャー』などと、妙なテンションで説明しだしたエイミィだったために軽視されそうになったが、検討すると誰もが最善策だと思い至り、採用されることとなった。
そしてすぐに『敵』の選考が開始された。
しかし、これは難航を極めた。
災害レベル…じゃない魔力レベル『S』ランクの彼女らの、ガス抜き足り得る生け贄…じゃない好敵手にならなければならないのだ。
それだけの力を持った魔導師は、そうそう居るものではない。
いや…、居るには居るが、そんな貴重な人材を、こんな道化役に推挙するのは忍びない。
このまま暗礁に乗り上げると思われた計画…。
しかし、ここで最高評議会がある決断を下す。
後に英断と評されることとなるそれは、地位も名誉もすべて擲つ覚悟での決断!
秘密裏にクローニングされていたアルハザードの遺児…、管理局の闇から生み出された『お父様』を公表し、『敵』に抜擢したのだ!
…はぁ、なんだか淡々と説明することに飽きて来ちゃったわね。
まあ、そんなこんなで表立つ事になっちゃったお父様は、愕然としていたわ。
でも内心では、ほくそ笑んでたと思う。
だって誰はばかることなく、世界を破滅させる準備が出来るんですもの。
そして、管理局から提供されたジュエルシードでガジェットを強化し、聖王のDNAを入手してクローンを作った。
さらにレリックを確保して、ゆりかご起動の目処が立った。
でも、最新のガジェットは寝返りで破壊された。
不幸になりそうな子どもの気配がする、と涌いて出たプレシアが、育児のあり方を説教してきた。
独断専行で襲撃してきたゼスト隊が、食卓のカレーをひっくり返し、それを楽しみにしていたヴィヴィオが大泣きする前で土下座した。
そして今、私たちの切り札である聖王のゆりかごは、賽の目状に切り刻まれていた。
…そう、ただいま絶賛分割中。 まさにバラバラ、細切れ、スクラップ。
襲撃は失敗。
成層圏からの…、しかも計画書を提出してない完全な奇襲なのに、なんで気付くのよっ!?
ビームはすべて跳ね返され―――
―――「甘いわ! ATフィールドや!」
地表まで引きずり下ろされ―――
―――「このぉ! ちゃっちゃと下りてきぃ! 卑怯もん!」
ヴィヴィオの居るところだけ、切り除かれ―――
―――「えっ? 何、母さん? ここは除けときなさいって? うん。 分かった」
返す刀で、ジェネレーターごと真っ二つに―――
―――「えーっと、斬~艦~剣~! …で、合ってたっけ? はやて」
暴走しそうなエネルギーは押さえ込まれ―――
―――「バッチリや、フェイトちゃん。 …あ、やばっ、エンジンまで逝っとる。 とりあえず石化や」
まるで豆腐でも切るかのように―――
―――「フェイトちゃん、そのままもうちょっと切り刻んで。 じゃないと、私でも粉砕しきれないのが残っちゃうかも知れないから」
―――「了解、なのは」
そして、この世のすべての絶望をかき集めているかのような魔力の収束が―――
―――「受けてみて♪ これが私の全力全開♪ ホントにホントの全力全開♪ 今日は自重無しに全力全開♪ 誰にも怒られない全力全開っ♪♪♪」
―――「マスター! ちょっと待って! これ以上は! 私がっ! もち、ま、せ…」
眼前に広がるピンクの光―――
―――今際の際に思い浮かぶ、家族の顔…、思い出…。
お父様…。
お願い! 諦めないで!
「もういいんじゃないか?」なんて言わないで!
てか、これ、あんたの仕事だろ! 最後までやり抜け! 私に押し付けんな!
最近襲撃してんの、私ばっかじゃねぇか! クソ親父!
ウーノ姉様…。
育児に精を出すのはいいけど、たまには襲撃も手伝ってよ!
私たち、一応戦闘機人なんだから。
確かにヴィヴィオはイイ子に育ったけど、なんか違うよ!
