NEWガンダムブレイカー ~イナズマ戦線~   作:WILLΛ

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12話「戦慄のキラーマシン(前編)」

 

 数分前。中華料理屋「桜坂」前にて。

 

 

「よっし集まったな!」

 約束通りの集合時間まで時間は遡る。

 一同は学校が終わってすぐに現地集合とした。新しいバトルスペースでバトル三昧に洒落込もうというショウタの意見に賛同したメンバーが集結。

 

 その数は15人にも渡った。

 

 こんな大人数で押しかけても大丈夫なのだろうかというヒカリやツキヨの不安など目もくれず、ショウタは話を進めている。

 

 

「ああ、あとそれと……サクラと同じ新入生も何人か連れてきたぜ。学園のシステムに痛い目にあわされた奴らだ」

 

 ショウタとその仲間はパーツ狩りにあって痛い目を見た新入生たちにも何人か声をかけていた。

 純粋にガンプラを楽しみたい人達。その気持ちを持つものだけを集め、楽しいガンプラライフをエンジョイさせようという願いを込めて。

 

 

「んじゃ、入るとするか!」

 

 一同は中華料理店の看板をくぐる。

 

 

(ちょろいな)

 しかし、その中に紛れ込んでいたのだ。

 

 楽しいガンプラライフをエンジョイしようとしている新入生たち、そして在学生達の敵である存在……パーツ狩りよりもタチの悪い男が。

 

 カナタヒカリ。アマナツキヨ。サクマショウタ。

 そして、その3人が身を隠しているグループ。

 

 大量の報酬を得るために全てをぶっ壊そうとする悪魔の壊し屋。

 その男は素顔を隠し、新入生と嘘をついて一同に紛れ込んだのである。

 

 侵入は見事に成功。あとはゆっくり見図るだけだ。

 依頼された奴らのガンプラを壊すタイミングを。

 

 完膚なきまでに破壊してやるつもりだ。

 

 

(ん、確かここって……)

 壊し屋の男はここの中華料理店の名前に見覚えがあった。

 

 ここは確か、パーツ狩りの連中のたまり場だった場所だ。

 謎のガンプラビルダーが現れてパーツ狩りの連中は追い出されて、ほぼ出禁のような扱いを受けて以降は近づかない生徒がほとんどだという。

 

 

(まあいいか。俺はここへ来たことないし)

 咎められる理由もないし、恐れる理由もない。 

 壊し屋は後ろでショウタの挨拶が終わるのを待つ。簡素なお礼と挨拶が完了すると、一同は雪崩れ込むように奥部屋のバトルスペースへと入っていく。

 

 

 小さく寂れたた中華料理屋のお店におまけとして置いてあるスペースにしては中々広く、出来もよろしい。15人という人数も割と余裕で入れるくらいのスペースである。

 

 もうすぐガンプラバトルがスタートする。

 この連中の話によれば、グループのメンバーのみで行うスクランブルとやらがあるそうだ。タイミングを待てば、そこには一斉にガンプラが集結することになるだろう。

 

 そこには間違いなく数体のターゲットも現れる。

 その瞬間、欠片も残さずにぶっ壊すことにしよう。

 

依頼通り、そしてボーナスなどにも狙いをつけて全滅を図る。壊し屋の頭の中で膨らむスケジュール。

思わずヨダレが出てしまいそうである。

 

 

「んじゃ、とっとと始めるか!」

 ショウタの合図とともに何体ものガンプラがフィールドに出現する。

 

 

「それじゃあ、サクラも行ってみるか!」

 

「はい!」

 ショウタの呼びかけに答え、サクラはライラックファルシアを取り出した。

 気のせいか分からないが昨日よりも綺麗になっている気がする。帰った後にでも磨きまくったのだろうか?

