一波乱も二波乱もあった入学式のガンプラビルダー体験イベント会。
最初こそは、ただ作って壊すことを愉悦に感じるの行為に、何が楽しいのだと絶望を抱くだけであった。こんな世界に安易に足を踏み入れた自分への、浅はかな精神を呪うばかりだった。
少しだけ人生の選び方を大事にするべきかと思った瞬間でもあった。
でも、自分はこの学園を選んだこと……それは間違いではなかったかもしれないと思い始めた。
後悔が、ワクワクへと変わったのだ。
少女の作った0ガンダム。そして動く0ガンダムの姿。
綺麗だった。恰好よかった。
自分も作ってみたい。
あんなに綺麗で格好良くて……誰にも負けないようなガンプラを。
「んじゃ、行くか」
その願いを込めて、今日は外出。
腐れ縁である男友達のショウタと共にガンプラショップへと向かった。
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関西でも大規模なショッピングモールがこの学園の近くに存在している。
ガンプラビルダーが有名となったこのご時世、このショッピングモールに存在するガンプラショップは……お台場のガンダムエキスポに引けを取らないほどの大規模ショップと化していた。
なんと、ひとつの階の5分の3を占拠するほどの広さ。学園で体験したバトルシステムやビルドコーナーも当然完備。ありとあらゆるキットがこのショッピングモールのガンプラショップだけでも揃えられるようになっていた。
「うおおぉ……」
ショップに足を踏み入れただけでも驚いた。
ヒカリは、ガンダムの知識を何一つ知らないわけじゃない。ガンダムとかザクとかある程度の情報は頭に入っている……主人公がアムロ・レイとかそのライバルがシャア・アズナブルとかそれくらいのことは知っているのだ。
だが、その後の続編の事も、それ以外のガンダムの事も知らない。
だから驚いたのだ。
こんな山のようにガンプラが存在することに。
いや、数十年以上も続くコンテンツなのだから当然と言えば当然なのはわかる。でも、それを総計するとここまでの規模になるのかと驚きを露わにするばかりだ。
「え、ガンダムだけでもこれだけあるの……?」
歴代シリーズのガンダム。それ以外にも量産型のガンダムなど、ガンダムというモビルスーツだけでもこれだけの種類があることに驚いている。
極地型? 陸戦型? 何の違いが?
ブルーディスティニー3号機? ZⅡ? FAZZ? デルタカイ?
ディープストライカーという機体に関しては何だこれ。最早ガンダムじゃないじゃん。動く要塞か何かじゃん、これ。
「ザクウォーリア……ガンダムSEED……初代とSEEDってつながってる?」
「いや、つながってないな」
ザクは初代とかその関係だけかと思いきや、SEEDの世界線にも存在しているザクの姿を見て、今世紀最大の困惑を浮かべている。
ザクだけでもかなりの種類がある。
ネタかどうかは知らないが、お勧めで張り出されている、この足が作画崩壊並みにスリムなザクは一体何なんだ? これも別機体なのか?
分からない。
やはり、少しくらいはガンダムの事を調べてから来るべきだった。
といっても、調べたところでどこから調べたらいいか分からない。
何せ、ガンダムというコンテンツはあまりにも広すぎるから。
「まあ、ゆっくり探してみるといいさ。お前が気に入ったガンプラを」
……ぼちぼち探して見るとしよう。
自分が気に入りそうなガンプラを。
「ちなみにオススメなんだけどよ! このジムとかどうよ!?」
すると彼はジムのガンプラを持ってきた。
そう、彼はガンダムシリーズの中でもかなりのジムファンなのである。
彼の部屋には数百体以上のジムのガンプラがHGMGに1/100問わずに綺麗に並べられていたのは覚えている。そのモビルスーツがジムだというのを1時間ほど毎回レクチャーされて、最初のジムだけは頭に焼き付いている。
「なんなら、このジムⅡとかも」
「え、これさっき見た」
「は?」
彼の中で変なスイッチが入る。
「ジムとジムⅡは全く違うだろうがよ! ほら、よく見ろ!」
そういわれてもわかるわけがない。
テーブルに並べられた大量のリンゴを見て、どれがどの産地のリンゴですかと質問されているような感覚だ。ヒカリにはどのジムも一緒に映っているのだから。
ガンダム知識ゼロなんだから仕方ない。
ヒカリは内心、ジム・スナイパーもジム・スナイパーⅡも一緒じゃねえかと思っていた。
「探してくる」
これ以上ジム談議に付き合っていたら自分の機体がジムにされそうだ。
いや、別段ジムが嫌いなわけじゃないが、やっぱりいろんな機体を見てから決めたい。
ヒカリは無数のガンプラの中へ。
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一列の棚を見終わった。
彼が最初に見たのは宇宙世紀のモビルスーツだったのだが。
多すぎる。
敵の機体、味方の機体。あまりにも多すぎる。
第一、ザクとガンダムは分かるが……ゼータとつく機体がかなり多い。それ以外にもゼータに似た機体が多かったりで混乱が止まらない。
