『ちっ! しゃらくせぇ!』
空中を逃げ惑うサンダーボルトガンダムを撃ち落とそうにもなかなか捉えることができない。弾丸を何発お見舞いしたとしても、肩についているフレキシブル仕様のサブアームシールドが自動でその攻撃をオートガードしている。
まだ防御面などの小回りで苦戦しそうなヒカリのためにツキヨとショウタが付け足したおまけ機能のようなものだ。
その気遣いがすぐにでも役に立っているようだ。
蚊トンボのごとく逃げ回る。
「逃げないと……俺に出来るのは」
自分に出来るのはそれくらい。
……本当にそれくらい?
(俺に出来るのは、そのくらい?)
自分の胸の中で何かが批判する。
逃げることをやめろ。自分の中で何かわからない感情が必死にそれを抵抗する。
(……ううん、いやだ)
その気持ちがヒカリを駆り立てる。
彼の中で芽生えつつある。
戦士としてのプライドに火がつきつつある。
(負けっぱなしは嫌だ)
自分のせいでガンダムが傷つく。
自分が不甲斐ないせいでガンプラがスクラップにされてしまう。
自分のせいで、自分の機体が負けてしまう。
嫌だ。
それだけは嫌だ。
「負けたくない」
負けたくない。
「こんな奴にだけは……負けたくない!」
覚悟は決まった。心も定まった。
彼の闘志は極まった。
「勝つ……勝つんだ……ッ!!」
Uターン。
サブアームシールドの裏面にマウントされているアサルトマシンガンを取り出し、威嚇射撃を行いながら接近を仕掛ける。
不安もある。当然恐怖もある。
それ故に狙いはぶれまくってるし、弾丸も明後日の方向へ向かって飛んでいくのもチラホラ見えてしまっている。
彼は叫んでいる。
だが、その声が震えている。
自分の覚悟にはまだ戸惑いがあることも分かっている。
でも、その戸惑いを押しのけようとする。
自分を止めようとする恐怖を払いのけ、ただ走る。
駆け巡るんだ。
この戦場を……イナズマのように。
この名前に相応しい、雷光のように。
「な……!?」
ザクを駆る男子生徒は驚きの声を上げる。
変わった。
明らかに動きが変わった。
ボルテックバーニア。
その出力は殺人的すぎる前面加速に、トリッキーすぎる変則移動の連続。
その繰り返しにより生まれる挙動は、口で例えるのなら、ただ一言。
——“サンダーボルト”
目の前にいるモビルスーツは、最早蚊トンボなどという目障りで見苦しい動きをするだけのガンプラなんかじゃない。
ただその一瞬を。標的にめがけて絡みつき、喰らいつくように迫りくるイナズマ。
文字通り、サンダーボルト。
「はぁああッ……!」
ビームサーベルを突き入れる。
「何度も同じ手に!」
一度同じような攻撃を受けている。
デジャヴを感じた男子生徒はその攻撃を回避する。
「逃がさない」
スイッチを入れる。
「逃がすわけにはいかない!」
サブアームシールドが蛇のようにザクの胸部分へと突っ込んでいく。
何かロックが外れる音がする。
感じる。
このサブアームシールドの裏には……マウントされていたアサルトマシンガン以外にももう一つ武器が隠されている。
ロケットランチャー。
本来ならば、フルアーマーガンダムのもう片方の腕に装備されている実弾兵器。
数発の爆発弾がザクの胸の中に打ち込まれ……起爆する。
「何だ……なんだ、その速さはぁッ!?」
不良生徒はただ叫ぶ。
何が起きたか分からない。あの一瞬の閃光を。
「俺の……勝ちだ……っ!」
2連ビームライフルを構える。
空中でもがき苦しむザクへと向けて撃ち込んだ。
「何とか言いやがれよぉッ! うおおォオッ!?」
理不尽な出来事にただ叫ぶのみ。
虚しい男の叫び声は、ザクが砕け散る音と共に儚く消えていった。
「はぁ……はあ……」
息が上がる。
勝ったのか?
自分が、あの男に一矢報いることが出来たのか?
