1年前、ショウタが入学したときの話である。
彼の将来の夢、それは勿論ガンダムビルダーである。
小さいころから親の影響で見ていたガンダム。
父親からプレゼントされたガンプラ。それがきっかけで幼稚園の頃からガンプラを作り、小学校後半くらいには自分で作れるようになった。
中学校時代にはジムが大好きになり、このジムの魅力を120パーセント伝えられるビルダー兼ファイターになりたいと志すようになった。
運のよいことに自身の中学校の近所に例の学園が設立されていた。
私立ガンブレ学園。未来あるガンプラビルダーの育成を中心とした教育機関である。
入学式当日は当然、ワクワクが止まらなかった。
これから1年間365日。3年間に換算して……およそ1000日!
これから毎日ガンプラに囲まれながらの生活を送ることになる。ガンプラビルダーを夢見る彼にとってはまさしく楽園のような世界であった。
ただ一つ、不穏なものも目に入っていた。
“力こそ証明”
この言葉。体育館ホールに大きく飾られた掛け軸に描かれているその言葉が気になった。
でも、最初はスルーしていた。
そんなことよりもこの学園で腕を磨き、どのようなジムを作るかのほうが先決だ。自身の想像する設計通りのジムをこの学園で実現させてみせるのだ。
ちょっとおふざけでアロンダイトを振り回すジムとか、セブンソードを振り回すジムとかも試しに作ってみたい。無限の可能性を秘めているのがジムの楽しみなのである。
楽しみに思うばかり、最初の不穏はものの数秒で消し飛んでいた。
しかし、彼は気づくことになる。
この学園が楽園なんかではなく……ひとつの地獄だということに。
彼がこの学園の闇に気が付いたのは入学してから5日後の事であった。
彼は見てしまったのだ。
新入生の作ったガンプラ達が、在学生によって木っ端微塵にされているところを。敗北者のガンプラを弄び、持っていかれてしまっているところを。
その毒牙は自分にもかけられた。
数人によるリンチで自分の作ったジムを粉砕され、『ザコはおとなしくボールでも作ってろ』と一蹴し、その場を去っていく。
何がどうなっている。
このような事が許されていいのか。と疑問に思った。
その日から、ショウタは学園のことを探り始めたのだ。
そして見つけ出す。
自身たち新入生と同様、一方的に蹂躙される在学生の存在を。
在学生から全てを聞きだした。
この学園に潜む闇……この学園に身を置く者には逆らえぬ、ルールというものを。
ガンブレ学園。
未来あるビルダーを育成する機関。
しかし、その裏の顔は。
ガンプラを力の証明として利用し、強者が弱者を薙ぎ払う地獄のような空間だったのだ。
ガンプラを力として振りかざすことを全面許可し、強き者こそを正義とする、と。
バトルに勝利し、その力を証明した者のみがより多くのパーツと自由を得ることが出来る。力とは資材を手に入れるための手段であり、ガンプラこそが力そのものなのだ。
逆に弱者は全てを奪われ、静まり返るのみ。
敗北者は大人しくガンプラを差し出さねばならず、発言も抵抗も許されない。
そういう校則なのだ。それを良しとする者だけが、この学園で最後まで残れるのだ。
力なきものに与えられる選択は、おとなしく強者に従うか、この学園を去るかの二択だ。
敗者はビルダーの夢を見るな。
その一言に尽きる、ということだ。
当然、このルールに納得がいかず、反発する新入生が多数存在した。
しかし、その反発もたったの1週間で勢いが静まることになる。
力のみが支配するこの学園には、2つの存在がある。
まずは、トップ集団。
この学園で力を証明し、その頂点へと君臨し、この学園の秩序として存在し、ある意味では管理する抑止力として存在する、トップレベルの4人。いわゆる四天王というもの。
この学園のルールを作りし学園長に選ばれた、トップ4である。
それ以外にも、学園長直属の組織“風紀委員”。
