NEWガンダムブレイカー ~イナズマ戦線~   作:WILLΛ

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15話「熱狂的ファンサービス」

 

 ライブ終了から数十分後。

 中華料理店・桜坂、バトルフロアにて。

 

 

「よっしゃぁ! 皆、盛り上がってるかーい!」

 

 目の前でコールをするのはネットアイドル・セーラこと、幼馴染のお姉ちゃんことナノハヒビクである。

 

 ヒビクのコールに合わせて、一同から返ってくるコール。小さくくたびれた中華料理店が軽い地震に襲われたかのように震えている。

 

 とてつもない声量だ。自重しないコールの大きさにヒカリは耳を抑えて棒立ち。ツキヨに至っては再びフェイズシフト装甲のように色が落ちていくようだった。

 

 

「おい、ヒビ姉。今はセーラとしてココにいるわけじゃないだろ?」

 

「ごめんごめん。つい、反射的にね」

 職業柄のため許してくれと両手でせがんでくる。

 

 ああ、間違いない。このテンションの高さと皆を引っ張りたがる姉御肌。

 この人物は間違いなくヒビクであるとヒカリは呆れていた。

 

「あんまり大声出すと店にも迷惑だしさ」

 

「うーん、でも店長さん、サイン渡したら好き放題やっていいって」

 

 お店に入るとサクラの父親である店長がヒビクを見た途端に大発狂。

 どうやら、彼もまたネットアイドル・セーラの大ファンだったようである。

 

 彼女は地上波のテレビバラエティなどには出演せず、基本的にはネットのみの活動する身であっても、その人気は国民的アイドルに負けないくらいのファンを獲得しているようだ。

 ガンプラおよびガンダムというカテゴリーを中心とした活動もしているために、全国の地域ガンプラ大会のメインパーソナリティーとして呼ばれることも多々あるようだ。

 

 ガンプラバトルにはそれなりに目を通しているサクラの父親。その際にセーラを知り、気がついたら隠れファンになっていたようである。

 

 店長さんは握手とサインをねだってきた。

 それに対して、ヒビクはネットアイドル・セーラとして快く引き受け、握手をした後にお店に飾る用のサインまで書いてあげた。

 

 贅沢なまでのファンサービスを経験した店長さんはしばらくボーっとしていた。

 

 

「それじゃあ、とっととやろうぜ。しばらく忙しくなるんだろ?」

 

「うん、まあね!」

 するとヒビクは腕を鳴らし、気合を入れるために軽く首も慣らす。

 

 そう、彼女はネットアイドル・セーラとしてここにいるのではなく、ガンブレ学園の生徒であり、ガンプラを楽しむビルダーの1人、“ナノハヒビク”としてこの場所にいるのである。

 

 こうやってグループに隠れてガンプラバトルを楽しめる瞬間こそが、彼女がナノハヒビクとしてバトルを行える唯一の時間なのだ。彼女は学園にて不定期のライブを行った後はすぐにその場から移動。

 

 次の配信やインタビューなどの仕事が来る前に、こうして隠れてガンプラバトルを楽しんでいるようである。

 

 ヒビクからすれば、普通にガンプラバトルを楽しんでいるだけだと思う。

 でも……セーラのファンであるグループのメンバーたちにとっては最高のファンサービスになっているような気がしてならなかった。

 

 下手すれば、抽選で選ばれたメンツのみが入室を認められる握手会やサイン会などよりも価値のある瞬間に立ち会えているのだ。感無量と言ったところだろう。

 

 

 

 ヒビクは誰と対戦しようかキョロキョロと見回している。

 

 

「よし! じゃあ、今日は君たちだ!」

 元気な声でメンバーを指名した。

 

「ヒカ坊にツッキーにサッキー! 3人同時にかかってこーい!」

 

「「え?」」

 ヒカリとサクラは突然の選抜に声を上げる。

 

「え?」

 ツキヨも驚き、デュートリオンビームを受信したかのように色を取り戻した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 バトルフィールドが展開される。

 サンダーボルトガンダム、ライラックファルシア、そしてRe:0の3体が呆気にとられたようにフィールドで立ち荒んでいる。

 

