人は私を畏怖と憐憫と侮蔑と嘲笑をこめて「魔王」と呼ぶ 作:いにまに
「やあ、いらっしゃい、ユーノ君」
「こんにちは、士郎さん。 今日もよろしくお願いします」
今、私の目の前にいる、この青年。
名をユーノ・スクライアと言う。
日本人らしからぬ色の髪と瞳を持つ彼は、昔、とある事件のおりに我が家に下宿させた事で、縁が出来た異世界人である。
そう、異世界人。
外国人でも、宇宙人でも、未来人でもない、正真正銘の異世界人である。
「時にユーノ君。 なのはは向こうで元気にやっているかね?」
「ええ、とても元気ですよ。 今月も検挙数でトップです。 始末書の数もトップでしたが…」
「そ、そうか…」
末娘は、蝶よ花よと育てたはずなんだが…。
さて、ここで末娘こと、なのはについて少し説明しておこう。
なのはは魔法使いである。
幼い頃から、宙に球を浮かべたり、怪我を治したり、身体を強化したりと、不思議な力を使いこなしていた。
…おかげでいろんな武勇伝が増えていってしまったのだが。
そして何時しかなのはも成長し、異世界にある時空管理局というところに就職。
治安を守る魔導師として、日々犯罪者を取り締まっているのである。
ちなみにユーノ君も魔法使いであり、なのはと同じ管理局に勤めている。
だからこうして彼が訪ねてきてくれると、なのはの近況が聞けるというわけだ。
なのはは最近、帰省はおろか、電話や手紙さえなおざりになってきているからなぁ…。
閑話休題。
「さて、稽古を始めるとしよう。 ユーノ君、向こうでもちゃんとトレーニングは続けていたかい?」
「もちろんですよ。 なのはに勝つまでは休んでなんていられません!」
「あー、うん、その、なんだ…、それはもういいんじゃないかな? なのはとはそこそこ遣り合えるようになったんだろう? もう振り回されることも…」
「それじゃ駄目なんです! 勝たないと…、強くならないと駄目なんです!」
「いや、無理に勝たなくても…。 そ、それより、なのはとはうまくいっているかい? デートに行ったりとか…」
「そんなこと、どうでもいいじゃないですか! それより、はやく始めましょう」
どうでもいいわけあるか!
親としては気が気で無いんじゃ!
何のために門外不出の御神の技を教えてやってると思っとるんだ!
いったい、どこで間違えてしまったんだろうか?
なのはが8歳だった当時、まだ少年だったユーノ君を突然うちに連れてきたときは、桃子と二人して大変驚いたものだった。
しかし、すぐに諸手を挙げて喜び、彼の来訪を歓迎した。
なぜならユーノ君がね、なのはにため口で話していたんだよ。 年相応の口調で。
言っとくけどね、これは本当に凄いことだったんだよ?
あの頃は武勇伝のせいで、同級生はおろか、教師もまでも敬語を使っていたし、翠屋FCのメンバーなんか、なのはが応援に来るとわざわざに挨拶に向かうんだよ。
「なのはさん。 応援に来て頂き、ありがとうございます!」って。
あの頃は、なのはの将来が本気で心配だったさ。
そして、そこに現れた一人の少年。
目には強い意志の光を宿し、それでいて性格は穏やかで、実に礼儀正しい。
そして、なのはと同じ魔法使い。
もうね、なのはを任せられるのは彼しかいないと確信したさ。
少なからず、なのはに好意を持っていることも見て取れたし、桃子と一緒に二人の仲をサポートしまくったさ。
彼のレイジングハートを壊したり、奪い取る結果になってしまったりしたときなんかは非常に焦ったけど、諦めずに必死に取り成したさ。
そして、レイジングハートのおかげでますます破天荒な性格になったなのはがユーノ君を振り回していたので、抵抗できるよう、御神の技を教えて、鍛えてやることにしたさ。
門外不出の件も、くっついてしまえば問題ないさ…、と。
「ユーノ君。 人生に潤いは必要だよ。 若いうちは遊ぶこともしないと。 と、いうか、ぶっちゃけ、なのはに色を教えてやってくれ。 そして、貰ってくれ。 頼む!」
「ななな何を言ってるんですかっ! いい今はまだ修行中の身です! それより、父親としてその発言はどうなんですか!?」
「ノープロブレム!」
笑顔でサムズアップをユーノ君に返す。
真っ赤になってる彼を見るに脈は大いにあることは確かなのだが、意地っ張りなところがあるからなぁ。
勝つまでなのはに手を出さないとか、そんな誓約を自分に設けたのかもしれん。
「まあ、なんだ。 なのはが気に入らないなら美由希でも…」
「さ、稽古を始めましょう、士郎さん。 僕は早くなのはに勝たないといけないんです」
くくく、分かり易い。
ふむ、もう一押しというところかな?
今度、ユーノ君の稽古日に合わせて、なのはをこっそり実家に呼びつけるか。
桃子にも手伝ってもらって、風呂場でばったりラッキースケベのようなハプニングでも起こしてやれば…。