今はまだ、その発想には至らない。
初めての戦いの緊張、プレッシャー。
その反動が今になって自分へとやってくる。
バトルフィールドが解除される。
3人はコックピットを出る。
「ヒカリ! お前!」
「ヒカリ……!」
そのバトルの風景は見ていた。
完璧だった。
癖の強いボルテックバーニアを使いこなし、見事に敵を倒してみせた。
初のガンプラバトルにて見事なまでの初白星。
「出来た」
ヒカリは声を上げる。
「俺、出来た? 俺、ガンプラを動かせた……!?」
「ああ、完璧だ! 恰好よかったぜ!」
「うん……!」
2人は肯定する。
最高にクールだった。自分たちも鳥肌が立った。
「ははっ……」
自身の手にあるサンダーボルトガンダム。
自分の相棒。
初めての動作。初めての勝利。
そのすべての喜びが込みあがって、思わず笑みを浮かべてしまう。
この笑みは、きっと初めてなのだと思う。
ここまで心から嬉しいと思ったことはなかったのだから。
「畜生が!」
向こうからコックピットを勢いよく蹴り上げる音。
「あんなのチートじゃねえのかよ! ふざけやがって!」
「何見てんだよ! 見世物じゃねぇんだよ!」
負けた腹いせに八つ当たり。
見苦しい。どこからどこまで見苦しい。
「いい加減にしてください!」
ガンプラショップの店員がさすがに止めに入ったようだ。
バトルの許可もしていないのに強制乱入。それ以外にも負けた腹いせの八つ当たりの繰り返し、普通に考えて営業妨害およびルール違反。下手すれば出禁レベルの行動である。
「ちっ! 帰るぞ! 胸糞わりぃ!」
「ああ、本当にな!」
3人は機嫌を悪くしながらその場を去っていく。
「待って」
ツキヨや呼び止める。
「ガンプラはもっていかないの?」
フィールドにはまだボロボロになったガンプラが残っている。
修理すればまだ動く。過剰なまでに詰め込まれた装甲や武器が盾となって、最小限の被害にまでは落ち着いているようあった。
「いらねぇよ! そんなゴミ!」
「勝てもしねぇジャンクなんか、いらねぇんだよ!」
ゴミ、ジャンク。
罵詈雑言を言い散らして、その場から去っていく。
「……」
拳を握る。
ヒカリは言葉にならない怒りがこみ上げる。
「相棒じゃないのかよ……」
ボロボロになったガンプラを見つめる。
「一緒に戦う仲間じゃないのかよ!!」
叫んだ。
ヒカリが叫んだ。
「お前……」
ショウタは当然驚いた。
ここまで彼が感情的になったのは初めてみたような気がしたからだ。
ここまで怒りの籠った表情を浮かべたヒカリは見たことがなかった。
「何なんだよ、この胸糞悪さは……!」
フィールドに散乱しているガンプラ。
ゴミと呼ばれうち捨てられたガンプラ達を見て悲しんでいる。
今までで一番怒って、一番悲しんでいるのかもしれない。
今のヒカリは。
「……」
ツキヨはフィールドへと侵入する。
そして、ボロボロになったガンプラ達を回収する。
「おい、何をして」
「私が治す」
そっと、ボロボロになったガンプラを抱き寄せる。
「この子達は……まだ動きたいと思うから」
どこまでも優しい子なのだ。あの少女は。
敵であった人間のガンプラ。捨てられたガンプラを子犬子猫のように抱き寄せた。
慈愛に満ちていた。
思わず言葉を失った。
「なぁ、ショウタ」
ヒカリは顔を上げる。
「教えてくれよ。ガンブレ学園で何が起こっているのか」
拳を力強く握りしめ、怒りに満ちた目でショウタの瞳をのぞき込む。
「どうしてそこまでして力に固執するのか……ああまでして、叩き潰すことに何の意味があるのかを……!」
もう、逃げはしない。
学園に潜む闇。それと向き合う目をしている。
それは、戦う覚悟なのか決意なのか。
今はまだ分からない。
でも、そこには頑固とした現れがあった。
「……わかった」
最初は戸惑った。
でも、もう隠すことはしない。
全てを話そう。
ガンブレ学園。
希望の裏に隠れた闇の姿を。