今回は、以前からTwitterなどで告知をしていたポケットモンスター二次創作の新作をお送りします。作者の未熟さから読みづらいと感じる点がもしかしたらあるかと思いますが、それについては温かい目で見てもらえるととてもありがたいです。
それでは、早速始めていきます。
プロローグ 深淵と波導の冒険者
カントー、ジョウト、ホウエンの三地方の北方に位置し、シンオウの南方に位置する地方――ヤマト地方。この地方は、北方に位置するという事もあってか、シンオウを除いた三地方よりは気温も低いが、豊かな自然と伝承などがあり、ヤマト地方のポケモンリーグやポケモンジムを目当てに武者修行をしに来たポケモントレーナーやその自然や伝承に興味を惹かれた観光客などが昔から訪れていた。そして、その影響でこの地方に生息するポケモンの種類も徐々に多くなり、今となっては約『400種』のポケモン達が生息していると言われ、これを裏付けるかのようにこのヤマト地方においてポケモン研究の第一人者とされるポケモン博士――シロツメ博士が発表したヤマト地方のポケモンの生息分布に関する論文は、ヤマト地方のみならず大きな反響をもたらし、それと同時にヤマト地方を訪れる旅客などの数も増える事となった。
そんなヤマト地方の東方に位置するとある町――ツキクサタウンに建つ一軒の家、その家の庭に植えられた一本の木から伸びた枝の上に一人の短い茶髪の少年が腰掛け、空を見上げながら小さく溜息をついていた。彼の名前はユウヤ、今年9歳を迎えたばかりのツキクサタウン出身の少年だ。ユウヤはとても大人しい少年だが、昔からポケモンが大好きで、小さい頃から観ているポケモンリーグのテレビ中継を観ながら、自分もいつかはこの場で数々の強敵達と熱いバトルを繰り広げたいと夢見ていた。しかし、ポケモントレーナーとして旅立つためには、パートナーポケモンの存在と規定の年齢である10歳になる必要があるため、ユウヤはまだポケモントレーナーとして旅に出る事すら許されてはいなかった。
「はあ……あと1年かぁ。ようやくあと1年まで来たけど、それでもやっぱり長く感じるなぁ……」
青い空とそれをゆっくりと流れる白い雲を見ながらユウヤはポツリと呟いた。先日、ツキクサタウンから数人のポケモントレーナーが旅に出た事もあって、ユウヤの中では早く自分も旅に出たいという気持ちが強くなっていた。しかし、規定の年齢を満たしていない上、ユウヤにはパートナーとなるポケモンも持っていないため、まだ旅に出る事は出来ない。それは仕方ない事だとユウヤ自身も分かっていたが、やはり旅に出たいという気持ちは強く、いつもこうして木に登っては、空や町の外をボーッと眺めながら自分が旅に出た時にやってみたい事や見てみたい事を想像していた。
「……このツキクサタウンの外には、きっとワクワクするような冒険が待っているんだろうけど、冒険を続けていった先でも、僕のこの
少し不安げに呟きながらユウヤが空から自分の手に視線を移したその時、丁度その近くをポッポの群れが通り掛かった。そして、その群れの中で先頭を切って飛んでいた一羽がユウヤの姿を見つけた瞬間、傍らを飛んでいた一羽に目配せをし、それに対してその一羽が頷いて応えた後、群れから静かに離れてユウヤの肩へと静かに留まった。
『よっ、ユウヤ。今日もボンヤリとしながら考え事か?』
「うーん……まあ、そんなところかな?君達は日課のパトロール中?」
『おうよ。世の中は何が起こるか分からねぇって言うし、日々のパトロールはやっぱ欠かせねぇんだよ』
「なるほどね。やっぱり群れのリーダーが言う事は、何だか重みがあるなぁ……」
『へへっ、そうか? 何かお前からそう言ってもらえんのは、結構嬉しいもんがあるな』
「ふふ、それなら良かったよ。ところで、パトロール中に僕を見つけると、すぐにこうして飛んできてくれるけど、その間は副リーダーに任せっきりで大丈夫なの?」
『ああ、それについては一切問題ねぇよ。アイツは結構生真面目で面倒見も良いし、もしかしたら俺よりしっかりしてるかもしれねぇくれぇだからな。それに、俺にとってお前は本当に貴重なダチだし、お前とこうして
「ウィン……うん、僕も君や他のポケモン達と話すのは、とても楽しいと思ってるよ。まあ……初めはこの
『ん……そっか。けど、世の中にはそういう能力を利用しようとする奴だっているわけだし、そこは気をつけるようにしろよ?』
「うん、それはもちろんだよ。受け入れられるかは別として、話しても大丈夫な人かはもう一つの能力で分かるからね」
『あー……アレな。まあ、確かにそれがあれば相手が善人か悪人かは問答無用で分かるわけだし、問題ねぇと言えば問題ねぇか』
「うん……でも、だからこそこの能力を使うのは結構辛い時があるんだよね。この能力に助けられた事は何度もあるけど、人の心を読んでるのと同じような物でもある分、あまり知りたくない事も分かっちゃうから……」
『……それはそうだろうな。まあ、少なくとも俺や他のダチ連中は、お前に対していつでも正直なつもりでいる。だから、そこだけは安心してくれて良いぜ』
「ウィン……うん、ありがとう。君が友達でいてくれて本当に良かったよ」
『へへっ、どういたしまして。さてと……んじゃあ、俺はそろそろ行くぜ。このままアイツに任せっきりでも良いっちゃあ良いんだが、あんまり遅くなるとグチグチ言われちまうからな』
「うん、分かった。それじゃあパトロール頑張ってね」
