「ふむふむなるほど……よしよし、うむうむ……よっしゃ!OKだ!」
受付前にてビルダー同士のバトルを見たいというサクラの願いを叶えるためにショウタと相談。
ヒカリから話を聞くこと数秒、意外とあっさり許可が下りた。
「いいの?」
「ああ、大丈夫だ。お前や受付のお姉さんの言う通り、パーツ狩りをするような奴には見えないしな」
今まで見てきたパーツ狩りを行う生徒たちと違って、この子からはそのような雰囲気を感じない。
そもそもこの子はヒカリと同じ新入生。それに受付のお姉さんも大丈夫と口にしていたのでそこの部分は安心しても大丈夫だろう。
「OKだって」
「うわぁ! ありがとうございますっ!」
サクラは嬉しいのかピョンとウサギのように一回跳ねた。
天真爛漫な笑顔から嬉しさが伝わってくる。
「そんじゃツキヨちゃん。はじめるかい?」
「うん、いいよ」
ツキヨはRe:0を取り出す。
休憩中に再調整、そして汚れを拭き取ったりしていたおかげか連戦後とは思えないくらい綺麗になっている。彼女のマメな整備の証拠である。
ショウタが取り出したジム・カラッテレは今まで見てきた装備とは違う見た目になっていた。
今まで見てきた装備はソリッドキャノンアーマーという後方支援の砲撃型であったが、今回は必要最低限のアーマーにビームサーベルやマシンガンだけといった、高機動型装備。
サンダーボルトガンダムに近い装甲。
その装備の名前は、ブリッツアーマーだそうだ。
ジム・カラッテレは集団戦闘を意識している機体ということもあり、機動型に調整されているこの装備は先行して奇襲を仕掛け、敵のヘイトを集めるという役割を補うコンセプトとなっている。
ただ今回は特例。
機動にも優れているRe:0が相手な上に一対一。後方支援は防御特化なだけあって後れを取ってしまうため、彼の言う4つある装備のうち、このブリッツアーマーを選択したようだ。一対一ということもあり、今回だけ特別にミサイルポッドを装備したようだ。
2人はバーチャルで再現されたコックピットの中へと入っていく。
それぞれガンプラをセットすると、バトルフィールドが展開され、バーチャルで再現されたリアルな戦場の中でジム・カラッテレとRe:0が姿を現した。
「それじゃ! バトル開始っ!!」
メンバーの一人が試合開始の号令を上げた。
それぞれシンプルな装備だけあって余計な装飾をつけていない。2体の戦闘は見るも鮮やかな高速戦闘となり、サーベル同士がぶつかり合い、サーベルのビームが花火のように飛び散る。
自身のガンプラへの熱意と思いを乗せたツキヨのRe:0、ジムへの愛をこれでもかと放り込んだジム・カラッテレ。
ただ破壊することを目的としたコンセプトで作られたガンプラじゃない2体。ガンプラを楽しむことを前提として作られた2体の戦いは、見る者全てを虜にしていく。
「うわぁ……」
現にサクラもその勝負には視線を釘付けにされていた。
シンプルなカッコよさを誇るジム・カラッテレ、見た目だけでなく戦闘さえも綺麗であるRe:0。2体の戦いは次第にクライマックスを迎えていく。
「もらったぜ!」
「甘い……!」
ジム・カラッテレのビームサーベルの一撃。確実に隙をついたはずの致命的一撃が鮮やかに回避される。
「まじか!?」
「はっ!」
Re:0のビームサーベルがジム・カラッテレの右腕。ビームサーベルを持つ右腕を切り離した。
「かぁ~! 俺の負けかぁ!」
ショウタは潔く負けを認めた。
隙を突いたはずであったが、隙を作られたのは自分の方だったと痛感したからだ。
自分はまんまと罠に嵌められたのである。ショウタはそう思う。
一瞬だけみせた隙はブラフ。反射神経が良いとかそういうレベルじゃない回避を行った動きから推測するにこちらを誘い込んだことが伺えた。
右腕の捥げてしまったジム・カラッテレをショウタは回収した。
「ビックリしたぜ。見事に嵌められたよ」