 突然すぎるバトルのお誘い。

 いや、内容は聞いていたから自分たちに白羽の矢は立てられる可能性はあったのだ。予測は出来たはずなのだ。

 突拍子も計画性もないのがナノハヒビクの悪いところ。幼い頃もヒカリとショウタは彼女の尻に敷かれて引っ張りまわされていたのを思い出す。

 

 

「……ねぇ、サクラ。バトル経験は」

 

「動かす練習は家でボチボチやってるっすけど、実線は初めてっす……」

 

 なんということだ。

 バトル経験こそあるが、まだまだ未熟なヒカリ。そして、ガンダムの知識こそあれどファイターとしての経験は全くもって皆無のサクラ。

 

 足の引っ張り合いが起きそうだと2人の顔面が青ざめる。

 何か責任重大なような気がして。

 

 

「大丈夫」

 緊張に震える2人の真ん中でサクラが声を上げる。

 

「私が2人を守る」

 グッドサインをして、2人にそれぞれ視線を送った。

 

 ヤバイ、カッコイイ。惚れそう。

 相手は12歳の可愛らしい女の子だというのに乙女心が芽生えそう。

 

 今日のツキヨとそのガンプラであるRe:0の背中が大きく見えるような気がした。

 

 

「でも、3人がかりで1人を相手するって……」

 

「サクラ。油断するんじゃねーぞ。わかってると思うが……ヒビ姉は 学園5位の成績を持つ腕前だからな?」

 

 学園5位。

 四天王には及ばないが、そこに片足を付きかけているレベルの腕を持っている。

 

 実際、ナノハヒビクというかネットアイドル・セーラのガンプラ技術はネット上でもかなり評価が高く、彼女が作るオリジナルガンプラはゲストで呼ばれるプロのビルダー達も絶賛するレベルの出来の良さだ。

 

 それだけじゃなくバトルも強いと有名である。一度、ネット番組上で行われたガンプラバトルロワイヤルという企画にて怒涛の14人抜きを記録したこともある。

 

 その実力は学園でも発揮されている。番組の八百長ではないことを証明している。

 

 

「それじゃ、可愛い弟分と妹分を可愛がってあげるとしますか!」

 ヒビクのガンプラがフィールドに設置される。

 

「いけっ! Gノーティラス!」

 

 そのガンプラがバトルフィールドに現れ、地上に着地するかと思いきや、寸前で蝶のように宙を浮いて制止する。

 

 ……見た目はGのレコンギスタに登場するG系のモビルスーツ。

 一番近いのはGルシファーか。Gセルフとアルケインとは違い、モノアイを使用した少しイカツイ見た目の顔面に華奢な胴体が奇妙な美しさを表している。

 

 何より特徴的なのは。

 

 

 そのモビルスーツの右肩に大きな黒いオウム貝が装着されていることだ。

 

 ……オウム貝。というのかアレは?

 入り口とも割れる穴の付近には牙のような4つの突起物に、目のようなイメージを漂わせるビーム砲。機体の一パーツというよりは、独立したモビルアーマーのような……

 

 

「おわぁっ!? 肩にノーティラスをそのまま乗っけてる!?」

 斬新すぎる発想にサクラが声を上げる。

 

「ノーティラス?」

 

「クロスボーンガンダムに登場する、モビルアーマーのこと」

 ツキヨが軽く解説をした。

 

 ノーティラスはクロスボーンガンダムという作品の終盤に登場した旧式のモビルアーマー。ビーム砲と機動用の大型ジェネレーターをそのまま直結したような斬新な見た目が特徴だ。

 

 そのノーティラスを小型化。そのままモビルスーツの武器として右肩に直結させているのである。カラーリングは機体に合わせて少し薄めの黒になっている。

 

「さぁ、かかってこい!」

 Gノーティラスがくいくいっと手で挑発する。

 

 うん、やはりショウタにそっくりだ。

 行動が似てるというか、彼と同じでガンプラを使ってコミュニケーションを取ろうとしてるのが丸かぶりである。

 

 

「えっと」

 

