深淵と波導の冒険者   作:片倉政実

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どうも、片倉政実です。この章ではサブ主人公の一人であるアリアをメインとした物語を書いていきます。他の章同様、色々と拙い点もあるかと思いますが、皆さんに楽しんで読んで頂けるように頑張って書いていきます。よろしくお願いします。
それでは、早速始めていきます。


本章 人々を魅入らせし冒険者
プロローグ 熱き情熱のマジシャン


「えーと……これがこうだから、ここがこうなって……と」

『カロス地方』の中心付近に存在するビルなどが建ち並び、プラターヌ博士の研究所やジムを兼ねた街のシンボルであるプリズムタワーが有名なカロス地方最大の都市、『ミアレシティ』。この街のある一画に建つ民家の庭で、一人の少女が一生懸命に何かの作業に取り掛かっていた。

「後は……よし、これで良いはず!」

 少女の手には青色のシルクハットと赤色のステッキが握られており、少女は今から行う事の成功を信じて止まないような表情を浮かべていたが、少女の足元で座っている狐の姿のポケモン、『フォッコ』は少々心配そうな視線を少女へと向けていた。

「コーン……」

「ふふっ、大丈夫だよ、ルナ。今度は失敗なんかせずにこのシルクハットの中から『あの子』を出してみせるからね。だから、ルナはそのまま見守ってて」

「コーン……フォッコ!」

「ふふ、良い子だね。さて……それじゃあ始めようか!」

 ルナと名付けられたフォッコが見守る中、少女はステッキを足元へ置いた後、シルクハットをしっかりと頭に被り、一度大きく深呼吸をした。そして目の前に大勢の観客がいるイメージを浮かべ、イメージの中の観客へ向かってシルクハットを脱ぎながら丁寧に一礼をすると、頭を上げると同時にシルクハットを被った。

「さあ、皆様! 今からこちらの中に何も無いシルクハットから、ポケモンを出してご覧に見せます。まずは、本当に中に何も無い事をご確認下さい」

 そう言いながらシルクハットのつばを右手で持ち、右手を横に伸ばしながらシルクハットの中を見せる中、少女はその間に服のポケットの中に入れていたモンスターボールを左手の中に握り込み、右手を戻しながらシルクハットの内側を体側へ向けると同時に、スイッチを押した状態のモンスターボールをさっとシルクハットの中へと滑り込ませた。そして、足元のステッキを左手で拾い上げると、シルクハットの内側を上向きに構えた状態でステッキをシルクハットの上に翳した。

「それでは……参ります! 1……2の――」

 3、と口にしようとしたその時、シルクハットの中から青色の光が放たれると、それと同時に小鳥の姿のポケモンがシルクハットのつばに留まった状態で姿を現した。

「ヤッコ!」

「ちょっ、ちょっと! まだ出てきちゃダメだよ、フラム!」

「ヤッコ! ヤヤッコ!」

「うぅ……相変わらず何を言われてるか分からないけど、何だか前置きとか動作とかについて文句を言われてる気がする……」

「フォッコ……」

 手持ちポケモンである『ヤヤコマ』のフラムから軽く怒りをぶつけられる少女に対して、ルナが気遣うような泣き声を上げる中、少女は落ち込んだ様子で「はあ……」と小さく溜息をついた。少女の名前はアリア、この『ミアレシティ』出身のポケモントレーナーだが、他のトレーナー達と違って旅には出ずに小さな頃からの夢であるポケモンマジシャンを目指して日々練習を積んでいた。しかしその努力は中々実らず、いつも練習を失敗しては溜息をつくという毎日が続いていたのだった。

「うーん……『せっかち』なフラムのためにもう少し別のマジックを考えるべきなのかな……?」

「ヤヤッコ!」

「うん……フラムはそうして欲しそうなんだけど、シルクハットから何かを出すマジックっていうのは、やっぱり掴みにもピッタリだから、これだけは外したくないんだよね……」

「コーン……?」

「……大丈夫だよ、ルナ。今は失敗ばっかり繰り返してるけど、いつかはルナやフラムと一緒にどこかのステージに立てるぐらいにはなるつもりだからね。そうじゃないと……またアイツに『アリア、また失敗ばっかりしてるのかー?』なんて言われちゃうだろうし……」