「ショウタもすごかった。あなたのジム、本当によく作りこまれてる」
ジムはやられ役なんかじゃない。縁の下の力持ちというところを見せてやる。
その熱意がツキヨのハートに伝わってきたようだ。今回の戦闘を通じて改めて。
「どうだった?」
ヒカリは横で震えているサクラに声をかける。
「感動しました!!」
サクラはちょっとばかりオーバーじゃないかと言えるようなリアクションで2人の元へ近寄っていく。
「お二人とも素晴らしい勝負でした! あんな綺麗なガンプラの戦いを間近で見れるなんて……私は幸せ者です!」
目をキラキラさせながら、ぐいぐいと近寄ってくるサクラの姿に2人は少し困惑する。
ショウタの場合照れてる様子もある。ジムが褒められて素直に嬉しかったのだろう。
ツキヨは目の前でギャーギャー騒がれてることに少し目を回していた。何度も言っているが、彼女はこういう騒がしいことには慣れていない。
「どうだ、お前もやってみるか? ガンプラバトル」
どうせなら見ていくだけじゃなくてガンプラバトルもしたらどうだと口にする。
せっかく遊びに来てくれたのだ。
いい機会だし、間近でもっと楽しむために実際に戦場へ足を踏み入れるのもアリではないかと。
「ああ、いや、実は……」
人差し指同士をツンツンさせながらサクラは申し訳なさそうに呟く。
「私、ガンプラもっていなくて」
ガンブレ学園の生徒、そしてここまでのガンプラバトルへの興味。
てっきりガンプラの一つでもあるかと思ったがもっていないようだ。
「私、子供のころからガンダムが大好きで。自分もモビルスーツに乗ってみたいなって願望があったのですが……そこでガンプラビルダーの存在を知って。私も自分だけの機体で遊びたいって夢をもって! そのためにガンブレ学園に入学したのです!」
「じゃあ、作ってみればいいじゃん」
「いや、その……」
これまた人差し指同士をつんつんさせる。
「私なんかがガンプラを作って皆さんと同じような場に立つのは……少しおこがましいというか、立場をわきまえろというか……」
天真爛漫かつテンションが高い。
スキンシップも割と気にせず取ってきた割には変なところで謙虚な子であった。
言い方が尖りすぎているが、滑らかに言えば、自分なんかにガンプラ造りが出来るのだろうかと不安に思っているのだろう。
情けないガンプラを作って恥をかくだけではないだろうかと。自分がガンプラバトルの世界に泥を塗るような真似をしちゃうのではないかと。
謙虚というか臆病なところだ。
「関係ないっ!」
ショウタはサクラの両肩を掴む。
「ひゃぁっ!?」
「ガンプラの世界は来るもの拒まずだぜ! 特にお前のようにガンダムが大好きな奴は大歓迎! ただ見てるだけなんて勿体ないぜ!」
「え、えっと、あの……」
ショウタは目の前にいる少女に少しヒカリの面影を感じたのだろう。
年下の後輩で可愛い弟分……いや、女の子だから妹分という方が正しいか。
ショウタは年下の少女に、遠慮せずに遊びに来いよと猫なで声で誘いをかける。いや、むしろ逃がしはしないと少女の肩をガッシリ掴んでいた。ガンダムアシュタロンのアトミックシザースも顔負けな握力で。
「ショウタ、その子怯えてる」
さすがに怯えてるのがわかったのでヒカリが助けに入った。
「よっしゃ! せっかくだし今から作らないか!? 歓迎会もちょうどいい区切りだし、今からガンプラ造りの時間に入っても!」
ガンプラバトルも随分と楽しんだ。
あと1時間くらい時間もある。ガンプラビルダーの楽しみはガンプラを作ることに価値がある。
新しいガンプラの構成や自身のガンプラの武器の開発。今からそんな時間を設けようというショウタの発案には皆が賛成した。
「えっと……」
「一緒に作ろう?」
ツキヨもサクラに誘いをかけた。
「……はい!」
ここまで善意的な誘いをかけられ歓迎されている。
サクラの胸の中で過ぎっていた不安も一気に消え去ったようだ。
