カルデアという組織は、感じた事を簡潔にまとめるならば人種の”るつぼ“である。
国連直属でありながら、しかし独立しているという此処はアニムスフィアが世界中から選りすぐった専門的な知識を抱える多くのスタッフ達と、それぞれの部門を纏める幹部。
そしてアニムスフィア家当主であるというオルガマリー・アニムスフィアが所長を務め、自分を含めた48人のマスターがカルデアを構成している。
当然世界各国から人間が集まるのだからサラダボウルと揶揄される事もある米の国とはレベルが違う。行った事なんぞ無いが。
此処はどうやら何処かの高山地帯に建設されている為普通では隠匿されるべき魔術的な実験や行為もここではむしろ当たり前の事として認識されている。
下界に戻ったら認識を戻すのに苦労しそうだと思った事は親しい相手が居ないので未だに秘密である。
「フォーウ」
「ん?…あぁ、お前さんか」
ふと聞こえる妙な鳴き声に耳を傾けると、すっかり見慣れた美しい毛玉が足元を這っていた。
「フォウ、フォーウ。ファー」
「相変わらずお前さんの言う事だけは上手く聞き取れないんだよなぁ」
「フォー…」
初めて見た時はその非現実的な美しさを持つ毛並みのこの小さい獣をぬいぐるみと勘違いしてしまったのも懐かしい話だ。
「それで、今日はどうしたよ獣殿」
家の魔術の特性からか、俺は動物霊を憑依させる事で様々な動物との意思疎通がある程度まで可能となっている。
初めて人間の霊を憑依させた時にとんでも無い事になって以来低級の動物霊しか憑依させない事にしている。
そこに来てこいつだ。本来ならば動物と会話など出来ないのが当たり前ではあるが此処はある程度のトンデモならば何であろうが魔術で通ってしまうクレイジータイムなマッポー世界、異常である事こそが正常なのだ。
動物と話せる事が正常である俺からしてみれば、突如として湧いた新種のコイツには手を焼かされて来た。何せ対応する言語が存在しないのだから。
だがしかし、これこそが本来の形なのだ。
普通は動物とガチ会話なんざ出来るわきゃ無ぇだろ。
この異常とも呼べる空間で唯一俺が正常を感じられる物が、まさか正常な世界では異常とも言えるこの珍獣なのだから。
しかしどうやら、コイツはコチラの言っている事が何となく理解出来ている節があるのだ。
それになんかコイツ妙に人間臭い行動もする事があるから、「中に誰か入ってんじゃねーの?」と思うことも多々有るが、今の所チャックは何処にも見当たらない。
「フォーウ、ファッファッ」
「あー…誰かが俺を探してる、か?」
「フォッ!」
「マジか…」
コイツと幾度と無く行ってきた会話?のキャッチボールは実を結び、最近では俺も何となくこの毛玉の言っている事が理解出来るようになってきたのだ。
普通ならば誰にも言えないが誇らしい出来事だと思うが、此処は魔境カルデア。俺なんかレベルを遥かに上回る奴も居る。
「フォウさーん、どちらに居ますかー?」
「フォーウ!」
「あぁ、やはりハジメさんの所に居たんですね。お疲れ様です、ハジメさん。フォウさんが何かご迷惑を掛けておりませんでしたでしょうか?」
「お疲れ様です、キリエライトさん。大丈夫ですよ、むしろ彼には私の会話相手になって頂いてますから、迷惑だなんてそんな」
それが彼女、マシュ・キリエライトである。
何と彼女は長年の動物会話の経験と勘でフォウと会話擬きをする私を差し置き、完璧な意思疎通を彼と図る事が出来るのだ。
「フォウさんと会話、ですか?まさか私以外でその様な方がいらっしゃるとは。何となく、その、嬉しく思います」
「あぁいえ、会話と言っても貴女の様にキチンとした物ではなく何となく彼が何を言っているのかが薄っすら分かる程度のものでして」
「それでも、ですよ。因みに先程はどの様な事を仰ってましたか?」
「あー…、何だっけ?」
「ファッファッ!」
「そうだそうだった、どうも彼が言うには誰かが私の事を探しているらしいのですが、その肝心の相手が解らず仕舞いでして…」
「あ、それはきっと私です」
「キリエライトさんが?どの様なご用事で?」
なるほどね、こうして会話して引き留めておけば自分を探しに来るキリエライトさんと俺が鉢合わせするって寸法だったわけだ。お前さんマジで中身とか無いよね?
