それでは、早速始めていきます。
プロローグ 水面に広がる涙の波紋
二匹のポケモンを巡るユウヤとリュウガのポケモンバトルから一週間が経った頃、ユウヤの幼馴染みであるミナトは、『ツキクサタウン』にあるシロツメ研究所の湖に棲むポケモン達の姿を軽く屈みながらボーッと眺めていた。『カントー地方』のオーキド研究所などと同じようにシロツメ研究所では、様々なトレーナーが捕まえたポケモンを預かっていたりやシロツメ博士が他の地方で貰ったり、捕まえてきたりしたポケモンをそれぞれの棲息域に近い環境で生活させており、ミナトやユウヤなどは昔からそういったポケモン達と触れあってきたのだった。そして、しばらくポケモン達の姿を眺めていたが、やがてどこか残念そうな表情を浮かべると、ミナトは小さく溜息をついた。
「……あーあ、今日もユウヤ君はポケモン達と特訓に行っちゃったなぁ……。でも、ポケモンを持っていない私がついて行っても様子を見てる事しか出来ないし、一緒にいても邪魔になっちゃうよね……」
ミナトは少し寂しそうにポツリと呟くと、近くの森でポケモン達と鍛練に励む幼馴染みの姿を想起した。パートナーポケモンと出会った翌日から、ユウヤは毎日パートナーポケモン達と共に『ツキクサのもり』で技やバトルでの立ち回りの特訓を行っており、時には『ポケモンの言葉を理解する能力』で森に棲むポケモン達に手伝ってもらうなどしていた。そしてミナトは、最初こそ興味本位からその特訓の様子をに見に行っていたが、ミナトはそれ程ポケモンやバトルについての知識などが無く、最初から最後までただ見ているだけになっていたため、そんな自分が必要ないと感じ、二日前から特訓を見に行くのは遠慮するようになっていた。二日前に特訓の見学を断った時、ユウヤは幼馴染みからの言葉を少し残念そうに聞いていたが、ミナトが自分の事は気にしないように言うと、ユウヤは少し迷った後にコクンと頷きながら答え、そのままパートナーポケモンと一緒に特訓へと向かっていった。そして、その日からユウヤはミナトに軽く声を掛けてから特訓に向かうようになり、ミナトはそんなポケモントレーナーとしての幼馴染みの姿に少しだけ嬉しさを感じていたが、どこか寂しさのような物も感じており、ユウヤがどこか遠くに行ってしまったかのような錯覚に襲われていたのだった。
「……私にもポケモンがいたりバトルについての知識があったりすれば、ユウヤ君のお手伝いが出来るんだろうけど、私にはどっちも無いもんなぁ……。でも、このままっていうのも私的には本当に嫌だし、どうにかしたいところだけど……はあ、本当にどうしたら良いのかな……?」
ミナトが本日何度目かになる溜息をついていたその時、湖内から小さなペンギンの姿をした一匹のポケモンがヒョコッと顔を出すと、ミナトの寂しそうな様子にキョトンとしながら小首を傾げた。
「ポチャ……?」
「……あ、ポッチャマ。他の子達と遊んでなくて良いの?」
「ポチャ。ポチャ、ポッチャ……?」
「……もしかして、心配してくれてる……の?」
「ポッチャマ」
「そっか……ふふ、ありがと。でも、私は大丈夫だよ、ポッチャマ」
ミナトはポッチャマに心配を掛けたくなかったため、少し無理をしながら微笑みかけたが、ポッチャマはミナトの顔をジッと見つめた後、ゆっくりと湖から体を出し、そのままミナトの隣にストンと腰を下ろした。
「ポッチャマ……」
「ポチャ、ポチャポッチャ」
「……ふふ、ありがとう。ユウヤ君とは違って貴方の言葉までは分からないけど、ポッチャマの優しい気持ちはちゃんと伝わってるからね」
「ポッチャマ!」
「……うん、それじゃあちょっとだけ話を聞いてもらおうかな?」
そしてミナトは、風で木々が静かに揺れる中、自分の気持ちについて語り始めた。
「ポッチャマも知ってると思うけど、最近ユウヤ君はパートナーポケモン達と一緒に『ツキクサのもり』に特訓をしに行ってるの」
「ポチャ」
