4月20日。ガンブレ学園にて午後8時45分。
学園閉鎖15分前。多目的ホール裏にて。
「そういうわけよ。頼めるかしら」
「獲物が少しばかり多いな……しっかりと報酬は弾むんだろうな?」
2人の男女の生徒がひっそりと話し合いをしている。
学園に配置されている監視カメラの死角だ。生徒のほとんどが下校し、見回りの警備員も準備中のため、人の気配がほとんど感じられない時間帯だ。
「前払いよ。これでどうかしら?」
「ほーう、中々思い切った額をくれるじゃねーか。報酬がパーツじゃない当たり、俺の事をよくわかってやがるな」
「いいから早く動きなさい……成功すれば、それの10倍なんて余裕で払ってあげるわよ」
「充分だな。むしろお釣りが出る。まあ、全額貰うがな」
男子生徒はニヤケ面を止めることが出来ない。
茶封筒を自身の制服の胸ポケットにしまい込むと、多目的ホール裏から姿を消していく。
「頼むわよ……“ガンブレ学園の壊し屋さん”?」
「任せなよ」
お互いに背を向け、その場から立ち去る。
「俺が壊せなかったガンプラは、お前さん含めたトップフォー以外にないからな」
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4月21日。放課後。
ガンブレ学園より、徒歩15分ほどの距離の離れた市民ホールにて。
「これで終わり」
「ぐわっ!?」
市民ホールには体育館同様のスペースが数か所用意されている。その中にはガンプラビルダー専用のスペースも当然用意されている。
広々とした空間にて、4つ以上のバトルエリアが用意されている。そこでは、ショウタ率いる学園ルール反対派の生徒たちが一斉に集まりガンプラバトルを楽しんでいた。
新たなメンバー、アマナツキヨを中心に加えて。
「くっそぉ! 負けた!」
「すげーな、もう10人抜きだぜ!」
そこにはバトルポイントやパーツをかけた死に物狂いの血生臭さは存在しない。お互いにガンプラを楽しみ、自慢のガンプラを見せ合いながらのバトル。
「やるねぇ、ツキヨちゃん」
そう、今回は歓迎会。
「うん、本当に強い」
ヒカリをこのグループに連れてきたときと同じように、ツキヨを歓迎するためのガンプラバトルの会を企画していたのである。
ショウタの父親はこの辺りでは顔が広く、パイプもかなり大きい。
少しばかり親に無理を承知で頼んでもらい、市民ホールのバトルエリアを2時間ほど貸し切りで使わせてもらえることになったのだ。
風紀委員の手により使用不可能となった自分たちのバトルエリア。
でもせめて歓迎会くらいはしたいという気持ちがあり、親に何度も頭を下げてどうにか歓迎会にこぎつけたのだ。
ガンプラバトル会にてツキヨは連続勝利。
早速その強さを見せつけ、同時に完成度の高いガンプラを披露していた。
自慢の相棒、Re:0の姿を。
「すごいなツキヨちゃん! すっごく強い!」
「しかもガンプラも綺麗だし、戦い方も恰好いい! 憧れちゃう!」
「ねぇ、MA形態の時にGNフィールドを張ってたけど、あれどうやってカスタマイズしたんだ!?」
ものの数秒でツキヨはあっという間に人気者。
このグループのアイドル的な存在……いや、それよりはマスコットか?
早速同級生の皆から可愛がられていた。
「あわわわわわ……」
ごちゃごちゃとした質問の数に押し寄せてくる人の波。
騒がしいことに慣れていないツキヨは当然戸惑っていた。心なしか、病弱な体も相成って顔色が少しばかり悪くなり始めている。
「おいおい、最初に言ったことを忘れたか! ツキヨちゃんは体が弱いから、あまり乱雑にするなよって言っただろー? 質問をするのなら一人ずつ、な?」
そろそろ助けに入らないとまずいと感じたのでショウタは救助に入った。
「よしよし、大丈夫か?」
「ありがとう、ショウタ」
無理をしながらも笑みを浮かべてくれるツキヨちゃん。まさに幼き天使、といった感じだ。
ショウタも思わずつられて笑みを浮かべてしまう。
「俺も戦ってみたいよぉ! ねぇー、いい~?」
「まあ落ち着けって。ちょっと疲れてるみたいだから休憩を挟もう」
いったん落ち着けと皆を宥める。
ツキヨも連戦で少し疲れているのは事実。10分くらいの水分補給などを挟むことを提案した。
「……次の場所がいつ見つかるかは分からない。だから焦る、って気持ちは分かる。だが一旦リラックス、な?」
そうだ、市民ホールのバトルエリアは本来はオープンスペース。老若男女のビルダーが楽しむために自由に使われている空間のため、こう何度も貸し切りをすることは不可能と考えた方がいい。
今回だけ特別なのだ。
本来なら、2時間もこの空間を学生たちだけが貸切るということは難しい。本来このスペースを貸し切り使っているのはプロのビルダーチームの合宿だったり、近所のガンプラ同好会の交流会だったりなど、そういった集会で使用するのである。
「早いとこ次の場所見つけないとな~」
「でも学園の方は風紀委員が目を光らせてるし、しばらくは迂闊に動けないってのもなぁ」
間も明けずに違反を連続で行えば、自分たちが標的にされかねない。
今回は自分たちなど比べ物にならない重罪を犯した男子生徒の処理が忙しいため、見逃してもらったのだ。その猶予を与えられてる状態で違反を犯すには非常に勇気がいる。
風紀委員に逆らうことは学園に逆らうこと。
彼らに目を付けられるのは、ビルダーの夢の崩壊を意味しているのだ。