「はい、既にご連絡は行っているかと思いましたが、既読のマークが付いてないと所長が先程…、それで確かハジメさんは余り普段からデバイスを持ち歩かないと記憶しておりましたので…。所長からの業務連絡の言伝を承って来ました」
「それはまた…、申し訳ない。私の不精の所為でキリエライトさんにご迷惑をお掛けしてしまうとは…。本当に申し訳ない」
「あっ!いえ!だ、大丈夫です!私も用事は有りませんでしたし、それに本当は私から申し出たんです。ハジメさんに私から伝えてきます、と…」
「そうでしたか、ありがとうございます。
それでその業務連絡とは一体?」
俺はどうしても不意打ちの様にポケットで震え出すあの類の機械が苦手なのだ。普段は滅多なことでは着信なぞ来ない癖に忘れた頃に今回のような全体送信に反応して震えるのだ。好き好んであれを四六時中持ち歩くというような考えにはどうしてもならない。
「はい、えっと、『本日正午に最後のマスター候補生が到着する為、本日1500に顔合わせとブリーフィング、その後それぞれのグループに分かれてミーティングを行い1700より指示を受けた班から各自、レイシフトを実行する』との事です…ハジメさん?」
遂に、か。
「…了解しました。私は準備を行うのでここで。キリエライトさん、ありがとうござました」
「あっ…え、えと。こ、こちらこそありがとうござました!」
何でこの子は態々迷惑掛けられた相手に感謝してるんだ?
「…何故キリエライトさんがお礼を?」
「そっ、その…えっ…と。フ、フォウさんを見つけてくれたお礼です!」
「いえ、それは偶々で…」
「そ、それと…、今日はいつもよりハジメさんとお話し出来ましたので!……その、だから、ありがとう、ございます…」
「はぁ…?」
「あっ。いえっ、そのしっ、失礼します!」
「ファーウ!」
…あの子には今後余り近づかない様にしよう。ここまで親しくなるつもりなど無かったのだが、出会った頃のまるで人形の様な彼女を知っている所為かつい構いすぎてしまった。
どうしても、あの頃の彼女はあの家で過ごしていた自分と違う筈なのにダブって見えるように感じてしまうのだ。
しかし、これからはもう会話する機会も減るだろう。彼女はエリート組が集められたAグループに所属し、片や自分は素人、落ちこぼれを寄せ集めた斥候・探索組という別名『何か有った際の殿、捨て駒班』なのだから。今日到着したという人も恐らく此処に組み込まれるであろう。
既にグループ形成は済んでいるのだ、数ヶ月掛けて慣れたグループに新しい人員なんぞ人手が足りないという理由以外では是非ともお断りしたい事柄なのだ。
その点捨て組ならば最初からチームプレイやまともな成果なんぞ期待されておらず、新人一人ぐらいなら突っ込んでもええやろみたいな感じになるに違いない。
さりとてこちらとしても黙って死んでやる訳にはいかぬ。
先ずは準備だ。事を成すにはそこまでどれだけ積み上げて来たかによって決まる、特に自分の様な世界から弄ばれている系の人間には結果よりも過程を重視しなくてはならない。それでも裏目ることが大半だが。
自室に戻りさっさと準備してしまおうと踵を返すと、
物陰に隠れた糞ダサハット被ったモジャモジャと目が、合った。
次回
人理レ◯プ!人外タラシと化したオリ主!?
モテ系=天敵
人肉シェイクセール
の3本でお届けする予定です