『おう! じゃあな、ユウヤ!』
「うん、バイバイ」
ポッポ――ウィンが飛び立つために翼を大きく広げる中、ユウヤがニコリと微笑みながら振ると、ウィンはニカッと笑いながら頷き、そのままポッポの群れが飛んでいった方へと力強く羽ばたいていった。そして、それをユウヤが少し寂しげに見送っていたその時、「おーい、ユウヤくーん!」とユウヤの事を呼ぶ声が下から聞こえ、そちらへ視線を向けた。すると、そこには白いワンピース姿の黒のポニーテールの少女と白衣姿の茶色のセミロングの女性の姿があった。少女の名前はミナト、そして女性の名前はシロツメ。ミナトはユウヤの幼なじみで、いつも元気な同い年の少女。シロツメはユウヤの母親の姉で出身地であるこのツキクサタウンに建てた研究所で日夜ポケモンの生息域について研究をしているポケモン博士だ。そして、二人ともユウヤの能力についてはもちろん知っており、それに対しての嫌悪などは一切無いため、ユウヤにとっては一緒にいて心が落ち着く存在と言えた。
ユウヤは二人に対して柔らかな笑みを浮かべると、嬉しそうな様子で声を掛けた。
「ミナトちゃん、シロツメ博士、こんにちは」
「はい、こんにちは。でも、今は仕事中じゃないから、博士って呼ばれるのはちょっとアレかな?」
「あ……はい、分かりました、シロツメ伯母さん」
「はい、良く出来ました」
ユウヤの言葉にシロツメ博士が優しい笑みを浮かべていると、ミナトは目を輝かせながら大きな声でユウヤに話し掛けた。
「ねえ、ユウヤ君! 今日もポケモン達と何か話を してたの?」
「うん、そうだよ。皆と話すのはとっても楽しいし、勉強になる事も多いからね」
「わぁ……やっぱりそうだったんだね! 今、ポッポが飛んでいくのが見えたからそうかなと思ってたんだ!」
「ふふ、そっか。ところで、僕に何か用事だったの?」
「えっとね……さっき、研究所に初心用ポケモンを連れてきたみたいなんだけど、そのポケモンと話をしてみてもらいたいんだって」
「話って……そのポケモンに何かあったんですか?」
「いえ、特に何かあったわけじゃなくてね。その子、結構臆病な子みたいでミナトちゃんはもちろんの事、研究員の皆にすら近寄ろうとしないのよ。だから、ポケモンと話す事が出来るユウヤ君が話をする事で、少しは話を聞いてくれるようになるかなと思ってね」
「なるほど……分かりました、それじゃあ早速――」
行きましょう、と言おうとしたその時、ユウヤは少し遠くから妙な二つの
「……早く行ってあげないと……!」
波導の主達を救いたい、その思いを胸にユウヤが急いで木を降りると、シロツメ博士達は面食らった様子でユウヤに話し掛けた。
「ど、どうしたの?」
「何だか急いでるみたいだけど……何かあったの?」
「うん。ツキクサのもりから弱々しい波導を二つ感じたんだ。たぶん……スゴいダメージを負ってるし、何かから逃げてるんだと思う。だから、早く行ってあげたいんだ……!」
「弱々しい波導って……まさか、ポケモン?」
「……少し遠いからハッキリとは分からないけど、たぶんそうだと思う」
ミナトからの問いにユウヤが頷きながら答えると、シロツメ博士は考えるような素振りを見せてからユウヤに声を掛けた。
「……ユウヤ君、私もそれに付いていくわ。ツキクサのもりには、野生のポケモン達が棲んでいるから、手持ちポケモンを持っていないユウヤ君が一人で行くのは危険だもの」
「シロツメ伯母さん……ありがとうございます」
「どういたしまして。それと……ミナトちゃんは、研究所の皆にこの事を伝えてくれる? もしも、そのポケモン達の傷が本当に深い物だったら、手持ちのキズぐすりじゃ間に合わないと思うし」
「わ、分かりました。……ユウヤ君、気をつけて行ってきてね」
「うん、ありがとう。それじゃあ行きましょう、シロツメ叔母さん」
「ええ……!」
そして、不安そうな表情を浮かべるミナトを一人残し、ユウヤとシロツメ博士は波導の主がいるツキクサのもりへと急いだ。
数分後、二人はツキクサのもりに着くと、ユウヤの波導を感じ取る能力を使って波導の主のところへ辿り着くべく、森の中を走り回った。その必死な様子に、森に棲む野生のポケモン達は何事かといった表情を浮かべながらもユウヤ達のために次々と道を譲っていった。それに対してユウヤは、頭を下げたり「ありがとう」と声を掛けたりしながらシロツメ博士と一緒にひたすら森の中を走った。そして、それから更に数分が経った頃、ユウヤの目に遠くからお互いに支え合いながらヨロヨロと歩いてくる小さなポケモン達の姿が映り、そのポケモン達の様子と波導の状態から木の上で感じ取った波導の主がそのポケモン達だと確信した。
「シロツメ伯母さん……! あのポケモン達です!」
「あのポケモン達って……まさかアレは、リオルとミミッキュ……!? リオルとミミッキュは、このヤマト地方に生息していないはずなのに、どうして……!?」
「分かりません……でも、早く助けてあげないと……!」
「そ、そうね……! あの子達が何故この地方にいるのかは気になるけど、まずは手当が先よね……!」
そのシロツメ博士の言葉に頷きながらユウヤがリオル達の元へ急ぐと、その足音にリオル達はハッとしながら顔を上げた。そして、ユウヤ達が自分達に近付いてきているのに気付いた瞬間、リオルはバッと前に出ながらボロ布の首が折れた姿――バレたすがたのミミッキュを庇うように立ち、ユウヤ達を睨み付けた。
