戦場に並ぶ2体のガンプラ。
ヒカリのサンダーボルトガンダム。
壊し屋ウカジのガンダムグシオン。
突如挑まれた勝負。
「わかってるな?」
「ああ……」
話は数分前にさかのぼる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
壊し屋ウカジはグループの中に紛れ込み、バトルフィールドのシステムを細工したのちに一斉処刑を決行。誰にも、妨害や脱出を許さぬ一方的な殺戮が始まった。
しかし、この殺戮をやめてほしいのなら条件があるとウカジは口にする。
勝負をすること。
自分と一対一でサシの勝負をしろとのことだった。
そして彼が対戦相手に選んだのは……よりにもよって初心者であるヒカリだったのだ。
「それ以外の条件は認めねぇ。その代わり、お前が俺に勝ったら、大人しくここから出ていくし、お前らにも二度と手を出さない。ああ、たった今、壊しちまったガンプラの修理費もまとめて払ってやる。 どうだ? 条件としては充分だとは思うが?」
「何が充分だ!」
ウカジに対しショウタは怒鳴る。
「ヒカリはまだ初心者なんだぞ! それにお前の戦い方はかなり手慣れてる……出来レースも良いところだ! 俺は反対だ!」
「じゃあ、この処刑は続行だナ。フィールドにいる連中が俺を倒すことを祈るばかりだな」
バトルフィールドに組み込まれているシステムが彼によって細工をされている。その効果はガンプラの離脱を不可能にしているだけではなく……グシオン以外のガンプラの制御が制限されるというシステムまで組み込まれていたのだ。
マトモに動かせるのは武器だけ、という辛い状況である。
事実上、フィールドにいるガンプラではウカジのグシオンを仕留めることは出来ない。
数の差で有利だとしても、ろくに動けないのでは不可能だ。
「……俺が勝ったら、出ていくんだな?」
「待てヒカリ! お前が出しゃばる必要は」
「黙ってろショウタ」
必死に止めるショウタを押しのけて、ウカジの元まで行く。
「本当に約束するんだな?」
「ああ、するサ」
一時的にガンダムグシオンの機動を停止する。
こちらの取引にヒカリ本人が乗ろうとしているのだ。こういった交渉はしっかりと面を向いてやらなくては失礼である。
ウカジはにやりと笑みを浮かべ、ヒカリと向き合う。
「バトルフィールドの細工は全部解除しておく、汚い戦法は一切なしの一対一だ。俺が何か怪しい動きを見せたり、バトルフィールドに変なシステムが作動したらバトルを止めてもらって構わない。俺が不正をしたらその場で俺の負けでいい」
ショウタにバトル条件の説明をする。
バトルフィールドに設定した制限システムは、話した通りすべて解除した。
「ただし、それ以外のことで止めてみろ。あと、俺が何の卑怯な手もしてないのに止めたその瞬間、妨害行為とみなしてお前らの負けだ」
同時に釘もさしておく。
お互いに卑怯な手も妨害も無し。最終確認に軽い脅しを加えておいた。
「どうだ? 俺との勝負に乗るか乗らないか」
「ああ、乗ってやる。その代わり、俺が勝ったら本当に出て行けよ」
「何度も言わせるな。男に二言はねぇヨ」
呆れたような声でウカジは返答する。
嘘をついているようには見えないが……過去今までに自分たちへ勝負を挑んだ上級生の事もある。信用していいかどうかは分からない。
だが、今ここで勝負を挑まなければフィールドにいる皆のガンプラが一掃される。
ならば、勝負を挑んだ方がまだ、可能性はある。
「ヒカリ、だめ……!」
ツキヨは彼を止めようとしていた。
「あの人の強さは今までのとは格が違う……!」
ツキヨは過去、その風景を見ていたからわかる。
たった一人でパーツ狩りを行う上級生たちのガンプラを粉砕。一機残らずスクラップのジャンクに変えてしまった悪魔のような強さである。
ヒカリとウカジ。その2人の経験の差は歴然。
今の彼では経験が足りなさすぎる。弱い者いじめをしてきた卑怯な奴らとは話が違う。
「……勝てないかどうかなんて分からないだろ」
ツキヨの静止を振り切る。
「こいつのやり方は気に入らない……ッ!」
勝負は決まった。
「じゃあ10分くらい時間よこせ。一対一用にシステムを設定してやる。その間にガンプラの最終設定でもしてろ」
細工の解除も含めて結構な時間のメンテナンスを行うという。
この先のことを左右する貴重な戦いだ。ウカジはヒカリに10分間という最後のチェックの猶予を与えた。
