それでは、プロローグを始めていきます。
プロローグ 少女の決意と無邪気な毒竜
燦々と輝く太陽が毎日のように昇り、透き通るほど綺麗な海や豊かな自然に囲まれた地方、『アローラ地方』。アローラ地方は、その土地独自の風習やその環境に適応した姿へと変化した『リージョンフォーム』と呼ばれるポケモン達で知られており、観光や研究で訪れる者も少なくない。そして、そんなアローラに四つ存在する島の一つ、『メレメレ島』の浜辺で水色のワンピース姿の少女が暗い表情で溜息をついていた。
「お姉ちゃん……今、どこで何をしてるのかな……」
少女が心細そうな様子でポツリと呟く中、爽やかな潮風が少女の薄紫色の短い髪を静かに揺らしたが、少女はそれに一切の反応を見せず、頭上で輝く太陽とは真逆の暗い表情を浮かべるだけだった。彼女の名前はカルミア、このメレメレ島に住むいつも笑顔の物静かな性格の少女であり、その気立ての良さなどから近所の住人達からの人気も高い。しかし、今の彼女の表情は曇っており、いつもであれば心が落ち着く波音や太陽の輝きすらもカルミアの心の雲を晴らすまでには至らなかった。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんがいないと、私は本当に寂しいよ……」
心の中に押し寄せてくる哀しみの波を感じながらカルミアはポツリと呟いたが、その小さな呟きに答える者は誰もおらず、姉が傍にいない心細さでカルミアは押し潰されそうになっていた。そして、カルミアの目から涙が溢れたその時、サクッサクッと誰かが砂を踏みしめる音が聞こえ、カルミアはハッとしながら涙を指で急いで拭うと、ゆっくりと後ろを振り返った。すると、そこにいたのは白のピクチャーハットを被った白のワンピース姿の少女で、少女の優しい笑みにカルミアは安心感を覚えながら不思議そうに声を掛けた。
「リーリエさん、どうかしましたか?」
「いえ、用事というわけでは無いんですが……カルミアさんが泣いているような気がしたので、少し様子を見に来たんです」
「……そうだったんですね」
カルミアが哀しそうな笑みを浮かべながら海へ視線を移すと、リーリエは何かを悟った様子で頷き、カルミアを後ろから優しく抱き締めた。
「……やはり、アザレアさんがいないと寂しいですよね」
「……はい。スゴく……寂しい、です……」
それに対して「そうですよね……」と呟くリーリエから伝わる体温と言葉の『二つの温かさ』にカルミアの目からは再び涙が溢れ、カルミアはリーリエに抱き締められたまま声を上げずに泣き始めた。自身にとって
今から半年前、カルミアと姉のアザレアは『メレメレ島』に建つククイ博士の研究所の付近の浜辺で倒れており、それを偶然発見したリーリエによって保護された。そして、彼女らの目が覚めた後、リーリエ達は彼女らが何故倒れていたのかについて訊こうとしたが、アザレアはリーリエ達に対して強い警戒心を抱き、いくら問い掛けても答えてはくれなかった。しかし、そんな中でもリーリエ達はアザレア達を落ち着かせるために怖がらなくても良いように声を掛けたり、研究所にいるポケモン達の力を借りたりしながら辛抱強く聴き取りを続けた。その結果、カルミアとアザレアには名前の他には、お互いが姉妹であるという事以外の
そしてその翌日、姉のアザレアがククイ博士にポケモントレーナーになりたいという話をすると、その突然の話にアザレア以外の全員が驚き、カルミアがそのわけを訊くと、アザレアはこのアローラ地方独自の風習である『島巡り』に興味を持った事やこの世界に住む事を決めた以上は自身もポケモントレーナーとなってククイ博士達の役に立ちたい旨を話し始めた。話を聞き終えた後、カルミア達はアザレアの考えに応援する旨を伝え、その事をメレメレ島の『島キング』であるハラやアザレア達の事情を知るチャンピオン達にも話した。すると、その誰もがアザレアの事を応援すると言ってくれ、時々同じ境遇であるリラがアザレアのバトルの特訓を務めるくれる事になった。そしてそれから数日の間、アザレアはポケモンについての基本的な知識やバトルの技術などを学ぶと、自身の中で眠っていた才能を徐々に目覚めさせ、師匠であるリラからも国際警察に欲しい程の逸材であると言わしめるまでに成長した。そんな姉に対し、カルミアはあまりバトルには興味が無かったため、バトルの特訓には参加しなかったが、姉の特訓の様子は常に見ており、姉と一緒に参加していたククイ博士達による座学の成績も良かった事から、姉同様に良いトレーナーになれると称されていた。
