人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ 作:いにまに
「いい? なにがあっても絶対に持ってくるのよ。 たとえ死んでもね」
「はい、母さん。 それでは、いってきます」
第97管理外世界に散らばったっていうジュエルシード。
そのすべてを拾い集めてくるのが、母さんから頼まれた仕事。
◇
「まったく、あの鬼ババァ。 そんなにいうなら、自分で行けってんだ」
「もう、アルフ。 母さんのことババァなんて言っちゃダメだよ。 確かに歳取ってるけど」
私の使い魔のアルフ。
口が悪いのが玉に瑕。
「こういう肉体労働は、若い私の方が向いているんだから仕方ないよ」
「でもさ? 全部見つけてくるまで帰ってくるなって、酷すぎるじゃないか」
「その代わり、現地に拠点の家を用意してくれたよ。 それに転送魔法は結構魔力使うから、私の身体への負担を考えてくれてのことなんだよ」
「フェイト、考えが甘すぎるよ。 これ、絶対鬼ババァの嫌がらせだよ」
「もう! アルフッ! 母さんのこと、更年期障害みたいに言わないで」
ホント、どうしてこんなに口が悪くなったんだろう?
使い魔の契約の仕方、どこか間違えちゃったのかな?
ジュエルシード探しと平行して、教育し直そう。 うん。
◇
「フェイトぉ? 本当にここなのかい? 何にもないよ、この部屋」
「うん、ここで間違いないよ。 でも、本当に何にもないね」
母さんが現地に用意してくれた拠点。 マンションの一室。
生活家財が全然無い。
「嫌がらせ、ここに極まりだね。 これでどうやって生活しろってんだ!? 鬼ババァ!」
「母さん、もう呆けが始まったのかな?」
「違うよ、フェイト! 絶対、嫌がらせだって! 冷蔵庫すら無いんだよ!?」
「母さん、家事能力皆無だから、そこまで思い至らなかったんだね…」
「ああ、もう! どうしてそんな良いように取れるんだい!」
「アルフが被害妄想強すぎ。 母さんは前からこんなもんだったよ」
まったく。 そんな風に考えるなんて、アルフはまだまだ子供だね。
◇
近くのコンビニで買ってきた軽食を済ませると、呼び鈴が鳴った。
「だれだろう?」
小走りで玄関に向かう。
「フェイト! こんなところに訪ねてくる知り合いなんて居ないんだから、少しは警戒してっ!」
「大丈夫だよ、アルフ。 きっとお隣さんだよ」
ドアを開けると、そこには私ぐらいの歳の女の子が立っていた。
「よかったー。 やっと会えたよー」
「…だれ?」
この時、私は迂闊にドアを開けたことを、少し後悔した。
見知らぬ女の子が開口一番、訳の分からないこと言ってきたから。
“この子、話が通じないかも知れない”
そんな懸念が頭をよぎる。
「あ、私、高町なのは。 小学三年生…って分からないか。 8歳だよ。 よろしくね」
「う、うん、よろしく」
「ねっ、ねっ、あなたの名前教えてっ!」
戸惑う私を余所に、身を乗り出して聞いてくる。
「え、えっと…、どうして?」
「えっ? お友達になりたいからだよ?」
さも当然のように答える目の前の変な女の子。 ますます訳が分からない。
「お友達?」
「うん、お友達。 そしてお友達になるには、まず名前を呼び合うことから始めるの。 だから私のことは“なのは”って呼んでね、フェイトちゃん♪」
ドキッ…。
なんだろう? 名前を呼ばれたとたん、胸の奥が変な感じになった。
でも、嫌な感じじゃない。 ぽかぽかしてきて、むしろ気持ちいい。
私、いままで友達なんていなかったからよく分からないけど…、こんな気持ちになれるなら!
「うん! なろう! 友達に! 私はフェイト。 えっと、フェイト=テスタロッサ。 これでいいかな、なにょは」
…かんじゃった。
「あはは、それじゃヴィータちゃんだよ。 なのは。 もう一回呼んでみて」
「う、うん、…な、な、なのは」
「うん、完璧。 フェイトちゃん」
なのはの満面の笑みが、私も嬉しかった。
◇
「それで? この世界の魔導師が、うちのフェイトに何の用だい?」
「も、もう、アルフ。 そんな態度は失礼だよ。 ご、ごめんね、なのは」
「にゃはは、気にしないで。 突然で怪しいのは自覚してるから」
「ううん、なのはは全然怪しくない。 変なだけだよ」
「うん、そう、変なだけ…、って、え? …あ、ああ、舞い上がり過ぎちゃって、ちょっと変だったかな。 にゃはは」
あの後、友達になったなのはを部屋に招き入れたんだけど、アルフがさっきからずっと威嚇してる。
なにが気に入らないんだろう?