「私の事はサクラとお呼びください!」
改めて自己紹介もしておき、後輩らしく気軽に呼んでほしいと口にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一同は広場の隅っこへと移動し、それぞれガンプラの制作にかかりはじめる。
「そういえば、お前は何を作りたいんだ」
「えっと、それはですね……」
恥ずかしいのか少し戸惑っている。
……彼女の持つ手提げ袋に少しだが膨らみがある。
ショウタはその袋の膨らみ方からして、その袋の中には何があるのかを瞬時に理解した。
ガンプラの箱だ。
ショウタはテーブルに置いてあった手提げ袋から問答無用でガンプラの箱を引き抜いた。
「ほほう、これか」
出てきたガンプラはファルシアであった。
ファルシアは機動戦士ガンダムAGEで登場するモビルスーツ。アニメ本編では初めてビット兵器を使用した機体である。
当時は可愛すぎる見た目に衝撃を受けた視聴者も多かったとかなんとか。見た目が女の子のイメージのようなモビルスーツはノーベルガンダム以来か。
いや、あれはモビルスーツじゃなくてモビルファイターだから、モビルスーツとして加算していいかは謎だけど。
現にヒカリも箱を興味良さげに眺めている。
こういう可愛いモビルスーツも存在するのかと少々驚いてもいるようだ。
「どんな機体を作りたいんだ?」
「えっと……このような機体を」
ガンプラの箱が入っていた手提げ袋の中には、別でスケッチブックが入っていた。
スケッチブックを開くと、彼女だけのオリジナルファルシアのデザインや武器の発案などが綺麗なイラストで描かれている。
「あの、どうですかね?」
不安げな表情でスケッチブックを眺めるショウタとツキヨをのぞき込む。
「面白いじゃねーか! 作り甲斐があるぜ!」
「すごく可愛いわ」
ショウタとツキヨもスケッチブックに描かれていたデザインにはなかなかの好感触。
それにほっとしたサクラの表情にも笑顔が戻る。
「んじゃあ、さっそく作ってみるか」
「作り方は私が教えるね」
ショウタは初心者には難しいフルスクラッチの武器の作成とそのやり方。
素体としての作り方をツキヨが手取り足取り教える形となった。
(……俺も何か作れないかな?)
ヒカリもサンダーボルトガンダムを眺めて呟いた。
自分にももう少し。
自分の手でコイツに手を加えてやれないかと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40分後。
「出来たっ!」
「仕上げも完璧」
ショウタとツキヨが自分の事のように嬉し気な声を上げる。
ようやく完成したようだ。
コミネサクラが数年の間、実現を夢見ていたオリジナルデザインのファルシア。
その姿はようやくお披露目される。
「わぁああ……!」
自分だけのファルシアの実現。
そして自分がガンプラを作ったという事実。
その喜びで思わず笑顔があふれる。
嬉しさのあまり涙も流してしまうほどに。
彼女がデザインしたオリジナルのこの機体の名前はライラックファルシア。
まずピンク統一だったファルシアのカラーは薄い紫のようなカラーリングに。
武器は通常のファルシア同様、胸から放出されるビーム砲に数基のビット兵器。
そして彼女のファルシアにだけ追加されているオリジナル兵器。
ファルシアといえば、足元にあるお立ち台。
元々は機動力の低いファルシアの問題点を解決させるために追加されているベースである。
そのベースを……足ではなくバックパックのように装着。
しかも特徴的なのはそれだけじゃない。
なんとこのお立ち台そのものも巨大なビットとして使用できる。
マザーファンネルに近い立ち位置となったファルシアベースは、ビーム刃を形成して相手に襲撃をかける装備に。ラフレシアのバグに近い装備と言えばわかりやすいだろうか。