『人間……! もうこんなところまで追ってきてたのか……!』
「ちょ、ちょっと待って!何があったのかは分からないけど、僕達は敵じゃないよ!」
『うるさい! 人間の言葉なんて信じられるもんか! これ以上僕達の邪魔をするなら、痛い目にあってもらうぞ!』
「いや、僕達は君達の邪魔をする気は無いし、それどころか君達を助けたいと思ってここに来たんだよ!」
『嘘だ! 人間達が僕達を助けたいなんて――』
その時、リオルはとても驚いた表情を浮かべたかと思うと、信じられないといった様子で再び口を開いた。
『……この波導の波、スゴく落ち着いてる……。それに、まるで僕の言っている事が分かったかのように答えていた……!?』
「そうだよ、リオル。僕はユウヤ、生まれつき君達ポケモンの言葉が分かって、波導を感じ取る事が出来るんだ」
『ポケモンの言葉が分かる上に波導を感じ取る事が出来る……まさか、そんな人間がいるなんて……』
「ふふ、やっぱり不思議だよね。僕自身も実は不思議だけど、この力をスゴく誇りに思ってるんだ」
『その力が誇り……』
「うん。だからリオル、君とそのミミッキュから感じる波導には、人間に対しての疑念や不安、憎しみや哀しみが浮かんでいるのも分かってるよ。正直な事を言えば、君達に何があったのかは分からないけど、スゴく辛い事があったのだけは分かる。だから、今だけは僕達の事を信じてくれないかな?」
『君を……ユウヤを信じる……』
リオルが未だユウヤを信じ切れない様子でポツリと呟いていると、その後ろにいたミミッキュがリオルに耳打ちをした。
『……リオル、あの子――ユウヤの事は信じてあげても良いんじゃないかな?』
『ミミッキュ……』
『私は君みたいに波導を感じる事が出来ないから、ユウヤが正しい人間なのかハッキリとは分からない。けど、ユウヤの目と表情がとても必死で、私達の事をしっかりと見てくれてるのは分かる。だから、ユウヤの事は信じてみても良いと思うよ』
『それは……そうだけど……』
ミミッキュの言葉でリオルの心は少し動いたらしく、ユウヤに向けていた敵意は無くなっていたが、未だミミッキュほどユウヤの事を信じるまでには至っていないようだった。しかし、ユウヤは優しい笑みを浮かべると、自らリオル達へと近付き、目の前でピタリと歩みを止めると、右手をリオルへ差しだした。
「リオル、絶対に君達の事をそれぞれが棲んでいた地方へ帰してあげるよ。だから、今だけは僕達に付いてきてくれないかな?」
『ユウヤ……』
リオルはユウヤが差しだした手をジッと見つめた後、ゆっくりと顔を上げながらユウヤの目を見つめた。そして、確信を持った様子でコクンと頷くと、ユウヤの手を取るために自らも手を伸ばした。その時――。
「おおっと! そうは行かねぇぜ、小僧!」
リオル達の後方からそんな声が聞こえ、ユウヤ達は弾かれたようにそちらへ視線を向けた。そこには、黒のジャケットにくすんだ色のズボンといった格好のサングラスを掛けた男が歩いてきており、男はニタニタと笑いながらリオルとミミッキュを見ていた。
「……貴方は?」
「俺か? 俺はポケモンハンターだ」
「ポケモンハンター……! 珍しいポケモンを捕まえては、人に売ろうとしている悪い人達……!」
「まあ、そんなところだ。んで、そのリオルとミミッキュは、俺が扱っている商品ってわけだ」
「商品って……! まるで、道具みたいに……!」
「みたい、じゃねぇ。俺達からしたら、ポケモンは商品であり道具でしかねぇんだよ!」
「酷い……! ポケモンは僕達と同じ生き物で、一緒に協力しあえる仲間なのに!」
「仲間ぁ……? はっ、笑わせんじゃねぇよ、小僧! ポケモンはあくまでも同じポケモンを捕まえるための道具で、金になる商品だ! そうじゃなけりゃあ、わざわざアローラまで行って捕まえてこねぇよ!」
ポケモンハンターの一切悪びれないその様子に、ユウヤが怒りの炎を燃やす中、ポケモンハンターはベルトからモンスターボールを二つ取り出し、そのスイッチを押した。そして、それを上へ投げ上げると、勢い良く開いたモンスターボールの中から二体のポケモンが姿を現した。
「さあ、一仕事と行こうぜ……お前ら!」
『……うん』
『……了解』
モノズ達は、ポケモンハンターの声に静かに答えると、リオル達を真正面から見据え、臨戦対戦に入った。その様子にリオルは再びミミッキュを庇うように立ち、同じく臨戦対戦に入ると、それを見たユウヤが慌ててリオルに声を掛けた。
「リオル! そのキズで戦おうなんて無茶だよ!」
『……無茶だろうと構わない! 僕達を捕まえるために追ってくる以上、絶対に倒さないといけないんだ!』
「リオル……」
『だから……ユウヤ、君はミミッキュを連れて逃げてくれ! 僕がコイツらの相手をしているその間に!』
「だ、ダメだよ! 君を置いていくなんて出来ないよ!」
『良いから行ってくれ、ユウヤ! 僕に構っていたら、ミミッキュが更に危険な事に――』
その時、ミミッキュはリオルの後ろからスッと出て来ると、そのままリオルの隣に並び立ち、驚きの表情を浮かべるリオルに対して落ち着いた様子で声を掛けた。
『リオル、私も一緒に戦うよ』
『ミミッキュ……! でも、その姿とキズじゃ――』
『キズに関しては君も同じでしょ? それに、守られてばかりなのは、私の性に合わないの。だから……私も一緒に戦わせて、リオル』
『……分かった。でも、無理はしないでよ?』
『……それは大丈夫。だって私達には、頼りになる