 

 それくらいガンプラを大切にしてることにツキヨが気づく。

 ショウタも明らかな変化に気づいたようであり、思わず笑みを浮かべていた。

 

 

 

(丁度いい)

 壊し屋はそっとサクラへと近づいていく。

 

「あの、すみません。そのガンプラ、少し見せてもらっていいですか?」

 

「え、どうしてですか?」

 

「なんか、関節がおかしい気がします。確認を」

 

 

 関節がおかしい? そんなもの嘘に決まっている。

 

 この空間とグループをぶっ壊すのなら何か一手打っておいた方がスムーズに事も進む。その協力者として、この紫色のファルシアを利用させてもらうことにしよう。

 

 細工。少しばかり細工をさせてもらう。

 

 なに、そんなに悪魔じみた細工を施そうというわけではない。

 せいぜい、“バトルステージをぶっ飛ばす爆弾”あたりに姿を変えてもらおうという魂胆ってだけだ。それくらいの手を打っておいた方が仕事もあっという間に終わる。

 

 

 壊し屋の夢想が続く。

 

 そう、この壊し屋は……ガンプラを壊すための細工に関してはプロ級の腕を持つ。

 

 先日、市民ホールにて起きた連続ガンプラ破壊。多くの小学生や幼稚園児、子供たちが大泣きしていたあの事件に関与していたのはこの男だ。

 

 子供が余所見をしている間にガンプラに近づき細工。

 その後は仕掛けた細工が設定した時間に発動。あっという間に内側から吹っ飛ぶように爆発する仕組みだ。

 

 

 このファルシアには昨日、子供たちに仕掛けた細工よりはレベルが数倍も違うものを仕掛けさせてもらおう。

 バトルスペースを消滅させるほどの人間爆弾へと……!

 

 

「えぇ、どこがおかしいんすか?」

 

「ほら、ここのあたりとか」

 

 ファルシアに壊し屋は手を伸ばした。

 

 

「待って」

 しかし、壊し屋の腕はぴたりと止まる。

 

 止められた。何者かに。

 壊し屋は声の下方向へとそっと顔を向ける。

 

 

 小柄の少女。ガンブレ学園の2学年に所属する飛び級入学の女の子。

 アマナツキヨ。自分が依頼されたターゲットの1人だ。

 

 

「……その機体には何もおかしいところはないわ」

 

「えぇ、そうですか?」

 一度、ファルシアに顔を近づけじっと見つめる。

 

 見たフリだ。あくまで、おかしいものがあるかどうかを確認するフリ。

 

 

 ビルダーとしての能力は高いと依頼人からは情報をもらっている。戦闘力の高い、見事な完成度のガンプラを作った人物となれば、こういったことに関しては鋭いか。

 

 

「ああ、本当だ。すみません、気のせいでした」

 頭を掻きながら申し訳なさそうに笑う。

 

 仕方ない。

 ならば、スクランブルとやらで直接叩くことにしよう。

 

 

「……それと一つ」

 ツキヨはマスクと帽子で素顔を隠す男を指さす。

 

 

「あなた、本当に新入生?」

 壊し屋の背筋が凍る。

 

「な、なにを言ってるんだ? 俺は本当に新入生で……」

 

「あなたと同じような人、似たような声をした人を見たことがある」

 見たことがある?

 似たような声をしている?

 

 壊し屋は更に息を呑む。

 

 

「数か月前、交流エリアで沢山のガンプラが欠片も残さず粉砕された事件があった。その事件の犯人の姿と顔、そして声は覚えている」

 

 交流エリア。そこでガンプラ造りを行っていたツキヨのもとで起きた事件。

 パーツ狩りを行う生徒、それとは全く関係のない被害者の生徒たち。

 

 その一同が一体のガンプラビルダーによって圧倒された。

 その姿と顔、そして声をツキヨは覚えているという。

 

 

「まさか、俺だというんですか?」

 

「そうとは言ってない……でも、本当にそうでないなら、証拠に顔を見せてほしい」

 

「……!」

 

 壊し屋は下を向いた。

 

 

 

「誰だ、テメェは!?」

 ショウタはツキヨの声に過剰なまでの反応を示した壊し屋に向かって激昂した。

 一同から注目が集まる。

 

 何故か数分ほど遅れて入ってきたヒカリも慌てて現場へと駆け付ける。

 

 

「お前は一体誰なんだ!?」

 

「……ちっ」

 壊し屋はいまも口を閉じるだけ。

 

