それでは、始めていきます。
プロローグ 己を高める執事と支えるお嬢様
穏やかな田園風景や近代的な都市、雄大な草原や険しい雪山などの様々な表情を持ち、『ダイマックス』と呼ばれる特別な現象や『アローラ地方』のようにこの地方特有の姿を持つポケモン達が住む『ガラル地方』。そして、この『ガラル地方』にある『ヨロイジマ』という孤島の浜辺で黄色い拳法着のような服装に身を包んだ短い茶髪の少年と灰色の小さな熊型のポケモンが、青空の下で海へ向かって一心不乱に拳を突き出していた。
「はっ、はっ、はっ……!」
「クマッ、クマッ、クマァッ……!」
波が打ち寄せる中、少年とポケモンは汗を流しながらひたすらに拳を突き出し、己の鍛練に励んでいた。少年の名前はスチュアート、『ガラル地方』にある『ナックルシティ』出身の新人トレーナーで、この『ヨロイジマ』には『ある人物』と共に訪れていた。そして、スチュアートの隣で汗を流すのは『けんぽうポケモン』のダクマ。スチュアートとは、この『ヨロイジマ』でマスタードと呼ばれる老人に引き合わされ、以来スチュアートのパートナーとして日々修行に励んでいる。
「98、99、100……! よし……ファイ、一旦ここまでにして休もうか」
「クマ……!」
スチュアートの言葉にファイは頷きながら拳を収めると、その場に座り込みながら息を整え始めた。その様子にスチュアートが微笑みながら頭を撫でようとしたその時、「スチュアート、ファイ、お疲れ様」と背後から声が掛けられ、スチュアート達は背後を振り返った。するとそこにいたのは、ツバの広い帽子を被った紫色のワンピース姿の青みがかった長い黒髪の少女とその隣をふわふわと飛ぶティーカップ型のポケモン、『こうちゃポケモン』のヤバチャだった。
「あ、リディアお嬢様にグレイ。俺達の修行の様子を見にいらっしゃったんですか?」
「そんなところ。それと……別にここでは別にお嬢様ってつけなくても良いし、敬語じゃなくても良いって言ったでしょ? ここはお屋敷じゃないし、私達は幼馴染みなんだから」
「……それはそうだけど、やっぱり昔からリディアの執事になるために教育をされてきたからそれに慣れてるというか……」
「……そう。まあ、スチュアートのお父さんはウチの両親の執事、お母さんはメイド長だからね。お父さん達からすれば、息子にもその道を歩んで欲しいと思うのは当然なのかもしれないわね」
「かもな。それにしても……リディアと一緒にこの『ヨロイジマ』に来てから今日で一ヶ月が経つけど、一向に修行の終わりが見えないなぁ……」
「修行ってそういう物なんじゃない? まあ、スチュアートのお父さんから言われてる修行の終わりは、その子を
「そうだな……けど、修行の道に終わりが無いって言うなら、俺はファイと一緒にどこまでも歩むつもりだ。それくらいの覚悟が無いと、将来リディアの執事にはなれないからな」
「スチュアート……ふふ、それなら頑張って。私もグレイも応援してるから」
「ああ、ありがとうな」
リディアの言葉にスチュアートが微笑みながら答えていたその時、「おっ、いたいた」という声が聞こえ、スチュアート達は揃ってそちらに視線を向けた。すると、そこにいたのは執事服を着こなし、顔にモノクルを付けた短い銀髪の男性だった。そして、男性がサクサクと音を立てながらスチュアート達に近付くと、スチュアートは少し不思議そうな顔をしながら男性に話し掛けた。
「アルフレッド兄さん……? どうして、兄さんがこの『ヨロイジマ』に?」
「父さんから一つ言付けを頼まれてな」
「そっか……」
「アルフレッドさん、こんにちは」
「はい、こんにちは、リディアお嬢様。それで、スチュアート。父さんからの言付けなんだが、お前とファイには明日から別の地方での修行に入ってもらう」
「別の地方……?」
「ああ。お前達に行ってもらうのは『ヤマト地方』という『シンオウ地方』の南方にある地方だ。そこは、多くのポケモン達が生息していて、豊かな自然や数々の伝承もあるという。お前達にはその『ヤマト地方』で八つのポケモンジムの制覇を目指してもらう。そして、ポケモンジムの制覇が終わったら、またこの『ヨロイジマ』に戻り、師匠であるマスタードさんを相手に最後の試練を行い、無事にファイをウーラオスに進化させられれば修行は完了だ。因みに、この件はマスタードさんにも了承を得ている上、向こうでゲットしたポケモンを最終試練で使っていいとも言われている。だから、向こうで仲間にしたいポケモンがいれば、遠慮なく捕まえてこい」
「……わかったよ、兄さん。けど、父さんはどうして俺を『ヤマト地方』に修行に出そうとしているんだろう?」
「……そこまでは俺にもわからない。だが、『ヤマト地方』での修行は、お前の将来の糧になるだろうとは言っていたし、俺もそれには同感だ。俺も2年前に旅に出たけど、その時の経験はとても貴重だったし、あの旅があったから今の俺があると思ってるよ」
「そっか……あれ、でも……俺が『ヤマト地方』に旅に出たらリディアはどうすれば……」
「もちろん、リディアお嬢様にはお家に戻って頂く。お前の特別修行にリディアお嬢様を付き合わせるわけには──」
「え? もちろんスチュアートについていきますよ?」
「……は?」
リディアの言葉にアルフレッドが疑問の声を上げる中、リディアは後ろからスチュアートに抱きついた。
「リ、リディア!?」
「元々、私はスチュアートが修行を頑張るところを見るためについてきたわけなので、特別な修行に出るならその様子を見守りたいと思うのは当然ですよね? だから、私はスチュアートの旅についていきます」
「リディアお嬢様、しかし……」
「それに、父さんも母さんも恐らく反対はしないと思いますよ? 前々から私には色々な経験を積んでほしいと言っていましたし、スチュアートの事はとても信頼しているようですから。そうよね、スチュアート?」
