バトルシステムの登場により、ガンプラバトルは大きく幅を広げた。
ヒカリたちの目の前にある、コックピットのような巨大カプセル。これは旧型のバトルシステムである。
が、旧型は旧型で実際にコックピットに乗っているような臨場感がある、という肯定的な意見も多い。
現在のモデルはカプセル型ではなくなっている。コックピットの風景はバーチャルヴィジョンによる立体映像で映し出されており、映像技術の進歩もあって、旧型よりも臨場感が増している。実際には自分の周りには壁がないので、そこが旧型に劣るというファンもいるのだが。
コックピットタイプの旧型バトルシステムの中に、ガンプラと一緒に足を踏み入れるヒカリ。
……いよいよ、自分だけのガンプラでステージに立つ。
胸の中がはちきれそうだ。ここまで興奮を覚えたことは一度もなかった。
「えっと、確かにここにセット、と」
目の前にガンプラをセットする装置がある。
ガンプラを配置すると、バトルシステムが一瞬で起動する。
「そういえば、初心者向けにチュートリアルがあるって言ってたっけ」
ショッピングセンターのガンプラショップに配置されているバトルシステムには初心者へのガイドとしてチュートリアルが存在する。
専用のエリアにて、ガンプラの移動の仕方に武器の切り替え方、照準の合わせ方にエネルギー補給のやり方など、バトルに必要最低限な知識を学ぶことができる。
自分もガンブレ学園の生徒。
ビルダーとしての最低限の知識を入れておくためにここでしっかりと勉強をしておくことにする。
チュートリアルの時間はおよそ5分。
それほど長くはない。指示されたことを実際に真似するだけでトントン拍子に進んでいく。
チュートリアルの成果を試すのは本番で、ということだ。
いよいよ、サンダーボルトガンダム初陣の時である。
「おおぉ……」
カタパルトから、自身のガンプラであるサンダーボルトガンダムが戦場へと吐き出される。
この何とも言えない臨場感が体にまとわりついて離れない。
吐き出されたのは森林地帯の存在する荒原エリアだ。
バーチャルとはいえ、かなりの再現力だ。岩も木も実際の障害物として破壊可能だし、こちらの攻撃次第では地形が変化することもある。
広々とした大地の上をサンダーボルトガンダムが浮いている。
「……ん?」
しかし、そこでハプニング。
サンダーボルトガンダムが、ピタリと止まったのである。
「……んんんっ!?」
サンダーボルトガンダムが地上へと落ちていく。
そうだ、そういえば忘れていた。
ここに入る前にショウタからある注意をされていたことに。
【チュートリアルが終わったら出撃。出撃の際はオートでやってくれるけど、そこからは自分で操縦しないといけないから気をつけろよ】
チュートリアルで学んだことを忘れないようにということもそうだが、実際に自身のガンプラが動いているという感動で頭いっぱいだったせいか、すっかり忘れていた。
落ちる。
自分のガンダムが間抜けに落ちていく。
「えっと、確か……」
即座にブースターのスイッチを入れる。
「……ッ!?」
機体が動く。
前方から突風と言えるような感覚が伝わってくる。
サンダーボルトガンダムの背中に搭載されている専用ブースター。
試作一号機のフルバーニアンをトールギスのスーパーバーニアのように再現し、空中でも宇宙でも殺人的な加速と超速トリッキーな動きを行える特殊なブースター、“ボルテックバーニア”が搭載されている。
ボルテックバーニアの出力は見事なものだ。
しかし、それ故に使いこなすのには少し時間がかかる。
殺人的な加速を抑え、トリッキーな動きに体が慣れること。
最初こそ、サンダーボルトガンダムは空中を蚊トンボのごとく、不規則かつ乱暴な動きで暴れまわっていた。
「あわわわ……」
歯をガタガタさせながら、ヒカリは顔を青ざめる。
『落ち着け。ゆっくりレバーを引くんだ』
突然、コックピットの中から声が入る。
これは通信?