そして、ついに迎えたアザレアの旅立ちの日、アザレアはククイ博士からある一匹のポケモンを受け取った後、『メレメレ島』の島巡りを始めた。すると、僅か二日余りでノーマルタイプのキャプテンであるイリマの試練や格闘タイプを操る島キングのハラの大試練を難なく突破し、大試練の後に行われた宴では『メレメレ島』に住む誰もがアザレアの強さを賞賛した。そしてその翌日、アザレアはリーリエ達に世話になった礼を伝え、カルミアには旅の最中に時折連絡を入れる事を約束し、パートナーポケモン達と一緒に『アーカラ島』へと旅立っていった。その後、アザレアは約束通りに旅の様子をカルミアに伝えながら島巡りを続け、その旅は誰の目にも順調そうに見えた。しかし、その連絡はある日突然途絶え、それを心配したリラ達の捜索もむなしくアザレアは忽然と姿を消してしまった。そして、その事を知ったカルミアは言葉にならない程のショックを受け、およそ一週間もの間は塞ぎ込んでいた。しかしある日、そんな事では姉に顔向けできないと感じたカルミアは、その日から毎朝姉と一緒に倒れていた浜辺へ向かったり、何か手掛かりは無いかと研究所のコンピュータを使ってしらべたりするようになった。しかし――。
「うぅ……お姉ちゃん、寂しいよぉ……」
「カルミアさん……」
それでも今日に至るまで何の手掛かりも得られ無かった事で、カルミアの中には姉がいない心細さと寂しさが募り、リーリエに抱き締められた事でそれが一気に外へと出てきてしまったのだった。そして、静かに泣き続けるカルミアをリーリエはただ抱き締めていた。同じく兄姉を持つ妹としてカルミアの気持ちをよく分かっていたというのもあるが、リーリエにとってカルミアは既に家族にも似た存在になっていたため、泣いているカルミアの事を落ち着かせてあげたいという思いが強かったのだった。
「カルミアさん……アザレアさんの行方は、今『エーテル財団』や国際警察の皆さん、そしてこのアローラ地方のチャンピオンさん達が必死になって捜して下さっています。ですから、私達は今自分達が出来る事を精いっぱいやってみましょう。アザレアさんが見つかってこのアローラ地方に帰ってきた時に心配をされないためにも」
「で、でも……もしお姉ちゃんが見つからなかったら……私は……」
「諦めちゃダメですよ、カルミアさん。アザレアさんにとっては、カルミアさんが唯一の肉親なのですから。たとえ、誰もが諦めたとしてもカルミアさんだけは諦めちゃダメなんです。カルミアさんにまで諦められたら、アザレアさんはどうしようもなくなってしまいますから」
「リーリエさん……」
泣き止みながらゆっくりと振り返ったカルミアにリーリエはニコリと微笑みかけると、不安で震えるカルミアの手をギュッと少し強めに握った。
「さあ、研究所へ帰りましょう。そして、朝ご飯を頂いて元気を出した後は、今日も一日がんばリーリエです!」
「……はい!」
カルミアがようやく笑顔を浮かべると、リーリエはとても安心した様子でコクンと頷き、カルミアと手を繋いだまま研究所へ戻るために後ろを振り返った。しかしその時、二人はすぐ傍から異様な漂い始めたのを感じ、ハッとしながらそちらへ顔を向けた。すると、カルミア達から少し離れた海上に小さなウルトラホールが出現しているのが見え、カルミア達はウルトラホールから目を離さずに軽く身構えた。
「ウルトラホール……という事は、まさか……!」
「……はい。恐らく、今から何かしらの
「は、はい……!」
