NEWガンダムブレイカー ~イナズマ戦線~   作:WILLΛ

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01話「学園とガンプラ(後編)」

彼女は、粉々のガンダムを手に、儚げにたたずんでいる。

その姿に不思議なくらい、目を奪われ。

 

その背に、純白の翼を幻視してしまう。

 

 ふいに、声を掛けられる。

 

「一緒に治そう?」

 

「え」

 ヒカリは突然の誘いに声が裏返る。

 

「こっち」

 少女はこちらの返事を聞くこともなく、ガンプラ作成の体験コーナーへと向かっていく。粉々になったガンダムのプラモを持ったまま。

 

「……待って」

 ヒカリは少女を追いかけた。

 

 彼女を追いかける理由。ガンダムを治すと決めた理由は二つある。

 

 まず、このガンダムのプラモは借り物だ。体験コーナーのために誰かが作ったサンプルだ。徹底的に壊したのは自分ではないが、自分に一切の責任がないわけではない。

 

 あそこでバトルを断れば、このガンプラはこんな目に合わなくて済んだのかもしれない。

 自分には、このガンプラを治す義務があるのだ。

 

 

 そして、もう一つ。

 

彼女を見ていると、なにか、はっきりとした言葉で言い表せないような、体の奥が熱を持ったような感覚を覚えたのだ。

ただただ、この何となく心地の良い熱に従っただけ。

理由というには、浅いのかも知れない。だが、確かに感じたのだ。

 

ヒカリは、それを何というのかまだ知らない。

 

「おい、ヒカリ、待てって!」

 いつも通り、流れるようにどこかへ向かうヒカリのもとを、ショウタは追った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ガンプラビルド体験コーナー。

 文字通り、ここで一から新しくプラモを作ったり、別のプラモと組み合わせてオリジナルのガンプラを作ってみたりなど行えるコーナーだ。

 

 満席に近い状態だったが、運よく3人分の席が空いていた。

 

「治し方は分かる?」

 

「いや、全然」

 当然だ。自分はガンプラのいろはの、いの文字も知らないのだ。

 目の前に転がっているニッパーにブラシ。スミ入れのペンだったり、ヤスリだったりなど、これをどう使えばいいかなんて見当もつかない。

 

「こうするの」

 少女はガンダムの右腕を手に取ると、慣れた手つきで治していく。

 

 ……ひとまずは真似をすればいいのだろうか?

 パテ? ヤスリ? この道具をつかって、この少女を真似するように治せばいいのか?

 

 見よう見まねで治していく。

 

「4時間くらい。そうすれば固まるわ」

 

 結構な時間がかかるんだと驚いた。

 

そして、洗練された手つきで、次々とガンプラを元の姿に治していった。

 

 あんなにボロボロだったガンダムが元の綺麗な姿へと戻っていく。といっても、パテが固まっていないこともあり、完全な姿に戻るには結構な時間がかかるようだが。

 

 そのこと含め、ガンプラを壊したことはしっかりと謝らなければ。

 そこは覚悟しておこう。

 

「……」

 それにしてもこの少女。

 

 少しばかり感情の起伏が乏しい気がする。入学式の時もそうだったし、軽く会話した中でもそう感じた。何故なら、全くもって面白くなさそうな顔をしていたからだ。

 

 しかし、どうやらガンプラを治しているときだけは違うようだ。

 ——太陽。見た目相応の、太陽のような明るい笑顔なのである。

 

 ガンダムが元に戻っていく姿を見て、まるで子供のように目を輝かせている。

 

 

「ひとまずはこれで」

 さっきまでボロボロだったのに。

 格好良かった姿が見る影もないくらいに壊れていたのに。

 

 治った。

 まだ未完成のため形にざらつきがあるが、その姿は元の姿に近くなっていた。

 

「おお、すげぇな」

 あれだけひどい惨状だったガンプラがここまで綺麗になったことに、ショウタは驚いている。経験者である彼から見ても、高いレベルの修理技術だった。

 

 

「ありがとう」

 ヒカリはお礼を言う。

 

こんな見ず知らずの自分のために修理するのを手伝ってくれたのだ。心からの感謝をつたえる。

当然のことだが、挨拶も、お礼もしっかりと返す。彼の中で徹底している礼儀であった。

 

 

「……辛かった?」

 少女は首を傾げ聞いてくる。

 

「怖かった?」

 

 これはきっとさっきの試合の事だろうか。

 

 怖くはなかった。むしろ、何が起きたのか理解するのに時間がかかるレベルだった。

 ……でも、ガンダムのプラモを平気でスクラップにするその姿は見ていて胸糞悪かった。まるで不良品を壊すかのような姿を見ていてムカっとはした。

 

 悪意しか見えない破壊。

 辛いわけがない。心にひどい傷を負った。

 

「俺は」

 

「ならないで」

 

 少女はヒカリの腕を握る。

 

「ガンプラの事、嫌いにならないで?」

 

 ……まただ。

 また、体が熱くなった気がする。

 

 無垢で、純粋なその笑顔。そして、その声がスウッと芯に響き、どうしてか顔の表面にまで熱を伝えてしまう。

 いったい何だ、この気持ちは?