「ユウヤ君は、二匹のトレーナーになった以上、二匹の力をしっかりと引き出してあげるのがトレーナーである自分の役目だって言って毎日特訓に励んでるんだけど、私はそんなユウヤ君のために何か手伝える事が無いかって思ってるの。私にポケモンについて詳しい知識があったり、バトルをする上でのテクニックなんかがあったりすれば、ユウヤ君やパートナーポケモン達は助かると思うから。でも、私にはそんな物は当然無い上、まだポケモンすら持ってないから特訓の相手にすらなれないんだ……」
「ポチャ……」
「ユウヤ君のお手伝いが出来れば、なんて考えていても実際には何も出来ない。私はそんな自分がだんだん嫌になって、遂にはユウヤ君達の特訓の見学すら行かなくなっちゃった。今、私が特訓の見学をしに行ったら、何も出来ない自分という物を嫌でも思い知る事になっちゃうから……」
「ポチャ……ポチャポチャ」
「ユウヤ君は優しいから、たぶん私がただ特訓の見学に行ったところで邪魔だとは思わないし、色々な話を振ってくれると思う。でも、たぶん私は大した事も言えない上にそれをうんうんって頷きながら聞いているだけになる。ポッチャマ、私はねそんな風にユウヤ君の優しさに甘えるだけの私が嫌なの。今まで色々な事でユウヤ君に助けてもらったり、教えてもらったりしてきた分私がバトルの事に限らず、何かで助けてあげたいだけなの。でも……そのためにはどうしたら良いのか全く分からないの……」
目に涙を溜めながら心の内を明かすと、ミナトは「本当に……どうしたら……」と消え入りそうな声で言いながらゆっくりと俯いた。ポッチャマはそんなミナトの姿にとても心配そうに見つめていたが、視線を湖面に映る自分の姿へと移すと、何かを決意したようにコクンと頷いた。そしてスクッと立ち上がると、右の翼でミナトの肩をトントンと軽く叩いた。
「ポッチャマ……?」
「ポチャ、ポッチャマ!」
「自分を指差して一体何を――え、もしかして……貴方がどうにかしてくれるって言うの?」
ミナトが指で涙を拭いながら訊くと、ポッチャマは大きく胸を張りながら翼で自分の胸を軽く叩いた。そして言葉が通じないながらもミナトの腰を指差したり、どこからか飛び出したりするなどの身振り手振りで自分の考えをミナトに伝えると、ミナトはその内容に驚きの表情を浮かべた。
「つまり……貴方を私のパートナーポケモンにすれば、ユウヤ君の特訓の手伝いが出来るから、そうした方が良いって事……?」
「ポッチャマ!」
「でも……それは流石に悪いよ。確かにそうすれば問題は解決するだろうし、研究所のポケモンの中で一番仲良しの貴方がパートナーポケモンになってくれるのはとても嬉しい。だけど、こうして話を聞いてくれるだけでもありがたいのに、そこまで貴方に頼るのは流石に申し訳――」
「ポチャ! ポチャポチャ、ポッチャマ!」
「……もしかして、遠慮するなって言ってるの? でも……」
「ポッチャ! ポチャポチャ、ポッチャ!」
「ポッチャマ……」
真剣な表情で自分の気持ちを伝えるポッチャマに対してミナトが未だ申し訳なさそうな表情を浮かべていたその時、突如二人の背後から不思議そうな声が聞こえた。
「『ボクはボクの気持ちに従っただけだから、キミは申し訳思わなくて良い』……って言っているみたいだけど、二人とも何かあったの……?」
「……え?」
「……ポチャ?」
振り向くと、そこにはリオルのレイとミミッキュのフランを連れたユウヤの姿があり、ミナトはその事に驚きを隠しきれない様子で立ち上がりながらユウヤに話し掛けた。
「ユ、ユウヤ君……!? どうしてここに……!?」
「えっと……どうしてって言われても、特訓の途中で最近ミナトちゃんの元気が無い事を思い出したら、それがどうにも気になってね。それで、特訓にもちょっと身が入らなくなったから、ミナトちゃん本人にその理由を聞きに来たんだよ。波導から大体の感情は感じ取れるけど、やっぱり直接訊かないと分からない事もあるからね」
「そっか……なんかゴメンね。ユウヤ君に迷惑掛けちゃったみたいで……」
「ううん、迷惑なんて全然思ってないよ。ミナトちゃんは僕にとって大切な幼馴染みだからね。幼馴染みに何かあったら気にするのは当然の事だよ」
