人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ   作:いにまに

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第08話 名前を呼んで

「いい? なにがあっても絶対に持ってくるのよ。 たとえ死んでもね」

「はい、母さん。 それでは、いってきます」

 第97管理外世界に散らばったっていうジュエルシード。

 そのすべてを拾い集めてくるのが、母さんから頼まれた仕事。

 

 

「まったく、あの鬼ババァ。 そんなにいうなら、自分で行けってんだ」

「もう、アルフ。 母さんのことババァなんて言っちゃダメだよ。 確かに歳取ってるけど」

 私の使い魔のアルフ。

 口が悪いのが玉に瑕。

「こういう肉体労働は、若い私の方が向いているんだから仕方ないよ」

「でもさ? 全部見つけてくるまで帰ってくるなって、酷すぎるじゃないか」

「その代わり、現地に拠点の家を用意してくれたよ。 それに転送魔法は結構魔力使うから、私の身体への負担を考えてくれてのことなんだよ」

「フェイト、考えが甘すぎるよ。 これ、絶対鬼ババァの嫌がらせだよ」

「もう! アルフッ! 母さんのこと、更年期障害みたいに言わないで」

 ホント、どうしてこんなに口が悪くなったんだろう?

 使い魔の契約の仕方、どこか間違えちゃったのかな?

 ジュエルシード探しと平行して、教育し直そう。 うん。

 

 

「フェイトぉ? 本当にここなのかい? 何にもないよ、この部屋」

「うん、ここで間違いないよ。 でも、本当に何にもないね」

 母さんが現地に用意してくれた拠点。 マンションの一室。

 生活家財が全然無い。

「嫌がらせ、ここに極まりだね。 これでどうやって生活しろってんだ!? 鬼ババァ!」

「母さん、もう呆けが始まったのかな?」

「違うよ、フェイト! 絶対、嫌がらせだって! 冷蔵庫すら無いんだよ!?」

「母さん、家事能力皆無だから、そこまで思い至らなかったんだね…」

「ああ、もう! どうしてそんな良いように取れるんだい!」

「アルフが被害妄想強すぎ。 母さんは前からこんなもんだったよ」

 まったく。 そんな風に考えるなんて、アルフはまだまだ子供だね。

 

 

 近くのコンビニで買ってきた軽食を済ませると、呼び鈴が鳴った。

「だれだろう?」

 小走りで玄関に向かう。

「フェイト! こんなところに訪ねてくる知り合いなんて居ないんだから、少しは警戒してっ!」

「大丈夫だよ、アルフ。 きっとお隣さんだよ」

 ドアを開けると、そこには私ぐらいの歳の女の子が立っていた。

「よかったー。 やっと会えたよー」

「…だれ?」

 この時、私は迂闊にドアを開けたことを、少し後悔した。

 見知らぬ女の子が開口一番、訳の分からないこと言ってきたから。

 “この子、話が通じないかも知れない”

 そんな懸念が頭をよぎる。

「あ、私、高町なのは。 小学三年生…って分からないか。 8歳だよ。 よろしくね」

「う、うん、よろしく」

「ねっ、ねっ、あなたの名前教えてっ!」

 戸惑う私を余所に、身を乗り出して聞いてくる。

「え、えっと…、どうして?」

「えっ? お友達になりたいからだよ?」

 さも当然のように答える目の前の変な女の子。 ますます訳が分からない。

「お友達?」

「うん、お友達。 そしてお友達になるには、まず名前を呼び合うことから始めるの。 だから私のことは“なのは”って呼んでね、フェイトちゃん♪」

 ドキッ…。

 なんだろう? 名前を呼ばれたとたん、胸の奥が変な感じになった。

 でも、嫌な感じじゃない。 ぽかぽかしてきて、むしろ気持ちいい。

 私、いままで友達なんていなかったからよく分からないけど…、こんな気持ちになれるなら! 

「うん! なろう! 友達に! 私はフェイト。 えっと、フェイト=テスタロッサ。 これでいいかな、なにょは」

 …かんじゃった。

「あはは、それじゃヴィータちゃんだよ。 なのは。 もう一回呼んでみて」

「う、うん、…な、な、なのは」

「うん、完璧。 フェイトちゃん」

 なのはの満面の笑みが、私も嬉しかった。

 

 

「それで? この世界の魔導師が、うちのフェイトに何の用だい?」

「も、もう、アルフ。 そんな態度は失礼だよ。 ご、ごめんね、なのは」

「にゃはは、気にしないで。 突然で怪しいのは自覚してるから」

「ううん、なのはは全然怪しくない。 変なだけだよ」

「うん、そう、変なだけ…、って、え? …あ、ああ、舞い上がり過ぎちゃって、ちょっと変だったかな。 にゃはは」

 あの後、友達になったなのはを部屋に招き入れたんだけど、アルフがさっきからずっと威嚇してる。

 なにが気に入らないんだろう?

