後日、ガンブレ学園の昼休みにて。
ヒカリ、ショウタ、ツキヨの3人は朝のホームルーム前に屋上へと集結していた。
この時間なら屋上には誰もいない。パーツ狩りを行う高学年の存在もないため、その時間帯を狙って集合する。
そう、3人がこの場へ集結した理由はただ一つ。
「例の件ですが……」
3人以外にももう一人生徒がいる。
コミネサクラ。
先日、ショウタのグループに入った新入生だ。
3人が彼女から待っている言葉。それはただ一つ。
「OK出ました!!」
「よっしゃァッ!」
サクラの実家である小さな中華料理店。そこには料理が出る前までの娯楽として、ガンプラバトルを行うための自家製バトルスペースがあるというのだ。
ここ最近は客の出も悪いから使ってもいいかと、昨日の歓迎会の後に親と相談したようだ。
その結果、無事に許可は下りたようである。
これでショウタのグループも無事、放課後にガンプラバトルを行うための遊び場が出来たというわけである。
「よかったね」
「うん、よかった」
ヒカリとツキヨも喜んだ。
これでしばらくはパーツ狩り上級生や風紀委員の目も気にすることなくバトルを行える。
「ただし! ひとつ条件があります!」
この流れ、やはりタダでは貸せないという事か。
学園の生徒たちが満足いくまでにガンプラバトルやガンプラ制作を楽しむとなれば、当然長時間はその場所を借りることになる。少なくとも結果的に占領することになるのだ。
となれば条件が出るのも当然か。
「来たときにでもいいのでうちの店の料理を食べてほしいとのことです! すなわち、レンタル料ってことですね」
レンタル料代わりに中華料理店として利用していただきたいとのことだった。
これが交換条件である。
「おう、いいぜ! たらふく頂いてやるよ!」
それくらいの条件なら大丈夫だ。
サクラの話では彼女の店の料理はどれも1000円を超えることはないリーズナブルな値段の料理ばかり。その料理一品だけで長時間バトルスペースを貸してくれるというのなら太っ腹もいいところである。
何度か利用してくれるだけでいいという条件に一同は当然賛同する。
「じゃあ、早速放課後に向かってみる?」
ヒカリも自分たちの居場所が出来たことに喜んでいるようだ。
「おう! 勿論だ!」
善は急げである。
今日の授業がすべて終わったら早速サクラの親父さんが経営している中華料理屋に向かうとしよう。メンバーの何人に連絡を入れて、早速新しいバトルスペースが出来た事への祝勝祝いだ。
「……了解っと」
そんな4人の様子を遠目で見ている男子生徒の気配。
「あっという間にバラしてやるよ」
壊し屋と呼ばれた生徒。何者かに雇われた少年は笑み浮かべてその場を後にした。放課後の仕事に備えて早速準備をしなくては。
『カナタヒカリにアマナツキヨ、そしてサクマショウタ。奴らのガンプラを木っ端微塵に破壊してしまえ』
破壊するのはガンプラだけというのは少しばかり生温い気がする。
あの人物は相当キレていた。その3人の存在が非常に気に入らない様子だった。
この男はそう分析している。
となれば……ガンプラ以外にも、グループや居場所もぶっ壊してしまえば報酬にボーナスがつくのではないのだろうか。
想像するだけでニヤニヤが止まらない。
壊し屋の男は放課後の惨事を楽しみにしながらその場を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後。
商店街の大通りから少し外れた小道にある小さな中華料理店、その名は桜坂。
なんで中華料理店なのに日本語の店名にしたのかとツッコミを入れたくなるが、そんな野暮なツッコミはスルーしちゃうことにして一同は店内へ。
「へい、らっっしゃい! 待ってたよ!」
お店の中に入ると頭にタオルを巻いた少しイカつい雰囲気のお兄さんがお出迎えをする。
この人がサクラの親父さんだそうだ。ドスの利いた声から、そういった仕事柄の人なのかと勘違いしてしまいそうだが、サクラ曰く普通に優しいお父さんだとのこと。
「本当にありがとうございます! バトルスペースを貸してくれて!」
グループを代表してショウタがお礼を言う。
「バトルスペースは綺麗にしといたから! 好きに使ってくれい!」
「よっしゃ! お前ら行くぜぇ!」
ショウタ達は朝通勤前の駅のラッシュアワーも顔負けの勢いでお店の奥にあるバトルスペースへと突入していった。
「あっ、ショウタ。レンタル料」
「はっはっは! 大丈夫大丈夫、いっぱい遊んだ後にでも晩飯代わりで!」
心の広いおやっさんで助かった。
「ヒカリも行く?」
「あ、いや、ちょっと何か食べてから行く。話したいこともあるし」
少し用事があるのでここに残ると一言。
「じゃあ、行こう。サクラ」
「はい! ご指導のほどお願いするっす!」
サクラとツキヨも二人仲良くバトルスペースへと向かっていった。
「ラーメン一つお願いします」
「あいよ!」
お腹が空いてるのは確かである。腹が減っては戦は出来ぬというし、体を動かす前に栄養補給だ。