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そして今、2体のガンプラは戦場に並んでいる。
もうすぐバトルのゴングは慣らされる。
「もう一度だけ確認する。俺が勝ったらアンタはここから出て行って、俺たちには二度と手を出さない。それに壊れたガンプラも治すって」
「待て待て、俺は修理費を出すと言っただけだ。ガンプラを治すのは自分の手で頼む。後から元の形と全然違うなんて苦情出されたらたまったモンじゃねえしナ。それに、お前もわかってるな?」
グシオンのハンマーが勢いよく地面に下ろされる。
「お前が負けたら……お前の仲間たち全員のガンプラを俺に寄越す。いいな?」
「……」
ヒカリは後ろを見る。
背後には不安な表情を浮かべる一同の姿があった。
彼の行動は正しかったのかどうか。正直に言えば賢い選択ではなかったかもしれない。
そのフィールドにいたガンプラ達の犠牲で済むと考えれば、これ以上の被害を生むことはなかったと考えることもできる。赤の他人から見れば、彼の行動は火の元を広げただけの自爆行為と変わらない。
……しかし、あんな状況堪えられるはずもない。
ヒカリが止めにかからなければショウタは間違いなく暴力に走ってでも彼を止めようとした。そうなれば彼には重い処罰が下される。
それはこの場にいる全員が望んでいないことでもある。だが、自分のガンプラが一方的に破壊されることも黙っていられるはずがない。
……少しでも可能性があるのならという賭けだった。
そして、その場にいた全員がヒカリに賭けたのである。
誰も犠牲が生まれない結果を作ってくれることを信じて。
「ああ」
「じゃあ、始めるか」
スタートのカウントが始まる。
3から2、2から1。そして。
カウントがゼロになる。
「ぶっ潰す!」
ガンダムグシオンがハンマー片手に全速前進。
(早いっ……!?)
慌ててサンダーボルトガンダムを後退させる。
ガンダムグシオンの体、その第一印象はガンダムを知らないヒカリからすれば、カエルのようなデブという感想だった。
そんなデブな体からは想像もできない加速力での接近に思わず声が出そうになる。
それだけじゃない。
サンダーボルトガンダムがいた場所に振り下ろされたハンマーが地面に巨大なクレーターを作り上げる。砕かれた地層の瓦礫が雨となって戦場に降り落ちる。
その見た目からは想像も容易い、いや想像以上のパワーまで見せつけられる。
「逃がすかよ!」
胸に仕込まれた内蔵のキャノン砲が、後退して隙を見せたサンダーボルトガンダムに発射される。
「ぐっ!?」
そこでようやくヒカリは声を上げた。
2発のキャノン砲がサンダーボルトガンダムの両肩に掠る。
命中すれば粉砕は免れない。致命傷は避けたとはいえ、万が一当たっていたならばという恐怖感が彼を更に焦らせる。
「だったら……!」
エネルギーパックの残弾をすべて使って、ビームライフルを出力最大で発射する。
これだけの威力なら、そんな太っちょな体だろうと耐えきれるわけがないと彼は踏んだのだ。
「無駄だ! オルフェンズ世界のガンダムにビームは無価値なんだよ!!」
ビームはグシオンに命中するも、過剰なまでのナノラミネートアーマーが最大出力のビーム砲をいとも容易く弾いてしまう。
原作を意識しているのか。それともガンプラを壊すことを考えての装甲処理なのか。ビームは勿論、生半可な銃撃だろうとグシオンの本体には届かない。
「おらぁッ!」
グシオンのハンマーが近づいて来る。
「……ッ!」
2連ビームライフルに装着されている巨大なシールドで身を庇う。
「チンケなんだよッ!」
だが、あれだけのパワーを見せたグシオンを前にシールドなんて無意味である。
2連ビームライフルとシールドは破壊される。彼の前では赤子の腕同然のアーム諸共粉々に。
「やっぱりダメだ……実力が違いすぎる!」
「ヒカリさん!」
ショウタとサクラが声を上げる。
「呆気ねぇな。まあ、こんなもんか」
腕も壊され、肩にもダメージを受けたため自由に振り回せなくなった。
グシオンの攻撃に耐え切れず、サンダーボルトガンダムはついに地面に伏せてしまう。
「負けられない……」
それでもサンダーボルトガンダムは立ち上がる。
「ここまで負けたら皆の居場所が……!」
自分が勝たなければ皆のガンプラを奪われてしまう。
それだけはダメだ。