「とりあえず、友達になりにきたっていうのが一番の目的なのは本当だよ。 だから、アルフさんも」

「…」

「ほ、ほら、アルフ。 そんな恐い顔してないで、ちゃんと呼んで友達になろうよ」

「フェイトがそう言うんなら…。 ん、なのは。 …これでいいかい?」

「うん。 アルフさん。 これで5人全員、お友達だね」

『Yes. Master』

『Yes. Nanoha』

 こうしてみると、気付いていなかっただけで私にもたくさん友達がいたんだね。 アルフ。 バルディッシュ。

 

「そ・れ・で? 二番目の目的ってのは何だい?」

 ちょっといらいらした様子のアルフ。

「えっと、それはね…。 レイジングハート、お願い」

 そして現出する青い宝石…。 これって確か…。

「ジュエルシード!」

 先にアルフに言われちゃった。

「あんた! 時空管理局だったのかい!?」

「ううん、違うよ。 今はまだフリーだよ」

「じゃあ、あんたもそれを狙ってるのかい!?」

「それは“うん”かな。 ユーノ君に…えっと、持ち主に…、あれ? 持ち主は管理局になるんだっけ? ま、いいや。 とにかくユーノ君に返してあげないと」

「ふん! ずいぶんとイイ子ちゃんじゃないか。 でもね、こっちもそれを必要としてるんだ。 大人しく渡すってんなら、悪いようにしないよ」

「必要なのは知ってるけど、渡さないの。 悪いことには使わせません」

「は? なに言ってんだい、あんた…」

「とにかくね、今日はそのことで話し合いに来たの。 それが二番目の目的」

「ああ、もう! ごちゃごちゃとうるさい! こうなったら力尽くで…」

「うるさいのはそっちなの!」

 

 アルフの喧嘩腰の態度にオロオロしてたら、いつの間にかアルフが吹き飛ばされてた。

 

「す、すごい、なのは。 今の魔法、ものすごい魔力を感じたよ!」

 アルフもそれなりに強いのに、一発でやられちゃってる。

「あっ。 ご、ごめん、フェイトちゃん。 思わず手が…。 アルフさん、ノックアウトさせちゃった」

「気にしないで、なのは。 さっきのは先に手を出そうとしたアルフが悪いから」

 それに、ちゃんと躾けてなかった私の責任でもあるし。

「それより、なのは。 今のすごいね。 魔力も凄いけど、展開速度もすごく速かった。 私の母さんと同じぐらいだよ!」

「えっ、それ本当?」

「うん、母さんと同じぐらい化け物じみてた」

 私はまだまだ母さんに敵わない。 構成の巧さが、さすが年の功。

「…えっ? 化け? …にゃはは、また舞い上がって、ちゃんと聞いてなかったよ、うん」

 聞いてなかったって、何を?

「でも、プレシアさんと同じぐらいって本当? フェイトちゃん」

 なんだ、ちゃんと聞いているじゃない。 やっぱりなのは、ちょっと変な子。

 とりあえず、コクコクと頷く。

「そっか、じゃあ今すぐでも通用するかも。 自分がどれぐらい強いか分からなかったから、フェイトちゃんと模擬戦してからって思ってたけど…」

「なのは?」

 なんだか考え込むように呟いて、ますます変な子に見えるよ。

「ねえ、フェイトちゃん。 今すぐプレシアさんに会えないかな? ほら、これ。 私の持ってるジュエルシード、全部あげるから。 これお土産にして、ね? お願い!」

「う、うん、いいよ。 でも、いいの? ジュエルシード、持ち主に返さなくても?」

 さっきはそれでアルフと喧嘩してたのに。

「うん、大丈夫! そこはプレシアさんとお話しして説得してみせるから!」

 ムンッ!とレイジングハートを握りしめてガッツポーズするなのは。

 本当に変な子。

 …でも、一緒にいてなんだか楽しい。 私の新しい友達。 母さんにも紹介してあげたい。

「わかった。 じゃあ、行こう、なのは。 母さんのところへ」

 きっと楽しいことが起きる。

 そんな期待が、私の中に溢れていた。

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