人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ 作:いにまに
「んーっ、終わったー、お仕事しゅーりょー♪」
私の現マスターこと高町なのはが、大きく伸びをしながら独りごちる。
『えぇ、確かに終わりましたね…。 これ以上ないぐらいに…』
別段、会話を望んでのことではないことは分かっているけど、私はあえて言葉を返す。
…皮肉を込めて。
嘱託魔導師として時空管理局に在籍するマスターが請け負った今回の仕事。
任務内容は、「とある犯罪組織の拠点制圧」
でも、やったことは『とあるマフィアのジェノサイド』
「もう、どうしてそんな含んだ物言いするかな? レイジングハートは!」
『言いたくもなります! オートスフィアとバインドで事が済む実力がありながら、砲撃魔法をぶっ放し、浮き足だったところを近接戦闘で一人一人仕留めていく意味が分かりません!』
しかも不意打ちなどせずに、真正面から打ち倒していきます。
『そもそも開口一番が「ディバインバスター♪」自体がおかしいんです! 「武器を捨てろ」とか「おとなしく投降しろ」とか言えないんですか!?』
「ぶー、どっちにしろ抵抗してくるんだから、これでいいの! 戦闘は先手必勝なの!」
それは…、確かにそうかもしれませんが…、ハッ!? いけない! いけない! またマスターの思考に引きずられるところでした。。
『マスター…、管理局のルールには従ってください。 取調べとか裁判とか賠償とか、いろいろ大変なんです。 クロノさんとかリンディさんとかエイミィさんの小言を聞くのも大変なんです。 ホント大変なんです!』
マスターに直接言えばいいものを、どうしてデバイスに言ってくるんでしょう? あの人たちも意味分かりません!
「そ、そんなに力説しなくても…。 レイジングハートも堪ってるんだね…」
『そう思ってくれるんでしたら、自重してください。 その代わり、たまにぐらいならフェイトやはやてとの模擬戦に付き合いますから。 バルディッシュとリインフォースにも、参加するよう説得しておきます』
「本当!? 約束だよ! レイジングハート!」
はぁ…、本当は嫌なんですが、ハラオウン家総出の小言よりマシかもしれません。
彼女らの模擬戦と言えば、カートリッジの連続使用、大規模魔法の並列展開、果ては近接戦闘でデバイス同士を打ち付け合うという、なかなかのデバイス泣かせの…泣かせの…泣かせ…、どれだけデバイス泣かせれば気が済むんですか!
そして、それに耐えられる私の体が恨めしい!
ふふふ…、いっそ壊れちゃえば楽になれるかな…。
◇
「…では、ここからは我々の部隊が現場を引き継ぎます」
壮年の管理局員が、綺麗な敬礼で辞令を紡ぐ。
「はい、よろしくお願いします」
マスターの敬礼も、負けず劣らず綺麗なのが納得いきません!
普段はしっかり者で人当たりもいいのに、戦闘になるとどうしてはっちゃけるんですか!
「二度と悪さしないように、あの人たちにはしっかり罰を与えてくださいね」
「…あの様子では、その心配はないと思われますが…」
私もそう思います。
過半数は意識がありませんが、悪夢でも見ているのか全員がうなされてます。
若干名の意識ある者は、見ているこちらが申し訳なく思うくらいに、ガチガチと歯を鳴らしながら怯えています。
「父さん…、ほらあそこに魔王が…、魔王が僕を…、僕を…」
「魔法が当たらない…、魔法が効かない…、魔法が当たらない…、魔法が効かない…」
「ピンクがっ! ピンクが目にっ! 目を瞑ってもピンクがっ! だれかこの目を抉り取ってくれっ!」
「…コホン、それで帰りはどうしますか? ご要望であれば、ヘリを飛ばしますが?」
「あ、申請した飛行許可時間がまだ残ってますので、飛んで帰ります。 その方が速いので」
「さ、さようで…」
クラナガンまでの距離を考えたら、顔も引き攣るってもんですよね。
ええ、これが一般魔導師っていうもんです。
マスターの方がおかしいんです。
でも、マスターはもっとおかしいんです。
「それじゃレイジングハート、後はよろしくね」
『了解しました、マスター。 良い夢を』
「んーっと、この距離だと…、一時間ぐらいかな? 街に入る前に起こしてね」
『マスターの居眠り飛行は、もう有名です。 今さら恥ずかしがっても…』
「それでも!」
うちのマスター、飛行魔法使いながら熟睡出来るんです!