 ポケモンリーグに挑戦をするために旅立った幼なじみの顔を思い出した後、アリアは少しムッとした表情を浮かべたが、自分の夢を一番応援してくれていたのはその幼なじみだったため、アリアは「……まあ、良いか」と小さく微笑んだ。そして、腕に静かに留まったフラムと足元にいるルナに対してニコリと微笑みかけた後、シルクハットを一度クルリと回してから再び被り直した。

「さて、いつまでも落ち込んでもいられないし、元気を出していこうか。ね、ルナ、フラム!」

「フォッコ!」

「ヤッコ!」

「よーし……それじゃあとりあえず練習をさいか――」

 アリアが練習を再開しようとしたその時、「おっ、今日もやっているね」と感心したような声が聞こえ、アリア達はそちらに向けて顔を向けた。

「あ、プラターヌ博士。こんにちは」

「フォッコ!」

「ヤヤッコ!」

「うん、こんにちは。マジックの練習は捗っているかな?」

「あはは……それが相変わらず全然で……。なので、今日の練習が終わったらもう少しマジックの内容を練り直そうかと思ってるんです」

「ははっ、そうか。まあ、旅立った彼――アルト君に応援してもらっていたからには、彼が帰ってくるまでにはどうにか形にしたいものだね」

「はい……ところで、プラターヌ博士は研究の休憩中だったんですか?」

「うん、それもあるんだけどね……実は君にちょっと頼みたい事があるんだよ」

「頼みたい事……旅には出てないのに、博士にはこのルナを頂きましたし、私に出来る事なら喜んでお手伝いしますよ」

「ふふ、ありがとう。それでは、僕と一緒に研究所まで来てくれるかな?」

「はい、分かりました!」

 アリアは元気よく返事をすると、ルナ達を一度モンスターボールヘと戻し、プラターヌ博士の後に続いて研究所へ向かって歩き始めた。そしてそれから約数分後、アリア達は研究所に着いた後、そのまま中にある研究室へと入っていった。アリアがルナを貰った時の事を思い出しながら研究室の中を見回す中、プラターヌ博士は助手達に帰った旨を伝えながら机の上のパソコンを操作し始めた。そしてとあるページを開いた後、研究室の中を見回しているアリアに声を掛けた。

「アリア君、ちょっと画面を見てもらっても良いかな?」

「……あ、はい」

 アリアは返事をしながら机に近寄り、プラターヌ博士の言う通りにパソコンの画面に目を向けた。すると、そこに映し出されていたのは一人の女性の写真と緑豊かな風景の写真、そして様々な種類のポケモン達の写真だった。

「プラターヌ博士……これは?」

「そこに映し出されているのは、ここから少し遠くにある『ヤマト地方』の風景や棲息しているポケモン達、そしてその地方で僕みたいに博士として研究をしているシロツメ博士だよ。少し前、様々な地方の博士達が集まる機会があってね、その時にシロツメ博士と知り合ったんだよ」

「へえー……でも、この『ヤマト地方』やシロツメ博士がどうかしたんですか?」

「うん、この『ヤマト地方』という地方は、とても自然豊かな地方で生息しているポケモンの数も結構多いんだ。だから、前々からシロツメ博士に研究のついでに来てみてもらえませんか、なんて言われてたんだけど……中々行く機会が無くってね」

「ふむふむ……でも、それなら助手の皆さんに代わりに行ってもらう事だって出来るんじゃないですか? ほら、この研究所にはとても強いポケモンだっていますし、その子達に一緒に来てもらえれば、助手の皆さんだって安心だと思いますし……」

「ああ、確かに研究のためだけならそれでも問題ない。でもね、僕としては『研究者』としての目線じゃなく、『ポケモントレーナー』としての目線でこの『ヤマト地方』のポケモン達の事を知りたいんだ。どうやら、『ヤマト地方』にもメガシンカが出来る種類のポケモンは棲息しているらしいし、キーストーンやメガストーンも過去に発掘されているみたいだしね」

「なるほど……つまり、プラターヌ博士としてはアルトや他に旅立ったトレーナー達みたいな人物にこの『ヤマト地方』を旅してもらい、その中でポケモンの生息状況やメガシンカなんかの普及率みたいなのを調べて欲しいんですね」