そう言いながらミミッキュが視線を向けた先には、不安そうな表情を浮かべるユウヤがいた。そして、ミミッキュの視線と言葉の真意に気付くと、ユウヤは驚きの声を上げた。
「え……!? ぼ、僕……!?」
『うん。ユウヤの指示なら私はしっかりと聞ける自信があるし、ユウヤと一緒ならあのポケモンハンター達に勝てると思ってるから』
「で、でも……ポケモンバトルなんてやった事無いよ……!?」
『それでも大丈夫。ユウヤは相手の動きを見て、私達に攻撃と回避の指示を出してくれれば良いから。技に関しては……うん、こっちで何とかするよ』
「何とかするよって……はあ、分かったよ。でも――」
軽く溜息をつきながらリオルとミミッキュの後ろに立つと、ユウヤの表情からはさっきまでの不安げな様子が消えており、その代わりに闘志に満ちた様子を見せていた。
「やるからには全力で行くよ。バトルはやった事無いけど、技と特性の知識ならあるって自負してるから、それで経験不足は何とかカバーしてみせるから」
『……うん、分かった。リオルもそれで問題ない?』
『うん……ここでそれを否定する理由は無いからね。けど、やるからには勝つ気で行くよ!』
「うん!」
『もちろん!』
リオルの言葉にユウヤとミミッキュが力強く頷いたその時、『……あ、そうだ』と何かを思い出した様子で良いながらミミッキュはボロ布の中から何かを取り出し、それをユウヤへと手渡した。見てみると、それは表面に何かの模様が描かれたギザギザとしたベージュ色の細長い石のような物であり、それを見たシロツメ博士は「ユウヤ君、これも使って!」と言いながらユウヤへ何かを投げ渡し、ユウヤは振り向きながらそれを両手を使ってしっかりと受け止めた。そして、手の中にある物を見ると、それはトレーナーの必需品と言えるアイテム――ポケモン図鑑とゴツゴツとした印象を受ける何かを填め込む窪みのある黒い腕輪のような物が収まっていた。
「これって……」
「そのポケモン図鑑は、前に貰った特別製の物で、自分のポケモンだけじゃなく野生のポケモンや相手のポケモンの技や特性も分かるようになっているわ! そして、その腕輪は『Zパワーリング』という物で、『Z技』と呼ばれる特別な技を使う時に『Zクリスタル』をその窪みに填め込んで使う物よ!」
「『Zクリスタル』……あ、もしかしてミミッキュが渡してくれたのは……!」
「恐らくそれは、ミミッキュだけが使える『Z技』に使う『Zクリスタル』、『ミミッキュZ』よ!」
「それじゃあ……これで『Z技』が……!」
「ええ、使えるはずよ。ただ、『Z技』は全力ポーズと呼ばれる舞いとトレーナーからポケモンへと伝えるZパワーが必要な上、トレーナーとポケモンが互いの全力を解き放つ事で使う物だから、一度のバトルにつき一度しか使えないわ。そして、『Z技』の中には
「はい、分かりました!」
シロツメ博士の言葉に答えながら『Zパワーリング』を腕に付け、窪みに『ミミッキュZ』を填め込んだ後、ユウヤは凛とした表情を浮かべた。そして、ポケモン図鑑でリオル達の技と特性を確認し、静かにポケモンハンターを見据えると、ポケモンハンターは余裕綽々といった様子でユウヤに話し掛けた。
「さて……んじゃあそろそろ始めようぜ、小僧。こちとら、さっさとソイツらを回収して、次の商売に向かいてぇからなあ」
「……分かりました。けれど、そうはいきませんよ」
「へえ?」
「何故なら、このバトルに勝つのは僕達だからです」
「クク……良いねえ、そういう威勢は嫌いじゃねぇ。良いぜ、お前がこのバトルに勝ったら、ソイツらの事はすっぱりと諦めてやるよ。ただし、俺が勝ったらソイツらは返してもらう上、その『Zパワーリング』と『ミミッキュZ』も寄越して貰う」
「なっ……!?」
「んー? 何を驚く事があるんだ? それくれぇ掛けてもらわねぇと、こっちが損するだけだろ? だからこれは、至極まっとうな交換条件だと思うぜ?」
「…………」
ユウヤが静かに頷くと、ポケモンハンターは「決まりだな」と言いながらニヤリと笑い、右手を前へ伸ばし、挑発をするように手招きをした。
「先行はくれてやるよ、小僧。さあ、掛かってこい!」
「言われなくても! リオルは『てだすけ』、ミミッキュは右のモノズに『じゃれつく』!」
『うん!』
『了解!』
同時に返事をした後、リオルは体に力を込め初め、自身の体に充分力が溜まった事を確認した後、その力をミミッキュへ向けて放出した。そして、ミミッキュはその力を受けとると、向かって右側のモノズへ向けて走り出した。ポケモンハンターは、その姿を見ながらニヤリと笑うと、「へえ……知識があるってのは本当みたいだな」と独り言ち、余裕な表情を浮かべながら視線をモノズ達へと移した。
「……だが、真っ正面から向かってくるだけがポケモンバトルじゃねぇ! ネーロ、『じゃれつく』を躱してリオルに『ちょうはつ』! ヴァルツは『ふるいたてる』だ!」
『……うん』
『分かった』
モノズ――ヴァルツがその場に残って体に力を溜める中、モノズ――ネーロはミミッキュの攻撃を上に飛んで躱し、そのままリオルの目の前に着地した後、先程ポケモンハンターがやったように前足を使って『……自分から攻めて来なよ、この腰抜け』とリオルを挑発した。すると、『腰抜け……だと!?』とリオルは怒りを露わにしながらネーロを睨み付け、その様子にユウヤはギリッと奥歯を噛みしめた。
「しまった……!」