カルミアがリーリエの背後に隠れると、リーリエは手持ちポケモンが入ったモンスターボールに手を伸ばしながらウルトラホールから『UB』――ウルトラホールの先の世界に住む異様な姿をしたポケモンが出て来るのを静かに待った。そしてウルトラホールの中から何か尖った物が見えた瞬間、リーリエはモンスターボールを素早く取り出し、スイッチに掛けていた指に力を加えた。しかし次の瞬間、リーリエはウルトラホールから『出てきたモノ』の姿を見て、思わず驚きの声を上げてしまった。
「……えっ、このポケモンって……!」
ウルトラホールから出てきたのは、細い尻尾が付いた小さな紫色の体にまるで注射針のような突起が三本ほど付いたヘルメット型の頭を持ったポケモン――『どくばりポケモン』のベベノムだった。ベベノムは周囲を不思議そうに見回しながらゆっくりと移動していたが、突然何かに気付いたようにリーリエ達の方へ顔を向けたかと思うと、ニンマリとした笑みを浮かべながらスーッとリーリエ達へと近付いてきた。そして、それに対してリーリエが軽く警戒する中、ベベノムはカルミアの横でピタッと止まると、興味津々な様子でカルミアの事をジッと見つめ始めた。
「え……え?」
「どうやら……この子、ベベノムはカルミアさんに興味があるみたいですね」
「ベベノム……って、確か『ウルトラメガロポリス』から来たという『ウルトラ調査隊』が持っていたポケモンでしたよね?」
「はい。ベベノムはUBには珍しく、進化系を持つポケモンで、今は毒タイプだけですが、進化後にはドラゴンタイプが増えます」
「なるほど……でも、どうしてベベノムはウルトラホールを通って来たんでしょうか……?」
自分の周囲をふよふよと飛び回るベベノムを見ながらカルミアが疑問を口にすると、リーリエはベベノムの様子を観察しながら自分の考えを口にした。
「恐らくですが……この子はベベノム達が住む世界から来たのかもしれません」
「ベベノム達が住む世界……」
「はい、その通りです。この子が『ウルトラメガロポリス』から来たのであれば、その前に調査隊の皆さんが何かしらのアクションを起こしているはずです。ですが、カルミアさん達が来た以外には、それらしい何かは今日まで起きていませんので、この子は調査隊の皆さんのポケモンなどでは無いと思います。そして、調査の結果によると、ウルトラホールの先には『UB』達の世界があるとされていますので、この子はそういった世界から迷い込んだのかもしれませんそして、先程からカルミアさんの周囲を飛び回っているのは、カルミアが『Fall』だからだと思います」
「私が『Fall』だから……ですか?」
「ええ。『UB』は『Fall』に引き寄せられる性質を持っていると言われていますから、それは間違いないかと思います。ただ……この子は、他の『UB』達と違って攻撃的になっていないのが少し気になりますけどね」
「攻撃的じゃない……言われてみれば、どことなく嬉しそうな感じにも見えるような……」
その時、カルミアの頭の中にある考えが浮かぶと、カルミアは少し驚きながらベベノムに話し掛けた。
「もしかして……私の事を仲間だと思ってる……の?」
「ベベ!」
ベベノムはカルミアからの問い掛けに対して嬉しそうな声を上げると、リーリエは興味深そうな様子でベベノムとカルミアの姿を交互に見始めた。
「なるほど……色合いはちょっと違いますが、確かにカルミアさんも紫色の髪ですし、ベベノムから見れば仲間みたいに思えるのかもしれませんね」
「……まあ、嬉しいようでちょっと複雑な気分ですけどね。でも、ベベノムが友好的なのは助かるかも……この子はスゴく可愛いですし、『Fall』の私の事を仲間だと思って――」
カルミアの言葉がそこで途切れると、「カルミア……さん?」とリーリエは不思議そうに声を掛けた。すると、カルミアは真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「リーリエさん、『UB』は『Fall』に引き寄せられる……んですよね?」
「は、はい……」