「まあ、簡単に言えばそんなところかな。そこで、僕は君にその役目を担って欲しいと思っているんだが……どうかな? 頼まれてくれないかな?」

 プラターヌ博士が微笑みながら問い掛けると、アリアは一瞬ポカーンとした後に「え……わ、私!?」と大きな声で驚きながら人差し指で自分を指差した。

「いやいや、確かに私に出来る事なら喜んでお手伝いしますよとは言いましたけど、旅未経験者の私にそんな大事な事が務まるとは思えませんよ!?」

「いや、むしろ旅未経験者の君だからこそピッタリなんだよ」

「え……?」

「確かに旅慣れたトレーナーにこの件を頼んでも良いんだが、僕としてはキッチリとした報告書よりは、新人トレーナーから見たポケモン達の生態やその地方のトレーナー達の様子を綴った読んでいるこっちにまで旅の楽しさなんかが伝わってくるような報告書の方が望ましいんだよ」

「な、なるほど……」

「まあ、君にはポケモンマジシャンになるという夢もあるわけだから、無理強いをするつもりはもちろんない。だから、本当に無理だと思うなら遠慮せずに断ってくれて構わないよ」

「プラターヌ博士……」

「アリア君、君はどうしたい?」

「……私、は……」

 アリアは軽く俯いた後、プラターヌ博士の話を頭の中で一度思い返し、その頼み事の重要性やよく知らない地方での一人旅の辛さを改めて感じた。しかし、アリアの中には微かにだがこの頼み事に対しての興味や旅をする事で自分の新たなマジックの構想が浮かぶのではないかという希望があったため、プラターヌ博士からの頼み事を断ろうという気持ちにはならなかった。そして、そんな二つの間で揺れながらしばらく考えた後、アリアはこの件についての『一つの答え』を出し、プラターヌ博士の方へ向き直った。

「プラターヌ博士、私で良ければその件を引き受け――いえ、是非引き受けさせて下さい!」

「それは嬉しいんだけど……本当に良いのかい?」

「はい。私はポケモンマジシャンになりたいという夢を叶えるためにアルト達が旅立つ中、一人だけこの『ミアレシティ』に残りました。でも、さっきの練習の時に何となく分かったんです。私や私のマジックに足りないのは、ルナとフラムを始めとしたポケモン達との連携や色々な経験。そして、何よりも見てくれる人の存在や楽しませたいという気持ちでした。だから、私はこの『ヤマト地方』での旅を通じて、ルナ達ともっともーっと仲良くなったり、他にマジックの手伝いをしてくれるポケモンを見つけたりしてマジックの腕を上げながらどうやったら見てくれる人が楽しんでくれるかを考えたいんです。そして、『ヤマト地方』で出会った人達に私のマジックを見てもらって、心の底から楽しんでもらいたいんです。だから……お願いします、私にその旅をさせて下さい!」

「アリア君……」

 アリアのその真っ直ぐな目にプラターヌ博士は少し驚いた様子を見せたものの、すぐに「……分かった」と微笑みながら小さく頷いた。

「ではアリア君、『ヤマト地方』での旅の件は君にお願いする事にするよ。旅の中では色々と辛い事もあるかもしれないけど、それと同じだけの発見や楽しい事も待っているはずだ。だから、君は君らしく今回の旅を楽しんで来て欲しい。良いかな?」

「はい、もちろんです!」

「後は……アリア君のご両親にこの件をお話ししないといけないんだが――」

「あ、それなら今から行ってきますね。伝えるならなるべく早い方が良いですから!」

 とてもワクワクした様子でアリアが研究所から出ようとしたその時、「アリア君、ちょっと待ってくれ!」とプラターヌ博士が慌てた様子で声を掛けると、アリアは不思議そうにクルリと振り返った。

「プラターヌ博士、どうかしましたか?」

「今回の件を頼むにあたって、君には幾つか渡しておきたい物や紹介したいポケモンがいるんだ。だから、ご両親にこの件を話し終わって、旅に出ても良いという許可を貰えたら、一度研究所に戻ってきてくれるかな?」

「あ、分かりました! それじゃあ改めて行ってきます!」

 アリアはプラターヌ博士達に対してニコリと微笑みかけた後、アリアの様子に苦笑いを浮かべるプラターヌ博士達に見送られながら、胸の奥から湧き上がってくる暖かい物を感じながら自分の家に向かうべく、研究所を後にした。




いかがでしたでしょうか。プラターヌ博士から紹介されるポケモンは次回辺りで出そうかなと思っていますので、楽しみにしていて頂けるとありがたいです。
そして最後に、今作品への感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。

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