 

 ヒカリは少女の言葉で体が固まってしまった。

 

 

 

 そしてそれ故に、忍び寄る魔の手に気づかない。

 

「おっ! 治ってんじゃん!」

 見た目がよくなったガンプラが、突然目の前から姿を消す。

 

「また俺たちと戦ってくれるために修理したのかよ! 嬉しいねぇ!」

 まただ。さっきの男子学生たちだ。

 どうやら、徹底的に潰したいようだ。このガンダムを。

 

「返せ」

 ヒカリは手を伸ばす。

 

「おっと」

 男子学生はその手を掴み返し、ガンプラには手を届かせない。

 

「返してほしかったら俺たちと戦いな?」

——俺たちのサンドバックになりやがれ。

彼らが口にしたのは、つまりはそういうことだ。

 

 その挑発に、ショウタは食って掛かる。

 

「テメェラ、いい加減に……!」

 

「……どうして、壊すんだ?」

 疑問を浮かべずにはいられなかった。

 そこまでプラモを破壊することに執着する理由はなんだ?

 

「ちげぇよ、ただ壊すんじゃねぇ」

 男子学生は口にする。

 

「俺たちの力を証明するためにぶっ壊すのさ! 身の程を分からせてやるためにな!」

 こいつらは何を言っている。

 

 自分の身の程を? 力を証明する?

 まるで、ガンプラが“力を証明する道具”のように。

 

 

「いい加減にしやがれ、ガンプラは自分の力を示す道具なんかじゃ」

 

「お前はあの校訓が目に入らねぇのかよ!」

 男子学生は学園の教訓の掛け軸を指さす。

 

 

 

 

『力こそ、証明』

 ただその一言。

 大きくその文字が描かれている。

 

「力こそがこの学園のすべてなんだよ! 間違ったことは一言も言ってねぇだろーが!」

 

「ぐっ……」

 

 力こそ証明?

 それが学園のすべて……やはり、壊すことだけが目的だというのか?

 

 ガンプラビルダー。作る人たちを育成するための機関だというのに?

 おかしい。皆の夢を壊すようなことをするなんて……おかしい。

 

 

「返して」

 少女は立ち上がり手を伸ばす。

 

「その子を返して」

 

「あぁ?」

 男子学生は少女に近づく。

 

「じゃぁ、テメェも相手してくれるのかよ!?」

 飛び出す。

 男子学生の腕が少女に向かって。

 

「……ッ!!」

 

 

 

 

 我慢の限界だった。

 ヒカリは思わず手を伸ばしていた。

 

 少女に迫ろうとしていた悪意を自身の腕で払ってしまった。

 無意識だった。気が付いたら体が勝手に男子学生の腕を力強くはたいてしまったのだ。

 

 おかげで男子学生の腕は少女には届いていない。

 

「テメェッ!」

 すると、今度はその腕がヒカリへと飛んでくる。

 

「いいから早く相手しやがれ!」

 無理やりバトルシステムへと連れてこられる。

 彼の体を無理やり断頭台へと括りつけようとしていたのだ。

 

 

「待って」

 少女が彼らのもとへ。

 

「……私もその人と戦う。だから、勝ったらガンプラを返して」

 

「おい、お前ガンプラは持ってるのかよ?」

 

「……一つだけある」

 

 逃げればいい。

 自分の事なんて気にしなくていいのに。

 

 何故、掃った火の粉にまた身を投げ出す真似をしているんだ。

 

「おい、さすがに経験者が未経験者相手に集団リンチはまずいだろ。俺がこいつのアドバイスに回る。文句はねぇな?」

 

「チッ、好きにしろ」

 

 男子学生たちはバトルシステムの対面へと移動する。

 ついさっき、ガンダムのプラモをスクラップにした悪魔の姿が一斉にバトルステージへと現れていく。

 

 蘇る。

 さっきの悪夢が鮮明によみがえる。

 

 

「大丈夫」

 少女は隣のコックピットで口を開く。

 

「私が、守る」

 少女はガンプラをバトルステージへ。

 

 

 

 

「あれは……」

 そこへ現れたのは。

 

