人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ 作:いにまに
「「「おはようございます。 シスターリイン」」」
「おはようございます、みなさん」
私の名前はリインフォース。
夜天の書の管制人格です。
紆余曲折あって、今ではベルカ教会でシスターとして働いています。
私は人間ではなくデバイスですが、それに関係なく慕ってくれる部下や同僚も多く、充実した日々を送っています。
「シスターリインって、やっぱり素敵だよねぇ」
「うんうん。 いつも凛として、それでいても、こう優しさがにじみ出ている感じで」
「そうそう。 頼れるお姉様みたいな」
でも、この手の熱っぽい視線はちょっと苦手なのですが…、闇の書の時分の頃から考えると、過ぎた悩みでしょうか?
ふふっ。 私に今の人生を与えてくれた主には、感謝しきれませんね。
◇
なんて、心にもないことを考えてしまったせいでしょうか…。
「あ、いたいた。 リインフォース」
「あ、主っ!? なぜ教会に!?」
現・夜天の書の主こと、八神はやてが目の前に…。
いえ、主だけではありません。
その後ろにはなぜか、ヴォルケンリッターも…。
「いやな? なのはちゃんが模擬戦しよっかって誘うてくれてな?」
「模擬…戦…ですか?」
嫌な予感がします。
いえ、嫌な予感しかしません。
主たちは機動六課の訓練場で、毎日のように模擬戦をしているはずです。
…無手で。
それなのに、私にまで声を掛けてきたと言うことは…。
「しかも久々にデバイス使うて全力でや。 楽しみやろ?」
私はきびすを返し、脱兎のごとく逃げ出しました。
◇
「嫌です! 絶対、嫌です! 模擬戦なんてしません! ぜーったい、ここから離れません! もう、この柱とユニゾンして、教会の一部になります!」
「諦めろ、リインフォース。 どうせ逃げられない」
「シグナム、そんな格好で言っても滑稽なだけよ…」
「くそっ! なんで四人がかりで勝てねぇんだよ!」
「さすがは管制人格、ということか…」
私は柱にしがみつき、そして自らをその柱にバインドで縛り付けて抵抗します。
ついでに私を捕らえようとした裏切りの騎士たちも、捲き込んで縛り付けてやりました。
「なんや、なにが不満やの? 久しぶりやねんで? 全力での模擬戦は」
「だから嫌なんです! あれで平気な主が異常なんです! もう少し、デバイスを労ってください!」
主を含めたエース3人の模擬戦は、ほんっとうにデバイス泣かせです。
魔法を多重展開するわ、魔力をオーバーロードさせるわ、格闘で相手に打ち付けるわ…。
主より先に音を上げてしまう私が、デバイスとして情けないです。
「そ、そういえば、そう! レイジングハート! あの子も模擬戦を嫌がっていたはずです!」
「残念、今回はそのレイジングハートからのお誘いや。 なんでも、なのはちゃんを少しでも自重させたいが為やて。 あと、クロノらの愚痴はもう聞きたないとか言うてたな?」
レイジングハート…。 あなたも苦労しているんですね…。
「じゃ、じゃあ、バルディッシュは? あの子も…」
「あの子はフェイトちゃんに忠実やんか?」
「ですよねー」
四面楚歌です。
「んーっと…、えーっと…、アレ…、ほら、あれ。 あ、訓練場! そうですよ、訓練場! 使えないはずでしょ? 前に派手に壊しすぎて、デバイス有りは禁止になったじゃないですか?」
「心配あらへん。 クロノが張り切って無人世界の利用許可出してくれたわ」
あんのクソ提督ーっ!!!
「ほな、行こか。 なのはちゃんもフェイトちゃんも待っとるしな」
「くっ、いくら主の頼みでも私はここから動きませんよ」
バインドに魔力を送って強化します。
これで、そう簡単にブレイクは出来ません。
「ま、待て、リインフォース! バインドが太く…、ぐっ」
「あーっ! この馬鹿融合騎っ! 締まるっ! 締まるーっ!」
「痛い! 痛いから! リインフォースちゃん! 落ち着いてーっ!」
「ぐっ、ブレイクできない」
私自身も苦しいですが、それでも模擬戦よりは…。
「あー、こら随分と強化したなぁ。 私でもこれ解除するんは骨やわ」
「主、まだまだ強化できますよ。 ですから諦めて…」
「ま、でも、関係あらへんけどな。 ほいっと、強制ユニゾンイン!」
「えっ?」
柱にしがみついていると思ったら、いつの間にかユニゾンしていた。 何を言っているのか解ら…。
「ああああ主っ!? どうしてユニゾン出来るんですか!? 私、ユニゾン拒否ってましたよ! 拒否ですよ! 拒否! 拒絶! それはもうATフィールドの如く!」
「ちょっ、リインフォース。 身体の中で喚かんといてぇな…」
確かにこうすればバインドなど関係なく私を連れて行けますが…、ユニゾン“させる”なんて、どんな非常識!