分からない。全然分からない。
ギラ・ドーガってなんだ。ギラ・ズールってなんだ。
両方ともギラってついてるけど兄弟機か何かなのかな。
混乱を極めながら次の列に向かっていく。
「ん」
その途中、ヒカリは足を止めた。
……それは、どのショップにも一つは存在するであろうディスプレイである。
ここにはたくさんの数のガンプラがディスプレイされているのである。
彼の目に映ったのは……MG1/100 フルアーマーガンダム&サイコザク ラストセッションのディスプレイであった。
ディスプレイで再現されているのはサンダーボルトの最後のシーン。
すべてのアーマーをパージしたフルアーマーガンダムが、身動きの取れなくなったサイコザクに最後の一太刀を入れようとするあのシーンである。
再現を徹底してるのか、たまに電流のエフェクトがケージの中で入る。
あの最終シーンを再現するかのように。
「……」
ガンダム。
ボロボロになりながらも最後の一太刀を入れようとしている姿。
電流が走る。
彼の中で一筋のイナズマが迸る。
「おーい、一通り見たか~?」
「……これでいい」
ヒカリはフルアーマーガンダム(サンダーボルト)を指さしている。
「俺……こいつとなら行ける」
一目惚れだった。
「こいつを見たとき、“ビリっと来た”」
目を輝かせ、自身の思いを告げる。
「ビリっと来たんだよ、俺の中で何かが……!」
サンダーボルトとビリっと来た、これは駄洒落か何かなのだろうか、とショウタは思う。
いや、きっと違うだろう。何せ彼はガンダムを一度も見たことがない素人。
この作品の事も知らないのだから無意識であることに間違いない。
「俺、この“サンダーボルトガンダム”を作ってみたい!」
現に機体の名前を間違っているのだから。
「ヒカリ、こいつはフルアーマーガンダム(サンダーボルトVer)であって、サンダーボルトガンダムって名前じゃないぞ」
ひとまず訂正は加えておいた。
サンダーボルトはこのモビルスーツの出演した作品の名前である。
フルアーマーガンダムというモビルスーツは他にも存在するため、その区別のためにサンダーボルトと付け加えられてるわけである。つまり、この機体はサンダーボルトガンダムという名ではない、と。
「ああ、そうなんだ」
「まあ、何がともあれ、サンダーボルトとはいい趣味してるじゃねえか!」
彼の背中をどんと叩く。
「よし! じゃあ、そのモビルスーツのコクピットまで一名様ご案内だ!」
ショウタに連れられ、ヒカリは自分の選んだフルアーマーガンダム(サンダーボルト)の置いてある場所まで移動した。
「……?」
パッケージを見る。
そして、ディスプレイを見る。
おかしい。
何か武装が多いというか、装甲が多いというか……
「あ、いやな。それが本来の姿で、そのアーマーの下がああなってるってわけさ」
冷静に考えてみたら、ガンプラ初心者がサンダーボルトに手を出すのは少し無謀のような気もしてきた。サイコザクよりは遥かにマシかもしれないが、フルアーマーガンダム自体も中々に手間がかかるし、難易度も高いような気がする。
その分、出来上がったときの愉悦感は素晴らしいものであるが。
重厚感も差し支え無しだし。
「まあ、あの姿に惚れたっていうなら、素体だけ作ってみるか?」
「うん」
ヒカリはフルアーマーガンダムのプラモを手に体験コーナーへと向かっていく。
「おい待て」
一度彼を止める。
「作る前にちゃんと買ってからな?」
「あ、そうか」
うっかりしていたヒカリはレジへと向かっていった。
「すいません、これくだ——」
「あ、ちょっと待て。学生証持ってるだろ?」
ショウタはレジに箱を出そうとするヒカリを手で制す。そして自分の学生証をヒラヒラと見せた。
「持ってるけど、なんで?」
「このショップは学園と提携しててな。学生証を見せれば初回だけタダになるんだ」
「へえ、すごいね」
そう言うと、ヒカリは学生証を取り出し、箱と一緒にレジに出した。
「じゃあ、これください」
結果、ヒカリはタダでガンプラを手に入れることが出来た。
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ビルドコーナー。
いよいよ、フルアーマーガンダムの箱を開封する。
「うわー……」
想像以上の数のパーツに驚く。
こんなバラバラとしたものがあんな姿になるのかと想像するだけでも不思議に思う。
「作り方は俺が教えるから、ニッパーの使い方とかはさすがに調べてきたよな?」
そこくらいは調べてこいと前もって連絡しておいた。
ガンダムの解説以前にガンプラを作るときのアイテムの使い方までその場で教えろと言われたらキリがない。さすがにそこは調べてこいと連絡は入れておいた。
「うん」
言われたとおりに調べてある。
一通りの作り方はしっかりと頭に入れておいた。
「それじゃあ、さっそく作ってみて……」
「ん?」
彼は気づく。
「あっ」
そこへ現れたのは……入学式と同じ、猫耳フードのパーカーを来た少女。
パーカーの下はさすがに制服じゃなく私服。
初日で知り合ったあの少女。
「君は」
思ったより早くの再会であった。