「……つまり、『UB』なら近くに『Fall』がいた時にすぐに居場所を見つけられるかもしれない……それがたとえ、お姉ちゃんでも……!」
カルミアの目の中で決意の炎が燃える中、リーリエはカルミアの考えを理解した様子で顎に軽く手を当てた。
「……なるほど、そういう事ですか。アザレアさんの居場所がしっかりと分からない以上、『UB』と『Fall』が持つ関係性を利用するのが一番、という事ですね」
「はい。もちろん、お姉ちゃんがこの『アローラ地方』にいるとは限りませんし、捜している最中にすれ違ってしまうかもしれません。でも、私はもう泣いてばかりいるのは嫌なんです……」
「…………」
「だから、もしこの子が協力をしてくれるなら、私はこの子と一緒にお姉ちゃんを捜したい。このままお姉ちゃんが見つかるのを待っているだけじゃ、何も始まらないし解決もしないと思いますから」
そのカルミアの表情には、さっきまで泣いていたか弱い少女としての雰囲気は無く、どことなく凛々しさのような物があるように見え、リーリエはその表情にアザレアの面影を見たような気がした。そして、カルミアはニコニコと笑いながら自分の横に浮かぶベベノムの事を真正面から見つめると、決意を秘めた真っ直ぐな眼差しでベベノムに話し掛けた。
「ベベノム、ちょっとだけ話を聞いてくれる?」
「ベベ!」
「うん、ありがとう。あのね、私にはお姉ちゃんがいるの。いつも落ち着いていて誰にでも優しくて、どんな事もすぐに上手くなっちゃうそんなカッコ良くて頼りになる自慢のお姉ちゃんなんだ」
「ベベベ」
「……でも、お姉ちゃんは今行方不明になってるの。誰も見つけられないし、まったく手掛かりも無い。そんな状況なんだ……」
「べべ……」
「だから……ベベノム、私にはあなたの『UB』としての力が必要なの。もちろん、確実にあなたがお姉ちゃんに引き寄せられるとは思ってないし、もしかしたら見つかるまで何年もかかるかもしれない。でも……私は、お姉ちゃんを見つけ出したい! もう一度お姉ちゃんに会いたいの! だから、私に力を貸して! ベベノム!」
「ベ……」
カルミアが涙交じりの声で頼みながら頭を下げる中、ベベノムはそんなカルミアの様子をジッと見つめ、やがて何かを決めたように一度頷くと、その小さな手でカルミアの肩をポンポンと叩いた。そしてカルミアが顔を上げると、ベベノムは二度頷きながらニコリと微笑みかけた。
「ベベノム……私に力を貸してくれるの?」
「ベベベー!!」
「……ありがとう、ベベノム。本当にありがとう……!」
カルミアが嬉しさの涙を流しながら感謝の気持ちを込めてベベノムを抱き締めると、その様子を見ていたリーリエは安心したように息をついた。そして、カルミアに抱き締められているベベノムに対して深々と頭を下げた。
「ベベノム、本当にありがとうございます。そして、これからよろしくお願いしますね」
「ベベー!」
リーリエの言葉にベベノムは片手を上げながら元気よく答えていた時、カルミアは「あ、そうだ」と何かを思いついたように声を上げ、ベベノムに対して微笑みかけながら言葉を続けた。
「ねえ、ベベノム。あなたにニックネームってあるの?」
「ベベ? ベベベ……」
「この様子は……どうやら無いようですね」
「そっか……うん、それなら私があなたのニックネームを付けても良いかな?」
「べべべ?」
「うん。こうしてあなたと出会って、一緒にお姉ちゃんを捜す仲間であり、友達になれた記念みたいな物として付けたいんだけど……どうかな?」
「ベ……ベベ、ベベベー!」
カルミアの問い掛けにベベノムがとても嬉しそうな声を上げると、カルミアはホッとしながらニコリと笑った。
「うん、ありがとう。それじゃあ……早速つけてあげるね」
「ベベベ!」
そして、ベベノムの事を見詰めながらニックネームを考え始める事約数分、「……うん、これかな」と微笑みながら頷くと、ワクワクした様子で待っていたベベノムに声を掛けた。
「ベベノム、あなたのニックネームは『ルベリ』にしようと思うの」
「ベベ?」