「来ないならこっちから行くぜぇ?」

 

 Gノーティラスが両手の指をこちらに向けてくる。

 すべての指の先端に穴が空いている。瞬間、全ての指先の穴に淡いピンク色の光が纏われていく。

 

 

「ビームガン!」

 ツキヨが警告する。

 

 豆鉄砲状のビーム砲が数発サンダーボルトガンダム達目掛けて飛んでいく。

 ご挨拶の攻撃と言ったところか。

 

 サンダーボルトガンダムは即座に盾を使いガードに入り、近くにいたRe:0もガード兵器を装備していないライラックファルシアの背後に回りGNシールドを展開。そのまま、GNフィールドも展開する。

 

 

「さーて、どのくらい頑丈なバリアか見せてもらうよ!」

 Gノーティラスのビーム砲も作動する。

 

 ビームガンの雨に紛れて一閃のピンクの閃光がRe:0のGNフィールド目掛けて飛んでいく。GNフィールド相手にビーム兵器はあまり意味がないのは承知。

 しかし、彼女はGノーティラスの火力にはとことん自信があるようだ。Gノーティラスの火力か、Re:0のGNフィールドの頑丈さが勝利するか、と力比べに出たのだ。

 

 

「くっ!?」

 シャレにならない火力が襲い掛かる。

 しかしRe:0は必死に踏ん張っている。

 

 

「ツキヨ……くっ!」

 援護に向かいたいが想像以上に攻撃が激しい。

 それだけじゃない。豆鉄砲くらいの大きさのくせに威力の一発一発がキャノン砲クラスを誇っている。盾で受け止めるたびに一発一発の重さが身に染みる。

 

 とてもじゃないが防御したまま前進するのは難しい。

 

 

「このままじゃ、まずいっすね」

 サクラは自分の顔を何度もたたく。

 

「よし……覚悟決めたっす!」

 サクラのライラックファルシアの目が光る。

 

「コミネサクラのデビュー戦! 派手に咲いてやるっすよ!」

 ライラックファルシアの背中に装備されたマザーベースの内部から数基のファルシアビットが姿を現す。数10基のファルシアビットがベースから飛び出すと、背中に引っ付いていたマザーベースも独立して移動を開始。

 

 ビーム刃を形成し、ファルシアビットと共に攻撃の雨をかいくぐる。

 

 ファルシアビット達は攻撃を回避するとGノーティラスの四方八方を囲う。

 

「おおっと!?」

 ビットから放たれるビームの雨。

 Gノーティラスの指先から放たれたビームガンに負けず劣らずの数のビーム砲を次々と乱射する。逃げ場のないオールレンジ攻撃でGノーティラスの動きを制限させる。

 

「おわわっ!?」

 ビーム刃を形成したマザーベースが巨大手裏剣のようにGノーティラスに襲い掛かる。

 

 これぞライラックファルシアのオールレンジ攻撃。

 ファルシアビットから発射されるビーム砲に紛れて、ビーム刃を形成したマザーベースが奇襲をかける。

 

 まるで花吹雪のような攻撃でGノーティラスを圧倒する。

 

 

「おおっ」

 

「初めてにしては上出来」

 

 ビット系武器はモビルスーツとは別に処理を行わないといけない。防御はRe:0が行っているためビットの操縦に集中できるとはいえ、あれだけの数を的確に動かせるのは初心者には難しいことだ。

 

 ビルダーの世界に憧れていたために下準備は完璧だったというわけだ。

 その努力の成果が見事に実っている。

 

「今がチャンスっす!」

 動きを封じられているGノーティラス目掛けて、ライラックファルシアが飛び出していく。

 

 

「これで倒してみせるっす!」

 マザーベースがライラックファルシアの元へ飛んでいく。

 ライラックファルシアの右手には、フォーンファルシアが使用しているようなファルシアバトンがある。しかもそのサイズは伸びる前の如意棒くらいには長い。

 

 ファルシアバトンの先端にマザーベースが合体。

 一瞬にして、大振りのハンマー兵器の出来上がりだ。

 