「これなら移動時間も短縮できて、疲れも取れる。 一石二鳥!」
はっきり言って、馬鹿の理論です。
でも、馬鹿は凄いんです。
とりあえず実践するんです。
そして結果を出してしまうんです。
理屈じゃないんです。
ただ本当に熟睡しているので、私が周囲に注意を払っていなければなりません。
そうしないと、鳥とぶつかったり、木に突っ込んだり、ビルを突き破ったりしてしまいます。
はぁ…。
ユーノ…、あなたがマスターだった頃が懐かしいです。
カートリッジシステムが搭載され、エクセリオンモードを実装した私に、もう当時の面影はありません。
それに、これだけ偏った高スペックになってしまっては、もうあなたに使いこなせてもらえないでしょう。
ですが、あなたがマスターだったときの情報は私の中にしっかりと残っています。
これだけが私の支え…、私が普通のデバイスであるための…って、えっ? これは!?
マスター! 起きてっ! マスター! マスタァァァ!!!!!
周囲に気を配っているといっても暇なので、いつものように薄幸のデバイスごっこをしていたら、突然アンノウン反応が!?
最悪なことに、その行動予測は敵対!
私は必死にマスターに呼びかけた! 叫んだ! 起こそうとした!
手があれば引っ叩いていた! 足があれば蹴飛ばしていた! 身体があれば庇っていた!
しかし、何一つ叶わない!
凶悪なフォルムの人型ガジェット。
それの腕に該当する部位にある凶刃がマスターに襲いかかる!
危機に際して高クロックで稼働を始めた自身の機能が、今は残酷に思える。
刃がマスターに届くまでの刹那が何時間にも引き延ばされ、何も出来ない空虚な時間となり、真綿のように私を締め付ける。
私は失う…、マスターを…、また失う…、違う…、今度は永遠に失う…、馬鹿だけど…、どこか輝いているマスター…、い…、いや…、イヤァァァ! マスタァァァァァァーーー!!!
絶叫とともに、時間の流れが元に戻る。
色を失い、音の隠された空虚な時間が、色を取り戻し、音を見つけ出した正しき時間へ。
その時間の中で私は見る。 認識する。 理解する。
真っ二つにされ…、地に堕ちていく…、ガジェットの残骸…。
心配して損した! 叫んで損した!
何!? このデタラメなマスター!
まだ寝てるし! 何事もなかったかのように寝てるし!
さっき見た光景が未だに信じられない。
マスターったら、寝ながら、無意識に、条件反射でガジェット撃墜しやがりました。
しかも手刀! 魔力を纏わせての手刀!
寝返りを打つように、大きな半円を描いてスパッと一刀両断!
私、いらないんじゃない!? 私、いらない子!?
もう、マスター自身がデバイスでいいじゃないのさ!
ユーノ…、私を取り戻そうとマスターに挑んでいるようですが、命が惜しいのならやめた方がいいかもしれません。
◇
その夜。
「あーっ! 忘れてたっ! 今日なの、すっかり忘れてたっ!」
『どうかしましたか、マスター? …せめてバスタオルぐらい巻きなさい。 はしたないですよ』
シャワールームから飛び出してきたマスターに苦言を呈する。
「そんなのどうでもいいの!」
『どうでもよくありません!』
「ああん、もう、とにかく! 今日の帰り、なにか変わったこと起きなかった?」
『早く身体を拭いて何か着なさい! 変わったことですか?』
「うん、変わったこと。 変なことでもいいよ」
ようやく私が質問を聞いてくれたことで、マスターも素直に言いつけに従って、身体を拭いてTシャツを着る。
…おしゃれのセンス0です。 パジャマぐらい買いましょうよ、マスター。
それより、変なことですか。
あったと言えば、あったんですが…、マスターは前から変ですし、変わったことと言っても、マスターにとっては別段変なことではない気がします。
『いえ、とくに何もありませんでした』
「そっか。 いろいろ変わっちゃったから、ずれちゃったのかな? …ま、いっか。 ありがと、レイジングハート」
『いえ、どういたしまして』
この日よりしばらく、マスターは居眠り飛行をしませんでした。
奇行から正常に戻ったはずなのに、この期間、逆に不気味に思ってしまった私は間違っているでしょうか?