愛とは理解することである   作:サモエド陸也

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(一回寝たので)初投稿です。


同病哀憐れむ

叫び声を上げなかっただけでも褒められると思う。

想像してご覧?全身抹茶コーデにまるで散髪嫌いの天パがどこまで伸ばせるかチャレンジしているかの如き頭髪。福本漫画の登場人物の様な「それブリッジでも埋設したんスか?」と聞きたくなる鼻、常に人間味の無い薄ら笑いを浮かべてるアンパン中毒者みたいな歯をした大男が半身を覗かせながら無表情で此方をジッ、と見つめていたのだ。

やべぇよやべぇよ…。何だよあの人…偶にああやって魚みたいな目でこっちを見ている事はあったけど、今回みたいにガッツリ見てる所目が合ってバレるなんて真似してこなかったじゃないですか…落ち着け、動揺を悟られるな。きっとキリエライトさんと同じで俺に用事があったのを会話が終わるまで待っててくれたに違いない。あからさまな不審者でもこのカルデアの顧問を務め多くの職員から人望のある一廉の人物だ。

気付いた以上は此方から話しかけないと失礼かもしれん。

 

「おやライノール魔術顧問殿。何かご用事でも?」

「やぁ犬井君。いや何、用事と言うほど大した事ではないのだがね、この後レイシフトを控えたマスター達に個人的に激励を送ろうかと思ってね。残るは君だけだったので探していたのだが、先程マシュと会話しているところに出くわしてしまってね、邪魔をするのも何かと思ってこうして待っていた所なのだよ」

 

話しかけた途端いつもの胡散臭いアルカイックスマイルを浮かべながらこちらに近づいてくる。演技なのか素なのか分からんが、もう少しバレない努力をして欲しい。

 

「それはそれは、態々私の様な者にまで気を配って頂けるとは、感謝の念を禁じ得ません」

「何、そう自分を卑下するものではないよ。確かに君はあまり此処での成績が奮わないようだが、それ以外の面では実は私は君の事を高く買っているのだよ」

 

実力こそが全ての組織で実力以外の評価を下されても、その何だ。困る。

 

「君は普段から他人との接触を自分から避けている様に見えるが、見えない所で班員の為にシミュレーションルームの予約を入れていたり、自分から他人同士の諍いを見かければ率先して仲介をする。その実本人達の居ない所では決して陰口など叩かない。知っているかね?他の40数名のマスター候補達からは君の陰口や不満を私は聞いた事がない」

 

何で自分から嫌われる必要なんかあるんですか(正論)

人として当たり前だと認識していることをしているだけなのに褒められるって此処小学校だったのかな?ていうか何でこの抹茶スーツは人が目立たない様にしてた行動を知ってるの?ストーカーなの?

つーか何だって?俺の悪口を聞いた事がないだって?そりゃそうだろう。目立たない様にしてるのだから「アイツ?あー、まぁ良い人なんじゃないかな?」と思われる様に行動してるだけだ。ぶっちゃけ名前すらもちゃんと覚えられてない気がする、知らない奴の悪口なんか率先して言いふらす暇人なんか居ないだろうしその所為だろうな。

 

「いえ、そんな。シミュレーターの件は自分が使用しようとした時に所用が入ってしまい他の班員に譲っただけの事ですし、それに陰口云々に関しては、私なぞの事など上位の方が態々話題にすることも無いからでしょう」

「そう謙遜をするでは無いよ。ただ私個人が君のそれを好ましいと思うというだけさ。それに、理由はどうあれこの様な状況下でむしろそういった行動や言動が出来るというのは中々出来る事では無い。人とは得てして己の良心の呵責よりも自身の欲を優先する気来がある、それは物欲や出世欲という形で時に他者を蹴落としてでも叶えようとするのが世の大半を占める。それがこういった閉鎖的な空間で尚且つ実力に寄ってカーストの様に位階が決められる場所であるならばそれは尚更だ。だが君はそういった軽率な行動に傾くを良しとせず、更には他者の争いや諍いまで治めようとする。誇りたまえよ、だからこそ君は此処ではある意味一番『人間』らしいとも言える」

 

人間らしい、ね。

俺としては自分がそういった扱いを受けない辛さを誰よりも理解しているつもりだからそうしているだけなのだが、しかしこれがキリエライトさんやDr.ロマニからの賛辞ならば泣き出していてもおかしくは無いくらいに嬉しいが、如何せん相手がサイコストーカーでは喜ぶに喜べんわ。

 

「だからこそ…」

「?何か仰いましたか」

「ああいや、何でも無いよ」

 

会話の途中でボソッと聞こえないけど聞こえるレベルで喋るのやめてくれませんかね?会話の線が切れて気不味くなっちゃうだろうが。

 

「では励みたまえよ犬井候補生。陰ながら君を応援している人間がいるという事も有るのだと認識したまえ」

「心遣い、重ねて感謝致します。それではミーティングの準備が有るので、ここで失礼します」

「ああ、(らしく無いな、どうせこいつもこの後殺してしまうのに、何だ、この不快感は)」

 

なんか苦しそうな表情し始めたけど何だコイツ。時間も無いしさっさと部屋に戻って準備せな。万が一遅刻なんぞしようものならヒス所長からどれだけの罵詈雑言飛んでくるか、考えるだけで胃が痛んでくる。

しかし、陰ながら応援してくれる人も居る、と来たか。

もし本当に居るなら面と向かって応援して欲しいと思うのは俺のエゴなのだろうか。

 

 




思っていたよりサイコホモ書くのが楽しくて筆が滑ったので予定していた3本立てはキャンセルです。

閲覧ありがとうございます。

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