「……本当にありがとうございました。場所を貸してくれて」
「いいんだよ。うちのサクラが世話になったみたいだからな! そのお礼ってことさ! まっ、このお店ここ最近お客さんが入らないから客寄せのためって寸法もあるんだがな!」
サクラの親父さんは大笑いしている。
なんというかサクラのお父さんというにはイメージがかなりかけ離れている気がする。こっちはサクラと似てるところはテンションの高いところだが、豪快なところとか似通っていない場所がほとんどである。
もしや、サクラは母親似なのだろうか。
ちなみにサクラの母親は近くの本屋で働いているらしい。このお店の経営が少し厳しいみたいで稼ぎに向かっているようだ。
「別に気を遣わなくてもいいんだよ? 遊んできても」
「いえ、お腹が空いてるのは事実ですし、それにちゃんとお礼をしたくて」
ショウタはテンションが上がると肝心なことを忘れることも多かった。
中学生時代になってからはショウタの代わりにヒカリがお礼をしたりすることが多かったのだ。
「ははっ! 出来た子だねぇ! そんな良く出来た学生さんにはおまけしてやろう!」
テーブルの上にチャーシューとメンマが普通よりも多くトッピングされたラーメンが置かれた。
豚骨の良い匂いがする。さっきまで空腹だったお腹も悲鳴を上げ始め、早く食べろと体に鞭を入れ始める。
「いただきます」
ラーメンを静かにすすった。
美味い。
さっぱりしてるけど濃厚な味。チャーシューも醤油がしみ込んでて箸がすすむ。
とにかく美味い。
レポーターでも何でもないので、美味い以外に言葉が見つからないのはご愛嬌。
「美味しいです」
「そうかい! それはよかった!」
……しかし同時に思う。
これだけ美味しいラーメンにガンプラのバトルスペースとかあるのに、どうして客の出入りが少ないんだろう。
サクラとその親父さんが言うにもここ最近の客の入りはかなり悪いと聞いている。
「……客の入りが少ないの、やっぱり気になるかい?」
「いえ、そういうわけでは」
「隠さなくていいんだよ。表情に出てるって」
どうやら自分の視線が店内の様子を眺めるように動いていたために察してしまったようだ。
ヒカリは少しばかり失礼なことをしてしまった気分になってしまった。
「実はな、このお店でもアンタの学園の生徒が入り浸ることが多い時期があってね。パーツ狩りとかやって追い返してたんだよ。それからは客の入りが少し悪くなってな。営業妨害だから辞めろって言ったんだけど、そいつら全然どく気配が見えなくてなぁ」
煙草を吸い、新聞の競馬情報を眺めながらラジオの電源を入れる。
投票したレースが今から始まるようである。
「いっそのことバトルスペースを畳むかって思ったんだけどよ。その時にうちの常連のお坊ちゃんがガンプラバトルでそいつらを追い返してくれたんだよ」
「お坊ちゃん?」
「ああ、ちょっと離れたところに住んでるお金持ちみたいなんだが、執事のおじさんと良くうちのお店に遊びに来るんだよ。確か、去年あたりでガンブレ学園に入ったんだっけか?」
ガンブレ学園の生徒の誰かがここを利用しているのか。
ラーメンをすすりながら親父さんの話に耳を傾ける。
「そいつ、パーツ狩りを見ていて快くないって言って、パーツ狩りの生徒を片っ端から追い返してくれたんだよ。本当、あの子には感謝してるよ」
それ以降はパーツ狩りを行う生徒は一切ここへ寄らなくなったようである。
パーツ狩りを行う非道な輩を追い返したというお坊ちゃん。
一体どのような生徒なのか是非一度会ってみたいものである。
しかもパーツ狩りを得意とする上級生を相手に一人で挑んだように見える。それで追い返す発言ができるほどの圧勝を飾ってるとなれば結構な腕の持ち主であることも伺える。
「だが、そこから更に客の入りが悪くなってなぁ~。たぶん、追い出された生徒が腹いせに悪評を広めたんだろうな。全く、往生際が悪いったらありゃしないぜ。おかげでうちに来るのは商店街の集まりで仲良くさせてもらってる爺さん婆さんと友人くらいになっちまったよ」
それで客の入りが悪くなったのか。
それでもバトルスペースを開けたままなのは、その常連のおぼっちゃまの心からのお願いだそうだ。
「とまあ、そういうわけだから、お店のために御贔屓のほどを頼むぜ?」
「正直な店長さんですね」
「はっは! 兄ちゃん程じゃないよ!」
ラーメンも食べ終わり、ラーメン代をしっかり支払う。
今日のバトルスペースのレンタル代だ。
「じゃあ、早速」
「誰なんだ!」
バトルスペースから声が聞こえてくる。
この声はショウタの声だ。
「お前一体何をしに来やがった!」
何か騒ぎが起きている。
ヒカリは慌てて店の奥へと向かっていった。
「俺の仲間のガンプラに何をしようとしやがった!」
……ショウタが一人の生徒に向かって怒鳴っている。
マスクとフードで素顔を隠したガンブレ学園の制服を着た少年。
怪しげな男に向かってショウタは怒りを露わにしていた。