「うん。名前の由来は、ブルーベリーっていう果物なんだけど、ブルーベリーは私の名前と同じ『カルミア』とお姉ちゃんの名前の『アザレア』っていう花の仲間の果物なの。さっきも言ったけど、私とあなたはお姉ちゃんを捜す仲間であり友達。だから、同じ仲間の『ブルーベリー』から取って『ルベリ』っていうニックネームにしてみたんだけど……気に入ってくれたかな?」
カルミアが不安げな表情を浮かべながら恐る恐る訊くと、ベベノムは満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。そして、その様子にカルミアは心から安心した様子で微笑んだ。
「……良かった。それじゃあ……改めてよろしくね、ルベリ」
「ベベー!」
カルミアの言葉にルベリが元気よく答えていると、それを静かに見ていたリーリエがとても安心した様子で息をついた。そしてルベリの方へ顔を向けると、ニコリと笑いながら声を掛けた。
「ルベリ、私の名前はリーリエと言います。これからカルミアさん共々よろしくお願いしますね」
「ベベベ!」
ルベリが片手をピッと上げながら返事をしていたその時、突然「おーい!」と言う大声が聞こえ、カルミア達は揃って声がした方へ顔を向けた。すると見えたのは、とても嬉しそうに走ってくるククイ博士の姿であり、その明るい表情からアザレアの事で何か良い事があったのだとカルミアは感じ、表情を明るくしながらククイ博士に話し掛けた。
「ククイ博士、もしかしてお姉ちゃんの事で何か分かったんですか!?」
「……ああ、その通りだ。まだもしかしたらの段階なんだが、ついさっきアザレアらしい少女を見つけた人がいるって国際警察から連絡があったんだ!」
その瞬間、カルミアは驚きからベベノムを離し、その場に座り込んでしまったが、すぐにその嬉しさで目から大粒の涙を流し始めた。
「……良かった。本当に……良かったぁ……!」
「ああ、本当に良かった。……で、そのベベノムはどうしたんだ?」
「この子――ルベリはカルミアさんのパートナーポケモンで、さっきウルトラホールから出てきたところをカルミアさんが説得して、アザレアさんを捜す仲間になってもらったんです」
「へえ……そんな事があったのか」
「はい。それで……アザレアさんは今どちらに……?」
「それなんだが……今、アザレアは『ヤマト地方』にいるかもしれないんだ」
「『ヤマト地方』……確か、『シンオウ地方』から南に行ったところにある地方ですよね?」
「ああ、そうだ。それで、目撃者の話によるとそのアザレアらしい少女は、同い年くらいの少年達と一緒にいたんだそうだ」
「同い年くらいの人達と……でも、どうして……」
「さあな。まあ、その一団はすぐにどっか行ってしまったみたいだし、見掛けたのも数週間前の事らしいから俺からは何とも言えない。ただ、今まで何の手掛かりも無かったところにこの情報が飛び込んできたのは正直運が良いと思う。実際、国際警察のリラも既に『ヤマト地方』に向かったらしいしな」
「リラさんが『ヤマト地方』に……」
ククイ博士の話にリーリエが少し驚いた様子で声を上げると、ククイ博士はカルミアの方へ視線を移し真剣な表情で問い掛けた。
「さて……カルミア、お前はどうしたい? それらしい手掛かりが見つかった以上、このまま待っていても恐らくアザレアは発見され、このアローラに帰ってくると思う。けど、お前が自分の力でアザレアを見つけたいと言うなら俺はそれを止めない。アザレアの安否を一番案じていたのは、間違いなくお前だからな」
「…………」
「カルミア、このアローラでアザレアの帰りを待つ道とリラのように自ら『ヤマト地方』へ赴く道、お前はどっちを選ぶ?」
ククイ博士からの問いにカルミアは「私は……」と迷いがある様子で呟いたが、腕の中にいるルベリの事をチラリと見た後、覚悟を決めたように一度頷いてからその問いに答えた。
「……私はお姉ちゃんを捜しに行きます。今日まで色々な人達に手伝ってもらっている上、ルベリにも力を貸してもらう事にした以上、待っているだけじゃやっぱりダメだと思いますから。それに……」