「はははっ! その様子だと、『ちょうはつ』がどんな技かは知っているみてぇだな!」
「……『ちょうはつ』は相手の補助技の使用を封じる技、つまりは攻撃技しか使えなくする事が出来る……!」
「その通りだ。ポケモンバトルは、場合によっては攻撃技だけでも勝つ事は出来るが、基本的に補助技と攻撃技を組み合わせる事で様々な戦略を生み出す事が出来る」
「…………」
「そのリオルが『てだすけ』を持っているのは、こっちからしたら結構厄介だったからな。だから、こうして封じさせてもらったんだよ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら『ちょうはつ』を指示した理由をポケモンハンターが話していたその時、ユウヤは軽く俯きながらポツリと声を漏らした。
「……どうして」
「あん?」
「そんな戦い方が出来て、手持ちポケモンにもニックネームを付けているような貴方が、どうしてポケモンの事を道具や商品だなんて言うんですか!?」
「……戦略は、警察とバトルをする時に必要だから。そして、ニックネームはあくまで指示を出す時に必要だからだ。それ以外に理由なんてねぇよ」
「そんな事――」
「くだらねぇ質問はそこまでだ、小僧。ネーロ、リオルに『いやなおと』! ヴァルツはミミッキュに『かみつく』だ!」
『……分かった』
『……了解したよ』
同時にコクンと頷き、ネーロは口から思わず耳を塞いでしまう程に耳障りの悪い音を出し、それによってリオルの顔が歪む中、ヴァルツはミミッキュへ向かってつんのめりそうになる程の勢いで走り出した。
「くっ……! リオル、モノ――ネーロに『でんこうせっか』! ミミッキュはヴァルツの『かみつく』を避けて!」
『わ……分かった……!』
『りょ、了解!』
リオルは『いやなおと』に顔を歪めながらもネーロに向かって勢い良くぶつかって後方へ吹き飛ばす中、ミミッキュはヴァルツの『かみつく』を間一髪のところで躱してリオルの横へと戻った。二体とも技によるダメージは受けていないものの、それ以前に受けていたダメージとバトルによる疲労で息を切らしており、その様子から今の状態で長期戦に臨むのは、明らかに無謀だと判断できた。
「……『ちょうはつ』でリオルの『てだすけ』による攻撃技の威力増加が封じられてる上にリオルは『いやなおと』でぼうぎょが大きく下がってる。加えて、向こうのヴァルツは『ふるいたてる』でこうげきととくこうが上がっていて、ミミッキュは『ばけのかわ』の特性がもう使えない……! もう……勝てるイメージが、浮かばない……」
リオルとミミッキュの様子を見ながら現状と気持ちを悔しさを滲ませながら口に出し、ユウヤは再び軽く俯いた。その眼に宿った闘志の炎は、未だ消えずに燃えていたが、その勢いは明らかに弱まっており、ユウヤの心が絶望と不安に染まり始めているのが誰の目にも明らかだった。その時、「……くだらねぇ」と言うポケモンハンターの声でユウヤが静かに顔を上げると、ポケモンハンターは微かに怒りを浮かべた表情でユウヤに話し掛けた。
「お前の決意、想いはそんなもんかよ、小僧!」
「……決意、想い……」
「ポケモンバトルでこの程度の状況なんざざらにあんだよ! なのに、こんな事でお前を信じてくれたソイツらの気持ちを裏切るつもりか!」
「僕を信じてくれた……リオル達の、気持ち……」
ポケモンハンターの言葉でユウヤがリオル達の姿をゆっくりと見回す中、「……ちっ、らしくもねぇ事を言っちまった」とポケモンハンターは忌々しそうに独り言ちた。しかし、その言葉でユウヤは口を真一文字に結びながら深く頷き、闘志の炎を再び勢い良く燃え上がせながらポケモンハンターへ視線を移した。
「そうですよね。リオル達は、初めて会ったばかりの僕を信じて、トレーナーとして認めてくれた。それなのに、僕が諦めてたら信じてくれているリオル達に悪いですもんね!」
「……そういう事だ。くそっ……俺とした事が、本当にくだらねぇ事を言っちまったもんだぜ……!」
「……いえ、その言葉で僕は救われましたし、元気づけられました。だから、さっきのは決してくだらない言葉なんかじゃありませんよ」
「……そうかよ」
「ええ。だから、本当にありがとうございます」
ユウヤがお礼を言いながら丁寧にお辞儀をすると、ポケモンハンターはとても面白く無さそうな様子で小さく舌打ちをした。そして、ユウヤは再びリオル達の方へ視線を向けると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「リオル、ミミッキュ、本当にゴメン。でも、僕はもうこのバトルから逃げたり諦めたりはしないよ。僕を信じてくれた君達の思いに応えるためにも!」
『ユウヤ……うん、分かった』
『ここから一緒に巻き返していこう、ユウヤ!』
「うん、もちろん!」
笑みを浮かべながらミミッキュに答えた後、ユウヤは再びポケモンハンター達へと視線を移し、真っ直ぐな眼差しを向けながら指示を出した。
「リオル、ネーロに向かって『でんこうせっか』! そしてミミッキュは『かげぶんしん!』」
『『うん』』
声を揃えて返事をして、ミミッキュが次々と自身の分身を周囲に出現させ、リオルが再びネーロに向かって『でんこうせっか』を繰り出すと、ポケモンハンターはその様子を見ながら「……厄介なもん持ってんじゃねぇか」と吐き捨てるように言い、真剣味が増した表情で指示を出した。
「ネーロは『ずつき』でリオルを迎え撃て!