 自分が使っているガンダムと似たような機体。姿形がすごくそっくりなガンプラが、自身のガンダムのプラモの隣に現れたのである。

 

「ガンダム?」

 

「ああ、だがあれは、0ガンダム[オーガンダム]だな。似てはいるが、ガンダムとは違う機体だ」

 

 0ガンダム。

 機動戦士ガンダム00に登場する、初の太陽炉搭載型MSであり、主人公の刹那・F・セイエイの物語がはじまるきっかけとなるMSである。

 

 ほとんど灰色に近いカラーリング。

 あれはファーストシーズンに登場したときのカラーリングだ。

 

 ……背中から緑色の粒子が粉雪のように吹いている。

 あれも、0ガンダムならではのものなのだろうか? 自分の使っているガンダムにはあのような粒子は背中から出ていない。

 

 疑問に思いながら0ガンダムを見つめている。

 

 

「私の後ろを離れないで。攻撃をずっとよけるだけでいい……その姿じゃ、まともに戦えない」

 

 当然だ。まだパテが完全に固まっていない。

 動かすだけでも無謀な状態だ。無理がある。

 

「動かし方は教える。お前は攻撃をよけることに専念しろ」

 後ろからヒカリの手を握り、自分が動かしているかのようにレクチャーしていく。

 

 こうしたほうが一番覚えやすい。

 少々、男に手を握られるということに男子としては気持ち悪さがあるが贅沢は言ってられない。ここは素直に従おう。

 

「オラオラオラッ!」

 攻撃が飛んでくる。

 よけなくては……避けなければ、まだ粉々にされてしまう。

 

 一発のバズーカがこちらめがけて飛んできた。

 

「させない」

 0ガンダムが自身の前に飛んできた。

 

 

「あっ……」

 0ガンダムにバズーカが直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 ガンダムシールド。

 0ガンダムのシールドから小さく展開された緑色のバリアフィールド、GNフィールドが自身とガンダムの身を守る。

 

「っ!」

 0ガンダムが一人戦場へと駆け出していく。

 

「野郎!!」

 男子学生たちも3人一斉に0ガンダムに向けて突進を仕掛けてきた。

 

 3人相手に一人で挑むのは無謀だ。

 だが自分が動いても足手まといになるだけ……何もできない歯がゆさが苦しい。

 

 

 

「はっ」

 ところが、目の前に広がるのは想像と違った風景。

 

 圧倒している。

 3人相手だろうと敵のガンプラを圧倒しているのだ。

 

 

 向こうの男子学生たちも予想外の強さに驚きを隠せないようだ。あわてふためくように周りに罵詈雑言をぶつけては、仲間割れを始めている。

 

 

 0ガンダムは3体のモビルスーツの攻撃をよけて反撃を入れてを繰り返す。

 0ガンダムにはビームサーベルとビームガン以外の装備はない。たった2つの装備しかないのに……重火器を詰め込んでいる敵を次々と撃墜している。

 

「すげぇ」

 ショウタも思わず声を上げる。

 

 

「……!!」

 その姿。

 0ガンダムが戦うその姿。

 

 戦場に飛び交うGN粒子。

 戦場を舞うように戦う0ガンダムの姿。

 

 

 見惚れる。

 少年はその視線を釘付けにされる。

 

 

「これで最後」

 最後の一体も仕留めてみせる。

 

 

 倒してしまった。

 最後の1人もいとも簡単に。

 

 

「んなバカな……1体のガンプラで俺たち3体が全滅だと……!?」

 男たちは唸りを上げていた。

 

 

「すげぇよ! お前、こんなに強かったのか!」

 

「……」

 ショウタの声に彼女からの返事はない。

 

「っ!」

 異変に気付く。

 

「ううぅ……」

 頭を押さえ、少女がその場でしゃがみ込む。

 

「おい、大丈夫か!?」

 ショウタはヒカリの手を離し少女のもとへ向かう。

 すごく苦しそうだ。頭が割れるように痛いのかずっと腕で抑えている。

 

 

 

「帰れるか……」

 男子学生の1人がレバーに手を伸ばす。

 

「このまま帰れるかぁッ!」

 

 浅かった。

 一体のガンプラはまだ動ける状態だったのだ。

 

 

 ヒートホークを片手にザクが動けなくなった0ガンダムへと迫る。

 

 

「……ッ!」

 

 

 

 その一瞬の出来事。

 彼はその一瞬、自分でも何が起こったのか覚えていなかったという。

 

 ただ、自分が思ったことは二つ。

——あの子を助けないと。

——あいつを倒すための武器は?