 

「……ウカジコウヤ。だよね?」

 ツキヨはその名を口にした。

 

 誤算だった。彼にとっては大誤算だった。

 自分の起こしたというその過去の騒動は、時間が経てばその他の出来事に埋もれてしまう程度の規模の事。自分が顔を出してしまったのはその時だけで、その顔を見てしまったのも現場にいた人物たちくらいである。

 

 だが、彼女はどうやら現場にいたようだ。

 一斉にガンプラ粛清を行った壊し屋の姿を。

 

 

「……まあ、バレちまったら仕方ねぇか」

 認めた。

 

 一斉に生徒たちは壊し屋ウカジから距離を取る。

 サクラも自身のガンプラであるライラックファルシアを慌てて自分の後ろに隠し、自分自身もショウタの後ろへと隠れた。

 

「今、ファルシアに近づいたのは」

 

「なに、ちょいとばかし協力してもらおうと思ってな……バトルスペース一つぶっ飛ばすくらい、ボンッってなってもらうためによ」

 

 自身のやろうとしたことも壊し屋ウカジは次々と白状していく。

 

 

「しかしお前らも馬鹿だよ。密かに終わらせてやろうと一手打ってやったのに台無しだぜ……おかげで一方的に蹂躙する羽目になる」

 バトルステージの電子モニターにウカジが触れる。

 

 

 脱出不可。 

 バトルフィールドに出現したガンプラ達は全員離脱することが不可能になった。

 

 

「な、なんで!?」

 

「お前ら纏めて面倒見てやるよ」

 壊し屋ウカジは自分の機体をセットする。

 

 ガンダムグシオン。巨大なハンマーを手に取った、ずんぐりむっくりな機体。やや大型の機体である。

 

「それじゃあ、粉砕」

 ガンダムグシオンはフィールドに現れているガンプラ達次々と襲っていく。

 

 

「なんだよ、こいつ!?」

 

「固すぎる!!」

 

 厚い装甲を持つガンダムグシオン。しかも原作を準拠に作っているのかビーム系をほとんど無効とする装甲となっており、徹甲弾やバズーカ砲も耐えきる重装甲。

 

 それだけじゃない。その大柄な体から放たれるパワー。

 ガンプラ達がグシオンの振り回すハンマーの餌食になっていく。

 

 

「なんでガンプラを外せないんだ!?」

 ガンプラを離脱させることが出来ない。まるで牢獄のようにバトルフィールドに閉じ込められている。

 

 そうだ。皆がショウタの方を見ている間にこっそりバトルフィールドのシステムを改造したのである。神がかりなハッキング能力と改竄能力により、このバトルフィールドは一度戦場に入ると破壊されるまでは外に出られない仕様へ。

 

 フィールドを彷徨う数体の機体が木っ端微塵に消し飛んでいく。

 

「やめろ、テメェ!」

 

「おい、いいのかよ」

 

 ウカジは近寄ってくるショウタを睨む。

 

「今、バトル中なんだぜ? その最中のビルダーに手を出すことは学園のタブーだぜ。バトルフィールドにはガンプラを操縦するビルダーの映像も残るんだから、お前が俺に手を出してしまえば風紀委員の極刑の対象になっちまうな?」

 

「ぐっ……!」

 

 ショウタは一瞬だが止まる。

 

 

 

 いや、だがダメだ。

 ショウタは壊し屋の暴虐に耐えきれず、すぐにでもゲーム中のウカジに殴りかかる勢いだ。

 

 自分はどうなってもいい。仲間のことを放っておけるわけがない。

 そんな人物だということをヒカリは分かっている。

 

 

「ダメだ、ショウタ!」

 ヒカリは声を上げる。

 

 

「止めてほしいか?」

 ウカジの言葉に一斉が制止する。

 

「ただし、条件がある」

 静かにウカジの指がヒカリの方を向く。

 

 

「そこのお前、俺とサシで戦え。お前が勝ったら止めてやるよ」

 

 壊し屋の殺害予告が向けられる。

 最初のターゲットに選ばれたのは……初心者であるヒカリであった。

 


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