「え? まあ……前に自分達に何かあったらリディアの事はよろしく頼むとは言われてるし、リディアが何か頼み事をしてきたら出来る限り叶えてやってくれとも言われてるけど……」
「それなら問題ないわね。私にだってグレイというパートナーポケモンはいるから、野生のポケモンに襲われても身を守る事はできるし、スチュアートやファイもいる。それに、さっきアルフレッドさんも言っていたけど、旅は将来の糧になるというのなら、私だって行ってみたいと思うのは当然だと思います」
「リディアお嬢様……」
リディアの言葉にアルフレッドが困った表情を浮かべる中、リディアはスチュアートに抱きついたままスチュアートに話し掛けた。
「スチュアート、貴方は私が旅についてこようとしている事についてどう思う? 貴方もついてこない方が良いと思ってる?」
「……本音を言うならリディアがついてきてくれるなら嬉しいよ。この『ヨロイジマ』での修行を頑張れているのもリディア達が傍で励ましてくれているからだし。でも、リディアを危険な事に巻き込みたくないという気持ちもある。リディアは俺にとって大切な存在だから、傷つくところを見たくは無いし……」
「スチュアート……」
「ただ、本気でついてくるって言うなら止めはしない」
「スチュアート……!」
スチュアートの言葉を聞き、アルフレッドが怒気を孕んだ声を上げると、スチュアートはアルフレッドに向かって静かに頭を下げた。
「ごめん、兄さん。けど、将来リディアの家の執事になる以上、いつでもお嬢様の身を守れるようにした方が良いのは当然だと思ってるし、出来る限りリディアの気持ちを尊重してあげたい。それがリディアの執事となる俺の役目だと思うから」
「スチュアート……だが、旅では本当に何が起きるかはわからない。それはわかっているのか?」
「もちろん、わかってるさ。俺が将来リディアの家の執事になるって言われた時点で覚悟は決めてたよ。何があっても俺がリディアを護るっていう覚悟はさ」
「お前……」
真剣な表情を浮かべながら自身を見つめるスチュアートの姿にアルフレッドは少し驚いた様子を見せた後、諦めたように溜息をついてから小さく笑みを浮かべた。
「それなら、お前のその覚悟って奴を信じてみよう。どうやら生半可な覚悟では無いみたいだからな」
「兄さん……ありがとう」
「ありがとうございます、アルフレッドさん」
「どういたしまして。それと……
そう言うと、アルフレッドは一つのモンスターボールを取りだし、それをスチュアートに渡すと、スチュアートは驚いた様子でアルフレッド
話し掛けた。
「兄さん、もしかしてこのモンスターボールって……」
「ああ、お前の相棒だ。ほら、そろそろ出してやったらどうだ?」
「う、うん……」
そして、スチュアートがモンスターボールのスイッチを押すと、モンスターボールからは『こいぬポケモン』のガーディが現れ、その姿にスチュアート達はとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ディン! やっぱりお前だったんだな!」
「久し振りね、ディン!」
「ワウン!」
ガーディのディンが嬉しそうに返事をすると、その姿にアルフレッドはクスリと笑った。
「数年前、旦那様達のお誘いで『カントー地方』に一緒に行った際、弱っていたところを助けて以来、ずっと一緒にいた存在だからな。やはり、会えて嬉しいんだろう」
「けど、兄さん。『ヨロイジマ』での修行に行く時に特別なポケモンがその時の相棒になるから、ディンは連れて行けないって言っていたのに今回ディンに会わせてくれたって事は……」
「ああ、ディンも特別修行に連れて行っていい。ディンもやはり寂しかったみたいで、お前が帰ってくるのを玄関の前で毎日待っていたからな」
「そっか……ディン、ありがとうな」
スチュアートがディンの頭を撫でながら言うと、ディンはとても気持ち良さそうな表情を浮かべた。そして、ディンがファイの方へ視線を向け、不思議そうな顔をしながら首を傾げると、ファイは少し警戒した様子でいつでも戦える体勢を整えた。
「ああ、そういえばお互いに初めましてだもんな。ファイ、警戒しなくても良いぞ。コイツはディンっていって俺の小さい頃からの相棒だ。そして、ディン。コイツはダクマのファイ、ここでの修行を一緒に頑張ってる頼りになる仲間だ」
「ワン、ワウ!」
「クマ……クマ、クマクマ」
「ワン、ワウン!」
そっぽを向きながらも返事をするファイに対してディンが嬉しそうに鳴き声をあげていると、それを見ていたリディアはクスクスと笑い始めた。
「ふふ、少し素直じゃないファイは人懐っこいディンの事がちょっと苦手なのかもしれないわね」
「ヤバ」
「はは、そうかもな。でも、ディンとファイがいてくれれば俺は百人力だと思ってるよ。俺にとってはどっちも大切で頼りになるポケモンだからな」
「そうでしょうね。もちろん、旅の中では私達も色々サポートするつもりだから、何かあったら頼ってね?」
「ああ、それはもちろんだ。……みんな、改めてこれからよろしくな」
「ええ」
「ワン!」
「クマ!」
「ヤバ」
「よし……それじゃあ早速、明日出発するための準備と話し合いを始めるか」
その言葉にリディア達が頷いた後、スチュアートはリディア達を連れて自分の住まいとして提供されている民家へ向かって歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。次回をどのような話にするかはまだ未定ですが、皆さんに楽しんで読んで頂けるように頑張って参りますので、応援の程よろしくお願いします。
そして最後に、今作品への感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。