「とりあえず、友達になりにきたっていうのが一番の目的なのは本当だよ。 だから、アルフさんも」
「…」
「ほ、ほら、アルフ。 そんな恐い顔してないで、ちゃんと呼んで友達になろうよ」
「フェイトがそう言うんなら…。 ん、なのは。 …これでいいかい?」
「うん。 アルフさん。 これで5人全員、お友達だね」
『Yes. Master』
『Yes. Nanoha』
こうしてみると、気付いていなかっただけで私にもたくさん友達がいたんだね。 アルフ。 バルディッシュ。
「そ・れ・で? 二番目の目的ってのは何だい?」
ちょっといらいらした様子のアルフ。
「えっと、それはね…。 レイジングハート、お願い」
そして現出する青い宝石…。 これって確か…。
「ジュエルシード!」
先にアルフに言われちゃった。
「あんた! 時空管理局だったのかい!?」
「ううん、違うよ。 今はまだフリーだよ」
「じゃあ、あんたもそれを狙ってるのかい!?」
「それは“うん”かな。 ユーノ君に…えっと、持ち主に…、あれ? 持ち主は管理局になるんだっけ? ま、いいや。 とにかくユーノ君に返してあげないと」
「ふん! ずいぶんとイイ子ちゃんじゃないか。 でもね、こっちもそれを必要としてるんだ。 大人しく渡すってんなら、悪いようにしないよ」
「必要なのは知ってるけど、渡さないの。 悪いことには使わせません」
「は? なに言ってんだい、あんた…」
「とにかくね、今日はそのことで話し合いに来たの。 それが二番目の目的」
「ああ、もう! ごちゃごちゃとうるさい! こうなったら力尽くで…」
「うるさいのはそっちなの!」
アルフの喧嘩腰の態度にオロオロしてたら、いつの間にかアルフが吹き飛ばされてた。
「す、すごい、なのは。 今の魔法、ものすごい魔力を感じたよ!」
アルフもそれなりに強いのに、一発でやられちゃってる。
「あっ。 ご、ごめん、フェイトちゃん。 思わず手が…。 アルフさん、ノックアウトさせちゃった」
「気にしないで、なのは。 さっきのは先に手を出そうとしたアルフが悪いから」
それに、ちゃんと躾けてなかった私の責任でもあるし。
「それより、なのは。 今のすごいね。 魔力も凄いけど、展開速度もすごく速かった。 私の母さんと同じぐらいだよ!」
「えっ、それ本当?」
「うん、母さんと同じぐらい化け物じみてた」
私はまだまだ母さんに敵わない。 構成の巧さが、さすが年の功。
「…えっ? 化け? …にゃはは、また舞い上がって、ちゃんと聞いてなかったよ、うん」
聞いてなかったって、何を?
「でも、プレシアさんと同じぐらいって本当? フェイトちゃん」
なんだ、ちゃんと聞いているじゃない。 やっぱりなのは、ちょっと変な子。
とりあえず、コクコクと頷く。
「そっか、じゃあ今すぐでも通用するかも。 自分がどれぐらい強いか分からなかったから、フェイトちゃんと模擬戦してからって思ってたけど…」
「なのは?」
なんだか考え込むように呟いて、ますます変な子に見えるよ。
「ねえ、フェイトちゃん。 今すぐプレシアさんに会えないかな? ほら、これ。 私の持ってるジュエルシード、全部あげるから。 これお土産にして、ね? お願い!」
「う、うん、いいよ。 でも、いいの? ジュエルシード、持ち主に返さなくても?」
さっきはそれでアルフと喧嘩してたのに。
「うん、大丈夫! そこはプレシアさんとお話しして説得してみせるから!」
ムンッ!とレイジングハートを握りしめてガッツポーズするなのは。
本当に変な子。
…でも、一緒にいてなんだか楽しい。 私の新しい友達。 母さんにも紹介してあげたい。
「わかった。 じゃあ、行こう、なのは。 母さんのところへ」
きっと楽しいことが起きる。
そんな期待が、私の中に溢れていた。