ドゥーエ姉様…。
働け!
オーリスと一緒に、親のすねで旅行とか合コンとか行ってんじゃないわよ!
レジアスの愚痴がこっちに回ってきて鬱陶しいのよ!
トーレ…。
いい加減、部屋から出てきなさい!
男に振られたぐらいで、引き籠もってんじゃないわよ!
チンク…。
いい加減にしないと、アニメ取り上げるわよ!
何のキャラの真似か知らないけど、意味もなく眼帯しない!
その野暮ったいコートも、見てるだけで鬱陶しいから脱ぎなさい!
セイン…。
どこに居るのか知らないけど、あんたは絶対許さないわよ!
ISを使って盗撮した私たち姉妹の写真…、随分と良い値で売れたそうね?
精々、稼ぎが尽きるまで逃げ回っていなさいな。
セッテ…。
トーレの様子はどう?
大変だろうけど、よろしく頼むわ。 あんただけしか、部屋に入れないし。
…心なしか嬉しそうね? 今のトーレの相手は大変なんじゃない?
…なぜ、そこで赤くなる?
ノーヴェ…。
あんたは確かにあの女の遺伝子使ってるけど、だからって同じ男に惚れなくていいじゃない。
もう結婚しているし、子供も居るんだから奪えるわけないでしょ!
いい加減諦めて、こっちに戻ってきなさい!
まったく…。 あんな親父のどこがいいのかしら…。
ディエチ…。
あのぉ、ディエチ…ちゃん? あなた、なんでそんなに鼻息荒いのかしら?
あなたに「お姉様」って呼ばれると、寒気がするのはなぜかしら?
そのワキワキさせてる手は何かしら?! なぜ私の後ろに回ろうとするのかしら?!
ちょっ! こらっ! 寄るな! 触るな! 近づくな! 揉むな! 嗅ぐな! 抱きつくなーっ!
ウェンディ…。
あんた、またヴィヴィオとケンカしたの?
あんたのほうがお姉ちゃんでしょうが…。 お菓子の種類ぐらい、先にヴィヴィオに選ばせなさい。
なんでみんな、そんなにきのこ嫌がるのよ…。
オットー…、ディード…。
あんたら確か管理外世界のどこかの道場へ、剣術か戦闘術の修行に行ったはずよね?
それが、何で料理作ってるの? 何でケーキ焼いてるの?
そもそも、何で機動六課でコックやってるのよ! こっちの基地でやるのが筋でしょ!
はぁ? “高町父子、ギザあり得ない”? “ユーノさん、まじパネェ”? “すずか様… ガタガクガタガク…”?
だから、何言って…、“桃子さん、テラ癒やし。 そこに逃げるのは当然”? いや、あんたら戦闘機人…、“あんな世界の魔王に挑もうなんてあり得ない”?
私らの存在意義、否定すんなっ!
―――家族も思い出も、ろくなもんネェェェエエエエ!!!
叫び声ごとピンクの光に飲み込まれた。
◇
後日、時空管理局催事ホール
「貴殿の献身的行動により、危機が回避されたことを、ここに感謝する」
「おめでとう、クアットロ」
「おめでとう、姉さん」
家族の声援を受けながら、中将が差し出す感謝状を、頭も下げずに片手で受け取る。
形だけでも礼儀として、両手で受け取るべきなんでしょうけどね。 こっちは満身創痍で、松葉杖が手放せないのよ。
ま、このおっさん相手に、そんな気を使うつもりは元からないけど。
そんなやさぐれた感情を表に出さないように、無表情のまま、生気のない目で視線を合わせたら、たじろいで目を泳がせた。
それなりに罪悪感は持ってるのかしらね?