 

 ビームサーベル。

 0ガンダムがその武器を持っていたことを思い出し、彼は即座にビームサーベルをガンダムの手に取らせた。

 

 そこからどう動かせばいいのか。

 やり方は分からない。ただ、一心不乱だった。

 

 

 完全なるフィーリング。

 かなり不規則ながらも相手に向かって走っていくガンダム。

 

 

「墜ちろォッ!!」

 突き入れる。

 ビームサーベルを、ザクの腹に突き入れた。

 

 倒した。

 撃墜した。未経験であるはずの自分が……ザクを撃墜した。

 

 

「俺が……倒したのか?」

 自分の腕を見つめる。

 自分が……倒したのか?

 

 

 実感がわかない。

 

 

「覚えてやがれ!」

 

 ただ立ち去っていく男たちを見つめることしか出来ない。

 挑発も文句も何一つ許さない。そんな一瞬の出来事。

 

 

「……あっ!」

 ヒカリはようやく目を覚まし、少女とショウタのもとへ向かう。

 

 

「大丈夫なのか?」

 

「平気、大丈夫」

 痛みは引いたようだ。

 少女は静かに立ち上がる。

 

 ……自分のガンプラを見つめている。

 

 

 そこでようやく気付く。

 無理に動かしたせいで、またガンダムの姿が滅茶苦茶になっていた。

 

 0ガンダムも圧倒こそしていたが攻撃を一つも受けていなかったわけじゃない。攻撃を3人がかりで食らえば当然ボロボロになる。

 

 動かすには可動域も死んでるし、メインカメラも吹っ飛んでしまっている。

 やはり負担が大きかったのだ。

 

 

「……可哀そう、か」

 少女の言葉を思い出したヒカリが口を開く。

 

「確かに……こいつら、こうなるために作られたわけじゃないのに」

 

「!」

 少女はヒカリの顔を見る。

 

 

 少女の顔には、驚きがあった。次いで、それとはまた違う表情を浮かべる。

 まるで、救いを見たかのような表情だった。

 

「とりあえず、保健室に行くか?」

 

「そうだね」

 

 少女を放っておけるわけにはいかない。

 一同は体験イベントを後にして、学園の保健室へとガイドの案内を受けながら移動した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 入学式も終わり、学園イベントも終了。

 夕方になり解散の時間となった。

 

「おつかれさん」

 初ガンプラバトルにひとまずはこの一言だ。

 今日一日でいろいろなことがありすぎた。お疲れの言葉をかけたくもなる。

 

「……」

 ヒカリは空を見上げて立ち止まっている。

 

「やっぱり、嫌になったか? この学園」

 彼は何かを知っているようだった。

 

 ……この学園には自分が想像もできないような闇が潜んでいる。

 力、破壊、蹂躙。見る者すべてを恐怖に落としてる暗黒がこの学園には潜んでいる。

 

 あれだけの悪夢を目の当たりにしたのだ。

 ガンプラビルダーとしての道に嫌気がさしてしまうのも無理はない。

 

 彼はそう思っていた。

 

 

「……あの女の子、辛そうな表情をしていた」

 

 自分の事を助けてくれた少女の事を思い出す。

 

 その無表情を見れば、この学園生活を楽しんでいないのがまるわかり。

 この学園には自分が想像できないような闇が潜んでいることも分かってしまう。

 

 

「でも、ガンプラを作ってるとき」

 同時に忘れはしない。

 

「ガンプラを動かしているとき……」

 そんな表情なんて忘れたくなるような。

 

 

「すごく、楽しそうだった」

 あの楽しく躍動している表情を。

 

 自分のガンプラを楽しんでいる姿を。

 

 

「……作ってみたい」

 ヒカリはショウタの目を見る。

 

 

「俺も作ってみたい……自分だけのガンプラ……!」

 

 目がキラキラしている。

 恐怖どころか、その目は希望に満ちている。

 

 

「へっ! そうこなくっちゃな!」

 

 あのヒカリが。

 何事にも無関心だったヒカリが。

 

 初めて興味を示した。

 その姿にショウタは嬉しさを隠せなかった。

 

 

「よっしゃ! じゃあ、明日は休みだからガンプラショップにでも行ってみるか!?」

 

 学園生活は2日後からであり、その間の休日は準備期間。

 その準備期間にガンプラでも見に行こうとの誘いだった。

 

 

「行くぜ~! 俺たちのガンプラビルダーへの道は始まったばかりだぜ~! オー!!」

 

「お、おー……」

 

 夕日に向かって2人は歩いていく。

 

 

 

 

 カナタ ヒカリ。

 学園に渦巻く闇。その闇と戦うビルダー。

 

 

 これは、一人の少年が起こした奇跡の戦いの物語である。

 

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