聞き覚えのあるこの愉快な声は……ショウタの声だ。
「こう……?」
レバーをゆっくり引く。
止まる。
空中で綺麗な姿勢を保ったまま浮いている。
『チュートリアル通りに動かしてみな』
「チュートリアル通りに」
ブースターの動かし方。機体の動かし方はしっかりと頭に入れている。
彼は何に対しても無関心ではあったが、能力が低いわけではない。学校でのテスト勉強の際はしっかりとテスト範囲を頭に入れていたし、運動に関しても、ドッジボールで活躍できるくらいの運動神経と反射神経は兼ね揃えていた。
普通のちょっと上ぐらい、と先生からも評価を受けている。
彼は何の能力にも恵まれていない、というわけではない。
それなりに能力はある方だった。
それ故に、友人からのアドバイスを聞いてからは落ち着きを取り戻し、機体を思うがままに動かしていく。
「おお……」
ボルテックバーニアによる出力。
その加速が体にも伝わってくるようである。
最高の躍動感。
震えるような臨場感。
興奮鳴りやまぬ高揚感。
「……最高」
気持ちがいい。
胸の中にアッツアツのガソリンを放り込まれたような。今まで電源の入っていなかった体にスイッチが入ったような感覚が体全体に広がっていく。
すごい。
体験したことのない未知の興奮にヒカリは熱心にレバーを引いたり押したりを繰り返す。
『楽しんでるところ悪いが少し落ち着けよ。とりあえず合流しようぜ?』
合流?
このエリアのどこかにショウタのガンプラがいるのだろうか。
『こっちだよ、こっち!』
すると、空中に信号弾が射出される。
合図。自分はここにいるぞという合図であった。
「あれは」
見えた。
一体のガンプラが元気よく右手を降ってこちらを待っている。
やはりジムだ。
こよなくジムを愛する彼のガンプラは、やはりジムである。
しかし、想像したよりもゴツい。
近くには陸戦型ガンダムのキャノン砲に、肩にはガンキャノンなどで使用されるキャノン砲など、ヒカリの知らないモビルスーツの武器が取り付けられている。
まるで動く要塞のようなアーマーを身に着けたジムがそこにいた。
『思ったよりも慣れるのが早いな。こりゃあ期待できるぜ』
やはり、このジムがショウタのガンプラのようだ。
その証拠に、自身の画面にショウタのコックピット内の映像が映し出される。
いつも通り愉快な表情を浮かべているショウタからの通信であった。
「それがショウタのガンプラ?」
『ああ! その名もジム・カラッテレだ!』
ジム・カラッテレ。
彼には、こだわりともいうべき美学がある。
それは、『ジムとはあらゆる局面でも対応できる柔軟性を持ち、それぞれに適した装備にも対応することができるのが強みであり魅力』というものだ。
ジムとはそれぞれの局面によって装備が異なる。そのバリエーションは多数存在し、対応出来ない局面は存在せず、あらゆる場所でエース機の援護をし、チームワークで敵を翻弄する。
まさしく、縁の下の力持ち。
このジム・カラッテレは戦場において装備を変える仕様だ。
装備は基本としてフルアーマーを纏う。支援砲撃、狙撃、機動力、重装甲といった、目的に応じたフルアーマーを装着するのだ。
今回選んだのは支援砲撃タイプ。彼曰く、“ソリッドキャノンアーマー”だそうだ。
これ以外のバーションも存在するという。
カラッテレとはイタリア語で性格。性格が変わる機体。
まさしくその通りだ。何故、イタリア語がチョイスされているのかは後々聞くとして。
『さて、そろそろ構えろ。敵が来るぞ?』
「敵?」
『乗る前に言っただろ。CPUと戦うから出撃後は気をつけろって』
そういえばそんなこと言ってたような気がする。
思い出したヒカリはジム・カラッテレの横にサンダーボルトガンダムを並べ、その横でジム・カラッテレの下準備をじっと見つめている。
『さあ行くぜ。敵さんのおでましだ』
ショウタがそう口にすると、コックピットに敵が接近したという警告のアラートが鳴る。
基本的にバトルシステムは対人戦が意識されている。
しかし、対人以外にもしっかりとバトル機能は搭載されており、CPUによるバーチャルのモビルスーツが数体お相手するというバトルモードまで搭載されているのだ。
ガンプラショップやバトル施設などで用意されているバトルシステムには基本搭載されているものだ。ガンプラバトルの準備運動タイムと言ったところである。
レベル1。
初心者でも安心して相手ができるモビルスーツがこちらのお相手をしてくれる。
3体のザク。
マシンガンとヒートホークのみを手にしたザクがこちらに接近してくる。