ほんのちょっぴり溜飲を下げる。
本局だけあって、それなりに広い会場だけど、出席者は多くない。
管理局とベルカ教会のお歴々、そしてお父様と姉妹たち。 あ、セレンはいないけど。
ギブスをはめた私と違い、同じゆりかごに乗っていたはずのヴィヴィオは、膝小僧を擦りむいただけだった。
うさぎ柄の絆創膏を貼った足を、暇そうにプラプラさせてる。
そんな面々をざっと見渡し、軽く嘆息する。
お偉方の憑き物が落ちたような顔を見れば、全部終わったと信じても大丈夫でしょう。
これでようやく、あのふざけた内容の予言から解放されるわけね、…って、あれ?
「レジアス中将?」
「ん、なんだね?」
「なぜ危機が回避されたと? そんな予言でも出ましたの?」
「んぐっ」
おい、おっさん。 なに息詰まらせとんねん?
「あ…ああ、そうだ。 その通りだ。 回避されたという予言が出た」
おっさん、おっさん。 声が上ずってキモいわよ。
「そ、そうですの。 そういう予言が出ましたの。 私が言うんだから間違いなし」
ああ、そういえば、あんたのレアスキルだったわね。
カリム=グラシアがこっちに寄って来て、慌てておっさんをフォローする。
「あら、そうですか。 ねぇ、カリム卿。 私もその予言を“生”で聞いて安心したいので、“今すぐ”ここで実演していただけますか」
「え? いえ、あの…、それは…」
「していただけますか?」
「今日は都合が…、悪いかなぁ…って…」
「していただけますね?」
あのね、ここまで態度が露骨だと、何かを隠していることぐらい、バカでも気付くわよ。
正直、聞けば後悔するって予感をヒシヒシと感じるけど、ここまでくれば皿までよ。
「あ、あはははは…」
カリム卿? 笑ってごまかそうとしても無駄よ。 あ、おっさんなら、もうとっくに逃げたわよ。 うわっ、カリムが振り向いたら、教会側でさえ露骨に顔そむけたわね。
そんなカリムの肩に、ぽんと手を置く。
彼女は涙目で振り向くが、逆に私は最高に良い笑顔をしていることでしょう。
「予言、聞かせていただけますね?」
「…は、はい」
悲痛な面持ちで、しぶしぶとプロフェーティン・シェリフティンを開始するカリム卿。
始める前に、「予言は私の意志と無関係ですから! 本当に私と無関係ですから!」と、やたら必死に念押しされたけど、それ聞いて私にどうしろというのよ?
前回のアレな内容をあんたが考えたなんて、さすがに思ってないわよ。
まあ、少々イラつく内容でも寛容に受け止めてほしいってことかしらね。
そうこうしてる間に、カリムのスキルも佳境を迎える。
トランス状態の彼女が、人差し指を私に突き出すように腕を伸ばし、左手でお腹を押さえる。
ゆっくり眼を開いて、相好を崩し、彼女の口から予言の第一節が紡がれた。
『 クアットロ、プギャーm9(^Д^) 』
瞬間、カリム卿を殴った私は絶対悪くないっ!
◇
一応、予言の全文
クアットロ、プギャーm9(^Д^)
久々にワロスwww
あ、3人娘のことは、最後のアレで満足したみたいだから、もう大丈夫だよ♪
クアットロ、グッジョブ! Σd(>▽<)
(≧艸≦)ププッ
◇
そして、蛇足のような補足。
少し前の機動六課隊長室にて。
「なぁ、なのはちゃん。 うちの食堂で働いとる戦闘機人おるやろ?」
「オットーとディードちゃん? それがどうかしたの?」
「いやな、その二人から同じ日で有休申請出とんやけど、その理由がな…」
「どれどれ。 えーっと…」
“ この日に奇襲をかけるから避難してろと姉に言われたので ”
「…」
「…」
「あの眼鏡が姉やったんか…」
「不憫ね…」
「えっ、そっち? 普通、奇襲の方を気にしない!?」
「フェイトちゃんが、普通を語るとかw」
「抱腹絶倒なのw」
「も、もう! 私は二人と違ってちゃんとまともだよ!」
「…」
「…」
お・わ・り