ニコリと笑いながら言うユウヤに対してミナトは申し訳なさ半分嬉しさ半分といった様子で「……うん、ありがとう」とお礼の言葉を口にした。しかし、ユウヤに対して自分の気持ちを伝えるには、少し気持ちの準備が出来ていなかったため、ミナトはこの場をどうにかするために無理に微笑みを浮かべた。
「でも、心配はいらないよ。ユウヤ君に話すほどの事でも無いし、ユウヤ君は私の事は気にせずに特訓の続きを――」
「……嘘、だね」
「……え?」
「言ったでしょ? 波導から大体の感情は感じ取れるって。今のミナトちゃんの波導、明らかに哀しみとか苦しみとかの色に染まってる。そんな状態なのに心配はいらないなんて絶対に嘘だよ」
「…………」
「もし、本当に言いたくない事なら無理には聞かない。でも、僕に出来る事なら僕は全力で協力したいんだ。ミナトちゃんには、いつも助けてもらっているから」
「……いつも私に助けてもらってる? 嘘だよ……絶対に嘘だよ。だって、私がユウヤ君の助けになれた事なんてそれ程――」
「ううん、いつも助けてもらってるよ。ミナトちゃんの元気や笑顔にね」
「私の元気や笑顔……?」
ユウヤの言葉にミナトが不思議そうな声で呟いていると、ユウヤは「そうだよ」と言いながらミナトの手を静かに握った。
「ミナトちゃんはいつも明るく元気だし、誰にだって分け隔て無く接してる。そしてそれは、僕達が出会った時だって同じだった。僕の能力が他の子達から気味悪がられたり嘘をついているんじゃないかと疑われたりした時でもミナトちゃんだけは僕の事を信じて能力の事をスゴいって言ってくれた。それ以来、僕はこの『ポケモンの言葉を理解する能力』と『波導を使える能力』がしっかりと好きになれたし、気味悪がられたり疑われたりする事も無くなった。だから、僕はミナトちゃんには心から感謝してるんだよ。あの時の僕が救われた事やいつも朝に元気に挨拶をしてくれる事、そして他にも色々な事を僕は感謝してるし、助けてもらってるんだよ」
「私が……ユウヤ君の助けに、なれてる……?」
「うん、これ以上無いってくらいに助けられてる。だから、今度は僕がミナトちゃんの助けになりたいんだ。まあ、僕に出来る事かは分からないけど、それでも出来る限り全力で――」
その時、ミナトの目から一滴の涙が溢れ、ユウヤはその涙に慌てた様子を見せた。
「ミ、ミナトちゃん……どうかしたの!?」
「う……ううん、違うの。この涙は……嬉しさの涙、だから……!」
「嬉しさの涙……?」
「うん……私ね、ユウヤ君が特訓をしてる時にただ見てるだけになってるのが本当に嫌だったの……。だから、何かユウヤ君の助けになれる事は無いかなって思ってたけど……まったく良い考え方が浮かばなくて……それで、ポッチャマに話を聞いてもらってたの……」
「うん……」
「……そしたら、ポッチャマが自分をパートナーポケモンにすれば、ユウヤ君のバトルの特訓相手になれるって言ってくれて……でも、ポッチャマにそこまでさせるのは、流石に申し訳無くって……!」
「……そっか、それであの時……」
「でも……ユウヤ君が私に助けてもらってるって言ってくれた時、本当に嬉しかったの……! ああ、私でもユウヤ君の助けになれてるんだなって、そう思ったら涙がドンドン出てきて……!」
「ミナトちゃん……」
ユウヤはミナトを軽く抱きしめると、背中をポンポンと叩きながら優しく話し掛けた。
「ミナトちゃん、本当にありがとう。そういう風に思ってくれてるだけでも僕は嬉しいよ」
「ユウヤ君……」
「だから、もうこれ以上泣かないで。ミナトちゃんには泣き顔よりも笑顔がピッタリだからね」
「うん……うん……!」
ポケモン達が見守る中、ミナトはユウヤに抱き締められながら数分程泣き続けた。そして泣き止んだ後、ユウヤから体をスッと離すと、赤い目のままでニコリと笑った。
「えへへ……何だか恥ずかしいところを見せちゃったね。でも、ユウヤ君の言葉は本当に嬉しかったよ、本当にありがとう」
「どういたしまして。……それにしても、さっきの僕の言葉、よくよく思い返してみたら結構恥ずかしい事を言ってたような気がする……」