『んじゃ、ご挨拶と』
陸戦型ガンダムのキャノン砲を馬鹿正直に突っ込んでくるザクに向けて一発発射。
「おおっ……」
キャノンの反動がこちらにも伝わってくるようだ。
ヒカリは思わず、その場でたじろいでしまう。
命中。
一発はただこちらへ突っ込んでくるだけのザクに見事命中した。
「おお、お見事」
『いや感心してないで、君も何かしなさいよ!』
ジム・カラッテレの右手がチョップをするようにサンダーボルトガンダムの頭を小突く。
まさかガンプラ越しにツッコミを入れてくるとは思いもしなかった。
「何かする……」
サンダーボルトガンダムの左手に装備されている2連ビームライフル。
大き目のシールドの裏に搭載されている2口のビームライフルだ。サンダーボルト版フルアーマーガンダムの主兵装でもおなじみの武器である。
「これをこうして?」
銃口を接近してくるザクに向ける。
最初の一撃。
ヒカリは息を吐いた後、ゆっくりとトリガーを引いた。
「……ッ!?」
バカみたいな火力。
想像していなかった威力のビームがザクに向かって発射される。
このビームライフルはエネルギーパック式。そのエネルギーパックの中に含まれるエネルギーを初っ端から全開にして発射してしまったためにこの火力である。
溶けてしまう。
見るも無残な姿で一体のザクがあっという間に溶けてなくなってしまう。
『いきなるフルバーストですか、ヒカリ君……』
思わず敬語で喋ってしまうが仕方ない。
初心者でよくやるミスである。エネルギーの装填量の調整をしなかったせいでいきなり全エネルギーをぶっぱしてしまうケースは。
不幸中の幸いか、これはエネルギーパック式。
予備のパックがあと3本ほどマウントされている。いきなりガス欠という事態には陥らなかった。
「すご……」
思わず、口をあんぐりと開いてしまうヒカリ。
「やりすぎのような気が」
『まあ、それくらい過剰でもいい気がするがな。なにせ、ガンダムだしな』
白い悪魔と言われるガンダム。
圧倒的な機動力に圧倒的な火力。それくらいのパワーがあってもバチは当たらないと口にしておいた。
『いい機会だ。ヒカリ、残った一体を倒して来いよ。俺が後ろでカバーしてやる』
せっかくだから接近戦の練習も兼ねて、あの相手をヒカリに譲ることへ。
こちらは砲撃支援型。ヒカリが危なくなったら後ろでしっかりとバックアップを務めるため心配は無用とグッドサインを送る。ジム・カラッテレの左手で。
「……よし」
機体の準備はオーケー。
あとは自分の心の準備だ。
迫る一体のザク。
自分に言葉で表せないプレッシャーも迫る。
しかし、そんなプレッシャーよりも。
この機体を動かしたい。活躍させたいというワクワクの方が抑えられない。
迫る。
サンダーボルトガンダムがザクへと正面切って接近する。
レベル1のザクは、敵が射程範囲内に入ってからようやく攻撃を開始する。文字通り初心者向けの戦闘パターンに設定されたCPUである。
敵を捉えたザクはザクマシンガンをサンダーボルトガンダムへと数発お見舞いする。
「これで」
2連ビームライフルのシールドでガードする。
小さくしたとはいえ、それでも十分にサイズの大きいシールドなだけあり、頑丈だ。ザクマシンガン程度の弾丸なんて、簡単に防ぎきってしまう。
「行け……ッ!」
シールドで身を隠しながら接近。空いている左手で腰にマウントされているビームサーベルへと手を伸ばす。
取り出したビームサーベルは高出力。
文字通り、過剰と言えるほどの出力が具現する。
斬り裂いた。
そのまま、ザクと体がすれ違う。
爆散。
ザクの体は塵となって、空の花火と化した。
『上出来だ!』
レベル1のため対処は簡単だが、それよりも操縦の慣れが早いことを賞賛する。
センスがいい。これならもっと上手くガンプラを動かせるはずである。
「これが……ガンダム」
コックピット越し。モニター越しから自分のガンダムの両腕を見る。
これが自分だけのガンダム。
まるで主人公になった気分。
止まらないワクワク。次第にそれは表情に出始めていた。
『……ッ!? ヒカリ! 後ろだ!!』
ショウタからの声。
「ッ!?」
即座に反応した。
盾を構えたまま、サンダーボルトガンダムを降り向かせる。
衝撃。
シールドに大きめのヒートホークがぶつかる。
『ちっ、ダメか』
いつしか倒したザク。
その姿は忘れもしないザク。
『まあいい、今度こそ潰してやる』
不安定なほど装備を詰め込んだザクがシールドを蹴り飛ばし、サンダーボルトガンダムの体を吹っ飛ばした。