やっと見つけた居場所。それが自分のせいでなくなるのだけは嫌だ。
しかし、戦力の差に絶望的な違いがあるのは彼も内心気づいていた。
実力の差が違い過ぎる。ガンプラの完成度も自分の機体と比べて相当なまでの差が。
「すぐ楽にしてやるよ」
グシオンのハンマーが再度振り下ろされようとしていた。
「お願いやめて!」
声が響く。
……ツキヨの声だ。
「はぁはぁ……」
大声を上げるだけでも喘息になるほど病弱な彼女が大声を出した。
我慢できなくなったのだ。
「お願いだから……これ以上、彼をいじめないで」
「おい」
ハンマーを一度地面におろし、グシオンの目がツキヨの方に向けられる。
「反則以外でバトルを止めたらどうなるか、忘れたか?」
グシオンの赤いアイカメラが鋭く光る。刃物のように突き刺さる殺意の瞳は、ガンプラの操縦者であるウカジの瞳とシンクロしているようだった。
警告だ。
自身が怪しい動きを見せない限りはバトルを止めないという約束である。それを破れば、ヒカリの反則負けとみなすことを。
「……どうして」
ツキヨは震えている。
「どうして、それだけの技術を持っていながら、そんな酷いことを」
ウカジの実力も技術も本物だ。
ガンダムグシオンの完成度は自分たちにツキヨやショウタに及ぶほどのもの。隅から隅まで隙の無い仕上げで作られたグシオンはまさしく彼の実力の高さを物語っている。
それだけの実力を持ちながら、何故破壊を行うのか。
彼女にはそれが理解できない。
「酷いことだぁ?」
バトルフィールド、そしてヒカリの勝利を願う皆のいるバトルエリアに響く。
「こんな酷いことが、この世界では当たり前なんだろうが! えぇッ!?」
ウカジの叫びが。
しかしなぜだろうか。
彼の声は壊すことを楽しむ愉快な声というには……どこか悲痛な叫びにも聞こえたのは。
「……簡単な事だろうよ。この世界では強者の生存が当たり前。弱い奴はしゃぶられて吸われて終わり。満足な戦いも出来やしねぇ」
グシオンの瞳はどこか宙を見上げている。
ヴィジョンに映された青い空。
彼にはその空に……何かを映し出しているようだった。
「生き残るには、れっきとしたガンプラビルダーになるには強くなくっちゃならねぇ。こうして強いところを見せつけないとよぉ、自分を守れねぇんだよ」
「だったらヒカリのように純粋にバトルを楽しんでいる奴を狙うことはないだろ!」
ショウタの疑問がぶつけられる。
彼の言動からすれば、学園のルールを良く思っているわけでもなさそうだし、パーツ狩りを行っている上級生の事もひどく嫌っているように見える。
ならば、彼は自分たちのようなビルダーまで狙う必要はないはずだ。そこまでして無差別にガンプラを破壊しようとする意味があるというのだろうか。
「……簡単なことだ。ムカつくんだよ」
グシオンの瞳が次にサンダーボルトガンダムに向けられる。
「お前らみたいに叶えられもしない夢や理想だけで……ただ楽しみたいってだけで強くもないくせに足掻こうとするやつが苛立つんだよ……! “昔の自分”を見てるみたいでなッ!!」
グシオンのハンマーが振り上げられる。
とどめの一撃。最後の一撃を与えるつもりだ。
「ガンプラの世界は破壊と蹂躙! この学園のルール! それがこの世界だ!!」
「……違う!!」
無理やりにでも動かして回避する。
グシオンの一撃を。
「破壊だけがガンプラじゃない……!」
「いつまで減らず口を叩きやがる!」
グシオンの胸のキャノン砲が発砲される。
まるで大地のうめき声。彼自身のうめき声のようにも聞こえる破音がバトルフィールドにこだまする。
次に直撃を受ければ致命傷は免れない。
迂闊に回避をすれば、再びそこをキャノン砲で狙われる。
こちらが反撃に一撃を入れようにも……あの装甲で弾かれて終わりだ。
そんな絶望的な状況の中、ヒカリがとった行動は。
しゃがんだ。
サンダーボルトガンダムの姿勢を低くし、キャノン砲を自身の頭上で通過させる。
それこそ最大の隙になる。
グシオンを操縦するウカジはもう一発のキャノン砲の装填を開始する。
「俺はそうは思わないッ……!」
サンダーボルトガンダムのボルテックブースターが響きを上げる。
彼の鼓動に反響するかのように、壊れたサンダーボルトガンダムの体を押し出していく。
「まだ動く余裕があったか……だが、無駄だ!」
接近して攻撃を仕掛けようとしても無駄だ。
この体にビームサーベルは全くの無意味。焼け石に水だ。
