学園生活一日目。
ヒカリの学園生活は一日目からハードスケジュールとなっていた。
まず、朝のホームルーム前。普通よりも早い時間に自宅から登校し、在学生であるショウタの案内でこの馬鹿広い学園を案内してもらうことに。
時間は限られているので、最初は食堂とかバトルエリアとか教室とか職員室に諸々……必要最低限覚える必要がある場所をだ。
朝のホームルームが終わり、いよいよ授業が始まる。
授業内容はビルダー育成の学校らしく、ガンプラを作るうえでの必要事項や研究時間、中にはEXAMやHADESなど特徴的なシステムの使用の注意事項など。
この学園の驚いたところは、ビルダーとしての育成教育のみで丸2年は持つほどの授業量があるということである。
仮にも高校生なので国語や数学などの普通授業も含まれている。しかし、それを挟んでいなくても教えることが山積みの授業量があることに驚いたのだ。
最初の授業は主に先生の挨拶や教材用具の配布などで終わった。ビルダーの授業は一日目からノート1ページが埋まるほどの内容であったが。
昼休み。案内された食堂で最低限の食事。
そう、まだ案内する場所が残っているのである。
たった1時間でこの馬鹿広い学園の全てを案内できるものか。食事を終えたら、学園案内パート2を実行したわけである。
その後、午後の授業も何事もなく終了。
そして放課後。
ヒカリは自動販売機の前で缶のお汁粉を飲んでいる。
「……あっつ」
当然だろう。
春という暖かくなりつつある時期にお汁粉など飲めば当然である。
「よっ、ヒカリ待たせたな……って、なんでお汁粉」
「間違えたんだよ」
ボタンが一個ずれてしまって、こんな生暖かい時期に飲みたくもないお汁粉を飲む羽目になってしまった。
「またボーっとしてたんだろうな。嫌なら捨てればいいのに」
「勿体ないじゃん」
空っぽになったお汁粉の空き缶をごみ箱に捨てる。
「んじゃ、行くか」
放課後は主に自由時間となっている。
学園の施設を使って新しいガンプラを開発することも、ガンプラを使ってバトルをすることも、夜10時までなら何をしても許される。
「ああ」
そんな自由時間に彼らはどこへ向かおうとしているのか。
決まっている。
ガンプラがあるのだ。楽しむためにバトルエリアには顔を出しておかなければ。
「こっちだっけ」
この学園でのガンプラバトルは、学園が指定したエリアのみでバトルが許可されている。
バトルエリアのある場所は朝の学園案内で教えてもらっている。迷子になるはずもないのでその場所まで移動を開始する。
「ああ、ちょっと待て」
堂々と歩くヒカリを止める。
「俺たちが行くのはこっちだ」
「え、でもそっちって反対方向じゃ」
「こっちでいいんだよ」
ヒカリの進行方向へとショウタが回り込む。
「……限られているバトルエリア、そして俺が話した学園の現状……どんな修羅場が存在するか、大体見当はつくだろ?」
その言葉にヒカリは立ち止まる。
そうだ。この学園はガンプラを使用して力の証明を行い、敗北者からビルダーの証であるガンプラやそのパーツを奪い取ることを繰り返している。
見るに堪えない泥沼の戦場。自身のために醜く争い傷つけあう地獄のような世界がそのバトルエリアだ。
「正直な事を言うと、お前には見てほしくない。ガンプラでバトルすることを楽しもうとしているお前に、あんな場所は」
幼いころから一緒に遊び続けてきた腐れ縁からの気遣いであった。
彼はガンプラバトルを本気で楽しもうとしている。学園のルールなんかに縛られず、心から楽しめるガンプラライフを求めているのだ。
そんな彼があの地獄を見れば、憤ることは間違いない。
それに、あの戦場に足を踏み入れれば、上級生の魔の手が一斉に迫るのは間違いない。砂糖に群がる蟻のように勝負を挑まれ、消耗しきったところを狩り尽くし、パーツもバトルポイントも絞り尽くされるだろう。
「でも、だとしたら、どうやってバトルを?」
「へっへっへ、まあ黙ってついてこいよ」