力のみが証明である場であれど、秩序は存在する。最低限のルールというものは存在するのだ。
ガンプラバトル以外での力の証明、敗北者たちの執拗なまでの反発行為やデモ行為、それを鎮めるのが風紀委員の仕事である。風紀委員も学園長が選抜した腕利きの生徒たちであり、弱者はその圧倒的な力の前にねじ伏せられる。
逆らうことは許されない。
ルールが気に入らないのなら、夢を捨てこの学園を去ればよいだけのこと。
その言葉で片付けられる世界なのだ。
ショウタは怒った。
そんな世界が存在していいはずがない。
ルールに則り、初心者ばかりをつけ狙う卑怯者がいる。
負けてたまるか。
こんなルールなんかに。
こんな卑怯者たちなんかに。
あんな奴らにだけは負けるわけにはいかない、そういう覚悟を決めた。
ショウタはこの学園に意地でも残るとも決めていた。
この学園を変える力なんて自分にはないけれど、このルールに反発することくらいならできるはずだ。
強くなるのだ。必ず、強くなる。
自身の夢をかなえるために、自身だけのジムと共に。
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初のガンプラバトルの夜。
自宅に戻ったヒカリは、ベッドの上で天井を見上げている。
ガンプラバトルを終え、話を聞き終えたその日は解散となった。
ちょっとばかり騒ぎを大きくし過ぎた。大ごとになる前にその場から撤退することとなったのだ。
ショウタはジムを片手にいつも通り元気そうに、ツキヨはあの男たちが捨てていったガンプラを自身の手荷物の中にしまい礼儀正しく頭を下げて。
明後日、ガンブレ学園でまた会おうと約束を交わした。
帰ってきてすぐ、ヒカリはベッドに寝転んだ。
「……」
殺風景な部屋である。
勉強机にテーブルにクローゼット。ゲームのためだけに液晶テレビ、ちゃぶ台の上には一世代前のゲーム機に少しだけ読んでいる漫画が置いてあるくらい。
「……力、か」
力こそ証明の世界。
それがガンブレ学園の実態である。
「なぁ」
勉強机の上に立ちずさむ自分だけのガンダム。
サンダーボルトガンダムを見上げている。
「お前は戦うだけの存在でいたいか?」
何だろうか。
こうやってガンプラに喋る。玩具に喋るなんてバカみたいなことをやってると思う。
あのツキヨという少女と関わった影響だろうか、こうやってガンプラにコミュニケーションをとってしまっているのは。
自分でもおかしいことだとは思っている。
でも、なぜか聞かずにはいられなかったのだ。
喋らないと分かっていても。その質問に返事が返ってこないと分かっていても。
「……嫌、だよな」
ベッドから起き上がり、サンダーボルトガンダムを手に取る。
「楽しみたいよな。この世界を」
戦うためだけじゃない。力の証明として破壊し蹂躙するだけの存在ではない。
自分の作ったガンプラ。
この相棒には、そんな殺伐とした世界を味わってほしくはない。
もっと楽しいバトルがしたい。
「楽しもう。俺もお前も……そのために戦おう」
拳を握る。
あの男たちには。
ガンプラに愛もなく、ただ破壊を楽しむだけの暴君なんかには。
夢を壊すような絶望的なルールには。
負けたくない。
「あいつがそうしたように、俺も戦ってみる……学園と」
学園を変える、とまではいわない。
逆らうことくらいはしてみせる。あの学園のルールと。
あんな卑怯者たちなんかには負けない。
二度と、自分のミスで傷つく奴らを増やしたくはない。
「……おやすみ」
サンダーボルトガンダムを再び机の上に置き、ヒカリは電気を消す。
彼は夜更かしをすることがほとんどない。高校生という学生らしくなく、いつも夜の10時には寝るという健康的な生活を送っている。
静まり返った部屋の中。
サンダーボルトガンダムの瞳が、少し開いていたカーテンの月明かりに反射して、輝いているように見えた。
その姿は偶然か否か。
自身の相棒であるヒカリを見下ろしているようにも見えた。