「それに?」
「……自分から『ヤマト地方』に行く事で、今までの弱虫でお姉ちゃんに頼りきりだった私から変わりたいんです。そして、今の
「……なるほど。それがお前の答え、なんだな?」
「はい……!」
カルミアは真っ直ぐな眼差しでククイ博士を見つめると、ククイ博士はしばらくその目を見つめ返していたが、やがて「……やっぱりな」と小さく笑いながら独り言ち、素肌の上から直に着ている白衣のポケットに手を入れた。
「それじゃあ……そんな新米ポケモントレーナーには、これを上げないといけないよな」
そんな事を言いながらククイ博士が取り出したのは、アザレアも持っていた『島巡りの証』と小さく細長い四角いケース、そして一枚のカードとピンク色のポケモン図鑑だった。
「ククイ博士、それって……!」
「ああ、お前が思っているとおりの物だ。島巡りの証については、お前が旅から帰ってきた時に島巡りをしたかったら使えば良い。それで、このケースは前に各地方のジム見学をした時に『ヤマト地方』で手に入れていたバッヂケースで、このカードは向こうのポケモンセンターなんかを利用する時の『トレーナーカード』。そして、全地方で使えるようにしておいたポケモン図鑑だな。そして――」
ククイ博士はポケットの中からモンスターボールを一つ取り出すと、そのスイッチを軽く押した。すると、中から出てきたのはカルミア達には馴染み深い仔犬のような姿の岩タイプのポケモン――『イワンコ』だった。
「せっかくだから、コイツも旅に連れて行ってやってくれ。コイツはカルミアにとても懐いてるし、人捜しには役立つはずだからな」
「ありがとうございます……でも、本当に良いんですか?」
「ああ、コイツも結構アザレアの事を心配してたし、研究所の中ばかりじゃなく、色々な物を見せてやりたいからな。カルミア、是非ともイワンコに色々な世界を見せてやってくれ」
「ククイ博士……分かりました、イワンコの事は任せて下さい」
「ああ、任せたぜ」
カルミアの言葉にククイ博士は笑いながら答えていたが、「……そうだ」と何かを思いついた様子で声を上げると、イワンコの事を指差しながらカルミアに話し掛けた。
「せっかくだし、そのベベノムみたいにイワンコにもニックネームを付けてやったらどうだ?」
「この子にもニックネームを……分かりました、ちょっと考えてみますね」
カルミアは顎に手を当てながらイワンコの事をジッと見つめ、そのまましばらく考え始めた。そして、「……うん、これかな」と独り言ちた後、今度はイワンコを抱き上げながらニコリと微笑んだ。
「イワンコ、貴方のニックネームは『クラン』にしようと思うんだけど……どうかな?」
「ハッ、ハッ……ワウン!」
「……ふふ、ありがとう。それじゃあ……これからもよろしくね、クラン」
「ワン!」
イワンコ改めクランは嬉しそうな鳴き声を上げると、親愛の証として首の岩をカルミアへと擦りつけ始めた。
「痛た……ふふっ、でもこれは貴方にとって親愛の証なんだもんね。だから、とっても嬉しいよ、クラン」
「ワンワン!」
カルミアの言葉にクランが鳴き声を上げる中、ククイ博士はそれを微笑ましそうに見ていたが、「さて、そろそろ始めないとな」と独り言ちると、両手をパンパンと打ち鳴らしながらカルミア達に声を掛けた。
「さあ、そろそろ旅の準備を始めるぞ。旅を始めるからには、色々な準備が必要だからな」
「「はい!」」
「ベベベー!」
「ワンワウン!」
そして、カルミア達は揃って返事をすると、燦々と輝くアローラの太陽の光を浴びながらこれから始まる旅へのやる気を高めながら研究所へ向かって歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。次回をどのような話にするかはまだ決めていませんが、出来る限り早めに決めて投稿をしていきたいと思っています。
そして最後に、今作品への感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。