胸を張るショウタに首を傾げ、ヒカリは疑問と共に彼についていった。
・・・・・・・・・・・・・・・
数分後、彼らが到着したのは、学園の外。
学園用の非常階段のすぐ真下にある地下倉庫の入り口だった。
「どうしてこんなところに」
「いいから、いいから」
ドアを軽くノックする。
『合言葉は』
「Ez8はジムじゃねぇ」
『OK』
なんだ、その適当過ぎる合言葉は。
ヒカリの首がますます曲がっていく。頭の上に疑問から生まれたクエスチョンマークのジャングルが生い茂っていく。
向こうが合言葉の確認を終えると扉がゆっくりと開く。
「おっ、ショウタじゃん。お疲れ」
「おう、つれてきたぜ。例の奴をさ」
ショウタは後ろにいるヒカリを紹介する。
それに合わせて、ヒカリも軽く会釈する。
挨拶を徹底することを第一とする彼はどのような状況であろうとも挨拶は絶対に欠かさない。
「おお、待ってたぜ! ほら、入れよ」
ショウタとヒカリは非常階段の地下倉庫へと足を踏み入れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「おお……」
地下倉庫の階段を下りていくと、そこに広がるのはガンプラバトルに必要なバトルフィールドと数名のガンブレ学園生徒たち。
あのバトルフィールドは……今朝見たバトルエリアに配置されていたものや、ショッピングフロアにあったバトルフィールドと違って、どこか見た目に違和感がある。
完成度が少し低いというか、ちょっとゴチャついているというか。
一言でいえば、手作り感が目立つような気がする。
そんなバトルフィールドが4つほど、照明も蛍光灯やら豆電球やらバラついているため少し薄暗さが目立つ。そんな空間に生徒が何名か集っていた。
「ここは俺たちだけのバトルエリア……在学生達から逃げている奴ら、ポイントを狩り尽くされた奴ら……お前と一緒で、心からガンプラバトルを楽しみたい奴だけが集まってるのさ」
バトルをするのなら、学園の外にあるバトルフィールドを使う事でも解決はする。
ショッピングフロアには勿論あるし、それを目的としたトレーニング施設なども存在するし、下手すれば小さなゲームセンターやレジャー施設に一台置いてあることなんて稀にある。
だが、ガンプラビルダーが多くなったこのご時世では、バトルフィールドは使用中だということが多く、中にはそこを狙ってネズミ捕り作戦をかましている卑劣な生徒だっている。
それに何より、せっかくガンブレ学園の生徒になったのなら、学園でガンプラバトルをするというスクールライフを満喫したいはずである。
その夢を叶えるため、ショウタは立ち上がったのだ。
自分以外にも心からガンプラを楽しみたい奴らがいるはず。その連中を集めて、自分たちだけのバトルエリアをこっそり作って楽しもうという計画を企てた。
上級生たちの妨害もいくつかがあったが、この1年という長い年月を立てて、同じくガンプラを楽しみたい人たちが集結し、このような即席バトルエリアを作り上げることに成功したのである。
「他の新入生は?」
「ひとまず様子見だ。危なくなってる奴を見かけたら片っ端から声をかけるさ」
……昔から、困ってる人を見捨てられないのが彼の良いところであった。
家族である母親やおばあちゃんの買い物に付き合って荷物を全部持ってあげたり、街で迷子になってる子を見かけては一緒に親を探してあげたりなど……その人の好さは昔からなのだ。
自分もよく助けてもらったものだ。
虐められているところを助けてくれたり、自分の失敗を一緒になって謝ってくれたり。
「相変わらずだな、ショウタ」
「どうよ。また見直したか?」
カッコよくポーズをつけて、キメた表情までしている。
「まあ、多少はね」
でも調子に乗るのは悪い癖である。というか、この男の最大の汚点である。
そのせいで女性にも恵まれないし、いろんな人から怒りを買っている。
あまり調子づけないように彼のポーズをガンスルーした。