そして、ヴァルツは『きあいだめ』だ!」
『……うん』
『……了解したよ』
その指示に従ってヴァルツはミミッキュ達を見据えながら気合いを溜めだし、ネーロは向かってくるリオルを真っ直ぐ見つめながら自身も勢い良くぶつかっていった。しかし、それを見たユウヤはそれには動じずにニヤッと笑った。
「それを待っていましたよ! リオル、『でんこうせっか』を中断して『こらえる』!」
「なんだとっ……!?」
『……うん、了解!』
ポケモンハンターが驚きの声を上げる中でリオルは急に動きを止めると、そのまま向かってきていたネーロの『ずつき』を体全体で受け止めた。そして、その衝撃でリオルは後方へ弾かれていったが、途中で体勢を立て直して着地をすると、痛みを堪えながらネーロの姿をしっかりと見据えた。その様子にポケモンハンターは一瞬怯んだ後、多少焦りを含んだ声で指示を出した。
「くっ……ネーロはリオルにもう一度『ずつき』だ! そして、ヴァルツはミミッキュに『かみつく』だ!」
『う、うん……』
『りょ、了解……』
ポケモンハンターの様子の変化にネーロ達は戸惑いを隠しきれない様子で返事をすると、それぞれリオルとミミッキュに攻撃を仕掛けた。しかし、ネーロ達の攻撃はリオルにいとも簡単に躱されたりミミッキュが出現させた分身に当たったりした事で不発に終わり、それを見たユウヤはすぐさま『ミミッキュZ』が嵌まっている『Zパワーリング』に指を置き、そのままリオル達に指示を出した。
「リオルはネーロに向かって『きしかいせい』! そして、ミミッキュは『Z技』の準備をお願い!」
『分かった!』
『了解したよ』
そして、リオルが気合いを込めながら赤いオーラのようなモノを纏い始める中、ミミッキュはヴァルツを視界の中心に捉えながらユウヤに話し掛けた。
『それじゃあ私の後に続いて全力ポーズを取ってね、ユウヤ!』
「うん!」
ミミッキュの言葉に答えた後、『ミミッキュZ』は眩く輝きだし、ユウヤはその光から強い力が伝わってくるのを感じながらミミッキュの後に続いて『ミミッキュZ』を使うために必要な全力ポーズ――フェアリータイプの全力ポーズを取った。そして、それによって『Zパワー』がユウヤからミミッキュへと伝わり、ミミッキュが強力なオーラを纏うと、ミミッキュはクルリと振り返った。
『ユウヤ、『Z技』の名前は【ぽかぼかフレンドタイム】だよ!』
「【ぽかぼかフレンドタイム】……うん、分かった!」
ユウヤは大きく頷くと、ミミッキュと声を揃えて『Z技』の名前を叫んだ。
「『【ぽかぼかフレンドタイム】!!』」
その瞬間、リオルが勢い良く飛び出し、ミミッキュのボロ布に空いた穴の中がキラリと光ると、リオルは一瞬でネーロとの距離を詰め、ミミッキュは高く飛び上がってヴァルツへ向かってボロ布を大きく広げた。そして、ヴァルツがボロ布に覆い隠されると同時に、リオルとミミッキュはネーロ達にそれぞれの攻撃を始めた。
『はあぁーっ!!』
『これで、どうだぁーっ!!』
気合の籠もった声を上げながら繰り出されたリオルの『きしかいせい』、そしてミミッキュの気迫が籠もった『Z技』という二つの
「お前ら、大丈夫か!?」
『あはは……負け、ちゃったね……』
『ゴメン、ね……』
そのネーロ達の声は、ポケモンの言葉を理解する事が出来るユウヤとは違い、ポケモンハンターの耳には弱々しい鳴き声にしか聞こえなかったが、ポケモンハンターはネーロ達に声を上げるだけの気力が残っている事に安堵した様子で小さく息をついた。そして、ネーロ達のモンスターボールを取り出し、「戻ってゆっくり休め」と声を掛けながらネーロ達をボールへと戻した。ユウヤはそのポケモンハンターの様子を見て「……やっぱり」と何かを確信した様子で言った後、仰向けで倒れ込んでいるリオル達の元へ歩き、力を出し切ったといった表情を浮かべているリオル達にニコリと微笑んだ。
「リオル、ミミッキュ、お疲れ様」
『ユウヤ……うん、ありがとう』
『ユウヤこそお疲れ様。初めてのバトルは疲れたでしょ?』
「うん……そうだね。まさか、初めてのバトルがダブルバトルになるとは思わなかったけど、こうして勝つ事が出来たのは本当に嬉しいよ」
『そう……だね』
『私達……勝てたんだもんね』
「ギリギリではあったけど、勝ちは勝ちだよ。だから、もうあの人から追われる事は無い。君達は自由の身になったんだ」
『『……うん!』』
ユウヤの言葉にリオル達が安堵と歓喜の笑みを浮かべながら大きく頷いていると、バトルを静かに見ていたシロツメ博士がとても嬉しそうな様子でユウヤ達の元へと近付き声を掛けた。
「ユウヤ君、お疲れ様! そして初バトルでの勝利おめでとう!」
「ありがとうございます、シロツメ伯母さん。でも、これはリオル達が頑張ってくれたからと
ユウヤがシロツメ博士からポケモンハンターへ視線を移すと、ポケモンハンターはばつが悪そうな様子でそっぽを向いていたが、すぐに諦めたように小さく溜息をつき、頭をポリポリと掻きながら話し掛けてきた。
「……小僧――いや、ユウヤ。今回のバトルは、完全に俺の負けだ。そのリオル達は故郷に帰すなりお前の手持ちにするなり好きにしろ」
「分かりました。けど、一つだけ良いですか?」
「……何だ?」
「貴方は……本当はポケモンハンターなんてやりたくないんじゃないですか?」
「……なんでそう思った?」
「バトル中、心が折れそうになっていた僕にリオル達の想いについて言ってくれたり、瀕死状態になったネーロ達にすぐに駆け寄ったりしていたからです。本当にポケモンの事を道具や商品だと思っている人なら、そんな事は絶対にしないですからね」