ユニゾンはマスターとデバイス、両方が合意し、協力しなければ出来ないはずです!
「これが喚かずに居られますか! ユニゾンって強制的に出来るもんじゃない…はず…ですよね?」
「いや、現に出来てるやん。 私も本見るまで知らんかったけど」
「あの…、本、とは?」
「ベルカの融合騎について書かれた本や。 教会の図書館の、ほら、鍵の掛かった扉あるやろ? その中の書架あったやつ」
「そ、そこは禁書の置かれた部屋ですーーーーーーっ!!!!」
主! 傍若無人すぎます!
それが嫌で…、それが元で発生するトラブルに巻き込まれるのが嫌で、みんなとは違うベルカ側に就職したのに…。
「ま、ええやん。 ほな、行くで」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!」
「諦めろ、リインフォース。 主からは逃げられない」
「ベルカに逃げるより、機動六課にいた方がよかったんじゃねぇか? ほら、生け贄が多い分、トラブルが分散される…こたぁねぇか」
「そうね、なのはちゃんはユーノ君が…、フェイトちゃんはプレシアさんが防波堤のはずなんだけど…」
「いつも簡単に決壊しているな。 主を抑えるべき我らも含めて…」
あー、もう、今度はもっと遠くに逃げる! 逃げてやる!
◇
後日、機動六課のオフィス。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、いらっしゃいです」
「こ、こんにちは、リイン。 はやてちゃん、居る?」
「はいです。 ご案内しますです」
リインははやてちゃんの補佐として、りっぱに仕事をこなしているです。
今もちゃんと応対出来たのですよ。 えっへん!
「あれ? なのはちゃんにフェイトちゃん…、って、もう定期報告の時間か。 気付かんかったわ」
「うん。 特に異常なしだから、書類、適当に目を通して判子押しておいてね」
「ほいほいっと。 あ、ついでやし、お茶していかへん? リイン、人数分お願いや」
「了解です、はやてちゃん」
ふふふ、リインの入れるお茶は超一流なのです。
いつもみんなから、「えらいね」って褒められるです。
「ね、ねえ、はやてちゃん。 リインフォース、まだ治らないの?」
「うーん…。 ちょっと刺激が強かったみたいでなぁ。 シャマルもお手上げなんよ」
「母さんも人格プログラムにエラーは無いって言ってた。 性格は変わったけど正常値だって」
向こうから何か話しているのが聞こえてきますが、内容がよくわかりません。
リインはまだこの仕事に就いて日が浅いですから、難しい話は苦手なのです。
はやてちゃんをしっかり補佐できるように、頑張って勉強しないといけないのですよ。
「絶対、なのはちゃんの砲撃が引き金やって。 身動き出来へんようにしてから撃ち抜くんやもん」
「そんなことないよ。 フェイトちゃんの弾幕の方が酷かったよ。 絶対」
「はやてがそれを魔力任せに、真正面から受け止めたのが原因だと思う。 いくら防御が堅くても、あれは…」
カシャン!
あ、うっかりカップを落としてしまったです。
…あれっ? なぜか手が震えて…、持てないです?
でも、リインはこれぐらいではへこたれないです! リインは強い子です! 負けないです!
「あっ。 (ヒソヒソ) と、とにかくや。 前の模擬戦の後、幼児退行してしもうたリインフォースやけど、時間が解決するんを待つしかないみたいなんや」
「(ヒソヒソ) 母さんも無理に戻そうとすると、フラッシュバックでもっと酷くなる可能性もあるって言ってた」
「(ヒソヒソ) ベルカ教会からの抗議も引っ切り無しだし…。 早く元に戻ってくれないかなぁ」
大事な話が始まったみたいです。
リインはまだ、機密情報とかを聞ける身分じゃないですから、内緒話なのは仕方ないです。
除け者にされたみたいで寂しくても、ぐっと我慢です!
泣き顔はダメです! いつも笑顔で!
「みなさん、お茶が入ったです。 あと、なのはちゃんの持ってきてくれたシュークリームも付けたのです」
「ごくろうさん、リイン。 って、リインの分があらへんやん。 リインもこっちで一緒に飲もうや」
「わかりましたです、はやてちゃん。 カップ持ってくるです」
「あ、リイン。 シュークリームは1個余分に入ってるから、リインが2個食べてね」
「いいんですか? ありがとうです、なのはちゃん」
「うん、今日のお茶もとってもおいしいよ。 えらいね、リイン」
「えへへ、照れるのです、フェイトちゃん」
ここ(機動六課)のみんなは、とっても優しいです。
リインフォースは主のはやてちゃんの側で、しっかりと頑張っていくです。