「運命の切札をつかみ取れ!」
【天(然)災(害)うさぎ現れる】
合宿二日目、今日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りを行う。特に専用機持ちは大量の装備があるらしい。
だから早く起きなければならないが…………。
「……スー……スー……」
今日も今日でカナが布団に潜り込んで抱きついていた。柔らかい…………じゃなくて! こんなとこ千冬さんに見られたら俺がどうなるかなんて解りたくもない。
「カナ、朝だぞ。起きろー」
「…………まだ目覚まし鳴ってない……」
カナの体を揺すって起こそうとしたが、起きず抱きつく力が強くなった。
確かにまだ鳴ってはいないが、十分後には鳴るから大して変わらない。
「後十分で鳴るから同じだよ」
「ん〜」
中々起きてくれず、結局カナを起こすのに五分もかかった。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように」
カナを起こして朝食を食べ、データ取りが始まる。
「専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」
はーい、と一同が返事をする。一年生全員がずらりと並んでいるので、かなりの人数となっている。ちなみに俺はカナの専用パーツのデータ取りの補助をするように千冬さんに言われた。
そして場所は昨日のビーチとは違ってIS試験用のビーチで、四方を切り立った崖に囲まれている。
「それじゃゆっくん早速始――」
ずどどどど……!
カナが始めようとした時、地鳴りの様なものが聞こえてきた。
「な、なんだ?」
音の原因を探そうと周りを見るが四方が切り立った崖のせいで音が反響して場所が解らない。
「ゆーく〜〜〜〜〜ん!!!」
声とともに切り立った崖から飛び降りた人影。そしてその人影が真っ直ぐに――
「ぐふぇ!!」
俺に落ちてきて下敷きにされた。
「かなり久しぶりなんだよゆーくん!!」
その人影の正体は稀代の天才・
「いっぱいハグハグしようじゃないか!!」
「んー!! んぐぅー!!」
束さんに抱きつかれているが、俺の頭は束さんの胸に押し付けられて息が出来ずにいる。
「あん♪ そんなに暴れちゃって、嬉しいんだね。ゆーくん♪」
「
いくら力を入れて離れようとしても、ありえない力で離れることが出来ない。
「さてさて次はキスをし――うぐぇ!」
真っ暗だった目の前が明るくなって、抱きついていた力も無くなった。
「ゲッホ!! ゲッホ!! 死ぬかと思った!」
突然明るくなって目が眩んだがようやく見えるようになったら、カナが束さんの襟首を掴んでいた。
「いきなり何をしているんですか? 『天災』ウサギさん」
カナは笑みを浮かべながら問いかけているが、滅茶苦茶怒っている。
というか束さんの格好が不思議の国のアリスのアリスが着ているような青と白のワンピース。頭にはメカニックなウサミミをしているのはスルーだろうか。
「おやおや誰かとおもったら、泥棒猫ちゃんじゃないか」
(泥棒猫……か。あのことまだ気にしてるんだな)
あのことは俺の呼び方『ゆっくん』のことだ。
昔は束さんも俺を『ゆっくん』と呼んでいたが、カナが「『ゆっくん』って呼んで良いのは私だけ!!」と束さんと真っ向から喧嘩して、どう決着したのかは解らないけど、カナが勝った。それでカナが『ゆっくん』、束さんが『ゆーくん』になった。それからは束さんはカナのことを『泥棒猫』と呼ぶ。
「随分見ない間に成長したじゃないの泥棒猫ちゃん。まぁこの束さんには遠く及ばないけどね〜。私より大きくなるって言ってたけど、無理だったね〜」
束さんはカナの襟首を掴む手から抜け出して、そう言いながら立つ。そう言えば昔そんなことを言っていたような気がする。
「そうですね。でも束さんは老けたんじゃないんですか?」
「……ほほぉ、言うようになったね。泥棒猫の癖に」
カナと束さんの間で激しい火花を散らしているのはきっと幻覚ではないだろう。
「――束、いい加減自己紹介くらいしろ」
カナと束さんのやりとりに呆れながら千冬さんが言う。また周りの女子もぽかんとしてカナと束さんのやりとりを見ている。
「えー、めんどくさいなぁ。――やあやあ、私が篠ノ之 束だよ。終わり」
「「「「「……えーーー!!」」」」」
驚くのも無理はない。あのISの生みの親で現在各国が血眼になって探してる人物が目の前にいるんだからな。
「まぁ、ひょっとしたら『篠ノ之』じゃなくて『神碕』に変わっちゃうかもしれないけどね〜」
変なこと言わないでくれるかな、束さん。
「それはないですよ。私とゆっくんが結婚してゆっくんは『更識』になるんですから」
カナは俺の左腕に抱きついて指輪を束さんに見せながら言う。
カナはカナで束さんに対抗しないでくれないかな。
「なにを〜!! 私だってゆーくんと結婚しようねってちゃんと約束したんだからね!!」
「「…………え?」」
なにそれ? カナと完璧にハモった。束さんからの予想外の攻撃に唖然とする俺とカナ。束さんは『どうだ!!』と言わんばかりにどや顔で胸を張る。
「ゆっくん、どういうこと?」
「いや、俺もなにがなんだか……」
正直全く解らない。記憶に無い。
「えーー、ゆーくん覚えてないの!? ゆーくんが幼稚園の時だよ」
「幼稚園………………あ」
思い出した。俺が幼稚園の時の話で、公園の砂場で遊んでいた時に一緒に遊んでくれたお姉さんがいて、そのお姉さんと別れる時に……。
――――――――――――
『またね、お姉ちゃん』
『うん、またね。………………』
『どうしたの?』
『お姉ちゃん、君のこと気にいちゃった。お姉ちゃんと結婚しよう』
『けっこん?』
『毎日一緒にいて、遊んだりするんだよ』
『うん、だったらぼくけっこんする!』
――――――――――――
「…………ってことがあったんだけど、あの時のお姉さんは束さんだったんですね」
「覚えてなかったの〜」
「遊んだのはあの時の一回だけだったので」
確かに束さんと約束したと言えばした。
「殆ど騙してるじゃないですか!!」
そう、悪質な『結婚』の意味の変更だ。これは約束と言えるのだろうか。…………いや、言えないだろ。
「騙しでも何でも私もゆーくんと結婚する約束したんだから譲らないよ」
束さんはカナとは反対側の腕に抱きついてきた。
「私だって譲る気は毛頭ありませんし、世界的指名手配の人にゆっくんは渡せません!!」
「私は何も悪いことはしてないよ! ゆーくんと結婚して毎日ハネムーンなんだから!!」
「逃避行の間違いでしょ!!」
裕の腕に抱きつき互いの意見を言い合う楯無と束。
呆れて額に手を当てる千冬。
どうしたらいいのか解らずオロオロする真耶。
やりとりを唖然として見る生徒。
そしてこの時、海から招かれざる者、アンデッド『ドリルシェル』が迫っていることを『崖の上』にいる者以外、誰も知らずにいた。
というわけで束さんを裕のヒロインに入れちゃいました。
もちろんメインヒロインは楯無ですが、原作の奪い合うとは違い。
裕が好きなことをはっきりと言葉と行動で示して奪い合うのも良いかと思ってしました。