「……ふん、やっぱらしくねぇ事なんざするもんじゃねぇや。そんな事をしてっから、『黒竜のリュウガ』なんて言われてた頃の性格が出ちまうんだよな……」
「『黒竜のリュウガ』……?」
「ああ、俺の昔の呼び名だ。昔、俺はモノズの最終進化形、サザンドラをパートナーにして色々な地方にある賞金付きの大会に出ては賞金を稼いでいるような奴だったんだよ」
「賞金稼ぎ……でも、どうしてそんな人がポケモンハンターに?」
「……一年前、相棒だったサザンドラ――ノアを亡くし、俺はそのショックと他に相棒に出来そうなポケモンを見つけられなかった事から賞金稼ぎを引退して故郷に戻った。それでそのショックから抜け出せずに不抜けちまってる間に稼いだ賞金が底をついちまったんだよ。んで、これからどうしたもんかと思っていたんだが、賞金稼ぎ時代の俺に惚れ込んだって奴が家を訪ねてきたんだ。ソイツは俺が賞金稼ぎを止めた上に金に困ってる事をどっからか聞いたらしく、俺の腕を見込んである仕事を頼みたいと言ってきた」
「……その仕事というのがポケモンハンターだったんですね?」
「そうだ。もちろん、最初は断ったんだが、金に困ってたのは間違いなかったし、このままウジウジしているのも何か違うと思ったから、俺はソイツの言う仕事――ポケモンハンターの仕事を一回限りで受ける事にした。……まあ、こんな仕事はやっぱり俺に向いてなかったみてぇだけどな」
ポケモンハンター――リュウガが自嘲気味に言う中、ユウヤは少し不思議そうな表情でリュウガに問い掛けた。
「リュウガさん、ネーロ達はどこでゲットしたんですか? 」
「……アイツらは故郷の山にいた奴らだ。気晴らしに散歩をしていた時に偶然出会ったんだが、何でか二体揃ってそのまま家まで付いてきたんだよ。んで、最初は山に帰そうと思ったんだが、二体とも帰りたくなさそうな顔をしてたから、ゲットする事にしたんだよ」
「なるほど……リュウガさん、もしかしたらネーロ達は、リュウガさんの事を一目で気に入って、リュウガさんと一緒にいたいと思ったから付いていったのかもしれませんね」
「……俺を気に入ったから、か。そんなポケモンは、一生の内でもアイツくれぇなもんだと思ってたけどな……。だが、本当にそうだとすれば、アイツが――天国にいるノアが俺とネーロ達を引き合わせてくれたのかもしれねぇし、この出会いに感謝しねぇといけねぇな」
リュウガは天を仰ぎながら小さく微笑んだ後、そのままユウヤへ視線を移し、感心した様子で口を開いた。
「にしても、まさかバトル初心者の奴に『でんこうせっか』を中断させてからの『こらえる』と『きしかいせい』のコンボや『はりきり』の特性を持っているポケモンに対して『かげぶんしん』を使うなんて発想をされるなんて思ってもみなかったぜ」
「『こらえる』は瀕死状態になりそうなダメージを受けてもどうにか持ちこたえる技で、『きしかいせい』は体力が低ければ低いほど与えられるダメージが大きくなる技なのは分かっていたので、あの時のリオルの状態だとこの二つで一発逆転を狙うしか無いかなと思ったんです。それに、ミミッキュも『ばけのかわ』が使えない状態でしたから『はりきり』で命中率が下がっていてもこうげきが上がっている状態の『かみつく』を受けるのは流石にマズかったので、『かげぶんしん』で回避率を上げてからの『Z技』に賭けてみようと思ったんです。だから、今回のバトルは作戦勝ちというよりは、リオル達の頑張りや技が良い感じに揃っていた事による運の要素が強かったんです」
「へっ……確かにそれはあるが、その判断をして勝ちを引き寄せたのはお前の知識と度胸の賜物だ。だから、そこは誇っても良いと思うぜ?」
「リュウガさん……ありがとうございます」
「礼なんざ良いって。さて……と、それじゃあ俺はそろそろ行くかな。ソイツらを連れてこれなかったとは言え、依頼人には話をしてこねぇとなんねぇからな」
「話をした後は……どうするんですか?」
「さてな……そこまではまだ決めてねぇが、何とかするさ」
そう答えるリュウガの目には、迷いの色は一切無く、それを見たユウヤは安心した様子でコクンと頷いた。そして、「……それじゃあな」と言いながらリュウガはクルリと振り返ると、そのまま静かにその場を立ち去っていった。それを見送った後、ユウヤは再びリオル達の方へ視線を向けると、バッグの中からオボンのみを二つ取りだし、それをリオル達へと差しだした。
「はい、これを食べると元気になるよ」
『あ、うん。ありがとう、ユウヤ』
『ユウヤ、ありがとう』
「ふふ、どういたしまして」
そして、リオル達がユウヤから受け取ったオボンのみを食べ始めた時、シロツメ博士はリオル達を見ながら軽く顎に手を当てた。
「……それにしても、リオル達の故郷がまさかアローラ地方だったとはね。このヤマト地方からアローラ地方までは結構遠いし、これは飛行機に乗せていくしか無いかな……」
「飛行機で行くほど遠い地方……リオル達はそんなに遠くから来ていたんですね」
「そうね。まあ、リオル達を帰す件については、知り合いに頼んでみるわ。幾つか借りはあるから、その分だって言えば何とか――」
シロツメ博士がニコリと笑いながら言ったその時、その話を聞いていたリオルが『ねえ、ユウヤ』と声を掛け、ユウヤは不思議そうな顔をしながらリオルと話をしやすくするためにゆっくりとしゃがみ込んだ。
「リオル、どうしたの?」
『実は……ちょっとお願いがあるんだ』
「お願い?」
『うん。ユウヤ、君さえ良ければ正式に僕のトレーナーになってくれないかな?』
「トレーナーにって……僕が?」
『うん、もちろん』
リオルがニコリと笑いながら答える中、リオルの隣でミミッキュがクスリと笑った。