「ありがとうございます! このお礼はいつか必ず……!」
「いいんだよ、その笑顔だけで充分ご褒美だぜ」
そんなに喜んでもらえたなら作った甲斐がある。
ショウタもツキヨも喜んでいた。
「どうよ、お前も俺たちのところに来ないか?」
ガンプラを楽しむため、うちのグループに遊びに来ないかと彼女を誘う。
「……ガンブレ学園の事、少しは知ってると思うしさ」
サクラも知っていた。
1週間も学園にいれば、その実態は嫌でも思い知ることになる。
パーツを奪い合い、強者だけが生き残る。
そんな本物の戦場のような場所であるということを。
「うちに来いよ! 毎日ガンプラ楽しめるぜ!」
「本当ですか!」
サクラの目が輝く。
楽しめる。毎日ガンプラで遊ばせてくれる。
これには彼女も大喜びだ。
「おいおいショウタ。歓迎するのは俺たちも賛成だが、毎日遊べるっていうのは少しばかり語弊があるぜ?」
「そうそう、俺たちにはスペースがないんだぞ?」
「あっ、そうだった!」
そこで痛恨的なことを思い出す。
そうだ、今の自分たちにはガンプラバトルを行うためのスペースがない。
市民ホールも頻繁に貸し切りが出来るわけじゃない。それにどこの施設も基本的には使用中のため、こうしてみんなで集まる機会も減少する。
学園にも集まれるようなスペースが見つかる気配がない。少なくとも、風紀委員の目が黒いうちはほぼ不可能だろう。
「くぅ~……せめて、場所があれば」
「あ、あの~」
サクラは小さく手を上げる。
「ガンプラバトルをする場所が欲しいんですか?」
「ああ、そうだが」
「……よろしかったら、うちにあるバトルスペース使います?」
一同の目が開く。
今、ものすごく救われるような言葉をこの子は口にしたような?
「えっと、今なんて?」
「よろしければ私の家のバトルスペースをお使いに……自分の家、小さな中華料理店なんですけど、料理を待ってる間の暇つぶしにって、ビリヤードとガンプラのバトルスペースを設けているんですよ~」
照れくさそうに笑いながら、サクラは口にする。
「まあ、ビリヤードの方は近くにレジャー施設があるから滅多に人が来ないし、バトルスペースも別の場所があるしで……とまあ、このようにあまり人も来ないから、よろしければ皆さんでお使いに」
「ぜひともお願いいたしまする!!」
ショウタはその場にて土下座でお願いした。
見事なまでに綺麗に鮮やかな土下座であった。
「本当にいいのか!?」
「助かる!」
「お願いします! ぜひともお願いしますっ!」
「皆さんがよろしければ……ただ、一度お父さんと相談してからですが」
「「「「よっしゃぁああああッ!!!!」」」」
全員一斉にガッツポーズ。
「またガンプラで楽しめる……!」
ツキヨも嬉しそうに表情を浮かべる。
「ありがとう、サクラ」
ヒカリもすかさずお礼を挟んだ。本来ならリーダーである彼がするべきであるが、メンバーたちに胴上げをされているあの状況ではそれは叶わない。
「いえ、あははは……」
あんなに喜ばれるとは思っていなかった。
サクラは少し戸惑いながら照れ笑いをしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
市民ホールバトルスペース外。
「なかなか盛り上がってるじゃないか」
フードを被り、マスクをつけた男子生徒が一人。
市民ホールから聞こえてくる歓声に耳を傾けている。
「まあ、今のうちに楽しんでろ」
その歓声を背に、男は立ち去っていく。
「お母さんっ! 僕のガンプラが突然ドカーンって……!」
「うわぁあああん! 僕のガンプラが粉々ぁっ!!」
「大事にしてたんだよ! 僕、ガンプラに何もしてないもん! いきなり壊れたんだもん!!」
幼稚園児か小学生くらいの子供たちの鳴き声、叫び声。
聞いてて胸を痛めるような声が一緒に聞こえてくる。
「……ひひっ」
その声を耳にした男は……笑みを浮かべていた。