それ以外にこの装甲をぶち破るような高威力の武器は見受けられない。タックルを仕掛けてパワー勝負を仕掛けようというのなら馬鹿以外の何者でもない。
想像以上のスピードだが、グシオンは迎え撃つ準備を始めている。
自身のグシオンの装甲の硬さに耐え切れず隙を見せたところでトドメを刺して終わり。ウカジは最後の処刑プランを決行する。
「ガンプラは楽しむものだって……」
背中のサブアームに装着されたシールドの先端がそっとグシオンに突き付けられる。
「そう教えてくれたのは皆だ!!」
ガンダムグシオンの装甲がはじけ飛ぶ。
何だ。何が起きた。
自身の作ったグシオンの装甲の硬さは一級品だ。爆発の原因は間違いなくロケットランチャーであることには気づいているが……何故、自身のグシオンの装甲が耐えきれなかった。
あれくらいの威力なら余裕で耐えきれるはず。
損傷原因をウカジは速攻で調べる。
「あいつ……!」
そこで気づく。
「装甲の隙間を狙いやがったな!」
隙間に直接ロケットランチャーを埋め込んだのだ。
フルアーマーガンダムのロケットランチャーはデブリに直接仕込み、爆破物の罠として利用することも可能だ。
その原理を使用して、グシオンの装甲の隙間にロケットランチャーを直接埋め込んだのだ。
絶大な火力。表からなら受け止められたが、内側からなら話は別だ。
グシオンの胴体の骨組みが露わになる。
「そこを狙えば……」
「させるかよ!!」
サンダーボルトガンダムの腕に握られたビームサーベル。
その一撃を受けてたまるかと、ハンマーを持っていない方の腕でサンダーボルトガンダムの腕を握りしめる。
万力のようなパワーでもう片方の腕も粉々に砕いていく。
「今度こそ……!」
姿勢が不安定なためパワーは充分ではないが、これだけボロボロの機体なら事足りる。片方の腕だけでハンマーを振り下ろし、今度こそトドメをさす。
「まだッ!!」
背中のサブアームがシールドをパージする。
腕が手放したビームサーベルをサブアームでキャッチし、グシオンに向けて突き入れる!
「なっ……!」
グシオンに致命的なダメージが入る。
高出力のビームサーベルがグシオンのコックピットを貫いた。
バトル終了。
致命傷を受けたグシオンは力が抜けるかのように地面に倒れた。
「勝った……?」
ヒカリは佇んでいる。
「ヒカリィイイッ!」
ヒカリの元に全員が近寄ってくる。
「よくやった! お前、本当によくやったぞ!」
「すごいっすよ! あそこから勝つなんて!」
ショウタからは必要以上に頭を掻きむしられ、サクラからは異常なまでに握手をせがまれている。
それどころか皆が一斉にヒカリに向かって蟻のように集まっていた。
「あ、あの、ヒカリが……」
ヒカリの腕だけが見える。
水を求める亡者のように震えていた。
助けに入りたくても、それだけの力がないツキヨはただオロオロと困り果てるだけだった。
「……負けた、か」
バトルフィールドの転がったグシオンを回収する。
「よりにもよって、平和主義の甘ちゃん達に、か」
破壊する。
勝利することだけにこだわって作ったグシオン。
「……はぁ」
自分も彼等みたいにもう少し足掻く勇気があったなら。
ガンプラを楽しむことに全てを裂ける強い心があったなら。
自分ももしかしたら、
破壊だけの狂気に取付かれなくても済んだ未来があったのだろうか。
ウカジはグシオンを握りしめたまま、一同の元へと向かう。
「……取り込み中のようだな。じゃあお前でいいわ」
ただ一人、手の空いていたツキヨの修理費とメモを渡す。
「約束だ。お前らには二度と手を出さない。修理費の釣りもいらねぇよ。足りないっていうんなら、そのメモに書いておいたメアドに連絡しな」
片腕を振って、その場をウカジは後にする。
「あ、あの……」
「久しぶりだぜ」
ウカジはそっと呟いた。
「こんなに、悔しいって思ったのは」
その言葉には満足と後悔。
2つの感情が入り混じった苦痛が伝わってきた。
「おっと、悪いな」
バトルエリアの入り口に誰かいたのかウカジはその人物とぶつかってしまう。
「いえ、構いませんよ」
通り過ぎていったウカジに対し、気にしてないと一言だけ告げる。
「あれが……例の新入生、ですか」
バトルエリアでその様子を見つめていた何者か。
ガンブレ学園の制服に身を通す何者かはじっとその視線を向けていた。
皆に賞賛され、干からびる寸前の、ヒカリカナタを。