『なんだ……リオルも同じ事考えてたんだね』
『同じ事って……それじゃあミミッキュも?』
『うん。このまだ弱いままで故郷に帰ってもまた同じように捕まっちゃうかもしれないからね。それに、ユウヤの指示でバトルをしている時、なんだかとっても楽しかったんだよね』
『ミミッキュ……ふふ、確かにそうだね』
そして、リオルとミミッキュは仲良く笑い合った後、揃ってユウヤの方へ向き直り、少し不安げな様子で話し掛けた。
『ユウヤ、それで……どう、かな?』
『私達のトレーナーになってくれる……?』
ユウヤはリオル達のその問い掛けに対して考え込むような仕草を見せたが、すぐに決意を固めたような表情を浮かべてコクリと頷くと、リオル達を見ながら優しく微笑んだ。
「うん、僕で良いなら喜んで」
『ユウヤ……! うん、これからよろしくね!』
『よろしくね、ユウヤ!』
「うん、こちらこそよろしくね」
ユウヤとリオル達はお互いに笑みを浮かべながら固く握手を交わした。そこには、トレーナーとポケモンによる確かな絆があり、それをわざわざ口には出さなかったものの、ユウヤ達はそれによって生じるポカポカとした物を静かに感じていた。そして、握手を終えると、それを待っていたかのようにシロツメ博士が静かに口を開いた。
「……ユウヤ君、せっかくだからそのポケモン図鑑と『Zパワーリング』はそのままもらってちょうだい」
「え、良いんですか?」
「ええ。もちろん、旅に出られるのはまだ先の話だけど、ミミッキュから貰った『ミミッキュZ』を使うにはそれが必要だし、その子達を育てる中でポケモン図鑑が必要になる時が来るかもしれないからね。だから、遠慮しないで貰ってちょうだい」
「……分かりました。本当にありがとうございます、シロツメ伯母さん」
「どういたしまして」
お礼を言いながら丁寧に一礼をするユウヤの姿に、シロツメ博士がクスリと笑っていたその時、シロツメ博士は突然何かを思いついた様子でポンと両手を打ち鳴らし、とても楽しそうな様子でユウヤに話し掛けた。
「ねえ、ユウヤ君。君もこの子達にニックネームを付けてみない?」
「ニックネーム……ですか?」
「ええ。確か……ユウヤ君と仲の良いポッポのリーダーに『ウィン』って付けたのは、ユウヤ君だったわよね?」
「あ、はい。少し前にウィンと話をしていた時、話題がポケモントレーナーの事になって、僕がトレーナーの中には手持ちポケモンにニックネームを付ける人もいるって話したら、ウィンが『面白そうだから、俺にも付けてみてくれないか?』と言ってきたので、風の『ウィンド』と翼の『ウィング』からウィンって付けたんです」
「なるほどね……まあ、こうは言ったけど、ニックネームを付けるかはユウヤ君とリオル達に任せるわ。ただ、私的にはユウヤ君がどんなニックネームを付けるかが気になるけどね」
「シロツメ伯母さん……」
楽しそうな様子のシロツメ博士からリオル達へ視線を移すと、ユウヤは再びしゃがみ込みながらリオル達に話し掛けた。
「リオル、ミミッキュ、君達はどうしたい? 君達がニックネームはいらないって思ってるなら僕はその考えに従うつもりだけど……」
『そうだね……うん、僕は付けてみてもらいたいかな。ミミッキュはどう?』
『うん、私もせっかくだから付けてもらいたいかも。実は……さっき、リュウガさんがネーロ達の事をニックネームで呼んでたのを聞いて、ニックネームで呼ばれるのも良いなって思ってたから』
「そっか……うん、分かった。それじゃあちょっと待っててね」
リオル達にそう言った後、ユウヤはリオル達の姿を見ながら彼らにピッタリなニックネームを考え始めた。そして、それから数分が経った頃、ユウヤは「……うん、これが良いかな」と独り言ちると、ニコリと笑いながらリオル達に話し掛けた。
「リオル、ミミッキュ、お待たせ」
『その様子だと……僕達のニックネームは決まったみたいだね』
「うん、一応ね。えっと……まずはリオルからだけど、リオルからはバトルの時や僕達を逃がそうとした時にとても勇気があるポケモンだと感じたから、勇気を英語にした『
『僕がレイで……』
『私がフラン、か……うん、なんかスゴく良い感じかも』
『うん、何と言うかこう……しっくりと来る感じがするよね』
『ふふ、そうだね』
リオルとミミッキュはとても嬉しそうに笑い合った後、揃ってユウヤの方へ視線を戻した。
『『ユウヤ、本当にありがとう!』』
「……うん、どういたしまして。そして、改めてよろしくね、レイ、フラン」
『『こちらこそ!』』
レイとフランが声を揃えて答え、ユウヤ達が仲良く笑い合う中、シロツメ博士はそれを微笑ましそうに見ていたが、不意にツキクサタウンがある方を見たかと思うと、両手を軽く二回ほど叩きながら声を掛けた。
「さてと、それじゃあ私達もそろそろ帰りましょうか。ミナトちゃんや研究員の皆が私達の帰りを待ちかねているだろうしね」
「ですね。よし……それじゃあ帰ろうか、
『『うん!』』
レイ達のとても嬉しそうな声にユウヤとシロツメ博士はクスリと笑った後、森に棲むポケモン達が見守る中を彼らは楽しそうに会話をしながら並んで歩いていった。
以上で、プロローグを終わります。
このプロローグは、あくまでも現在決まっている分の設定やこうしたいなと思っている分で書いているため、本章を投稿をする際には、幾つか変更点があるかと思います。ですが、それでも予定通り今年中に投稿を開始出来るように頑張って参りますので、応援の程よろしくお願いします。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また本章で。