「お前の冷たさも相変わらずだねぇ!?」
バトルフィールドに近づくヒカリの後を彼は追いかけた。
「おお」
4つのバトルフィールドは何れも埋まっている。
2つは一対一のバトルフィールドとして。1つは3VS3のチーム戦として。
そして最後のひとつ。
彼の眺めているバトルフィールドは“スクランブル専用”。
ルール無し、数体のモビルスーツが戦場で縦横無尽にバトルロイヤルを行う。この即席バトルエリア限定の交流ルールである。
バトルポイントの奪い合いもパーツの奪取もそこには存在しない。
まさしく、ガンプラを楽しむ者だけが集まった空間であった。
「さてと、ちょうど2席空いてるし。やるか?」
ショウタはソリッドキャノンアーマー装備のジム・カラッテレを見せて誘う。
「ああ」
自身も学園のカバンから取り出した。
自身の相棒であるサンダーボルトガンダムを。
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2人は即席バトルエリアの戦場へと足を踏み入れる。
「おっと!」
戦場に入ると早速ご挨拶。
「はっはっは! 新入生だからと言って手加減しないぜぇ?」
「死ぬ気でかかってくるんだな!」
サンダーボルトガンダムの目の前に立ちはだかったのはアサルトシュラウド装備のデュエルガンダムに、バスターガンダムの2体。
「おいおい、お手柔らかに頼むぜ? 一応初心者だからな?」
事実上、このバトルエリアのオーナーであるショウタは注意をする。
新しいメンバーの歓迎会を派手にしたいのは分かるが、突然の洗礼で新メンバーをドン引きさせるような真似だけはやめてくれと一言。
「それじゃ! すぐさま撃墜されないように気をつけな!」
デュエルガンダムとバスターガンダムが背を向け、一度その場から離脱する。
「さぁ~動くぞヒカリ! こんなところで棒立ちしてたらハチの巣にされてしまうぜ!」
彼の宣告どおり。
「おっと」
四方八方からビームや弾丸の雨が飛んでくる。
いろんなところからガンプラの攻撃が飛んでくる。
ジム・カラッテレと同じで陸戦型ガンダムのキャノン砲を持ったガンプラがいれば、戦艦レベルのビームを打ち込むガンプラ。中には腹からビームを撃つガンプラも存在した。
……なんか、あの腹からビームが出る機体。マント羽織っていたり、巨大なトマホークを持っていたりとかガンダムのモビルスーツっぽくないけど、あれもガンプラなのだろうか?
疑問に思いながらも、ルール無用のバトルロイヤルに身を投じ、彼は反撃にマシンガンを撃ち込む。
イキイキとしている。
すごく楽しそうにガンプラ達が動いている。
そこには支配と暴力の世界に怯えることのないビルダーたちがいて。
正真正銘の楽天。
心が躍るステージがそこにあった。
「よし!」
こちらも気合を入れなおしていくとしよう。
サンダーボルトガンダムの歓迎会。こちらも初心者なりに頑張ってみせようと。
「おい、ちょっと待て! なんだ、お前らは!」
……突然声が聞こえた。
慌てているような声? かなり荒げているような声であった。
「いいじゃねぇかよ! 俺らにもやらせろよ!」
愉快そうな声。
その声に合わせて、2体のモビルスーツが戦場に現れる。
……いや、違う。
あれはモビルスーツなんかじゃない。
「モビルアーマー?」
ショウタは戦場の上空に現れた2体のガンプラを眺めて口を開く。
現れたモビルアーマーとやらはすごく特徴的な見た目をしている。
片方は巨大な鎌が2本生えた謎の巨大顔面、もう片方の顔面のような見た目をしており短い4つの足が生えたような見た目。
見るからに少し愛嬌というか、間抜けというか。
ちょっと変わった見た目のガンプラである。
「さーてと」
4つ足のモビルアーマー。
その口から放たれたビーム砲が、一体のガンプラを破砕した。
「お前ら全員のパーツ……いただくぜ!」
戦場の響き渡る処刑宣告。
一同は宙を浮くモビルアーマーの洗礼に背筋が凍り付いた。
後編は明後日公開予定。