 敵はオールレンジで動けない。そこへ重い一撃を喰らわせてやる。

 決死の一撃にかけて、彼女は飛び込んでいる。

 

 

 

「えーい、しゃらくさい!」

 Gノーティラスの右肩。ノーティラスパッドが怪しい色を浮かべ光る。

 

 ノーティラスにはビーム兵器以外にももう一つ装備がある。

 

 それは、ワイヤーだ。

 その見た目故に近距離では活躍できないイメージのノーティラスだが、その対策はしっかりと練られている。高熱線のワイヤーが蛇のようにGノーティラスの体を取り囲み。

 

 自分の周りに展開されたファルシアビットを破壊していく。

 

 

「そして君も!」

 

 一本のワイヤーがライラックファルシア目掛けて飛んでいく。

 

 

「んっ!?」

 マザーベースハンマーにワイヤーが巻き付かれる。

 

「飛んでいけー!」

 ワイヤーを振り回し、ライラックファルシアの体が宙に浮き、そのままサンダーボルトガンダムとRe:0の元へと飛んでいく。

 

「「え」」

 2人同時に声を上げた。

 戻ってきた。ライラックファルシアは……Gノーティラスのハンマーと成り果てて。

 

「あぐぉっ!?」

 ライラックファルシアが固まっていたサンダーボルトガンダムとRe:0に衝突。

 

「「っ!!」」

 サンダーボルトガンダムとRe:0も想定外のダメージを受ける。

 

 

「あっはっは! それそれそれ!!」

 

 バトルフィールドの中の風景は見てるだけでもゴチャゴチャの状態になっている。

 振り回されるライラックファルシア。それに叩きつけられるサンダーボルトガンダムにRe:0。次々と破砕されているバトルフィールドの岩石。

 

 

「おいおいおい、相変わらず容赦ねぇ」

 

 ショウタは右手でサインをし、両手で合掌する。

 小声で南無三と口にしていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 数分後。バトル終了後。

 

 

「「「……」」」

 3人ともボロボロであった。

 全員色が抜け落ちていた。完全にエネルギー切れである。

 

 結果、Gノーティラスが大暴れしたことにより3人とも敗北。しかもタイムアップギリギリまで付き合わされたせいで完全に体力を絞り尽くされてしまった。

 

 あれからもいろんな手段で彼女に攻撃を仕掛けようとするが咄嗟の判断で対処される上に、火力でもノーティラスパッドから放たれるビーム砲で負けてしまう。

 

 それだけじゃない。

 あの機体、胸にも拡散ビーム砲があったりと散々な目にあった。

 

 バトル経験の少ないヒカリとサクラは完全敗北。

 ツキヨの場合は一対一だったら良い勝負をしていたかもしれない。でもさすがに2人を庇いながら戦うという器用な真似は出来なかったようだ。

 

 

「おっと、もうすぐ仕事だ」

 携帯を見ると次の収録が近づいているようだった。

 

「おっと残念。俺もしごかれてみようかと思ったんだけどな。学年5位と戦えるのは中々貴重な経験だしな」

 

「ごめんごめん! 次は相手してあげるからね!」

 ヒビクは自身の荷物を持つと、ベンチに仲良く固まって座っている、色が抜け落ちた3人組へと向かっていく。

 

 

「ありがとう3人とも!」

 ヒビクは3人同時に抱きしめた。

 

「3人とも個性的なガンプラだったよ! 戦ってて楽しかったぜい!」

 

「「「あががが……」」」

 3人とも体力的にも限界だったようだ。

 

 

「今後とも頑張ってね」

 荷物を手にバトルフロアを出る。

 

「私も頑張るからさ!」

 そのままお店の外に出ていった。

 

 

 

「疲れた……」

 久々にヒビクの相手をしたヒカリはげっそりと声を上げていた。

 

 ネットアイドル・セーラ。

 その強引な雰囲気と押しが彼女の良いところだと評価されているが……やはり、身近で経験すると心臓がいくつあっても足りない。

 

 ナノハヒビクの底のないテンションへの疲れに、ヒカリ達はそのまま夢の世界へと旅立っていった。

 


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