「ふふ、私は泣き顔よりも笑顔がピッタリなんだもんね。この言葉はしっかりと覚えておく事にしようかな?」
「ちょ……ちょっと、ミナトちゃん!」
「でも……嬉しかったのは本当だよ。他ならないユウヤ君からそう言ってもらえたからね」
「……そっか」
「うん……♪」
ミナトの笑顔にユウヤも釣られて笑みを浮かべていると、それを静かに見ていたレイが小首を傾げながらユウヤの服の袖を軽く引っ張った。
「ん……レイ、どうかした?」
「ルォ、ルォ……?」
「ポッチャマがミナトちゃんのパートナーポケモンになる件……そういえばそんな提案をされてたって確かに言ってたよね」
「あ、うん。それはそうなんだけど……」
ミナトがポッチャマに視線を向けると、ポッチャマは真っ直ぐな目でミナトの事を見ており、その様子から先の自分の言葉を覆す気が無い事は明らかだった。
「ポッチャマ……本当に私のパートナーポケモンになってくれるの?」
「ポッチャマ!」
「『もちろん!』……だってさ。ポッチャマもその気みたいだし、シロツメ伯母さんにちゃんと事情を話せば大丈夫だと思うから、後はミナトちゃんがどうしたいかだよ」
「わたしがどうしたいか……うん、そんなのもう決まってるよ」
そして、ミナトはポッチャマを優しく抱き上げると、目線を同じ高さにしながらニコリと笑った。
「これからよろしくね、ポッチャマ」
「ポッチャマ!」
「『こちらこそ!』……だってさ。……そうだ、せっかくだからポッチャマにニックネームを付けてあげたら?」
「ニックネーム?」
「うん、まだシロツメ叔母さんに訊く前ではあるけど、ミナトちゃんとポッチャマの仲の良さは叔母さんも知ってるし、ニックネームを付けてもたぶん怒られる事は無いと思うからさ」
「そっか……うん、それならちょうど良い名前があるよ」
ミナトがクスリと笑いながら言うと、ユウヤは少し驚いた様子を見せた。
「あ、そうなんだ。それで、どんな名前なの?」
「うん、私のミナトと一文字違いで『ミナモ』とかどうかなって」
「ミナモ……うん、僕は良いと思うよ。でも、どうしてミナモにしようと思ったの?」
「それはね……前から水タイプのポケモンをゲットしたらこの名前を付けてあげたいって思ってたからだよ。私の『ミナト』っていう名前も水に関係する名前だから、水タイプのポケモンにも同じように水に関係する名前を付けてあげたいって前から考えてたんだ。名前が似ていると、なんだかお揃いって感じがして、楽しい気分にもなれるしね」
「……そっか。それで、当の本人の感想だけど……」
ユウヤがポッチャマに視線を向けると、ポッチャマは「ポチャ……ポチャ……」とミナトが付けてくれた名前を呟くように鳴き声を上げていたが、一度大きく頷いたかと思うと、「ポッチャ!」ととても気に入った様子で大きく鳴き声を上げた。
「……うん、どうやら気に入ってくれたようだね」
「……そっか。それなら良かった……かな?」
「ポチャポッチャ、ポチャポッチャマ!」
「『色々考えて付けてくれた名前だし、気に入らないわけが無いよ!』……だって」
「ミナモ……うん、ありがとう。そしてこれからよろしくね」
「ポッチャマ!」
微笑みながら言うミナトの言葉に、ミナモがニコリと笑いながら答えていると、突然「おーい、二人ともちょっと来てもらって良いー?」という声が聞こえ、ユウヤ達が揃って振り向くと、そこにはユウヤ達に向かって手招きをするシロツメ博士の姿があった。
「……一体何だろうね?」
「さあ……でも、何か用事があるみたいだし、とりあえず行ってみようか」
「うん、そうだね。よし……それじゃあ行こっか、皆!」
「うん」
「ルォ!」
「キュッ!」
「ポチャ!」
そして、晴れ渡る空と燦々と輝く太陽が見守る中、ユウヤ達はシロツメ博士の元へ並んで走っていった。
いかがでしたでしょうか。次回をどのような話にするかはまだ未定ですが、出来る限り早めに決めて投稿をしていきたいと思っています。
そして最後に、今作品への感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。