「まっ、ボチボチ探そうじゃないの! なぁ、ツキヨちゃん、今度は俺と戦ってくれないか? 休憩が終わったらさ」
「うん、いいよ」
疲れている様子ではあるが楽しんでくれているようだ。
無理をして親に頭を下げた甲斐があったというもの。ショウタはそう胸を張って、少女の笑顔を誇りに思っていた。
「俺はちょっとトイレに行ってくる」
ヒカリは一度トイレへと向かった。
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「ふぅ」
トイレを終えたヒカリはしっかりと手を洗い、タオルと乾燥機で乾かしたところでバトルエリアのあるオープンスペースへと戻ることに。
……オープンスペースに向かう途中、ビルダー専用の多目的室や広場がいくつかあったのだが、そこにはかなりの数のビルダーが自身のガンプラを作り上げていた。
若い男女は子供だけじゃない、中には、初代のアニメを当時から見ていたであろうお爺さんもおり、ガンプラという文化は年齢を選ばないという凄さを実感する。
そして同時に、ガンプラが如何に世界で影響を与えた文化であるかということも。
自分もサンダーボルトガンダムを動かしたい。
自分もツキヨの白いガイアとは戦ってみたい。
一体どのようなパフォーマンスを見せてくれるのかとウキウキが止まらないでいた。
自然と無関心な表情が緩くなる。
自然とスキップをしながら、オープンスペースへと戻っていく。
「えっ! 今日の集まりは見学禁止ってことっすか!?」
受付の前。
ヒカリはそこで足を止める。
「うん、ごめんねぇ。ちょっと向こう側で都合があるらしくて、メンバー以外は入れたくないみたいなんだ」
今回はグループだけの歓迎会。
そこをつけ狙って、在学生どもにパーツ狩りをされては困る。今回ばかりはと念を入れて防御を固めていた。
「うわわぁ、それは残念……」
受付前で落胆する少女。
……ガンブレ学園の制服を着ている。
少し薄い茶色の長髪に眼鏡をかけた少女。眼鏡越しでもわかるが少しばかり可憐な印象が伝わってくる。
「あれ、この人」
ヒカリはその人物に見覚えがあった。
「確か……同じクラスの人だっけ」
ヒカリは腕をポンと叩いて思い出していた。
そう、学園初登校の日。最初のホームルームにて生徒全員に簡易的な自己紹介をしてもらうよう言われていた。
ガンプラを奪い合うかもしれない関係はと言え、仮にも同じ学び舎でガンプラビルダーとしての勉強をしていく仲間なのだから、挨拶くらいはという先生からのお告げだった。
ちなみにヒカリは随分と質素な自己紹介だった。
カナタヒカリ。16歳。よろしくお願いします。
たったこれだけであった。
まあ彼らしいと言ったら彼らしい。着飾りもしなければ、大胆無謀な夢を口にしたりもしない。抑揚もクソもない超簡易的な自己紹介であったが、正直彼らしいと言ったら彼らしい。
そんな中、自己紹介をしている生徒の中にこの人がいたのを覚えている。
何事にも無関心。中学生時代も友達以外は顔をあまり覚えていなかったようなヒカリが
何故、この人の事を覚えていたのかは少しばかり理由があった。
「ねぇ、君」
「あ、ひゃい! にゃんでしょう!?」
思いっきりテンション高くテンパっていたのだ。
たった今、自身に返答したときと同じように自己紹介の時も完全に上がりきっていた。
緊張のあまり滑舌も絶望的だったし、先生に声をかけられたときもこんな感じで噛んだ後に全力で謝っていた。
あまりにもその姿のインパクトが強すぎて、この人だけ覚えてしまったのである。
「あれ、貴方は確か同じクラスの」
どうやら向こう側もヒカリを覚えているようである。
「すっごい質素な自己紹介してた人」
「悪かったな、質素で」
ほほを膨らませてヒカリはいじけていた。
あれだけ簡易的すぎる自己紹介が逆に皆の印象に残ったようだ。クールなのかドライなのか分からない謎の生徒として。
「えっと、コミネさんだっけ」
「はい! コミネです! コミネサクラです!」
ずれた眼鏡を戻してから自身の名前を改めて自己紹介した。
「……ガンプラバトルが見たいの?」
「え……あっ! はいっ!」
せっかく正した眼鏡がまたズレてしまっていた。
テンションが高いが情緒不安定。少し変わった子だなと、『お前が言うな』とショウタが言い出しそうなことをヒカリは考えていた。
新入生。自分と同じクラス。
在学生ではないため、パーツ狩りなどをやっている人には見えない。
「大丈夫よ。その子、君たちが嫌っているような子とは違うから」
パーツ狩り。その影響はこの市民ホールにすらやってくる。
そのため、市民ホールでは裏でブラックリストのようなものを作っているのだが、このコミネサクラという人物はそこに加えるような悪どい人ではないことを受付のお姉さんが口にする。
「……ショウタと話してみようか? バトルを見たいっていう人がいるって」
「いいんですか!?」
サクラは自分の肩に手をのせてくる。
目をキラキラ輝かせながらこちらに近寄ってくる。ぐいぐいと迫ってくる姿に流石のヒカリも引き気味であった。
……勢いで押されそうになったヒカリは冷静になる。
「うん」
受付のおねえさんの言う通り、この子が悪い人には全然見えない。
変わった人ではあるが妙な事を考えてる人ではなさそうだ。
ヒカリは彼女を連れて、オープンスペースまで向かっていった。